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*鋼の心 ~Eisen Herz~
**第25話:運命の系統樹
「Shit!! デカブツ、しっかり援護しろヨ?」
爆撃機型ヴァッフェバニーのリーヴェレータが飛ばした叱責に、最大級の巨躯を誇る四脚の超大型神姫、要塞さんと俗称される神姫が弾幕を展開する。
「……相変わらず大した火力です……。……ですが、これだけでは通じません……」
密度の高い弾幕の只中にありながらも、フブキはその大部分を回避し、避せない数発を翼と刀で弾き、なおも接近。
「………」
「Bingo!! 真上ががら空きだゼ、黒いのォ!!」
事前の相談で弾幕の密度を調整し、動きを先読みしたリーヴェがその隙を狙って急降下爆撃を敢行。
しかし。
「What!?」
翼から射出された無数の羽手裏剣に穿たれ、堪らずに離脱。
さすがに装甲も厚いため、一撃で墜落こそしなかったものの、今後の爆撃を躊躇わせるには充分すぎる迎撃能力だと言える。
しかし、この戦いは2対1。
一瞬フリーになった要塞さんが、その巨躯からは想像もつかない突進力でフブキに肉薄。
「―――!?」
前部マニピュレータに加え、両前脚部、砲撃腕、素体腕の合計8つのアームでフブキを押さえ込みに掛かる。
「力押しならば勝てると踏みましたか。……悪くない判断です」
でも、とフブキは前置きしながら一歩前に踏み込む。
「私の攻撃も避せないでしょう?」
そして、密着状態からの羽手裏剣の連打。
一撃一撃の威力こそ大きくはないが、連射数が半端ではない。
見る見るうちに頑強な装甲に傷跡が増えて行き……。
「……トドメです」
「Bad!! 甘いんだヨ、2対1だろうガ!?」
直上からの声に仰ぎ見れば、そこには間近に迫ったリーヴェレータの姿。
「Sorry、デカブツ。 悪いが3人纏めてリタイアにさせてもらうゼ!!」
「特攻? 諸共に!?」
「Yes!! お前を倒せって上官(オーナー)からの命令なんでナ!! 一緒に逝って貰うぜ!? Hahahahaha!!」
笑いながらフブキの上に落ちてくるリーヴェ。
飛行タイプに有るまじき超重量と、満載した爆弾と燃料。
質量と爆発の二段構えは要塞さんですらアッサリと吹き飛ばすだろう。
もちろん、より軽く、脆い筈のフブキに耐えられる攻撃では無い。
リーヴェも要塞さんも、フブキとの戦闘はこれが初めてではない。
彼女が幽霊として活動している時期に遭遇し、成す術もなく敗退した苦い経験がある。
故に、彼女達は最初から自分が勝ち残る事は考えていない。
倒せば良い、と言うルールならば相打ちで構わないのだ。
そして、自らを守った上で勝てるほど容易い相手ではない。
たとえ、ランク2位と3位の二人掛かりであろうとも……。
そう。
「……無為」
「「―――!?」」
それほどまでにフブキは強かった。
黒い翼が剣の如く閃き、要塞さんの頑強な四肢を軽々と切断してのける。
「……!?」
「Shit!!」
拘束を解かれたフブキを前にしても、最早リーヴェの落下は自身にすら止められない。
そして……。
◆
事は10分ほど前に遡る。
故人である土方真紀からの、衝撃的な宣言の十数秒後。
無機質な電子音に島田祐一と村上衛は我に返った。
「……ふむ、美樹りんですか」
「なに、その萌えネーム?」
美樹りん、こと松原美樹。
祐一とも既知であるこの神姫センターの店長さんだ。
「なに、私と美樹りんは、『衛ん、美樹りん』と呼び合う仲なのですよ」
一応明記しておくが事実無根である。
「……つーか、出なくて良いんですか?」
「…ふむ。まぁ、用件は分かっていますがね……」
そう呟きながら通話ボタンを釦下した瞬間。
