おまえはそこで―― ◆L62I.UGyuw
みぞれ混じりの雪が降り注ぐ工場。
その敷地の一角、建ち並ぶ青い倉庫群の間に、雷が連続して炸裂する。
その敷地の一角、建ち並ぶ青い倉庫群の間に、雷が連続して炸裂する。
倉庫の陰からジャンパー姿の男が飛び出し、工場の中心へと走った。
すぐ背後を金色の怪物が追っている。
すぐ背後を金色の怪物が追っている。
男は口の開いたデイパックを一つ手に持ち、それを思い切り振り回した。
工場周辺のそこかしこで見る人間大のドラム缶がどかどかとばら撒かれ、怪物の進路を塞ぐ。
工場周辺のそこかしこで見る人間大のドラム缶がどかどかとばら撒かれ、怪物の進路を塞ぐ。
転がるドラム缶を片腕で軽々と撥ね退け、怪物が哂った。
「かかっ、かかかかっ。ナガレよ、初めの威勢はどうしたァ?
わしをブチ殺すんだろ? ちょこまか逃げてねーでかかってこいよ」
「ああ勿論、ブチ殺してやる――ぜっ、と」
わしをブチ殺すんだろ? ちょこまか逃げてねーでかかってこいよ」
「ああ勿論、ブチ殺してやる――ぜっ、と」
工場の窓枠に足を掛け、流は明後日の方向にボールを放り投げた。
「ん? っとォ!」
ボールから刃が飛び出し、急転回して怪物に襲い掛かった。
ボールは身を引いた怪物の鼻先を掠めて飛び去り、しかしまた急旋回して怪物を狙う。
空を斬り裂き迫る凶器。
ボールは身を引いた怪物の鼻先を掠めて飛び去り、しかしまた急旋回して怪物を狙う。
空を斬り裂き迫る凶器。
「ハッ、しゃらくせえ!」
それを怪物は事も無げに、まるで野球のボールを捕るが如く引っ掴んだ。
ぐしゃりとそのまま刃をものともせず握り潰す。
ぐしゃりとそのまま刃をものともせず握り潰す。
「くく、今のはちょっと面白かったぜ。んで、次はどうすんだ?」
掌から血をぼたぼたと垂らし、心底愉快そうに怪物が問う。
流は応えない。次々と外壁の梯子やパイプを跳び移りながら、工場の屋上へと逃れる。
その様子を見た怪物は、ふんと鼻を鳴らして、ただの一飛びで屋上まで達した。
流は応えない。次々と外壁の梯子やパイプを跳び移りながら、工場の屋上へと逃れる。
その様子を見た怪物は、ふんと鼻を鳴らして、ただの一飛びで屋上まで達した。
流は上着のポケットに何かを仕舞っているところだった。
怪物が首を傾げる。
怪物が首を傾げる。
「何だよ、そりゃ?」
「これか? こいつァ、力が回復する薬、さ」
「ほー、便利なもん持ってんなァ。だがよ、ンなもん時間稼ぎにしかなんねェぞ」
「これか? こいつァ、力が回復する薬、さ」
「ほー、便利なもん持ってんなァ。だがよ、ンなもん時間稼ぎにしかなんねェぞ」
怪物の指摘は正しい。
流の身体は既に傷だらけだった。
全身にいくつもの裂傷が走り、服や露出した皮膚が所々焼け焦げている。
息も少し上がっていた。
未だ大きな傷こそ負ってはいないが、いずれ体力が限界を迎えるのは目に見えている。
そうなれば、無慈悲な爪と牙が彼の身体を引き裂くだろう。
流の身体は既に傷だらけだった。
全身にいくつもの裂傷が走り、服や露出した皮膚が所々焼け焦げている。
息も少し上がっていた。
未だ大きな傷こそ負ってはいないが、いずれ体力が限界を迎えるのは目に見えている。
そうなれば、無慈悲な爪と牙が彼の身体を引き裂くだろう。
「ほれ、次ァどうするよ。坊主らしく念仏でも唱えてみるか?」
一方の怪物はといえば、多少の傷は負えどもまるで弱る様子を見せない。
舌なめずりをして、凄まじい妖気を発している。
だというのに、流の態度に焦りは見られなかった。
舌なめずりをして、凄まじい妖気を発している。
だというのに、流の態度に焦りは見られなかった。
「念仏か。じゃァお言葉に甘えて、唱えてみようかね」
