狂い咲く人間の証明 ◆RLphhZZi3Y
表が出たら僕の勝ち、裏が出たら君の負け。
ゲームにすらならないコイントスを、神は投げ続ける。
ゲームにすらならないコイントスを、神は投げ続ける。
#####
赤い。
砂漠ではあるまじき水と氷の演舞の先。
目の前を歩く男は紛れもなく赤い服に袖を通している。
視界の悪さは砂嵐と似たようなものだが、それでも見間違える距離ではない。
錯覚とも思える光景だった。
むしろ錯覚だった方がありがたいとすら思う、想像の範疇から遠く飛び出したものだった。
そこにいるのがヴァッシュであるなら、これから向かう先が競技場だろうが地獄だろうが墓場だろうが納得いく。
ミッドバレイは何度も繰り返し、森が消滅した後の出来事を辿る。
目の前を歩く男は紛れもなく赤い服に袖を通している。
視界の悪さは砂嵐と似たようなものだが、それでも見間違える距離ではない。
錯覚とも思える光景だった。
むしろ錯覚だった方がありがたいとすら思う、想像の範疇から遠く飛び出したものだった。
そこにいるのがヴァッシュであるなら、これから向かう先が競技場だろうが地獄だろうが墓場だろうが納得いく。
ミッドバレイは何度も繰り返し、森が消滅した後の出来事を辿る。
ヴァッシュは死んだ。放送でも呼ばれている。
問題はその後だ。
ナイブズが真っ二つにされた男に墓を作ってやり、ハデな貴族のような男と小娘を追っている。
問題はその後だ。
ナイブズが真っ二つにされた男に墓を作ってやり、ハデな貴族のような男と小娘を追っている。
間違いはない。
なんの間違いもない。
よもやすぐ前を歩く男が、実はヴァッシュなどということは決してない。
中身が入れ替わるといった酔狂な話ですらない。
なんの間違いもない。
よもやすぐ前を歩く男が、実はヴァッシュなどということは決してない。
中身が入れ替わるといった酔狂な話ですらない。
貴族から手渡された戦闘のチケットを投げ返すために、ナイブズは進んでいる。
それが目的だ。
そしてまた確認する。
ヴァッシュではないのだ。
決して、あの娘を追っている訳では――
それが目的だ。
そしてまた確認する。
ヴァッシュではないのだ。
決して、あの娘を追っている訳では――
「ホーンフリーク」
唐突に名を呼ばれる。
反射的に身構えた。
ナイブズが声をかけるタイミングは、考えを覗かれていないかと疑るほどに悪い。
叩きつけるみぞれが耳障りだ。
鮮やかな赤が濡れて色を黒く変え、擂鉢状態になった森での喧騒で土がこびりついている。
ナイブズは、こんなにも雪や土砂が似合う男だっただろうか。
反射的に身構えた。
ナイブズが声をかけるタイミングは、考えを覗かれていないかと疑るほどに悪い。
叩きつけるみぞれが耳障りだ。
鮮やかな赤が濡れて色を黒く変え、擂鉢状態になった森での喧騒で土がこびりついている。
ナイブズは、こんなにも雪や土砂が似合う男だっただろうか。
「走らせろ」
ナイブズが視線で指すところに、車が数台残っていた。
#####
道を別ち、またひとつに戻った片割れが、そしてその片割れが命を懸けて救おうとした者が呼ばれている。
放送が終わり、そこで改めて喪失を味わう。
GUNG-HO-GUNSもほぼ全員死に至ったが、このほどには遠く及ばない。
放送が終わり、そこで改めて喪失を味わう。
GUNG-HO-GUNSもほぼ全員死に至ったが、このほどには遠く及ばない。
自身でも呆れるほど、その名を繰り返す。
眼前で見送ったにも関わらず、お前はもういないのかと、無意味な言葉をなおも話しかけようとする。
眼前で見送ったにも関わらず、お前はもういないのかと、無意味な言葉をなおも話しかけようとする。
そこでやっと気づく。
無意味、そう無意味なのだ。
これは喪失を受け入れる、慰み程度の感情に過ぎない。
ヴァッシュも、喪失を博愛主義で埋めていた。
滅ぼした人間に自責の念を感じているため、その博愛は無償でも、無条件でもない。
無意味、そう無意味なのだ。
これは喪失を受け入れる、慰み程度の感情に過ぎない。
ヴァッシュも、喪失を博愛主義で埋めていた。
滅ぼした人間に自責の念を感じているため、その博愛は無償でも、無条件でもない。
博愛主義も、都市を失わせた埋め合わせと言ってしまえば、終いである。
そして投げた愛のブーメランに、殺された。
そして投げた愛のブーメランに、殺された。
ここまでくると馬鹿者である。
馬鹿者ではある……が、ヴァッシュは貫いた。
生半可な覚悟で貫ける意思ではないと、ナイブズはよく知っている。
自らの何を失おうが他人の命を選ぶ、強靭で一途すぎた志だ。
プラントと融合を望んだときも、そしてこの殺戮の場でも抜きん出ていた。
異常なまでの博愛だったのだとわかる。
馬鹿者ではある……が、ヴァッシュは貫いた。
生半可な覚悟で貫ける意思ではないと、ナイブズはよく知っている。
自らの何を失おうが他人の命を選ぶ、強靭で一途すぎた志だ。
プラントと融合を望んだときも、そしてこの殺戮の場でも抜きん出ていた。
異常なまでの博愛だったのだとわかる。
永遠の別れなど、砂漠の星においては容易に描けた。
文明はあるが犯罪は蔓延る。一般人であろうと命は死と隣り合っているのが常である。
西沢歩という取り立てて目立たない少女がいたからこそ、その当たり前がない、平和呆けができる世界の存在を知った。
ヴァッシュが望んでいたような地だ。
娘はヴァッシュと最初に出会うべきだったのだ。
文明はあるが犯罪は蔓延る。一般人であろうと命は死と隣り合っているのが常である。
西沢歩という取り立てて目立たない少女がいたからこそ、その当たり前がない、平和呆けができる世界の存在を知った。
ヴァッシュが望んでいたような地だ。
娘はヴァッシュと最初に出会うべきだったのだ。
平穏であればあるだけヴァッシュの『守る』意義もなくなる。
ただでさえこの世に居ることに価値を見ていない兄弟である。
自己同一性が更に揺らぐだけだが、それでもあの弟は、そのような世界の存在を喜んだのだろう。
ただでさえこの世に居ることに価値を見ていない兄弟である。
自己同一性が更に揺らぐだけだが、それでもあの弟は、そのような世界の存在を喜んだのだろう。
今や知る術はない。
持ってくる力も持っていく力も届かない、絶対的な溝の向こう側へヴァッシュは逝った。
持ってくる力も持っていく力も届かない、絶対的な溝の向こう側へヴァッシュは逝った。
これまでに五十人ほどの命が一様に消えている。
目の前では数人、知らぬ場所では多数、リタイアした。
ヴァッシュはその命を背負う気概でいたのだ。
目の前では数人、知らぬ場所では多数、リタイアした。
ヴァッシュはその命を背負う気概でいたのだ。
たった一人の優勝者の枠を懸けた戦いだ。人間同士、火種も怨みもあっただろう。
その全てのしがらみをも一心に引き受けるつもりで、助けに向かっていた。
ならば奔走し、命を狙われるのも道理であったと、言わざるを得ない。
それが身を滅ぼすと承知していてもなお、見捨てずにいた。
愛するべき者を、愛しきった。
その全てのしがらみをも一心に引き受けるつもりで、助けに向かっていた。
ならば奔走し、命を狙われるのも道理であったと、言わざるを得ない。
それが身を滅ぼすと承知していてもなお、見捨てずにいた。
愛するべき者を、愛しきった。
胸の閊が、今しがた無意味だと結論づけた感情ですすぎ流される。
ラブアンドピースを掲げるまでほだされてはいない。
だが、ヴァッシュが最期まで想い救おうとした、既に亡き五十の重さを、代わりに背負ってやる程度ならできる。
