因果は巡る
どこまでも続く鬱蒼とした木々の中、歩く影がひとり。
金髪に染まった髪に、銀色のピアス。腕にはジャラジャラとアクセサリーをつけた年の頃、16、7ばかりに見える青年。
その正体は何万年も前から存在している不死の生物、コーカサスビートルアンデッド。
彼は人間に擬態することができ、その間は自らのことを王――
キングと呼んでいた。
キングは何事か呟きながら森の中を進んでいた。
「まあ、君が生きていることは気付かれていないだろうからさ。この先にある山小屋で時間になるまで休もうか」
その言葉に答える人影はいない。しかし、
キングは返事を受けたかのように会話を続ける。
「そうか。OKだね。じゃあ先を急ごうか」
端から見ている分には彼が独り言を言っているようにしか見えないだろう。だが、彼の話し相手は彼の腕に存在していた。
見た目はくすんだ鋼色をした奇妙な凹凸がある丸い玉。その玉は
キングが何か話す度に不気味な伸縮を繰り返している。
その玉こそ、10人の仮面ライダーとも互角の戦いを繰り広げることができる最強の生命体ドラス。
激戦の末、敗れはしたが、
キングの助けもあり、彼の心臓とも言える、この『核』の部分は残されていた。
制限が解けるまでの2時間、ドラスが出来ることといえば伸縮するぐらいで自分ひとりの力では移動することは出来ない。
移動するためには
キングの力を借りるしかないのだが、
キングもドラスを助けるために、アンデッドとしての能力を使ってしまっていた。
今の2人は制限が解けるまでの間、時間を稼ぐことを目的としていた。幸いにして、ドラスの死をごまかすことには成功している。
満身創痍の仮面ライダーたちが追ってくることはないだろう。
2人はそう考えていた。しかし、彼らはあることを忘れていた。
ピ~ン♪ポ~ン♪パ~ン♪ポ~ン♪
定時になると鳴り響くチャイムの音。死亡者と禁止エリアを知らせる定時放送である。
「あちゃ~、そうか放送があったんだっけ。これじゃあ死んでないのバレちゃうじゃん」
この定時放送では6時間の間に死んだ参加者が知らされる。当然、死亡していないドラスの名前は告げられないだろう。
そうならば、ドラスが生きていることが敵対するライダーたちにバレてしまう。
キングはこれからの行動について、思考を巡らせ始めていた。
キングにとっては誰が死んだかなど、どうでもいいことだった。そのために、放送を身を入れて聞くことなどしない。
それよりも今後の対策を立てることが先だ。
だが、最初に告げられた死亡者の名前を聞いたとき、
キングの思考は中断した。
「……はっ?」
思わず、間の抜けた声が自然と漏れる。聞き返そうにも放送は一方的に告げられるもの。
自分の耳を信じるしかない。
「なんだよ、北岡死んじゃったのかよ」
キングがまず持った感情は失望。北岡と共にいたわずかな時間は本当に楽しいものだった。
自分の企みに、自分が創造しえない面白い方法で対抗する北岡は
キングにとって、好ましい存在となっていたのだ。
だからこそ、またそのうち会えればと、再会を望んでいたのが、その望みは叶わないものとなった。
そのことに、
キングが次に持った感情は怒りだ。自分の楽しみを奪った者に対しての怒り。
「そういえばここら辺だったかな、最後に北岡と会ったの」
キングは思い出す。最後に会ったとき、北岡は金棒を持った蛇のような男と戦おうとしていた。
「あいつにやられたのかな。それとも、別の奴に?」
歩きながら、考えていると、森の中、急に開けた小さな荒地に出た。
見ると、そこは木が切り倒されており、地面は爆発したかのように荒れていた。
その様からここが人工的に造られた場所だとわかる。
「ここは」
自分がファイズらと戦っていた場所とは違う。そうなると、ここは北岡が戦っていた場所ではないかと予想する。
ドクンと、ドラスが大きく躍動した。
