71-16『怪物退治』

北高の面々。それは石門高校からしたら、輝くスタープレーヤーの集まりだ。
実力のみで見れば、こなたやルカ子、まゆりでも北高のソフトボール部では控えにすらなれない。
だが。
「マイフェバリットライトアームが集めたデータ。これさえあれば、まだ立ち向かう手段はある!フゥーハハハ!」
石門高校は新設校であり、伝統もなにもない。そのような高校が名を上げるには、スポーツが一番早い手段だ。
科学部にいたはずのソフトボール部の面々が、ソフトボールをするのはそういう理由から。
そして岡部の泣き落としに遭った面々が、ソフトボールをする理由も同じである。
岡部にしろこなたにしろ、他の面々にせよ、元々負けん気が物凄く強い。
やるからには勝ちたいし、負けたくない。
本格的にソフトボールをやっている他校は強い。とても強い。自分達では考えられないレベルで。

だが、無敵ではない。

相手も同じ人間。人間であれば必ず付け入る隙がある。そこを岡部が見付け、策を弄し、勝つ。
力なき者が勝つには知恵を搾るしかない。そしてその知恵は無限だ。
素人にしては強い、でなく、素人でも勝てると示したい。
石門高校ソフトボール部に岡部の高笑いが響いた……。

「えっげつない作戦立てては、試合後に後悔して泣いてるくせに……」
牧瀬が溜め息をついた。
「オカリン、バランスの悪い人格してるよね……。かがみんみたい。」
「そらお前だ!」
かがみの突っ込みを無視し、こなたが牧瀬を見る。
「クリスティーナとまゆしぃはどうかなぁ?」
「はぁ?あたしがなんであんなHENTAIを……。それにクリスティーナっていうな。」
さも迷惑そうに牧瀬が言う。そこに笑顔で止めを刺したのは、つかさであった。
「岡部くんからのあだ名だもんね。」
爽やかな止めに、皆が引き……牧瀬は真っ赤な顔をしてつかさと向き合う。

「どんだけ~」

つかさの絶叫というには間の抜けた叫びが、グラウンドに響き渡った……。


試合まで間もない中、佐々木はイップスの克服に向けて取り組んでいた。
キョン、古泉が喜緑に仕置きされたので、今日は休み。
バッターボックスに立つのは、橘だ。
「ささ、遠慮なく!」
橘がクローズドスタンスを取る。彼女本来はクローズドスタンスでなく、平行のスクエアスタンスだが、佐々木への協力となればまた話は別らしい。
今でこそ古泉に恋する彼女だが、以前は佐々木とレズ疑惑があった経歴を持っている。
外観的な特徴だけ見ると、まるで(禁則事項です)だが、大して代わり映えしないのでそれはそれだ。
「…………」
キョン子のサインは、インコース。躍動感のないフォームから放たれた佐々木の一投は……アウトコースに外れていった。
「…………」
手を見る佐々木。……手が震えている。
「(重症だな。)」
イップスの原因となったインコースは、やはり投げきれない。
続く投球は、アウトコースに構える。完全に置きに来た球。棒球である。
佐々木は制球力で勝負するピッチャーだけに、球のキレはともかく、伸びは少ない。
正確に言えば、イップスが原因で伸びのあるストレートが投げきれなくなった。
「次は、平行に構えるのです。」
スクエアスタンス、オープンスタンスでは、キレのある変化球とライズボールであっさりと橘を料理したが……
やはりクローズドスタンスでは、球が走らない。
佐々木が、クローズドスタンスの橘に投げた一投。
「ひっ!」
顔面スレスレへのスッポ抜け。橘の反射神経が無ければ、恐らくは顔面直撃であっただろう。
「佐々木!」
キョン子がたしなめる。イップスは、やはり治っていない。
それを誰より苛立っているのは、佐々木自身。それがわかっているからこそ、橘も何も言わない。
橘も見たいのだ。佐々木が躍動し、バッターをキリキリ舞いさせる姿を。
「大丈夫なのです、佐々木さん!もっと投げて下さい!」
橘がバッターボックスで構える。
「……ごめん、橘さん……」
佐々木はボールを置くと、ブルペンを出た。
「(怪物退治には遠いか……。しかし愚弟め、どこで何をしていやがる。)」
キョン子にしてみれば、こうした時の佐々木をたしなめるのがキョンだ。
自分が言えば、佐々木は傷付く。何故なら、実際にキョン子に迷惑をかけていると自覚している佐々木だ。
それだけに一枚フィルターが欲しかったが……。
結局、この日は無為に過ごしただけであった。


部活が終わる。
ハルヒ、長門は終始ご機嫌斜め、朝倉は胃を抑え、喜緑が胃薬を渡す。
「何してたんだろうねぇ、キョンくんも古泉くんも。」
鶴屋がみくるに言う。
「さぁ……谷口くん、弟、国木田くん、古泉くんとお尻を押さえて泣いていたところは見ましたけど……」
「あっはっはー。何かやって監督にお尻を百叩きされたとか……さすがにないっさ。」
森も終始ご機嫌斜めであり、阪中に当たっていた。
「男の子には、男の子の内緒事があるのね。……多分。」
「――ろくな――事で――――はない」
周防の言う通り、ろくな事ではない。喫茶店での妄想トークを聞けば、恐らくは皆が思うだろう。

この甲斐性なしどもが。と。

帰りに皆でドーナツ屋に寄る。
ドーナツ屋では有線から、最近ローカルアイドルとして定着しつつある小神あきらのラジオがかかっていた。
「そういや、谷口がラジオ局でバイトしてたっけ?」
「初耳なのね。」
<オラー タニグチ-
<アキラサマ、オチツイテェ!
「どこに行っても弄られて愛される、稀有なキャラクターなのです。ねぇ、周防さん。」
「――フレンチ―クルーラー――美味しい――」
<ムネカ?オマエモムネカ-?!
<アキラサマノムネハサイコウデス!
「ああ、だから彼は周防さんが……」
「――朝倉――涼子――」
「ぴぃ!」
「……持たない者に、その話題はダメっさ。おいで、くーちゃん、ゆきっこ、佐々にゃん、きょこたん。」
「「「「鬼ッ!」」」」

因みに県立北高校、胸ランク。
AA 長門、周防
A きょこたん
B 佐々木
――盆地の壁――
C キョン子、阪中、喜緑
――巨乳の壁――
D ハルヒ、朝倉、鶴屋、森
E みくる

「キョン子って、スレンダー系のくせに肉あるよね。」
「代わるか?佐々木。キャッチャーなんてやってるから意外と腰回りもでかく、下半身デブだぞ?」
「朝倉さんもなのね。」
「私は全体的に大きいから……。阪中さんなんて大嫌い。」
以上、女の会話にしては柔らかいが、実際に女のえげつない方向での話を聞くと、まず大概の男は幻滅し、絶望する。

「情報操作は得意。」

実際には喫茶店で男どもが抜かした妄想トークに匹敵する、耳年増どものお話しがあったが……

「えっちなのはいけません!」

という二人の意向により、話は平和的な方向に摩り替えられたのであった……。
県立北高校ソフトボール部。彼氏持ち以外の全員が、耳年増の集まり。

END

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最終更新:2013年06月02日 03:40
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