Twin Sword ◆9L.gxDzakI
――人間とは、とかく剣にたとえられる生き物である。
肉体的に強靭な者。
優れた知略を発揮する者。
揺るぎなき意志を宿した者。
それがいかなる次元のものであれ、何らかの優れた「力」を持つ者は、剣にたとえられることが多い。
その力が自らを取り巻く世界において、何らかの意味や役割を持つものであれば、なおさらだ。
優れた知略を発揮する者。
揺るぎなき意志を宿した者。
それがいかなる次元のものであれ、何らかの優れた「力」を持つ者は、剣にたとえられることが多い。
その力が自らを取り巻く世界において、何らかの意味や役割を持つものであれば、なおさらだ。
例えば、天上の神より授けられた異能を操る少年ならば、己の信じた道を一直線に突き進む正義の剣。
例えば、若くして多大な借金を背負った執事ならば、主のためなら我が身をも厭わぬ守護者の剣。
例えば、若き皇子の魂を宿した錬金の魔人ならば、世界の王となり全てを掴まんと欲する野望の剣。
例えば、若くして多大な借金を背負った執事ならば、主のためなら我が身をも厭わぬ守護者の剣。
例えば、若き皇子の魂を宿した錬金の魔人ならば、世界の王となり全てを掴まんと欲する野望の剣。
その矛先がいかなるベクトルであろうとも、全てが力ある鋭き剣であることに変わりはない。
そして、これより語られる二振りの剣は、いずれも年若き少年である。
それぞれに与えられた役割の重みは、決して彼らの幼さに見合ったものではないだろう。
しかし、世界は個人の事情など知る由もなく、彼らに理不尽な宿命を突きつける。
それぞれに与えられた役割の重みは、決して彼らの幼さに見合ったものではないだろう。
しかし、世界は個人の事情など知る由もなく、彼らに理不尽な宿命を突きつける。
1つは、万人の心を掴んで離さぬ才知を携えた、絶対の魔王を退けるための魔を断つ剣。
1つは、盤上を支配する最強の駒にして、兄でもある全能の神を討つための神殺しの剣。
2人の少年に課せられた運命も。
2人の少年がたどり続けた道程も。
2人の少年が戦うことを義務付けられた敵も。
まるで見えざる手が示し合わせたかのように、よく似ている。
2人の少年がたどり続けた道程も。
2人の少年が戦うことを義務付けられた敵も。
まるで見えざる手が示し合わせたかのように、よく似ている。
これは、そんな二振りの剣達の、決して起こり得なかった出会いから始まる物語。
◆
風が冷たい。
そう感じられるのは、実際に肌に触れている外気だけのせいではないに違いない。
深夜の鋭く冷たい風は、ナイフのようにこの身へ突き刺さる。
無限の星々をちりばめた漆黒の夜空の下、1人の少年が歩いていた。
潮風が微かに鼻を突く。東の方に海が広がっているらしい。
かさかさ、かさかさと。夜風に鳴くのは草原の音。
ただ、南へ。
そびえ立つ灯台を背にしながら、南へと伸びる道を歩く。
ただ漠然と、地図に示された市街地を目指して。
少年の名は、安藤という。
下の名前は敢えて伏せるが、市内の猫田東高校に通う高校生だ。
昔から何かを考え込むのが癖。ただそれだけの、ごく一般的な高校2年生。
つい最近まではそうだった。
できることならば、そうであり続けたかった。
あの日あの夜相対した、あの魔王の姿を目にした今でも。
知られざる禁忌に触れたが故に、喉元に刃を突きつけられた今でも。
ぶるり、と。
身体を震わせる。
普通に生きていたいだけだった。
それ以上のことは望まなかった。
されど神は残酷にも、自分に真実と試練を与えた。
その上こうして今もまた、訳の分からぬ殺し合いに巻き込まれている。
もううんざりだ。
どうして誰も自分をそっとしておいてくれない。
苛立ちが。恐怖が。
絶えず安藤の身体を震わせる。
「……?」
ふと。
視界の右側に。
映り込む1つの建物があった。
十字架の意匠が飾られたそれは、キリシタンの教会だ。
そういえば、地図にはそんなものも書いてあったような気がする。
地図上にわざわざ存在を明記している以上、隠れ場所には適さないだろう。
だが一応、調べておくに越したことはないかもしれない。
ともかくも、今は一刻も早くこの寒気から解放されたかった。
せめて風だけでも凌げれば。
そう思い、木製の扉へと手をかける。
ぎぃ。
軋むような音と共に、開く。
悩める安藤少年を出迎えたのは、神々しい威容と共に鎮座した、迷える民を癒す聖母の像。
月光を受け、その背後で光り輝く、色とりどりのステンドグラス。
そして。
「っ」
先客の姿が、そこにはあった。
祈りを捧げるように。
マリア像の前に、1人の男が立っている。
両の手をポケットへと入れ、じっと直立している少年だ。
青一色の服装は、相当変わっているが、どこかの学校の制服だろうか。
ややあって、くるり、と振り返る。
少年の顔は若い。自分よりも更に。弟の潤也と同年齢くらいだろう。
長いもみあげが特徴的な、茶髪の顔がそこにあった。
月明を受ける耳元の銀色。左耳につけられたピアスが、冷たい輝きを放っている。
両の瞳に宿されるのは、その鋭さにも勝るとも劣らぬ光。
凛とした視線だった。
「俺みたいな奴もいたんだな」
淡々と。
目の前の少年が、呟く。
俺みたいな、とは、ただの学生ということだろうか。
確かに本来ならば、殺し合いのゲームという場においては珍しいというか、場違いともいえる存在かもしれない。
「月臣学園高等部の1年、鳴海歩だ。……あんたは?」
それが少年の名前らしい。
そしてこの少年は、自分にも名前を求めている。
