17-655「佐々木さん、ブーケは誰の手に? の巻」

佐々木さん、ブーケは誰の手に? の巻

「ねえキョン、ブーケの由来って知っているかい?」
佐々木が、こいつにしては珍しく弾んだ口調でたずねてくる。
「さあな。しかし結婚式に花束贈るのって、どこでもあった風習じゃないか?」
まあ、こいつがはしゃぐのもわからんでもない。なにせ中学の同級生だった奴が、早くも結婚するのだ。興奮もするだろう。
俺も複雑な気分だ。同じクラスだったとはいえ、名前しか知らない奴だったし、言葉を交わしたのも1,2度の相手だが、それでも複雑だ。
「欧州では昔、プロポーズの印に花束を贈り、相手がそれを受け取って、1輪を男性の胸にさすと承諾の証となったというよ。
花は女性の家に行く途中の野の花がメインだったというから、通い婚の形態が残っている時代からの伝統かもしれないね」
花を挿すか、まあ舞い上がって挿しちゃったりもするだろうなあ。
なにせ新婦が10代で、新郎はかつての恩師だ。
年いくつだよ●●先生(プライベート保護のため以下略)。
3年の担任の中では一番若かったし、体操も得意で生徒には人気があった。
ユーモアがあって話も分かる先生で、俺も嫌いじゃなかったが、
しかし元生徒相手に卒業後1、2年でデキ婚ってどうなんですか●●先生。
「へえ、あたしたちの年代の娘が結婚するにしちゃ、ずいぶん色々豪華よね。親御さん、結構お金持ちなのね」
こっちはやや冷めた口ぶりで、それでも目を輝かせてあちこち観察する我らが団長。
制服着て佐々木と出かけようとした所を見つかって、強引についてこられたのだ。
まあ招待状云々の堅苦しい式ではなく、ホームパーティ形式だから入れてもらえたが、
30分で家まで戻って着替えてご祝儀用意して戻ってくるって、
お前の健脚は既に常人の域を遥かに跳び越しているぞハルヒ。

それにしても、興奮して俺に話しかけてはくるものの、互いは
完璧に無視というのが怖い。何が怖いかよくわからんが、まるで地雷原を目隠しして歩いているような
妙な緊張感が先ほどから止まらない。勘弁してくれ。
元同級生たちもちらほら見かけて、久闊を叙したいところではあるのだが、何かうかつに動けない雰囲気だ。
「あ、キョ……じゃまた後でね」
国木田ぁ! お前友達じゃなかったのか。一人で逃亡しないでくれ。
そんなこんなで、式自体は厳かに進んだのだが、ブーケや付添い人の由来をいちいち丁寧に説明する佐々木と、
佐々木の説明の後は何故かかならず俺の袖を引っ張って何やかんやと感想を述べるハルヒの相手で
精神的に疲れ果てて、式の中身は殆ど記憶にのこらなかった。
ただ、あまり印象すらのこってもいない元同級生の、新婦のウェディングドレス姿がやけに大人びて見えて、
とうてい俺達と同じ年齢に見えなかったことだけは覚えている。

滞りなく済んだ式の最後は、ライスシャワーで二人を出迎える。
先生……その緊張でひきつりつつ、妙に緩んだ顔、生徒には見せないほうがいいっすよ……。
まあ高校生でしかもデキ婚(一応伏せられてはいるが、大体ここに呼ばれた連中には伝わってた)なので、
客は新婦の親しい友人ばかりだ。正直、俺が呼ばれたのも分からんくらいだ。
式の前にそう言ったら、佐々木が何か妙な含み笑いをしたのが気にかかったが。
そんな、自分を祝福してくれるメンバーを見渡し、瞳を潤ませた新婦が、何故か俺と佐々木の方で
一瞬瞳をとどめ、驚いたような、喜んだような顔になる。
そして彼女は白いレースに包まれた手で、柔らかにブーケを放り投げた。まっすぐこちらめがけて。
「ちょっとキョンどきなさい。ブーケはいただきよ!」
「キョン、協力してくれたまえ。彼女の好意に応える必要があるんだ!」
俺を突き飛ばす勢いで手を伸ばすハルヒと、それに負けない速さで俺の肩に手をかけてジャンプする佐々木。
二人とも、運動部入れ。勿体ないから。
二つの手が同時にブーケを掴んで着地した。
「今のはあたしの方が早かったわよね」
「いえ涼宮さん、残念ながらこれは譲れませんよ。親友のブーケを飛び入り参加者に渡すわけにはいきませんから」
場所が場所だけに穏やかに微笑みながら、瞳には真剣と書いてひっさつ……、じゃなくてマジと読む光を宿す二人。
おいおい、こんな所で騒動は勘弁してくれ。皆に迷惑だろう。
「そうだね。ここはひとつ、平等な第三者に裁定してもらうのがいいんじゃないかしら」
「それはいい案ね。で」
「「どっちがブーケを受けるべきだと思う、キョン?」」
ハモるな。そんな鋼鉄を貫きそうな真剣な瞳で見つめてくれるな。
ああ、まったく。やれやれ。

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最終更新:2007年08月17日 22:42
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