生きてきた百五十年に上乗せすることなど雑作もない。
ラブアンドピースを掲げるまでほだされてはいない。
だが、ヴァッシュが最期まで想い救おうとした、既に亡き五十の重さを、代わりに背負ってやる程度ならできる。
生きてきた百五十年に上乗せすることなど雑作もない。
五十そこらの命を多数と称するなど、砂漠の星を制覇しかけた頃には考えもよらない話だ。
――クズまで救おうとしてないか――
天地崩壊のさなか、ヴァッシュに突きつけた現実が、目の前に靄として出現する。
五十の人間の中に知己の者、袖振り合った者は合わせても両手に余る人数だ。
名も知らぬ残りの死者には、必ずやあの時と同様、他人にすがり付き寄生し、蹴落とし醜く無様に這いずり回る愚者がいただろう。
五十の人間の中に知己の者、袖振り合った者は合わせても両手に余る人数だ。
名も知らぬ残りの死者には、必ずやあの時と同様、他人にすがり付き寄生し、蹴落とし醜く無様に這いずり回る愚者がいただろう。
『(これだけはいえる
僕が消してしまったあの人たちは
優しかったんだ……)』
僕が消してしまったあの人たちは
優しかったんだ……)』
恫痛と孤独を抱えながらも、愛を枯らすことを忘れなかったあの男が、想像以上に侵食しているらしい。
不思議ではあるが、胸がむかつくような悪い気分はしなかった。
不思議ではあるが、胸がむかつくような悪い気分はしなかった。
ミッドバレイにハンドルを託したナイブズは、助手席ではなく後部座席に腰を下ろした。
他人の支給品が雑多に増えていったデイバッグから、携帯可能なパソコンが入っていたのは確認済みである。
競技場までこの足を転がしていけば、そう時間はかからない。
到着までに新たな情報を素早く取捨するには、携帯電話の小さな画面よりパソコンを接続した方が手間がかからずに済む。
この地に来てから丸一日が経とうとしているにも関わらず、立ち上げるどころかウィンドウを開いた様子もない。
初期画面を片付けると、研究所で繋いだサイバー環境に限りなく近いものへと変貌した。
他人の支給品が雑多に増えていったデイバッグから、携帯可能なパソコンが入っていたのは確認済みである。
競技場までこの足を転がしていけば、そう時間はかからない。
到着までに新たな情報を素早く取捨するには、携帯電話の小さな画面よりパソコンを接続した方が手間がかからずに済む。
この地に来てから丸一日が経とうとしているにも関わらず、立ち上げるどころかウィンドウを開いた様子もない。
初期画面を片付けると、研究所で繋いだサイバー環境に限りなく近いものへと変貌した。
電脳のネットワークは凄まじい勢いで構築されているようだ。
ウェブ上の掲示板には書き込みが増えていた。
ひとつは名簿には無い名への呼び掛けだ。連絡方法まで紹介している。
放送では呼ばれていないなら、このツールはまだ生きている。
念の為『エドワード・エルリック』のアドレスを拾い、携帯電話に保存をする。
ウェブ上の掲示板には書き込みが増えていた。
ひとつは名簿には無い名への呼び掛けだ。連絡方法まで紹介している。
放送では呼ばれていないなら、このツールはまだ生きている。
念の為『エドワード・エルリック』のアドレスを拾い、携帯電話に保存をする。
もうひとつ……問題のある書き込みに、ナイブズは携帯を握り潰しかける。
直接名を出してはいないが、ナイブズを騙るような真似をする輩が、まだいるらしい。
投下の主はあの現場をどこかで見ていた。
謀を目論んでいる。
投下の主はあの現場をどこかで見ていた。
謀を目論んでいる。
趙公明の目的は戦闘だ。
人質を用意し、多くの者を誘き寄せている。
ナイブズ自身が書き込んだならともかくも、呼び掛けの理由が『人質の娘を助けたい』でないのは明白だ。
心から助けたいのであれば、騙る必要などない。
戦闘の促進、趙公明との相討ちを狙っているといったところか。
暗闇に灯火を用意して、飛び込む虫を誘っている。
人質を用意し、多くの者を誘き寄せている。
ナイブズ自身が書き込んだならともかくも、呼び掛けの理由が『人質の娘を助けたい』でないのは明白だ。
心から助けたいのであれば、騙る必要などない。
戦闘の促進、趙公明との相討ちを狙っているといったところか。
暗闇に灯火を用意して、飛び込む虫を誘っている。
これについて無論考えるところはあるのだが、他者の人間関係より優先順位が高い情報が更新されていた。
天気予報である。
戦闘狂が指定した時間からの天候が、ディスプレイに表示されている。
00:00~06:00:快晴(強風注意報)
00:00~02:00:皆既月食
00:00~02:00:皆既月食
嵐のピークは過ぎる。
疑いようもない。安定しない天候はやはり不自然だ。
そして新たに加わった情報は、天候の問題ではない。
疑いようもない。安定しない天候はやはり不自然だ。
そして新たに加わった情報は、天候の問題ではない。
皆既月食。
大地の自然循環ですらない。
月が陰るのは宇宙の理のひとつだ。
宇宙をも揺り動かせるということか。
雪が降る天候に続き、未知の景色が待ち構えている。
天候など、小さな星のせせこましい現象に過ぎないのだと言わんばかりに、仰々しく掲載されていた。
大地の自然循環ですらない。
月が陰るのは宇宙の理のひとつだ。
宇宙をも揺り動かせるということか。
雪が降る天候に続き、未知の景色が待ち構えている。
天候など、小さな星のせせこましい現象に過ぎないのだと言わんばかりに、仰々しく掲載されていた。
共に貼り付けられている画像を確認した。
数個の月が一列に並び、端から欠けていく様子が写し出されている。
グランドクロスのように規則正しく五つの月が並ぶはずはない。
時間の経過を表すために、一つの月を一つの画像へ収めていると思われる。
数個の月が一列に並び、端から欠けていく様子が写し出されている。
グランドクロスのように規則正しく五つの月が並ぶはずはない。
時間の経過を表すために、一つの月を一つの画像へ収めていると思われる。
画像中央へ向かうに従い月は光を失い、赤銅色を帯びる。
中央を過ぎると光を取り戻し、白い輝きを膨らませていった。
月の海に見慣れた形はない。
予想はついていたが、クレーターのどれを取ろうが、画像の月は五つの月と合致しない。
皆既月食とはこの星にはひとつしかない月が、短時間で欠けていく現象を指すようだ。
中央を過ぎると光を取り戻し、白い輝きを膨らませていった。
月の海に見慣れた形はない。
予想はついていたが、クレーターのどれを取ろうが、画像の月は五つの月と合致しない。
皆既月食とはこの星にはひとつしかない月が、短時間で欠けていく現象を指すようだ。
皆既月食とは何か、ご丁寧に説明をする画像があるのならば、その知識がない者が複数存在するのだ。
実際、ナイブズは知らなかった。
反対に一定数、恐らく半数前後の人間は皆既月食の実態を知っている。
集められた者全員が知らない自然摂理を持ち出したところで、恐怖を煽り絶望を増長させる効果は極めて薄い。
嵐を知らない人間は、前兆になる雲の流れを気に留めないものだ。
実際、ナイブズは知らなかった。
反対に一定数、恐らく半数前後の人間は皆既月食の実態を知っている。
集められた者全員が知らない自然摂理を持ち出したところで、恐怖を煽り絶望を増長させる効果は極めて薄い。
嵐を知らない人間は、前兆になる雲の流れを気に留めないものだ。
しかし、画像を貼り付ける意義はそれだけだろうか。
