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An Embryo In The Abyss

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An Embryo In The Abyss ◆L62I.UGyuw


最初の放送とは違い、あからさまなアクシデントが発生した訳ではない。
壮大なピアノの調べと共に滞りなく放送は始まり、以前の二回と同じく事務的な連絡と若干の挑発染みた発言があり、そして何事もなく終わった。
しかし、気付く者は気付く。

以前の二度の放送で流れたピアノの旋律は、音楽について嗜み以上のものを持たない聞仲にも判るほどに天才的な美を孕んでいた。
だが先程、三度目の放送で流れたピアノは、至極平凡な演奏だった。
微妙な違いだ。平時ならまだしも、この極限状態においては大抵の者は気付かないだろう。
しかしそれだけのことから、聞仲は『神』の陣営に生じた更なる不和を感じ取っていた。
この些細な異常が意味するところは、素直に考えればピアニストの不在だ。
名も知らぬピアニストは殺されたか、逃げ延びたか。

この事態を好機と捉えるべきだろうか。
それは違う、と聞仲は考える。

一日と経たずに、およそ三割まで減った人数。
ゲームの破壊を目指す者なら、誰もが焦りを隠せない状況。
そこに『神』の陣営に亀裂が入ったという推測が得られる。それも容易には気付かない手掛かりによって。

これは思わず縋りたくなる希望だ。
そして希望に縋る者こそが最も操り易い。
解っていても、人は希望を捨てられないものだから。

おそらく『神』にとっては、不和を感知されることすら織り込み済みなのだ。
でなければ、王天君に関する顛末の説明が付かない。

王天君は、聞仲とうしおの目の前で、まるで見せ付けるように処刑された。
王天君のあの表情。何度も目にしたことのあるあの表情。
嵌められたことを悟ったときに、誰もが見せるあの表情。
あれは断じて演技などではない。
自ら口走った通り、彼もまた駒の一つに過ぎなかったのだろう。

『神』は王天君を――いや、聞仲や妲己すらも手玉に取る悪魔的な能力を持っている。
そう仮定すべきであり、ここまでの全ては『神』の思惑通りであると考えるべきだ。

思惑通り。
混迷を極めるこの事態が。
大軍と大軍の衝突とは違う、個々人がそれぞれの思惑で動くこの状況が。
果たしてそんなことが可能だろうか?

可能なのだ。聞仲はそれをよく知っている。
もっと大雑把かつ単純とはいえ、聞仲自身も似たようなことを考え実行したことがあるのだから。

つまりこの場で起こっていることは、ホッブズ的混沌が招いた殺戮ではない。
無臭ではあるが――いや無臭であるが故に、却ってある種の者には嗅ぎ取れる、そんな計画性を孕んだ殺戮だ。

不自由な選択肢を次々と与えることで、思考を限定し、行動を操作する。
単純な一つ一つの思考と行動は、他者の選択に干渉し必然として次の選択肢を創り上げる。
かくして一見混沌そのものにしか見えない状況は、高度に複雑精緻なチェス・プロブレムの様相を呈する。
盤面の駒はただ自らの能力に従って動くのみである。
どう足掻いたところでビショップは直進出来ないし、白のポーンが昇格するには黒のバックランクに到達しなければならない。
達成すべき解答条件も含めて全容を把握出来るのは、全てを俯瞰する者だけ。

さて――かつての聞仲は、最短手順による全ての駒の排除を解答条件として設定した。
では一体、『神』はいかなる解答条件を設定しているのか――。


**********


「聞仲さん、何処行くんだよ。そっちは――」

背後から戸惑ったうしおの声が聞こえる。
聞仲は病院へ行きたいと言ううしおの意思を確認すると、すぐさま診療所の中へと向かった。

「病院への近道がある。おそらくはな」

待合室を横切って非常口の扉を開く。
後ろから付いて来ていたうしおが目を丸くした。

「ここは……」

本来なら外部へと繋がっているはずの扉の向こうには、地下へと延びる暗い階段があった。
冷やりとした空気が流れ出す。

「放送の前に少々調べた。罠がないとも限らないため、深入りは避けたが」

でもこれがどうして近道、とうしおが言いかけたところで、聞仲はコンパスを取り出した。

「これを見ながら付いてくるといい」

頭に疑問符を浮かべるうしおにコンパスを見せながら、ゆっくりと階段を下りていく。
すると、コンパスは徐々に、しかし不自然に回転していった。
階段の終わりまで下りると、聞仲はコンパスを仕舞って短く言った。

