71-149「恋愛苦手な君と僕~放課後恋愛サークルSOS いずれ僕らは大人になる」

 この前の合コンで知り合った、国木田と鶴屋さんのお出かけの付き添いで、休日の今日、俺は駅前に来ていた。
 約束の時間の15分前には、俺と国木田は待ち合わせの場所にやってきた。
 「女性を待たせない、女性より早く来るのが礼儀だと思うんだよね」
 国木田の言う事は最もである。ついでに言えば、男は女性が準備に時間が掛かる事を理解し、待つのを苦にしない
精神を持つ事を推奨する。
 「やあやあ、早かったね、二人とも」
 元気いっぱい、明るい笑顔で時間ピッタリに鶴屋さんはやってきたが、もう一人俺達と同じように、鶴屋さんにも
付き添いがいた。
 ”あれは確か……”
 谷口の知り合いで、合コンの主催者SOS団の中心人物と言われていた、涼宮ハルヒ。
 美人揃いの光陽の女子の中でも、佐々木と並ぶ美人だったのは覚えている。
 街行く男どもの視線が、二人に集中しているのが鶴屋さんと涼宮ハルヒに集中するのは、まあ当然のことである。

 お出かけと書いたが、実質的には国木田と鶴屋さんのデートである。国木田に聴いたところによれば、合コンの後
に一緒に食事したそうで、なかなか進展が早い様である。付き添いなんぞいらなかったのでは?と思ったのだが、親
友の頼みならば、余程変な頼みではない限り引き受けるのが男と言うものだろう。
 しかし、女性と言うものは買い物には男より念入りに、こだわりを持ってやるものだな、とつくづく思い知らされ
た。そういえば、以前、長門と朝倉と一緒に買い物に出かけた時も、結構時間がかかったことを思いだした。
 ”ひょっとして佐々木も?”
 俺の脳裏に何故かおかしそうに笑う佐々木の顔が浮かんだ。

 一通り買い物を終えると(俺と国木田が荷物を持った)すでに時刻は正午近く。俺達は昼食を食べることにした。
 「ちょうどいい店があるっさ」
 鶴屋さんが案内してくれたのは、最近オープンしたというイタリア料理店。ピッツアかパスタをメインとして、30
種以上の副菜と飲み物をビュッフェ式に並べている(いわゆる食べ放題)、おしゃれだが入りやすい感じのする店だっ
た。
 「良いお店知っているんですね」
 国木田が感心したようにつぶやくと、
 「何、実はこの店、うちの親戚の会社が営業している店なんだわ。ま、選んだ理由はそれだけじゃないけどね」
 笑いながら鶴屋さんは答えたが、一体鶴屋さんは何者だろう?
 「さあさあ、入った、入った!」

 しかし、鶴屋さんにしろ、涼宮にしろ、よく食べるな、と感心する。明らかに、俺以上に食べているようだ。
 一人一枚でピッツアは出て来るのだが、それをたいらげた挙句、涼宮は「少しもらうわよ」とか言って、俺の分の
フレッシュトマトとバジルとチーズのピッツアを4分の一持って行った。
 「涼宮さん、よく入るな」
 感心したように俺が言うと、口に入れたまま(行儀が悪い)、「ハルヒでいいわよ。あたしもアンタの事、キョン、
て呼ぶから」と返事が返って来た。
 見た目は美人だが、かなり傍若無人な所があるようだ。それにしても、誰も俺の事を本名で呼ばないのは、どういう
わけだ?

 たらふく食べて、気分が良くなったかどうか知らないが、ハルヒはかなりテンションが上がっていて、俺に色々話し
掛けて来た。ただ、前に言ったように、基本的に女性と話すのはそれほど得意じゃない。長門と、それと佐々木は別で
あるが。そんな事はお構いなしにハルヒは俺に話し掛けて来る。
 そうやって歩いていると、眼の前に大きな大観覧車が見えてきた。大型都市型SCの集客の目玉として有名な、大観
覧車。近づいて見ると、その大きさに圧倒される。
 「ねえ、皆。あれに乗ってみない?」
 そう言ったハルヒの眼は、子供の様に輝いていた。


