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Memories of Not Forgetting 第一話・2
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「ルーシィさんこんにちわ! アレある!? 売り切れてない!?」
ナットハンガーが開店早々、勢いよく、扉を開いて突入してきたのは優花だった。
「ええ、いつもの場所に置いてあるわ」
入口近くの商品棚の整理をしていたルーシィが、苦笑しながら答える。
優花は、ナットハンガーの常連客だった。優花の部屋に鎮座する模型は大半が、このナットハンガーで仕入れたものである。
もともと、優花は兵器関連のコーナー以外に目もくれなかった。だが、此処一年間、彼女が通い詰めたのはMMSコーナー、とりわけ武装神姫のコーナーであった。
一年と二ヶ月ほど前、ナットハンガーにおいて、優花は運命の――と本人は思い込んでいる――出会いを果たす。
その日、優花は相変わらず新作のプラモデルを物色していた。一時間ほどの品定めのすえ、旧世紀のドイツ軍戦車のプラモデルをレジに持っていった彼女は、レジ脇で見知らぬものを見かけた。
体長にして15cm。それは、みつあみの赤毛に、緑色のツナギのような服を着た少女のように見えた。彼女は此方に気づいたのだろう、にっこりと笑って、優花に手を振る。
「ルーシィさん、その子、なあに?」
「ああ、その子はフォートブラッグ。武装神姫よ。優花ちゃん、武装神姫って知ってる?」
ルーシィの問いに、優花は頷いた。確か、数回、テレビで見たことがあった。最近人気の、MMSと呼ばれる小型ロボット。そのシリーズの一つだったはずだ。
うろ覚えの知識を披露すると、ルーシィは微笑んで「概ねその通りよ」と答えた。
「先日、武装神姫の販促キャンペーンが始まったの。それで、プロモーションの一環で、サンプルの神姫がうちに来てるのよ。どうかしら、優花ちゃん? この子なんて、あなた好みだと思うわ」
「私好み?」
「そう。これからバトルロンドのデモンストレーションを始めるから、それを見て頂戴。私の言った意味、わかると思うわ」
ウインクを一つ、楽しげに、ルーシィが言った。
ナットハンガーは個人経営の玩具店であり、店舗はさほど広くはない。
それ故に、今回バトルロンドのデモを行うのは、平均的なバトルロンド用のユニットより小さい、一畳程度の面積を持つ筐体である。高さ1m程のガラス板で包まれた筐体内部には、廃墟と化した繁華街をイメージしたオブジェが配置されており、それがそのまま、バトルフィールドとなる。
バトルフィールドに進入したのは二人の神姫。白い翼と長大なライフルを持つ神姫、天使型:アーンヴァル。砂色のアーマーに身を包んだ神姫、砲台型:フォートブラッグ。
電子音声が戦闘開始を告げた。同時に、アーンヴァルはブースター部より圧縮空気を放出、勢いよく空へと舞いあがる。飛んだ! と、見物客が感嘆の声を上げた。
ランダムな動きで宙を舞うアーンヴァル。フォートブラッグが地上よりアサルトライフルでの射撃を試みるも、アーンヴァルはそれら全てを回避し切って見せた。
ややあって、アーンヴァルは空中でホバリングし、手にしたライフルを構え狙いを定める。一秒ほどのチャージの後、ライフルから青白いレーザー光が射出された。
アーンヴァルのレーザー光が大地を薙いだ。フォートブラッグはあわてて回避行動をとるも間に合わず、光条がフォートブラッグを飲み込む。
「あ、当たっちゃったよ!?」
優花が叫ぶ。同調する様に、見物客からもざわめきが聞こえた。
「大丈夫よ。フォートブラッグは防御性能が高く設定されてるの。だから、短時間の被弾なら決定打にはならないわ」
ルーシィ苦笑して答える。その言葉を証明する様に、フォートブラッグは転がるようにレーザー光から離脱。数十cmの距離を駆けた地点で、フォートブラッグのバックパックが変形した。側面から足が突き出し、地を踏みしめる。まさに「砲台」と言える形状へのトランスフォーム。フォートブラッグが脚部に備え付けられたコンソールを操作すると、砲身がアーンヴァルを狙い角度を変えた。
「いけええええっ!」
優花が、思わず叫んだ。
雷の如き砲音を鳴り響かせ、弾丸がアーンヴァルへと迫り――。
結果だけを記せば、フォートブラッグは敗北した。
しかし優花の心に残ったのはフォートブラッグだった。その名の通りの砲台型へと変形するフォートブラッグ。砲塔から、雷轟が鳴り響き、弾丸が直撃した神姫が吹き飛ばされる。圧倒的な火力。優花は心奪われた。
いい。
最高じゃないか。
まさに自分好みの、自分のためにあるような神姫だ!