「何か見つけたのか?」
再び、ドラスはドクンと躍動する。
キングは注意深く、辺りに視線を向ける。
「あれは」
土の中からわずかに覗く肌色。それは誰かの手のようだった。
キングは駆け寄ると、それを掘り起こす。
徐々に露出していく肌色と紺色。それは人間の肌の色と、着ているスーツの色。
程なくして、その人間の顔が露出される。それは
キングが予想していた人間の顔だった。
「北岡だ」
土に汚れ、すっかりと生気を失っていたが、紛れも無く、それは北岡の顔。
放送を信用していなかったわけではないが、改めて死体を確認すると、なにやらムズムズしたものが
キングの心に生まれた。
怒りのようで、何かがちょっと違うもの。
それは
キングにはわからなかったが、それは
キングの行動に影響を与えることになる。
「ドラス、予定変更。町に向かおう。ここら辺じゃあ、君を再生するための金属がなさそうだしね」
キングが目的地を変更したのは、言葉通りの理由なのか。山小屋に行きたくない理由ができたのか。それとも、別の何かなのか。
次第に日は暮れてきており、夜の帳が下りようとしている。
そんな中、
神代剣は懸命にドラスの捜索を続けていた。
ドラスには2時間の能力制限が掛かっているはずで、恐らく『コア』の状態だと、神代は推測していた。
ドラスの身体を構成しているのは金属物質だという情報は得ている。ならば、この木々の中で元の身体を取り戻すことはできず、移動も満足にはできないはずだ。
そして、その状態で見つけることができれば、自分にも制限が掛かっているといっても、破壊することは容易。
だが、問題もある。コアの状態であれば、ドラスの大きさは赤ん坊の頭蓋骨程度。
ただでさえ、見つけにくい大きさだというのに、闇に包まれた後では時間内に見つけるのは絶望的といえる。
神代の心には否が応でも、焦りが生まれていた。
定時放送から1時間が経ち、今まで捜索していたC6エリアが禁止エリアになったが、そこから爆音は聞こえてこなかった。
それは即ち、ドラスがC6エリア内にはいなかったことを示す。
そうなれば、爆発した位置から隣のC7エリアにいる可能性は高い。神代は眼を皿のようにして、ドラスの捜索を続けた。
神代の推測はドラスに協力者がいないことが前提になっている。
キングという協力者がいる以上、神代が時間内に見つける可能性はゼロに等しかった。
しかし、結果的に神代とドラスは邂逅する。
「うがるぁぁぁぁぁぁっ!!」
浅倉は天に吠える。
北岡という強敵を倒し、木野というライダーを倒し、食物で腹を満たしたというのに、彼の暴力に対する飢えは治まらない。
「イライラするぜぇぇ!誰か、誰か、俺と戦ぇぇぇぇぇっ!」
怪魔稲妻剣を振り回し、左手に電撃をスパークさせながら、浅倉は獲物を求め、彷徨う。
信じられないことに、彼の歩みは、まっすぐに彼のいう『獲物』がいる場所へと向かっていた。
それは彼がもはや人ではなく、
モンスターであることの証明。
深く抉れた左眼の傷も、身体中にある矢に貫かれた痕も、度重なる戦いにより蓄積された疲れも、彼の暴走を止めるには至らない。
彼は、自分の飢えを満たしてくれる『獲物』に出会うためだけに動いていた。
いよいよ陽は沈み、辺りが闇へと包まれる。
神代はディパックから時計を取り出すと、時間を確認する。
正確には解らないが、そろそろワームへの変身制限が解ける時間だ。だが、それは同時にドラスの制限も解けることを意味していた。
しかし、それでも捜索をやめるわけにはいかない。
正直、制限が解ける前に見つけたかったが、もし、制限が解除されたドラスと戦うことになったとしても、自分には3つの変身がある。
優勝するために、自分の誇りを捧げてまで、使うことに決めたワームへと変身とブレイドへの擬態。