「あん?」
「あん?」
す、と顔の前に右手を持ってきて二本の指を立て、呪言を唱える。
すると貯水タンクの陰から細長い物が飛び出して怪物に巻き付き拘束した。
注連縄だ。
充分に法力が通してあるらしく、怪物の力でも容易には断ち切れない。
すると貯水タンクの陰から細長い物が飛び出して怪物に巻き付き拘束した。
注連縄だ。
充分に法力が通してあるらしく、怪物の力でも容易には断ち切れない。
「チィィ、小細工を!」
怪物はたてがみを硬質化し注連縄を寸断する。
しかしそのときには既に、流は禍々しい漆黒の鞭――禁鞭を構えていた。
そして間髪入れず禁鞭の力を解放する。
しかしそのときには既に、流は禍々しい漆黒の鞭――禁鞭を構えていた。
そして間髪入れず禁鞭の力を解放する。
貯水タンクの上半分が吹っ飛んだ。
屋内に繋がる扉が壁ごと粉砕される。
転落防止用の柵が飴細工のように纏めて折れる。
のたくるパイプの群れが根こそぎにされる。
漆黒の嵐が吹き荒れる中、鞭の一撃が怪物を頭上から激しく打ち据えた。
クッキーを砕くように床をブチ抜いて怪物の姿が消える。
屋内に繋がる扉が壁ごと粉砕される。
転落防止用の柵が飴細工のように纏めて折れる。
のたくるパイプの群れが根こそぎにされる。
漆黒の嵐が吹き荒れる中、鞭の一撃が怪物を頭上から激しく打ち据えた。
クッキーを砕くように床をブチ抜いて怪物の姿が消える。
衝撃に耐え切れず、屋上が崩壊していく。
のみならず、黒い暴風は工場の壁も設備も何もかもを打ち壊し薙ぎ払っていく。
永遠に続くかに見えた嵐は、しかし唐突に終息した。
時間にして僅か五秒。
僅か五秒で、屋上とその下のフロアは見る影もなく破壊されていた。
のみならず、黒い暴風は工場の壁も設備も何もかもを打ち壊し薙ぎ払っていく。
永遠に続くかに見えた嵐は、しかし唐突に終息した。
時間にして僅か五秒。
僅か五秒で、屋上とその下のフロアは見る影もなく破壊されていた。
流は禁鞭を仕舞い、屋上に開いた大穴から階下を覗き込んだ。
直撃だ。
人間ならば確実に死んでいる。
いや、妖だろうと実体のない特殊な連中以外は無事ではいられまい。
人間ならば確実に死んでいる。
いや、妖だろうと実体のない特殊な連中以外は無事ではいられまい。
しかし。
がら、と階下の瓦礫が動いた。
がら、と階下の瓦礫が動いた。
「ふん……まァそうだろうな」
がらがらと瓦礫の一角が崩れ、金色の太い腕が覗いた。
腕は瓦礫を纏めて力任せに吹き飛ばす。
そしてその下から怪物が現れた。
腕は瓦礫を纏めて力任せに吹き飛ばす。
そしてその下から怪物が現れた。
「今のが、奥の手かよ? ガ……ハァ……ハ、やるじゃねェか、流石に効いたぜ……。
だがよ、一発で仕留められなかったのは失敗だったなァ」
だがよ、一発で仕留められなかったのは失敗だったなァ」
口から多量の血を吐きながらも、怪物は流を見上げて凄惨な笑みを浮かべた。
だが流は動じない。ごきりと首を鳴らす。
だが流は動じない。ごきりと首を鳴らす。
「いいや、これでいいのよ」
「ンだとォ?」
「これで――完成だからな」
「ンだとォ?」
「これで――完成だからな」
工場内部へと飛び降りる。その寸前に、流は何かを屋上の床に打ち込んだ。
りん、と涼やかな鈴の音がやけに美しく響いた。
同時に、周囲の空気が一変した。
怪物が怪訝そうに辺りを見回す。そして床に降り立った流を睨んだ。
りん、と涼やかな鈴の音がやけに美しく響いた。
同時に、周囲の空気が一変した。
怪物が怪訝そうに辺りを見回す。そして床に降り立った流を睨んだ。
「こいつは……結界、か。ナガレ、てめえ、いつの間に――」
「はっ、オレが何も考えずに工場の周りを逃げ回ってるだけだとでも思ったのか?