大観覧車は一つのゴンドラに4人までは乗れる。だが、ハルヒの提案で、鶴屋さんと国木田、俺とハルヒという組
み合わせで 、乗ることになった。
 「鶴屋さんは国木田くんとど-ぞ。あたしはキョンと乗るから、ごゆっくり~」
 ・・・・・・何がごゆっくりなのかわからん。
 「ハルにゃん、なかなか積極的でないんの。ま、お言葉に甘えて、二人で先に行かせてもらうさ」
 鶴屋さんと国木田が先に乗り込み、その次のゴンドラに俺とハルヒが乗り込むことになった。

 ゴンドラはゆっくりと地上から離れ、徐々に高度を上げていく。
 そのゴンドラに美少女と二人きり。男なら、これほどいい状況もない、と思うやつもいるだろう。
 しかし、逆に俺は少し緊張感にとらわれていた。
 「あんまり喋らないのね。さっきもあたしが話しかけると、返事はするけど、そのあとは黙ってしまう」
 ハルヒの言葉に、俺は苦笑せざるを得ない。
 「実を言うと、女子と会話するのは、それほど得意じゃない。苦手、と言ったほうがいいかもしれん」
 「へえ?でも、この前ウチの佐々木さんとかなり仲良く話していなかった?佐々木さんも男子とはあんまり話す
タイプじゃないから、アンタは女子と会話するのが苦手、てのはちょっと意外だわ。女友達はいるの?」
 「一人いるよ。信頼している、親友と言ってもいいかもしれない。」
 「その子とは、普通に話せるようね。佐々木さんとは友達になったわけ?」
 「まだ、はっきりとした付き合いがあるわけじゃないけど、友人になりたいとは思っている」
 「ふ~ん。正直に言うのね」

 ゴンドラは大分上に上がってきた。
 地上の人がかなり小さく見える。遠くの街並みと、太陽の光を反射した海が輝いているのが見える。
 「世界は広いけど、あたしたちはちっぽけな存在よね」
 その景色を見ながら、突然ハルヒは語り始めた。
 「小学生の頃、野球を見に行ったことがあるの。広い球場にたくさんの人達。お父さんに連れて行ってもらった
んだけど、その時思った。それまでさ、自分は特別な存在だと思っていた。だけど、あの場所では私は多くの中の
一人。One Of Themでしかない。自分はちっぽけな存在だって」
 外の景色を眺めながら、ハルヒは話を続けた。
 「中学校に入って、何かそのことが癪になってね。なんかすごいことをやってやろうと思ったのよ。それをやって
、あたしは他人とは違うんだ、てことを証明しようと思ったわけ」
 「で、どんなことをやってみたんだ?」
 「今ならお笑いなんだけど、宇宙人を呼び寄せてやろうと思ったのよ。夜中に学校に忍び込んで、あたしが考えた
宇宙人へのメッセ-ジを、校庭に書いてやったわ」
 そういえば、昔、そんな事件があったな。地元紙に掲載されて、結局犯人はわからずじまい。いたずらだろうで片
付いたと聞いたことがあるが、まさかコイツが犯人とは。
 だが、ハルヒを笑う気持ちは俺にはなかった。

 「俺も、ちょうど中学時代に似たようなことを考えていたよ」


「中学時代、日常が退屈で、良く馬鹿な空想をしていたよ。ミサイルとか、隕石とか、人工衛星とかが、落ちて
きたりしないかとかな。破滅を望んでいたわけじゃないが、何となく退屈な世界に劇的な変化がおきないかと思
っていた。挙句には、ガキの頃に見たヒ-ロ-みたいに、ある日俺にも不思議な力が備わり、普通じゃない仲間達が
俺の周りに集まって、冒険が始まるとか・・・・・・ライトノベル好きの中二病だったんだな。そんなことを考えていたよ」
 ハルヒは興味深そうに俺の話を聞いている。
 「まあ、だけど、いろいろ考えて、あるとき気づいたんだ。俺はヒ-ロ-じゃないし、不思議な力もない、普通の人間
でしかない。というより、人間、誰だってほとんどは普通人。だけど、世の中にはすごい人間は存在する。そいつらと
俺との差は何だ?答えは直ぐに出た。努力したこと。彼らは努力して、自分の才能を伸ばした。俺は何もしなかった。
目標も持たず、ただ無意味に過ごしていただけだとね。退屈だとか言ったけど、単に自分の努力不足をごまかす為の言い
訳だとね」
 観覧車は大分上の方に上がってきた。眼下の景色が、また広がりを見せる。
 「自分が無力でちっぽけな存在だと気づくのはだいたい中学生ぐらいだよな。中二病て、おそらく自分の無力さに対する
拒否反応から生まれるんじゃないかな。俺はそう思った。それから、少し勉強しだして、何とか受験に間に合って北高に入
れたんだ。今でもSFとか推理ものとかライトノベルも読むけど、最近じゃ現実に起きている事件とかそっちのほうに興味の
比重が移ってきたような気がする。現実は大変な事が多いけど、そのことも面白いと考える様になったんだ」