わざわざ武器も構えず名乗ったということは、この殺し合いには乗っていないのだろう。
そして相手は、こちらの様子を伺っている。
大人しく名前を名乗れば信用してもいい。
名乗ることなく向かってきたらそいつは敵だ。
と。
「……安藤。猫田東高校の2年生」
であれば、名乗りに応じない理由もない。
未だに声を震わせながらも。
情けないとは思いつつも。
目の前に立つ歳下の少年へ向けて、自らの名を口にした。
「あんたも殺し合いには乗ってない、と考えていいんだな?」
こくり、と。
無言で頷く。
こんなところで殺されたくはない。誰かを殺したいとも思えない。
ここから生きて出られるのならば、それでいい。
「ならいいんだ」
かつ、かつ、かつ、と。
言いながら、靴音を立てる。
教会の床を己が足で叩き、安藤の元へと歩み寄る歩。
冷静。
不気味なまでに冷静だった。
普通このような殺し合いに巻き込まれて、平気でいられるような人間はいない。
特に自分達のような、精神的に未熟な子供ならばなおさらだ。
似たようなことを経験したことがある、というわけでもあるまい。
下手に1度や2度の経験があるくらいでは、むしろ逆効果にもなる。
今の安藤自身がそうだ。
昨日殺し屋に命を奪われかけた彼は、だからこそ、命の危機を――いかなる恐怖と苦痛を伴うものかを知っているのだ。
同じ痛みを味わいたくない、と震えているのだ。
「随分……落ち着いてるんだな」
「笑えることに、こういうの初めてじゃないんだ」
肩を竦めながら、歩が言った。
言いながらも、その表情はまるで笑っていなかった。
何となく理解する。
彼はどちらでもないのだと。
修羅場をくぐってきた数がまるで違うのだと。
恐らくこの鳴海歩という少年は、この手のことに関しては、相当な場数を踏んできたのだろう。
それこそ1度や2度の騒ぎではなく、軽く10回は死に掛けてきたかのような。
そうでなければ、こうも落ち着いていられるはずもなかった。
もっとも彼は、見たところあの蝉と名乗った殺し屋のような、強靭な戦闘能力を有しているわけでもなさそうだが。
「ともかく、本気でここから生きて帰るためには……あのろくでもない怪物を退治するしかないみたいだな」
「怪物……?」
オウム返しに、安藤が問う。
怪物とは一体なんだ。
この少年が口にした比喩の真意とは。
「決まってる」
歩の口が再び開いた。
告げられた回答は。
複雑な比喩に比べて、驚くほどシンプルに。
「――この殺し合いを始めた連中を、二度と馬鹿な真似ができないように叩きのめすんだよ」
そう感じられるのは、実際に肌に触れている外気だけのせいではないに違いない。
深夜の鋭く冷たい風は、ナイフのようにこの身へ突き刺さる。
無限の星々をちりばめた漆黒の夜空の下、1人の少年が歩いていた。
潮風が微かに鼻を突く。東の方に海が広がっているらしい。
かさかさ、かさかさと。夜風に鳴くのは草原の音。
ただ、南へ。
そびえ立つ灯台を背にしながら、南へと伸びる道を歩く。
ただ漠然と、地図に示された市街地を目指して。
少年の名は、安藤という。
下の名前は敢えて伏せるが、市内の猫田東高校に通う高校生だ。
昔から何かを考え込むのが癖。ただそれだけの、ごく一般的な高校2年生。
つい最近まではそうだった。
できることならば、そうであり続けたかった。
あの日あの夜相対した、あの魔王の姿を目にした今でも。
知られざる禁忌に触れたが故に、喉元に刃を突きつけられた今でも。
ぶるり、と。
身体を震わせる。
普通に生きていたいだけだった。
それ以上のことは望まなかった。
されど神は残酷にも、自分に真実と試練を与えた。
その上こうして今もまた、訳の分からぬ殺し合いに巻き込まれている。
もううんざりだ。
どうして誰も自分をそっとしておいてくれない。
苛立ちが。恐怖が。
絶えず安藤の身体を震わせる。
「……?」
ふと。
視界の右側に。
映り込む1つの建物があった。
十字架の意匠が飾られたそれは、キリシタンの教会だ。
そういえば、地図にはそんなものも書いてあったような気がする。
地図上にわざわざ存在を明記している以上、隠れ場所には適さないだろう。
だが一応、調べておくに越したことはないかもしれない。
ともかくも、今は一刻も早くこの寒気から解放されたかった。
せめて風だけでも凌げれば。
そう思い、木製の扉へと手をかける。
ぎぃ。
軋むような音と共に、開く。
悩める安藤少年を出迎えたのは、神々しい威容と共に鎮座した、迷える民を癒す聖母の像。
月光を受け、その背後で光り輝く、色とりどりのステンドグラス。
そして。
「っ」
先客の姿が、そこにはあった。
祈りを捧げるように。
マリア像の前に、1人の男が立っている。
両の手をポケットへと入れ、じっと直立している少年だ。
青一色の服装は、相当変わっているが、どこかの学校の制服だろうか。
ややあって、くるり、と振り返る。
少年の顔は若い。自分よりも更に。弟の潤也と同年齢くらいだろう。
長いもみあげが特徴的な、茶髪の顔がそこにあった。
月明を受ける耳元の銀色。左耳につけられたピアスが、冷たい輝きを放っている。
両の瞳に宿されるのは、その鋭さにも勝るとも劣らぬ光。
凛とした視線だった。
「俺みたいな奴もいたんだな」
淡々と。
目の前の少年が、呟く。
俺みたいな、とは、ただの学生ということだろうか。
確かに本来ならば、殺し合いのゲームという場においては珍しいというか、場違いともいえる存在かもしれない。