てめえだけは逃がす訳には行かねえんでな。ありったけの鈴と御幣で念入りに結界を張らせて貰ったぜ。
妖はもうこの工場に出入り出来ねえ。ここがてめえの棺桶だ。ただのバケモノにゃ、ちと贅沢過ぎるがな」
「はっ、オレが何も考えずに工場の周りを逃げ回ってるだけだとでも思ったのか?
てめえだけは逃がす訳には行かねえんでな。ありったけの鈴と御幣で念入りに結界を張らせて貰ったぜ。
妖はもうこの工場に出入り出来ねえ。ここがてめえの棺桶だ。ただのバケモノにゃ、ちと贅沢過ぎるがな」
流の言に、怪物の目が大きく吊り上がった。
「逃がす……? 逃がすと言ったか? このわしを捕まえて『逃がす訳には行かぬ』だとォ!?」
たてがみがざわりと鋭く逆立つ。
「大口叩くじゃねェか、ニンゲン! 覚悟は出来てんだろうなァァ!」
どがん、と足元の瓦礫を蹴り飛ばし、大音声を響かせる。
薄笑いを浮かべて、流は錫杖を正面に構えた。
薄笑いを浮かべて、流は錫杖を正面に構えた。
「覚悟だァ? ンなもんがなけりゃ戦えねえのはな、真っ当なヤツだけだ。
さあ、能書き垂れてねえでかかってきな、バケモン。
――蹂躙してやるよ」
「はっ、上等ォォ!!」
さあ、能書き垂れてねえでかかってきな、バケモン。
――蹂躙してやるよ」
「はっ、上等ォォ!!」
発した叫びに追い付かんばかりの勢いで、金色の暴風が襲い来る。
瞬く間に両者の距離が詰まる。
瞬く間に両者の距離が詰まる。
「けえええええええええええええ!!」
体重を乗せ、力任せに爪を振り下ろす怪物。
対する流は両の錫杖を交差し、
対する流は両の錫杖を交差し、
「らァァァァァァァァァァァァァ!!」
正面から、止めた。
金属音が激しく響く。
金属音が激しく響く。
「な、にィィィ!?」
「ぬぅぅぅぅん!!」
「ぬぅぅぅぅん!!」
更に甲高い音。
弾かれ後退したのは、怪物の方だった。
片眉を大きく上げて低く唸る怪物。
弾かれ後退したのは、怪物の方だった。
片眉を大きく上げて低く唸る怪物。
「どうしたい? 人間に力比べで負けたのが、そんなに意外か?」
「……フン、ちと驚ェただけよ」
「……フン、ちと驚ェただけよ」
言うなり、再び鎌鼬にも負けぬ斬撃が放たれる。
今度は小さく鋭く横薙ぎに一閃。
流は錫杖一本で受け流す。
怪物は更に踏み込む。
姿勢を低めながら流の腹に目掛けて刺突。
流は身体を捻ってかわしつつ、怪物の胴に回し蹴りを叩き込んだ。
大きく間合いが離れる。
たたらを踏みつつも、流はすかさず破魔矢を放って追撃する。
怪物は避けようともせず左腕を盾に矢を止めた。
同時にたてがみから電撃を放つ。
バックステップで逃れる流。
好機と見たのか、怪物は鋭い奇声を上げて突進した。
今度は小さく鋭く横薙ぎに一閃。
流は錫杖一本で受け流す。
怪物は更に踏み込む。
姿勢を低めながら流の腹に目掛けて刺突。
流は身体を捻ってかわしつつ、怪物の胴に回し蹴りを叩き込んだ。
大きく間合いが離れる。
たたらを踏みつつも、流はすかさず破魔矢を放って追撃する。
怪物は避けようともせず左腕を盾に矢を止めた。
同時にたてがみから電撃を放つ。
バックステップで逃れる流。
好機と見たのか、怪物は鋭い奇声を上げて突進した。
流は口の端を微かに吊り上げた。
「孤月ッッ!」
叫び、錫杖を振り抜く。
法力が無数の三日月を形取り、怪物に飛来する。
法力が無数の三日月を形取り、怪物に飛来する。
「ぬゥゥオォォォォォ!?」
三日月が次々と怪物の身体に食い込んだ。突進が止まる。
その僅かな隙に、流は一気に間合いを詰めた。
そして修羅の形相で怪物の顔面を殴り抜く。
怪物は吹き飛び、空中で二回転して防火シャッターにめり込んだ。
その僅かな隙に、流は一気に間合いを詰めた。
そして修羅の形相で怪物の顔面を殴り抜く。
怪物は吹き飛び、空中で二回転して防火シャッターにめり込んだ。
「ぐ、ぬゥゥ……おかしいぞ、こんな……わしの身体が――」
