Stranger in the dark?




 朝日がわずかに見える海岸へ、白い衣装に身を包む精悍な男が一人。名をガライという。
 ゲームが始まりいくらか時が流れたが、彼はゲームの内容に興味はなかった。
 彼の目的は一つ。生贄を得たフォッグ・マザーにより大量の兄弟を迎えることだ。
(どこであろうと使命は変わらない。生贄をフォッグ・マザーに奉げる)
 思考がまとまり、閉じた瞳を朝日と同じくらい開く。
 瞬間、身体を開き、ガライを襲う銃弾を避ける。
 砂塵が舞い上がるなか、右手に黒い球状のマシンガン、左手に鉄球を持つ赤い鎧の男を見つめる。
「今の攻撃を避けたのは褒めてやろう。だが、キサマはデーストロンの大幹部、ヨロイ元帥の前に倒れるのだ」
 再び右手から火線が放たれ、ガライの白装束に穴を開けられた。しかし、ガライは迷わずヨロイ元帥へと迫る。
 射撃を避けられ、焦るヨロイ元帥が鉄球を振り下ろすが、自らに命中する前に、拳を腹へ叩き込む。
 身体をくの字にまげ、苦悶の表情を浮かべる顔へ回し蹴りを放つ。
 数メートル吹き飛びながらも呻くだけのヨロイ元帥に興味を持ち、話しかける。
「これで壊れないとは。貴様はこの星の人間ではないのか?」
「人間などではない。先程も言っただろう。デーストロンの大幹部、ヨロイ元帥だと。そして!」
 ヨロイ元帥がマントを翻すのが見えた。続けて赤い鎧の姿が、黒い鉄仮面に赤い甲殻を纏った怪人へと変化する。
「ウ~ラ~。鎧一族最強の改造人間、ザリガーナ様だ。死ね!」
 恐怖を煽る為に言ったはずの言葉に、ガライは笑みを浮かべる。
「なら少し遊んでやろう。来い!」
 銀の耳飾りを弾くと、厳かな鈴音が海岸を支配し、儚げな白い霧を生む。
 ガライを守るように白い霧が纏わりつき、続けて頭から下へと霧が晴れ、白いコブラの怪人が姿を現す。
「キサマも改造人間だったのか!」
 答えず、狼狽をするザリガーナに組み付き、地面へと押し倒す。
 腹に馬乗りになり、顔に一発、二発殴る。
「調子に乗るな!」
 ザリガーナの口元から溶解液が発射され、堪らず離れる。白い装甲が、タイヤの空気が漏れるような音を出しながら溶ける。
「フハハハ! 近寄らなければどうしようもあるまい」
 勝ち誇るザリガーナへ掌を向け、空中で三又の巨大爪を精製し放つ。
 巨大爪がザリガーナを重い衝撃と共に貫く。
「グハッ! ば、馬鹿な!」
 よろめきながら倒れ、痙攣しながら元のヨロイ元帥へと変わっていく。
(所詮はこの星の生き物だということか。つまらない音を立ててすぐ壊れる)
 そのままガライは人間体へと変化し、生贄を求めてその場を去った。

「小沢さん、市街の方に行こう。あそこには人がたくさん集まるはずだ」
 真司は小沢と情報交換をしたあと、この主張を続けていた。
「ライダーでない人も巻き込んで殺しあわせるなんて、ふざけている! 神崎! こんなことしたって優衣ちゃんは……グエッ」
 襟首をつかまれ、首が絞まり咳き込む。涙目ながらも原因である小沢を睨むが、彼女は飄々としている。
「馬鹿ねえ、あんな大声だしたら殺人者をおびき寄せちゃうでしょ。気持ちは分かるけど落ち着きなさい」
 まるで聞き分けの無い子供を諭すような調子であった。
 真司はマイペースな彼女に反発をする。
「今、この島で誰かが襲われているかもしれないんだ。何もしないなんて出来ない!」
「だからってここで叫んだって聞こえるわけ無いじゃない。市街に行くのも却下よ。
戦力が無さ過ぎるものね。二人で市街の方に行って、誰一人救えず死んだっていいわけ?」
 真司は小沢の言葉に少し怯むが、すぐに表情を己の信念で固める。
「俺は戦いを止めるまで死なない。それに、神崎のことだから絶対俺たちのことを見ている。声が届かないってことはないはずなんだ」
 真司はライダーバトルにて、神崎に何度も鏡から話しかけられた経験から、自分の推理を確信していた。
 小沢の顔に緊張が走るのが見て取れ、それは神崎に命を握られていると気づいたからだと真司は考える。
 しかし、彼女は突然立ち上がり、毅然と空に顔を向けた。
「神崎士郎! 聞こえている? 言っとくけど、あんたを思いっきり殴りに行くから、覚悟してなさい!」
 真司以上の声量を出し、啖呵をきり始める。その彼女を恐れたように、海岸が静かになった錯覚を感じた。
 一連の行動に呆然とするが、彼女はさっさと支度を始める。
「何しているの? あんな大声出したんだから殺人者がくる前に移動するわよ。早く準備しなさい」
 何事も無かったかのように行動を起こす彼女にずっこけそうになる。
(無茶苦茶だ。この人)
 奇しくも真司の感想は、小沢の同僚尾室隆弘と同じだった。

