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禁じられたアソビ、壊れたヒトガタ > 6


夜闇に覆われ、静まる場所。
付近一帯がチェンジリングデイを境に破壊しつくされ、廃墟のビル群と化した場所。
人がほとんど近づかなくなったエリア。
そこに、今、バフ課と呼ばれる人間たちが集まっていた。

すべては、たった一人の災害を捕えるため、4班の全隊員が集合していた。
ある者は緊張を露わにし、ある者は興奮の余り顔を紅潮させている。
ただ、そこに立つ者全員に共通する感情。言い知れぬ不安を持っている。
無理もなかった、彼らは一度、その災害に負けているのだから。

そんな中、隊員たちの中心に経つのはザイヤ
若き隊長として、彼はそこに立っている。
両腕を後ろで組み、毅然とした態度で中心にいる。

静かになった隊員達を、ザイヤは見回した。

「諸君、まずは礼を言う」

ザイヤは一礼をすると全員の視線を感じる。
その視線を真正面から受け止め、ザイヤは厳しい表情を崩さず語る。

「今から対峙する相手は一度は相対し、しかし敗走した化物だ」

ザイヤの言葉に、ある者は緊張を深くし、ある者は怒りを持って反応する。

「我々は、その戦闘において、多くのものを失った」

ある者は嘆きを表にだし、ある者は恐怖に身を竦ませる。

「今宵相対するは、我々に恐怖と屈辱を植え付けた化物だ」

一旦、ザイヤは言葉をきり、全員を見まわした。
そのそれぞれの表情を注意深く見回し、そして、腹の奥底から声を張り上げる。

「しかし! 今宵我々がすることは敗北ではない!
我々はその化物を屈服させ、これ以上の災害を起こさせないようにすることである!」

さらに、一拍置き、ザイヤの持つ最大声量で言葉をぶつけた。

「我々にはそれが可能である! その事に私は一片たりとも疑わない!
なぜならこの闘いに来たものは全て自らの意思で来たからだ!
その能力があると自負し、また、私もそうであると認識した者たちが集ったからだ!」

そこで、一呼吸置く。隊員は全て沈黙し、ザイヤの言葉を聞いている。

ザイヤは一変して静かな声で隊員たちに問いかけた。

「返事はどうした?」

「「「Yes,sir!!!」」」

その言葉は徐々に広がり、大きくなり、盛大な怒号になる。
その歓声をしばし聞き、ザイヤは再び口を開く。

「作戦は事前に伝えた通り。手筈通りに、機転を利かせ!」
「「「Yes,sir!!!」」」
「最後に命令だ!」

その言葉に一斉に静かになる。もう一度、ザイヤは全員の顔を見まわし、告げる。

「誰一人として死ぬな。……以上だ。各員配置につけ。パーティーの始まりだ!」

「「「Yes,sir!!!」」」

そして全員が動き出す。
適度緊張感と興奮を持った絶好の精神状態で災害、狭霧アヤメと対決するために動きだす。




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「中々良い演説だった」
ザイヤも配置に着くと、そこに待っていたのは一人の青年だった。
ザイヤは何も能力を使ってない状態で現れた陸を見る。
20代後半と思われる彼には思った以上に特徴がない。
ないが、今の彼を見て、今までとの差に薄く笑う。

「これも父親の受け売りです」
「だが、使いこなしている。それなら十分ザイヤの実力だ」

その言葉にザイヤは目を細め、陸を見る。

「……陸さんはその言葉の裏で何を考えているか分かりませんね。本当は私の補佐はついでなのでしょう?」
「おや、分かったか。それが分かれば上出来だ」
「奴らの情報を正確に掴んで入れば、そう思うのは当然でしょう?」
「ま、違いないな。ザイヤ、奴らも配置についているか?」

急に話を変えて陸はザイヤに一つ問う。その言葉にザイヤは頷き言葉をつなげる。

「ええ、あの組織も出てくるとは、やつらもアヤメを狙っているということですか……」
「そういうことだ。……さて、俺も行くぞ」

陸はそう言って、今回の作戦の配置につくためザイヤに背を向ける。
背を向けたまま、陸はザイヤに声だけを向けた。
「ザイヤ、お前は隊長として十分な資質を持っている。……だからこんな所で死ぬなよ」
「勿論です。頼まれても殺されはしませんよ」

