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無頼3.5「我は零牙」 - (2008/02/01 (金) 04:23:15) の1つ前との変更点
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何も無い虚空。
我は何かと闘っていた。
それは何であるかは知らない。
昨日、主と視聴した映画なのだろうか?
いや、映画には武装神姫は出ていなかった。
ならこれは何だ?
一体何の……
「零牙、起きてください」
「う……ん」
主に呼ばれて、我は目を覚ました。
いつもなら、その立場は逆であるのに。
「珍しいですね、あなたより先に私が起きてしまうなんて」
「…申し訳ない」
主はすでに外行き用の服に着替えていた。
手には我の武装が入ったボックス。
今日は以前知り合った「ヒカル」とのバトルロンドの予定があった。
流れ流れて神姫無頼 外伝「我は零牙」
主の家から一kmほど先に、神姫センターがある。
秋葉原などにある店舗ほどではないが、規模は大きい。
しかし、約束の時間より三十分も早く来てしまう主の癖のせいでヒカルのマスター氏は
まだ来ていなかった。
ベンチに腰掛け、来るのを待つ主。
ここのセンターは順番などの関係で、バトルロンドは対戦相手と一緒に申し込む決まりとなっていた。
「遅いですね」
「主の来るのが早すぎるんですよ」
主の笑顔が一瞬引きつった。
「…一応、これでも気をつけている方なのですが…」
後に聞いたのだが、我が来る前は一時間以上前に待ち合わせ場所に居たらしい。
十五分くらいが経過した。
六月中ごろの暖かな日差しが、ガラス張り天井のホールに降り注ぐ。
見ると、主はウトウトと睡魔に襲われている最中だった。
誰にでも敬語を使うのと、少しのんびりしているのが主の特徴だか、寝てしまってはヒカルのマスター氏に悪いし。
万が一置き逃げに遭ったら我だけでは対処が出来ない。
「主、炭酸飲料か何かを買ってきます」
「あなたじゃ大変でしょう。私が行きますよ」
「主がここに居なければ、ヒカルのマスター氏が困ります。それに武装していれば持てます」
主は少し考え
「…じゃあ、お願いします」
と言って財布の中から百二十円を取り出した。
我はそれを受け取り、自販機があるエリアに走りだした。
~・~・~・~・~・~・~
ホールにある自販機は故障中で、炭酸を販売している自販機を探すのに苦労した。
見つけたのはバックヤード近くにある、薄暗く人があまり通らない場所でだった。
コーラを抱えて急いで戻ろうとした時
&bold(){ぷしゅっ}
突然飛んできた何かが缶に突き刺さり、嫌な音と共に中身が噴き出た。
我はそのまま缶を盾にし、叫んだ。
「何者だ!?」
叫んだ先、ゴミバケツの影から現れた影。
その体を漆黒に染め、存在しない青い薔薇を思わせる透き通った髪。
ベースがPlants Planet製MMS「ジュビジー」とは思えない程、妖艶な雰囲気を持つ相手だった。
「『蒼穹の猟犬』ね?」
青く塗られた唇が動き、低く、抑揚の無い声を紡ぐ。
その体と同じく、吸い込まれそうな程深い緑の瞳が、我を見据える。
「『蒼穹の猟犬』? …何かの間違いではないのか?」
聞いた事はある、だが見たことはない。
話によるとその装甲を青系色で纏め、流れる様に敵を撃破する吼凛らしい。
偶然だか、我の装甲も青系色である。だが、我がそう呼ばれた事はないはず…。
人違い、いや神姫違いと見るべきか。
「あなた、鈍いわねぇ。『瞳に瞳孔がある』ハウリンなんて、あなた位しかいない筈よ」
瞳孔?
そう言えば、『蒼穹の猟犬』に関する情報にはこんな話もあった筈。
『あいつの目には瞳孔ある』と。
確かに我の目にも瞳孔がある。Kemotech社に勤めている主の父親が、関係者に放出された試作品を貰ってきたからだ。
放出された『目に瞳孔がある頭部』の内の一つが我に使われている。
「我には確かに瞳孔がある、しかし『蒼穹の猟犬』と言われる覚えがない! …それでは」
言い切った、知らないものは知らないのだ。それに先程から第六感が危機感を訴えている。
それに、そろそろ主が心配しだす頃だ。
黒いジュビジーの横を過ぎ、そのまま立ち去ろうとした時
***ジュバァッ!
突然振り上げられたプレートの様な物によって、左腕が切り落とされた。
「ぐぅっ!!?」
左肩に激痛が走った。
ことん、と音を立て、左腕が床に落ちた。
右腕で斬られた部分を抑える、潤滑油がまるで血の様に流れ出す。
融けたプラスチックの臭いが我の周りを包んだ。
ジュビジーの右腕に装備されている物に目を落とす。
カッターナイフの刃らしき物が背部コンバータにコードで接続されている。
刃は熱を帯び、紅く輝いていた。
「工作用の電熱カッターを改造したものか…」
斬り口から漏電しており、少しづつ意識が遠くなってきた。
「当たり♪ 今実演したように金属も切断できるわよ」
ジュビジーが子供の様に笑う、我が苦しむのを楽しんでいるな…。
***ジュッ!
そう思った瞬間、横一文字に斬りかかってきた。
胸甲に大きく切り裂かれ、ここからも漏電し始める。気付くのか少し遅れていれば
CSCを切り裂かれていた所である。
「さあ『蒼穹の猟犬』、こんなに弱かったなんて意外だけど」
切先を我の頭に向ける、熱気が顔の近くまで来ていた。
「そろそろ終わりよ!」
どうする!?
