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Beyond the wall > 1


この街の風景は変わっていた。
果てしなく続く壁。それはこの街の住民が向こう側からの侵攻を抑えるために造ったもの。
この壁の向こう側には、街の住人から「魔窟」と呼ばれている、暴力の支配する世界があるという。

ところで、最近この街では行方不明者の数が急増している。
そしてそのほとんどが幼児から中学生までの子供に集中しているのだ。
大多数の見解は壁の向こうに連れ去られたのだというもの。
この件に対して街では子供たちを見守ることを徹底しようと運動が展開されているが、
隙はいくらでもあるらしく、多少の減少はあるものの依然事件は絶えない。

高さ数十メートルの巨大な壁を見上げる高校生、東堂衛
彼の弟もまた、行方不明者のひとりである。
昨日彼が学校から帰ったときにはもう連絡が取れなかった。
自分の能力ならこの壁の向こうに行っても無傷で帰ってこれる。
意を決して衛は壁の中に足を踏み出した。

十歩も壁の中を歩いたあと、急に視界が開けた。
崩れたビルや焼け焦げた跡。まさに衛が想像していたとおりの世界がそこにはあった。
だが、なによりもここを地獄だと印象付けたのは、目の前で倒れている男と戦闘体制をとる男三人の姿だ。
いきなりの歓迎に衛は戸惑いを隠せない。
その隙に衛の後ろにテレポートした男の斧が襲い掛かる。
斧は空を切った。いや、実際は確かに衛のいる位置を捕らえていた。
これが衛の昼の能力である。
衛と彼が身に付ける生物以外のもの(主に服)を、この世のあらゆる物質・現象から干渉しなくさせる。
つまりお互いに触れることができないという状況を作り出す。
しかしこれでは衛のほうも攻撃ができない。
では例えば、衛が能力を使い腕で相手の胴を貫いたまま能力を解除するのはどうか。
それも駄目だ。その場合、衛の腕が相手の体の外に弾かれるだけでお互いに何のダメージも無い。
結局戦うためには一時的に能力を解除して戦うしかない。
だが三人もの敵を相手にそれが容易でないことは明らかである。

衛はこのまま逃げようかどうしようか迷っていた。
なにせ倒れている男を助けたところで三人と同じようにいきなり襲い掛かってこないとも限らない。
衛が判断できずに立ち尽くしていると、ものすごい速さで何かが複数飛んできた。
それらは三人の男に正確に命中。男たちは一斉に地に伏せる。
続いて衛の目に飛び込んできたのは少年の姿だった。
少年はその姿に似つかわしくない黒くごついバイクにまたがっている。
「僕はセイ。相棒を助けてくれてありがとう。」

「じゃあその弟を助けるためにこの『クレーター』に来たというわけか。」
夕刻、衛たちは廃れたホテルの一室にいた。
外から「魔窟」と呼ばれていたこの地域は、中では「クレーター」と呼ばれている。
チェンジリングデーに、この地域の中心に大型の隕石が落ちたのがその名の由縁だ。
その影響でこの周辺では強力な能力が生まれやすくなっている。
セイの相棒と呼ばれた男は名を真山情といった。
「オレのライトエグザは『マイルストーン』と呼んでいる。」
「ライトエグザ?」
「昼の能力のことだよ。夜の能力がダークエグザ。両方あわせてエグザ。」
セイが横から補足した。
「実際に体感したほうが早いな。」
そう言って情は衛に枕を投げつけた。
当然衛はそれをキャッチする。すると衛の頭に突然情報が流れてきた。
マイルストーンとは物体に思念を込める能力である。
思念が込められた物体に触れた者はその思念を心の声として聞く。
枕から伝わってきたのは情とセイのエグザやふたりが旅をしていること、それにクレーターの基本的な知識だ。
昼に衛と情を助けたセイのライトエグザは「ピストル」という名前らしい。
物体を弾に見立てて銃のパントマイムをすると、実際にその物体が銃の弾の速度で撃ち出されるというものだ。
「さて、今日はジョーが深手を負った事だし、早めに寝ますか。」
セイは嫌味を残して部屋を去った。
このホテルにはシングルルームしかない。衛も隣の部屋に向かい床に就いた。

朝日が差している。
衛はベッドの上で頭をひとつ掻いて昨日のことを思い出した。
そのまま部屋を出て寝ぼけまなこで隣の部屋の扉を開けたところでしっかりと目が覚めた。
中ではセイが上半身裸で衛を見て立ち尽くしている。
白い布を持ったままのセイの胸には、小さいながらもはっきりと分かる膨らみがあった。

つづく

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最終更新:2010年06月15日 22:29
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