『先輩~、何とかしてください~』
泣きべそかいている店長ちゃんの声が、はた迷惑な大音量でかき鳴らされた。
「……まずは落ち着いて下さい。美樹りん」
『美樹りんって呼ばないで下さい~』
「まぁ、とりあえずこの事態を何とかすればいいんでしょう?」
『はい~。お客さんが騒ぎ出しているんですよ。如何したら良いんでしょうか~?』
「ではまず、お帰りなさいませご主人様と―――」
不穏当な事を吹き込み始めた変態科学者を島田家伝統の金属バットで黙らせると、祐一は村上の携帯を奪い取った。
「あ~、店長?」
『はぇ? 祐一君ですか?』
「はい。とりあえず、今から言うとおりに場内放送をしてください……」
『???』
―――。
「―――って事で」
『い、良いんですか? そんな事して本社から何か言われたら私、クビになっちゃいますよぉ?』
「大丈夫!! 姉さんが責任を取る!!」
こういう時(悪巧み系)には無駄に頼れる姉に丸投げする祐一。
『大丈夫!! 美樹りんが懲戒免職喰らったら、ウチ(典雅)で雇ってあげるわ。……時給250円で(ポソ)』
『今なんか聞こえたぁ、不穏当な発言が聞こえたぁ!! 私は横島君ですかぁ!?』
『うるさい黙れ』
『はい、黙ります先輩!!』
完全に調教済みだった。
「……あ~、それじゃ頼みますね……」
と、通話を切って、ノびている村上を蹴り起こす。
「村上さん、村上さん。起きて下さい……」
「うぅ……。なにやら後頭部に鈍痛が……」
「気のせいですよ」
「……そうですか。……はて、私は一体何をしてたのでしたっけ?」
「そんな事は如何でも良いんで、確認したい事とお願いしたいことがあります―――」
◆
「何処へ行くつもりかね?」
「……。……芹沢教授……」
土方京子は、神姫センターの出口でその老人と対峙した。
「……来ておられたのですか。……ご覧の通り、真紀の計画は動き出しました……。……貴方の妨害も無駄でしたね……」
「ふむ、だがしかし。……まだ終わってはおらぬぞ?」
愉快そうに目を細める老人を、京子は怒気を孕んだ目で睨む。
「……真紀の神姫が。……あのフブキを倒せる神姫が存在するとでも?」
「…………」
「フブキは、生産性を度外視したワンオフのコンセプトマシンです。……性能劣化品である量産型の神姫とは根本的に性能が違う。……誰にも太刀打ちなど出来はしない……」
「……如何かな? 少なくとも、ワシはそれが出来る神姫たちを知っておる……」
「ふん、ハッタリを。……貴方にはもう騙されません」
「……まぁ良いさ。……それよりも、帰るには少し早いのでは無いかね?」
「既に、真紀の計画は動き出しました。……私の出番はもうありません……。……最期は、せめてこの子達と共に静かに―――」
『―――それでは、ただ今よりコナミ主催の特別企画!! 最強の武装神姫、フブキへの挑戦者を募集します!! エントリーを希望なされる方は―――』
「……………ぇ?」
「ほほぅ……。誰かは知らぬが、頭の回る奴が居るようじゃな」
神姫の生存を賭けた真紀の宣言は―――。
―――ただ一つの場内放送で『ゲーム』へと落とされた。
「……っ!!」
「―――京子さん!!」
「……少年?」
歯軋りをする京子が店の奥から呼び止める声に振り向けば、そこには島田祐一の姿。
「……決着を、付けに来ました……」
「真紀の宣言を聞いた筈だ……。倒すなら私ではなく、フブキだろう?」
「関係無いです」
祐一は言い放つ。
「俺達は……。俺とアイゼンは、貴女と決着を付けに来ただけですから……」
「……ほぅ…」
祐一の言葉を聴き、嬉しそうに目を細める京子。
「約束、覚えてますよね?」