陸はザイヤの言葉に頷くと、今度こそ歩き去る。

「さて、と、私も行きます」

ザイヤは闘いの舞台、その中心へと向かう。もう一人の中心人物を迎えるために。




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一人の足音が付近に響く。
その音は、廃墟にある広場に到着するとぴたりと止まった。
その音の正体は目の前の男、ザイヤに対し、微笑みかける。

「一応、始めましてかしら」

丁寧に一礼までしてから顔を上げるアヤメに対し、ザイヤは厳しい視線を崩さない。
体のラインがはっきりでる黒のチューブトップにフレアスカート。
およそ殺し合いを行うに相応しくないような格好のアヤメに対し、ザイヤは問う。

「よく、きたな」
「久しぶりのお呼ばれですもの。来ない理由がありませんわね。
たっぷりおめかしして来ましたわよ?」

アヤメは両手に軍用ナイフを持ちながら答える。
実に楽しそうに笑うアヤメはザイヤを見据え、重心を少しだけ前に持っていく。

「さ、始めましょうか。この楽しいパーティを……ね」
「……ああ、始めよう。アヤメ、お前を捕えるための闘いを……」

そして、始まった。
始まりの合図は数十発のライフルから響く音と、血煙りだった。




瞬間、ザイヤの視界が真っ赤に染まる。
アヤメの肉体が数十発のライフル弾により次々と貫かれ、体全体から血が噴き出している。
だが、ザイヤはその状況を間近で把握し、しかし、気を抜けない。
アヤメの能力を知っているがゆえに。

――ザイヤは自身の能力を発現する。

"電子の捜者"
それがザイヤの持つ夜の能力。最大半径1km以内の電子的エネルギーを読み取り、様々な情報を得る能力。
瞬間的にあらゆる電子情報がザイヤの中に収集される。
そこから導き出される未来。それを正確無比に構築する。

――読めた

「2・1・5!!」

ザイヤが発した言葉はたったそれだけ。
だが、その一言で戦場が動き出した。

一人の隊員の死角にアヤメは復活する。
同時にその体はナイフを突き刺すために動きだしている。

――甲高い音がそこに響く。

アヤメのナイフはその隊員に刺さらない。
薄い膜のような光に阻まれた。

その事実にアヤメは薄い笑みを浮かべ――再びライフルの一斉射撃が直撃し、四散した。


――だが、それでもアヤメは止まらない。

「4・0・9!」

再びザイヤの声が響く。
再び全く別の隊員の死角に復活し、再びその凶刃を振るう。
だが、それもまた光に阻まれた。

二度目の阻みにアヤメの笑みは深くなる。

三度、血色の霧が発生した。





「なるほど。防御に優れた能力者がいるわけねぇ。やっぱり準備は万端よねぇ」

今度はビルの谷間、多くの隊員からの射線が通らない位置に復活したアヤメは一人呟く。

「確か、前にもいた気がするわね。前はここまで有効的に使えてなかった事を考えると……
基本的には一人にしか使えない能力、しかも有効範囲は狭いって所ねぇ」


その能力の意味をアヤメは考える。

「なるほど、それなら相手がバラバラに位置している理由も分かるわねぇ。
誰が攻撃されるか、読みやすくするためかしら。
あのザイヤって人は私の出現位置を正確に把握しているみたいだし」

数秒の思案の後、アヤメは次の行動を決めた。

「……それじゃ、考えも纏まったことだし続きいきましょうか」

――そして再び銃弾を敢えて喰らうようにアヤメは動き、あっさりとアヤメは死んだ。



「1・1・2!」

ザイヤは再び言葉を続ける。
彼女の動きが変わらない。
少しの間、別のポイントに移動したことから、何か作戦があるかと思っていたが、その雰囲気はどこにもない。
心の中では警戒の思いを持つが、行動は変えられない。

そして、別の隊員の近くに出現したアヤメのナイフによる一撃を光が阻み、
次の瞬間、四方からの銃撃がアヤメを直撃する。
再び即死の一撃によりアヤメの体が壊れた人形のように舞う。

