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ねここの飼い方・劇場版 ~十章~ - (2006/11/12 (日) 00:23:51) のソース
「リン……大丈夫でしょうか」 全力で目標に向かって移動を続ける中、不安げに呟く雪乃ちゃん。 どうも口に出すつもりはなかったみたいで、声に出した事を後悔してるみたい。 「大丈夫ですよ、強い娘ですもの。無事に戻ってきますよ」 ジェネシスが優しい母のような声で、諭すように語り掛ける。 「そうです、きっと大丈夫です。それより今は目の前の事に集中しましょう」 と、時折索敵に現れるホイホイさんをもぐら叩きの様に潰しながら返事を入れるドキドキハウリン。 『ちょっとだけ嬉しいニュースよみんな、ねここがそっちへ向かってるわ。 周辺の敵は十兵衛ちゃんとリンちゃんの所に集中してるから、ねここには緩やかにカーブさせたコースで其方へ合流させる。 予測ポイントは……えぇと、X698Y721。今の速度だと5分ほどで合流予定』 「そうですか、よか……」 そう言い掛けて、再び口を閉じる雪乃ちゃん。ねここの無事だけを祈ってると思われるのを考慮したのだと思う。 士気が戦況に及ぼす影響をよく知ってるみたいね。 「来ますよ」 それまで一言も喋らなかったアリアが急に口を開く。 同時に、それまでの砲撃とは比べ物にならないレベルの弾幕のシャワーが彼女たちに襲い掛かった。 *ねここの飼い方・劇場版 ~十章~ 「……これです、ね」 あの攻撃を凌ぎ、なんとか森林に隠れるメンバー。 ココちゃんと雪乃ちゃんのぷちマスィーンズを偵察に出し、その情報分析を行う私たち。 ぷちマスィーンズが得た情報はこちらのコンソールにも現れる。 『トレーラー……いや、装甲車みたいだけど』 映像には平地に一定感覚でビッシリと敷き詰められている装甲車の群れを映し出していた。コクピット部分にはアムジャケットが搭乗している。 『コイツは……ランドバイザー・ベヒモスか。 アムテクノロジーが発売したシロモノで、装甲車形態からブリガンディモードへ変形。 変形後は4門のデバステイトキャノン“ミョルニル”を装備する、火力は戦艦級とまで言われた移動砲台だ』 『この状況だと厄介ですね……目的地までおよそ2000。 先程撃ってきた射程から考えても、この距離を一気に突破する前に集中砲火を受ける羽目になるかと』 「あっ。……参号がやられたようです」 鎮痛な表情でそう報告する雪乃ちゃん。小型にも反応して確実に倒す……か。 「マスター、ソードバイザーで一気に突き抜けられませんか?」 『無理だな、いくら速度が速くてもこう距離が長くては偏差射撃で落とされる』 ……速度、か…… 「みんな、おっまたせ~☆」 と、やっとねここが到着する。 「よかったぁ、無事で……」 外聞も憚らずぎゅっとねここに抱きつく雪乃ちゃん。……そうだ 『いっそ弾が追いつけない速度にすればいいんです』 「ふぇ?」 ねここ以下全員がキョトンとした顔になる。まぁいきなりそんな馬鹿な事を言ったら当然だろうけど…… 『雪乃ちゃん、バスターランチャーのエネルギー弾はあと何発残ってる?』 「残り……3発です、他は全て使い切ってしまいましたので」 『なら平気。ココちゃんはぷちマスィーンズの斥候行動を続けて、地形把握を』 「わかりました」 『それと、雪乃ちゃんはねここの武装を弄って。銃器に詳しい貴方なら出来るはずよ』 「はい……しかし何を?」 『それはね……』 『準備はいい、みんな?』 その声に反応して、OKとの返答が次々に返ってくる。 『じゃぁ……作戦開始っ!』 「任務了解」 「行きますっ!」 アリアとココちゃんが撹乱のため、跳躍する。 それを逸早く嗅ぎつけたベヒモスが、装甲車形態での待機モードから変形を開始。瞬く間に数十門のミョルニルに狙われる二人。 二人は本命を通過させるための囮役、そのためあえて敵の目に付くルートを移動して貰ってる。 危険だけど……仕方が無い。それに 「そろそろいいでしょうかね……我を魅惑の幻へと誘え イリュージョン!」 ドキドキハウリンが派手な決めポーズと共にカードを開放。 敵中に投擲したカードから、たちまちのうちに激しく霧が立ち込める。広範囲に渡って霧に支配される空間。 この霧には電波吸収効果もあってレーダーを使用不能に出来るのだ。 そんな中、霧にホログラフを照射することで相手に数を錯覚させていくドキドキハウリン。 同士討ちを誘うようなポイントに照射し、確実に誤射を誘っていく。更にはその撲殺ステッキで無防備なパイロットを確実に屠り続ける。 