「ああ、負けた方が勝った方の命令を聞くんだったな……。だが良いのか? フブキに対抗できそうなのはお前達ぐらいだろうに?」
「いえ。アイゼンには多分無理です」
「?」
京子は、そう言い切った祐一に怪訝な目を向ける。
「……でも、アイツを倒せる神姫は居るんで、幽霊退治はそちらに任せます」
「お前も同じ事を言うのだな……」
ふと視線を戻せば、既に芹沢の姿は無い。
(相変わらず神出鬼没な老人だ……)
「……良いだろう。その申し出、受けて立つ!!」
「村上さんに頼んで、対戦台を一つ用意してもらいました。……決着は、そこで……」
「……ああ、分かった」
素直に頷き、何となく確信する。
「……先ほどの放送。入れ知恵したのはお前か、少年?」
「はい」
「……そうか。……ならば覚悟すると良い―――」
京子は、祐一を睨む。
「―――お前は、私の逆鱗に触れた」
◆
こうして。
島田祐一最大の賭けが始まる。
◆
『分かってるね、アイゼン……。さっきの作戦通りに……』
「……大丈夫。……マスターの想像通りなら、負ける要素が無い」
『ああ。……でも、例えそうでなくても、絶対に勝たなきゃダメだ……』
村上が復旧させた対戦台へのエントリー作業中、祐一とアイゼンは最後のブリーフィングを交わす。
既にゲートの中に入っているアイゼンからは、最早祐一の表情は見えないが、だからこそ聞いておきたい事を聞く事にした。
「……マスター。一つ、聞いても良い?」
『ん? 何?』
「……」
アイゼンは一瞬言葉を選ぶ。
「……どうして、アスターはこんな得にもならない事をするの? ……マスターの予想が正しいならば、この事件は―――」
『―――俺の予想が当たっても、外れても。……きっと京子さんは後悔するだろうから……』
「……あの人の為、……なの?」
『半分は』
「……半分?」
アイゼンは首を傾げる。
「……じゃあ、もう半分は?」
『……ん~、そうだなぁ……。お礼の為、かな?』
「……お礼? ……誰に? ……何の?」
『―――それはね―――』
そして、祐一は彼女の名を口にした。
『―――が、逢わせてくれた人の為、……かな?』
「……」
『……どうした、アイゼン?』
「……なんでもない……。……ちょっと、……嬉しかっただけ……」
『?』
「……勝ってくる。……それで、“皆”で一緒に終わらせよう……」
『ああ、頼むよ。アイゼン』
「……ん」
◆
対戦台は『砂漠』ステージ。
時間設定は深夜だが、空に浮かぶ大きな満月が周囲を明るく照らす為、視界に不自由は無い。
戦闘開始から程なくして、アイゼンとカトレアは互いの姿を目視で確認した。
「……決着、……付けに来た……!!」
「………………」
レイブレードを展開したままうつむくカトレアは、アイゼンと目を合わせようとはしない。
「……?」
(……お望みどおり、勝たせて上げます……)
「……え?」
(……斬るなり、撃つなり、好きなようにして下さい……)
戦場を見守る互いのオーナーに気付かれぬほど小さな声で、カトレアはアイゼンにだけ話しかける。
(この戦い、私は勝ってはいけないんです……)
(……どういう、意味?)
応じて、アイゼンも可聴域ギリギリの小声で返した。
(……真紀さまの計画が終われば、私達も死ぬでしょう……。そうしたらマスターは一人ぼっちです……)
(……)
(マスターは真紀さまの事に負い目を感じています……。でも、私達は、これ以上マスターが苦しむのは嫌なんです……)
(……)
(真紀さまが亡くなられてから今まで、マスターは償いの為だけに生きてきました……、自分が傷つくのも顧みずに……)
(……)
(もう充分です。……マスターは充分真紀さまへの償いを果たしました……。だから……)
(……だから、ワザと負けるって?)
