あの春の騒動。
天蓋領域としては一敗地にまみれたわけではあるが、インターフェースとしてはその限りではなかった。
性能的には情報統合思念体を上回るものであり、そのテストとしては満足いくものであった。
しかし。誤算もまたあった。
『インターフェースの自我の発生』
インターフェース名、周防九曜。
このインターフェースは、春の騒動以来行動を起こすようになった。
それだけに破棄を目論んでいたのだが、手出し出来ない次元に再度このインターフェースは送られた。
理由は不明。理由などないのかも知れない。
だが。これは好機でもある。
情報統合思念体を倒す、そして。神の力をあの少女に移し、自らの影響力を最大に発揮するまたとない機会。
天蓋領域は、現在をそう位置付けた。
一方、情報統合思念体は今回を、情報フレアの観測のチャンスだと位置付けている。
仮に観測されるならば、と思い、インターフェースの申請に従い朝倉涼子を再度送り込んだ。
『未来』のインターフェースも現代に通信し、天蓋領域のプロトコルを送ってきたのも、望外の幸運であった。
インターフェース名『長門有希』。
今暫くは、彼女に全権を与えるのも悪くない。
だが。対策も打っておく。
情報観測の機会は多い程に良い。
情報統合思念体は、そう考えた。
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あの春の騒動が発端となった、今回。渡橋は全てを知っている。
自らがどのような力を持ち、どのような手段を用いてどのような結末を辿ったかも。
それは傷となり、一生消えない汚点として彼女の中に残った。
だからこそ、今。『自分はここにいる。』
自分の鎖。それは時を越える位に強い。昨日の夜に会った、愛する人。
彼は『いつでも』自分の側にいてくれる。それは、自分が『望んだ』から。
この汚点は、消してはいけないものだ。だが。
『鎖』を外した未来があってもいいはずだ。
ただ、それは『望み』でなく『たられば』。願ってはいないし、仮にそう望まれないならば、それは自分の汚点だと考えていた部分は思い違いとなる。
そうあって欲しいが、願ってはいない。何故なら。自分の願いは全て、ジョン・スミスが叶えてくれたから。だから、願う事はしない。
時空を越えた今も――――それは絶対に変わらない。
自分はハルヒの側で、彼女の納得いく結末を見届ける。
それが、どのような結末であっても。
橘京子は、久々に浮き立っていた。
「明日は、もっといい日になりそうなのです!」
佐々木からのメールで、自分も明日は古泉達に会えるようだ。
お風呂に入り、身を清めて何かあってもいいように準備は万全。
財布に近藤さん、そして多少多目の金額を持っていく。
まぁ、これは完全に不測の事態に備えてだ。
「んんっ、もう!ダメなのですよ!」
ここが彼女の自宅、そしてお風呂であった事は幸いであろう。
真っ赤になった彼女は、どこからどう見ても色ボケ以外何者でもないから……。
賢明な読者諸氏は、彼女が辿る運命……いや、未来については御理解されているであろう。
全てが終わったあと。彼女は長門とみくるに尋ねた。
「私が幸せになるシーケンスは存在するのですか……?」
「何をもって幸せとするか、私には判断出来ない。」
「すみません。禁則事項です。」
当然ながら、答えて貰えるわけもなく。
橘は、みくるに迫った。
「ないとは言えないのですよね?!」
「ふええ!こ、古泉くんと幸せになります!」
泣きそうな顔になりながら、みくるが答えた。
「良かったぁ……」
胸を撫で下ろす橘だが……
「朝比奈みくる。あなたは未来に関しての話題で確定した事を話す時は、嘘しか言えない。本当に確定した事は、言葉にならないはず。」
「ふぅえ?!な、長門さん!しーですよ、しー!」
みくるが真っ赤になる。
「あ、あはは…………」
ということは。どう足掻いても絶望。そう言えるだろう。
「すまない。」
橘は、長門の言葉に奈落に落とされた。
「不幸なのです……」
がっくりと肩を落とす橘。
何をもって幸せとするか、判断が難しいのだが……どちらかというと絶対に不幸な方の橘京子であった……。
To Be Continued 『Cross Road』3
最終更新:2013年04月29日 13:45