「さて、折角海に来たのだから、僕としてはこんがりとキツネ色になってから帰りたいのだけどね。
…このシチュエーションですらまだそんな事を言うだなんて、キミは本当にフラグクラッシャーだな。
どうせなら向こうでやっていたビーチフラッグの旗を根こそぎ真っ二つにしてきたらどうだい?
さあ、ここまできたらもうやることは一つだ。いわゆる”だれだってそーする 俺だってそーする”ってやつだね。
つまり、10人で海に来る約束をしていたのに、当日の朝に8人がドタキャンしてきたことや、
着いた海辺で何故かクラゲが猛繁殖していて、遠泳どころか波打ち際にすら近寄れないことや、
一緒に来た女の子…一応僕は分類上は女だからね、が妙に布地の少ない水着、というよりも布切れを着ていることや、
シートを広げた所が岩場のど真ん中の砂浜で、いい感じに周りから死角になっていること、等々は頭の中から追い出して、
海には入れず、かといって帰るのはもったいないからせめて肌だけは焼いていこうと思った僕に、
この妙に光沢のあるサンオイル、というかサンオイルらしきものを、心行くまで塗りたくってくれないか、ということなんだ。
何故キミが頑なに拒むのかが僕には理解できない。一緒に海に来た人にオイルを塗ってあげるのは当然のことだろう?
それとも何かな? こんなハレンチ極まりない布切れを着ている僕に対して、言いようのない劣情を抱いていることを
悟られまいとしているキミの精一杯の抵抗なのかな?
それだったらもう無意味だよ。5分前からキミのパラソルが、…我ながら下品だね、夏の太陽に向かって盛大に自己主張
してしまっているのを、僕は見てしまっているからね。
こんな日差しの下ではオイルを塗らないとお互い眠れぬ夜を過ごす羽目になりそうだ。
ついでに僕は別の意味でも眠れぬ夜を過ごしそうだけれどね。
少なくともオイルだけは塗ってほしい。それ以上のことはしてもしなくてもいい。
なに、単にキミが何もしなければ、…僕がナニかするということだけだよ」
「…ということがあったらしいと、機関の調査で判明しました。全く破廉恥極まりない。
ああ、今度二人きりで海に行きましょう。僕のビーチフラッグ捌きと、ビーチパラソル捌きを是非見ていただきたく」
「誰か、丈夫なロープと重石を貸してくれ」
最終更新:2008年01月27日 08:12