俺は橘の手引きで佐々木の閉鎖空間に入った。
「あたし、ここに入ると落ち着くのです。涼宮さんの所に比べて、良い所と思いません?」
終の住家ならどっちもお断りだ。
「僕の閉鎖空間に入った感想は?」
「何も無い」
「そうか、くつくつ」
「どうです?キョンさんは佐々木さんともちょうど1年の付き合いですし、どちらが神様に相応しいかわかりますよね?」
「一年の付き合いと言っても、佐々木とハルヒでは全然密度が違う。それに、佐々木と違ってハルヒとは現在進行形だ。
断言できることは、ハルヒは誤解されやすいが、お前たちが言うほど危険なものじゃないということだ。
ハルヒと深く付き合っている俺にはよくわかる。
佐々木も嫌がっているし、神能力移植などは考えない方が良い。あきらめろ」
誘拐犯や敵性宇宙人と付き合いたくない、というのもあったのかもしれない。
後から考えれば、佐々木の気も知らないで余計な事を言ったものだった。
「そうかい、くつくつ」
「そうですかねー?納得いかない点もありますが、一番近くで見ているキョンさんのいうことですから、ひとまず信用することにします。
涼宮さんに何か異変があれば機関だけでなく我々も協力します」
「わかったら、これからは佐々木を追い回すなよ」
「わかりました。お二人ともありがとうございます」
俺と別れた時の佐々木の表情は、足取りがうつろで、変なストーカーから逃れた晴れ晴れとしたものでは、全く無かった。
その時の佐々木の異変に、俺は全く気がついていなかった。
中学時代ならもしかしたら気付いていたかもしれない異変に
「橘さん、藤原さん、九曜さん。これからもお友達としていてくれますか?どうです?明日映画に行きませんか?」
「残念ながら、こうなった以上、涼宮さんの観察が第一目的となるので、たまのOFFの時しか、、、」
「僕は、たまにしか過去に来れない」
「ーーーーーー」
「言うと思ったわ。何で私はキョンと違う高校に行ったのかしら・・・は?もしかしたら、、、、」
「佐々木さん、どうしたのですか?」
「何か心の底から黒い感情が湧き上がるような気がしている」
キョン、そんなに涼宮さんが良いかい?僕はもう過去の亡霊かい?
でも、僕が違う高校に行ったのも、1年間キョンに会わなかったのも、涼宮さんの能力だと思うよ。
偶然としては出来過ぎているとは思わないか?
僕に神の能力があれば、キョンと二人きりの世界を作りたいよ。
もし、神の能力があれば・・・・・・
・・・・・・・・・
その一週間後、SOS団の活動中、突然ボロ雑巾の様な橘が現れた。
「佐々木さんが、佐々木さんが」
「どうした橘、大丈夫か?」
「橘さん、落ち着いて喋って下さい」
橘は、古泉の耳元で、か細い声で囁く。
「私達は見あやまっていました。佐々木さんの能力も精神状態も」
「我々も同じです。佐々木さんが既に神で、今まで理性で押さえ付けられてだけだったとは」
要約すると、佐々木に神の能力が発現して、世界が破滅するらしい。
佐々木がそんなことをするなんて。
「ちょっと、一体何を話しているのよ?判らないじゃないのよ」
蚊帳の外にいるハルヒはギャーギャー騒ぐ
『あなたの正体と我々の正体と涼宮さんの正体を知らせてやって下さい。覚醒した涼宮さん以外に対抗する者はありません』
『なあ、本当に佐々木の説得は不可能か?』
『無理です。あの閉鎖空間でのことも奇跡的だったのですから』
それしか方法が無いのか?
「ハルヒ重要な話だ、聞いてくれ」
深刻な顔をする俺に、ハルヒは何故か照れたように頷いた
「(前略)というわけだ、これは本当の話だ。信じてくれ」
補足の説明を橘と古泉が行う。
ハルヒは、クリスマスのプレゼントに目覚まし時計を貰った子供のように、がっかりした顔をした。
しかし、しばらく考えた後、悪質なイタズラを思いついた子供のように笑った。
「判ったわ、あんたの元恋人の佐々木さんをぶち殺せば良いのね?任せなさい。横恋慕するなんて性格悪いわね」
おい、能力自覚して、かなり性格悪くなってないか?心配だぞ
『しょうがないです。世界の破滅より、不思議に溢れたハチャメチャな世界の方がずっとマシですから』
佐々木はアクション映画の悪役みたいに現れた。迎え討つハルヒも悪役みたいだが。
「涼宮さん、邪魔が入って遅れたけど、今、決着つけるわ」
「フン、返り討ちだわ。佐々木さんにキョンと二人きりの世界なんて作らせないわよ」
『おい、超能力者、聞いてないぞ』
『そんなの作られたら、あなたは良くても我々は消滅しますからね。涼宮さんが勝つことを祈りましょう』
「キョンと二人きりの世界に住むのは、佐々木じゃなくて、あたしなのよ」
世界が停止した、はず
たまりかめた古泉が尋ねる。
「涼宮さんの願いは、不思議に溢れた楽しい世界では無かったのですか?」
「そんなの初めからどうでも良かったわ。不思議を追い求めているとキョンに会えると思っただけだわ。キョンは不思議オタクだったし」
「エーン、そんなー、それじゃどちらが勝っても・・・」
「勝負よ涼宮さん」
「いくわ、佐々木さん」
あの閉鎖空間のどっちかが、終の住家となるのか。
夢なら覚めてくれ。
(終わり)
最終更新:2007年12月09日 20:58