夜に橘さんが泊まりに来るという事で、レンタルDVDを借りに行く事にした。そんな時に、ふと目についたレンタル落ちの中古DVD。
『頑張れコタロー海を渡る』
つい、そのDVDを手に取り、少し笑いが出た。
「佐々木さん、そのDVDが何かあるのですか?」
「いや、大した事じゃないのよ。気にしないで橘さん。」
中古DVDを買い、他には橘さん好みのラブロマンス(これはポルノと何が違うのか、というような映画でもあるが)を借り、私が見たい『総統閣下シリーズ』を借りる。
総統閣下シリーズは、YouTubeにあるよ。アテレコの面白さと、ヒトラー役の役者さんの名演が光る良作だ。
オススメはぷちます!や、女教師かな?ひと時の娯楽には良いだろう。
「氷の微笑もいいのです。」
「シャロン・ストーン?橘さんはポルノスターがお好みかしら?それに、ここは全年齢対象のうえに、シャロン・ストーンを知ってる人すら微妙なんだから、少しは黙ろうか?」
橘さんは、今すぐに粛清すべき。そう思う人は、部屋から出て準備をしてくれ。
古泉が泊まりに来たいというので、夜に備えてDVDを借りに来た。
「んー…男同士だと、これが御約束ですか?」
古泉は、メイドもののDVDを入れる。…二つ結びのメイドさん…これ、完全にお前の趣味だろ。却下だ。こっちの『仮面のメイドガイ』にすり替えて…
と、ふと目についたレンタル落ちの中古DVD。
『頑張れコタロー海を渡る』
つい、そのDVDを手に取り、少し笑いが出た。
「そのDVDが何か?」
「つまらん話だ。」
俺は最後の一枚を買うと、古泉と一緒にレンタルDVDを借りた。古泉がメイドガイを見て必死にメイドさんものを借りようとしていたが、力づくで阻止した。
あ?内容がほぼエロDVDだからだよ!谷口と国木田が、見てびっくりしたって言っていたタイトルだからだ。妹の情操教育に悪い。そう判断したからだ!
「メイドガイも情操教育には相当害があります!」
エロDVDよりはマシだ。
俺が借りたのは、総統閣下シリーズ…と言いたいが、生憎と借りたいシリーズが貸し出し中だった。
なので、妹対策に昔のホラーを。ああ、キョンシーは却下だ。通称が通称だけにバカにされかねん。
「久々にキョンシー見たいですねぇ。テンテンに憧れませんでした?」
「憧れたがな。古泉、ここに来られる方達の年齢層を考えろ。」
古泉の意外な性癖を知ったが…嬉しくもなんともないんだが。ったく。
中学の時の大作SF映画。
CGを駆使しまくり、大興奮請け合いという話題の映画。
その評判を聞いた佐々木は、キョンに声をかけた。
「興味を惹かれないかい?」
「まぁ、興味はあるがな。だが、親友。いつに行くつもりだ?お前は人混みの中で映画を見る趣味は無かったはずだが。」
キョンの言葉に、佐々木はニヤリと笑う。
「学生だから出来る裏技を、キミは忘れたかい?」
そう。学校のサボタージュである。
「サボりか。教育は現在義務のはずなんだが…」
「くっくっ。義務だが、時に放棄もよかろう。六限位なら、見逃してくれるさ。」
「やれやれ…」
その日、二人で六限をサボり、映画館まで自転車で二人乗りをする。
「…なんだかんだと、ノリノリだね…キミ…」
「うっせぇな。空いてる映画館なら、ゆっくり見れるしそりゃテンションも上がるだろ。」
映画は15時開幕。キョンは自転車を漕ぐスピードを上げた。映画館で切符を買う頃には14時58分。大急ぎで入った先は……
『頑張れコタロー海を渡る』
二人がそのタイトルを見て、愕然とする。
「な、何故だ!どうしてこうなった?!」
がらんどう同然の映画…いかに期待されていない映画であるかがよく分かる。
「くっ…!迂闊だった…!僕達は、どうやらチケットを間違えたらしい…!」
痛恨の思いに、佐々木が顔を歪める。
「…出るか?」
「中学生に1500円は痛いよ…!」
見るしかない、と二人は溜め息を吐くと席に座った。
内容は動物愛ものであり、仲の良いメスの為にオスがずっと海を越えて会いに行く話だ。
「うげー…お涙頂戴かよ…」
「ありがちだね、全く…」
二人でポップコーンを頬張り、スクリーンを見る。
話が佳境に入るにつれ、御主人同士にも愛が芽生え、このままハッピーエンドかと思われた時…メスがジステンバーに羅患してしまう。
オスは、何度も何度もメスに会いに行こうとするが、感染を恐れた二人の飼い主に止められ、ロープに繋がれる。
脱走し、向かった先。だが、メスの姿はない。メスの墓標と首輪の前で、オスが鳴き…
暫く席から立たない二人…
係員からの誘導で外に出て、自宅へと向かう……
「…いい映画だったね…」
「…ああ…」
夕暮れの中、自転車は進む。
キョンは時折袖で目を拭い、佐々木はキョンの背中にしがみついて泣いている。
「……キミは、何を泣いているんだい?チケットを間違った事かい?映画かい?」
涙声の佐々木。キョンもまた涙声で叫んだ。
「映画だよ!悪かったな!」
自転車が山手に差し掛かり、そこから自転車を押そうと佐々木が自転車から降りる。
「ちくしょー……」
「あんまりだよ……」
二人で号泣し、自転車を押す……
結局、大作SFを見る事は叶わなかったが、それ以上の思い出を胸に刻み込んだ二人であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
モニターの前で、橘が涙を流す。キョンの家では、古泉が、妹が涙を流している。そんな様子を見て、山手で泣いた事を思い出す佐々木とキョン。
「(懐かしいなぁ)」
つい、去年の事だが…昨日の事のようだ。
「(たまには連絡位、よこせ(よこしたまえ)よ。)」
卒業以来会っていない親友を浮かべ、二人は少し笑った。
END
最終更新:2014年01月27日 02:52