天道という自分以外に、きっと皆を幸せに導ける男が死んでしまった以上、退くわけにはいかないのだ。
ふと、神代は自分に近づいてくる足音を聞いた。神代は時計をディパックに収めると、代わりにサソードヤイバーを取り出し、肩にディパックを掛ける。
ドラス打倒のため、一時的に手を結んだりもしたが、優勝を目指す神代にとって、参加者全てが敵。
誰であろうと、斬らなければならない。
「そこにいるのは誰だ。出て来るがいい」
神代の高貴なる精神はやはり正々堂々と戦うことを好む。
威勢よく雄叫びを上げ、自分がここにいるということを鼓舞し、相手を威嚇する。
例え、不意討ちを掛けてこようとも、対応できるよう前の相手に全神経を集中させる。
しかし、敵は神代の予期していない場所から現れた。
突然、神代が警戒していた方向の真逆から、草木を踏み分ける足音が聞こえる。
「はぁぁぁっ、見つけたぜ」
闇に飲み込まれた木々の間から、嬉しそうな声を上げ、一人の男が現れた。
紫外線により、色素の抜けた茶色の髪に、蛇のように鋭き眼。
傷だらけだというのに、その男からは脆弱なものは一切感じ取れず、対峙しているだけで、生物としての本能が危険信号を鳴らす。
クモ女やドラスから感じたものと似たような感覚に、思わず神代はひとつの疑問を投じた。
「貴様、人間ではないのか?」
思わず口から出た質問に男はにぃっと笑って答えた。
「お前は、俺のイライラを治めてくれるかぁ!」
開口一番、話すことなどないといわんばかりに、男――浅倉は怪魔稲妻剣を手に神代へと襲い掛かる。
不意討ちではあったが、剣の勝負であれば、神代の腕は参加者の中で1、2を争うほど確かなものだ。
サソードヤイバーで怪魔稲妻剣を受け流し、懐へと入る。
(もらった!)
完璧に自分の間合い。神代は逆袈裟に構え、一気に浅倉を切り裂こうとした。
ところがそれより早く浅倉の左手から赤い光が煌く。
たちまち、神代の身体に稲妻に打たれたような電流が走った。
浅倉がデルタギアによって得た力。デルタギアの非適合者は変身はできるが、精神を侵され、赤の電撃を扱えるようになる。
「ぐわぁっ!」
神代が怯んだ隙を突き、浅倉は頭突きで神代との間合いを離すと、怪魔稲妻剣を握りなおし、片手で横薙ぎに振るった。
寸前、神代はバックステップで後ろに下がったが、しびれた体で完全に回避することは出来なかった。
怪魔稲妻剣が、神代の胸を一文字に切り裂く。胸から吹き出た赤い血は、たちまち神代の白い服を赤く染めていった。
「ぐぅぅっ」
膝を大地につき、崩れ落ちる神代。
「おいおい、もう終わりか?それじゃあイライラは治まらないぜぇぇぇ!」
「くっ!」
振り下ろされた怪魔稲妻剣を、神代はなんとかサソードヤイバーで受け止める。
鋼鉄の塊も切り裂く、怪魔稲妻剣ではあるが、サソードヤイバーも特殊な金属で作られた剣。
火花が散るが、サソードヤイバーは砕けない。
「はぁぁっ!」
だが、2度、3度と振り下ろされる怪魔稲妻剣に、次第にサソードヤイバーと神代自信の体力が削られていく。
まだ、制限は解除されない。神代は一瞬のチャンスに賭けるしかなかった。
「すっげぇ、迫力」
そんな浅倉と神代の戦いを
キングは物陰から窺っていた。
一見、浅倉が優勢のようだが、神代も大したものだ。
最初の一撃以外、怪魔稲妻剣による攻撃を全て根元の部分にサソードヤイバーを合わせ、防いでいる。
浅倉は気付いていない。あれなら、いくら叩いても武器を破壊することはできないだろう。
神代が最初に気付いた足音は
キングのものだった。
気付かれたときはどうしたものかと考えたが、浅倉が乱入したおかげで事なきを得た。
「さてと、どうしようかな?」
2人はお互いに相手のことに夢中で、
キングには気付いていない。逃げるなら今がチャンスだった。
今の
キングには制限がかかり、まともな武器もない。
制限解除を待つことも出来るが、