皆既月食が何かを知っている者に対しても、画像を貼ってまで「こういうものだ」と説明する必要はあるのか。
皆既月食が何かを知っている者に対しても、画像を貼ってまで「こういうものだ」と説明する必要はあるのか。
絶対不可欠では無い。
そう言い切れる。
文章で表せば数文字で済むはずなのだ。
そう言い切れる。
文章で表せば数文字で済むはずなのだ。
天候の操作には、地下から目を反らす以外にも役割があると仮定する。
天気予報が表示されだしたのは、日が昇り出してからだ。
午前・午後・夜・深夜の四度に渡り、天気予報が更新されている。
表示されている通り、雲は太陽を隠し、空から氷の欠片が降り、雨へと変わっていた。
深夜までの天候も、今のところは予報に沿っている。
天気予報に関しては、螺旋楽譜や探偵日記などといった他者の主観に基づくネットワークと比較すれば、一番具体的かつ客観的な情報である。
記載通りに天候は移り変わり、ある程度信用を得ているだろう。
天気予報が表示されだしたのは、日が昇り出してからだ。
午前・午後・夜・深夜の四度に渡り、天気予報が更新されている。
表示されている通り、雲は太陽を隠し、空から氷の欠片が降り、雨へと変わっていた。
深夜までの天候も、今のところは予報に沿っている。
天気予報に関しては、螺旋楽譜や探偵日記などといった他者の主観に基づくネットワークと比較すれば、一番具体的かつ客観的な情報である。
記載通りに天候は移り変わり、ある程度信用を得ているだろう。
だからこそ。
『必ずその天候になる』と印象をづけ、刷り込んでいるとは考えられないか。
"本物の皆既月食"が起こると思い込むように、誤認させようとしている可能性がある。
画像はそのブラフ、もしくは布石と取れる。
『必ずその天候になる』と印象をづけ、刷り込んでいるとは考えられないか。
"本物の皆既月食"が起こると思い込むように、誤認させようとしている可能性がある。
画像はそのブラフ、もしくは布石と取れる。
"本物の皆既月食"が素直に起こるとは考えられない。
ただ月が陰り、復活するだけで終わる可能性は除外してもいい。
半ば無視する形でも構わない。
ただ月が陰り、復活するだけで終わる可能性は除外してもいい。
半ば無視する形でも構わない。
奇術師の常套手段だ。
GUNG-HO-GUNS四番手の、絡繰人形を用いたゲリラ戦法の丁度真逆である。
何度も本物を見せ、トリックのタネになる偽物も本物だと見せかける。
木の葉を隠すのは木の葉の中、ではない。
危険な本命を隠すには信頼のおけるもので囲い、警戒を解いていくものがいい。
GUNG-HO-GUNS四番手の、絡繰人形を用いたゲリラ戦法の丁度真逆である。
何度も本物を見せ、トリックのタネになる偽物も本物だと見せかける。
木の葉を隠すのは木の葉の中、ではない。
危険な本命を隠すには信頼のおけるもので囲い、警戒を解いていくものがいい。
数回に渡り正しい情報を流して信頼を持たせ、疑う感覚を麻痺させているのだ。
皆既月食の画像は、高めてきた天候情報の信憑性に、更に鮮烈なイメージを付加させている。
特に、予備知識として皆既月食を知っている者は陥りやすい。
起こるのは"本物の皆既月食"であり、その他の何物でもないとのイメージが既に築かれているからだ。
皆既月食の画像は、高めてきた天候情報の信憑性に、更に鮮烈なイメージを付加させている。
特に、予備知識として皆既月食を知っている者は陥りやすい。
起こるのは"本物の皆既月食"であり、その他の何物でもないとのイメージが既に築かれているからだ。
ナイブズは皆既月食を理解はしたが、『月が短時間で欠ける』と聞いて真っ先に浮かんだのは……
フィフスムーンである。
ヴァッシュの力が月を穿ちクレーターを残した、あの事件。
隕石であろうと作りえない巨大な孔だ。
言い方を変えれば、月が欠けたと称せなくはない。
ヴァッシュの力が月を穿ちクレーターを残した、あの事件。
隕石であろうと作りえない巨大な孔だ。
言い方を変えれば、月が欠けたと称せなくはない。
- "皆既月食"は、月を消し飛ばすなり、もしくはそれに近い強大な現象を引き起こすなりの方便として引き合いに出されている。
あるいは、
- プラントの暴走に近い、苛烈なまでに膨大なエネルギーを放出する直喩。
あまりに突飛な仮定であるのは自覚している。
地下施設に対しての考察も確証はなく(重要視できる施設であるのは確かだろうが)、
上塗りするように代入した論理的でない理論は現実味を無視している。
仮定に仮定を重ねた、机上の空論だ。
地下施設に対しての考察も確証はなく(重要視できる施設であるのは確かだろうが)、
上塗りするように代入した論理的でない理論は現実味を無視している。
仮定に仮定を重ねた、机上の空論だ。
どちらにせよ、世界が一変するイベントを準備している。
しかし何より不快なのは、今の考察に辿り着くのに必要な絶対条件、
『皆既月食は知らない』『一般的な月食や月が物理的に欠けた事件は知っている』、
この二つを満たす関係者を参加させていることだ。
少なくともノーマンズランドから来た者が該当する。
用意していた"皆既月食"に関して、懐疑の目を向けると予想はついているはずだ。
誰が生き残ろうと、気づく事は想定内としての人選である。
しかし何より不快なのは、今の考察に辿り着くのに必要な絶対条件、
『皆既月食は知らない』『一般的な月食や月が物理的に欠けた事件は知っている』、
この二つを満たす関係者を参加させていることだ。
少なくともノーマンズランドから来た者が該当する。
用意していた"皆既月食"に関して、懐疑の目を向けると予想はついているはずだ。
誰が生き残ろうと、気づく事は想定内としての人選である。
『空想的な"皆既月食"概念を考察することすら、神のシナリオ通りだと言いたいのか』
更に、先の仮定を考慮すると、まだ引っ掛かる箇所があった。
ミッドバレイには関わりがない、ナイブズのみ当事者になる問題だった。
ミッドバレイには関わりがない、ナイブズのみ当事者になる問題だった。
フィフスムーンへ実際に孔を空けたのはヴァッシュだ。
より細かくいうなら、プラントの力である。
フィフスムーンの事件の再来を暗示させているのならば、月を欠く現象を完遂させる為のエネルギー源として、
搾取されている同胞、下手を打てばナイブズ自身がキーファクターに選ばれる危険がある。
無論易々と殺される気は毛ほどもないが、レガート・ブルーサマーズのこともある。
ヴァッシュと融合したことにより、プラントの力は回復した。
キーファクターどころか……
より細かくいうなら、プラントの力である。
フィフスムーンの事件の再来を暗示させているのならば、月を欠く現象を完遂させる為のエネルギー源として、
搾取されている同胞、下手を打てばナイブズ自身がキーファクターに選ばれる危険がある。
無論易々と殺される気は毛ほどもないが、レガート・ブルーサマーズのこともある。
ヴァッシュと融合したことにより、プラントの力は回復した。
キーファクターどころか……
皆既月食が何を表しているにせよ、ヴァッシュ・ナイブズ含むプラントの存在は、神の目論見の歯車として用意されていたとでもいうのか。
この用途だけに生きていくのは、許しようがない。
唐突に、山を越した向こう側、施設でいえば工場があるあたりで爆発音が轟く。
火薬などの見知った爆裂ではなかった。生命エネルギーの暴発のようである。
今いる山麓では、爆発衝撃の余波は窮めて小さくなっていた。