 お互い一分もかけずに準備を終え、肩を並べ歩く。
「そういえば城戸君は叶えたい願い事は無いわけ?」
 突如話を振られる。彼女にはライダーバトル、ミラーモンスター、神崎士郎の目的を話した。
 当然、ライダーバトル、及びこの戦いの果てにある褒美も知っている。
 最も願いを叶えるなどの旨は、メモにもあったのだが。
「無いよ。そんなことで起こる戦いを止める。それしか考えたこと無い」
「つまらないことを言うわね」
 彼女の不謹慎な物言いに眉を顰める。まさか願い事の為にゲームに乗る気なのかと思い、質問をする。
「小沢さんは叶えたい願い事はあるんですか?」
 自然、口調に緊張が現れる。
「あるわよ」
 即答され、彼女はゲームを止める為自分と組んだはずではないのかと、混乱する。
「さっさとこんなこと終わらせて、焼肉食べながらビールを飲みたいわ」
 最後まで聞いて、緊張が脱力へと変わる。
「そ、それは願い事なんていわないんじゃ……」
「言うわよ。ただ、私は誰かに叶えてもらう気はないわ。自分の力でこんなゲーム脱出して、飲みに行くのよ。
あ、もちろん城戸君も一緒だから。吐くまで飲ませるわよ」
 初めて向けられた笑顔と同じ穏やかさで語られる。一瞬でも彼女を疑ったことを恥じた。
「小沢さん、今度おごりますよ」
 今度は緊張ではなく、尊敬の念が現れた。
「期待しないで待っているわ。城戸君貧乏そうだし」
 小沢の軽い皮肉にお互い笑顔を交わす。穏やかな空気が流れるが、すぐに持たなくなった。
 海岸に倒れる人影を発見し、二人に緊張がはしる。
「まだ生きている」
 呟くなり駆け出す。真司の頭には鎧を着ていることや、近くに転がっている黒いマシンガンのことはなかった。
「大丈夫ですか! しっかりしてください!」
 彼の叫びは虚しく響いた。

 夢にまどろむのを自覚し、ヨロイ元帥は自分を振り返る。彼は常に疑心暗鬼だった。
 結城丈二が優秀さゆえ、首領の覚えがいいと聞き、罠にはめた。
 もちろん、結城丈二以外にも、何人もの幹部候補を始末している。
 ドクトルGがこの島にいることに憤慨した。
(死人は死人らしくしていればいいもの)
 呪詛のような言葉を呟く。首領に重宝されるのは、デーストロンの最高幹部は自分一人でいい。
 そういった思考から辿りつく結論があった。
(あの男、神崎士郎といったな。V3をも出し抜く技術力、あれを首領に献上すればどうなる?)
 獲物を見つけたハイエナのような笑顔が浮かぶ。
 簡単な話だ。V3、結城丈二の首と神崎士郎の技術を手柄とし、ドクトルGを殺してデーストロン唯一の幹部になればいい。
 デイバックから黒い球状のマシンガンを取り出す。ブレードもあるが、自分には左手のハンマーがある。
 重荷になるだけだと思い、その場で捨て、獲物を探しさまよう。
(見つけた)
 白装束の男に照準を合わす。結末を知らない彼の顔には、笑みが刻まれていた。