キングは神代が自分より早く制限が解けることも、サソードというもうひとつの変身があることも知っていた。
ドラスと仮面ライダーたちとの戦いを伊達に眺めていたわけではないのだ。
どちらが勝つかは判らないが、もし神代が勝った場合、優勝を目指す神代と戦うことは避けられない。その場合の勝算は五分五分といったところだろう。
「逃げた方が得策かな」
見ると、ドラスもその考えを肯定するかのように、伸縮している。
だが、
キングは浅倉が気になっていた。
浅倉は以前、自分とストロンガーとの対話を邪魔した男。北岡とあの場所で戦ったであろう男だ。
そして、もしかしたら北岡を殺したかも知れない男。
キングは考える。自分が何をしたいのかを。そして……
「面白そうじゃん」
キングのやることは決まった。
浅倉は何度も何度も打ち据えていた。だが、相手は一向に反撃をしてこない。
それに浅倉のイライラは深まっていく。
「どうしたあぁぁぁ!」
浅倉は絶叫して、怪魔稲妻剣を一際大きく振り上げた。しかし、それは神代が待っていた好機。
振り下ろされるまでのわずかな時間。その隙を狙って、浅倉の手首を断ち切るため、神代はサソードヤイバーを振るった。
だが、神代の一撃が浅倉の腕に届くよりも早く、浅倉は地面へと突っ伏していた。当然、狙っていた一撃は空しく空を斬る。
その突然の出来事に神代は呆気に取られる。
浅倉の方を見ると、左側頭部からドクドクと血を流している。そして、横に転がるのは拳大の石。
おそらく、この石が浅倉を強襲したのだろう。浅倉にとって、負傷して見えない左からの攻撃は完全に死角。
防御することも、回避することも出来なかったはずだ。
神代は誰が投げたのかと、石の投げられたであろう方向へと視線を向けた。
「甘いね」
その視線とは逆方向から駆けて来る
キング。
キングは神代の虚を突くことに成功した。
キングは木の上から石を投げると、木を渡り、逆方向へと回り込んだのだ。
キングの目的は浅倉のディパックだ。神代の変身は自らの力による変身とサソードヤイバーによるもの。
汎用性のあるものではなく、件のサソードヤイバーは神代の手にしっかりと握られている。
神代から道具を奪っても、あまり意味はない。
だが、浅倉はどうだろうか。確信があるわけではないが、汎用性のある道具を持っているかも知れない。
そして、それを取り上げることが出来れば、この戦いの中、死亡する可能性は増す。
キングの元々の目的は戦いを長引かせるために支給品を取り上げること。
浅倉を窮地に追い込み、元々の目的も果たす。それが
キングの考えだった。
「いただき」
キングの手が浅倉のディパックを握る。あとは逃走するだけだ。
だが、
キングの思惑通りに事は進まなかった。
「えっ?」
ディパックは浅倉から離れない。
ディパックを握っているのは
キングの手と、そして、浅倉の手。
「なーにしてるのかな?」
「やっべ!」
気絶したと思われた浅倉の眼が開く。
その視線に、
キングは威嚇されたかのように身を竦ませた。そのため、反応が遅れる。
「うだぁぁぁぁぁぁ!!」
浅倉はどこにそんな力が宿っているというのか、ディパックを握っている
キングごと、持ち上げ、放り投げた。
浅倉も
キングもディパックを握った手を離さなかったため、当然負荷はディパックに掛かり、浅倉のディパックは2つに裂ける。
裂けたディパックから様々なものが散らばり、落ちていく。
ペットボトルの水、携帯食、名簿、グランザイラスの腕。そして、緑色をした長方形のケース。
「あれは……」
キングはそれを2度、眼にしたことがある。それは北岡が緑色の戦士に変身するために使っていた道具。
ゾルダのカードデッキだった。
「いいもん見つけた」
キングは素早く身を起こすと、ヘッドスライディングの要領で、カードデッキの元へと跳びこんだ。
