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7th War


「おい……水あるか?」
「ねぇよ。とっくに飲んじまった」
「そうか……。今どこか解るか?」
「さぁな。えらい南の方まで来たってのはわかるけど」

 ミハイルイェンスは砂漠を歩いていた。もうどれだけ歩いたのか解らない。イェンスの能力ならば解るかもしれないが、極限の疲労によってサイキックを発動させる程の集中力を発揮出来る状態ではない。

 二人は、死に近付いていた。

「もうダメだ。そこの岩陰で休もう」
「岩陰?ああ。あそこか。久々に日陰をみたぜ」

 二人は砂のに埋まった大きな岩の陰に潜り込んだ。よくみるとその岩は人工物だと解る。崩壊した建物の一部だろうか。砂に埋まっていたのが長い年月を経てその頭を出していた。

「おいミハイル、どこまで続くんだこの砂漠はよ……」
「愚痴るなよ。うまく行ってりゃもうユーフラテス川についててもおかしくないはずだよ」
「うまくって……。砂漠越える為の水も食い物もねぇんだぞ。計画倒れもいいとこだぜミハイル」
「だから愚痴るなよ。まさかオアシスが一つも無いなんて想像もしていなかったからさ」
「……ったくよぉ」

 外よりマシとはいえ、日陰の中ですら相当な気温だった。唇はかさかさに渇いている。唾液すらうまく出て来なかった。ミハイルは砂の中の小石を広っては投げ、やり場の無い苛立ちを発散していた。
 どさり と、突然イェンスが寄り掛かってくる。
 ふざけているのか何なのかは解らないが、苛立ちはさらに募る。

「おいふざけるなよ。俺にその趣味は――」

 ミハイルは言葉を途切れさせた。
 イェンスはふざけていたのでは無い。失神したのだ。

「……おい! しっかりしろ!」

 ミハイルの言葉はおそらく届いて居ないだろう。
 胸倉を掴み頬を叩いてみる。が、それによってミハイルは自分達の状態がいかに危険かを悟る事になった。
 水気が全くないのだ。
 まるでこの砂漠のように乾き、ひび割れている。

 自分の頬も触ってみるが、イェンスと同じだった。
 ミハイルは驚き立ち上がる。しかし、立ちくらみが起きてその場へ倒れてしまう。
 本当に限界だった。一度座ったら最後、二度と立ち上がれないほどに。
 やがて意識が混濁していく。瞼が重くなりはじめる。

「………せ…。だれか…お…て…!」

 幻聴が聞こえる。小さい少年の声だ。必死に誰かを呼んでいる。
 幻まで見えてくる。声の主の少年と、砂漠特有の衣装を来た中年の男性だ。アラブ系だろうか?

「せん……! はや…!」

 声はより近くで聞こえるようになった。幻の少年と男性はミハイルのすぐ近くに居る。こっちの顔を覗いている。
 意識はさらに遠退く。男性が何か話しかけたが、もはや聞こえなかった。ミハイルは、そのまま気を失ってしまった。

「先生! 大丈夫なのこの人達!ねぇ!」
「落ち着きなさいアリーア。……ふむ。 よっぽど水を飲んでいないんだね。私たちのキャンプへ運ぼう。ラクダを連れてきなさいアリーア」
「はい先生!」

 先生と呼ばれた男性とアリーアと呼ばれた少年は二人をラクダの背に乗せ、自分達のテントへと運搬する。彼らはどれほど遠くから来たのだろうか? この辺りで白人を見るのは随分と久しぶりの事だった。


 日が暮れ、周囲は闇に包まれた。
 遮蔽物が何も無い砂漠の真ん中の空には無数の星々が輝いている。流れる川にはそれらが映し出され、流れと共に揺らめいていた。
 そのほとりにある一つのテントの横で、星々とは別の明かりが点っている。パチパチと音を鳴らしながら、焚火の明かりはぼんやりとオレンジ色の光を優しく周囲に放っていた。
 ミハイルは突然パッチリと目を醒ます。
 身体はまだ全快とは程遠いが、脳は今までに無い程冴え渡っていた。
 横を見るとイェンスがいびきをかいて眠っている。そのさらに横には本を読むアラブ系の男性と、その男性の膝を枕に眠る少年の姿が見えた。
 男性はミハイルの視線に気付き、本を閉じて話しかける。

「目が醒めたかね? お友達の方は一足先に目が覚めて腹拵えを済ませたよ。君もどうかね?」
「……? あなたが助けてくれたのですか?」
「私はイーサ。もっとも名前より先生と呼ばれる事のほうが多いがね。この子はアリーアだ」
「僕は、ミハイルです。この横で寝てるのはイェンス……。あ、先に起きたのなら聞いていたかも」
「ああ。よろしく。ミハイル君」
「あの……。ありがとうございます。助けて頂いて。正直死にかけていた」
「全くだよミハイル君。もう少しでミイラか砂蜘蛛のエサになっていたかもしれないんだよ?」

 イーサは焚火の炎で煮込んだスープを皿に盛りながらそう言った。それをミハイルに差し出し、彼は一言礼を言ってそれを受け取る。具材は干肉とナス。それに豆が入った、スパイスの効いた辛いスープだった。
 一口で全身にエネルギーが染み渡るような感覚を覚え、シンプルながらも旨さが溢れるその味に夢中になって食らい付いてしまった。
 イーサはそれをニコニコしながら眺めている。ミハイルはそれに気付き、恥ずかしそうに食べるペースを落とす。

「すみません……。その……。腹が減ってたもので」
「気にしなくていいんだよ。さぁ遠慮せず食べなさい。まだたくさんある。パンもあるぞ」

 イーサは大きくて平らな、醗酵させずに焼いたパンをミハイルに渡した。

「所で君達、どうしてこんな所まで?」
「それは……」

 ミハイルは口ごもる。が、それは無意味だった。

「共和国軍の探索隊かね?『ソドムの火』を探して……」
「なっ……! なぜその名前を!?」
「ふむ……。探し物はやはりそれか。申し訳無いが、気を失っている間にサイコメトリーさせて貰った。あいにく完全には読み取れなかったがね」
「サイコメトリー? ……それがあなたの?」
「そう。私の昼の能力だ。夜の力は発動しないがね」
「隠すだけ無駄……って事ですか」

「出来れば直接聞きたいね。昼間しかサイコメトリーは使えないが、あいにく昼間はそれが大きく制限されてしまう」
「……どういう事です?」

 イーサは膝の上で眠るアリーアの頭を撫でながら言う。

「アリーアだよ。この子の昼の能力は、『周りに居るサイキックの能力を著しく制限』する能力だ。それも無差別に、意思とは関係なくね。集中すれば一人か二人くらいは外せるが、子供には負担が大きいからね」
「じゃあ夜は……」
「昼の反対。サイキックの能力を極限まで引き出してしまう。眠っていてもね」

 なるほど。とミハイルは思う。先程目が醒めた時、肉体のダメージは極限だった。本来ならばとても目が醒める状態ではない。醒めたとしても、頭が冴え渡るなど有り得ない体調だった。
 イーサはさらに言う。

「君の能力も少し読ませて貰った。夜、眠らない能力。アリーアのおかげで今は頭がスッキリしているはずだ」
「ええ」
「では……。教えてくれるかね?『ソドムの火』を探す理由を」

 どうすべきかミハイルは悩む。しかし、イーサがサイコメトリー能力を持つというならば、どこかで『記録』を読んでいるかも知れない。
 ミハイルはイーサの顔を見る。そして、覚悟を決め語り出した。

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最終更新:2010年07月16日 19:05
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