25-323「佐々木闘魂列伝」

今回は別に命にかかわることじゃないんだ。ただただ驚いた、それだけだ。さて、それでは聞いてほしい。俺が何よりも驚いたことは―――
「やぁキョン!今日の試合、見に来てくれたのかい?」
佐々木が女子プロレスラーになったということだ。

まさにソレらしいピンク色の衣装を身につけた佐々木が、通路の向こうから手を振りながら歩いてくる。あの佐々木が。
「すまないね、何度も僕の試合に足を運んでもらって」
「い、いや、気にするな」
「そう言ってくれるとうれしいよ。君が応援してくれるおかげで、試合にも勝てる気がするんだ」
そうか…見てるこっちはなかなかアレなんだが。
「それじゃ、僕はそろそろ行くよ」
「ああ、じゃあ俺は客席で応援してるからな」
「うん、それじゃ」
………行ってしまった。わが親友が、リングという名の戦場へ。
さて、そろそろ経緯ののようなものを話そうと思う。説明なしじゃこの急展開はさぞかしつらいだろうからな。いや、こちらとしてもぜひ聞いてもらいたい。
俺たちは今、大学を卒業してそれぞれの職についている。俺は某企業のサラリーマン。佐々木は、若手女子プロレスラー。
実の所、なぜ佐々木がレスラーになったかは俺にもわからんのだ、皆そこが気になっていると思うが、申し訳ない。ただ、大学卒業したらあいつはすでにレスラーだった。
SOS団は皆、それぞれに進学やらして行ってしまった。連絡先はわかってるがな。
長門が俺の家に近くに住んでて、いまでもかなりお世話になったりしている。長門様様だ、いやまじで。
あれは大学を卒業したばかりの頃だったな、佐々木から急に電話がきた「キョン!今度の試合見に来てくれ!」ってさ。もう何かと思ったよ。女子プロだったわけだが。

会場に入ってみると、その人の多さに驚いた。これ、全部佐々木のファンだぜ?
格闘家とは思えないほどの華奢な体からは想像もつかないパワー、知性、そしてその美しさ。女子プロ界のスーパーアイドルここに爆誕!
……雑誌の見出しだ。ちなみにその雑誌の紹介ページには、評価とっしょに、AA+というどこかで聞いたことのあるランク付がされていた。あ、やっぱし本人だ。
たしかに佐々木は美人だ。あれからトレーニングで筋肉がついて、余計にスタイルが良くなったようだし、それに頭もいい。
以前この雑誌の紹介を佐々木に見せたことがあった。そしたら佐々木は
「これほどの評価は格闘家としてとても喜ばしいことだね。でも、僕は女としては精進が足りない。それじゃ僕の目指す理想とは違うんだ」
とか言っていたな、何故か俺の顔をじっと見つめながら。

俺は、適当な席に座って佐々木の相手が入場してくるのを眺めていた。あれが佐々木の相手か、佐々木の二倍くらい体積がありそうだな。おおげさじゃないぞ?
さて、次は佐々木の入場なのだが。その瞬間、客席から大きな歓声が沸いた。よく見りゃ男ばっかじゃねぇか。
佐々木の入場曲が流れて、ファンが一緒に斉唱する。なんだったかこの曲・・・そうだ、ハレ晴れマッスルだ!明日まった会うとき~笑いながらマッスル!!
佐々木が入場してくる。俺に気付いたようで、手を振ってきた。俺もそれにこたえる。
さて、佐々木の試合が始まったわけだが、俺にはプロレスの知識などまったくない。説明はかなりアバウトにいかせてもらうぞ。
まず相手が先手をとった。あんなのにつかまれたらひとたまりもないだろうな。しかし佐々木はそれを難なくかわす。。
それから、佐々木がラリアットをくらわす。佐々木はまるで鳥か何かのように、リングを縦横無尽に動き回り、相手を翻弄する。
そして、得意のドロップキックが炸裂した!なんだったかなこの技、ああ、雑誌に書いてあった、「ササッキージャンピングフラグクラッシャー」だ。長い名前だな。
決着がついたようだ、結果は佐々木の圧勝。これでまた一つ、佐々木の株が上がったわけだ。

俺は試合が終わった後、すぐに会場を出て電話を取り出した。
「もしもし、俺だ」「……今は、仕事中。要件は手短に頼む」「なぁ、本当に鍵はないのか?」「………」
「あなたはいい加減、現実を認めるべき。あなたの気持ちは理解できる。だが、これも選択された一つの正しい世界。あなたの干渉してきた世界の一つの結果」
ブツッ……切れた。そうだよな、佐々木の試合を見るたびにあいつに電話してるもんな。いい加減認めないとな。
俺は、試合で疲れているであろう親友を労うために、あいつの控室へ向かった。やれやれ、なんでこうなっちゃのかなぁ?

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最終更新:2007年11月24日 13:49
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