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禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ > 8




無機質な廊下に音が響く。
それは二人の足音。一人はまだ若い。外見だけなら10代後半と言っても通じそうな青年だった。
黒髪を短く切りそろえ、全体的にがっちりとした体格は溌剌とした雰囲気を纏っている。
体中至る所に包帯を巻いているが、彼はまだ軽傷な方である。
その青年――ザイヤは、隣で歩く男に顔だけを向ける。

「これで、私が正式に隊長になった訳ですね。いまいち実感が湧きませんが。
 実際狭霧アヤメは取り逃したのに……」

話しかけられた男は40台、白髪混じりの黒髪。ひげを薄くはやし、歴戦の猛者を思わせる風格の男。
その男はその風格に似合わず優しい笑みを浮かべる。
ただし、胸には包帯が何重にも巻かれ、本来ならまだ病院で寝ているはずの傷を負っていたが、
彼の態度は変わらない。

「隊員全員の希望、ピーターパンの推薦、それにシルスク隊長やラツィーム隊長も後押ししてくれました。
これで決まらなければその方がどうかしています。それに狭霧アヤメを捕まえる機会はまだあります。
そのときにザイヤ隊長の力は絶対に必要です」

そう言い切り、エンツァは歩く。二人が向かうのは4班全員が集まるオフィス。
重傷者多数なはずなのだが、なぜか誰一人と休まずそこに集っていた。

「エンツァ、傷はいいのか?」

そのことを不審に思い、まずは隣にいるエンツァに尋ねてみる。
そのエンツァは首を横に振った。

「何、心配には及びません。戦闘後の恒例をやらなければ何のために4班に配属されたのか分かりませんからな」

はっはっはっと笑うエンツァにザイヤは肩を落とすようにため息を吐く。

「……やはり、あれをやるのですか?」
「当然です。これこそが4班で戦う意義といっても過言ではありませんからな。
戦闘前のあの演説も魂にきましたぞ。今から行うことも期待しておりますからな」

そう言ってエンツァは顔をオフィスに向ける。ザイヤもつられて同じ方向に向ける。
そこからは騒がしい声が聞こえていた。


「うう~。筋肉痛が~。筋肉痛が痛いよぅ~。一歩動くたびに死ぬほど痛いよ~」
「なら休めば良かったじゃないか」
「あんたみたいに指数本切り取られて、縫合したばっかなのに出てくる奴に言われたくないわよ!」
「鍛え方が足りんな! 吾輩のように右腕一本複雑骨折程度で済ますように鍛えんとな!」
「……それ……十分重症……だと思うよ……」
「リネも休んだ方が良かったんじゃ。あんだけ爆弾喰らったら、いくらあんたの能力でも辛いでしょ」
「うん……全身の骨に罅入ってるって……恒例が終わったら……入院予定」
「そんな状態でくんなよ!……ってあたたた!!」
「頭蓋骨骨折してる……奴にはいわれたくない……」
「ま~ま~、いや~なにせ新隊長による終わりの大演説、出ない方が損でしょ~!」
「当然だな。例えこの腕は潰れようとも参加する!」
「……いゃぇ~は~……」


オフィスから聞こえてくる声にザイヤは冷や汗を掻きつつ、隣のエンツァを見る。
だが、そのエンツァの顔もまた、満面の笑顔で、

「さあ、隊員全員が首を長くして待ってますぞ」

と言い放つ。

……これだからバフ課の通称がバ課と言われるのだよなぁ

ザイヤはそんな事を思いつつもオフィスをくぐる。

そこには昨日の一夜を共に過ごした隊員たちがいた。
全員が期待の目でザイヤの事を見つめている。
命を掛けて共に戦った戦友がここにいた。

そのことにザイヤは想いを深くする。

……とはいえ、結局私もこのノリが好きなんだよなぁ

その気持ちを元にザイヤは覚悟を決めた。

「諸君――良くやった!!」

バフ課隊員全員参加(重傷者含む)のバフ課4班オフィス恒例、大演説が始まった……。



 +         +         +


能力が切り替わる瞬間、そのときまで自身の能力使用を続ける男がいた。
青い霧が充満し、その中には女性の死体がひとつ。
その静かに過ぎる時は、能力が切り替わった瞬間終わりを告げた。