が、未知の生命エネルギーでも覆い隠せなかった一筋の"糸"が、ナイブズを絡め取る。
火薬などの見知った爆裂ではなかった。生命エネルギーの暴発のようである。
今いる山麓では、爆発衝撃の余波は窮めて小さくなっていた。
が、未知の生命エネルギーでも覆い隠せなかった一筋の"糸"が、ナイブズを絡め取る。
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肉を腹一杯に食い、まだ食事を続けているゾッドを待つ間に、キンブリーは今まで情報の整理をしていた。
情報はまるで子供向けのゲーム、七並べのようである。
全体像を浮かばせるには各々の手札を全て提示しなければならないが、誰かが六や八で止めている。
キングやエースがどれほど重要な情報を抱えていようが、必要な札が出てこなければただの荷物でしかない。
全体像を浮かばせるには各々の手札を全て提示しなければならないが、誰かが六や八で止めている。
キングやエースがどれほど重要な情報を抱えていようが、必要な札が出てこなければただの荷物でしかない。
キンブリーは止める側だ。
《神》の麾下の未来を知り得る日記、二人の出戻りなど、まず間違いなく何枚か良いカードを手中にしている。
加えて安藤潤也の兄と潮の火種も用意している。
加えて安藤潤也の兄と潮の火種も用意している。
だが、他人に手札を出させるほど力を持つ情報はまだまだ足りない。
はっきり言って、この場ではいかなる情報も嫌らしいけれん味ばかりを感じる。
生き残る為に使えなくはないが、人を食いつかせるには弱い。
はっきり言って、この場ではいかなる情報も嫌らしいけれん味ばかりを感じる。
生き残る為に使えなくはないが、人を食いつかせるには弱い。
神の内輪で反乱が起こっている可能性、ゾッドとウィンリィ・ロックベルの存在意義など、
そう事実から遠くはないと思われる切り札はある。
もう一押し、実用的な材料があればいい力になる。
そこをひり出せばいい。
そう事実から遠くはないと思われる切り札はある。
もう一押し、実用的な材料があればいい力になる。
そこをひり出せばいい。
キンブリーは二度世話になった"あの"ギミックを思い返す。
首輪やら空間を繋げるやら、《神》側は奇怪なギミックを仕掛けている。
首輪は文字どおり枷の役割。
出戻り二人にですらしっかりと填められている。
首輪は文字どおり枷の役割。
出戻り二人にですらしっかりと填められている。
空間を切ったり貼ったりしているというのは、龍脈の流れによるものか、趙公明のいうところの宝貝なるものが発動しているのか。
処処未確定だが、大方それに近いだろう。
しかしもうひとつ、この島にいる者へ平等に仕組まれたギミックがある。
処処未確定だが、大方それに近いだろう。
しかしもうひとつ、この島にいる者へ平等に仕組まれたギミックがある。
名簿だ。
首輪も空間の切り貼りも、実利的な目的がある。だが名簿はどうだ?
白紙から文字が浮かぶ。死亡者を認識すると赤く染まる。
こんな無意味なことはない。
ただの印刷であれば配るだけで済む。
地図の立ち入り禁止区域でも赤くした方が実利的だ。
効能は肉親友人知人他人を亡くした参加者に万感交到らせるか、
あとはせいぜい森あいと安藤潤也に施したように、虚像を見せて混乱を導けるぐらいである。
首輪も空間の切り貼りも、実利的な目的がある。だが名簿はどうだ?
白紙から文字が浮かぶ。死亡者を認識すると赤く染まる。
こんな無意味なことはない。
ただの印刷であれば配るだけで済む。
地図の立ち入り禁止区域でも赤くした方が実利的だ。
効能は肉親友人知人他人を亡くした参加者に万感交到らせるか、
あとはせいぜい森あいと安藤潤也に施したように、虚像を見せて混乱を導けるぐらいである。
目的無くして手段は存在しない。
死者の名前を彩り、恐怖と絶望を植えつけるにしては、どうも動機が不明瞭だ。
死者の名前を彩り、恐怖と絶望を植えつけるにしては、どうも動機が不明瞭だ。
そこで登場するのが出戻りという糸口だ。
出戻りという要素を加えると、この無意味に見えるギミックに『目的』が生まれる。
死んだと思った人間の名が染まる。
名簿の変色は不可逆で、元には戻らない。
放送が過ぎれば、気絶やら睡眠やらで聞いていない者以外は一様に同じ変化を辿る。
名簿の変色は不可逆で、元には戻らない。
放送が過ぎれば、気絶やら睡眠やらで聞いていない者以外は一様に同じ変化を辿る。
復活を遂げた者は名簿の情報から漏れて、自由に裏工作が可能となる。
出戻りを知った参加者が、便乗する形で撹乱を狙い、利用するように仕向けているのではなかろうか。
出戻りを知った参加者が、便乗する形で撹乱を狙い、利用するように仕向けているのではなかろうか。
それどころか、《神》はあらかじめ……蘇りが出るのだと想定していたのではあるまいか。
二人の出戻りの名前が呼ばれたのは第二放送後だ。
ゾッドの言では、戦線復帰した時にはまだウィンリィ・ロックベルは帰還していなかったとのことである。
それよりも遥かに前、道標は既に、このゲームが始まった頃から用意されていたのだ。
ゾッドの言では、戦線復帰した時にはまだウィンリィ・ロックベルは帰還していなかったとのことである。
それよりも遥かに前、道標は既に、このゲームが始まった頃から用意されていたのだ。
――シナリオが覆らない証として。
《神》の不和で感じられる、『一人になるまで殺し合え』とのルールの矛盾。
仮にあの道化と幼女は進行司会者役グループとしておく。
ゾッドを再び送り込んだ者は、ルールの矛盾から、進行司会者役グループとは少なくとも違う役割を持ったグループに所属しているとわかる。
具体的には、反乱を起こしているであろう者だ。
仮にあの道化と幼女は進行司会者役グループとしておく。
ゾッドを再び送り込んだ者は、ルールの矛盾から、進行司会者役グループとは少なくとも違う役割を持ったグループに所属しているとわかる。
具体的には、反乱を起こしているであろう者だ。
《神》の黒幕は、反乱分子が出戻りを仕組むことすら、ゲームを始める準備段階から『予想』をしていた。
いや、『予想』では生温い。
いや、『予想』では生温い。
緻密な計算。
思惑の誘導。
運命の俯瞰。
思惑の誘導。
運命の俯瞰。
闡明した名簿という座標は、どこまでも残酷である。
ただ、出戻り二人が、単純に『死亡→復活』の道を辿ったとは思えない。
そもそも何を持ってして「死んだ」扱いをするのかを《神》は明かしていない。
そもそも何を持ってして「死んだ」扱いをするのかを《神》は明かしていない。
肉体的な死か、魂魄的な死か。
少し考えればわかる。魂魄の方だろう。
アルフォンス・エルリックもグリードも、肉体と呼べる肉体を持っていない。魂のみがここにいた。
肉体の死だけをもって死亡とするには無理がありすぎる。
少し考えればわかる。魂魄の方だろう。
アルフォンス・エルリックもグリードも、肉体と呼べる肉体を持っていない。魂のみがここにいた。
肉体の死だけをもって死亡とするには無理がありすぎる。
魂が消滅するかした時点で"死亡"扱いされるとすれば、今度はゾッドの復帰に疑問が残る。
この通り、肉体も魂もここにある。
この通り、肉体も魂もここにある。
魂が滅んで残った肉体を誰かが操る、もしくは他の魂と癒着させられているのなら。
名簿から雲隠れできる手駒を作るために、誰かと何かを融合させて、
合成獣かそれに近い者を生み出しているとしてもいい。
『ゾッド』は元々違う姿だった?
