どんな顔をして走っていたのか。
授業をさぼるなんて私にとっては一世一代の大事なのに、そんなことはもう些末な事項だった。
あのまま、キョンと同じ教室に一分一秒だっていてられなかった。
恥ずかして、それ以上に狂おしくて。
走って、走って、走って、誰もいない自宅の自室に駆け込んで、無意味と分かっていても鍵を掛けて、
ベッドに突っ伏して、枕に叫びを叩きつける。
頭が渦巻く。
心臓が跳ね回る。
心が、どうにかなりそう。
彼に言えなかったことがある。
心を司るところがもう一つあると。
臍の下。その中。身体の最奥がうずく。
海外文学で得た知識だ。
人の存在意義が遺伝子の保存ならば、それを判断する心があるのは、
次の世代を作るための卵が眠るそこではないのか。
そこに撃ち込まれていたら、どうなっていたことか。
それに、自ら招いたこととはいえ、あれは反則だ。
銃は男性自身に喩えられる。
その銃身も、先端から弾丸を放出するというメタファーも。
キョンの肉体で出来た銃が、私の肢体をなぞるように、舐めるように巡った様を思い出すだけで、
その弄ばれた全身がわななく。
衆人環視の下で、肉銃に、指先といい、肩といい、胸といい、腹といい、太腿から爪先まで、
果ては顔から頭の中まで蹂躙され尽くされた。
そのあげくに、接触して、ゼロ距離で、身体の中に弾丸を撃ち込まれた。
完全に、心を撃ち抜かれた。
「ひどいよ、キョン……」
彼を非難する声は、誰にも届かなくてよかった。
甘く、ねだるようなそんな声が、自分の口から涎のように漏れる様なんて。
私自身に、そんな嗜好があったなんて初めて思い知らされた。
脳のパルスが融合して揺れる。君が好きだと。
心臓が動機を打って全身を震わせる。君が好きだと。
君に押し込まれた蕾の先端が尖る。君が好きだと。
燃えるように身体の最奥が疼く。君が好きだと。
ああ。だから私は、全身全霊で、君が好きだ。
最終更新:2013年02月03日 17:08