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禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ > 2


無機質な廊下に音が響く。
それは二人の足音。一人はまだ若い。外見だけなら10代後半と言っても通じそうな青年だった。
黒髪を短く切りそろえ、全体的にがっちりとした体格は溌剌とした雰囲気を纏っている。
その青年は、隣で歩く男に顔だけを向ける。。

「本当に私でいいのですか? 4班の新しい隊長に?」

話しかけられた男は40台、白髪混じりの黒髪。ひげを薄くはやし、歴戦の猛者を思わせる風格の男。
その男はその風格に似合わず優しい笑みを浮かべる。

「ええ、もちろんですとも、ザイヤバフ課は実力主義ですから。年齢なんて関係ありません。
他の隊長格や、上にも許可が下りましたし、なにより我々4班がそれを望んでいます」

答えにザイヤと呼ばれた男は、口元を引き締める。

「それは、私が父の息子であるからですか? エンツァ

その問いにエンツァと呼ばれた40代の古株の男はすぐに首を横に振った。

「いいえ。もし、ザイヤがラレンツァの息子であるだけなら、むしろバフ課から遠ざけたでしょう。
ザイヤ、君には隊長としての資質がある。少なくとも私はそう見ているのです」

その答えにザイヤは初めて口を軽く曲げた。それは緊張を緩めるときのザイヤの癖。

「なら、その期待に私は答えなくてはならないですね」

エンツァは軽く笑いながら、ザイヤの肩に手を掛ける。

「ええ、そうです。とはいえ、今は隊長といっても仮免みたいなものです。気楽にやるのがよろしかろうと」
「まったく、その通りだな。外部から隊長付きのお目付け役を派遣されるとは思わなかった。
 普通、こういう事はないのだろう?」

ザイヤの疑問にエンツァは首を縦に振る。

「ええ、あくまでこれは例外事項です。ですがそれも仕方ないでしょう。
始めての仕事がラレンツァ、君の父を殺した女性の捕獲、もしくは殺害なのですから」
「……そうだな」

そして二人は立ち止まる。二人の前には一枚の扉が立ちふさがっていた。

「ま、それは好機と捉えよう。ここで成果を上げられれば周りもある程度認めるだろう。
……さて、そのお目付け役がどんな人か、楽しみだ」

そうザイヤは軽口を叩くと、会議室への扉をノックし、ゆっくりと開けた。


+ + +


「あー、幸せねぇ。このチョコレートパフェ最高よねぇ」

程良い甘みのクリームにチョコレートの苦みがちょうどいい刺激になる。
フルーツもオレンジやストロベリー、メロン等々、大量に盛りつけられ、
その女性、狭霧アヤメは一口ごとに感動の声を出しながらも黙々と食べていた。

ここは、ごく普通のデパートの中にあるレストラン。
癒し系なウェイトレスさんが極一部で有名な店であった。

そんなレストランで、ゆっくりデザートを頬張りつつアヤメは何をするでもなく時間を潰す。
ふと視線をデザートからずらすと、オヤジが一人「ごちそう様」と言いながら出ていくのが見えた。

「んー。あのオヤジはアレの存在に気付いたのかしらねぇ」

アヤメはポツリと呟きながら、メロンを一口。
ジュワっと広がる甘みを堪能しながらゆっくり過ごす。

「んー、そうするとあのキメラみたいなのも動くの時間の問題かしらねぇ」

ここでこれから起きる惨劇、それを把握しながらも、アヤメはただ、ゆっくりと食事をする。

今度はオレンジを一口。
「あー、おいしー。このお店はまだまだ続けて欲しいわよねぇ。私のために」

そう、呟きながら、アヤメはデザートを堪能していた。


+ + +


「失礼します」

一言断ってから会議室へと入る。
そこには一人の少年が座っていた。
年は10歳位だろうか。机の上で両脚をブラブラさせながら座っていた。
目の前の少年の姿に二人は一瞬立ち止まる。
しかし、ザイヤは一呼吸を置くと、少年に向けて語り掛けた。

