17-646「おなかにキュッ」

午前2時。寝付けずに天井を見つめる俺の横で、佐々木はすやすやと寝息を立てていた。
なぜ俺達が同じベッドに入っているのか。それはあれだ。ハルヒが言うところの「健康な
若い男女」だから付き合うようになってしばらくすればまあこういう関係にもなろう。

それはさておき、俺の横で眠る佐々木の白い肌を眺めていて俺は一つの欲求を抑えきれなく
なっていた。佐々木が目を覚まさぬようにそっとベッドを抜け出し、机の引き出しを開ける。
筆記用具の中から黒のマジックを取り出すと再びそっとベッドの横に戻り、タオルケットを
そっと捲る。
佐々木の白い裸身に他の欲求も沸きあがるところだがここはぐっと我慢し、マジックの蓋を
外す。そして佐々木のすべすべした腹部にマジックを走らせていると、ふと視線を感じた。
寝ぼけまなこの佐々木が怪訝そうな顔つきで俺を見ている。しまったと思ったが時既に遅し、
次第に意識がはっきりとしてきたらしい佐々木は俺・マジック・自分の腹部と視線を数往復
させた後、こう聞いてきた。
「・・・キョン。なにをしてるんだい?」
聞かないでくれ。と言うか、聞かれても恥ずかしくて答えられん。返答に困った俺が視線を
佐々木から外して困っている様子をしばらく眺めた後佐々木はくっくっと笑い出した。
「いや、これは予想外だったね。まさか君がこんな形で僕に対する独占欲を見せてくれるとは
思わなかったよ」
独占欲?今度は俺の方が怪訝そうな表情をする番だった。そんな俺に構わず佐々木は
「だってそうだろう?僕が眠っている間に、僕の腹部に君の名前を書き込む。しかも油性の
マジックで、ね。これは子供が自分のおもちゃに名前を書くのと同じようなもので、要するに
僕は君の物だと主張したい以外の何者でもないと思うのだけどね」
と言うと、自分の腹部をそっと撫でた。
そう、佐々木の腹部の白い肌には、マジックで黒々と俺の名前が書かれていた。
よくよく考えればなんでそんな事をしたのだか自分でもわからん。ただ、眠っている佐々木の
姿を見たとき、その体に俺の名前を書き込みたいという衝動を抑えられなくなったんだ。
必死になってそう弁解する俺を面白そうに見ていた佐々木はちょっと艶かしい笑顔を見せると
言った。
「いかにも君らしい回りくどさだね。はっきりと『おまえは俺の女だ』とでも言ってくれれば
済む話なのだが」
いや、それは誤解だ。・・・ん?誤解、なのか?
まあ確かに佐々木を他の男に盗られたくはないが、その気持ちが俺にあんなことをさせたんだ
ろうか。そうなのかもしれないな、うん。
「いずれにせよ、君もここまでしたからには責任を持って最後まで僕を手元に置いてくれるんだ
ろうね?」
ああ、もちろんだ。

翌朝、起こしに来た妹の声で目が覚めた俺はギクリとして横を見た。幸い佐々木は俺が寝ている
うちに客間に戻ったらしく姿はなかった。
佐々木と一緒に寝てるところなんか妹に見られたら後々大変なことになりそうだからな。
そう安堵しつつふと気がつくと、妹がドアに手を掛けたままじっと俺を見ていた。しばらくその
姿勢のまま表情も変えずに俺の顔を見ていた妹は急にニヤニヤ笑いながら去っていった。
そして数分後、洗面台に立った俺はさっきの妹の態度がなんだったのかを知った。
俺の右の頬にはマジックでくっきりと「ささき」と書かれていたからな。ええと、佐々木はまだ
客間か。俺はダッシュで階段を駆け上り客間に飛び込んだ。
「やあキョン。おはよう」
しれっとした顔で言う佐々木に俺は自分の頬を指差していつの間にと問い詰めた。佐々木は顔色
一つ変えずに
「君が僕の所有権を主張するなら僕も君の所有権を主張してもいいと思うんだけどね」
と言ってきた。だからって顔に書くことはないだろうよ。俺がそう言うと佐々木はニヤリとして
「それにしてもよく眠っていたようだね」
とだけ言った。
とりあえず親に見つかる前に顔を洗おうとそれ以上の追求を断念した俺は洗面所に向かった。
さて、どうやって妹の口封じをするかねぇ。
そう思いつつ洗面所の窓から空を見上げる。今日も暑くなりそうだ。

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最終更新:2007年08月17日 22:41
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