(はい)
「……」
(……)
「――――――な……」
「え?」
「……ふざけるな。……傷ついていたのが分かっていて、何で今日まで何もしなかった!?」
「……それは……!! ……マスターがそう望んでいたから……」
「だったら、最期までそれを果たせばいい!!」
「でも!!」
「……マスターが間違っていると思ったのなら正せたでしょう? ……私達武装神姫はそれが出来る……」
「だったら、貴女なら止められるんですか!?」
「―――止めないよ」
「え?」
「……レライナ辺りなら、マスターの過ちを殴ってでも正すんだろうけど、……私はしない……」
「なら、どうすると……?」
一呼吸分だけ間をおいて、アイゼンはこう言った。
「……私なら、マスターの全てを肯定する。……マスターが間違っていても正したりしない。……マスターが地獄に落ちるなら、私も一緒に逝く。……マスターが裁かれるなら、私も一緒に罪を負う……。……私は、ずっとマスターの傍に居るって、そう約束したから……」
「……なら、私はどうすれば……」
「……こうなるまで放っておいたんだ。……お前達も一緒に地獄へ落ちろ……」
「……そんな……」
「……マスターが……、祐一が優しいからってそれに甘えるな……。土方京子はお前のマスターだろう? ……お前が出来なかった事を、祐一にさせようとするな……!!」
「……っ」
息を呑むカトレアにアイゼンは止めを刺す。
「……それでも戦いたくないなら、……教えてあげる……」
「?」
「……マスターが勝ったら、土方京子に何を望むのか……」
「……え?」
「……マスターが勝ったら、マスターは―――」
そして、アイゼンが告げた内容に、カトレアの表情が変わる。
「……な、……そんな……。……そんな、酷い事……」
「……させたくないよね? ……させられないよね? ……でも、お前がマスターを守る事を放棄して、他人(祐一)の手に委ねるなら……」
「……ぁ」
「……待っているのは、そういう結末、だ……」
「ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
鋼すら両断する光剣を振りかざし、カトレアが突進する。
(……やっぱり速い……)
怒りで我を忘れている為か、軌道が読めるにも拘らず紙一重でしか避わせない。
(……けど、コレでいい……)
この戦い。
ただ勝つだけではダメなのだ。
カトレアが本気で怒るくらいに、無茶な要求を出すのだから。
「……私とマスターが……、カトレアと土方京子を超える位の無茶を通さなければ、話にもならない……!!」
背面のエンジンユニットを手に取り、砲身と連結。
アイゼン最大にして最強の火器、フェルミオン・ブレイカーを行使する為の砲撃モードを形成。
カトレアの斬撃を跳びあがって避わし、上空から必殺のビームを解き放つ。
「―――消し飛べ……。『フェルミオン・ブレイカー』!!」
≪Fermion Breaker≫
AIの復唱と共に、白光が溢れかえり、戦場を染め上げた。
◆
『第一段階、クリア』
事此処に到っては、最早細かな指示は必要ない。
祐一はアイゼンを信じて、ただ見守り続けた。
◆
≪system“Accelerator / Un Limited Mode”starting up≫
「……っ、くぅ!!」
頭痛と共に引き延ばされる体感時間。
アイゼンのAIとCSCに強い負担をかける加速モードは諸刃の剣。
≪―――10≫
現状、限界使用時間は10秒とされている。
それを過ぎれば、戦況の如何に因らずフランカー側のサポートAIが強制的にシステムをカットする。
≪―――9≫
(……つまり、それまでにチェック(王手)を掛ける!!)
撒き散らされた砂煙を突き抜けて飛び出してくるカトレア。
≪―――8≫
(此処までは予想通り……、後は私が頑張るだけ……!!)