「……まいったな。あれだけ危険を冒したのに何もなしかよ」

その瞬間、死体――狭霧アヤメの元肉体が消え去っていた。
結果に風魔ホーローは脱力するように椅子に座る。

ホーローへ、後ろから、声が掛けられる。

「あの状況でどうやって能力を使用したのかしらね」
リンドウ、俺が分かるわけないだろ。俺の能力は使用し続けていたしな。
こうなると、狭霧アヤメには俺の能力が効かないってことなのかもな」

ぼやくようにいうホーローに、リンドウは肩に手を掛ける。

「……可能性としてはありうるかもしれないけれどね。
そこまで弱くはないはずよ。ヨシユキの能力はね」

リンドウも悩むように答えるが、さらにその二人に声を掛ける姿があった。

「イや、ミすタァー風魔の能力は効いてイたと思いマス」

独特なテンションの声に二人は振り返る。
陰湿な表情のまま、コートを羽織る男がいた。

フェイブ・オブ・グール、それならなぜアヤメは能力を使用できた?」
「ナに、簡単ナ話シです。……そうデスね。ミすタァー風魔はドコでドウやって能力を使用シテいると思いマスか?」

話が跳んだ。そう認識しながらもホーローは問いに律義に答える。

「そりゃ、能力を使おうと思って使うんだから、脳じゃないのか?」
「チェンジリングの日落ちた隕石に付着していた細菌が原因とも言われているわね。
使用者の意識を、無意識を感じとり、その細菌が実際の現象を起こすとも」
「もしくは脳の異常発達による新たな力の獲得、それがバフやらエグザと呼ばれている、って話もあるな」

ホーローの答えに続き、リンドウもそれに答える。
その答えにフォグはにやりと笑う。

「確カにそうイウ回答もアリますネ。もっとも今現在二おいテは、実際にはワカラないが回答デス」
「おい、それじゃ質問の意味がないだろう……が?」

ホーローの最後の語尾が疑問系に持ちあがる。
そう、分からないのである。色々な説があってもそこには必ずあやふやな部分がある。
それは、能力発動のメカニズムが個人個人で大きく違っていることが大きい。
誰かにはその理論が当てはまったとしても、他の誰かには当てはまらない。
そうした矛盾が能力においては起こっている。

それは当然、狭霧アヤメにも適応されるもので、

「そうね……分からない理由。少なくとも狭霧アヤメの能力発動には肉体は関係していない」
「そうイウことです」

彼女の場合、リンドウやホーローが答えた事例には当てはまることはない。


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「では狭霧アヤメの能力において、発動する基礎部分はどこかという話になるな」

──とある研究所にて。

研究所の所長である比留間博士はパソコンの前に座っていた。

まだ、朝と呼ばれる時間に満たない時、すでに彼は仕事に取り掛かっていた。

今朝方届けられた“能力鎮静剤”の使用レポートを確認しながらコーヒーを飲む。

サンプル提供者からの素早い情報提供、その結果は比留間博士を動かさせるには十分だった。


――“能力鎮静剤”被験者、狭霧アヤメにはこの効果を得られなかった。

確かにこの薬剤はまだ、サンプル段階で完成には至っていない。
だが、それでもほぼ完成品と言う段階には至っているそれの効果がないという理由を考えるために、
狭霧アヤメの能力を再考察する。

いや、それはすでに答えが出ているそれを、もう一度確かめるための作業に過ぎない。

「なるほど。少なくとも狭霧アヤメの能力は肉体は使用していない。能力発動を行う部位があるとすれば、それは“魂”だな」

狭霧アヤメは死んだ後に能力を発現させるタイプである。それは例え肉体を消滅されてすら発動する。
肉体活動が一切ない状態での能力発現、それは、彼女が能力の使用に肉体を使用していない事を意味している。

