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Beyond the wall > 5


倒れた情の体を調べた衛が、驚きと恐怖の入り混じった声を搾り出す。
「呼吸も……心臓も……止まっています。」
「うそ……。」
「おーっほっほっほ。私の『地獄の審判』は言葉ひとつで人を殺めることができる。」
少しも悪びれずに話すエンマに、セイが飛び掛かろうとする。
「こいつ……!」
その目には隠せないほどの涙。
「セイさん!」
しかし衛はそれを諌めた。
「もしその能力が本物なら今は勝ち目がありません。夕暮れを待ちましょう。」
情を背負った衛とセイはエンマの家から逃げ去った。室中では高笑いが鳴り響いていた。

エンマは町の統治者だ。町の中にいると危ない。
衛たちは町の外れの廃屋に身を潜めていた。
セイは、ベッドに横たわるぬくもりを失った情に抱きつく。すぐ横にいる衛の目も気にせずに。
「ふたりで一緒にいた一年、楽しかったよ。」
その声は情の鼓膜を震わせはするが決して届くことはない。
そう思うとのどの奥がつっかえてまぶたが熱くなる。
「こんなことなら、ちゃんと名乗っとくんだった。」
そして、自分の想いを伝えたかった。
行き場のない感情が怒りの炎を大きくする。
「あの女、日が落ちたら殺してやる!」

「衛、もう我慢できない。僕は行くよ!」
太陽が地平線の上に最後の光を放つ頃、セイは静かにそう言った。
「気をつけてください。相手の能力は分かりませんから。」
衛には、セイに掛けてやることのできる言葉はそれくらいだった。

町の中を走りに走る。
セイがエンマの家のドアに手をかけたのと日が沈みきったのは同時だった。
「なんだ? 血相を変えて。」
平然と放たれた質問を黙殺して水の矢がエンマに襲い掛かる。
しかしそれはすぐにかき消された。
「くそっ!」
指先に溜める水の量を多くして再び放つ。
すると今度は空気のゆらめきが見えた。
「炎か!」
「水は炎に強いなどとファンタジーのように考えないことだ。私の『地獄の業火』は灼熱。
 沸点たった百度の水なんぞすぐさま蒸発してくれる。」
そう言って、今度はエンマが炎の弾を飛ばしてきた。
セイが避けると炎が家具に当たり燃え広がる。
「こいつ、自分の家を……正気か?」
「私は配下に『物質再生』の能力者を擁する。いくら燃えてもかまわん。」
ならば。
「これで終わりだっ!」
指先にありったけの水分を集める。しかし集めるだけで攻撃はしない。
「無駄だと言っている!」
火球が大量に降り注ぐ中、セイは未だ弾を撃たずに……逃げ出した。
「な?」
部屋は瞬く間に火に包まれる。中からはエンマの叫び声が聞こえてきた。
「アクアショットの水分は周りの空気から集めてるんだ。
 それを持ち去ったら、空気は乾燥し炎はあっという間に燃え広がる。」

町に戻ると既に火事に気づいた人たちが屋外にごった返していた。
人の流れに逆らってセイは町を出る。
衛は先ほどの廃屋の前で待っていた。
「終わったよ。」
セイは寂しく微笑んでそう言った。
「じゃあ、行こうか、衛。」
「ちょーっと待った! 誰か忘れてやしないか?」
「え……?」
嘘? この、声は……!
廃屋の中から情が姿を現した。どこにも異常はなさそうだ。
「なん……で……?」
「エンマのあの能力は、効果が昼の間だけだったんです。」
今度は嬉しさの涙で溢れそうになる。
しかしセイはそれをぐっとこらえた。
「まったく、油断しすぎなんだよ、ジョーは。」
「悪い、心配かけた。」
そんな、素直に謝られると……。
「ほ、ほら、ラスボスの名前も分かったんだし、さっさと行くよ!」
セイは慌てて自分のバイクを駆って先に行ってしまった。
その様子を見て、衛と情は顔を見合わせて笑った。

つづく

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最終更新:2010年06月18日 20:29
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