「―――あ」
まるで自販機の紙幣投入口に吸い込まれていくお金のように、切符は券売機の隙間へスルリと潜り込んだ。
周りに人が多く、さすがにしゃがみ込んで取るのも人目が気になる。
(…仕方ないよね)
お金が勿体無いけど、私はそのまま改札口へと向かった。切符が無くても、手持ちのお金で外に出るしかない。
けど、私は失念していた。その日どれだけ自分が散財したのかを。つまり、財布の中はほとんど空だった。
それこそ、駅から出るためのお金が払えないほどに。
「ど、どうしよう…」
嫌な汗が額をすっ、と流れた。買ってよかったと思っていた袋に入っている物が、途端に恨めしく感じる。
私は仕方なく券売機がある場所に戻り、人が少なくなるのを待った。
人目がほとんど無くなった時、素早く迅速に冷静に正確に確実に切符を取り出そう。
待つこと約一時間、時間はそれなりに遅い時間になっていて、人もまばらになってきた。
そして、そのときがきた。周りには誰もいない…!
私は素早く屈み、迅速に手を伸ばし、冷静且つ正確に位置を確認し、確実に切符を――「もしかして佐々木か?」
ああ、なぜ君はこんなタイミングで僕の前に姿を現すのか。
そのあと、私はキョンに何を言っていたか憶えていなかった。口から思いつくままに話し続け、だけどキョンの呆けた表情だけは
憶えている。結果だけまとめると、キョンにお金を借りてその場は事なきを経た。
駅の外を出ると、私が駅の中で機会を窺っている間に日が暮れすっかり暗くなっていた。
その日、私達は久々の二人乗りをした。
…少し、得したのかもしれないね。彼の腰にしっかりと手を回し、私は頬の熱を風で冷ましていた。
最終更新:2007年10月13日 09:45