そして“魂”という言葉。

一見、科学者が呟く言葉としては、ある意味科学を否定する言葉。
しかし、この世界の一部の科学者にとっては、すでに魂の存在は立証されていると同然だった。

比留間は一つのファイルを取り出す。

川端輪――“死者の未練の塊である幽霊の姿を見、声を聞くことができる”能力か」

能力者の中には彼女のように魂を見る、聞く等の能力を有する者もいる。
本来認知することのできない者を認知する能力者の存在。それが、魂の実在を証明していた。
そして、もう一つ重要な事実もあった。

川端廻――魂の存在になりながら輪の中で生きる者。魂が能力を使用する部位となっているもう一人の人間か」

もう一人の実例、それが川端廻である。
彼は、川端輪の肉体を借りつつ、“自らが持つ能力”を使用する。

「つまり、能力の使用するための基礎部位が魂である人間、そういった種類の能力者がいるのは間違いない。
それゆえ、今の“能力鎮静剤”があくまで生きている肉体でのみに効果がある以上、
死んだ後までは薬の効果は意味をなさなくなる、か……。
つまり少なくとも狭霧アヤメ自身の能力を抑えるには、魂に干渉する必要があるわけだな」

比留間は次の目標を見据え、薄く微笑んだ。

「なるほど、高い壁だ。だが能力を通し魂がこちらに干渉できる以上、こちらから魂に干渉することも可能なはずだ」


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「なるほど……魂か。余り信じたくはないが、そういうことか」
「つまり、狭霧アヤメは死んだ後、“魂の状態”で歩いてヨシユキの能力範囲外に出たというわけね。
その状態で能力を使用した。それで彼女の体の再構築は終了。
ただし、狭霧アヤメの元の肉体はここに残っていたため、消えなかった。これはヨシユキの能力が彼女にも効果がある証拠。
能力自体は発済だからこそ、ヨシユキの能力が切り替わった直後に肉体が消えた、と……いやに単純ね」

「だケど、ソレだけに対処ハ不可能だネ」

リンドウの解説に頷きつつ、べっとりと張りつくような笑みを浮かべ、フォグは嗤う。

「つまり、始めからこの作戦は破綻していた訳だ」

それまでの話しを聞いたホーローの疲れきったような声に、リンドウは労わるように声を掛ける。

「そうね、ヨシユキ。今日はもう休んでいなさいよ。流石に連続使用はきついでしょう」
「ああ、そうさせてもらう。じゃな、リンドウ。夕方には一緒に食事でもしようか」
「ええ、ヨシユキ。いつものレストランでね」

ヨシユキが去り、残った二人も歩きだす。
結局の所、彼らにとっても一つの仕事が失敗に終わっただけに過ぎない。
まだ、やることは沢山あるのだから。


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「いらっしゃいませ~」

――とある日

ここは、ごく普通のデパートの中にあるレストラン。
癒し系なウェイトレスさんが極一部で有名な店であった。
デパートで起こった“事故”のためしばらく閉店していたレストランであるが、
癒し系ウェイトレスの復帰に伴い、新装開店の運びになった。

そんな、癒し系ウェイトレスである春日居美柑は繁盛する店で忙しそうにくるくると働いている。

「はい、3500円になります~」
「はい、どうぞ。あんなことがあったからどうなるかと思ったけど、無事再開して良かったわねぇ」
「ええ、本当に、私もそう思います」

美柑はお代を受け取りつつ、その女性に答えた。
その金髪の美女は極上の笑みを浮かべながら、お釣りを受け取る。

「それじゃあねぇ。また、来るわねぇ」
「はい! ありがとうございました~。またどうぞ!」

そして、その女性が去った後、美柑はふと思う。

「……あれ? あの人、どっかで見た気がするけど……だれだったかな?」

それは、バフ課によって美柑に施された記憶処理の結果だとは当然気付くこともなく、
春日居美柑はその女性について深く考えることは止めた。

そう、まだまだ、昼は忙しいのだから。




そうして再び平穏な日々が紡がれる。

裏には様々な非日常が流れつつ――

それでも多くの人の努力によって平穏は形作られている――

登場キャラクター



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最終更新:2010年10月03日 15:40
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