名簿から雲隠れできる手駒を作るために、誰かと何かを融合させて、
合成獣かそれに近い者を生み出しているとしてもいい。
『ゾッド』は元々違う姿だった?
いや違う。
隻眼の男の反応から、姿形と中身は合致しているようだ。
密度の高い筋肉は実にエネルギッシュだ。
走らせた馬のように、身体から蒸気が昇り立つ。
死人とは程遠い。
隻眼の男の反応から、姿形と中身は合致しているようだ。
密度の高い筋肉は実にエネルギッシュだ。
走らせた馬のように、身体から蒸気が昇り立つ。
死人とは程遠い。
ともかく、名簿の細工は出戻りの隠匿が目的だろう。
名簿や《神》の反乱の観照は、ある程度真に近いと思われる。
これを脚色せずして煽動はない。
名簿や《神》の反乱の観照は、ある程度真に近いと思われる。
これを脚色せずして煽動はない。
清濁真偽を織り混ぜた情報を用いた取引・カマ掛けは、キンブリーが得意とする煽動方法である。
数学の命題問題のように、嘘を見破るには一つでも撞着を見つければいいが、
真が混じっている嘘は突き詰めるのが極めて難しくなる。
真を織り混ぜ述べていれば、潤也のように即座に嘘を見破る能力があっても答えは出ない。
ついでに鋼のや潤也の兄などそこそこ機転の認められる者には考察視点の拡散・攪乱をさせられる。
数学の命題問題のように、嘘を見破るには一つでも撞着を見つければいいが、
真が混じっている嘘は突き詰めるのが極めて難しくなる。
真を織り混ぜ述べていれば、潤也のように即座に嘘を見破る能力があっても答えは出ない。
ついでに鋼のや潤也の兄などそこそこ機転の認められる者には考察視点の拡散・攪乱をさせられる。
しかしこのような俗まみれの情報だけを使うのは考えものだ。
とすれば、もう少し待ってみよう。
剛毅木訥仁に近し。
それを体現した、賢者の石の材料を調達してくれるという、その男を――
とすれば、もう少し待ってみよう。
剛毅木訥仁に近し。
それを体現した、賢者の石の材料を調達してくれるという、その男を――
「おい」
地面に滴りきった猪の脂が焚き火の光を照り返す。
推考の手掛かりになる本人が、最後の肉片を千切りむしゃぶっていた。
骨が出揃ったので武器錬成の催促なのだろう。
推考の手掛かりになる本人が、最後の肉片を千切りむしゃぶっていた。
骨が出揃ったので武器錬成の催促なのだろう。
「急かさないでくださいよ。
さて、どのような武器にしますかねぇ」
さて、どのような武器にしますかねぇ」
すっかり骨と牙と皮だけになった猪をキンブリーは撫でた。
約束は約束。腹を膨らましてくれた義理を先に立てるとしよう。
適当な布で、骨の表面に僅かに残る肉のスジをこそげ落とす。
軟骨を剥ぎ取り磨いた骨は、焦れったいまでにゆっくり昇る月の光を受ける。
約束は約束。腹を膨らましてくれた義理を先に立てるとしよう。
適当な布で、骨の表面に僅かに残る肉のスジをこそげ落とす。
軟骨を剥ぎ取り磨いた骨は、焦れったいまでにゆっくり昇る月の光を受ける。
一から想像して武器を作るのも労力の無駄なので、図書館から拝借した本を適当に開いてみた。
斜め読みした何冊目かの本に別冊のように冊子が挟まれていた。
冊子のとあるページに、横から覗くゾッドが感心を寄せる。
斜め読みした何冊目かの本に別冊のように冊子が挟まれていた。
冊子のとあるページに、横から覗くゾッドが感心を寄せる。
「これに似た剣を作れるか」
「!……
構いませんよ。貴方の希望であるならこれにしましょう。
造形も簡単ですし、すぐに作れます」
「!……
構いませんよ。貴方の希望であるならこれにしましょう。
造形も簡単ですし、すぐに作れます」
かくして要望通りの剣は完成した。
軽かった。
照らす月光が剣先に白い星を作る。
握られ振られるのを待ち侘びた剣はゾッドの手に収まった。
隻眼の男が持つ鉄の板ともとれる剣よりも更に大きい。
骨のままに白色である刀身はゾッドの荒々しい姿態には不釣り合いになりそうなものだが、
大きさと白銀と象牙を足したような重厚な剣太刀で辛うじて均衡を保っている。
一端の鍛冶屋にでもなった気分である。
ものを創造し依頼人の満足に応えるなど爆弾狂にあったはずもなく、
気に入った素振りのゾッドに対し奇妙な感動が湧く。
だが、キンブリーがこの剣に思い入れを持つことはないだろう。
軽かった。
照らす月光が剣先に白い星を作る。
握られ振られるのを待ち侘びた剣はゾッドの手に収まった。
隻眼の男が持つ鉄の板ともとれる剣よりも更に大きい。
骨のままに白色である刀身はゾッドの荒々しい姿態には不釣り合いになりそうなものだが、
大きさと白銀と象牙を足したような重厚な剣太刀で辛うじて均衡を保っている。
一端の鍛冶屋にでもなった気分である。
ものを創造し依頼人の満足に応えるなど爆弾狂にあったはずもなく、
気に入った素振りのゾッドに対し奇妙な感動が湧く。
だが、キンブリーがこの剣に思い入れを持つことはないだろう。
ゾッドは冊子のタイトルを知らずに、この武器のオリジナルに惹き付けられた。
ごく薄い冊子だった。たった十数ページしかない。
軽少な冊子であるこれに嫌怨を抱く。
ごく薄い冊子だった。たった十数ページしかない。
軽少な冊子であるこれに嫌怨を抱く。
燐酸カルシウムの形を変えただけの剣の形は。
――神器と呼ばれる、『快刀乱麻』の姿を模していた。
ゾッドに悟られないように、『神器取扱い説明書』に対して苦笑う。
知らないうちに神を選択した(もしくは選択の余地など与えられていなかった)彼は、この剣をどう使うのだろうか。
知らないうちに神を選択した(もしくは選択の余地など与えられていなかった)彼は、この剣をどう使うのだろうか。
《神》よ。
どこまでイニシアチブを握る気だ。
どこまでイニシアチブを握る気だ。
炎のはぜる音に紛れ、電子音が鳴る。
趙公明からのメールらしい。
また長ったらしい文面かと思い、開けてみると相変わらず娘の画像が添付されていた。何故か着飾っている。
しかし、文面は短い。
趙公明からのメールらしい。
また長ったらしい文面かと思い、開けてみると相変わらず娘の画像が添付されていた。何故か着飾っている。
しかし、文面は短い。
Sub:キンブリー君の未来
やぁ、元気かい?
時間が押しているので手短にメールをするよ。
時間が押しているので手短にメールをするよ。
君の未来にノイズが入っている。
『賢者の石が手に入る未来』が、『賢者の石の材料らしき物が手に入る未来』に変わった。
詳しく知りたければメールか電話をくれたまえ。
『賢者の石が手に入る未来』が、『賢者の石の材料らしき物が手に入る未来』に変わった。
詳しく知りたければメールか電話をくれたまえ。
P.S このドレスは僕が見立てたのさ! 彼女に似合うだろう!
