魂は此処に。
真紅の双眼。闇に溶け込む漆黒の身体。
化け物と形容するに相応しい者だった。故に
氷川誠、彼は思う。
傍らに居る彼女を守らなければいけない。
それが警察官の使命、いや、一人の人間としての使命だからだ。
銃が効くとは思えない。拳や蹴りが通用するとも思えない。
だが、せめて彼女を逃がすぐらいの時間は稼いでみせる。
人間の強さを示す時だ!
「うおおおおおおおッ!!」
月夜を背に佇む相手に突撃。力一杯の力で相手を掴みあげようとするがビクともしない。
力士相手に子供が相撲するようなものだ。傍らに居た少女、
日下部ひよりから見ても明らかだった。
クソッ!なんだこいつの力は…。訓練を積み、日夜アンノウンとの戦いを繰り広げてきた己には充分過ぎるほどの衝撃だった。
やはりG-3Xが無いと僕は無力なのか…。
必死に喰らい付くが最早それが何の意味もなさないことは僕にも分かった。
そんな時、ふと月明かりに照らされた化け物の顔が明らかになる。
それは共に戦う友、アギトの姿に酷似していた。
バカな!
思わず眼を疑う。津上さん…?
頭の中が真っ白になり、入れていた力が抜けてしまう。遊びもここまでとばかりに、
勢い良く振り払われてしまった。砂浜に吹き飛ばされ、砂塵が舞った。
「何やってるんだ、戦えよッ!」
彼女が懸命に叫んでいる。尻餅を着いたまま思う。
そうだ、僕がやらなければならない。
こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
例えアギトに似ていても関係無い。津上さんが殺し合いに進んで身を投じるとは思えないから。
今は目の前の化け物をなんとかしなければ。こいつは倒すべきだッ!
「下がって!」
少女を手で制止し懐に忍ばせていた拳銃を相手に向ける。ただの拳銃が効くとも思えない。
だが、使える手は全て尽くさなければ。
相手の心の蔵を目掛けて引き金を引く。大きな衝撃と轟音と共に弾丸は視認出来ないスピードで相手を射抜くが、
全く効き目が無い。この銃が玩具では無いかと思ってしまう程、相手は意にも介さない。
まさか怯ませることも出来ないとは…。
「バカな…!クソォッ!!」
自棄になったように連続で撃ち込むが、矢張り効果は無い。直ぐに弾切れを告げる空音が響いた。
相手の進軍を止めることも出来ない。こうしている間にも互いの距離は詰められて行く。
―…絶体絶命。
こうなれば少女だけでも…。
自分の無力さが心を支配していく。歯は血が滲むほど食いしばられ目尻には涙が滲んだ。
何とも情けない話だ。時間稼ぎすら満足に出来ないとは…。
隣に居る警察官の男は全ての手を尽くしたらしい。
ボクとしても何もせず死ぬつもりは無い。
あまり気は進まないが…ワームとなって戦うしかないだろう。
懸命に守ろうとしたボクが化け物だと知ったら、この男はどう思うだろうか。
そう思うと少しばかり気が引ける。
だが迷っている暇は無い。今にも飛び掛ってきそうな相手を真っ直ぐ見据え、男の後ろで変体しようとする……が、
その時、緊迫感漂う砂浜に低い男の声が響き渡る。
「威勢は良かったがな。尻すぼみになっちまったか。―…まあ良い、後は俺に任せな。」
声の主は後ろから現れた。
ボクも、警察官も、化け物も、視線が一挙に集まる。まだ距離は近いうえ、顔や姿がはっきり確認できないものの、
その存在感は抜群。そう、その感覚は天道と初めて会った時に似ていた。
やがて月明かりが正体を明らかにする。
中年の体格の良い男だ。手には…楽器?良く分からないが、ギターだろうか。
一風変わったギターを手に持っている。なんなんだろうか。
「あ、貴方は…」
突如現れた男の姿に呆気を取られたのか素っ頓狂な顔をしている。
化け物も進軍を止め、異質なオーラを持つギター男の気配を伺っているようだ。
「奴は危険です!僕が時間を稼ぎますから、この子を連れて逃げて下さい!!」
ボクの肩を掴み半ば強引にギター男の方へ差し出した。
…ボクの心配より自分の心配をしろよ…。
しかし今度は、その言葉を聞いた男が素っ頓狂な顔をしている。やがて大声で笑い出した。
心底可笑しいと言いたげに。
「―…出来ないことは口にするもんじゃ無いぜ、兄ちゃん。まあその勇気は買うがな。」
「な…!」
警官が喋るのを制して男は続ける。
「任せておけ。こういう奴の相手は慣れてる。」
一瞬、ギター男の言っている意味が分からなかった。だが直ぐに一つの考えが浮かぶ。
そんな、まさか…。
――…左腕に着けられていた変身音源 音枷のカバーが開き、ギターの弦のようなものが明らかになる。
砂浜を静寂が包んだ。潮風と波の音だけが辺りを抱く。
一寸の間を空けて男はしなやかな指使いで弦を弾いた。
不思議な音色が響く。心地良い、そして何処か勇ましい音色だった。
やがて滲み出るように男の額に鬼の紋章が現れる。
ゆっくりと逞しい鍛えられた腕を天に掲げると辺りを眩い閃光と共に、
轟音を轟かせながら稲光りが地を討った。その衝撃が柔らかな砂塵を舞わせ、
鬼を祝福するが如く蒼海と同じくして光り輝く。
―…身体に掬う魔を振り払うかのように命を削って今、現れた。――…
―その名は斬鬼―
「さあ行くぜ。チンタラやってたら時間がもったいねぇからな。」
地に雄雄しく突き刺さっていた音撃真弦・烈斬を思いっきり引き抜く。
剣撃状態の烈斬を振りかぶりながら真紅双眼の化け物へ駆けた。
見ているだけで相当な使い手だと分かる。
一筋縄ではいかない相手。だからこそ、俺が全身全霊を込めて戦わねばならない。
だが風を切り裂きながら烈斬を振るう俺の一撃を次々に回避している。
なんて奴だ…!いくらロートルとはいえ、まだまだやれる筈だった。
最早、反射神経が良いなんてもんじゃない。見切っている。
つい今しがた対峙した俺の一撃を、だ。
信じられねぇ…。
相手目掛けて思いっきり振り下ろした一撃も空を斬り、ただ砂を散らせただけだった。
瞬時に回避し、身体を反転させて後ろを回り込もうとした瞬間、何かを引き抜くような
音が耳に飛び込んできた。
―…何だ!?