「月臣学園高等部の1年、鳴海歩だ。……あんたは?」
それが少年の名前らしい。
そしてこの少年は、自分にも名前を求めている。
わざわざ武器も構えず名乗ったということは、この殺し合いには乗っていないのだろう。
そして相手は、こちらの様子を伺っている。
大人しく名前を名乗れば信用してもいい。
名乗ることなく向かってきたらそいつは敵だ。
と。
「……安藤。猫田東高校の2年生」
であれば、名乗りに応じない理由もない。
未だに声を震わせながらも。
情けないとは思いつつも。
目の前に立つ歳下の少年へ向けて、自らの名を口にした。
「あんたも殺し合いには乗ってない、と考えていいんだな?」
こくり、と。
無言で頷く。
こんなところで殺されたくはない。誰かを殺したいとも思えない。
ここから生きて出られるのならば、それでいい。
「ならいいんだ」
かつ、かつ、かつ、と。
言いながら、靴音を立てる。
教会の床を己が足で叩き、安藤の元へと歩み寄る歩。
冷静。
不気味なまでに冷静だった。
普通このような殺し合いに巻き込まれて、平気でいられるような人間はいない。
特に自分達のような、精神的に未熟な子供ならばなおさらだ。
似たようなことを経験したことがある、というわけでもあるまい。
下手に1度や2度の経験があるくらいでは、むしろ逆効果にもなる。
今の安藤自身がそうだ。
昨日殺し屋に命を奪われかけた彼は、だからこそ、命の危機を――いかなる恐怖と苦痛を伴うものかを知っているのだ。
同じ痛みを味わいたくない、と震えているのだ。
「随分……落ち着いてるんだな」
「笑えることに、こういうの初めてじゃないんだ」
肩を竦めながら、歩が言った。
言いながらも、その表情はまるで笑っていなかった。
何となく理解する。
彼はどちらでもないのだと。
修羅場をくぐってきた数がまるで違うのだと。
恐らくこの鳴海歩という少年は、この手のことに関しては、相当な場数を踏んできたのだろう。
それこそ1度や2度の騒ぎではなく、軽く10回は死に掛けてきたかのような。
そうでなければ、こうも落ち着いていられるはずもなかった。
もっとも彼は、見たところあの蝉と名乗った殺し屋のような、強靭な戦闘能力を有しているわけでもなさそうだが。
「ともかく、本気でここから生きて帰るためには……あのろくでもない怪物を退治するしかないみたいだな」
「怪物……?」
オウム返しに、安藤が問う。
怪物とは一体なんだ。
この少年が口にした比喩の真意とは。
「決まってる」
歩の口が再び開いた。
告げられた回答は。
複雑な比喩に比べて、驚くほどシンプルに。
「――この殺し合いを始めた連中を、二度と馬鹿な真似ができないように叩きのめすんだよ」
◆
神殺しの宿命を与えられた弟。
そのスタート地点が教会とは、何とも皮肉なものだ。
思えばかつて経験したタッグマッチも、こうして教会をスタート地点としていた。
何のことはない。
いつもと同じ繰り返しだ。
悲しいほどに、いつもと同じ。
これまで経験してきたのと同じ、命の取り合いが繰り広げられようとしている。
それも今回は今まで以上に、多くの人間が巻き込まれている。
止めなければならない。
自分が傷つくことは構わないが、他人が傷つくのは真っ平ごめんだ。
あのふざけた主催者達を打倒し、この殺し合いを止めてみせる。
茶髪の少年――鳴海歩の決意だ。
だがそれとはまた別に、いくつか気にかかることがある。
(何故、あいつを殺すことができたんだ……?)
ミズシロ火澄。
この殺し合いの舞台の最初、ほとんど見せしめのような形で殺された少年だ。
自分を殺せるのは歩だけ。
彼が死に際に放った言葉に、一切偽りはないはずだった。
並外れた天賦の才知を持ち、その血を世界に広めることで旧人類の駆逐を目論んだ悪魔――ミズシロ・ヤイバ。
その悪魔の弟である火澄を殺せるのは、かつて悪魔を滅ぼした神の弟たる歩のみ。
これまで自他問わず、多くの人間が彼の命を奪おうとした。
だが結局誰が試そうと、常識を遥かに超えた強運が積み重なることで、その魔の手は退けられ続けてきたのだ。
何度殺されようとしようと、何度自殺を図ろうと、決して絶命することはない。
ここまで来ると、もはや呪いにすらも思える悪運。
悪魔の弟は、神の弟のみが。
どちらもがそれぞれの兄と同じ遺伝子を持つ、史上初のヒトクローンであるが故に。
悪魔と同じ身体を持った火澄を殺せるのは、神と同じ身体を持った歩のみのはずだった。
クローン云々に関しては、未だ確証があるわけではない。
だがこれまで見てきた構図やその矛盾を考えれば、ほぼ真実と仮定していい仮説ではあるだろう。
いずれにせよ、火澄は歩以外には殺されない。
本来ならあの首輪だって、不発なり何なりの動作不良を起こしてもおかしくはないはずだった。
(だが、火澄は死んだ)
事実だ。
確たる事実として、悪魔は全く見当違いの人間に始末された。
あのムルムルとかいう、訳の分からぬ小娘の手によって。
これまで数多の人々に信じられてきた構図が、あまりにもあっさりと粉砕されたのだ。
奴らは自分達を縛る運命の外にいる。
そう信じざるを得なかった。
認めざるを得なかった。
この殺し合いを始めた連中には、運命の制約が通用しない。
悪魔を殺せるということは、すなわち神をも殺せる可能性があるということ。
下手を打とうものなら、構図上自滅以外の死を迎えることはない自分であっても、命を奪われかねないのだと。
そして、ここからが第二の考察。
(兄貴はこの件に関して、一体どこまで関わってるんだ……?)
