ギャシュリークラムのちびっ子たち ◆JvezCBil8U
――暗闇に満ちた視界に、一筋の切れ間が走る。
頬が、冷たい。
体の感覚が失せている中で、その冷たさが最初に感じた現世とのよすがだった。
頬が、冷たい。
体の感覚が失せている中で、その冷たさが最初に感じた現世とのよすがだった。
平衡感覚がおかしいと気付いたのは、次第に体に血が巡ってくるのを理解してからだった。
何故頬が冷たいのか。
ずっと地面に触れてれば、熱を吸われるのは道理だろう。
要は自分は地面に突っ伏しているのだと、やっと分かった。
何故頬が冷たいのか。
ずっと地面に触れてれば、熱を吸われるのは道理だろう。
要は自分は地面に突っ伏しているのだと、やっと分かった。
意識して息を吸うと、咳き込んだ。
喉にドロリとした粘性の高い唾が溜まっている。
吐き捨て、痛めないようゆっくりと気道を確保する。
喉にドロリとした粘性の高い唾が溜まっている。
吐き捨て、痛めないようゆっくりと気道を確保する。
どうやら長いこと倒れていたらしい、立ち眩みを起こさないよう少しずつ四肢を動かして、硬まった体を馴染ませていく。
首を動かすと、頸椎が痛いくらいにごきりと鳴った。
首を動かすと、頸椎が痛いくらいにごきりと鳴った。
「……づ、……っ」
意を決し、ゆっくりと体を立ち上げていく。
腰から上を起こしたところで静止。
……思ったより視界がぶれる。
落ち着くまでは、このままでいた方がいいだろう。
腰から上を起こしたところで静止。
……思ったより視界がぶれる。
落ち着くまでは、このままでいた方がいいだろう。
頭を押さえながら、ようやく周囲の様子を全く伺っていない事に気付き、戦慄。
無防備な自分に呆れ果てる。
辺りを探るも、物音や気配は何処にもない。
無防備な自分に呆れ果てる。
辺りを探るも、物音や気配は何処にもない。
……どうやら、自分は一人だけのようだ。
そう、辺りには誰もいない。
たった一人でここにいる。
当然だ。
――仲間はもう、いないのだから。
そう、辺りには誰もいない。
たった一人でここにいる。
当然だ。
――仲間はもう、いないのだから。
込み上げてくる何かをこらえ、歯を食いしばる。
今成すべきことは、鋼の意思持て前に進むこと。それだけだ。
今成すべきことは、鋼の意思持て前に進むこと。それだけだ。
最後に覚えている感覚は、腹部への激痛だ。
銃撃してきたのは誰だったかは、あまりに唐突過ぎて確認する暇もなかった。
間違いなくあれのおかげでこんなところで寝る羽目になったのだろう。
放送の後だった事だけは、色々な意味で助かった。
銃撃してきたのは誰だったかは、あまりに唐突過ぎて確認する暇もなかった。
間違いなくあれのおかげでこんなところで寝る羽目になったのだろう。
放送の後だった事だけは、色々な意味で助かった。
理解できないのは、何故自分が生きているのか。
止めを刺さずに襲撃者が去った。
……何故だ?
考えるも、情報が足りな過ぎて現状では何とも言えない。
そんなことにすら頭が回らないくらい今の自分は思考能力が低下している。
不味い傾向だ、と思う。
止めを刺さずに襲撃者が去った。
……何故だ?