――紅蓮と強烈な爆風が突如発生した。

その爆発はアヤメを中心に起こり、破壊の壁が近くにいた隊員へと牙をむく。

「ぐ……あぁあ!!」
「リネ?!」

その爆風の直撃を受けた隊員自体は無事だった。
しかし、女性の悲鳴が響き、ザイヤは思わず声を上げる。

リネと呼ばれた女性。

彼女がアヤメの攻撃を受け止める、シールドを形成する能力を持つ女性だった。

第一段階の基本的な作戦。その要は彼女の能力だった。
ザイヤが正確にアヤメの位置を推測し、その結果から狙われる隊員を割り出し、彼女が防御を行う。
その隙を付き、他の隊員による遠距離射撃により仕留める。

そんな単純かつ効果的な作戦、それにも欠点は残っている。それは彼女の能力によるもの。
シールドで受け止めてダメージのいくばくかは彼女へのダメージとしてリバウンドする。
先ほどの爆発は、これまでにないダメージを彼女へと与えていた。
いつかは破綻が来る、薄氷を踏むような作戦でもあるが、その破綻が来るのが予想より早くなる可能性がある。

だが、そこでこの戦場が止まるほど甘くはない。
再びアヤメの出現を察知し、ザイヤは声を上げる。

「2・1・9!」

心の中では歯噛みをするが、行動は止まらない。
出現、防御、射殺、ここまではいい。その後に起こる事象が問題だった。

――爆発

紅蓮の炎を撒き散らし、再びアヤメの体が爆散した。
シールドの能力は確かに隊員の命を守るが、二度の衝撃にリネの体が深く揺れる。


「予想外にリネへのダメージが大きい……このままでは、上手くいくか?」

ザイヤは呟き、しかし、作戦を修正するためにアヤメの爆発の意味を考える。
だが、時間は多く与えられない――アヤメが悠長に待つことなどない。

「3・0・5!」

出現位置を指示し、ザイヤは直後思考を巡らせる。
始めの一撃はおそらく爆弾の類だろうと見当はつけている。
だが、二度起こることは不可解だった。
もし、二つ以上持っていても、誘爆により、全て消滅しているはず。

――だが、三度爆発が起こる

リネはその衝撃に膝を着く。だが、視線だけはアヤメがいた場所を凝視する。

まだ、彼女は自身が倒れるつもりなどない事を全力で表している。

ザイヤはそれに答えなければならない。アヤメが起こしている事象を理解し、
対策を行わなくてはならない。

――そして、ザイヤは気付く。なぜ、三度その爆発が起きたかを。
爆発のタイミングとアヤメの復活特性。そこから意味を理解し、対応するため駆けだした。



ザイヤは無言で駆けだしている。そして同時に駆けだす意味を隊員たちは理解している。
誰一人今は動かず、その結果を待つ。


――アヤメが現れる。

そこはザイヤの3歩前の位置。敢えてザイヤと相対するために復活したと言わんばかりの位置取りだった。

ザイヤは刀を抜刀し、一気に振り抜く。
同時に彼の全能力をアヤメの動きにのみ働かせた。

"右手のナイフで刀を受け止め、同時に左手で喉を狙ってくる"

アヤメが振るう喉へ向けたナイフを紙一重でかわし、その勢いのまま殴りつけた。

"肩で受け、背後に自身を飛ばし、ダメージを軽減する"

瞬間、ザイヤはさらに加速、タックルに近い勢いでアヤメにぶつかった。

"予想外の動きに動きを止める。足が伸びきりこれ以上後ろに下がれない。
右手に持ったナイフを横なぎに振るう"

下段に構えた刀を跳ね上げた。ナイフを避け、彼女の右腕を浅く切り、
同時に胸元を斬り裂き、そこにある黒い物体を跳ね飛ばした。

"「良くわかったわねぇ。爆弾の存在に。後、それへの正しい対処法もねぇ」"

彼女が未来で話す言葉は無視、ただその爆弾へと刀を向ける。

――やはり、心音爆弾か。

ザイヤは跳ね飛ばした物体を見ながら思う。
所持者の心音をトリガーとして、その音が止まった事が確定したときに爆発する物体。
大きさから言って、半径2m程の殺傷能力を誇るそれは、彼女の能力と合わせれば凶悪な兵器と化す。
アヤメが死ぬ前にそれを所持していたなら、例え爆発しても、蘇生の際に修復される。
彼女が死ぬたびに爆発が発生し続ける。
簡単な話だ。彼女は復活する際、服やナイフも持っている。それが爆弾にも適応されているに過ぎない。
……理屈の上では理解できる事象ではあるが、その理不尽な能力にザイヤは密かに戦慄する。