「ぐうっ」
 夢の終わりは痛みによって告げられる。胸に三箇所の穴をあけられたのだ。しばらくは動けないだろう。
 今は疑問が多く、戦いの心配をしている暇はなかった。どこかの廃屋に寝転がり、そして……
(手当てがされているだと?)
 不思議に思い、周囲へと視線を彷徨わせる。
 そんな自分の様子に気づいたらしく、長髪の青年が笑みを浮かべて近寄る。
「気がついたんだな。よかった」
 声をかけられ、その意味を考える。
(どういうことだ? 殺し合いの行われている現状で、なぜ俺を助けるんだ?)
「傷が痛むから黙っているのか? そうだ、今お粥を作っていたんだ。自分で飯は食えるか?」
 差し出されたお粥はレトルト式のものだった。白い湯気が空きっ腹を刺激するように立ち昇る。
 毒が入っているのではないのかと疑うが、青年の側にいる、警察官の制服に身を包む女性を目にし、考えが変わる。
(なるほど、警察ならデーストロンに協力者がいる。この戦いに生き残るのは無理と判断して、俺に取り入ろうというわけだ。
中々見る目がある連中だ)
 差し出されたお粥を取り、口の中に入れる。塩と梅干の味が広がり、腹が満たされ生き返る。
「美味かった。礼を言うぞ。キサマは……」
「俺、城戸真司。あっちにいるのは小沢さん」
「城戸真司、小沢、二人には感謝する。この件が終われば首領に話をして取り持ってやろう」
 尊大な言い方に城戸が呆けるのが目に入る。
(ほう、あまりの嬉しさに思考が停止しているのか。無理もない。デーストロンの大幹部に取り持ってやると言われているんだからな。
まあ、期待させた方が後々盾としても使いやすいし、せいぜい感謝するのだな)
 真司は意味が分からず、混乱しているだけなのだが、ヨロイ元帥は勘違いに拍車をかけていった。
 二人にどれほど自分の部下であることが素晴らしいか、語ろうと傷の痛みを押して立ち上がろうとする。
「ゴォ……!!」
 地味な悲鳴が上がる。中腰のヨロイ元帥の股間に、小沢の膝蹴りが入ったからだ。
 鈍い痛みが、腰を貫き頭に除夜の鐘を乱暴に鳴らす。
 そのまま崩れ落ち、ヨロイ元帥の意識は再び闇へと沈んでいった。

 小沢澄子はヨロイ元帥にいい感情を持たなかった。
 偶然廃屋を見つけたのを幸いとして、手当てして放っておきたかった。
 その理由は何か?
 ヨロイ元帥の黒い思惑に薄々ながらも気づいたからか?
 今は自分の手の内だが、球状のマシンガンが使われた痕跡があるからか?
 ヨロイ元帥の態度に天敵、北條透を思い出したからか?
 全て是であり、否だった。
(あの被り物、センスが最悪だわ)
 一番の原因は被り物が気にくわなかった。真司が聞けば軽蔑と共に脱力するような理由である。
「な、なんて酷い。小沢さん、何するんですか?」
「あんまり派手に動きそうだったから、静かにしてもらったのよ。貴重なデイバックを包帯として解体したからには無駄には出来ないでしょう?」
 蹴られたわけでもないのに股間を押さえる真司に疑問を持ち、蹴った理由の一つを答える。
「だからって何も股間を蹴らなくったって……」
 呟く真司を意識の外に追いやり、今後の方針を練り始める。

 警視庁きっての天才、運命に巻き込まれたライダー、悪の組織デストロンの幹部。
 奇妙な三人は、こうして行動を共にするのであった。



【ガライ@仮面ライダーJ】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:海岸J-5】
[時間軸]:本編開始前
[状態]:軽症
[装備]:なし
[道具]:未確認
[思考・状況]
1:フォッグ・マザーへの生贄を探す

【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:海岸J-3】
[時間軸]:47,8話前後。優衣が消えたことは知っています。
[状態]:健康。小沢澄子を全面的に信頼。若干感傷的に。ヨロイ元帥の痛みに共感。
[装備]:カードデッキ(龍騎)
[道具]:バッグの中は未確認。
[思考・状況]
1:戦いを絶対に止める。
2:蓮たちを探す。
3:ヨ、ヨロイ元帥……

【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:海岸J-3】
[時間軸]:G3-X完成辺り。
[状態]:健康。割と冷静に物事を捉えられます。真司より深刻な事態であることを自覚しています。
[装備]:精巧に出来たモデルガン。マシンガンブレード(ブレード部はJ-4の辺りに落ちています)
[道具]:カイザポインター
[思考・状況]
1:脱出の方法を考える、首輪の解析(道具と仕組みさえ分かれば分解出来ると考えています)
2:氷川誠津上翔一と合流する。
3:ヨロイ元帥の被り物が気に入らない。

【ヨロイ元帥@仮面ライダーV3】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:海岸J-3】
[時間軸]:プルトン爆弾開発前。50話前後
[状態]:動けはするものダメージ、疲労ともに大。股間に激痛。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:デーストロン首領に勝利を捧げる。
2:V3、結城丈二、ドクトルGの抹殺。
3:上手くいけば、小沢と城戸を部下にしてやってもいい。
4:お、小沢、貴様~

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最終更新:2018年03月22日 23:36