考えるも、情報が足りな過ぎて現状では何とも言えない。
そんなことにすら頭が回らないくらい今の自分は思考能力が低下している。
不味い傾向だ、と思う。
とりあえず、ここにこのままじっとしている訳にはいかないだろう。
軽く体を探る。
……腹部に軽く手当てをすれば、どうにか動くだけなら問題ないと判断。
必要な分だけ、必要な事を。
軽く体を探る。
……腹部に軽く手当てをすれば、どうにか動くだけなら問題ないと判断。
必要な分だけ、必要な事を。
向かうべきはと思いを馳せれば、神社だと記憶は告げている。
手短にインターネットで現況を確認すれば、もはやここで出来ることもなく。
ここでどれだけ時間を浪費したのかは、分からない。
ネットを見る限り、C・公明こと趙公明とやらが何かを企んでいるのが見て取れた。
そちらを確認しに行きたいというのが本音ではある。
……けれど、あれから何も連絡を入れていないのだ。
たとえ、もう誰もいないのだとしても、行く義務が自分にはあるだろう。
手短にインターネットで現況を確認すれば、もはやここで出来ることもなく。
ここでどれだけ時間を浪費したのかは、分からない。
ネットを見る限り、C・公明こと趙公明とやらが何かを企んでいるのが見て取れた。
そちらを確認しに行きたいというのが本音ではある。
……けれど、あれから何も連絡を入れていないのだ。
たとえ、もう誰もいないのだとしても、行く義務が自分にはあるだろう。
もし誰かいるならば、色々なことを伝えなくてはいけない。
その一念で体を動かして森の中をひた進む。
幸いなことに神社は近い。
労せずして、そこに辿り着くに至った。
その一念で体を動かして森の中をひた進む。
幸いなことに神社は近い。
労せずして、そこに辿り着くに至った。
「……これは」
悲劇にして喜劇の、現場に。
全てが終わった夢の痕が転がる中、残されたモノを受け取る影一つ。
全てが終わった夢の痕が転がる中、残されたモノを受け取る影一つ。
――そして彼は、鳴海歩は、思索に沈む。
この場で何が起こったのかを。
この場で何が起こったのかを。
*****
やあ、こんにちは。……もうこんばんはになるのかな?
愚弟がここを探っている間、少し話でもしようじゃないか。
ああ、この着ぐるみは気にしないでいい、ただの趣味だよ。
愚弟がここを探っている間、少し話でもしようじゃないか。
ああ、この着ぐるみは気にしないでいい、ただの趣味だよ。
いや待ってくれ、行かないでくれないかな。
私も軟禁されているとこう、退屈なんだ。
何かしていないとどうにも持て余すんだよ。
持て余すのが何か、聞きたそうな顔をしているね。
私も軟禁されているとこう、退屈なんだ。
何かしていないとどうにも持て余すんだよ。
持て余すのが何か、聞きたそうな顔をしているね。
……そりゃ、残念。
とは言え、君も知りたくはないかい?
何故こんな事態になってしまったのか、裏では何が起きていたのか。
私ならすべて語ることができる。
ふふふ、聞きたくないのなら帰ってもらっても構わな――、
とは言え、君も知りたくはないかい?
何故こんな事態になってしまったのか、裏では何が起きていたのか。
私ならすべて語ることができる。
ふふふ、聞きたくないのなら帰ってもらっても構わな――、
本当に帰らないでくれ。
全くノリが悪いね。人生を少しでも楽しもうとする気概を持たなきゃ。
全くノリが悪いね。人生を少しでも楽しもうとする気概を持たなきゃ。
うん、こうしよう。
君にはここに至るまで起こった出来事のうち、いくつか断片を見てもらおう。
ただし、それは断片だ。起こったことの全てを語る訳ではない。
無論、少し考えれば何が起こったかは十分に分かるはずではあるけどね。
それを考える楽しみ、というのは、中々乙なものだと思わないかな?
君にはここに至るまで起こった出来事のうち、いくつか断片を見てもらおう。
ただし、それは断片だ。起こったことの全てを語る訳ではない。
無論、少し考えれば何が起こったかは十分に分かるはずではあるけどね。
それを考える楽しみ、というのは、中々乙なものだと思わないかな?
*****
Fragment Ⅰ -The root-
【A-3/水族館/1日目/午後】
『簡単なことですよ。無い物は――作ってしまえば良いのです。それこそが、我々錬金術師の本分なのですから』
受話器向こうの男の嘯きが、一人の男の耳朶を打つ。
「現実には、お前も鋼の錬金術師も賢者の石の作成には至っていないはずだ……」
――ゴルゴ13、東郷。
彼の投げかけた言葉はしかし、相手を追求するためのものではなかった。
そこに込められた意図は、確かなる道程を確保するためのハーケンだ。
何のためか?
彼の投げかけた言葉はしかし、相手を追求するためのものではなかった。
そこに込められた意図は、確かなる道程を確保するためのハーケンだ。
何のためか?