追伸は心底どうでもいい。
しかし、『賢者の石が手に入る未来』が無くなるということは、電話口の男と材料予定の人間との間に不和でもあったのだろうか。
さて、書き変わった未来とは一体。
北の地で爆轟が起こった。
#####
太陽などとっくに沈み、少しずつ昇る満月が溶け残ったみぞれに光を与えている。
真っ暗な森の真っ暗な建築物に、青い炎が灯る。
確かにこの建物では六人もの死者が出ているが、人魂などではなかった。
カンテラ代わりに、和食亭などで小鍋調理に使われる固形燃料を燃やしているだけだ。
幸い着火用具もあれば固形燃料も数を持っており、しばらくは明かりに苦労せずに済みそうだった。
真っ暗な森の真っ暗な建築物に、青い炎が灯る。
確かにこの建物では六人もの死者が出ているが、人魂などではなかった。
カンテラ代わりに、和食亭などで小鍋調理に使われる固形燃料を燃やしているだけだ。
幸い着火用具もあれば固形燃料も数を持っており、しばらくは明かりに苦労せずに済みそうだった。
「ハ、あいつに感謝するのはこれっきりダナ」
この道具を持っていた野郎が夜を向かえる備えをしていたことを、多少はありがたく思う。
リンはまだ辛うじて崩れていない工場の一階を歩いていた。
幾度に渡る激しい戦闘により、工場はいつ潰れるかもわからない状態だった。
工場には部屋という部屋の間に防火シャッターが下り、リンの行動範囲を制限していた。
武器が刃こぼれするのはもったいない上、バールのような破壊する道具もなかったので、所々ぶち抜かれたシャッターをくぐっていく。
リンはまだ辛うじて崩れていない工場の一階を歩いていた。
幾度に渡る激しい戦闘により、工場はいつ潰れるかもわからない状態だった。
工場には部屋という部屋の間に防火シャッターが下り、リンの行動範囲を制限していた。
武器が刃こぼれするのはもったいない上、バールのような破壊する道具もなかったので、所々ぶち抜かれたシャッターをくぐっていく。
ゆく先々の部屋の機器は止まって飴のように曲がりくねり、機械油がダラダラ零れている。
部屋を一周し、どこにも妙な仕掛けがないのを確認してから、また次の破れているシャッターの部屋で同じことを繰り返す。
探しものがあるのだ。
部屋を一周し、どこにも妙な仕掛けがないのを確認してから、また次の破れているシャッターの部屋で同じことを繰り返す。
探しものがあるのだ。
小さな火で辺りを見回していると、グラトニーに飲まれ松明片手に右往左往した記憶が、催眠術のように浮かんでくる。
『暗闇に火』が、ちょうどあの時の状況に似ていたからかもしれない。
エドワードは松明を口にくわえてまでして、引き摺る勢いでリンを連れていこうとしていた。
エンヴィーの身体、クセルクセスの器無き者にまで情けをかけていた。
『暗闇に火』が、ちょうどあの時の状況に似ていたからかもしれない。
エドワードは松明を口にくわえてまでして、引き摺る勢いでリンを連れていこうとしていた。
エンヴィーの身体、クセルクセスの器無き者にまで情けをかけていた。
炎が揺らぎ、我に返る。
一瞬無防備だったが、襲われる危険はなかった。
何せ工場にはリンしかいないのはわかっている。人の気配が感じられない。
……ついでに、なぜか日中よりも龍脈が鮮明に感じ取れる。
何せ工場にはリンしかいないのはわかっている。人の気配が感じられない。
……ついでに、なぜか日中よりも龍脈が鮮明に感じ取れる。
いつもより霞がかっているのは変わっていないが、磨りガラスを一、二枚取っ払った程度に感覚を取り戻している。
島に身体が慣れたのか、それともバラバラ人間になった副作用なのか。
どのみち、悪いことではない。
ともかくも復活した感覚とかすかな灯火を頼りに、『目当てのもの』を探す。
島に身体が慣れたのか、それともバラバラ人間になった副作用なのか。
どのみち、悪いことではない。
ともかくも復活した感覚とかすかな灯火を頼りに、『目当てのもの』を探す。
一つ目の固形燃料の炎が消え始める。
チャッカマンを出しながら廊下の角を曲がると、あっさりと『目当てのもの』へつながる地下への階段が見つかった。
二つ目の固形燃料に火を灯し、見てくれは悠々閑々と、実際には足裏に嫌な汗をかいて進む。
手すり付きの更なる闇が、奈落のようにぼっかりと開いていた。
泉下の客にしようと、真っ黒な手が招いている気がした。
ここを降りて行かなければ『目当てのもの』に出会えない。
チャッカマンを出しながら廊下の角を曲がると、あっさりと『目当てのもの』へつながる地下への階段が見つかった。
二つ目の固形燃料に火を灯し、見てくれは悠々閑々と、実際には足裏に嫌な汗をかいて進む。
手すり付きの更なる闇が、奈落のようにぼっかりと開いていた。
泉下の客にしようと、真っ黒な手が招いている気がした。
ここを降りて行かなければ『目当てのもの』に出会えない。
片手を手すりに、空いたもう片方を武器に伸ばす。
指先が軽く手すりに触れた。
やけに冷たいその感触に、急に後足を踏んでしまう。
尻込みするほど暗い地下に、思考が吸い込まれる。
この先に『目当てのもの』があるのに、階段を降りるどころか手すりにすら触れられない。
鼻白んだまま立ち尽くす。
指先が軽く手すりに触れた。
やけに冷たいその感触に、急に後足を踏んでしまう。
尻込みするほど暗い地下に、思考が吸い込まれる。
この先に『目当てのもの』があるのに、階段を降りるどころか手すりにすら触れられない。
鼻白んだまま立ち尽くす。
逡巡する原因など、判りきっている。
探している『目当てのもの』は"もの"である。
"人"ではない。
エドワードでは決してない。
それどころか、彼を探すつもりは全くない。
"人"ではない。
エドワードでは決してない。
それどころか、彼を探すつもりは全くない。
エドワードよりも優先して『目当てのもの』を探している事実に、つのっていた罪悪感が身体と一緒に凝り固まって動かない。
獣に因縁があったらしきナガレとかいう男を刺したら、もうエドワードと合わせる顔がないのだと気づいていた。
彼はどんな絶望下でも他人に希望を捨てさせない。
人道主義で、人殺しを何より厭い、誰より命の重さを知っている。
誰にも覆すことのできない強固な信念だと知っていながら、リンはナガレを突き刺した。
それはエドワードの生きざまを否定する裏切り。
味方の砦の壁にハンマーをぶちかまして大穴を空けたも同然だった。
遺恨を晴らした代償はあまりに大きく、そして益は何もない。
彼はどんな絶望下でも他人に希望を捨てさせない。
人道主義で、人殺しを何より厭い、誰より命の重さを知っている。
誰にも覆すことのできない強固な信念だと知っていながら、リンはナガレを突き刺した。
それはエドワードの生きざまを否定する裏切り。
味方の砦の壁にハンマーをぶちかまして大穴を空けたも同然だった。
遺恨を晴らした代償はあまりに大きく、そして益は何もない。
死んだ人のためだけに、一人の仲間の信頼を失うのはバカだと、もしアルフォンスがいたならそうたしなめたかもしれない。
それでも、エドワードに背いてでも、あの男に一太刀くれてやらねばならなかった。
それでも、エドワードに背いてでも、あの男に一太刀くれてやらねばならなかった。
あの男を許してはいけないのだ。
どういった理由もなく、大事な部下を殺したのだ。それもどん底のどん底まで突き落とす形で。
死んでも死ななくても咲夜はグリードの大事な部下。庇護対象だ。
意味もなくズタズタに汚された彼女を救いたかった。
ナガレと同じ身に堕ちると知っていても、だ。
どういった理由もなく、大事な部下を殺したのだ。それもどん底のどん底まで突き落とす形で。