兄。
鳴海歩のアーキタイプ――鳴海清隆。
かつてミズシロ・ヤイバをその雷で撃ち抜いた、神と称される稀代の天才である。
誰よりも強く、誰よりも高い。
ありとあらゆる力を有した、全知全能の存在だ。
いかなる面から見たとしても、盤上にこれ以上の駒は存在しない。紛れもなく最強のピースであろう。
唯一火澄を殺すことはできなかったらしいが、これもどこまで信用していいものか。
いずれにせよ、清隆は絶対の存在だった。
彼がひとたび望んだならば、手に入らないものは何一つなかった。
清隆が歩に役割を求めるのならば、こんな殺し合いでむざむざ命を落とさせるような真似はしないはずだ。
自分達兄弟での決着を望むならば、いかなる手を使ってでも、自分を守るに決まっている。
それができるだけの手腕も影響力も、あの男は間違いなく有している。
火澄のことは結果として納得せざるを得ないが、あんな連中に兄が屈する姿だけは、どうしても想像することができない。
となると、考えられる可能性は。
(この殺し合いを通すことで、決着をつけようってことなのか……?)
兄は主催者側にいる。
多くの命のかかったこのデスゲームで、自分と弟の全てを終わらせようと目論んでいる。
用済みとなった火澄を切り捨て、より多くの人々の存在を踏み台として。
歩が自分のいる高みへとたどりつき、対決するという結末を望んでいる。
(……まだ推論の域を出ない可能性ではある、か)
ともあれ、今はそれを鵜呑みにするわけにはいかない。
本当に兄が奴らに出し抜かれた可能性もあるのだ。
そもそもこんな性急なやり方は、どうも清隆らしい手口とは思えない。
故にそれは可能性の1つとして留め、そこで思考を打ち切ることにする。
分からないことは多い。納得できないことも多い。それでも、そのために足を止めるわけにはいかない。
ちょうどこの時だった。
「っ」
ぎぃ、と扉が鳴ったのは。
これまで自分1人しかいなかった教会へと、安藤が足を踏み入れたのは。
そのスタート地点が教会とは、何とも皮肉なものだ。
思えばかつて経験したタッグマッチも、こうして教会をスタート地点としていた。
何のことはない。
いつもと同じ繰り返しだ。
悲しいほどに、いつもと同じ。
これまで経験してきたのと同じ、命の取り合いが繰り広げられようとしている。
それも今回は今まで以上に、多くの人間が巻き込まれている。
止めなければならない。
自分が傷つくことは構わないが、他人が傷つくのは真っ平ごめんだ。
あのふざけた主催者達を打倒し、この殺し合いを止めてみせる。
茶髪の少年――鳴海歩の決意だ。
だがそれとはまた別に、いくつか気にかかることがある。
(何故、あいつを殺すことができたんだ……?)
ミズシロ火澄。
この殺し合いの舞台の最初、ほとんど見せしめのような形で殺された少年だ。
自分を殺せるのは歩だけ。
彼が死に際に放った言葉に、一切偽りはないはずだった。
並外れた天賦の才知を持ち、その血を世界に広めることで旧人類の駆逐を目論んだ悪魔――ミズシロ・ヤイバ。
その悪魔の弟である火澄を殺せるのは、かつて悪魔を滅ぼした神の弟たる歩のみ。
これまで自他問わず、多くの人間が彼の命を奪おうとした。
だが結局誰が試そうと、常識を遥かに超えた強運が積み重なることで、その魔の手は退けられ続けてきたのだ。
何度殺されようとしようと、何度自殺を図ろうと、決して絶命することはない。
ここまで来ると、もはや呪いにすらも思える悪運。
悪魔の弟は、神の弟のみが。
どちらもがそれぞれの兄と同じ遺伝子を持つ、史上初のヒトクローンであるが故に。
悪魔と同じ身体を持った火澄を殺せるのは、神と同じ身体を持った歩のみのはずだった。
クローン云々に関しては、未だ確証があるわけではない。
だがこれまで見てきた構図やその矛盾を考えれば、ほぼ真実と仮定していい仮説ではあるだろう。
いずれにせよ、火澄は歩以外には殺されない。
本来ならあの首輪だって、不発なり何なりの動作不良を起こしてもおかしくはないはずだった。
(だが、火澄は死んだ)
事実だ。
確たる事実として、悪魔は全く見当違いの人間に始末された。
あのムルムルとかいう、訳の分からぬ小娘の手によって。
これまで数多の人々に信じられてきた構図が、あまりにもあっさりと粉砕されたのだ。
奴らは自分達を縛る運命の外にいる。
そう信じざるを得なかった。
認めざるを得なかった。
この殺し合いを始めた連中には、運命の制約が通用しない。
悪魔を殺せるということは、すなわち神をも殺せる可能性があるということ。
下手を打とうものなら、構図上自滅以外の死を迎えることはない自分であっても、命を奪われかねないのだと。
そして、ここからが第二の考察。
(兄貴はこの件に関して、一体どこまで関わってるんだ……?)
兄。
鳴海歩のアーキタイプ――鳴海清隆。
かつてミズシロ・ヤイバをその雷で撃ち抜いた、神と称される稀代の天才である。
誰よりも強く、誰よりも高い。
ありとあらゆる力を有した、全知全能の存在だ。
いかなる面から見たとしても、盤上にこれ以上の駒は存在しない。紛れもなく最強のピースであろう。
唯一火澄を殺すことはできなかったらしいが、これもどこまで信用していいものか。
いずれにせよ、清隆は絶対の存在だった。
彼がひとたび望んだならば、手に入らないものは何一つなかった。
清隆が歩に役割を求めるのならば、こんな殺し合いでむざむざ命を落とさせるような真似はしないはずだ。
自分達兄弟での決着を望むならば、いかなる手を使ってでも、自分を守るに決まっている。
それができるだけの手腕も影響力も、あの男は間違いなく有している。
火澄のことは結果として納得せざるを得ないが、あんな連中に兄が屈する姿だけは、どうしても想像することができない。
となると、考えられる可能性は。
(この殺し合いを通すことで、決着をつけようってことなのか……?)