「……失礼、あなたが加藤陸さんですね。始めまして、私は4班の隊長の就任したザイヤです」

ザイヤの礼儀正しい動作に少年は不思議そうな顔を浮かべる。

「……?」

本当によくわかってない顔をする少年。しかしザイヤは動揺しない。

「一応、私を試しているのでしょう? そこまでの敵意を先ほどからぶつけられては、いくら私でも気づきます」
「……なるほどなるほど」

少年は不思議そうな顔から一転、意地悪そうな顔つきになり、笑った。
その笑顔は外見相応の無邪気な笑顔に見えるが、ザイヤには裏に隠れた何かに思わず身構える。
だが、少年はザイヤの挙動に一切気付かないようにふるまった。

「はははっ。それだけ分かれば十分合格さ。これから2週間、君の補佐をすることになった加藤陸だ。
ピーターパンと呼んでくれても構わないぞ」

そして、陸はとんっと机から跳び下りると、ザイヤに近づく。
ザイヤの方も警戒を解き、頷くと、右手を差し出した。

「分かりました、陸さん。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。この仕事で俺のような零細企業にはかなりの高額の金が振り込まれる予定だからな。
こちらとしても助かるよ。社員4人……あ、一人はバイトみたいなものだから3人か。
これで食いっぱぐれないですむ」

そう言って、陸もザイヤの手を握り返した。

「さて、ではさっそくミーティングを始めましょう」

エンツァは何事もなかったかの様に、そう言いながら会議室にある黒板に向かう。
エンツァ自身は陸とはすでに知り合いだった。故に、特に驚きもせず黒板へと文字を書き込む。

「今回の目標は狭霧アヤメの捕獲、捕獲不可能な場合は殺害です。
しかも条件があり、夜限定で行動し、昼は捕獲に動いてはならないとか」

エンツァはそう言いながら、書き出していく。
ザイヤは頷き、話し始める。

「私が独自に調べて所では、政府や、他の権力者から圧力がかかっている事がわかりました。
昼は戦ってはならないと。……これはどういうことでしょうか」

あくまで昼のみ戦闘禁止。夜なら殺害の許可すら下りる。その矛盾についてザイヤは疑問に思う。

「さて、そこら辺は私にもさっぱりで。能力もいまだに分からない強力な夜の能力を有する相手に夜限定とは。
昼の方が与しやすい相手かもしれぬのに」

エンツァもその事は疑問に思っていたが、答えは見いだせなかったようだった。
しかしその時、最後の一人が口を開く。

「ああ、それなら、狭霧アヤメの経歴をたどれば分かるだろう。
……これだ、ザイヤ読んでみろ。おっと、それを読んだらすぐ燃やせよな。一応機密文書だ」

そう言って、陸は紙束を放りだす。ザイヤは何気なく受けとり、目に入った一文で全てを悟る。

"彼女の昼の能力――発現当時、単純に『死者蘇生能力』と言われ、現時点では『闇の軍勢』と呼ばれる能力は、
彼女が10代半ばの時、多くの権力者の怪我や病気を直し、そして命を救った。
だが、一方で後に判明したその能力の副作用により、彼女の能力は強大になりすぎた。
故に、昼に彼女を攻撃することはできない。戦闘の結果により政局が混乱する可能性がある"



+ + +


狭霧アヤメは鼻歌を歌いながら次の料理を待っている。
たのんだ料理はただのラーメン。パフェの後に頼んでる辺り彼女の感性がどうなっているか微妙である。
そんな彼女はしばらく雑誌を読みながら待っていたが、何気ない動作で立ちあがり、扉の方へ近づいていく。

その様子を見てお店のウェイトレスである春日居美柑は、不思議そうに視線だけで女性の姿を追った。

扉まであと一歩の距離でアヤメが立ち止まる。

瞬間――扉のガラスが甲高い音をがなり立てながら割れ、外から何かが跳びこんできた。
大型犬タイプのキメラが五体、皮膚は爛れ、赤黒い筋肉を空気にさらしながら、しかしその動きは動物として見ても、
異常なほどの速さと筋力を持っている。

その物体が入った瞬間、店の中がパニックになる。
大声を上げながら逃げだそうとする男性。
厨房の方に逃げようとする女性。
ただ、それを見た瞬間固まったかのように動けなくなったウェイトレス、美柑の姿もある。

だが、アヤメは周りの状況を気にしない。一瞬の躊躇もなく軍用ナイフを抜き放つ。

「なるほど、稼働時間を犠牲するかわりに動作性能を上げたタイプねぇ。
どっかの戦争好きにでも売込むのかしらねぇ。こういうのは」

あまり興味なさそうに呟くアヤメ。
そのアヤメにキメラのうち一匹が狙いを定めると一気に跳びかかる。
残像が残るような速さ。だが目標地点にはアヤメの姿はなく、
"空中に"置かれるように軍用ナイフがそこに固定されている。