「身体の動きが鈍い――ってか? あー、言い忘れてたぜ。
てめえがさっき握り潰したボールな、あれにゃ麻痺毒が塗ってあったのよ。
フツーなら一発で動けなくなるハズなんだがな。タフなヤツだぜ。
……おい、どうしたよ。まさかオレが正々堂々と戦うとでも思ってたのか?
最初に言っただろうが。“てめえ”と戦いたいなんてこれっぽちも思わねえ、ってな」
「身体の動きが鈍い――ってか? あー、言い忘れてたぜ。
てめえがさっき握り潰したボールな、あれにゃ麻痺毒が塗ってあったのよ。
フツーなら一発で動けなくなるハズなんだがな。タフなヤツだぜ。
……おい、どうしたよ。まさかオレが正々堂々と戦うとでも思ってたのか?
最初に言っただろうが。“てめえ”と戦いたいなんてこれっぽちも思わねえ、ってな」
隈取を大きく歪めて、怪物が流を睨み付ける。
たてがみが逆立ち、バチリ、と乾いた音が鳴った。
たてがみが逆立ち、バチリ、と乾いた音が鳴った。
「この……たかが法力僧如きが……」
バチバチとたてがみの間に稲妻が飛び交う。
「調子に乗ってんじゃあねェぞ!!」
叫びと共に、それまでの様子見のものではない、全力の雷が放たれた。
幾千の光の蛇が流に襲いかかる。
到底避け切れるものではない。
しかし流は冷静に錫杖を翳し、何事かを唱えた。
光の蛇が錫杖を嫌うように次々とのたうって逸れる。
幾千の光の蛇が流に襲いかかる。
到底避け切れるものではない。
しかし流は冷静に錫杖を翳し、何事かを唱えた。
光の蛇が錫杖を嫌うように次々とのたうって逸れる。
「何ィ!?」
「金気は木気を剋す。もう一つ言い忘れてたがな、ここに張った結界は五行の相剋を強化するモンでもあってよ。
まァ要するに――てめえの雷ァもう通じねぇんだよ」
「金気は木気を剋す。もう一つ言い忘れてたがな、ここに張った結界は五行の相剋を強化するモンでもあってよ。
まァ要するに――てめえの雷ァもう通じねぇんだよ」
がしゃん、と何処かでガラスの落ちる音がした。
流は無造作に怪物との距離を詰めていく。
流は無造作に怪物との距離を詰めていく。
「そう、かい……じゃあコイツは、どォだァァァァ!!」
怪物の咆哮が猛火と化し踊り狂う。
すかさず流は跳躍し、錫杖を天に翳した。
降り続くみぞれが錫杖から放たれる法力に絡め取られ、渦を成して流を護る。
炎は彼の周囲でとぐろを巻いて、しかし中心部には届かずにあっけなく消滅した。
すかさず流は跳躍し、錫杖を天に翳した。
降り続くみぞれが錫杖から放たれる法力に絡め取られ、渦を成して流を護る。
炎は彼の周囲でとぐろを巻いて、しかし中心部には届かずにあっけなく消滅した。
「……水気は火気を剋す。諦めな、てめえなんかじゃオレは喰えねえ。
『とら』は――いや、『うしおととら』はな、もっともっと強かったんだぜ」
「オ、オォォォォォォ! 何を、訳の解んねェことをォォォ!!」
「……訳の解らんこと、か」
『とら』は――いや、『うしおととら』はな、もっともっと強かったんだぜ」
「オ、オォォォォォォ! 何を、訳の解んねェことをォォォ!!」
「……訳の解らんこと、か」
残念だぜ、本当にな。
消え入るように呟いて、流は錫杖を構え直す。
三度目の区切りを告げる放送が響き渡り始めた。
消え入るように呟いて、流は錫杖を構え直す。
三度目の区切りを告げる放送が響き渡り始めた。
**********
遠雷が、聴こえる。
「『月輪』を出すまでもなかったなァ。人間に見下ろされる気分はどうだよ、バケモノ」
倦んだ声が、瓦礫の山に響いた。
雨に濡れ血と煤に塗れた顔を袖で軽く拭い、流は長い溜息を吐く。
錫杖の先端が力なく下がり、水溜りに浸かった。
彼の前には、両腕両脚をもがれ、胴が半ばから千切れかけた怪物が転がっている。
怪物の体毛は、元の色が判らないくらいに汚れていた。
雨に濡れ血と煤に塗れた顔を袖で軽く拭い、流は長い溜息を吐く。