霧の中は完全に大混戦、辺りには砲声の音が轟くばかり。 ……だけど、その外縁にいるベヒモス隊が味方を巻き添えにする事も厭わず、その照準を霧内へ定めつつあった。 その時、霧の中から上空へ悠然と突出する人影。いやそれは人型とは言えない、全身武装の塊であるジェネシスその人。 「全モード開放……攻撃…開始!」 6基のドラグーンが展開、上空から無防備なベヒモスへと襲い掛かる。 奇襲による一撃によってパイロットを的確に撃ち抜かれ、次々と金属塊の棺へと成り果ててゆくベヒモス。 「そこっ!」 ブラックサンをメガキャノンモードで展開、敵の集結ポイント目掛けて発射。 それは激しい閃光と共に着弾。周辺にいた4体のベヒモスを纏めて大破させる。 そんな中でも当初の予定通り、霧の中へその巨砲を撃ち込もうとする数体のベヒモス。 しかしジェネシスはそれに素早く気づくと、近くでラピッドガン“ラビリス”を乱射していた一体をワイヤークローデバイスで鷲掴みにし、そのまま力任せに投げ飛ばす! それは直線軌道を描き、発射直後の砲弾と交錯、命中。 直撃を受け火の玉と化したベヒモスはそのまま発射した機体郡へと突っ込み、激しく衝突、爆発。 他の機体もその煽りを食らい次々と誘爆を起こしていく。 『ジェネシス、あまり前に出過ぎるな! お前がやられちゃ何にもならないんだぞ!』 「大丈夫ですよ。それに今回、今まで皆さんに守られてばかりでした。その借りは返さないといけません」 砲弾の雨が降る中、フレキシブルアームに装備されたビームセイバーで次々と周辺のベヒモスを切り捨てる。 榴弾を浴び、全身に満遍なく被弾していくジェネシス。だけどもその顔に、脅えや怯みは全く感じられなくて。 「それに……正義の味方は決して負けたりしませんっ!」 『ねここ、雪乃ちゃん。準備OK?』 「いつでも、いけるの」 「こちらもOKです、何時でも」 皆が前方で突破口を開いてる間、後方で体制を整えたねここ。シューティングスターの出力を臨界寸前まで上昇させている。 そして、今回追予備タンクとして利用していたシューティングスターの2門のレーザーライフルユニット。 そこへ雪乃ちゃんのバスターランチャーのエネルギーカートリッジを装填。 元々内部は改装済で多用途に対応可能なように改造してたとはいえ、テストも無しに使うのは危険なのだけれど止むを得ない。 そしてその隣に、バスターランチャーの出力を同じく臨界寸前まで上昇、射撃体勢に入った雪乃ちゃんが待機。 素体とランチャーは数本のエネルギーチューブによって接続されていて、本体側からもエネルギー注入が行われている。 『そろそろ時間ね。カウント、3……2……1……0!』 「皆さん避けてくださいよ……発射っ!」 たちまち正面に巨大な光の円柱が出現する。それは進路上にあるもの全てを飲み込む破壊の光。 「来ます。回避をっ!」 「えぇっ!」 それまでの抵抗から一転、急速回避に移る三人。 各々が飛び退いた直後、それまで彼女たちがいた区域を爆発的なエネルギーが薙ぎ払ってゆく。 それは濃霧すら巻き込み、通り過ぎた後には何物も存在しない空間のみが残る。 同時に、空白になった空間を猛加速で駆け抜けて行く流星。 ねここが最大出力で目標点へ向かって電撃的な突入を開始したのだ。 実体弾である以上、相対速度が上回ってしまえば砲弾が当たる確立は格段に減少する。 偏差射撃に関してはソレを行われる前に空域を突破してしまえばいい。 だけど初期加速の時点ではスピードが出ない。そのため無茶を承知で加速するための空間、突破口を作ってもらったのだ。 そしてタイミングを合わせジェネシスとドッキング、彼女を連れて一気に第四エリアを突破する。それが作戦だった。 「あとちょっと…ジェネシスちゃん! タイミング合わせてっ」 「了解ねここっ!……うぁっ!?」 その時、空中で待機していたジェネシスに砲弾が命中! しかも榴弾ではなく成型炸薬弾。 「ま、まだいけますっ」 そうは言うけど傍目から見ても装甲の過半を持ってかれてしまい、空中制御にも影響が出ているみたい。 『何だ! 遠距離砲撃じゃないって……周辺に周辺の敵は駆逐した筈だぞ!? 』 それは、ヴン! と言う微かな電子音と共に現れた。 バスターランチャーによって抉り取られた空間、そこに突如大量のホイホイさんが出現したのだ。 『……ち、伏兵か!一定数以下になると増援として出現するよう組まれてたなコイツら。 ……ジェネシス、ねここちゃんが来るまでに少しでも数を減らしてくれ。出来るか?』 「やってみます……が、ドラグーン4基破損、フレキシブルアームも4本動作不能。