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「Southern Cross」 - (2007/04/08 (日) 21:54:00) のソース
槙縞ランキング決勝リーグは、武士達が思っていたより遥かに地味に、密やかに行われようとしていた 何せ会場(言う迄も無く、何時も通りの槙縞玩具店だが)に人が少ない どうにも、前のナインブレイカーの時もそうだったのだが、取り立てて外の客に告知もしていないのか、どうも予選の時の方が余程活気があった様に思う 保護されている上位ランカー、ちらと耳にした「バニシングフォー」の噂、『モア』の異変・・・だが、もうたたらを踏んでいる時でない事は充分承知していた 「行くぜ、華墨!」 半ば以上は自分に言い聞かせる様に呟いて、武士は闘いの門をくぐった * 「Southern Cross」 「来たか・・・君達で最後だ、抽選を始めよう」 皆川の顔には僅かな微笑が浮かんでいた 異常に色白なこの男は、笑っても怖い顔だと華墨は密かに思った 「今更説明する迄も無いと思うが、このリーグを制した者がクイントスに挑む権利を得る・・・君達の健闘を祈るよ」 簡素に過ぎる挨拶と共に、抽選会は開始され、組み合わせはあっという間に決まった Aブロック第一試合(この期に及んで使用される筺体は2台だった) 『ズィータ』VS『ストリクス』 第二試合 『ニビル』VS『仁竜』 Bブロック第一試合 『華墨』VS『ヌル』 第二試合 『タスラム』VS『ウインダム』 これだけである 恐らく長引いても二時間程で全試合が終了するであろうこの決勝リーグがしかし、ランカー達にとっては本当の闘いなのだ 全体的に異様にぴりぴりした空気を華墨は感じ取っていた (鬼の住む国だな・・・今この会場に居るのは修羅ばかりだ) 否、恐らくは自分がこの場に居る事は間違いですらあるのではないかと迄華墨は思っていた ぽっと出の新人が居て居心地の良い空気でない事だけは確かだった 相手がニビルであれば、まだしも気が楽だったかも知れない だが、今この会場において、華墨が最も苦手意識を持っているのが、同じく新人である筈のヌルであった 前の闘いで、ある意味自分とは全く異質の、不気味とも言える『強さ』を示して見せたヌル・・・出来る事なら最後にして欲しかったというのが本音であった 「華墨・・・大丈夫か?」 「大丈夫だマスター・・・ヌルが相手なら・・・楽勝だな!」 嫌な強がりだ。だが、現実的に考えると、このメンバーの中で本来彼女と最も実力が近い筈なのがヌルであった (大丈夫、やれる筈だ・・・頑張れ、私!) 実は、同時刻に当のヌル本人も、全く同じ台詞でセルフコントロールしていた事実を、当然華墨は知らない &ref(http://f.hatena.ne.jp/images/fotolife/n/nuenonakuyoru/20070408/20070408190614.jpg)VS&ref(http://f.hatena.ne.jp/images/fotolife/n/nuenonakuyoru/20070130/20070130121020.jpg) 『ポッドイン確認。これより、カウントダウンを開始します』 「いいか華墨、お前がお前の全部をきちんと引き出せれば負ける相手じゃない。自信を持て、お前は確かに強くなってる!」 「ヌル、後で必ず合いましょう・・・応援してるわ・・・(ちゅ)」 それぞれがそれぞれのマスターのやり方で、それぞれの神姫を激励する (『マスター』、私は勝ってみせる・・・必ず) それはヌルと華墨両者が同時に思った事だ。だが現実に、勝利の女神は二人の戦士を同時に選びはしない 『バトル、スタート』 二人の神姫は、同時に目を開けた・・・! 舞台は『夜の都市』 空虚なビル群と寒々しい月が、張り詰めた空気と相俟って強烈な焦燥感を二人にもたらしていた (あいつは小技は使わない・・・必ず真正面から来る!) (どこだ?見つけ次第密着戦に持ち込んで、地べたにはいつくばらせてやる!) 焦りと思い込みが、二人の思考を凍らせていた 本来ヌルは、今回のバトルに併せてマスィーンズの操作を練習しており、華墨を発見し次第一方的に攻撃出来る筈であった また、華墨は華墨で、サイドボードに空中戦用の装備を控えさせており、始めからそれを使っていればこの様な事態は防げたであろう (妙だな・・・静か過ぎる?) (まさか隠れたのか?) どすん ビルの角から不意に出て来た互いを回避し切れず、ぶつかって無様に尻餅をつく 「な・・・っ!?」 「貴様っ!?」 機銃を振り上げる華墨、その柄尻にヌルの踵が入る ばらばらと無為に弾丸がばら撒かれ、またヌルは無理な姿勢がたたって追撃が出来ず、そのまま転がってやり過ごすしかなかった (油断した・・・がッ) (お互い様のようだな) 距離を取って睨み合う・・・この時点で既に華墨は自分のサイドボードの存在を、ヌルはマスィーンズの存在を完全に失念している (・・・装甲を着込んだのか・・・この時期に急に装備変更とは、気合が違うな) 「ふっ!」 