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第2章 月下美人(1) - (2007/09/13 (木) 21:57:28) のソース
花は、散り逝く瞬間が最も美しいという。 例え我が家の燃える姿であろうと、巨大な炎に人は惹かれる。 兵器は、破壊される瞬間、最も誇らしいと謳われる。 死に幻想を抱く人間は尽きない。 崩壊、それは美しきもの。 降雨、流雨、冷雨、泪雨。 「しゅーこちゃん、だって、つーが大好きだと、みんな、壊ちゃうですよ? それなら、つーが壊れた方が、まだ・・・」 「ツクハっ!!」 どうしてこうなる?誰が悪い?何が悪い? 泣きそうに問いかけても、誰も答えない。雨がツクハを虚ろにしていく― *第2章 月下美人 「・・秋子、それでさ、その変な神姫、一昨日も昨日も夕飯にまで居座ってさ、人の作ったご飯に文句ばっか言うクセに殆ど食べないし」 「神無・・、神姫とは言え、そんな怪しい人をほいほい家に上げていいの?」 「・・・いや、そうなんだけどぉ、番犬代わりのロウが懐いちゃってるもんだから追い出すに追い出せなくて」 神無の話を要約すると、一昨日の騒ぎの後、家に帰るとその見知らぬ神姫が主人も連れず我が物顔で居座っていたという事らしい。しかもそれから毎日来ているという。 「それで、結局その神姫は何者なの?」 「さあ? ロウが言うには“先生”なんだって。でも何教わっているかは秘密だっ!って言って教えてくんないし。あいつ最近ナマイキなんだから」 「じゃあ、誰の神姫なのかも判らないの?」 「あ、それは八木内科だって」 「隣町の? そういえば、最近賑やからしいって聞いたけれど・・その神姫の事かな?」 「多分」 兎にも角にも、私の親友はまた面倒事を抱え込んでしまったみたいだ。 「ねえ、ところでさ、この前言ってた秋子の神姫ってなんて名前なの?」 「何? 騒がれたら、神無も武装神姫に興味が沸いたの?」 「いや、そういう訳じゃないよ。ただ秋子が連れてる娘ってのが、気になっただけ」 「・・・まあ、いいわ。でも、少し覚悟してね」 「へ?」 放課後の教室には静かだった。それでも少し前までは、神無に神姫の事を聞きに来た男子達が居たけれど、あまりのしつこさに激怒した神無に気圧され、今はもう誰も残っていない。一応もう一度周囲を確認して、鞄に手をかける。 「ツクハ、起きて」 「・・ふわぁ~。あれ? しゅーこちゃん、もう家ですかぁ? それともまたあの犬ヤロー?」 鞄から這い出る小さな影、眠そうに目を擦る。白緑色の髪、緑系で統一されたボディカラーのジュビジータイプ。それが私の神姫、ツクハ。 「え・・・これが秋子の神姫? っていうか真面目な秋子が学校にこんなの持ち込んでたなんて・・・」 「事情で、家に置いていたくないの。ツクハ、ここはまだ学校。友達が貴女に会いたいって言うから起こしたの」 「え!? 友達って、もしかしてカンナちゃん!?」 「あれ? アタシの名前知っているの?」 「うん! しゅーこちゃんの友達で、しかも美少女の名前、忘れるわけ無いですよ! 初めまして! つーはツクハです! お友達になって欲しいです♪ てゆーかお友達から初めてねです♪」 「え? あの・・うんまあ」 「こら、ツクハ。神無が困っているからそれ位にしなさい。神無、これが言い辛かったから隠していたのだけど・・・」 ツクハは限定品カラーらしいけれど、普通の神姫と変わらない。ただ、一つを覗いて。それは・・・ 「ツクハって、女の子好きなの、ものすごく」 「れ、れずっこ!?」 「うんっ♪ あ、でもつーのはプラトニックだから安心です♪」 「いやどう安心なの、それ」 ツクハの“左手”に振り回された神無の右人差し指が、困惑して語る。無理もない。私もツクハには振り回されっぱなしなのだから。 「あれ? もしかしてそれが法善寺の神姫? 学校に持ってくるなんて勇気ある!」 「わっ!? いつの間にいたの!?」 「あ、相原君・・・」 突然飛び込んできた笑顔。動揺してしまう。しどろもどろに言葉を見つけられずに居ると、急にツクハが躍り出て、“右手”で彼を指差す。 「あ~!! もしかしてうちのしゅーこちゃんをたぶらかそってゆーのです!? しゅーこちゃんは渡さないですよ!」 「ちょ・・ちょっとツクハ!」 「な、なんか意外に激しい性格の神姫だな。俺のフォトンと気が合えばいいけど」 食いかかるツクハに、意外にも怯まず、相原君が携帯の画像を見せる。映っていたのはフォートブラッグタイプ。・・と、一瞬前まで私の前で立ちはだかっていたツクハがすぐさま画面にかぶりつき、画像を覆い隠してしまう。現金ね。 「え!? この子がアンタの神姫ですか!? かーわい~♪」 「ん? 俺のフォトンを気に入ってくれたのか?」 「フォトンちゃんかあ・・。まあ、しょうがないですねえ、ちょっと位なら、しゅーこちゃんとのオツキアイ認めてあげてもいいですよ」 「ちょっ!? ツクハっ!!」 “お付き合い”の言葉に、声を張り上げてしまう。すぐに恥ずかしくて相原君から目を背ける。きっと今顔が強張っている。変な子と思われた。 「本当か! フォトンも喜ぶよ!!」 でも、相原君はその言葉の意味に気づかなかったらしい。・・・でも私は・・・。 「それじゃあさ、何時法善寺の家に行こう? 家近いの?」 「いや、あんまり・・・」 動悸が止まらない。 「じゃあ休みのほうがいいよな。今週末空いてる?」 「・・ええ、でも、私の家、散らかっているし親もうるさいから・・・」 上手く話せない。 「あ、じゃあ外で会う方がいい? 隣町のヒメガミ神姫センターとか。場所判るだろ?」 「・・・うん」 目を合わせられない。 「じゃ、日曜な。時間は後で教える。それじゃ!」 「あ、ちょっと相原君! 秋子がツクハちゃん持ってきてるのは内緒だよ! 事情が・・」 「判ってるって豊島。じゃあまた明日な!」 「言うだけ言って帰っちゃったよ・・・。でも相原君の方もさ~、秋子に気があるよね。アタシも神姫持ってるって言ったのに秋子しか呼ばないし」 「うんうん。でもいきなりデートなんてフトドキモノですよ!!」 「デートだなんて、そんな・・・」 彼の笑顔が焼きついて、まだ、頬が熱い。 帰宅するまでの間中、胸のざわめき治まらない。ツクハはまた寝かせておいて良かった。起きていたら「まだしゅーこちゃんがふやけてるです~!! あんのスケコマシ~!!!」なんて五月蝿そうだから。 ・・・そう思っている内にもう自宅前。惚けていた割にバスは乗り間違えなかったようだ。我ながら可愛げがない。そうだ、神無やツクハはあんな事を言っていても、相原君はきっとそうは思っていない。だって私に可愛い部分なんて無い。目が悪いからいつもしかめっ面をしているし、最近笑った覚えも無い。それなら、ずっと神無の方が可愛い。だから、そんな事は無い。ただ神姫に興味があるだけ。 「可愛くなんて・・・」 「秋子、遅かったな」 身の毛が弥立った。玄関の先に居た、悪夢に。 掻き切られ気味に取り戻した理性が、声の主を凝視する。醜い、醜い、醜い、男。私の兄、法善寺冬次。どうして・・こんな時間に家に居る? 「仕事が、早く上がった。それに、おまえに用があったからな。また、神姫が1“台”調子悪くなったんだ。貸せよ、お前の神姫」 「・・・もうツクハは戦わせない、絶対に」 「はあ? 戦わせるのが武装神姫の使い方だろ? そいつが居れば、負けは無いんだ、貸せ。今週の日曜だ」 低く崩れた声が強制する。けれど絶対に屈しはしない。日曜は相原君との約束の日。それだけじゃない。この男が私とツクハにしてきた事を思えば、従う理由はひとつも無い。 この男はツクハを捨てた、ひどくモノのように。けれど私が彼女を拾えば、卑しい強欲で返せと叫ぶ。それだけでは済まなかった。私がツクハを置き学校に行っている間に、この男はツクハを連れ去って、そして戦いを強制した、何度も、何度も。きっと私に何かすると脅迫したのだろう。昔、私にしたのと同じに。私がその事実に気付いた時、彼女が右腕を失って帰ってきたその時には、何年かぶりに嗚咽した。だから・・・ 「お前の言う事なんて、聞けないっ!!」 ツクハの入った鞄を抱えて階段を駆け上がる。鍵は三重に閉めて、そして、力が抜けて蹲る。 「ううっ・・・」 出来れば、この身の全ての血を抜いて、取り替えて、あれと他人になりたかった。 ---- 「それは尾行ね絶対。初デートなんて面白・・重大なイベント、影ながら助けてあげるのが親友ってモノじゃない? あ、このフライドチキン、下ごしらえ足りないわね。ハーブ少し刷り込むだけで、違うものよ?」 「むぐむぐむぐ」 「・・・アニーちゃん、絶対面白がってるでしょ。それから味に文句があるなら手伝ってよ、小食のただ飯食らいサン」 何故かすっかり定着しちゃった、この銀髪中性神姫(オカマとは違うんだって)を含めた我が豊島家の夕食。ロウと2人よりは間が持つとは言え、毎回ヒトの味付けにとやかく言われるのは的確なだけに結構ストレス。・・と、それはともかく。 「そんなにしたいなら、アニーちゃんがすればいいでしょ、尾行」 「う~ん、そうしたい所だけど、場所が神姫センターじゃ無理ねえ」 「どうして? 神姫センターなら神姫が居たって平気じゃないの?」 「こっちには、こっちの事情があるのよ。金、土・・あと丸2日じゃロウの【ジャミングパック】も出来上がらないし、神無ちゃんしか出来ないのよ。準備はしてあげるから」 「むぐむぐむぐ」 よく判らないまま言いくるめられてしまう。そりゃあまあ、アタシだって秋子と相原君がどうなるのかは知りたい。秋子って男の子にはアタシ以上に免疫少なそうだし、心配な気持ちも確かにある。 「・・・まあ、日曜は晴れるし暇だから、いっかぁ・・・」 「むぐ・・ごくん。カンナっ! にくっ! おかわり!!」 「もう無い!」 その時は、漠然とした気持ちだけで、結果なんて見えてなかった。想像も出来なかった。 [[目次へ>G・L《Gender Less》]]