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Beyond the wall > 3


「セイさん、情さん、大丈夫ですか?」
不干渉の能力でカニを避けた衛が問いかけた。
「オレは大丈夫だがセイが……。」
セイは気を失っていた。物理的な衝撃ではなく、精神的なショックのようだ。
「ったく、だらしねえな。」
「ハハ……。」
床ではカニが地面をうごめいている。
女の子はこういうの苦手なんだろうな、と思い苦笑いする衛。
「ま、こんなしょぼい能力に頼ってお山のボスザル気取りの野郎なんて相手にならないがな。」
情は挑発を止めない。
だがドウラクのほうも依然落ち着いた様子である。
「天井からカニを降らす能力などと誰が言ったのかね?」
「な……熱っ!」
「情さん!?」
衛が振り返ると、そこには転げまわる情の姿があった。
「カニを降らせたのは単なる屋敷の仕掛け。私のライトエグザは、『カニをボイルする能力』!」

衛は考えをめぐらせる。自分の能力では生きたカニと味方ふたりを干渉させないようにすることはできない。
この屋敷の壁に能力を発動させてドウラクを落とすことはできるが、
ドウラクは出窓に立っているため壁の向こうに落ちて逃げられてしまう。
一番役に立ちそうなセイは気絶したまま。
壁には三メートルくらいの高さまでは何もなく、衛がよじ登ることもできそうにない。
「情さん、ここは一旦退いて態勢を整えなおしましょう。」
「おっと、私がなぜ自分のエグザをわざわざ教えたか分かっていないようだな。」
「何!?」
「私はこの能力で世界中のカニを絶滅させることもできる、ということだ。
 一週間もすればもう人類は二度とカニは食べられなくなる。
 それ以上に、種の絶滅は生態系にどんな影響を及ぼすか分からない。
 この世界の全カニが人質だということを忘れるなよ。」
「くっ……。」

ドウラクが衛と会話している間に、情は再び立ち上がっていた。その顔に不敵な笑みを浮かべて。
「おっさん、今の言葉、ちゃんとこいつらに伝えてやったぜ。」
いつの間にか屋敷の中の大量のカニたちが壁を登ってドウラクの元へ向かおうとしていた。
「これは……! 貴様、一体何をした!」
「生憎だが、さっき言ったことが全てだ。」
マイルストーンの能力は思念を心の声として伝える。
この心の声というのは人間の言語という枠を超えて理解できるものなのだ。
だから外国人や生まれたての赤ん坊、果ては人間以外の生物にも思念を伝えられる。
そして、思念を込める物体というのは実はなんでもいい。
この場合「なんでもいい」というのは生物でも、さらには自分自身の体でもいい、ということ。
つまり、ドウラクの問いに馬鹿丁寧に答えるならば、
「マイルストーンの能力で、情自身に『ドウラクはカニを利用している』という思念を込め、それをカニに受け取らせた」となる。

ドウラクはすぐに余裕を取り戻していた。
ゲームを楽しむように、一気には事を終えず、目についたカニからボイルしていく。
「ふははははははは、下等生物が!
 なぜ気が変わったのか知らんが、お前らが束になってかかろうと私のエグザには敵わない!」
「それはどうかな。」
声の主は、この場で初めて口を開いた者であった。
「セイさん! 気がついたんですね!」
「さすがにあの熱さじゃね。」
もはや床の上に残ったカニは程よくボイルされたものだけ。
既に、セイはゆで上がったカニを、見えない弾倉にセットしていた。
中途半端に握られた手のすぐ上でカニが宙に浮いている光景はかなりシュールである。
「なんだそれは。まるでけんじゅ……!」
ドウラクは思い出した。部下の三人がどうやってやられたかという報告を。
そして今自分に向けられているのがおそらくその能力である、ということを理解した。
「まさか……やめろ……カニを絶滅させるぞ!」
「やってみるといいよ。間に合うんならね。」
次の瞬間、轟音。ドウラクは自分が殺した生物の体の直撃を受け、倒れた。

「お、こいつは食えそうだ。」
戦闘後、情はカニを拾い集めていた。
「情さん、なにもそこまで……。」
「馬鹿野郎! クレーターでは食料も限られてるんだぞ! あ、ラッキー、ズワイめっけ。」
その後姿を見て、衛はひそかにセイに尋ねる。
「あんなののどこがいいんですか?」
セイは笑うしかなかった。

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最終更新:2010年06月15日 22:38
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