……無論、神とやらを屠るための。
そして――、
【しかし、護衛任務とは己の持つ技能の全てを護衛対象に見られる事である。
そしてゴルゴ13は己の手の内を知る人間を、決して生かしてはおかない。
つまり、“護衛対象”の脅威となる外敵が全て排除され、契約自体が無効化されたその時、“護衛対象”はゴルゴ自身の手によって排除される。
いずれ殺す人間を、全力を持って守る。
この矛盾に満ちたゴルゴの行為は、あるいは神の調和を覆すためにゴルゴ自身があえて作りだした“破局点なのだろうか。 】
そしてゴルゴ13は己の手の内を知る人間を、決して生かしてはおかない。
つまり、“護衛対象”の脅威となる外敵が全て排除され、契約自体が無効化されたその時、“護衛対象”はゴルゴ自身の手によって排除される。
いずれ殺す人間を、全力を持って守る。
この矛盾に満ちたゴルゴの行為は、あるいは神の調和を覆すためにゴルゴ自身があえて作りだした“破局点なのだろうか。 】
そして、彼自身が彼自身であるための。
『ええ、そうですね。実際に作るには、当然ながら十分な設備が必要です。それと、材料も。
そして鋼のでは――性格上、賢者の石を作ることは不可能でしょう。
まあ設備の方は賢者の石が一つ手に入れば楽に造れるのですが』
そして鋼のでは――性格上、賢者の石を作ることは不可能でしょう。
まあ設備の方は賢者の石が一つ手に入れば楽に造れるのですが』
おあつらえ向きと言わんばかりに、それさえ今は彼の手にある。
これは作為か、偶合か。
これは作為か、偶合か。
……作為だろう。
しかし、賢者の石の作成による状況の打破はエドワード・エルリックには不可能と、ゾルフ・J・キンブリーは断ずる。
果たして、どうしてか?
……大凡の予想はつく。しかし、不確実な情報には頼らない。
話を促す。
しかし、賢者の石の作成による状況の打破はエドワード・エルリックには不可能と、ゾルフ・J・キンブリーは断ずる。
果たして、どうしてか?
……大凡の予想はつく。しかし、不確実な情報には頼らない。
話を促す。
『それでまあ、折角ですので、貴方には材料の確保をお願いしたいのです。無論、無理にとは言いませんが……。
何、こうして私に連絡を取ったということは、貴方も完全な独力での事態の解決が可能だとは考えていないのでしょう?
それなら、私の依頼は貴方の行動の妨げにはならないと思いますよ』
何、こうして私に連絡を取ったということは、貴方も完全な独力での事態の解決が可能だとは考えていないのでしょう?
それなら、私の依頼は貴方の行動の妨げにはならないと思いますよ』
「……材料とは何だ?」
キンブリーが明々白々に事態を悪化させる人物であるのは承知の上。
しかし、鳴海歩やエドワード・エルリックのような善人とは違い、誰よりも具体的なプラン、そしてその為の何らかの絶対的な根拠を備えているのは確実である。
ならば、選ぶべき道は如何か。
向こうの要望にて、それを決する。
しかし、鳴海歩やエドワード・エルリックのような善人とは違い、誰よりも具体的なプラン、そしてその為の何らかの絶対的な根拠を備えているのは確実である。
ならば、選ぶべき道は如何か。
向こうの要望にて、それを決する。
『賢者の石の材料は――』
程なく、全ては合点のままに。
『――生きた人間です』
内心、頷く。
エドワード・エルリックの行動に全て説明が出来た。
なるほど、それでは迂闊に動く事は出来まい。
エドワード・エルリックの行動に全て説明が出来た。
なるほど、それでは迂闊に動く事は出来まい。
そして、キンブリーが嘘を吐く理由もない。
もともとこちらから持ちかけた交渉だ、それを鑑みれば向こうもこちらとの取引を望んでいるという事だろう。
ならば、取るべきはシンプルだ。
キンブリーとの協調をメインプランとしつつ、スペアとして鋼の錬金術師を確保しておくのが望ましい。
もともとこちらから持ちかけた交渉だ、それを鑑みれば向こうもこちらとの取引を望んでいるという事だろう。
ならば、取るべきはシンプルだ。
キンブリーとの協調をメインプランとしつつ、スペアとして鋼の錬金術師を確保しておくのが望ましい。
……だが、今となっては大きな枷が一つある。
当初としては鳴海歩とのラインとして大きな価値があったものの、“あれ”はもはや自分の行動を制限するだけのものだ。
鳴海歩から提供された情報分の働きはしたと自負している。
腹話術とやらのリスクも鑑みれば、これ以上の依頼継続は自分に益をもたらしはすまい。
幸い、次の放送時には鳴海歩との邂逅が叶う。
その時点で契約の更新を確認し、十分な対価がなければ依頼を完了させれば良いだろう。
当初としては鳴海歩とのラインとして大きな価値があったものの、“あれ”はもはや自分の行動を制限するだけのものだ。
鳴海歩から提供された情報分の働きはしたと自負している。
腹話術とやらのリスクも鑑みれば、これ以上の依頼継続は自分に益をもたらしはすまい。
幸い、次の放送時には鳴海歩との邂逅が叶う。
その時点で契約の更新を確認し、十分な対価がなければ依頼を完了させれば良いだろう。
……尤も、だ。
鳴海歩の死亡などで契約の終了を決着できねば、どうするべきか?
