「やぁキョン。僕はね、親友というのは何年も会わなくても勝手に自転車の荷台に座っていようとも許される関係だと思うんだ」
お前と最後に会ったのは今朝だ。
「ところで今夜はハンバーグなんだが、何故一般にハンバーグステーキはハンバーグと略されるのだろう」
いいからそのスーパーの袋を寄越せ。
帰るぞ。
「ん」
籠に荷物を。荷台に佐々木を。
二人乗りは道交法上褒められたものではないが、我ながら手慣れたもんである。
それは大学も引け、SOS団大学支部で一騒ぎしてからの事だ。
ついでに本屋にも寄ったというのに、なぜ別の大学帰りの佐々木とばったり出くわすのだろうか。
「お前、まさか俺に発信機でも付けてないだろうな」
「そこは盗聴器と言って欲しいな」
おいなんだ瓢箪から駒か。
「冗談だよ。それともキミは僕がキミの行動を予想できないとでも思っていたのかい?」
「それを言われると立場が弱いな」
そもそも思考云々にかけては佐々木に一回りも二回りも敵わない。
「くっく。思考は僕の第一義とするところだと高校の頃に言ったはずだね」
「人のモノローグを読むんじゃねえよ」
「あいにくだが、僕はキミの表情検定じゃ一級保持者なのだよ」
誰だそんなもん認定した奴は。
「長門さん」
ああ。なるほど。
しかし自転車だぞ? 俺の表情なんかロクに見えないだろうに。
「はて男は背中で語るものじゃなかったかい?」
お前も昔背中で語ってたけどな。
「気付いていてくれたとは光栄だよ。いつの背中の事だか聞いても良いかな?」
「高校二年。あの騒動の後だな」
あの時のお前、まるで何年後に再会したって『やあ親友』を第一声に決めているって風情だったぜ。
「……僕とキミは親友だからね」
ま、その先には、もうちょい勇気がいるな。
「え、なんだってキョン?」
「何がだ? それより飛ばすぞ。今日はひとしきり自転車で走りたくなった」
「まったく。キミの大学にはレポートというものはないのかい?」
腰に佐々木の腕が回る。背中に暖かい感触が広がる。
今日の講義にゃレポートはねえな。だが佐々木大学さんはそろそろ俺のレポートをお求めのようだ。
「何か言ったかい?」
「いいや、なんにも」
最終更新:2012年04月19日 00:57