錫杖の先端が力なく下がり、水溜りに浸かった。
彼の前には、両腕両脚をもがれ、胴が半ばから千切れかけた怪物が転がっている。
怪物の体毛は、元の色が判らないくらいに汚れていた。
「何だ、おい。もうくたばったのかよ」
蹴り付ける。返答はない。
「ったくよお、こんな下らねえこと仕組みやがった神サマには、キチンとオシオキしてやらにゃならねえよな」
返答はない。
「……そう思うだろ?」
返答はない。
「なあ」
返答はない。
「…………ふ」
唐突に、流の口元が歪んだ。
「ふ……ひ、ひ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。
ひ、ひゃはっはははははははははははははははははははははははははははははははははははは、は。
なあ」
ひ、ひゃはっはははははははははははははははははははははははははははははははははははは、は。
なあ」
ぐりん、と妖怪染みた動きで流は振り返った。
「いつまで覗いてんだ? 趣味悪ィぜ」
出て来いよ、と感情のない声をかける。
それに応えるように、防火シャッターに開いた大穴から、静かに人影が現れた。
それは流の攻撃によって高空から転落したはずの男、リン・ヤオだった。
細い目を更に細めて、無言で流を睨み付けている。
それに応えるように、防火シャッターに開いた大穴から、静かに人影が現れた。
それは流の攻撃によって高空から転落したはずの男、リン・ヤオだった。
細い目を更に細めて、無言で流を睨み付けている。
「あー、何だ、てめえか。よく生きてたな」
何の感慨もないといった口調で流は続ける。
「気分じゃねえんだ。殺さねえでおいてやるからよ、とっとと消えな」
遠くで稲光が走った。
流の姿が一瞬だけはっきりと照らし出される。
彼の顔からは、『人間』がごっそり削げ落ちていた。
流の姿が一瞬だけはっきりと照らし出される。
彼の顔からは、『人間』がごっそり削げ落ちていた。
「お前に戦う理由がなくても、俺にはあるんダ」
異様な流の様子にも怯まず、リンは決然と言葉を放った。
リンの右手には包丁。左腕は不自然に彼の背後に隠れている。
流は心底うんざりだといった態度で手をひらひらと振った。
リンの右手には包丁。左腕は不自然に彼の背後に隠れている。
流は心底うんざりだといった態度で手をひらひらと振った。
「後ろに切り札でも隠してんのかよ? だがやめときな。どうせ、そいつでオレを殺せる自信がねえんだろうが。
でなけりゃ、さっさと奇襲をかけてただろ」
「やってみなければ、判らなイ」
でなけりゃ、さっさと奇襲をかけてただろ」
「やってみなければ、判らなイ」
言うと同時に、リンは包丁を構えて突撃してきた。
「馬鹿が」
下げていた錫杖を跳ね上げて右腕ごと包丁を弾き飛ばす。
更にがら空きの腹に無造作に蹴りを入れた。
リンは面白いように吹っ飛んで床を転がる。
その拍子に、隠れていた左腕が露わになった。
リンの左腕は、手首から先がなかった。
更にがら空きの腹に無造作に蹴りを入れた。
リンは面白いように吹っ飛んで床を転がる。
その拍子に、隠れていた左腕が露わになった。
リンの左腕は、手首から先がなかった。
「あァ? 何だそりゃ――ガッ!」
身体の芯に鈍い衝撃が走った。
眼球を下に向ける。
腹から黒塗りの刃が生えているのが見えた。
眼球を下に向ける。
腹から黒塗りの刃が生えているのが見えた。
「ぬ……うぉっ」
捻りを加えながら刃が引っ込んだ。
次いで右足首が灼熱した。
なす術もなくバランスを崩して、錆色の水溜りに倒れ伏す。
視界の隅に、斬り飛ばされた自分の右足と、血の滴る黒い剣を持つ手が映った。
手は宙に浮いていた。
次いで右足首が灼熱した。
なす術もなくバランスを崩して、錆色の水溜りに倒れ伏す。
視界の隅に、斬り飛ばされた自分の右足と、血の滴る黒い剣を持つ手が映った。
手は宙に浮いていた。
「ンなの……アリかよ……」
呼気と共に、口から粘つく血の泡が吹く。
