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Gene13 お好み焼き屋 - (2007/05/14 (月) 16:32:11) のソース
「小さいのに(目が)大きいたま子ちゃ~ん! 豚玉、エビ玉、それに広島焼き頼むよ!」 「はいは~い!! おねーちゃん、モダン焼き1つ焼いて!」 「・・・今、広島焼きと妾は聞こえたのじゃが?」 撥ねる乳白、仄かな海の香、主役違えどタネは違えず。 「たま子、みやげのたこ焼き上がったのじゃ! じゃが汝は小さいのに(無茶が)大きいのであるから、1つづつ慎重に運べ、よいな?」 「おねーちゃん、そんなに何度も転ばないよ~!」 「その割に先程もイカ焼きを落としたのを妾は見たぞ?」 「・・・え、それ俺の食った奴?」 蒸せる熱気、額に汗。頬染まれども心地よい風。 「たま子ちゃん、なな子ちゃんにニラ玉頼んでくれない?」 「は~い。あ、でもおねーちゃん今手離せなさそう・・・。私が作ろっか?」 「止さぬか。小さいのに(思い切りだけ)大きい汝の作る見汚いニラ玉は客人になぞ出せるものではない」 「え~、最近はあんまりぐちゃぐちゃじゃないよ~」 「・・・私待つよ、たま子ちゃんには悪いけど」 弾けた油、焼け付く生地、香ばしくそそるソースの気配。 「うんうん、やっぱこの店って噂どおりだったな。なな子さんもいいけど、やっぱり小さいのに(胸)大きいたま子ちゃんもなかなか。キナ撒いてまで来てよ・・・ぎゃあっ!?」 「・・・客人と言えど、うちのたま子を色欲にまみれた目で見るならば容赦はせぬぞ?」 「おねーちゃん! お客さんにコテ投げないでよ!!」 「なれば汝も自覚せんかたま子! 汝は只でさえ目立つのじゃぞ? 妾を見習い、もう少し淑やかにじゃな・・・」 「あ~、じゃあ訂正、やっぱりエプロンがちょっと着崩れたなな子さんの方が色っぽ・・・あぎゃあっ!!?」 「妾を辱めるなれば、その3倍地獄を見てもらうぞ、客人」 紅い火力、黒き鉄板、時たま飛び交う銀のコテ(笑)。 鉄板焼屋、「ニラ玉」。これが、私の家です。 みなさま始めまして。私の名前はたま子って言います。ホントは種子ってパパさん付けようとしてたんだけど、ママさんに可愛くないって却下されたんだって。家族はパパさんとママさんとなな子おねーちゃんです。あ、血は繋がってないですけど。それから、私の夢は・・・ 「小さいのに(声が)大きいたま子ちゃ~ん! 注文ヨロシク」 「あ、はいは~い!」 ---- 「はあぁ~、やっとお客さん引いたよ~」 くたくたに疲れて、私は誰もいないカウンター席に座り込む。うわ、もう3時回ってるよ。 「休日までご苦労じゃった、たま子。賄いを食すであろう、何が良いのじゃ?」 「エビ玉~。ホントにパパさんもママさんもどーして忙しい時ばっかりいないのかな~」 「あの二人の旅行癖は今に始まった事ではないじゃろう? 妾一人で店番する時もあるからのう、妾にとっては今更じゃ」 おねーちゃんはそんな風にクールに言って、お好み焼きのタネを鉄板に流し出す。生地は熱の冷めない鉄板の上であっという間に焼けていく。そして舞い踊る円盤とコテ。もうパパさんとほとんど変わらない腕前だよ。 「まぁ、今日はたま子のお陰で随分と助かっておるよ。ただ、小さいのに威勢だけは大きい汝の手元が危なっかしくて、何度か心臓は縮んだがのう?」 「もうっ! おねーちゃんまで「小さいのに大きい」って言わないでよ!!おねーちゃんだって小さいじゃない!」 「なっ仲間の内では標準じゃぞ!!」 「でもでも、私より小さいじゃない! 問題はトップとアンダーの差なんだし!!」 「・・・あ、身長の話では無いのじゃな」 「いやでも結局負けてるんじゃないおねーちゃん」 「じゃが汝よりは尻は出ておらぬぞ」 「あっヒドい! 人が気にしてるコトを~!!」 「真実じゃ」 抗議しようとする私の眼前に、ひらり舞い降りるコナモノ。完璧に焼きあがり香ばしくソースを纏うそれと、大きなコテを片手に微笑む姿を見ちゃうと、やっぱりむくれる気なんて無くなっちゃう。おねーちゃんって、やっぱり凄いなあ。 「そう言えば、たま子」 「? どうしたの?」 今度は自分の分の小さい広島焼きを焼きながら、おねーちゃんが呟き始める。こういう時決まっておねーちゃんは哲学っぽい話をしてくれる。黙々と鉄板に向かってると考え事したくなるんだって。大体難しい話だけど、例えが楽しくてけっこう私は好き。 「お好み焼きの生地はタネと言うが、どの生地も基本はほとんど変わらぬじゃろう? 決まった花を咲かす植物の種子とは似ても似つかぬとは思わぬか?」 