「くたばれえぇぇぇっ!!」
ほぼ真下から昇って来るカトレアに、アイゼンは使用済みとなったフェルミオンブレイカーの砲身を切り離して投下。
カトレアがそれを斬り捨てる僅かな隙に、アイゼンは“切り札”を切る。
≪HyperRayBlade Disposition≫
フランカーの中枢。
リーナの造ったエンジンの出力は凄まじい。
それは、爆発的な加速力を誇るティグリースすらも圧倒する程だ。
そんなエンジンの出力で、大口径陽電子ビームを発射するのがフェルミオンブレイカー。
だがしかし。
攻撃範囲は広くとも威力の面ではまだまだカトレアのバリアには通じない。
だがしかし。
それで構わないのだ。
元々、フェルミオンブレイカーが通じないのは百も承知。
それでも。
フェルミオンブレイカーを撃った時点でアイゼンと祐一の勝ちはほぼ確定したも同然だったからだ。
≪―――5≫
「……あとは、……トドメを刺すだけ!!」
フェルミオンブレイカーを可能とするほどのエネルギーを、放射では無く集中させる事が出来れば。
そして、それを飛び道具ではなく、近接兵装に出来れば……。
それは、カトレアのレイブレードにすら匹敵する、超々高出力のレーザーブレードとなるだろう……。
≪―――4≫
それこそがハイパー・レイブレード。
「―――!?」
カトレアの光剣とアイゼンの光剣が交差する。
「……なっ!?」
圧倒的な高出力を持って、あらゆる剣を切断してきたカトレアにとって、それは初めて互角となる鍔競り合い。
レーザーソードも、実剣も、カトレアのレイブレードを前にしては只切断されるだけである。
だがしかし。
それが出来ない初めての剣。
それが今、アイゼンの手にあった。
≪―――3≫
『いけえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
「……っ!!」
「―――そんなっ!?」
鍔競り合いになってしまえば、後は単純な力比べ。
そうなれば。
……元々アーンヴァルに過ぎないカトレアが、ストラーフであるアイゼンに勝てる道理など無かった。
≪―――2≫
「―――くっ!!
空中での鍔競り合いに敗れ、地面に叩きつけられるカトレア。
元々非力なアーンヴァルが、腕力に因らず攻撃力を得る為の武器がレーザーソード。
それが進化した先に行き着いたのがカトレアと彼女のレイブレードだが、互角の出力を持つ武器が現れた以上、最早力押しは通用しない。
≪―――1≫
「……アクセラレータ、解除」
≪system“Accelerator ”Closing Down≫
砂煙で霞む視界の中、光の剣を構えたアイゼンが降りて来る。
「……そうか、……レイブレードを直接エンジンに繋ぐ事で出力を稼いだのですね……」
「……そう。コレなら貴女のレイブレードと互角に斬り合える……」
そう言って、アイゼンがそれを構え直す。
「……互角?」
それを見て、ようやく冷静さを取り戻したカトレアが笑う。
「……確かに威力は同等でしょう。……ですが、やはり貴女は私に勝てない……」
『……そうだな。確かに、威力は追いついたかも知れないが、それでは勝てないぞ。少年……』
失望を滲ませる京子の声。
『……無茶な出力を得る為に、肥大化したその武器の重量で、カトレアの剣速に追い着けると思うのか?』
「エンジンと直結していると言う事は、そのエンジンの重さを振り回すということ……」
指摘の通り、出力を得る為にエンジンユニットと直結されたハイパーレイブレードは確かに大きく重い。
『その武器を、カトレアより速く振るえなければ、どの道勝ち目は無いというのに……』
『……そうでも無いです。……その為に、フェルミオンブレイカーを撃っておいたんですから……』
「?」
『?』
不敵に返す祐一の態度に疑念を抱きつつも、カトレアは一歩間合いを詰める。
(……先ほどの加速モード? ですがアレは思考を加速させるものの筈。……機体性能が向上した訳ではない以上、私とのスピードの差は埋まらない……)
『(一体、何を企んでいる、少年?)』
「……」
『……よし、充分だ。……終わらせろ、アイゼン』
「……ん」
猛然と、アイゼンが進み出る。
「……っ」
『だが遅い。やはりカトレアの勝ちだ!!』
その言葉通り、振り下ろされたハイパーレイブレードがカトレアを捕らえるよりも一瞬速く、彼女のレイブレードがアイゼンの胴を薙ぐ。