「――こういうことだ」
「……え……っと……ごめん、よく解んねえや」

しゅんとなるうしお。
聞仲は教師の笑みを作ると、うしおに問いかけた。

「ふむ、そうだな。ではコンパスとはどういう道具だ?」

急に訊かれて、うしおは首を捻った。
少し考えて、自信無げに答える。

「えっと、それは……方角を知るための道具、だよな」
「そうだな、正解だ。正確に言えばその場の磁力線の向きを感知する道具なのだが――それがこの扉を境に大きく変化している。
 簡単に言えば、この扉を境に『北の向きが変わっている』のだ」
「そんなこと……あり得るのか?」
「現にある、としか言えないな。付け加えるなら、診療所の外には非常口の扉は存在しなかった」
「え? どういうことさ、そりゃ?」
「こう考えるしかあるまい。非常口の扉の内外は全く別の場所だ、とな。そしてもう一点」

少し進んでから立ち止まり、通路の半ばの壁にあった金属製プレートを撫でる。
プレートには、前方を指した矢印と、『開発棟』という文字が彫り込まれていた。

「地図にある施設の内、開発棟などというものがあるのは研究所くらいだろう。
 もしこの通路が研究所に繋がっているなら、病院までの道のりをかなり短縮出来る。
 万が一違ったとしても、診療所以上に病院から離れた場所はそうはない。
 故に、一刻も早く病院へ向かうなら、まずこの先へ進むのは悪い選択ではないと考えられよう」

そう簡潔に説明すると、聞仲は再び歩き始めた。
ぽかんとしていたうしおだったが、数秒後に慌てて聞仲に従って歩き出した。

しばらく進み、突き当たりの扉を開くと、診療所の敷地程度はありそうな部屋に出た。
天井に明かりはあるが薄暗い。化学薬品がいくつか混じり合ったような独特の臭いが鼻を突く。
通常の工具と共に、何に使うのか判らない機材がそこかしこに積まれている。
左手の壁に案内図を見付け、聞仲は近付いて確認する。

「……どうやらここは研究所で間違いないようだな。出口は向こうだ」

聞仲は次の部屋へと続く金属扉に顔を向ける。

「う~~~~ん……」

ふと見ると、難しい顔でうしおが唸っていた。

「何があった?」
「うん、その、やっぱり聞仲さんは凄えなあ、と思ってさ。オレなんかじゃ、とてもこんな上手いこといかねえよ。
 早く病院に行かねえと、って気ばっかり急いでてさ」

聞仲は微笑した。

「そう自分を卑下するものではない。私も若い頃はよく焦って失敗したものだ」
「焦って失敗する聞仲さんかァ……」

想像出来ねえなあ、とうしおはまた唸る。

「若い頃は皆そんなものだ。恥じる必要はない。
 ただ――いいか、うしお。どんなときでも浮き足立ぬよう心掛けろ。冷静に、よく考える癖を付けることだ。
 そうすれば、自分の能力を間違った方向に使うことだけは防げるようになる。
 それでも足りない部分は、先人に助けて貰いながら一つずつ身に着けていけばいい。
 さあ、先へ進むぞ」

そう――常に冷静を心がけねばならない。聞仲はうしおよりもむしろ自分自身に言い聞かせていた。
これからきっとピアノ線よりも細く蜘蛛の糸よりも複雑に捩じくれた死線の上を走り抜けることになる。
それは確信に近い予感であり、ならば最悪の場合において『たったひとつの冴えたやりかた』を選び取ることが彼の責務である。
たとえそれがうしおの望まないことであったとしても。

かつ、かつと二人の足音が開発棟を移動する。

『神』の目論見を打ち破れる者がいるとするならば、それは自分ではないと聞仲は思う。
力を武器とする者はより大きな力に呑み込まれ、理を武器とする者はより強固な理に制される。
これは古来より不変の、ありとあらゆる戦の掟である。
だが、仙人界を滅ぼす寸前で、最大の力と最強の理を兼ね備えた聞仲を止めたのは、それらとは異なるものだった。
『神』にすら届く、力とも理とも異なるものを生み出すには、聞仲はきっと老い過ぎている。
うしおのような者こそが必要なのだ。

