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「んが?」
俺が突っ伏していたバーの机から上体に起こしたとき、
隣の席に居た佐々木はブランデーグラスを指で弾いていた。
「お疲れのようだね。仕事が忙しいのかい?」
‥‥俺は、どれくらい寝てた?
「まぁ大した時間じゃない。30分というところだよ」
「そうか。酒に負けるとは、俺も老いたのかもな」
「20代の後半で早くも老いか。実に君らしい」
佐々木は薄く目を細めると、席から立ち上がり、コートを手に取った
「なかなか有意義な時間だった。そろそろ家路に着くとしようか」
もういいのか?
「あまり遅くなると京子がうるさいからね。君の所だってそうだろう?」
「あいつは飲んで遅くなると連絡したときからとっくにご機嫌斜めだ。
やれやれ、酒くらい自由に飲みたいものだ」
「くっくっ、可愛いじゃないか」
俺と佐々木は地下のバーから連なって出て地上に出た。
「お互い自由にならない身ではあるが、酒の楽しみは禁酒令があるからとも言うね。
また誘ってくれたまえ、親友よ」
ああ。他ならぬ中学時代からのお前の頼みなら、いつでもな。
立ち去る佐々木の後ろ姿を見送りながら、ふと、さっきのバーで見た夢を思い出す。
薄く目を細めて笑うショートカットの美少女。
俺のどこの記憶にもない、あれはいったい誰だったのだろう。
最終更新:2008年01月26日 20:04