「あ、それ私も思った! 同じなのに出来上がるものってゼンゼン違うよね! もんじゃとお好み焼きなんて共通点あるの? って位に」 「・・・たま子、汝、もんじゃ焼きの客にもお好み焼きのタネを出しておったのか!? あれは別物じゃと説明したじゃろうが!!」 「え、ウソ!!?」 次間違えたら容赦しないって、おねーちゃんの眼とコテが語ってる。は、はうぅ、だってお客さん何も言わなかったよ~。 「・・・まあともかくじゃ。その様に、同じ種子、つまり同じ要因から生まれた結果という花が幾重にも食い違う。それは当然じゃとは思わぬか?」 「うーんと、例えば?」 「例えば妾と汝が同じニラ玉を作ったとして、妾のは整然とし、汝のものは形作るのもままならぬじゃろう」 「も~、ちょっとは上手くなったよ~・・・コゲるけど」 おねーちゃんは信じてくれてないみたい。くそ~、おねーちゃんのまかない私が作って見せればよかった。 「作り手が違うだけでもそれだけ違うのじゃ。なれば原点が同じとて、功績、技能、勝敗、性格、それらが道を違えるのは当然じゃ。じゃが、人間はそれを良しとしない時があるのじゃ。判るか、たま子?」 「え~、同じ性格の子とか居ない方が楽しいと思うけどな~」 「では聞くが、例えば汝の好むプリン、何時でも美味なものを食したいと思うじゃろう?」 「うん」 「それはつまり、何時でも均質なプリンを提供されたいと望む事じゃ。何時でも同じ要因から同じ結果を。それが、多様性の排除じゃ」 う~んと、要は売ってるプリン買えば失敗したプリンをイヤイヤ食べるなんてしなくていいって事かな? そりゃ私プリンも良く失敗するけどさ~。 「でも、同じプリンばっかり食べたら、美味しくても飽きるよ?」 「それはそうであろう。人間は刺激に慣れてしまうのじゃからな。しかし明らかな失敗も蒙りたくはない。では、如何にすれば良いと思う?」 「え~っと、たまには抹茶プリンも食べる!」 「正解じゃ」 「え、ウソ!?」 私はけっこうジョーダンのつもりだったけど。でも嘘じゃないっておねーちゃんの顔が言ってる。 「・・1種類であれば多様性を持たせれば良い。個人の認識を凌駕するように、しかし人間という“集団”の許容力からは外れぬようにな。それで、変化を望む気持ち、不変を求める気持ちの双方を満たせるという訳・・じゃな」 語尾の声がちょっと弱しい気がした。箸を止めて見上げたら、どうしてか、おねーちゃんが少しさみしそうに見えた。 「・・・それって、悪い事なの?」 「そうじゃな、悪くは無い。普通の気持ちじゃろうて。じゃがな、プリンにしてみれば結局道を外れる事は許されないんじゃよ。求められるのはそう、“選択肢”でこそあれ“不確実性”では無いのじゃ。受け入れ難い個性なぞ必要とされないのじゃよ」 さみしげな眼が、私を向いた。おねーちゃんはわかりやすく教えてくれるけど、それでもおねーちゃんがどうして悲しいのか、私にはよくわかんない。でも・・・ 「この職にしてもそうじゃ。客人が真に求めるのは父君や妾が失敗と試行錯誤の末極めたお好み焼きの“技能”では無い。何時でも美味しいお好み焼きの味わえる“技術”なんじゃ。それが可能でさえあれば、この様な店、意義を持たぬであろう?」 でも、それでも、おねーちゃんは、失敗したプリンも、失敗したニラ玉も、文句言いながら一緒に食べてくれるのを、私は知ってるよ。 「・・・おねーちゃん、私の夢はね、がんばって練習して、パパさんやおねーちゃんより美味しいニラ玉作れるようになって、それでおねーちゃんといっしょにずっとこのお店をやっていく事なんだ」 「・・・妾や父君よりも美味くなる、か。随分と大きく出たのじゃな」 「おねーちゃんと一緒にって所も大事なんだよ♪」 「その前に妾が死ぬ事もありえるのじゃが?」 「ダメっ! おねーちゃんはずっと一緒じゃなきゃ!!」 「・・・“変化”も“不変”も欲するか。欲張りじゃな」 でも、おねーちゃんだって今、嬉しそうに笑ってるじゃない。 「でもやっぱりさー、私と同じ顔や性格のヒトなんて何人も居たらイヤだなー」 「全くじゃ。一人でも厄介なのに、小さいのに(失敗が)大きい輩がこれ以上増えたら始末に終えぬぞ」 「あ~! おねーちゃんヒドい~!! おねーちゃんだって自分と同じヒトがいっぱい居たらイヤでしょ?」 「妾の気高く高貴な気質が、易々と何人にも生まれる筈が無いじゃろう? 顔はともかく」 「え~、同じ顔もいたらイヤじゃない? おねーちゃんプライド高いし」 「そうは言うが、同じ顔が居る事なぞ今更じゃよ。何せ妾は・・・」 「武装神姫、じゃからな」 [[目次へ>Gene Less]]