上手い具合に、
キングの手にカードデッキが握られる。
「お前」
「へへっ、これがあれば変身できるんだろ?」
キングは以前見た北岡の変身を思い出し、カードデッキを前に突き出した。
「変身!」
左腕を構え、右腕を腰に。それは北岡の変身ポーズとまったく一緒の型。
だが、
キングの身体に変化は見られない。
「あれ?へ、変身!」
もう一度、同じポーズをとって叫ぶがカードデッキは何の反応も示さない。
「あれ?あれ?」
「はっ、それを返せ!」
激昂する浅倉は怪魔稲妻剣を構え、
キングに迫る。
「うわっ」
キングは振り下ろされた怪魔稲妻剣を、身体を思いっきり反らすことでなんとか避ける。
だが、無理な体勢を取った為、バランスを崩し、尻もちを付く形で大地へと座り込んだ。
当然、その隙を浅倉は見逃さない。浅倉は怪魔稲妻剣を振り下ろした。
ガチッと金属同士がぶつかり合う音が鳴る。
キングは咄嗟に掴んだ物でその攻撃を防御していた。
鋼鉄の塊も、豆腐のように切り裂く怪魔稲妻剣。ちょっとやそっとのものでは、それごと切り裂かれていたことだろう。
しかし、
キングが防御に使ったものはちょっとやそっとのものではなかった。
「なんだこれ?」
それはグランザイラスの腕だった。
キングは知る由もないが、浅倉に文字通り喰われたクライシス最強怪人の腕。
生物部は浅倉に喰われはするが、その金属部はRX最強の剣リボルケインすら通さない最強の盾となる。
「イライラさせるぜ!」
浅倉は怪魔稲妻剣を放り投げると、
キングへと馬乗りになり、襲い掛かった。
何度も防御される怪魔稲妻剣をもう必要ないものと判断したのだろう。
キングはグランザイラスの腕で抵抗するが、制限の掛かった状態では腕力は浅倉の方が上だ。
グランザイラスの腕を
キングの手から離し、
キングの首を絞める。
両腕から電撃を発するおまけつきだ。
「っ、ぶばっ」
身体中に駆け巡る強烈な電撃に
キングは泡を吹く。
意識が段々と遠ざかり始め、
キングの脳裏にはここでの出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。
(く……くそっ、なんで変身できないんだ。僕はまだ面白いものたくさん見たいのに。なんでだ……教えてくれよ、北岡……きたおか)
その時、ずっと隙を窺っていた神代が動いた。サソードヤイバーを逆手に構えると浅倉の背中を貫く。
そして、その刃は浅倉の身体を通り、
キングの脇腹にも達した。
「2人とも、これで終わりだ」
神代は自分の勝利を確信した。
城戸と秋山との戦いに割って入ったときと同じように、漁夫の利を得た格好ではあり、正直、不満はあった。
だが、最低において頂点に立った自分が、優勝することよりも優先して守り続ける誇りなどないのだ。
沈黙する浅倉と
キング。神代はサソードヤイバーを抜こうと、今度は逆方向に力を込めた。
ところが、サソードヤイバーは動かない。
「ははぁ、いいぜ、やっと、面白くなってきた」
「何!」
「ぐがぁぁぁぁっ!」
浅倉は絶叫を発して思いっきり身体を起こすと、神代を跳ね飛ばす。
立ち上がった浅倉の胸からはサソードヤイバーの刀身が姿を見せている。
その傷は致命傷のはずだ。だが、浅倉の狂気は薄れるどころか、益々膨れ上がっていた。
「もっと俺を楽しませろ!俺のイライラをなんとかしろ!北岡を殺したときのようにな!」
浅倉の両手の中で火花を散らせる赤い電撃。サソードヤイバーを奪われた今の神代に手はない。
だが、時間さえ稼げれば、勝機はある。神代の変身制限が解けるまで、もう10分もない。
(いつまで経っても変身しないことから考えると、こいつが変身する可能性は薄い。
手からの電撃にさえ気を付ければ、化け物とはいえ、なんとかなるはずだ)
既に神代から浅倉は人外のものとして、認識を受けていた。