いや、それについてはそもそもの契約内容に違わねば、それで良い。
鳴海歩の死亡などで契約の終了を決着できねば、どうするべきか?
いや、それについてはそもそもの契約内容に違わねば、それで良い。
『この、安藤の殺害を試みる何者かが存在する場合、そいつの戦闘手段を始末してくれ』
鳴海歩の依頼内容は、これだけだ。
即ち、相手から戦闘する手段さえ奪えば後はどうなっても構わない。
それ以前に、あれの生死さえ問われていない。
あれは護衛と受け取っていたようだが――、実質、そんなお優しい代物では全くないのだ。
即ち、相手から戦闘する手段さえ奪えば後はどうなっても構わない。
それ以前に、あれの生死さえ問われていない。
あれは護衛と受け取っていたようだが――、実質、そんなお優しい代物では全くないのだ。
つまり。
つまりだ。
つまりだ。
“戦闘を目的としていない何らかの手段で、【結果的に】死亡したとしても契約内容には全く違反しない”のだ。
たとえどれ程、死亡の確率が高くとも。
たとえどれ程、死亡の確率が高くとも。
そしてキンブリーは“生きた人間”を必要としている。
その目的たる“賢者の石の錬成は、誰がどう考えても戦闘のための手段とは言えない”。
その目的たる“賢者の石の錬成は、誰がどう考えても戦闘のための手段とは言えない”。
新たに別の人間を掻っ攫うよりも、手間も時間もかからない。
一挙両得の解決法がそこにはある。
一挙両得の解決法がそこにはある。
「――その依頼を引き受けよう」
そしてこの事が、彼の進む道を決定づけた。
ただし――この時点ではまだ、事態は流動的だった。
ただし――この時点ではまだ、事態は流動的だった。
*****
Fragment Ⅱ -The fatality-
【F-5/神社入口/一日目/夜】
LEDの人工的な光が一人の少年の顔を照らし出す。
その顔が青白く染まっているのは、何もその光の色でも不健康さからでもない。
自らの運命が致命的にどうしようもないという絶望。
それがただ明文化されただけでこうも恐ろしいとは思わなかった。
……長くないという事など、分かり切っていたはずなのに。
その顔が青白く染まっているのは、何もその光の色でも不健康さからでもない。
自らの運命が致命的にどうしようもないという絶望。
それがただ明文化されただけでこうも恐ろしいとは思わなかった。
……長くないという事など、分かり切っていたはずなのに。
「DEAD、END……」
石段の一番下に突っ伏したまま、安藤は“その文面”の、最後の一文だけを読み上げた。
読み上げて、しばらくは空を見上げて、動かなかった。
読み上げて、しばらくは空を見上げて、動かなかった。
月が掴めそうだと、状況にそぐわないロマンチックな詞が浮かぶ。
そんな事を思っていないと――押し潰されそうだった。
そんな事を思っていないと――押し潰されそうだった。
駄目だ、と思う。
もう、どうしようもない。
もう、どうしようもない。
大切な弟の死に、このままでは駄目だと痛感した。
……許せなかった。
弟を助けるどころか死に目に駆けつけてやれない自分が情けなくて、悔しくて。
今もまた、ただ圧し迫る制限時間に怯えるだけで、短い命を刻一刻とすり減らしていく。
全力を持って事態を打開する、せめて自分の今できる事で皆の助けとなる。
そうしなければ、弟に示しがつかないと思った。
……許せなかった。
弟を助けるどころか死に目に駆けつけてやれない自分が情けなくて、悔しくて。
今もまた、ただ圧し迫る制限時間に怯えるだけで、短い命を刻一刻とすり減らしていく。
全力を持って事態を打開する、せめて自分の今できる事で皆の助けとなる。
そうしなければ、弟に示しがつかないと思った。
だから、何でもしようと誓った。
偶然とはいえあの2人から少しでも離れたこの期を最大に活かして、禁忌の道具に命を吹き込む。
殺人という名を冠した、否定されるべき、忌むべきものでも躊躇わない。
己の命というリスクなど、とっくに背負っている。
どんな卑劣な手でも、使おうと思ったのに。
偶然とはいえあの2人から少しでも離れたこの期を最大に活かして、禁忌の道具に命を吹き込む。