兄は主催者側にいる。
多くの命のかかったこのデスゲームで、自分と弟の全てを終わらせようと目論んでいる。
用済みとなった火澄を切り捨て、より多くの人々の存在を踏み台として。
歩が自分のいる高みへとたどりつき、対決するという結末を望んでいる。
(……まだ推論の域を出ない可能性ではある、か)
ともあれ、今はそれを鵜呑みにするわけにはいかない。
本当に兄が奴らに出し抜かれた可能性もあるのだ。
そもそもこんな性急なやり方は、どうも清隆らしい手口とは思えない。
故にそれは可能性の1つとして留め、そこで思考を打ち切ることにする。
分からないことは多い。納得できないことも多い。それでも、そのために足を止めるわけにはいかない。
ちょうどこの時だった。
「っ」
ぎぃ、と扉が鳴ったのは。
これまで自分1人しかいなかった教会へと、安藤が足を踏み入れたのは。
そして物語は、再び現在へと戻る。
◆
「……え……?」
何故そう言える。
何故そんなことを口にすることができる。
まったくもって理解できなかった。
この鳴海歩という少年は、何故奴らに抗おうとする。
「あいつらを倒し、殺し合いを止める。
もちろん、俺1人でできることはたかが知れてる……だから、俺に協力してくれる仲間がほしい」
どう考えても勝てる相手ではないのに。
ちっぽけな力しか持っていない自分達に、どうこうできる相手ではないのに。
「あんたが殺し合いに乗らないっていうのなら……俺に力を貸してくれないか?」
そもそもこうして話しているだけでも危ないんだ。
奴らのことだ。首輪を起爆させるためにも、常に自分達を監視しているに決まっている。
下手に逆らいでもしたら、有無を言わさず命を奪いに来るだろう。
万が一この拘束から逃れたとしても、奴らには見せしめになった女の子を殺した超能力がある。
冗談みたいな異能だ。まるで漫画の世界のような。
あんなものに挑んだところで。
「……無理だよ……」
勝てるはずもないじゃないか。
「君だって見てただろ……あんな連中に挑んだって、俺達に勝てるわけがない」
自分だって、彼のように考えていた時期もある。
戦うことはできるのだと。
自分にできることを、精一杯やればいいのだと。
「どうせ何をやったって、世界を変えることはできないんだ……自分の命を縮めるだけなんだよ……!」
だが、それが許されざることであったならばどうする。
より大きな力の前に叩き潰されるしかない、ちっぽけな力でしかなかったらどうする。
できることと許されることは違うんだ。
たとえできることがあったとしても、それが巨大な力の前に、否定されるべきことであったとしたら。
「俺達はあいつらに逆らうことなんてできないんだ!
自分より強い奴には勝てはしない……大人しく殺し合いに乗るか、震えてやり過ごすかしかないんだ……!」
そんなもの、どうしようもないじゃないか。
何故それが分からないんだ。
何故無駄に命を削ろうとする。
自分には全く理解できない。
そんな無謀な行動に付き合って、命を落としたくなんてない。
握った拳をがたがたと震わせ。
うつむいた視線を硬く閉じて。
聖母の像へと告白するかのように。
胸の内に渦巻く恐怖、その全てをぶちまけた。
どれほどの時間が経っただろう。
歩はどんな顔をしているのだろう。
目を背けてしまった安藤には、もう何も分からない。
だが。
ややあって。
「……本当にあんたは、それで納得しているのか?」
かけられたのは、そんな声。
まるで今の話など、全く聞こえていなかったかのように。
今でもなお、この少年は平然と理想を説く。
納得などしているはずもない。人が死んでいい思いをするはずもない。
だが現実として、自分達にはそれを止める術がない。
できないことをどうやってすればいい。不可能なことは諦めるしかないじゃないか。
そう言おうとした。
その瞬間。
「本当にあんたは――あいつらに勝てないと思ってるのか?」
口にしたのは。
そんな言葉だった。
「……え?」
思わず、顔が上がる。
思わず、声が漏れる。
開いた瞳に写るのは、相も変らぬ冷静な表情。
一切表情を変えることなく、歩は平然とそこに立っている。
「確かにあいつらは強い。でも絶対はない。
事実、がんじがらめにされてるようで、俺達を縛る鎖には、どうにも辻褄が合わない小さな傷が見えるんだ」
思いもよらない言葉だった。
そんなことを言い出すとは思えなかった。
彼の纏う空気からして、決して嘘やごまかしを言っているわけではないだろう。
「それに、どれだけあいつらの力が強くても、結局その力を使うのは人の頭脳だ。
作戦の立て方によっては勝てない相手じゃない……俺の論理が、あんな連中に負けるとも思わないしな」
この少年は本当に、あいつらに勝つつもりでいる。
自分の作戦や論理とやらで、本当に力差を覆すつもりでいる。
「俺は必ず奴らを叩き潰す。盤面を支配してるのは奴らの論理じゃなく、俺の論理だと分からせてやる」
何故そう言える。
何故そんなことを口にすることができる。
まったくもって理解できなかった。
この鳴海歩という少年は、何故奴らに抗おうとする。
「あいつらを倒し、殺し合いを止める。
もちろん、俺1人でできることはたかが知れてる……だから、俺に協力してくれる仲間がほしい」
どう考えても勝てる相手ではないのに。
ちっぽけな力しか持っていない自分達に、どうこうできる相手ではないのに。
「あんたが殺し合いに乗らないっていうのなら……俺に力を貸してくれないか?」
そもそもこうして話しているだけでも危ないんだ。
奴らのことだ。首輪を起爆させるためにも、常に自分達を監視しているに決まっている。
下手に逆らいでもしたら、有無を言わさず命を奪いに来るだろう。
万が一この拘束から逃れたとしても、奴らには見せしめになった女の子を殺した超能力がある。
冗談みたいな異能だ。まるで漫画の世界のような。
あんなものに挑んだところで。
「……無理だよ……」
勝てるはずもないじゃないか。
「君だって見てただろ……あんな連中に挑んだって、俺達に勝てるわけがない」
自分だって、彼のように考えていた時期もある。
戦うことはできるのだと。
自分にできることを、精一杯やればいいのだと。
「どうせ何をやったって、世界を変えることはできないんだ……自分の命を縮めるだけなんだよ……!」
だが、それが許されざることであったならばどうする。
より大きな力の前に叩き潰されるしかない、ちっぽけな力でしかなかったらどうする。
できることと許されることは違うんだ。
たとえできることがあったとしても、それが巨大な力の前に、否定されるべきことであったとしたら。
「俺達はあいつらに逆らうことなんてできないんだ!