犬腕を振り回しながら滑り込んでくるヌル・・・重そうな外見に似合わない機敏な動作だったがしかし、左肩の肩当を肘に押し込んで止める (重いッ・・・!) 直ぐに浮き上がってくる膝に腕甲を当て、衝撃はそのままに跳躍する華墨 「逃がすかぁっ!!」 跳ね上がって来たヌルの爪先をしのぐ、が、直後にもう一度、今度は反対の脚が弧を描きながら跳ね上がり、このバトル最初の有効打はヌルから華墨にもたらされた 「づあっ!?」 今度は自ら跳躍したのではない、明らかに跳ね飛ばされ、宙を舞う華墨 「だぁっ!だぁーっ!だああぁぁぁぁっ!!」 追撃の拳、拳、脚! 最後の大振りだけは辛うじて避け切り、ビルの壁面に飛び付く華墨 (ダメージが大きい・・・装甲の強度そのものを武器にしているという事か) 「もうその種の曲芸に惑わされはしないっ!」 壁面を駆け上がる華墨の後を、半ば自身の蹴りの勢いで追跡するヌル・・・両者の距離が縮まる 「何時までも調子に乗るなよ・・・ッ!!」 空中で上半身を左に捻る華墨・・・一瞬だが、壁面に垂直に立つ格好になる ごつっ・・・ 左手で抜き放たれると同時に投擲された脇差がヌルの装甲面に激突する ぱぁん!! 直後に柄尻に華墨の右拳が激突し、硬い衝撃音と共にヌルの右拳甲に突き刺さる 「おおっ!?」 *どすん! 背中を下にして地表面への落下、ひと刹那遅れて華墨の膝がヌルの腹にめり込む 「があぁァッ!!」 「まだ動けるのかっ!?」 脚を振り回す勢いそのまま、側転で華墨の下敷き状態から一瞬で復帰するヌル・・・ダメージは先刻の華墨が受けたものの非ではない筈 「ねえさまと・・・約束したんだっ・・・!!」 今華墨が一番聞きたくなかった言葉かもしれなかった 「・・・・・・皆めいめいに、そういう『理由』があるのだろうな・・・」 「何っ!?」 「マスターの意に沿って、或いは闘争本能の猛るに任せて暴力を開放していただけの私には無い・・・理由と『誇り』が・・・」 思えば、自我と共に彼女に希薄であったのは、その種の『理由』ではなかったか 『寄る辺無く咲く花は美しい・・・されど現実には、何の寄る辺も無く咲き誇る花など、有り得よう筈も無いのですよ』 『私は貴女と闘いたい。貴女に認められたい・・・そういう欲求が確かに、私の中に存在する・・・という事だ』 『私も一人の武装神姫であるからには、より良い闘いを経験したいという欲求があるからだ』 『強く・・・なるでござる・・・そうしたら・・・許してあげるで・・・ござるよ』 「お前の『愛』とかが、私の中に育ちつつある剣に抗し切れるのか、見せてもらおう」 それは、或いは嫉妬であったのかも知れない 多分、ヌルが負けるとニビルは悲しむだろう だから、ニビルを悲しませたくない為にヌルは頑張れるのだろう 理由がある事は無い事よりも強いという事実に、華墨は気付き始めていた 強者に挑む為に必要な『意思』 それを闘志と呼ぶならば『闘志』に挑むのもまた『闘志』であろう 「勝負だ、ヌル!!」 ずるり、と 今迄に無い明確な闘志を湛えて、華墨の太刀が引き抜かれた (強く・・・なった!) ヌルは戦慄を覚えていた 彼女の知る華墨は、確かに優れた能力を持つ武装神姫ではあったが、同時に体に中身が伴わない、ちぐはぐさも持ち合わせる不安定な神姫でもあった だが、今彼女の前に立ち、強烈な威圧感を放つ武装神姫は間違い無く、戦士の顔をしていた まだまだ未熟な部分は、お互いいくらでもあるだろう 否、なればこそ、変化してゆくペースが速い 華墨が自分のあり方を、戦士であろうと定めつつある事を、ヌルは明確にこの時知覚したのだ (だからどうした!こいつは私にとって通過点に過ぎない筈だ!!さっさと片付けて、姉さまのもとへ行くんだ、私は!!) 破損した右腕甲をパージ、サイドボードからSTR6を自動転送させ、射つ! 「お前が何に成ろうと!」 走り出す華墨・・・装甲を信じたその動きには、惑いも無ければ怖れも無い 何よりも、恐ろしく迅い・・・! (止まらないつもりか!?) 厳密には、このクラスの軽機関銃をまともに全弾喰らって無事である程、紅緒の装甲は堅牢ではなかった ただ、致命傷になる部位の前に太刀を構えておけば、銃弾くらいではその動きを制限する事は困難だった ましてや、今回華墨は兜を被っていない 自然ヌルが顔面を狙ったのも無理からぬことであったろう 「おおぉぉォッ!!」 「く・・・そっ!!」 機銃を捨てるヌル、だが、その左脚が華墨の顔面を薙ぐより速く、華墨の太刀がヌルの胸を切り裂いていた ニビルが優しくヌルの肩を抱く様を、華墨は遠目に見ていた 『勝利の女神が微笑むのは常に一人』 だが、ヌルにはそれ以外の女神が居る様に、華墨には思えた まだ自分には見えないものも手の届かないものも多い だからせめて、掴める勝利の女神の腕を ひとつひとつ闘いを重ねてゆくことが、今の華墨にとって自分を構築してゆく事であった [[剣は紅い花の誇り]] [[前へ> 「Somewhere Nowhere」]] [[次へ]]