武装はフィールド上ではない故、転送など出来る訳がない。
下手に動けば、奴は我の頭を真っ二つにするだろう。
こんな場所に人が来る確率は低い、絶体絶命とはこの事だ。
ジュビジーが右に振りかぶる、我の頭を横に切断するらしい。
そう言えば、似た状況が夢に出ていた。
その時は助けが来たがそれは夢、現実にそんな事が起こる筈が無い。
でも、この時ばかりは起きて欲しかった。『そんな事』が。
「死になさい!『蒼穹の猟犬』!」
**ドゥドゥッ!!
本当に、起きた。
我は唖然とした。
本当なら今頃我の頭を跳ね飛ばしている筈のカッターの刃は、細かい破片となって散らばり、床を焦がしている。
奴も、突然の事に動揺を隠せない。
「誰っ!?、誰なのっ!?」
「グラヴィティ・キーック!」
*ガシャン!
突然、奴が映っていた視界に赤い何かが割り込んできた。
それと同時に奴が五十㎝位奥に蹴り飛ばされていった。
赤い何か。
黒い素体に赤と白の装甲、緑の頭髪。
Studio Roots製MMS「ツガル」の姿がそこにあった。
「な…」
「『蒼穹の猟犬』! ボヤボヤしないで反撃しなさい!」
ツガルがツインブレードである「フォービドブレード」を押しつけつつ叫ぶ。
「そなたは何者だ?」
「そんなの後! …来た!」
羽だか翼だかの先端が、銛となってこちらに飛んできた。
装甲を排除しブレードを握ると、刃の部分が発光し始めた。
不思議と、感覚が研ぎ澄まされてゆく。
バトルロンドで戦っている時と同じ、高揚感が心の奥から湧き出し、痛みを感じなくさせる。
気付いたら、我は叫んでいた。
*「我は零牙!『蒼穹の猟犬』である!」
……
我はメンテナンスショップの中にいた。
武装や、斬りおとされた左腕の修理のためである。
あの後、係員らしき人物が駆けつけ、奴は逃走した。
その時ツガルに撃たれ、両脚を現場に残しているが。
主がその係員から説明を受けている、傍らには忙しく歩き回るショップ所属の修理用MMS達。
肩関節も熱で破損しているらしく、修理には一晩掛かるようだ。
説明が終わり、主がこちらに来る。
「零牙、災難でしたね」
そう言う主の目は潤んでいた。
「心配を掛けてしまい、申し訳ない」
「大丈夫よ。…形人さんとヒカルさんに多少迷惑を掛けましたが、あなたの事を話したら納得してくれるでしょう」
あの二人は人がいいからなぁ…
~・~・~・~・~・~・~
主が帰った後、あのツガル(ジュラーヴリクと言うらしい)が詳しい事情を話してくれた。
あのジュビジーは以前我と公式戦で戦い、敗北した神姫だと言う。
マスターについては調査中で、今のところのターゲットは我らしいのだ。
「逆恨みね。神姫をあんなにしちゃうなんて、きっとマスターも捻くれてるのよ」
ややオーバーアクションで、呆れつつ「オー・マイ・ゴット」のポーズをとるジュラーヴリ。
「ジュラーヴリク」
「ジュラでいいわ」
「ジュラ、奴の名は…何とゆうのか?」
我のせいでああなってしまったのなら、やるせない。
「確か…『バラライカ』だったかしら」
「バラライカ…か…」
「話は済んだかい?、お二人さん」
係員が会話が詰まった隙を見て、話に参加してきた。
「祁音(けいん)、アイツの脚の調査結果は?」
「公式戦なんて問題外さ! フレームはチタン製で、なおかつ電熱カッターが仕込んである。フツウの神姫なら一蹴りでまっぷたつだよ」
「全身電熱カッターね、アイツ…」
「オマケに電圧が高いのなんのって! あんなの外部電力無しだと二秒でバッテリー切れさ」
「あの…」
完全に置いていかれてる…どうしようか。
「あ、あの! どうして我は『蒼穹の猟犬』などと呼ばれるのかを教えて戴きたい!」
何とか話に参加せねば…、そう思っていた。
「ああ、その事かい?
『以前の公式戦』の準決勝でバラライカを撃破した時に、君が口走ったセリフさ。
…もしかして、覚えていない?」
「申し訳ない、その時頭が電撃でボーッとしてて…」
おもわず顔が真っ赤になる我だった…、ハズカシイ…。
~・~・~・~・~・~・~
深夜。
神姫センターの屋上で煙草を吹かす影ひとつ。
長瀬祁音は思案に暮れていた。
(遂に零牙を攻撃し始めたか)
今まで、零牙に対して何の行動(アクション)を起こしていなかったのにも関らず。
(ヒカル、だったかな。彼女も将来的に「裏バトル」のプレイヤーに狙われるかもしれない。…推測にしかならんが)
「キャプテン・ケイン」
そう言って、一人のアーンヴァルが彼の右肩に乗る。
「どうだったか? ラースタチュカ」
ラースタチュカと呼ばれた神姫は、首を横に振り
「駄目でした。恐らく規格外のロケットモーターを使用したと思います」
「そうか」
「すみません…」
「仕方がないさ、次の機会を待てばいい」
「しばらく姿を現さないと思うね、私は」
ジュラーヴリクが話に割り込む。
「それまでヒマだなぁ…」
「本当なら、俺達やヴァレンシアが動くような事件など、起きない方がいいんだがな…」
そう言って、祁音は銜えていたケントを床に落とし、踏み消した。
2036年、武装神姫を悪用した犯罪が増えてきているという。
そういった犯罪に対処する人達も居る。
しかし、それは別のお話である。
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