死んでも死ななくても咲夜はグリードの大事な部下。庇護対象だ。
意味もなくズタズタに汚された彼女を救いたかった。
ナガレと同じ身に堕ちると知っていても、だ。
これをエドワードが知ったら酷く憤慨するのが目に見えている。
だが……血ヘド吐いて悩み苦しみぬいてまでリンを許そうとするだろう。彼は優し過ぎる。
だが……血ヘド吐いて悩み苦しみぬいてまでリンを許そうとするだろう。彼は優し過ぎる。
彼を、彼自身の信念とリンの罪の間で苛ませたくはない。
会う訳にはいかないのだ。
黙っていればいい、とも考えたが、それはナガレと同じ轍を踏むことであり、ナガレに殺された咲夜に対しての冒涜となる。
咲夜にまた泥を塗るのは絶対に嫌だった。
会う訳にはいかないのだ。
黙っていればいい、とも考えたが、それはナガレと同じ轍を踏むことであり、ナガレに殺された咲夜に対しての冒涜となる。
咲夜にまた泥を塗るのは絶対に嫌だった。
だからエドワードと袂を分かち、合流も共闘もせず別の道を辿ろうと決めた。
彼の無事を祈っているのは本心だ。
気丈な友人である。
勇敢な同士である。
大切な仲間である。
気丈な友人である。
勇敢な同士である。
大切な仲間である。
友人で同士で仲間だから。だったから。
傷つけないために、何よりここの島に来ても揺らぐことのない己の使命を貫き通すために、エドワードとの決別を選んだ。
ならこれからなすべきことは何か。
傷つけないために、何よりここの島に来ても揺らぐことのない己の使命を貫き通すために、エドワードとの決別を選んだ。
ならこれからなすべきことは何か。
彼とは別のやり方で《神》への反逆と脱出を試みる。
それを前提に、今はやるべきことから片付けていく。
エドワードを探す時間が省かれたので、その分の労力を皇帝への橋頭堡を築くために注ぐのだ。
それを前提に、今はやるべきことから片付けていく。
エドワードを探す時間が省かれたので、その分の労力を皇帝への橋頭堡を築くために注ぐのだ。
――結果的に、仲間を捨てて地位の確保に走っている自分が嫌になる。心気が湧く。
独善的。身勝手。
王の器がこれでいいのかとせめぐ心を無理に押さえ込む。
一歩たりとも戻るつもりもなく、脇目ふらず猛進する。
バラバラの実を食って人間を辞めたとき、そう誓ったはずだった。
悩むのはいくらでも後回しにできる。
王の器がこれでいいのかとせめぐ心を無理に押さえ込む。
一歩たりとも戻るつもりもなく、脇目ふらず猛進する。
バラバラの実を食って人間を辞めたとき、そう誓ったはずだった。
悩むのはいくらでも後回しにできる。
「……行ってやるサ、何を捨ててモ」
階段に向き直った。
氷を知らない子供が恐る恐る扱う風に、また手すりに触れた。今度はしっかり握る。
ゼンマイ仕掛けの人形のように、機械的に足を出す。
この下に、皇帝に一歩また近づく『目当てのもの』があるのだと思うと、何か大切なものを挽っ切った身体も少しは軽く感じられた。
氷を知らない子供が恐る恐る扱う風に、また手すりに触れた。今度はしっかり握る。
ゼンマイ仕掛けの人形のように、機械的に足を出す。
この下に、皇帝に一歩また近づく『目当てのもの』があるのだと思うと、何か大切なものを挽っ切った身体も少しは軽く感じられた。
「……でもナ、人間捨ててモ、皇子を捨てる訳にはいかないんダヨ」
底無しにも見える階段を、そう呟いて一段一段降りていく。
再び人ならざる身へ、今度はグリードのように強制的ではなく、完全なる自分の意思で変貌した。
もう人間ではない。妖怪か化物だ。
罪のけじめとして、化物の身を受け止めたい。
再び人ならざる身へ、今度はグリードのように強制的ではなく、完全なる自分の意思で変貌した。
もう人間ではない。妖怪か化物だ。
罪のけじめとして、化物の身を受け止めたい。
皇帝という立場は、人類が辿ってきた進化を捨ててでもなるべきであり、
自分にはそれになるために存在する価値がある。
自分にはそれになるために存在する価値がある。
――と、そうでも言い聞かせなければ、覚悟が歪んでしまう。
『皇子』の単語に、飲んだこともないアルコールに似た麻痺感を求めていた。
まるで失敗を忘れようとスコッチをあおる飲んだくれのようだ。
まるで失敗を忘れようとスコッチをあおる飲んだくれのようだ。
無辜の民を救う命を受け誕生したも同然の生い立ちだ。
ひどい鉄飯碗時代を打破したい一心で、真の王を目指していた。
民無くして王は無く、暴政を正す。
咲夜の死はその意思を固めた。
彼女のような民を出してはいけない。
手段を選んでいる時間など残されていないのだ。
なりふりかまっていられない。
最悪の場合、例えばエドワードが死んでしまった時は……
ひどい鉄飯碗時代を打破したい一心で、真の王を目指していた。
民無くして王は無く、暴政を正す。
咲夜の死はその意思を固めた。
彼女のような民を出してはいけない。
手段を選んでいる時間など残されていないのだ。
なりふりかまっていられない。
最悪の場合、例えばエドワードが死んでしまった時は……
眩しすぎる太陽に背を向けて道を行こうとする姿が、どこか流と重なっていたのは、もはや誰も知らないことだった。
#####
「ここか」
一日前はまともな姿で稼働していたであろう建築物が、亡霊のように兀立していた。
一階がほぼ瓦礫と化している上の階を支えている。
ひびが少しでも増えたら確実に一階は潰れる。
奇跡的なバランスでまだ崩壊していないが、強風注意と天気予報にある。
今夜中には崩れ去ると思われる。
一階がほぼ瓦礫と化している上の階を支えている。
ひびが少しでも増えたら確実に一階は潰れる。
奇跡的なバランスでまだ崩壊していないが、強風注意と天気予報にある。
今夜中には崩れ去ると思われる。
満月以外に光源はない。
建築物内にも明かりは見当たらず、その陰惨さがより廃墟を廃墟たらしめる。
建築物内にも明かりは見当たらず、その陰惨さがより廃墟を廃墟たらしめる。
荷物の確認を終えたナイブズは、工場近くまで車を寄せ進めるように指示をする。
鉄錆臭い風が、後部座席の扉を開いた途端に雪崩れこむ。
爆発がある前にも波乱が生じていたのか、瓦礫やガラスや工業用品、果ては男女かも判別できない死骸が四散していた。
機械が機能していない今となっては、工場というより巨大な墓標である。
鉄錆臭い風が、後部座席の扉を開いた途端に雪崩れこむ。
爆発がある前にも波乱が生じていたのか、瓦礫やガラスや工業用品、果ては男女かも判別できない死骸が四散していた。
機械が機能していない今となっては、工場というより巨大な墓標である。
案の定火薬や化学薬品といった、爆薬になる匂いはしない。
金属火災が起きた場合、水も消火器も消火用化学薬品も使えない。
金属が化学反応を起こして爆発を誘発してしまうからだが、そういった間違った消火方法をしたでもないようだ。
金属火災が起きた場合、水も消火器も消火用化学薬品も使えない。
金属が化学反応を起こして爆発を誘発してしまうからだが、そういった間違った消火方法をしたでもないようだ。
やはり未知の生体エネルギーが暴発したのだ。
そのエネルギー源も跡形は無し。
しかしエネルギーに混じって、微細な同胞の鼓動を、息づかいを、確かに感じたのだ。
生産の動力源は間違いなく同胞の搾取に寄るものであろうが、肝心の工場はこの壊廃ぶりである。
同胞は機能していない。
機器が稼働している音は一切聞こえず、囲む森は静かなままだ。
そのエネルギー源も跡形は無し。
しかしエネルギーに混じって、微細な同胞の鼓動を、息づかいを、確かに感じたのだ。