人間ならばもはや死んで当然の傷を受けている。そう思うのも当然だった。
浅倉はゾンビのごとく、ゆっくりと神代へと近づく。神代も覚悟を決めた。
――パン
乾いた音が響き渡った。
その音と同時に浅倉の右肩が弾ける。
「あぁ?」
浅倉は何事かと思い、ゆっくりと後ろを振り返った。
そこには浅倉がもう一度、殺したいと思っていた男の姿があった。
緑色のスーツに銀色の戦車を模したような装甲。格子状のマスクからは赤のシグナルが右から左へと走る。
それは紛れも無く、北岡が変身していたライダー。仮面ライダーゾルダ。
「きたおかぁぁぁぁ!」
ゾルダは構えた拳銃――マグナバイザーの引き金を再び引く。
パンと音が鳴ると、今度は浅倉の左肩が爆ぜた。
「思い出したよ。北岡は1度目は窓に、2度目はペットボトルにかざしていた。共通することは反射するもの。
この道具は鏡にかざすことで変身することができる。そうだね」
向かってくる浅倉をゾルダは撃つ。
まずは、左太腿。
「これが誰でも変身できるものでよかったよ」
次は、右脇腹。
「敵討ちってわけじゃないけど」
そして、右膝。足の神経が遮断され、歩けなくなった浅倉は大地に崩れ去る。
「北岡は人間にしては結構面白い奴だったんだよね」
だが、それでも浅倉は大地を這い、ゾルダを見ながら突き進もうとする。
「だから……死ねよ、お前」
「ハハハハハ、ゾクゾクするぜ。また、北岡と戦えるなんてな」
――パン
銃弾が浅倉の眉間に命中する。
浅倉は笑顔のまま最後を迎えた。
その顔にはイライラなど、微塵にもありはしなかった。
キングがゾルダに変身したことを確認した時点で、神代は闇へと姿を隠していた。
さすがに武器のない状態で変身した相手に挑むなど、無謀としかいいようがない。
だが、このまま逃げるつもりは神代にはなかった。
制限が解除された時点で再び奇襲を掛けるつもりだ。それまでゾルダの様子を神代は観察することにした。
ゾルダは浅倉を射殺した後、更に頭と心臓に一発ずつ撃ち込んだ上で、首輪にも打ち込み、死体を爆破した。
神代もその行動には同意だ。浅倉は人間の姿はしていたが、怪人が擬態した姿という認識だ。
ドラスの例もある。頭部に銃弾を撃ち込んだとしても安心は出来ない。
だが、この殺し合いのルール上、首輪を爆破すれば、問題はあるまい。
ゾルダは周りを見渡している。自分を探しているのだろうと、神代は理解する。
「逃げたか。まあいいや、目的のものは手に入ったし」
ゾルダは浅倉の残ったディパックに、浅倉から回収したベルトやデッキ、サソードヤイバー、それに散らばった道具を入れていく。
そして、全部回収し終わると、浅倉の死体から少し離れた場所にある木陰へと移動した。
しゃがみこむと、何か丸い物体を持ち上げる。
(!、あれはドラスか)
神代は見た。くすんだ鋼色の凹凸のある丸い球体。
人間の心臓が鼓動するかのように伸縮を繰り返すそれは、神代が崩れ行くドラスの身体の中に見たドラスのコア。
(あいつが持っていたのか)
神代は拳を握り締める。すると、身体に力が満ち始めるのを感じた。
忌むべき姿ではあるが、スコルピオワームへと変化する予兆だ。
(あと少しだ、あと少しで制限が解除されるはずだ)
「何?何か言いたいことがあるの?」
神代はチャンスを伺う。ゾルダはドラスに何事か話しかけているが、制限が解けるのはあとわずか。
もはや何をしゃべろうともどうでもいい。
「あと43秒だよ」
ゾルダがまた何事かしゃべった。神代は何を言っているのか意味がわからなかった。
だが、次のゾルダの台詞で言っていることが理解できた。
「聞こえてる?変身できるまでの時間だよ。あの時はゆっくり観察できたからね。変身した時の時間と解けた時の時間を覚えといたんだ。
まだいるんだろ?でも、残念。逃げておけば良かったね」
(気付かれている!?)