自分より強い奴には勝てはしない……大人しく殺し合いに乗るか、震えてやり過ごすかしかないんだ……!」
そんなもの、どうしようもないじゃないか。
何故それが分からないんだ。
何故無駄に命を削ろうとする。
自分には全く理解できない。
そんな無謀な行動に付き合って、命を落としたくなんてない。
握った拳をがたがたと震わせ。
うつむいた視線を硬く閉じて。
聖母の像へと告白するかのように。
胸の内に渦巻く恐怖、その全てをぶちまけた。
どれほどの時間が経っただろう。
歩はどんな顔をしているのだろう。
目を背けてしまった安藤には、もう何も分からない。
だが。
ややあって。
「……本当にあんたは、それで納得しているのか?」
かけられたのは、そんな声。
まるで今の話など、全く聞こえていなかったかのように。
今でもなお、この少年は平然と理想を説く。
納得などしているはずもない。人が死んでいい思いをするはずもない。
だが現実として、自分達にはそれを止める術がない。
できないことをどうやってすればいい。不可能なことは諦めるしかないじゃないか。
そう言おうとした。
その瞬間。
「本当にあんたは――あいつらに勝てないと思ってるのか?」
口にしたのは。
そんな言葉だった。
「……え?」
思わず、顔が上がる。
思わず、声が漏れる。
開いた瞳に写るのは、相も変らぬ冷静な表情。
一切表情を変えることなく、歩は平然とそこに立っている。
「確かにあいつらは強い。でも絶対はない。
事実、がんじがらめにされてるようで、俺達を縛る鎖には、どうにも辻褄が合わない小さな傷が見えるんだ」
思いもよらない言葉だった。
そんなことを言い出すとは思えなかった。
彼の纏う空気からして、決して嘘やごまかしを言っているわけではないだろう。
「それに、どれだけあいつらの力が強くても、結局その力を使うのは人の頭脳だ。
作戦の立て方によっては勝てない相手じゃない……俺の論理が、あんな連中に負けるとも思わないしな」
この少年は本当に、あいつらに勝つつもりでいる。
自分の作戦や論理とやらで、本当に力差を覆すつもりでいる。
「俺は必ず奴らを叩き潰す。盤面を支配してるのは奴らの論理じゃなく、俺の論理だと分からせてやる」
――たとえでたらめでも自分を信じて対決していけば、世界だって、変えられる。
不思議と、あの言葉が浮かんだ。
犬養舜二。
自分の住む町に突然姿を現した、自警団グラスホッパーを率いる青年だ。
市民の平和を守るために戦う姿勢。人々を惹きつけてやまぬ、溢れんばかりの正義感とカリスマ。
その神の仮面の裏に隠された、魔王のごとき残忍性。
安藤が触れようとし、拒絶され、打ちのめされた巨大な力だ。
何故彼の顔を思い出す。
何故彼の言葉を思い出す。
顔も、背丈も、髪色も声も。
目の前に立っている少年とは、まるで似ていないというのに。
「……改めて聞く」
ただ、1つ。
纏う空気が。
その不思議な説得力だけが、何故かあの男を彷彿とさせていた。
「俺の勝負に乗ってくれないか?」
そう声をかけられた時。
その手を差し伸べられた時。
「……分かった。少なくとも、話だけなら聞いてやるよ」
もはや拒絶する術などなかった。
手のひらを握り返さぬ理由などなかった。
安藤の右手が、差し出された手を握る。
「十分だ」
微かな笑顔と共に、歩が返した。
犬養舜二。
自分の住む町に突然姿を現した、自警団グラスホッパーを率いる青年だ。
市民の平和を守るために戦う姿勢。人々を惹きつけてやまぬ、溢れんばかりの正義感とカリスマ。
その神の仮面の裏に隠された、魔王のごとき残忍性。
安藤が触れようとし、拒絶され、打ちのめされた巨大な力だ。
何故彼の顔を思い出す。
何故彼の言葉を思い出す。
顔も、背丈も、髪色も声も。
目の前に立っている少年とは、まるで似ていないというのに。
「……改めて聞く」
ただ、1つ。
纏う空気が。
その不思議な説得力だけが、何故かあの男を彷彿とさせていた。
「俺の勝負に乗ってくれないか?」
そう声をかけられた時。
その手を差し伸べられた時。
「……分かった。少なくとも、話だけなら聞いてやるよ」
もはや拒絶する術などなかった。
手のひらを握り返さぬ理由などなかった。
安藤の右手が、差し出された手を握る。
「十分だ」
微かな笑顔と共に、歩が返した。
◆
それから、しばらくの後。
「さっき言っていた鎖の傷って、結局何のことなんだ?」
木製の長椅子に腰掛けた安藤が、隣の歩へと問いかけていた。
「ああ、あれか」
「まさか俺を焚きつけるためのでたらめとかじゃ……」
「大丈夫だ。それはないよ」
要するに、情報交換である。
安藤と鳴海歩。どちらも得意分野は頭脳戦。
その2人がこうしてそろったのだ。であれば、こうした流れにならないはずもない。
「俺達の命を握ってる、この首輪なんだけどな」
言いながら、歩の指が首元をなぞる。
その肌色の首に架せられた、冷たい金属の感触を。
「昔、これと似たようなものをつけられたことがあるんだ」
首輪型の爆弾。
幸か不幸か、歩がこれをつけられたのは一度ではない。
清隆が歩を成長させるために配置した駒――ブレード・チルドレンとの闘争。
その中で、これと同じような形をした爆弾を、首に装着されたことがあったのである。
無理に外そうとすれば爆発する。一撃で即死する破壊力。
さすがに起爆は時限式ではなく、今回はスイッチ式のようだが。
「で、少し話が飛ぶことになるが……緑の髪の奴が死んだ時のこと、覚えてるか?」
歩の言葉に、無言で安藤が頷く。
忘れようにも忘れられるはずもない。
突如として爆発した首輪。
ごとりと落ちた人間の生首。
鼻を突いた血と火薬の匂い。
死者の名前を呼ぶ参加者達の声。
今でも鮮明に思い出せる、ショッキング極まりない記憶だ。
「あいつは俺の知り合いで、俺もあいつの名前を呼んでたんだが……俺以外にも、あいつの名前を呼んでた奴がいた。
