「君は恋をしたことがあるかい、キョン。」
教室でいつものように話していると佐々木が唐突に聞いてきた。また、精神病云々の話だろうか。
この場合どう答えるべきかいまいち考えが浮かばなかった俺はとりあえず何も言わなかった。
すると佐々木は続けて、
「恋をしたくはないかい」
と聞いてきた。
何か引っ掛かる。
俺は答えなかった。
「したくないことはないだろう」
「ああそうだな」
「君はさっきあのカップルを見て冷評したね。」
そういえばさっきそんな話をしたな。
「あの冷評にはキョン、君が恋を求めながら相手を得られないという不快の声が交っているだろう」
「そんな風に聞こえたか」心外だな。
「聞こえたさ。恋の満足を味わっている人はもっと暖かい声を出すものだよ。しかし……」
次の佐々木のセリフで俺は急に驚かされた。
佐々木はこう言ったのだ。
「しかし君、恋は罪悪だよ。解っているかい」
俺は何とも返事をしなかった。
――――――――――――――
「また悪いことを言ったね。焦慮せるのが悪いと思って、説明しようとすると、その説明がまた君を焦慮せるような結果になるね。
どうも仕方がない。この問題はこれで止めよう。とにかく恋は罪悪だよ、いいかい、そうして神聖なものなのだよ、キョン」
ここまできてようやく俺は佐々木の言いたいことがわかった。引っ掛かっていたのはこれか。
「そうだな『先生』」
佐々木が顔を緩めた。どうやら正解だったようだ。
「ようやく気付いたか。僕にこれを薦めたのは他でもない君じゃないか」
生憎俺はそんな一字一句頭に入れるような読み方はしていないんでね。しかしお前がこんな有名所を読んだことがなかったとはな。
「たまたまだよ。いずれ読もうとは思っていたさ」
まぁ気に入って貰えたようでよかった。
「なぁ佐々木」
「なんだいキョン」
「お前がもし人間全体を信用しないとしても、俺だけは信用してくれてかまわない。俺は絶対お前を裏切ったりはしないからな。」
すると佐々木は少し困ったように微笑んだ。
「君は僕が自分を信用出来ない痛ましい『先生』だと思っているのかい」
いや、そういう意味じゃないさ。
ただ少し心配になっただけだ。
「そうかい」佐々木はくくっと笑い、「なら、そうさせてもらうよ。」
ああ、そうしてくれ
………それならもう少しだけ、君を信用してこの距離に甘えてもいいだろうか……
………想いを伝える勇気のない私を、君は裏切らず待っていてくれるだろうか……
………この先の未来でも君の自転車の後ろには僕だけを乗せてくれるだろうか……
――さよなら 少しの間お別れだ 君の答えを聞いた時 私も君に想いを伝えよう だからまた会おう 最愛の『親友』
最終更新:2008年01月19日 16:44