17-570「変化」

『変化』

はっきり言ってしまおうか。
中学時代俺は佐々木を女と思っていなかった。
いや、もちろん身体的体力的に佐々木が女性であることは理解していたし、
今話している相手が女性であることを忘れたことは無かったさ。
より正確に言い換えるならば…そうだな、「恋愛対象ではなかった」が正しいだろう。
佐々木はこの間俺のことを親友といっていた。
もちろんそれに異論は無い。だがより正確に表現するなら「ツレ」だと思っている。
男とか女とかそんなものは遠く離れた地点に置き去りにしてきたような関係だったはずだ。
中学のころ佐々木とは色んな話をした。
それこそ次のテストの話しから心理学を絡めた人間の行動原理までな。
……今思い出しても健全な思春期の男女がするような話しではないものが大量に含まれているな。
その中には性衝動やら欲求の開放やらアホの谷口ならば途端に茶化しクラスの女子に話そうものなら変態扱いされかねないものも含まれていた。
つまり、もちろん常識的な限度はあるがまるで気兼ねなく話していたわけだ。
俺にとってあいつは男でも女でもない……分類「ツレ」な関係だ。
そのはずだ。
いや、確かにそうだったはずだ。
そしてそれは今でもそうであるはずだ。
現にあのときの再開でも中学時代と変わらず話したじゃないか。
ならばだ。
今のこの状況をどう説明する?
今のこの感情をどう説明する?
今のこの鼓動をどう説明する?


きっかけは別にたいしたことじゃない。
ちょっとした用事で自転車を飛ばしてコンビニに買い物に出かけた俺はその帰り塾帰りの佐々木とであった。
軽い挨拶から始まった昔話が二人乗りの話しになるのは俺が自転車に乗っており佐々木が塾帰りであることを考えれば当然の成り行きだ。
そしてその流れで佐々木を久々に二人乗りで家まで送っていこうなんて話しになるのは何の不自然も無い当然の帰結だ。
「なんだか懐かしいね」
なんていいながら俺の腰に手を回す佐々木に中学時代の面影を重ねたりした。
そうだ、そのときまでだ。
そのときまだ確実に俺にとって佐々木は「ツレ」であったはずだ。
俺の背に押し当てられた二つ物の感触が何なのかを知るまではな。
でかい。
何がなんて説明させないでくれ。
ソレは流石に朝比奈さんレベルとは行かないが確実にハルヒより大きい。
こいつ着やせするのか……ええい!そんなこと思うな!
中学のころはこんなではなかったはずだ。
現に俺は中学のころこんな感情を抱いたことは無かった。
……そういえばこの間言っていたな。
「身体測定を信じるのであれば、「どうだいキョン。久々に乗せた僕は何か違うかい?」

そんなタイムリーな発言をするんじゃない佐々木。

「そんなすぐにはわかんねぇよ」

とでも言ってお茶を濁すしかないではないか。

「くっく、それもそうだね。でも今の君は1年前の君と比べてそういったことが察しやすくなっているはずだろう?」

「どういうこった?」

「例えば一緒に暮らしている家族なんかだと身長が伸びたなんて中々気づいてもらえないだろう?
 ところが1年に数度しか会わない親戚ならばすぐに身長がのびたことに気づくわけだ。
 人というのは徐々に変わっていくものには気づかないものなのさ」

「成る程な」

「現に……僕だって中学3年の最初と最後の違いはわからないけど最後と今の違いならわかるよ。
 肉体的成長で言えばあのころのほうが激しいはずなのにね」

「……何がだ?」

「君の背中はとても大きくなっている……」

そう言いながら佐々木は俺の背に回す腕の力を強めた。
途端。
俺の心臓が跳ねた。
只でさえ速かった俺の鼓動は既にレッドゾーンに突入している。
PCならばファンが盛大に回転しエンジンならばギアが切り替えられているだろう。

「どうだいキョン?僕は何か変わったかな?」

佐々木は先ほどと同じ質問をした。
顔は見えないが表情は容易に想像がつく。
きっと俺を口でやりこめたのと同じ顔だ。

「……変わったな」

「何がだい?」

「女らしくなってる……俗っぽくなるから詳しいことはいわねぇがな」

口を滑らせた。
その表現がこれほど当てはまることも無いだろう。
こんなこと言うつもりは無かった。
「わからねぇ」とか言ってごまかすつもりだった。
なのに、俺の口から出た言葉は見当違いの方向に飛んで言った。
これ異常ないくらい恥ずかしい発言としてな。

「くっくっ、成る程ね……成果あり。と、見ていいのかな?」

「……なんの成果だよ」

ああくそ。
顔から火が出そうだ。
二人乗りの性質上顔が佐々木に見られないのは幸運なのだろうか。
肉体的数値はそこそこ変化している」だったか。
ああ、本当にそうだ。佐々木よ、お前は嘘をつかないもんな。
しかしこれはそこそこなんてレベルではないのではないか?
急激に俺の鼓動が高鳴っていくのを感じる。

ヤバイ。

このままでは佐々木が「ツレ」で無くなってしまう。
このままでは中学のころのように出来なくなってしまう。
俺はアレが結構気に入っているんだ。
「ねぇキョン。君は今鼓動が早くなっているね?こうしてくっついているから解るよ」

「……ああ」

「僕もさ……相違点はあるけどね」

「…………」

「僕の鼓動が速いのは中学のころからずっとだけど……君の鼓動は今初めて速くなった。カウントは中学からだよ?」

「……そうだな」

「中学のころだってくっついていたから解ってるんだよ……君が僕を女としてみていなかった事くらいね」

「…………」

「変化というのは毎日会っているうちは気づかない……ってことだね。
 キョン、さっき君は何の成果か聞いたね?答えようじゃないか」

ちょうど自転車が信号待ちで停車した。
タイミングを見計らったかのように佐々木は荷台から降り俺の前に回った。
まずいな、顔の赤いのがばれてしまう。

「変化を知ってもらうため、一年我慢した成果だよ……どうだい?僕は、僕らは何か変わったかな?」

「……そうだな、変わったよ」

「くっくっ……これでようやくキョンは僕と同じ土俵に立ってくれたわけだね?
 そうと解ったからには……僕はもう我慢しないよ?これから覚悟することだね」

佐々木は今まで見たことも無いような極上の笑顔でそういった。
……薄暗いから気づかなかったが、佐々木の顔は先ほどの予想とはまるで違った。
真っ赤だ。恐らく俺に負けないくらい。

「くっく、今日はここまでにしよう。恥ずかしくて顔から火が出そうだ……ここで失礼しよう。
 ……………じゃあね。送ってくれてありがとっ!」

そういって佐々木は青になった歩道を渡り家のほうに走っていた。
最後に発した女言葉で俺の心臓をさらに一度跳ねさせてから……。




…………まずいな、まだ心臓治まらねーや。

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最終更新:2007年08月16日 10:29
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