さすがに気が動転してて、誰の声かまでは覚えられなかったんだけどな」
「あ……」
「更に記憶をさかのぼってみれば、先に殺された女の子の方も、名前を呼ばれてただろ?」
言われてみれば確かにそうだ。
2人の見せしめが葬られた時、彼らの名前が何者かによって呼ばれていた。
間違いなく、参加者達の中から。
「ここに集められた人間の選考基準はランダムじゃなく、何らかの法則性の下に選出されている……
たとえば、最初に選ばれた誰かの知り合い達、みたいな感じだ。
そう考えた俺はあの説明の時、ずっとある人間の声を捜していた……そして、それらしいものを見つけることができた」
「それは……?」
「竹内理緒。昔、俺の首に爆弾を嵌めた張本人だ」
曰くその竹内理緒とは、爆弾の扱いに関するエキスパートらしい。
まるで幼女のような外見をしているが、その実は今まで戦ってきた相手の中でも、五指に入るほどの切れ者とのこと。
そして今、この首輪と似たようなものの構造を知っているという人間が、この殺し合いの場に呼ばれているという。
おまけにかつては敵だったものの、今は和解したというのだ。
「じゃあその子と合流すれば、昔作ったって爆弾の構造を応用して、首輪を外せるかもしれないってことか……!」
「最悪、俺の空耳の可能性もあるが、可能性はゼロじゃないだろうな。
それにこの事実……まだ何かが引っかかる。もっと別のヒントが隠されてるかもしれない」
言いながらさっと歩が立ち上がった。
脇に置いたデイパックを持ち上げ、己の肩へとかける。隣の安藤もそれにならった。
今すべき情報交換はこんなところだ。残りは歩きながら話していけばいい。
いずれにせよ、ここに留まる理由はない。
教会の扉へと向かって、歩が先頭をきって歩き出す。
と。
そこで。
「さっきのあれ……腹話術、だったか?」
くるりと振り返り、尋ねた。
「ああ。あまり役に立たなさそうな、地味な力だけどな」
自虐気味に苦笑しながら、安藤が答える。
彼は既に歩に、自分の持つ力のことを話していた。
腹話術。
いつしか安藤に備わっていた、頭脳以外のもう1つの武器。
他人の口を意のままに操り、あらゆる言葉を言わせることのできる力だ。
射程は徒歩30歩圏内。だがその範囲に収まる人間ならば、どんな奴の声だって借りることができる。
もっとも、これが何かの役に立つとは思えないのだが。
ただ人に何かを言わせるだけのちっぽけな力。よほど条件が揃わない限り、戦いに使えるようなものでもない。
「でも、俺にはない力だ」
しかし。
「それこそ何も持ってない俺に比べれば、あんたの方がその分強い」
それでも。
「なら――戦えよ」
歩の顔には笑みが浮かぶ。
「何かをできる力があるなら、それで救える人を救え。力を持った人間の責任を果たせ」
「さっき言っていた鎖の傷って、結局何のことなんだ?」
木製の長椅子に腰掛けた安藤が、隣の歩へと問いかけていた。
「ああ、あれか」
「まさか俺を焚きつけるためのでたらめとかじゃ……」
「大丈夫だ。それはないよ」
要するに、情報交換である。
安藤と鳴海歩。どちらも得意分野は頭脳戦。
その2人がこうしてそろったのだ。であれば、こうした流れにならないはずもない。
「俺達の命を握ってる、この首輪なんだけどな」
言いながら、歩の指が首元をなぞる。
その肌色の首に架せられた、冷たい金属の感触を。
「昔、これと似たようなものをつけられたことがあるんだ」
首輪型の爆弾。
幸か不幸か、歩がこれをつけられたのは一度ではない。
清隆が歩を成長させるために配置した駒――ブレード・チルドレンとの闘争。
その中で、これと同じような形をした爆弾を、首に装着されたことがあったのである。
無理に外そうとすれば爆発する。一撃で即死する破壊力。
さすがに起爆は時限式ではなく、今回はスイッチ式のようだが。
「で、少し話が飛ぶことになるが……緑の髪の奴が死んだ時のこと、覚えてるか?」
歩の言葉に、無言で安藤が頷く。
忘れようにも忘れられるはずもない。
突如として爆発した首輪。
ごとりと落ちた人間の生首。
鼻を突いた血と火薬の匂い。
死者の名前を呼ぶ参加者達の声。
今でも鮮明に思い出せる、ショッキング極まりない記憶だ。
「あいつは俺の知り合いで、俺もあいつの名前を呼んでたんだが……俺以外にも、あいつの名前を呼んでた奴がいた。
さすがに気が動転してて、誰の声かまでは覚えられなかったんだけどな」
「あ……」
「更に記憶をさかのぼってみれば、先に殺された女の子の方も、名前を呼ばれてただろ?」
言われてみれば確かにそうだ。
2人の見せしめが葬られた時、彼らの名前が何者かによって呼ばれていた。
間違いなく、参加者達の中から。
「ここに集められた人間の選考基準はランダムじゃなく、何らかの法則性の下に選出されている……
たとえば、最初に選ばれた誰かの知り合い達、みたいな感じだ。
そう考えた俺はあの説明の時、ずっとある人間の声を捜していた……そして、それらしいものを見つけることができた」
「それは……?」
「竹内理緒。昔、俺の首に爆弾を嵌めた張本人だ」
曰くその竹内理緒とは、爆弾の扱いに関するエキスパートらしい。
まるで幼女のような外見をしているが、その実は今まで戦ってきた相手の中でも、五指に入るほどの切れ者とのこと。
そして今、この首輪と似たようなものの構造を知っているという人間が、この殺し合いの場に呼ばれているという。
おまけにかつては敵だったものの、今は和解したというのだ。
「じゃあその子と合流すれば、昔作ったって爆弾の構造を応用して、首輪を外せるかもしれないってことか……!」
「最悪、俺の空耳の可能性もあるが、可能性はゼロじゃないだろうな。
それにこの事実……まだ何かが引っかかる。もっと別のヒントが隠されてるかもしれない」