だが、それでも乗り越える。ザイヤは心音爆弾と呼ばれる物体を影響範囲外に飛ばすため、刀を振り上げる。
当然、大きな、致命的な隙ができ、それを黙って見ている程アヤメも甘くはない。

容赦なく振るわれようとする両の凶刃。

だが、すでに人影がザイヤを追い越しアヤメへと殺到した。

――数は3つ

その一つの男は、アヤメのナイフを右手で掴む。その男の能力は腕を硬質化させる能力だった。
それでも途中指が数本切り取られるが、男はそれを無視。左手で裏拳を放つ。
アヤメは右手のナイフから手を離し、裏拳をスェイバックでかわす。
同時に右足を振り上げ男の顎へと直撃させる。

崩れ落ちる男の後ろから、一人の女性が現れる。
人間が動ける限界を超えた動きを能力で起こし、アヤメの左手をライフルの銃底で殴りつける。
その勢いにアヤメはこらえきれず、左手のナイフを手放す。
それでもアヤメは軸足の左を使いさらに一歩後ろに下がり態勢を立て直す。

そのアヤメの顔を巨大な掌が掴む。
その掌の大きさを大きくする能力により、がっちりとアヤメを掴むと大地へと叩きつける。
その顔はその衝撃に耐えきれず、爆ぜた。
同時に男の腕も悲鳴を上げるが、男のもう一方の手でザイヤへと親指を掲げて見せた。

ザイヤは隊員たちの行動に答える。
正確に刀で殴打した爆弾は宙高く吹き飛び――紅蓮の炎と衝撃を伴って四散した。

だが、その爆風の中、駆け抜ける者――ザイヤがいた。
すでに装着していた通信機器は爆風により破壊されている。
だが、言葉を伝えなくてはならない。アヤメがどこに出現するか察知し、急いで移動を行う。

一秒でも近くへ――その想いで駆け抜ける。

そして――
エンツァ!! 右後方5度だ!!」

その声が届いたかは分からない。
ただ、エンツァは行動を起こし、突如現れたアヤメへと100の銃口を向ける。

エンツァの夜の能力、『ハンドレッドガンズ』、空中に浮かびし100丁の銃を操り、発砲する。

その中の4の銃弾がアヤメの目、右腕、左足、胴へとそれぞれ直撃する。
だが、アヤメの死した体が惰性で動く。かろうじて残っている左手のナイフがエンツァへと向き、その刃先が発射された。

――スペツナズ・ナイフ

その刃先は正確な軌跡を描き、エンツァの右胸に突き刺さる。
だが、エンツァはそれでも倒れない。痛みで顔は引きつりつつも、能力は維持し、警戒を続けた。
だからこそ、ザイヤは全てを堪え、指示を出す。

「コードβ!」

瞬間、隊員全員が動き出す。
叫びながらもザイヤはアヤメの出現位置に向かう。
否、全ての隊員がザイヤの動きからアヤメの出現位置を特定し、行動に移していく。
迅速なる総力戦。たった一人の化物に対し、物量で攻める殲滅戦が開始される。

決してまだ、この作戦への準備は十分ではない。まだ、アヤメの武器の全てを削ぎきっているわけではない。
それでも、今、"捕えるための行動に出なければ"じり貧になる。
そう答えを出したザイヤは迷いなく駆け抜ける。