しかし。
しかし、その考えもまた――打算という理だろうか。



かつり、と一際高い音を最後に、背後の足音が止まった。

「どうした?」

聞仲も次の部屋に繋がる扉の前で立ち止まり、訝しげに振り返る。
うしおは応えない。疑問と驚愕と、そして若干の恐怖を顔に貼り付けて、視線を壁際の暗がりに注いでいる。
釣られるように、聞仲の視線も壁に移動する。
壁に並ぶ物は夥しい数のガラス容器。
その中身を認識して、聞仲は眉を顰めた。

「これは……」

ここは『開発棟』。
当然、何かを開発する施設であるはずだ。
ここで開発されていたらしきもの。
それは。

「……っぱり、白面が? でも、何で――」

掠れた声が響く。
ずらりと並んだ容器にゆらゆらと浮かぶ物。
四角いガラスの向こうに。
まるで展示物のように。
夥しい数の――人間の、赤ん坊が。
出来損ないの、赤ん坊が。
ゆらゆらと。

「何で――何でこいつがッ……こんなトコにあるんだよッッ!」

それは山上の廃病院、『囁く者達の家』でうしおが目にしたもの。
西洋の魔術に魅せられ白面に弄ばれた天才僧、引狭が遺した研究、その一つ。
『マテリア』と呼ばれる究極の法力人間を生み出す魔術の結晶。

ただ。
ただ一つ、うしおの記憶との違いがあった。
それは名前。
囁く者達の家で誕生した者の名はキリオ。
だが今、うしおと聞仲の前にある全ての容器の下には、こう記されていた。



『ユノ』――と。


【F-5/研究所(開発棟)/夜】

蒼月潮@うしおととら】
[状態]:精神的疲労(中)、左肋骨1本骨折
[服装]:上半身裸
[装備]:獣の槍@うしおととら
[道具]:エドの練成した槍@鋼の錬金術師
[思考]
基本:殺し合いをぶち壊して主催を倒し、みんなで元の世界に帰る。
0:何でこんな物が?
1:殺し合いを行う参加者がいたら、ぶん殴ってでも止める。
2:仲間を集める。
3:とらと合流したい。とにかく速攻で病院へ行く
4:蝉の『自分を信じて、対決する』という言葉を忘れない。
5:流を止める。
6:聞仲に尊敬の念。
7:金光聖母を探す。
8:字伏(潤也)の存在にショック。止めたいが……。
9:白面を倒す。
10:キンブリーに留意。いい人でもなければ悪い人でもないっぽいけど……
11:余裕があるのなら小学校に行ってもいい。
[備考]
※参戦時期は31巻で獣の槍破壊された後~32巻で獣の槍が復活する前です。とらや獣の槍に見放されたと思っています。
 とらの過去を知っているかどうかは後の方にお任せします。
※黒幕が白面であるという流の言動を信じ込んでいます。

【聞仲@封神演義】
[状態]:右肋骨2本骨折(回復中)、背に火傷(小)
[服装]:仙界大戦時の服
[装備]:ニセ禁鞭@封神演義、花狐貂(耐久力40%低下)@封神演義
[道具]:支給品一式(メモを大量消費)、不明支給品×1、首輪×4(ブラックジャック、妙、妲己、雪路)、
    胡喜媚の羽、診療所の集合写真
[思考]
基本:うしおの理想を実現する。ただし、手段は聞仲自身の判断による。
1:妲己の不在を危険視。何処にいるかを探す。
2:金光聖母を探して可能ならば説得する。
3:2のために趙公明を探す。見つからなかったら競技場へ行く。
4:うしおの仲間を集める。特にエドと合流したい。
5:流に強い共感。流を自分が倒す。
6:エドの術に興味。
7:幽世の存在に疑問。封神台があると仮定し、その存在意義について考える。
8:獣の槍を危険視。
9:キンブリーを警戒。
10:ここまでの出来事は『神』の思惑通りと推測。
[備考]
※黒麒麟死亡と太公望戦との間からの参戦です
※亮子とエドの世界や人間関係の情報を得ました。
※会場の何処かに金光聖母が潜んでいると考えています。
※妲己から下記の情報を得ました。
 爆薬(プラスチック爆薬)についての情報。
 首輪は宝貝合金製だが未来の技術も使われており、獣の槍や太極図が解除に使える可能性があること。
※幽世の存在を認識しました。幽世の住人は参加者や支給品に付帯していた魂魄の成れの果てと推測しています。
 また、強者の魂は封神台に向かったのではないかと考えました。


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156:妄想日記2nd 蒼月潮 :[[]]
156:妄想日記2nd 聞仲 :[[]]

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