そして……。
◆
「……なっ」
「…………」
眼前で止められた光の刃。
カトレアの前に、それを突きつけながらアイゼンが言う。
「……私の。……私とマスターの、……勝ちだ」
「な、……なんで……」
確かに胴を薙いだ筈。
にも拘らず、平然と勝ち名乗りを上げるアイゼン。
『何だと!? どういう事だ?』
「……その剣じゃ、何も斬れない。……ただそれだけ……」
「え?」
言われてようやく気付く。
カトレアのレイブレードは、既に機能停止をしていた事に……。
◆
試合開始前。
「わかりました……。対戦台は用意しましょう……」
「お願いします」
祐一が村上に対して望んだのは、カトレアとの対戦を行う為の対戦台の復旧だった。
「……それで、確認したい事というのは何でしょうか?」
「カトレアについてです……」
「……カトレア?」
「はい、彼女のレイブレード……。アレはやはり―――」
カトレアのレイブレードにある最も不自然な点。
それを指摘し、原理の推測を述べる祐一に村上は頷いた。
「―――ええ、祐一君の考えている通りでしょう……。でなければあれほどの高出力と持続性を両立は出来ません……」
「分かりました。……なら、使用するステージは砂漠で……」
「……!! なるほど……。そういう“手”ですか……」
言って村上は確信する。
その戦いの勝者が誰になるか、を……。
◆
「カトレアのレイブレードは、常時展開されている訳じゃない」
対戦台の外で、京子と祐一が向かい合う。
「……」
「普段展開されているのは、殆どエネルギーを消費しないホログラフィックセンサー……。そして、それに触れたものがある時にだけ、レイブレードの本体が展開される……」
すなわち。
カトレアのレイブレードは、何かを切断する時以外、殆どエネルギーそ消費しないのだ。
「それが、異常なまでの高出力と持続性を両立できている理由……」
斬る時以外にエネルギーを消費しない為、普通のレーザーソードならば30秒と持たないような高出力で刃を形成しても、充分にエネルギーは持つ。
「逆に言えば、常に何かを斬っている状態にしてやれば、30秒も持たないって事だ……」
「……そうか、それであのビーム砲(フェルミオンブレイカー)を……」
カトレアは、ようやく薄れ始めた砂煙を見渡す。
「あのビームで砂煙を起こし、それをホログラフィックセンサーに反応させてレイブレードを消耗させたのか……」
「……はい」
だからこそ、砂漠ステージを選んだ。
だからこそ、効かないと分かっていたフェルミオンブレイカーを撃った。
だからこそ、重くてもエネルギーを供給し続けられるようにレイブレードをエンジンと直結させた……。
「……完敗だな、少年。……見事だった……」
何処か険の取れた表情で儚げに笑う京子。
「……約束……、だったな。……どんな命令でも聞こう。……心でも身体でも好きにするがいい……」
「マスター!!」
これから祐一が何を求めるのか。
それを知っているカトレアが主の名を呼ぶ。
「……ます、たー」
だが、それ以外に出来る事などありはしなかった……。
「それじゃあ、京子さんにやってもらう事を言います……」
「ああ、何でもしてやろう」
自虐的にそう呟いた京子に、祐一は言った。
「貴女には、フブキを倒し、土方真紀の計画を阻止してもらいます!!」
と。
[[第26話:よつのは]]につづく
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休日を使ってルムメルティアとフォートブラッグをフルカスタムしていた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。ALCです。
まぁ、鋼の心の神姫は全部、組み換えだけで作れる(ビームサーベルは許して)を枷としているので切り張りしている改造機は出せないんですが……。
それはそれとして、フミカネさんの画集がありません。
地元のソフマップに無いとは思わなんだ……(泣)。
来週辺りに秋葉に行きましょうかね? と思っていたら別件で動けず。
半月後でもまだ売ってるよね?
と、ちょっと不安なALCでした~。
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