キメラは自らの速さでナイフに激突し、口から体をナイフが通りぬけ、文字通り二枚に割断された。

「まずは一匹目……と」

周りでは店の客にめがけ、他のキメラが跳びかかっている。
慌てて逃げる客達、男が一人キメラに捕まり、右腕は半ばまでなくなり、左足も血だらけのまま転がった。

「ぎゃあああぁあぁああああ!!!!」

男の悲鳴が響き渡る。その声に反応したのは美柑だった。すぐに男性近づき、その傷を抑えようをする。
しかし、そんな程度では到底止血できるわけもなく、彼女の服にも血が付着し赤く染めていく。

「しっかり! しっかりしてください!!」

だが、男は我を失い暴れる。余計に出血が増していく。
その様子をアヤメはみて、不快そうに鼻を鳴らす。

「むー、うるさいわねぇ」

そして、アヤメはナイフを取り出すと、あっさり男の心臓に突き立てた。
一瞬で絶命する男を目の前に茫然とする美柑。
しかし、アヤメは茫然とする美柑の事など気にすることもなく、残りのキメラを見る。

「ひーふーみー、面倒ねぇ。一気にやっちゃうかなぁ」

そして、パチンと音がなる。キメラの頭上から一つずつ、ある物体が現れた。

それは鉄の塊だった。人間では到底持ちあげられない重量物。
運動場の整地に使うその重量物――コンダラが一瞬にして創られる。
キメラを覆うほどの大きさのコンダラは出現した瞬間落下した。
その重量を持って一気にキメラを押しつぶす。反応できなかった四匹はあっさり潰れて見えなくなった。

「これで終わりっと。やっぱこの程度では歯ごたえないわねぇ
……あ、リンクが切れた。この能力結構気に入ってたんだけどねぇ。死んじゃったらしょうがないか」

そう言いながらアヤメは再び席につく。
そして、男の血にまみれ、赤黒い服になってしまっている美柑の方を向いた。

「料理まだ?」
「……え、えっと」

余りにも自然体なアヤメに美柑は声を出せない。
むせ返る様な血の臭いのなか、異常な状況に頭が追いついていかない。
そして、傍にいる、死んだはずの男の方に目をやると、そこには不思議そうに自らの体を見回す男性がいた。
完全に修復されている。どこにも傷一つなく生きている。

「料理ー」
「は、はい! 分かりました!」

美柑は混乱する頭のまま、厨房へと入って行った。
とりあえず動くことにした。それ以外は考えないようにして。

アヤメはそれを確認すると、今度は外に目を向ける。

「あ、バフ課も来ているみたいねぇ。今、バフ課と戦ってもいいけど、それよりラーメンの方が大事だものねぇ」

そう呟くと、アヤメは雑誌を取り出し、読む態勢になった。
今、彼女はこれ以上自分から動くつもりはない。

ただ、料理ができるのを待っていた。



+ + +



「『闇の軍勢』……ですか。死者蘇生でも驚きですが、なぜ呼び方を変える必要があるのですか?」

ザイヤの質問に陸は頷く。

「問題点は二つ、一つは生き返った人間に対し、彼女は命令することができる。その命令は絶対だ。
二つ目、生き返った人間の昼の能力を借りて、まるで自分の能力のように使用することができる。
これでわかるだろう。昼に行動を起こせない理由が」

陸の言葉にザイヤは頷く。

「そうですね。これでは政府高官が昼の間、人質に取られているのと同じです。
また、生き返った人間は昼間戦闘になり、自分の能力を使われることを恐れている。
能力発動主体はあくまで能力を持つ側、故にリバウンドで死ぬ可能性があると言うことですね」

「そういうことだ。だから、私たちが行動するときも、行動の基本は夜になる。いいな」
「わかりました。ではそのように行動しましょう」

そう言って、ザイヤは狭霧アヤメに関するレポートを燃やしていく。

「ではこれからよろしく。狭霧アヤメの捕獲を最優先に行動します」


――あくまで"捕獲"。決して父の復讐には走らない。そのザイヤの宣言は一種の決意表明でもあった。

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最終更新:2010年08月09日 19:15
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