久々に佐々木から連絡があり、佐々木の家に行くと……
佐々木がチョコレートの山を、コーヒーで流し込んでいた。
「……や、やぁ。キョン。」
うぷ、と口に手を持っていく佐々木。このチョコレートの山は、一体何なんだろう。
「バレンタインに、チョコレートをもらってしまってね……
本来は僕一人で彼女らの誠意に応えたかったんだが、さすがに骨過ぎて……」
「よし、わかった。お前は男なら俺の敵だ。」
「全く。どうしようもないね、キミって奴は。」
佐々木は、そう言うと既製品と手作りの品に分ける。
「キミには既製品を頼みたい。既製品なら、何も入っていないはずだからね……多分。」
佐々木はティッシュを取ると、何かを吐いた。固形物のようだが……
「なぁに。ただの爪だよ。」
…………はい?
「キミは中学生頃の女子の恐ろしさを知らないな?この先、安易にそこいらの年代から物を受け取らないほうがいい。
ある意味一番純粋な年代だし、どんな色にも染まる。なので……」
佐々木は、はねていたチョコレートを割る。中には小さな破片が見える。
「因みに爪だよ。こうした気色悪い事も出来るわけだ。」
ああ、非モテが一番だよな。
「それでは、僕は手作りの品に取り掛かるが……」
でもな、親友。だからと言ってお前を危険に晒すわけにもいかん。
俺は佐々木のチョコレートを奪う。
「キョン?」
南無三!
俺はチョコレートをがっつき、全て平らげた。
ざらざらした繊維質の舌触りのチョコレートや、鉄臭いチョコレート、何だか唾臭いチョコレートがあり、実に気分が悪い。
強烈な胸焼けに襲われ……俺は全てトイレで戻してしまった。
そこで見たもの。便器が赤く染まり、かつ長短の毛(中には縮れた毛も…)が浮いていた。
やはり非モテが一番だ!
「……無茶苦茶やるね、キミも……」
佐々木が背中をさする。
「しかし、キミが食べてくれなかったら、同じ目に遭ったのは僕か。
ひとまず、水を飲んでまた吐きたまえ。」
仕方ねぇだろ。こんな目にお前を遭わせるわけには。
「……全く。」
佐々木は、変なものが出なくなるまで俺を離さなかった。ようやくスッキリしてきた。
「……因みに髪の毛は、腸壁に貼り付き一生取れなくなる。そうなる前に出て良かったよ。」
そ、そうなのか……。
「ヤンデレとやらの定番だね。依存先を探していただけなんだろうが。」
「怖い怖い怖い怖い。」
身震いがする。
「結局、そういった連中を目の当たりにしているからこそ、恋愛は精神病だというんだよ。……気持ち悪い。」
……知っていたけど、こんな奴なんだよな。
佐々木は部屋に戻った。俺はもう少し吐き、口を濯いでから佐々木の部屋に入った。
暫く話をし、チョコレートの既製品をつまむ。やったらと苦いチョコレートだな。本当に。
「さて、帰るか。」
「そうかい?悪いね、たいしてお構いもせず。」
玄関を出て、歩き出す。
あのチョコレートに籠められた思いと、自分の思いに、たいした差はない。
『佐々木を自分のものにしたい。』それだ。食い散らかしたのは、チョコレートを渡せる奴に嫉妬しちまったからなのかもな。
「最初から手作りが怪しいなんて、わかってた。」
私は彼が食べていた、ビターのチョコレートをかじる。苦味走った味は、まさに今の自分の気持ちそのものだ。
恋愛は精神病に過ぎない。だが。キョンが自分を守る為に、チョコレートを片付けた時に。自分は彼に愛され守られているような錯覚を感じた。
こんな気持ちを何て言うんだろう。
「「前途多難だな、全く。」」
END
副題。スウィート&ビター。
最終更新:2013年04月01日 00:58