その事実に神代が気付いたときには遅かった。既にゾルダの手にはカードデッキから引き抜かれた一枚のカードが握られている。
ゾルダはそれを展開したマグナバイザーに入れ、装填した。
―FINAL VENT―
カードから発せられる音声に従って、大地より現れる緑色の鉄巨人――マグナギガ。
その風貌に、神代は危険を感じた。身を翻すが、間に合わない。
ゾルダはその後ろにマグナバイザーを差し込んだ。
「あと6秒だ。なんとかしてみろよ?」
ゾルダは引き金を引いた。
マグナギガから発せられる多数の銃弾、砲弾、ミサイル、レーザー砲は眼前に広がる森へと次々と炸裂していく。
巻き起こった炎と爆風が、木々を焼き、粉砕し、次々に灰と塵へと変えていく。
「あはははっ、北岡、超サイコーだよ、これ」
あっとういう間に森だった場所は、焼け野原へと姿を変えた。
その惨状にゾルダは満足気に笑う。
「あはは、どうだいドラス?凄いだろ。あははははは」
ひとしきり笑った後、
キングは焼け野原を歩き始める。
わざわざ変身できるか、どうかのギリギリのタイミングまで発射を待った。神代は生きているはずだ。
探し始めると、神代はあっさり見つかった。身体中に黒いすすを付け、真っ黒な姿となり、地面へと横たわっている。
生きてはいるようだ。耳を澄ませて見ると、僅かながらも荒い息をしている。
神代の姿でいるところを見ると、怪人への変身はしたのだろう。木が攻撃を多少和らげるとはいえ、流石に生身の状態で耐えられるものではない。
それでも念のため、ゾルダの変身は解かずに神代へと近づくと、支給品を奪い取るため、その懐を漁った。
程なくして、懐から見つかったのは
キングにとっては予想外のもの。ブレイバックルだった。
「なんで、こいつがこれを持ってるんだ?ひょっとして、こいつが剣崎を殺したのか」
しかし、北岡の時と違い、
キングは特になにも思わなかった。
北岡の時はなぜかカッとなってしまったが、
キングにとって、参加者の生死など、本来、どうでもいいことなのだ。
キングは引き続き、神代から支給品の探索を続ける。
「えーと、他には。わっ、カードもいっぱい持ってるじゃん」
神代の懐から多数のラウズカードとラウズアブゾーバを回収し、ディパックからは腕輪のようなものと、自分で落とした携帯電話を回収する。
食料や水、名簿などの共通した支給品は充分すぎるほど、手に入れたので、回収せず、そのまま神代のディパックへと戻す。
「こんなところかな。しかし、大量だな」
キングは神代から支給品を奪うと、興味を失ったのか、気絶した神代をそのままに、ドラスと共にその場を後にした。
街へ向かって歩いていると、ゾルダへの変身が解け、
キングの姿に戻る。
「ああ、痛て。でも、これのおかげで助かったんだよね」
キングの脇腹にある刺し傷。サソードヤイバーによるものだ。
この一撃のおかげで失いかかった意識は覚醒し、ゾルダへの変身に繋げることが出来た。
そういった意味では、神代は命の恩人だ。
「まあ、感謝するつもりはないけどね。……ところで、そろそろドラスの制限も解けるよね?
いくつか、金属で出来た支給品もあるけど、これ吸収する?」
ドラスは身体を伸縮させ、返事をする。この動きはNOの動きだ。
「そう。じゃあ、金属のある場所を探さないとね。これはその内、何かに使おうか。何か面白いことしてくれそうな奴に渡したりしてさ。
ああ、そういえば睦月と約束してたの忘れてた。まあ、いいか。その内、会うだろうし」
ドラスとの会話を楽しみながら、
キングは道を進んでいく。
結局、彼が北岡の死体を見た時に感じたムズムズしたものは何だったのか?