「どうかしら、優花ちゃん、ああいうの好き……で……」
優花を見て、ルーシィは絶句した。
「……最高じゃないですか」
そう答えた優花の顔は、笑顔と言うか、邪悪と言うか、ルーシィが言葉を失う程度には、妙な顔、だった。
それから優花は、まず小学生の時から貯蓄していたお年玉を確認した。それでは足りないことが分かると、少ない小遣いをためにため、母親の手伝いをして小遣いをせびり、不要な私物を片っ端から売り払って僅かな資金を得――購入資金を捻出し始めた。
つらい日々であった。同級生の買い食いの誘いを断り、タミヤの新作プラモを諦め、雑誌の購読を断念し、大好きなハーゲン・ダッツの新作アイスも一切口にしていなかった。
心挫けそうなときはナットハンガーへと駆け込み、神姫コーナーでフォートブラッグを眺め続けた。彼女との生活を夢想し――思えば、実に迷惑な客だった――折れそうな心に添え木を当てた。
そんな生活を一年余り。とうとう、今日という記念すべき日を迎える。
――ああ、いた、あたしの、あたしのフォートブラッグ! 今まであたしを待ち続けてくれた、愛しい我がパートナー!
MMSコーナーでフォートブラッグを見つけ出すと、パッケージを手に取り胸に抱えた。
至福であった。鼻歌交じりにスキップしそうになる自分をおさえ、冷静である事を心掛け、しかしにやける顔はどうにも抑えられないままレジへと向う。
「優花ちゃん、顔が変なのデスよー」
レジスターの横に座っていた神姫が、眉をひそめて言い放った。
マオチャオタイプの神姫だった。ルーシィとお揃いの、白いエプロンを着ている。名前を、クローバーと言う。
彼女は、一年前から、看板娘ならぬ看板神姫としてナットハンガーで働いている神姫である。優花が武装神姫に興味を抱き、そして通い詰めた時期とほぼ一致するため、お互いに友人のような、幼馴染のような、奇妙な親しさを感じている。
「ふふん。クローバー、許してあげるわ。あたし今ちょー機嫌がいいの」
レジ前でくるりと一回転する優花。クローバーが、怪訝そうな顔をして言う。
「ルーシィ、優花ちゃんが変なのデスよー。これが伝説のコジマ汚染なのデスかー?」
「ごめん、クローバー、言ってる意味がよくわからないわ」
ルーシィが苦笑を浮かべながら現れた。たしなめるようにクローバーの頭を指でつつくと、クローバーはバランスを崩したたらを踏む。ほほを膨らませて抗議の意を示すクローバーを軽くあしらい、ルーシィが優花に微笑みかける。
「御機嫌ね、優花ちゃん」
優花がどれほどフォートブラッグを欲していたのか。この一年の優花を見てきたルーシィは、それをよく知っていた。
だからこそ、今日この日を迎えた優花の気持ちを、ルーシィは十分に想像できたし、そんな彼女を見ていると、こちらまでうれしくなってくるものだ。ルーシィにとって、欲しかった品物を手に入れて、嬉しそうに帰っていく客を見ることほど、幸せな事はない。
ルーシィの言葉に、優花は興奮のため紅潮したほほを緩ませ、これ以上ないと言わんばかりの、至福の笑顔で答える。
「ええ、なにせ念願の、初めての、あたしだけの神姫が手に入るんですもん!」
そんな優花を見て微笑ましい気持ちになりつつ、ルーシィはレジに積まれた品物を見た。
MMS武装神姫:フォートブラッグ。
「……あら? 優花ちゃん、購入するのはフォートブラッグだけでいいの?」
ルーシィが小首を傾げる。
「やだなぁ、ルーシィさん、あたしにお金ないのわかってるじゃないですか。フォートブラッグだけで一杯一杯ですし……なにより、あたしはフォートブラッグに一目ぼれしたって言うか、うん、それ以外の神姫に興味がないとは言わなくてもやっぱり彼女が」
「あ、いや、そうじゃなくてね?」
「フォートブラッグ、素体ついてないのデスよー?」
こともなげに、クローバーが言い放った。
「え? なぁに、クローバー?」
笑顔を崩さずに、優花が尋ねる。
「デスからー、フォートブラッグはウェポンセットなのデスよー。セット内容はー、武器とコアパーツのみなのデスよー。で、武装神姫、と言うかMMSはボディパーツの素体が必要なのデスよー。詰まる所ー」
徐々に。
優花の脳が、言葉の意味を理解し始める。満面の笑顔はひきつった笑みに変貌し――ああ、今日の夕飯なんだろう、などと現実から、心が逃避を始める。
だが、クローバーはにこやかに、にこやかに、優花に対して首切り鎌を振り上げて、
「それだけ買っても何の意味もないのデスよー」
容赦なく、とどめの一撃を振り下ろした。
「…………え? ギャグ?」
かすれる声で、優花が言葉を絞り出す。
「……残念ながら、事実よ」
片手に頭をやりながら、ルーシィが答えた。やってしまった。そう言いたげな表情を浮かべて。
はふん、と意味不明なうめき声を上げて、優花がレジ前に座り込んだ。
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