少し厳しいかもしれません。」 「私が、やります。 フライ!」 その言葉と共に満身創痍のジェネシスの前に出現したのは、足首に白き翼を発生させ華麗に飛翔する魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン。 そして、10枚近いカードを目前に展開してゆく。 『ココ、無茶よ!? そんなに大量のカードを一度に使うなんて、貴方の処理能力が持たないかもしれない!』 「……平気です、静香が手入れをしてくれるこのボディ。 信じてますから。それに、友達のピンチは頬って置けないんですよね、静香」 それ以上何も言えなくなった静香さん、ココちゃんはやがて軽やかに小鳥が囀るように呪文を詠唱してゆく。 「我に仇名す 全ての者へ 我と汝が用いる力の全てを紡ぎ その礎とならん 神々の 魂すらも打ち砕く 全カ-ド……発動!」 詠唱完了と共に、ステッキとココ本体より莫大な起動エネルギーがカードに送り込まれる。 そして極僅かな一瞬の静寂の後、各々のカードより起爆剤を受けて爆発した膨大な力が溢れ出す。 あるカードは火炎放射で地面で薙ぎ払い、別のカードは圧縮空気によるカマイタチ現象で直線状にある全ての物を切り刻む。 大地には巨大な地割れが何本も巨大な熊に引き裂かれた爪痕のように走り、逃げ遅れたランドバイザーがその奈落の底へと呑み込まれてゆく。 また別の場所では巨大な竜巻が発生、近づき触れた全ての物を巻き上げ、そして内部で粉々に砕き猛威を振るう。 周囲はまるで天変地異、此の世の終わりが訪れたかのような地獄絵図と化していた。 それら全てのカードを駆使して最大限の有効打を敵に与えつつ、味方への被害が出ないよう最新の注意を持って制御する。 額には大量の汗が滲む。水冷式による強制冷却が最大で行われていたが、それでも尚ココへの負担は加速度的に増している。 「ねここ接触まで……あと5……3…2…1…今っ」 「了解、届いてっ!」 残ったスラスターを全開にして、空中の合流ポイントへ向かうジェネシス。同時にワイヤークローデバイスを伸ばし、ねここにキャッチして貰う体制を作り上げる。 瞬間、邂逅ポイントに殆ど肉眼では観測しきれない速度のねここが現れる。一瞬のタイミングでガッチリと両腕でデバイスを掴み上げる。 「全装備強制排除!」 クローデバイス以外、ジェネシスの全武装が一瞬のうちにパージされ身軽になったジェネシス。 身体を捻ってシューティングスターの背中に着地すると、自らショック体制を取り再加速に備える。それは…… 『ねここ、ローエングリン発射っ!』 「了解なのっ! ファイヤー!!!」 シューティングスター両舷に設置された、主砲と言うべき2門のLC3レーザーライフル-それは外装のみであり、実際は陽電子砲-が唸りを上げて発射される。それは虚空を一直線に直進、やがて拡散してゆく。 その射線に存在する云わば見えないトンネルを、通常ではありえない加速速度で稲妻のように駆け抜けるねここ。 これはポジトロニック・インターファライアンス(Positronic Interference・陽電子干渉)という現象を利用したもので、円錐状の反物質のコクーンを 作り出して、その中を機体が進むことで、せい物質である大気がコクーンに遮られて空気抵抗を無視して加速する。 理論上直線機動しか取れないが、その桁違いの加速は十分実用に耐えうるシステム。特に今回のような状況下では非常に役立つ。 地上からは対空砲が隅田川の花火大会の如く無数に放たれるものの、一発として当たる気配はない。 相対速度が桁違いのため、砲弾が砲身より射出された時点で、ねここは遥か彼方へと移動を完了しているのだ。 二人は重厚な防衛網が設置された第四エリア中央部を一瞬にして突破していった。 ……まぁリアルバトルで陽電子砲なんて迂闊に撃ったら環境破壊もいいとこなんだけれど…… 「行きまし……た…ね」 フラリと身体が崩れ落下してゆくココ。限界が来たのだ。でもその表情はとても満足げで…… 残った力も無く、重力に身を任せなすがまま地上との強烈な接吻をしようかという瞬間。 「……回収完了。ダメですよ、貴方が傷ついては静香さんが悲しみます」 「雪…乃です…か」 「えぇ、ココはゆっくり休んでください。……二人は無事行きました。私たちは一旦撤退してあの二人の帰りを待ちましょう。 ……私たちは全力を尽くしました。あとは、祈るだけです」 [[続く>ねここの飼い方・劇場版 ~十一章~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]