浮かんだ手がすいと空を滑り、立ち上がったリンの左腕に接続する様子を、流は出来の悪い手品を見る目で見ていた。
浮かんだ手がすいと空を滑り、立ち上がったリンの左腕に接続する様子を、流は出来の悪い手品を見る目で見ていた。
「エドがいなくて良かったヨ。あいつは優し過ぎるからナ」
冷静に、ほとんど冷酷と言ってもいい口調でリンが呟いた。
「腹の中を掻き回しタ。お前はもう助からなイ。だがすぐに死ぬこともなイ」
頭だけを動かして、流はリンの顔を見た。
「……なァんだ、よく見りゃ……まだガキじゃ、ねぇか。……く、く、オレもヤキが回った……みてえだなァ……」
「ナガレ――と呼ばれてたナ。その怪物とお前の間に、何か事情があったのは判ル。
多分、それはお前たちにとって重要なことだったんだろうとも思うヨ。それこそ他者の命を踏み躙ることも厭わないくらいニ」
「ナガレ――と呼ばれてたナ。その怪物とお前の間に、何か事情があったのは判ル。
多分、それはお前たちにとって重要なことだったんだろうとも思うヨ。それこそ他者の命を踏み躙ることも厭わないくらいニ」
だが。
リンは淡々と続ける。
リンは淡々と続ける。
「踏み躙られた者にとっては、そんなもの知ったことじゃないんダ。
お前の命は、俺が無意味に踏み躙ってやル。だから、殺した者の怨嗟の声に――」
お前の命は、俺が無意味に踏み躙ってやル。だから、殺した者の怨嗟の声に――」
軽く剣を振るい血を掃う。床に赤い月が描かれる。
「おまえはそこでおぼれてゆけ」
血の月輪の真ん中で、リンは流を見下ろし冷然と宣告した。
そしてそれきり一瞥もくれず立ち去っていく。
ぴちゃりぴちゃりと、足音が遠ざかっていく。
そしてそれきり一瞥もくれず立ち去っていく。
ぴちゃりぴちゃりと、足音が遠ざかっていく。
自分は死ぬのだ。
流は急速に、数学の問題の解法を見つけたときのように、ただ理解した。
身体から熱が去っていく。
死に向かう苦痛と悪寒すら感情を揺さぶらない。
もう、自分の中には何もない。
何も。
流は急速に、数学の問題の解法を見つけたときのように、ただ理解した。
身体から熱が去っていく。
死に向かう苦痛と悪寒すら感情を揺さぶらない。
もう、自分の中には何もない。
何も。
「……風がよ、やまねえ……な」
誰に語るともなしに、呟く。
ちらりと怪物の死骸に目を遣る。
ちらりと怪物の死骸に目を遣る。
「あァ――そういや、一つやっとかにゃならんことが……残ってた、ぜ」
そう。
そうだった。
このバケモノが存在した痕跡は、一片たりとも――。
そうだった。
このバケモノが存在した痕跡は、一片たりとも――。
流の全身が光り始める。
滅己術『捌』――自らの体内で法力をオーバーロードさせる、技とすら呼べない技。
滅己術『捌』――自らの体内で法力をオーバーロードさせる、技とすら呼べない技。
「おい――おい、待てよ、ガキ。いいこと……教えてやらァ」
不穏な雰囲気を敏感に感じ取ったリンが振り向く。
「殺すんならよ……次はキッチリ息の根止めとけ、バァカめ」
流と目が合った。見た者の脳裏から一生涯離れないであろう黒々とした眼だった。
にィィ、と道化の笑みを浮かべる流。
にィィ、と道化の笑みを浮かべる流。
リンは舌打ちをして脱兎の如く駆け出す。
直後、流の体内で法力が一気に増幅し――そして、全てを呑み込む白光が炸裂した。
直後、流の体内で法力が一気に増幅し――そして、全てを呑み込む白光が炸裂した。
遠雷が、鳴っている。
【秋葉流@うしおととら 死亡】
【とら@うしおととら 死亡】
【とら@うしおととら 死亡】
【E-6/工場/1日目/夜】
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師】
[状態]:バラバラ人間