生産の動力源は間違いなく同胞の搾取に寄るものであろうが、肝心の工場はこの壊廃ぶりである。
同胞は機能していない。
機器が稼働している音は一切聞こえず、囲む森は静かなままだ。
天の移ろいが囮であるのは遠からぬ推察だったようだ。
望見したところでプラントの特徴的な形は見当たらない。
ならば予想した通り、見えない箇所、地下に備えつけられていると考えていい。
工場が潰れるのも時間の問題である。
地下にいるぶんには潰される憂慮もなく済むが、閉じ込められた際に脱出のために無駄な力を使うのは惜しい。
早めに事を済ませておくのが吉だ。
望見したところでプラントの特徴的な形は見当たらない。
ならば予想した通り、見えない箇所、地下に備えつけられていると考えていい。
工場が潰れるのも時間の問題である。
地下にいるぶんには潰される憂慮もなく済むが、閉じ込められた際に脱出のために無駄な力を使うのは惜しい。
早めに事を済ませておくのが吉だ。
「待機していろ」
それだけをミッドバレイに告げると、血がドブのように溜まった建造物へ向かった。
硬直しきった死骸には霜が降り、既に無数の蟻がたかっていた。
硬直しきった死骸には霜が降り、既に無数の蟻がたかっていた。
シャッターがゆく先々を塞いでいるので骨が折れると思っていたが、地下階段は存外簡単に発見した。
どうも――先客がいるらしい。
か細い炎がカンテラ代わりに揺れていた。
ランタンで照らしゆくと、辛うじて生きていたらしき電灯のスイッチを着けた音がした。
電灯はジリジリと不規則に点滅を繰り返す。
どうも――先客がいるらしい。
か細い炎がカンテラ代わりに揺れていた。
ランタンで照らしゆくと、辛うじて生きていたらしき電灯のスイッチを着けた音がした。
電灯はジリジリと不規則に点滅を繰り返す。
十数メートル四方の部屋に通路が縦断し、床には研究所で仕入れた知識である"錬金術"に使うと覚しき紋様が刻まれていた。
しかし、そんなことはどうでもいい。
そこにいたのは――
そこにいたのは――
西沢歩ぐらいの年齢の子供、割れたフラスコ、そして四散した彼女たちだった。
子供は彼女の一人を抱き締めていた。
この子供がプラントドームを壊したとは考えられない。
根元は壊れているのだが、彼女たちは持ちこたえていた。
この子供がプラントドームを壊したとは考えられない。
根元は壊れているのだが、彼女たちは持ちこたえていた。
「……その腕を離せ」
ニューナンブで脅しをかけながら一歩近づけば、子供も一歩離れた。
スイッチの付いた壁に背中を預けたまま、にじって遠くへゆく。
どさりと彼女を下ろし、目付きの悪い子供は腕を上げた。
スイッチの付いた壁に背中を預けたまま、にじって遠くへゆく。
どさりと彼女を下ろし、目付きの悪い子供は腕を上げた。
「置いて出ていけ」
「――アンタがこれと同類だからカ?」
「――アンタがこれと同類だからカ?」
ナイブズの言葉を無視し、子供が小爪を拾う。
「アンタ人間じゃないだロ。
大体コレと融合したいといったところだろうナ」
「……ヴァッシュに会っているのか」
大体コレと融合したいといったところだろうナ」
「……ヴァッシュに会っているのか」
子供は乾いた唇を舐め、細い目をたぎらせている。
カマをかけられたのだ。
カマをかけられたのだ。
「会ってナイ。そいつは呼ばれたダロ」
ナイブズが人間ではないとわかった奴は初めてではない。
だがこの子供はプラントと同種族だと初対面で言い放った。
だがこの子供はプラントと同種族だと初対面で言い放った。
「話せ。貴様が割ったのか」
標準を絞る。
「……ナガレって男が身体の"気"を暴走させて自爆しタ。
気のエネルギーが逆流してオカシクなったんだと思ウ」
気のエネルギーが逆流してオカシクなったんだと思ウ」
"気"という理屈は理解できないが、生命や地上の流れを読むことに長けている能力だと推測する。
「もういいだろウ、ホムンクルス。
オレはいかなきゃならないとこがあるんダ」
オレはいかなきゃならないとこがあるんダ」
脱兎のように子供はナイブズの横をすり抜け、階段を駆け上がっていった。
彼女たちを集めたが、どうも妙である。彼女たちに意思らしい意思を感じられないのだ。
自爆のエネルギーをもろに受けて、性質が狂ってしまったかのようだ。
自爆のエネルギーをもろに受けて、性質が狂ってしまったかのようだ。
そして、破片の大きさと比較して、彼女たちが少な過ぎるとも思った。
――まさか。
子供のディバッグから数枚、羽根が飛び散っていた。
#####
ホムンクルスは不老不死に近い生物。
床に散らばった、天使のようなヒトガタはホムンクルスの気と似て非なる。
それでも、妙なエネルギーを創り出している点から見るに、それに近いだろうと思った。
床に散らばった、天使のようなヒトガタはホムンクルスの気と似て非なる。
それでも、妙なエネルギーを創り出している点から見るに、それに近いだろうと思った。
デイバッグにその内の一体を詰めたところで、今度はこのヒトガタと全く同じ気を持つ男が降りてきた。
人間ではない。
一線を画して自立した意思を感じられる。
地下室にやってきた男がこのホムンクルスに似た女――と言ってもいいものか――と同じ性質を持っているのは察することが出来た。
男には二人分の気が入り交じっていた。同じ種別の誰かと融合を果たしたと思われる。
男とヒトガタには繋がりがある。ホムンクルスのように融合ができるのであれば、エネルギーの塊であるヒトガタを吸収しにでも来たといったところか。
人間ではない。
一線を画して自立した意思を感じられる。
地下室にやってきた男がこのホムンクルスに似た女――と言ってもいいものか――と同じ性質を持っているのは察することが出来た。
男には二人分の気が入り交じっていた。同じ種別の誰かと融合を果たしたと思われる。
男とヒトガタには繋がりがある。ホムンクルスのように融合ができるのであれば、エネルギーの塊であるヒトガタを吸収しにでも来たといったところか。
デイバッグのヒトガタ、これを持ち帰らなければならない。
何せバラバラの実は食ってしまったのだ。新たに見つけた献上の品を、みすみす吸収させたくない。
何せバラバラの実は食ってしまったのだ。新たに見つけた献上の品を、みすみす吸収させたくない。
さっさとこの男から逃げる選択肢を取った。
工場に侵入した時にはなかった車がお誂え向きに駐車してあるのを見つけたはいいが、
まさか別の人間の逃亡のとばっちりを食うとは考えていなかった。
工場に侵入した時にはなかった車がお誂え向きに駐車してあるのを見つけたはいいが、
まさか別の人間の逃亡のとばっちりを食うとは考えていなかった。
時系列順で読む
Back:この病は死に至らず Next:ロシアンルーレット・マイライフ
投下順で読む
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| 168:燃え上がる策動の炎 | ゾッド | 171:ロシアンルーレット・マイライフ |
| 168:燃え上がる策動の炎 | ゾルフ・J・キンブリー | 171:ロシアンルーレット・マイライフ |
| 155:残酷な神が支配する | ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク | 171:ロシアンルーレット・マイライフ |
| 155:残酷な神が支配する | ミリオンズ・ナイブズ | 171:ロシアンルーレット・マイライフ |
| 162:おまえはそこで―― | リン・ヤオ | 171:ロシアンルーレット・マイライフ |