 「へえ、アンタて、結構大人の考え方をするのね」
 ハルヒはおかしそうに笑いながらそう言った。
 「でも、間違いじゃないわよ。あたしもアンタと同じ考えだし。中学時代のあたしからは考えられないんだけど、最近、結構
世の中面白くなってきたわ。サ-クルも盛況出し、それにアンタとも知り合えたし」
 「そういや、あのサ-クル、お前が本当の主催者だと聞いたが、本当か?」
 「誰に聞いたの?」
 「谷口に」
 「まあ、表向きは鶴屋さんの主催なんだけど、発案者は私ね。鶴屋さんは学校の理事長の関係者だから、鶴屋さんを立ててお
けば、学校もうるさくは言ってこないからね。光陽は進学校で、おまけに金持ち関係も多いから、まあいろいろあるのよ。学校
嫌いじゃないんだけど、息が詰まることもあるわけ。だから気分転換でやっているのよ。結構付き合う人間も出てきたし、悪い
気分ではないわね」
 そういえば、谷口は周防という女子生徒と付き合うとか言っていたな。それもハルヒのおかげといえば、おかげか。

 観覧車はゆっくり周り、ゴンドラは下に降りていく。地上に徐々に近づいていく。
 「キョン、アンタの電話番号とメ-ル教えてよ。あたしも教えるからさ」
 そう言って、ハルヒは自分のスマートフォンを取り出す。
 ”?”
 ハルヒのスマホは俺と同じ、すなわちXperia Zだった。
 「あれ、アンタも私と同じ機種なわけ?」
 ああ。そういえば、佐々木も同じだったな。
 一瞬、ハルヒが不満そうな表情を浮かべたが、直ぐに俺の番号とメ-ルを登録すると、にやっと笑った。
 「これからもよろしくね、キョン。あんたのこと気に入ったわ」
 ゴンドラは地上に到着した。


 帰り道、国木田はとても上機嫌だった。帰り際に、今度は二人きりで出かける約束を鶴屋さんとしたそうだ。
 「よほど鶴屋さんを気に入ったようだな」
 俺がそう言うと、国木田は笑顔で頷いた。
 「あの人はすごい人だよ。この前もそう思ったけど、今日一緒にいて、確信したね。頭もいいし、綺麗だし、人間
としての器が大きい。僕にとって、まさに理想の女性だよ」
 国木田が特定の女性のことをここまで熱く語るのは珍しい。
 前に述べたが、国木田はすごく女性に人気があり、かなりモテるのだが、彼女とかは作ったことがない。その気が
ないのか、と思っていたが、成程、国木田は案外理想が高かったということか。
 「でもね、キョン。女性に高い理想を求めるのなら、男の方も自分が高いレベルの人間にならなければならないん
だよ。女性に理想とか押し付けておきながら、男がだらしないんじゃ、女性は幻滅して怒り出すだろうし」
 確かに国木田の言うとおりである。男もしっかりとした”大人”にならなければ、女にそっぽを向かれるわな。」

 「鶴屋さんに彼氏です、て紹介してもらえるように、頑張らないといけないね。”友達っさ”で終わるのは、嫌だ
し」
 「かなり本気だな、国木田」
 「うん。僕もこんな気持ちになったのは初めてだよ。だからこそ本気で行くよ」
 見た目はショタっぽいけど、言うことは実に男らしい。
 「そりゃ次に会う時が楽しみだな。お前と鶴屋さんの仲が進展するのを応援するよ」
 「ありがとう、キョン」

 -------------------------------------------------------------------------------------------------------