それは浅倉が死んだことで、答えが出ないまま、
キングの心から霧散した。
浅倉は木野と戦ったために変身できなくなった。
浅倉は北岡からカードデッキを奪ったがために変身された。
浅倉はグランザイラスの腕を持っていたために攻撃を防がれた。
浅倉は風見と同じように生身のまま殺された。
ぐるぐるぐるぐる因果は巡る。
【
浅倉威 死亡】
残り25人
【
キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:夜】
【現在地:市街地D-7】
[時間軸]:
キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:全身に負傷中。わき腹に刺し傷。疲労中。二時間変身不可(ゾルダ)。
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)。ドラスの核。ブレイバックル。
ラウズカード(スペードのA、2、3、5、6、9、10。ダイヤの7、9、J。クラブの8、9)
[道具]:デルタフォン、デルタドライバー。 カードデッキ(オルタナティブ・ゼロ)。怪魔稲妻剣。
ファイズブラスター。 グランザイラスの破片。サソードヤイバー(怪魔稲妻剣によるダメージ有)。
陰陽環(使い方は不明)。携帯電話。ラウズアブゾーバ。
剣崎の装備一式。二人分のデイバック(風見、北崎)。
[思考・状況]
1:ドラスと今の状況を楽しむ。
2:街に行き、ドラスを復活させる。
3:レンゲルとのゲームのため、ラウズカード探し。
4:この戦いを長引かせる。そのため、支給品を取り上げる。
5:戦いに勝ち残る。まだまだ面白いものも見たい。
6:今は戦うつもりは無い。
※音撃金棒・烈凍はC-5エリアの森に放置されています。
【ドラス@仮面ライダーZO】
【1日目 現時刻:夜】
【現在地:市街地D-7】
[時間軸]:仮面ライダーZOとの戦闘で敗北し死亡した直後
[状態]:ネオ生命体本体部のみ。能力を発揮しなければ身動きできません。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:街に着いたら、身体を再生成。
2:望月博士なしで神になる方法を考える。
3:首輪を外しこの世界を脱出する。
4:首輪の解除のため、冴子を利用する。
5:他の参加者は殺す。ただし、冴子と
キングには興味あり。
[備考]
※1:ドラスの首輪は胴体内部のネオ生命体本体に巻かれています。(盗聴機能は生きています)
※2:ドラスはドクトルG、ヨロイ元帥、ジェネラルシャドウ、マシーン大元帥の情報を得ました。
※3:麻生は首輪が外れたため、死亡扱いになりましたが、ドラスの中で生きています。ただし、ドラスが死ぬと麻生も死にます。
※4:赤ドラス化は能力発揮中のみ使用可能です。通常時は普通のドラスに戻ってしまいます。
※5:制限が緩められ、戦闘時間、戦闘不能時間に影響があるかもしれません。
[備考]
※GM-01改4式(弾切れ)、拡声器はD6エリアに放置されてます。
【
神代剣@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:夜】
【現在地:樹海C-7】
[時間軸]:スコルピオワームとして死んだ後。
[状態]:気絶中。大程度の負傷。胸と背中に斬撃による傷。始への憤り。
二時間変身不可(スコルピオワーム)。
[装備]:なし
[道具]:ディパックと基本支給品
[思考・状況]
1:ドラスを倒し、天道の仇を討つ。
2:始と再会し、手を汚す前に自分の手で殺す。
3:この戦いに勝ち残り、ワームの存在を無かったことにすることで贖罪を行う。
4:さらに、自分以外が幸せになれる世界を創る。
5:
秋山蓮といずれ決着をつける。
6:氷川の決闘の申し出を受ける。
7:橘は殺し合いに乗っていた?
[備考]神代は食パンを「パンに良く似た食べ物」だと思ってます。
※1:剣崎と
神代剣両方の姿に切り替えることができます。剣崎の記憶にある人物と遭遇しそうなら、剣崎の姿に切り替えるつもりです。
※2:
神代剣は
結城丈二への擬態能力を得ました。但し、変身は出来ません。
※3:
神代剣は首輪の解除方法を得ました。但し、実際に首輪を解除できるかは不明です。
[大集団全員の共通事項]
時間軸にずれがあること、異世界から連れてこられたことは情報として得ました。
仲間である人物と敵であろう人物の共通認識がされました。
最終更新:2018年11月29日 17:58