言いながらさっと歩が立ち上がった。
脇に置いたデイパックを持ち上げ、己の肩へとかける。隣の安藤もそれにならった。
今すべき情報交換はこんなところだ。残りは歩きながら話していけばいい。
いずれにせよ、ここに留まる理由はない。
教会の扉へと向かって、歩が先頭をきって歩き出す。
と。
そこで。
「さっきのあれ……腹話術、だったか?」
くるりと振り返り、尋ねた。
「ああ。あまり役に立たなさそうな、地味な力だけどな」
自虐気味に苦笑しながら、安藤が答える。
彼は既に歩に、自分の持つ力のことを話していた。
腹話術。
いつしか安藤に備わっていた、頭脳以外のもう1つの武器。
他人の口を意のままに操り、あらゆる言葉を言わせることのできる力だ。
射程は徒歩30歩圏内。だがその範囲に収まる人間ならば、どんな奴の声だって借りることができる。
もっとも、これが何かの役に立つとは思えないのだが。
ただ人に何かを言わせるだけのちっぽけな力。よほど条件が揃わない限り、戦いに使えるようなものでもない。
「でも、俺にはない力だ」
しかし。
「それこそ何も持ってない俺に比べれば、あんたの方がその分強い」
それでも。
「なら――戦えよ」
歩の顔には笑みが浮かぶ。
「何かをできる力があるなら、それで救える人を救え。力を持った人間の責任を果たせ」
◆
かくして、双剣の物語は幕を開ける。
魔を断つ剣は己に課せられた使命を知らず。
神殺しの剣は己に課せられた使命に抗う。
悪を討つべき剣の担い手は、今はまだ進むべき道を知らぬ暗闇の中。
神の命を奪う剣の担い手は、その手を血に染めることはしないと決意する。
神殺しの剣は己に課せられた使命に抗う。
悪を討つべき剣の担い手は、今はまだ進むべき道を知らぬ暗闇の中。
神の命を奪う剣の担い手は、その手を血に染めることはしないと決意する。
神と魔王。それぞれ全く異なる敵を斬るための剣。
白と黒の二色の刃は、互いにいかなる影響を与え合うのか。
神を殺す白き剣は、魔を断つ黒き剣を揺り起こすことができるのか。
今はまだ、誰一人として知る由もない。
白と黒の二色の刃は、互いにいかなる影響を与え合うのか。
神を殺す白き剣は、魔を断つ黒き剣を揺り起こすことができるのか。
今はまだ、誰一人として知る由もない。
だが、確かなことが1つある。
たとえ今は曇った刃であろうとも、その本質が、力ある剣であることに変わりはない。
今は静かに、磨かれる時を待ち続けている。
今は静かに、磨かれる時を待ち続けている。
それだけだ。
【D-9/教会/1日目 深夜】
【安藤(兄)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]:健康
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留
1:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
2:殺し合いに乗っていない仲間を集める
3:殺し合いには乗りたくない。とにかく生き残りたい
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です
[状態]:健康
[服装]:猫田東高校の制服(カッターシャツの上にベスト着用)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:脱出の糸口を探す。主催者と戦うかはまだ保留
1:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
2:殺し合いに乗っていない仲間を集める
3:殺し合いには乗りたくない。とにかく生き残りたい
[備考]
※第12話にて、蝉との戦いで気絶した直後からの参戦です
【鳴海歩@スパイラル〜推理の絆〜】
[状態]:健康
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める
1:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
2:殺し合いに乗っていない仲間を集める
3:何故主催者達は火澄を殺せたのか? 兄貴は何を企んでいるのか?
4:「爆弾を解除できるかもしれない人間である竹内理緒が呼ばれている」という事実が、どうにも引っかかる
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています
※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません
※主催者側に鳴海清隆がいるかもしれない、と思っていますが、可能性はそう高くないとも思っています
[状態]:健康
[服装]:月臣学園の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜2
[思考]
基本:主催者と戦い、殺し合いを止める
1:首輪を外す手段を探す。できれば竹内理緒と合流したい
2:殺し合いに乗っていない仲間を集める
3:何故主催者達は火澄を殺せたのか? 兄貴は何を企んでいるのか?
4:「爆弾を解除できるかもしれない人間である竹内理緒が呼ばれている」という事実が、どうにも引っかかる
[備考]
※第66話終了後からの参戦です。自分が清隆のクローンであるという仮説に至っています
※オープニングで、理緒がここにいることには気付いていますが、カノンが生きていることには気付いていません
※主催者側に鳴海清隆がいるかもしれない、と思っていますが、可能性はそう高くないとも思っています
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