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:支給品一式、浴衣、刺身包丁×2、安藤(兄)の日記、食糧3人分程度、固形燃料×10、チャッカマン(燃料1/3)
[思考]
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:エドとウィンリィが心配。
2:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃を無力化したい。
3:安藤(兄)に警戒と嫌悪感。
4:関口伊万里と鳴海歩に強い警戒と敵意。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※ワープ出口の気配を何となく察しています。
※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※九兵衛の手記を把握しました。
[状態]:バラバラ人間
[服装]:
[装備]:降魔杵@封神演義
[道具]:支給品一式、浴衣、刺身包丁×2、安藤(兄)の日記、食糧3人分程度、固形燃料×10、チャッカマン(燃料1/3)
[思考]
基本:エドと共にこの殺し合いを叩き潰す。
1:エドとウィンリィが心配。
2:グリードの部下(咲夜)を狙った由乃を無力化したい。
3:安藤(兄)に警戒と嫌悪感。
4:関口伊万里と鳴海歩に強い警戒と敵意。
[備考]
※原作22巻以降からの参戦です。
※雪輝から未来日記ほか、デウスやムルムルに関する情報を得ました。
※異世界の存在を認識しました。
※リンの気配探知にはある程度の距離制限があり、どの気が誰かなのかを明確に判別は出来ません。
※首輪にエネルギー吸収と送信機能があるかもしれないと疑っています。
※ワープ出口の気配を何となく察しています。
※安藤(兄)の日記は、歴代特撮ヒーローについて書いたようにしか見えないようになっています。
※インターネットの使い方をおおよそ把握しました。
※九兵衛の手記を把握しました。
※流ととらの所持品は爆発に巻き込まれました。
流の所持品:
支給品一式×2(名簿一枚紛失)、仙桃エキス(8/12)@封神演義、禁鞭@封神演義
んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ ×1)@銀魂、PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー×2、
双眼鏡、食料、女物の着替え、毛布、錫杖×2、詳細不明アイテム(工場の生産ラインより発見)
とらの所持品:
支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器 ×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?、万里起雲煙@封神演義
流の所持品:
支給品一式×2(名簿一枚紛失)、仙桃エキス(8/12)@封神演義、禁鞭@封神演義
んまい棒(サラミ×1、コーンポタージュ ×1)@銀魂、PDA型首輪探知機、研究棟のカードキー×2、
双眼鏡、食料、女物の着替え、毛布、錫杖×2、詳細不明アイテム(工場の生産ラインより発見)
とらの所持品:
支給品一式×7、再会の才@うえきの法則、砂虫の筋弛緩毒(注射器 ×1)@トライガン・マキシマム、逃亡日記@未来日記、
マスター・Cの銃(残弾数50%・銃身射出済)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数5/12)@現実
マスター・Cの銃の予備弾丸3セット、不明支給品×1、詳細不明衣服×?、万里起雲煙@封神演義
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| 139:ガラクタの魂を鳴らす者(下) | リン・ヤオ | 171:狂い咲く人間の証明 |