 鶴屋さんと別れ、家に帰って自分の部屋に戻り、ベットに体を横たえ、スマホを取り出す。
 あいつと同じスマホの機種。そこに記憶させた電話番号とメ-ルアドレス。そしてあいつの写真。
 キョン。おかしなあだ名を持つ、平凡な男の子。
 ”これからもよろしくね、キョン。あんたのこと気に入ったわ”
 あたしがそういった時、キョンは笑っていた。その笑顔も私は気に入った。

 ”だけど・・・・・・”
 一つ気になることがある。
 あたしのクラスメイトの佐々木さん。最初にキョンを見かけた合コンの日。キョンは初対面の佐々木さんと随分親しげ
に話していた。かなり話も合うものがあったらしい。
 ”まだ、はっきりとした付き合いがあるわけじゃないけど、友人になりたいとは思っている”
 あの言葉は、佐々木さんのことが気になっている証拠。それに、キョンには女の友人はいるようだ。
 ”ま、だけど、どちらもまだそこまで進んでいるわけではないでしょ”
 まだまだスタ-トライン。色恋沙汰なんて、中学の頃は精神病とか考えていたあたしが、男のことが気になるなんて、
随分変わったものだと思う。
 ”誰にも負けるつもりはないわ。あいつはあたしがいただくわよ”
 佐々木さんと、キョンの、顔も名前も知らない女の友人のことを考えて私はそう心の中でつぶやいた。


 「帰るの?」
 シャワ-を浴びて、服を身にまとっていると、森さんが声をかけてきた。
 「金曜日の夜からお邪魔していますからね。そろそろ戻らないと流石に、ですね」
 「私の家に泊まっても、別にいいじゃない。あの人が何か言うわけ?」
 「父は喜んでいますが、母が。」
 「成程、あっちは複雑なわけね。わからないでもないけど」
 「僕等の今の関係を知ったら、卒倒しかねませんよ」
 僕の言葉を聞いて、おかしそうに森さんは笑う。
 「放任主義で、あなたに早く自立しろと言っているわりには、子離れが出来ていないようね」
 「僕等はまだ、大人ではありませんよ」

 お大人になるって、どういうことだ。
 時々僕は考える。
 僕と森さんのしていることは、大人であることを意味しているのか?
 それは違う。大人であれば、僕らの関係は躊躇すべきものだ。欲望のままに、感情のままに、僕等は体を重ねて
いるのだ。だから、僕等は大人ではないのだ。
 将来のこととか正直、僕と森さんはあんまり考えていなかった。厭世的で刹那的。それが僕等。
 いつから?
 真実を知ったあの日から、3年前のあの日から、僕等は破滅と現実の境目を歩いているのかもしれない。

 森さんのマンションを出ると、頭が急に冷めてくるような感覚に襲われる。あの部屋は、閉ざされた世界。僕と
森さんの閉鎖された空間。
 そこを出た僕の心に浮かび上がる、僕の気持ちを正常に戻してくれる存在――涼宮ハルヒ。
 彼女の存在があるからこそ、僕は正気でいられるのかもしれない。非日常的な生活から、日常的な日々へ戻して
くれる、僕の――

 いつの日か、今の僕と森さんの関係は転換点を迎える。それに伴うのは、破滅か、それとも再生か。
 何となく、元には戻れないような気がする。それに伴う結論も実はある程度、予測している。そして、おそらく
救いはないのだ。それがわかっていながらも、心の奥底で、僕は救いを求めているのだ。



 月曜日・光陽学園 放課後
 私の目の前に置かれた映画のチケット。いわゆる試写会の招待状だ。ペアご招待。
 実は私の中学時代の(クラスは別だけど)友人が私にくれたものだ。
 ”彼氏と行くはずだったんだけど、別のところに行くことになったんで、佐々木さんにあげるね”
 実は、前売り券を購入する予定だった、見たいと思っていた映画なのだ。
 ありがたく私はその招待券をもらったのだが、さてここで問題が生じた。
 ペアチケット。すなわちあと一人、誰か私と一緒に言ってくれる人が必要なのだ。
 ”誰と行こうかしら”
 そう心の中でつぶやくと、すぐに一人の人物の顔が浮かび上がった。そして、私はスマートフォンを取り出した。
 Xperia Z。私と同じ機種を持つ男の子。
 画面に彼の名を表示した。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年07月01日 01:29
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。