ホテルの一室で、なぜか正座で対面する衛とセイ。
「参ったな。ジョーはいつも起きるの遅いから、油断してた。」
「セイさんは、その……。」
「カギが壊れてるホテルなんて選ばなきゃよかった。」
「あの……。」
「ああ、ごめん。そう、本名は月宮星夏、歴とした女だよ。」
セイは男装の理由を衛に語りはじめた。
クレーターの中でも比較的安全な海辺の町で星夏と情は生まれ育った。
他に歳の近い子供がいなかったため、ふたりはよく一緒に遊んでいた。
そして星夏はいつしか情に淡い恋心を抱くようになったのだ。
ところがある日、情は一家もろとも、誰も知らないうちに忽然と町から消えてしまった。
情が十二歳、星夏が十歳、まだ星夏の能力がどちらも覚醒していなかったときである。
七年後、それでもますます星夏の想いは募るばかり。
ある日、星夏が砂浜を歩いていると、大きめの石がひとつ置いてあった。
別に海岸に石など珍しいものではない。
しかし、その石は特別だった。マイルストーンの能力が込められていたのである。
ここに置いてあると塩の満ち干で簡単に流されてしまうはず。
とすると、情はまだ近くにいるはずだ。
星夏は急いで情のあとを追いかけた。少年、セイとして。
「その石には、ジョーの男装少女フェチとしての熱い想いが、言葉にすると原稿用紙百枚分くらい込められていたんだ。」
「……もしかして、それだけの理由で?」
「うん。」
もっと深い、たとえば家庭の事情だとか、敵の組織に命を狙われているので身を隠す必要があるだとかを想定していた衛としては肩すかしを食らった気分だった。
「じゃあ別に隠す必要は……。」
「甘い! 『自分から正体を名乗ってはいけない』、男装少女の心得その三だ!」
「それも、マイルストーンに入ってたんですか……。」
「もちろん。」
もう勝手にして、と衛は思ったとか思わなかったとか。
所変わってとある建物の中、三人の男が土下座する姿を一人の男が上から眺めていた。
「それで、まさか丸めたティッシュにやられたと?」
「い、いえ、ですからその、それが銃弾のように……。」
歯切れの悪い言い訳を上の男が脈絡のない質問で遮る。
「君たち、カニは好きかね?」
上の男が手を鳴らしたのを合図に、天井から数え切れないほどのカニが三人の男に降り注いだ。
「私は大嫌いだ。」
三人の男の悲鳴が建物の外にまで響いた。
情が起床し、朝食を終えたあと、衛・セイ・情の三人は次の目的地を目指す。
クレーターでは有力者によって日々ナワバリ争いが繰り広げられている。
クレーターの外でまで事件を起こすとなると、犯人はナワバリのボス格の人間である可能性が高い。
そこで三人はこの一帯を支配していると言われている人物の屋敷を訪れることにしたのだった。
「ようこそ、我が屋敷へ。」
声の主は白スーツをびしっと着こなしワイングラスを携えた男だった。
男はとても登れそうにない三階くらいの高さの出窓に立っていた。
「私のことは
ドウラク、とでも呼べばいい。もちろん偽名だが。」
そこまで言い終えるとドウラクは余裕たっぷりにワインを口にした。
情が、その態度が気に入らないとばかりに凄んでみせる。
「単刀直入に聞く。お前が外の人間を連れ去ったのか?」
情の鋭い目つきにもドウラクは全く動じない。
「そんなことは知らん。だが。」
ドウラクの表情が笑顔に変わる。
「侵入者は排除しなくてはな。」
その顔はこれから三人を倒せるのが嬉しくてたまらないという顔だ。
パチンという音が静かな屋敷に高らかに響く。
そして、カニが落ちてきた。
つづく
登場キャラクター
最終更新:2010年06月15日 22:34