――アヤメが蘇生した。右手には先ほどのスペツナズ・ナイフ。左手には何もなし。

ザイヤはそれを確認し、さらに速度を上げた。

――ザイヤを追い超す隊員がいた。

――速度上昇の能力を持った隊員がアヤメに肉薄し動きを束縛する。

――ナイフに斬られ、一旦下がる隊員と入れ替わるようにして、二人の隊員が攻撃する。

――ナイフを奪い、しかし、アヤメの蹴撃を受け倒れる二人を追い越し、3人がアヤメを捉える。

――3人が、殴られ、意識を飛ばそうとも、同時にアヤメの両足を砕き、アヤメの動きを完全に止める。

――ザイヤは右手に持った注射器をアヤメの首筋へと打ち付けるように突き刺すと、その中身を注ぎ込む。

――ザイヤの後ろから迫っていた5人の隊員がアヤメの両腕をうち砕く。



その全てが駆け抜けた後には――ついにアヤメの肉体が、生きながら地に倒れ伏した。



全員が肩で息をしながら、しかし、軽傷の者は重傷の者を助けるため動き出す。
一人アヤメのすぐそばに残ったザイヤは、アヤメをただ黙って見下ろしている。

「さて、これは私の負け、なのかしらねぇ」

両の腕を、両の足を砕かれながら、しかし、アヤメは楽しそうに笑っている。
その異常な光景に吐き気すら覚えながら、ザイヤはつまらなそうに答える。

「ああ、お前の負けだ。たとえ今お前が死んだとしても、能力は使えないだろう」

ザイヤがアヤメに刺した注射。それは、先日とある場所で開発された能力抑制剤のサンプルだった。
ザイヤの個人的なコネを利用し、その使用結果のレポートを条件として貸与された物。
それが、今、狭霧アヤメの肉体を巡っているはずだった。

「お前は化物でも災害でもない。もう、ただの人だ。最後は人として、裁きを受けろ」

ザイヤはそう言葉を紡ぐ。ザイヤはここにきても、言葉ではどう言おうとも、アヤメを化物ではなく人として見、
そして捕えることを目的としてきた。その言葉にアヤメは一瞬、笑顔が消える。

それは、容姿に不釣り合いな、ひどく幼い驚きの表情だった。

「まったく……ここまでやってるのに、まだ、私を人として見ているの?」
「当然だ」

その簡潔な言葉にアヤメはしばらく驚きの表情でザイヤを見つめ、

「フフフ……なんか、あなたになら私、本当の意味で殺されてもいい気がするわねぇ」

照れたように微笑んだ。
その表情と状況の余りのギャップに、ザイヤは一瞬たじろぐが、決然とした表情でアヤメに告げる。

「そうか、ならばこのまま捕まれ」

その言葉にアヤメは、笑う。
それはいつも浮かべている、あまりにも不自然な笑顔で、ザイヤは自然に警戒し刀に手を掛ける。


だが――

「私もそうしたい気がするけど、そうもいかないみたいよ? じゃね。楽しかった――」

アヤメの言葉は最後まで続かない。
アヤメの額を一発の銃弾が走り抜け、命を狩り取る一撃となる。

ザイヤは反射的に自身の能力を広げる。

――見つけた。奴らだ。おそらく奴らの攻撃だ。

「……遠いか。ここからでは」

ふう、と息を吐き、ザイヤは納刀する。
情報が正しければ、奴らの狙いも狭霧アヤメ。バフ課までには攻撃はしないはずだった。

警戒は続けつつ、ザイヤは隊員たちに撤退の指示を出す。


重傷者5名。軽傷者15名。死者――0名


その数字を思いつつ、ザイヤは安堵のため息を吐き、アヤメの死体を奴らに奪われぬよう運ぶために手を掛ける。
しかし、次の瞬間体が硬直するのを感じる。

「結局はそうなるのか。後は任せるしかないのか……?」


――持ったはずの狭霧アヤメの肉体が消えていた。




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「うーん。今回はだいぶおしかったなぁ」

狭霧アヤメは一人路地を歩いている。
武器のほとんどを失い、しかし、無傷で歩くその女性の姿は、ごく普通の女性に見える。

「あの薬、まだ私の能力を抑えることができるほどのできじゃなかったのかなぁ」

彼女は残念に思いつつ呟く。当然それについて答える人の姿もない。

「……でも、この調子だと、遠からず、死ぬことができそうね――」

楽しそうに呟く彼女の言葉は不意に途切れる。
不意に起きた視界に変化にアヤメは興味を示すように首を左右に動かした。

――辺り一帯に青い霧が大量に溢れていた。

その一種異様であり、幻想的な空間にアヤメは眉を潜め、次の瞬間体に異変が訪れる。

せりあがる痛み。それはぶちぶちと筋繊維を破壊し、骨を砕き、血を溢れさせ、
胸部を後ろから貫かれ、心臓を鷲掴みにされた。


声が聞こえる――

「大丈夫にゃ。気にしなくても今すぐ死ぬからにゃ? その能力はうちら"ドグマ"が使ってやるから安心するにゃ!」



絶命への一撃を行った存在、ルローの声を聞きながら、狭霧アヤメの意識はそこで途切れる――


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最終更新:2010年10月03日 14:52
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