70-229『Cross Road』2

あの春の騒動。
天蓋領域としては一敗地にまみれたわけではあるが、インターフェースとしてはその限りではなかった。
性能的には情報統合思念体を上回るものであり、そのテストとしては満足いくものであった。
しかし。誤算もまたあった。

『インターフェースの自我の発生』

インターフェース名、周防九曜。
このインターフェースは、春の騒動以来行動を起こすようになった。
それだけに破棄を目論んでいたのだが、手出し出来ない次元に再度このインターフェースは送られた。
理由は不明。理由などないのかも知れない。

だが。これは好機でもある。

情報統合思念体を倒す、そして。神の力をあの少女に移し、自らの影響力を最大に発揮するまたとない機会。
天蓋領域は、現在をそう位置付けた。

一方、情報統合思念体は今回を、情報フレアの観測のチャンスだと位置付けている。
仮に観測されるならば、と思い、インターフェースの申請に従い朝倉涼子を再度送り込んだ。
『未来』のインターフェースも現代に通信し、天蓋領域のプロトコルを送ってきたのも、望外の幸運であった。

インターフェース名『長門有希』。

今暫くは、彼女に全権を与えるのも悪くない。

だが。対策も打っておく。

情報観測の機会は多い程に良い。

情報統合思念体は、そう考えた。

――――――――――――――――

あの春の騒動が発端となった、今回。渡橋は全てを知っている。
自らがどのような力を持ち、どのような手段を用いてどのような結末を辿ったかも。
それは傷となり、一生消えない汚点として彼女の中に残った。

だからこそ、今。『自分はここにいる。』

自分の鎖。それは時を越える位に強い。昨日の夜に会った、愛する人。
彼は『いつでも』自分の側にいてくれる。それは、自分が『望んだ』から。
この汚点は、消してはいけないものだ。だが。

『鎖』を外した未来があってもいいはずだ。

ただ、それは『望み』でなく『たられば』。願ってはいないし、仮にそう望まれないならば、それは自分の汚点だと考えていた部分は思い違いとなる。

そうあって欲しいが、願ってはいない。何故なら。自分の願いは全て、ジョン・スミスが叶えてくれたから。だから、願う事はしない。

時空を越えた今も――――それは絶対に変わらない。
自分はハルヒの側で、彼女の納得いく結末を見届ける。

それが、どのような結末であっても。


橘京子は、久々に浮き立っていた。
「明日は、もっといい日になりそうなのです!」
佐々木からのメールで、自分も明日は古泉達に会えるようだ。
お風呂に入り、身を清めて何かあってもいいように準備は万全。
財布に近藤さん、そして多少多目の金額を持っていく。
まぁ、これは完全に不測の事態に備えてだ。

「んんっ、もう!ダメなのですよ!」

ここが彼女の自宅、そしてお風呂であった事は幸いであろう。
真っ赤になった彼女は、どこからどう見ても色ボケ以外何者でもないから……。

賢明な読者諸氏は、彼女が辿る運命……いや、未来については御理解されているであろう。

全てが終わったあと。彼女は長門とみくるに尋ねた。

「私が幸せになるシーケンスは存在するのですか……?」

「何をもって幸せとするか、私には判断出来ない。」
「すみません。禁則事項です。」

当然ながら、答えて貰えるわけもなく。
橘は、みくるに迫った。
「ないとは言えないのですよね?!」
「ふええ!こ、古泉くんと幸せになります!」
泣きそうな顔になりながら、みくるが答えた。
「良かったぁ……」
胸を撫で下ろす橘だが……
「朝比奈みくる。あなたは未来に関しての話題で確定した事を話す時は、嘘しか言えない。本当に確定した事は、言葉にならないはず。」
「ふぅえ?!な、長門さん!しーですよ、しー!」
みくるが真っ赤になる。

「あ、あはは…………」

ということは。どう足掻いても絶望。そう言えるだろう。
「すまない。」
橘は、長門の言葉に奈落に落とされた。

「不幸なのです……」

がっくりと肩を落とす橘。
何をもって幸せとするか、判断が難しいのだが……どちらかというと絶対に不幸な方の橘京子であった……。

To Be Continued 『Cross Road』3

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最終更新:2013年04月29日 13:45
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