何かしたのは間違いない。後ろを振り向こうとそいた瞬間、横腹を抉るような強烈な蹴り。
成す術も無く弾き飛ばされた。
そして眼に入ってきたのはカード状の何かを鉤にセットしている姿。
―ADVENT―
次の瞬間には聞き慣れない電子音声、そして現れたのは巨大な黒龍。
こいつはヤバ過ぎるぜ…!事態の重大さを嫌でも悟る。
しかし未だに視認出来る位置に兄ちゃんと壌ちゃんは居た。
馬鹿野郎がッ!何をボッとしてやがる!!
「馬鹿野郎!早く逃げろ!!」
死にたいのか!…そう言う前に獰猛な黒龍は化け物を幾重にも旋回し此方へ突撃してきた。
横目で兄ちゃん達を見たが、居ない。
どうやら逃げ遂せたようだ。
―…それで良い。犬死にだけは御免だぜ。
「―…斬鬼を…舐めるなァッ!!!」
気合一閃、叫びながら烈斬を構える。今の咆哮、兄ちゃん達にも聞こえただろうか。
俺の晴れ舞台は相棒さえ居れば良い。
だから、せめて勇敢に戦って散ったオッサンが居たことぐらい忘れないでくれよ。
思えば幸せな人生だった。
鬼として己を磨き、沢山の仲間に恵まれ、弟子を送り出すことも出来た。
最後まで戦いに身を投じ、全力で余生を駆けた。
この身体に掬う悪魔に殺されるのだけは御免だった。
―…だから、この身体に眠っている朽ちた鬼としての力を奴にぶつける。
死をあっさり受け入れるほど、俺は諦めが良くないんでね。
「くらえ!俺の…最期の力だッ!!」
向かってくる龍の腹に烈斬の鋸を突き刺し、奴を必死に支えている烈斬に斬撤を取り付けた。
喰らいな!その漆黒を白に彩るが如く、清めてやるぜ!!
声高らかに叫ぶ。
「音撃斬・雷電斬震!!!」
烈斬の弦を激しく掻き鳴らしながら清めの音を流し込む。
振動が辺りを包み、黒龍を内部から致命的なダメージが襲う。
幾らの時が流れただろうか。ただひたすらに弦を弾き、一心不乱に音を流し込む。
龍の悲鳴にも似た泣き声が烈斬の旋律に呼応するように響き渡った。
―…勝てるッ!!
この勢いなら倒せるかもしれない。そう脳裏に微かな希望が過ぎった時、
彼の身に降りかかったのは絶望的な不運。
膝に激痛が走った。彼の身に掬う悪魔はこんな時にも絶望を運んできたのだ。
「ぐあああッ!!」
思わず肩膝を付き、演奏は中断される。
そう、大きな隙が生じた。
勝利を目前にしたその時、彼の運命は尽きる。
奴はこの隙を逃しはしないだろう。
「へッ…ここまでか。」
相手に背を向けたまま、ゆっくりと瞳を閉じる。
此方へ近づいてくる足音は己の直ぐ後ろで止まった。
―SWORD VENT―
その電子音声と共に遣って来たのは胸を貫く一撃。
―――後は頼んだぜ。ヒビキ、サバキ―…。
そこで彼の思考は中断された。
浜辺には一人の男の亡骸だけが残されている。
激闘を繰り広げた漆黒の騎士の姿は何処にも無かった。
やがて、何処か満足げに微笑む男の亡骸を波がゆっくりと攫っていく。
かつての闘いの面影はそこには無い。
ただ美しい水面だけが鮮やかな光を放っているだけであった。
【財津原蔵王丸 死亡】
残り49人
【氷川誠@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:採掘場G-10エリア】
[時間軸]:最終話近辺
[状態]:背中に裂傷。精神的に疲労。
[装備]:拳銃・手錠等の警察装備一式(但し無線は使えず)
[道具]:ワーム感知ネックレス@仮面ライダーカブト
[思考・状況]
1:此処から脱出する。
2:少女の保護。
3:
小沢澄子、津上翔一との合流。
4:人間の強さに微妙な不信。
5:助けに入った男が心配。
【日下部ひより@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:採掘場G-10エリア】
[時間軸]: 本編中盤 シシーラワーム覚醒後。
[状態]:健康。
[装備]:未確認。
[道具]:未確認。
[思考・状況]
1:まずはこの状況から脱出する。ワームになるのも厭わない。
2:取り敢えず警官に付いて行く。
3:天道……あいつなら、どうする?
4:助けに入った男が心配。
【
リュウガ@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:不明。】
[時間軸]: 劇場版登場時期。
[状態]:不明。
[装備]:不明。
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:もう一人の自分と融合し、最強のライダーになる。
2:殺戮を繰り返す。
※リュウガは特定の場所から移動せず、砂浜のエリア一帯から離れていません。
いつ出現させるかは皆さんにお任せします。
最終更新:2018年03月22日 17:12