殺人という名を冠した、否定されるべき、忌むべきものでも躊躇わない。
己の命というリスクなど、とっくに背負っている。
どんな卑劣な手でも、使おうと思ったのに。
なのに、この様だ。
……すぐ傍にいる人間が、敵だと知った故。
そして、その人間を強く知るが故。
絶望の二重螺旋は、ただひたすらに安藤を打ちのめす。
そして、その人間を強く知るが故。
絶望の二重螺旋は、ただひたすらに安藤を打ちのめす。
それでも、諦める訳にはいかないのだ。
勇気を出す。
……このまま、みすみす殺される訳にはいかない。
むしろ、こうして知る事が出来たのは唯一といっていい幸運である。
通常、この“殺人日記”による予知では自分自身に関する予知は不可能だ。
だがたった一つだけ、その例外がある。
――DEAD END。
死の直前の状況だけは、自分の周囲が分かるのだ。
勇気を出す。
……このまま、みすみす殺される訳にはいかない。
むしろ、こうして知る事が出来たのは唯一といっていい幸運である。
通常、この“殺人日記”による予知では自分自身に関する予知は不可能だ。
だがたった一つだけ、その例外がある。
――DEAD END。
死の直前の状況だけは、自分の周囲が分かるのだ。
……あの男が明確な敵である“奴”と手を組んだと判明した今、放置しておくわけにはいかない。
手が、震える。
ガチガチと歯の根が噛み合わず、涙がボロボロ零れてくる。
みっともない。
人殺しという、最低な手段に既に手を染めているのに。
だから絶対に、躊躇いなんて許されないはずなのに。
手が、震える。
ガチガチと歯の根が噛み合わず、涙がボロボロ零れてくる。
みっともない。
人殺しという、最低な手段に既に手を染めているのに。
だから絶対に、躊躇いなんて許されないはずなのに。
それでも――無理だった。
ぽろりと、掌から携帯電話が零れ落ちる。
自分は、命を助けてもらったこともある人間を殺そうとしている。
たったそれだけの楔が心に食い込んで、あんまりにも痛かった。
たったそれだけの楔が心に食い込んで、あんまりにも痛かった。
未来に裏切るのは相手だ、と、己を納得させようとする。
けれど、『まだ』彼は裏切ってないじゃないかと、現在の事実が妥協を許さない。
けれど、『まだ』彼は裏切ってないじゃないかと、現在の事実が妥協を許さない。
そして、先に裏切る重みに、安藤は耐えられない。
それは人の正しい在り方として、あんまりにも当然のこと。
そうまでして自分が助かる価値はあるのかと、安藤の劣等感は運命の甘受さえ認めつつあった。
それは人の正しい在り方として、あんまりにも当然のこと。
そうまでして自分が助かる価値はあるのかと、安藤の劣等感は運命の甘受さえ認めつつあった。
そう、この時までは。
この囁きが、耳に届くまでは。
この囁きが、耳に届くまでは。
虫が飛ぶような音が聞こえた。
びくりと震え、顔を上げる。
……携帯電話が、振動していた。
びくりと震え、顔を上げる。
……携帯電話が、振動していた。
のろのろと手を伸ばし、液晶を開いて確認する。
そこには。
そこには。
「……メール?」
ぱかりと開くと、着信を示すアイコンが点灯している。
特に何も考えず反射で操作し、中身を表示。
特に何も考えず反射で操作し、中身を表示。
「え……?」
記された内容と、送り主の名を見て硬直。
……ああ、この男は。この名前は。
決して、決して許してはならないのだと。妥協してはならないのだと。
この男と、それと手を組むことを選んだかつての同志を葬る事に躊躇をしてはならないのだと。
この男と、それと手を組むことを選んだかつての同志を葬る事に躊躇をしてはならないのだと。
ただそれだけが、折れた心に浸透していく。
ぽっかりと開いた空洞に入り込んで、代わりの柱となっていく。
ぽっかりと開いた空洞に入り込んで、代わりの柱となっていく。
触れてはならない場所に踏み込んだ報いを。
――カチャカチャと。
まるで、雑然としていたパズルが4隅を見つけた途端一気に組み上がっていくように。
思考そのものが一気に整然としていくのを感じ取る。
まるで、雑然としていたパズルが4隅を見つけた途端一気に組み上がっていくように。
思考そのものが一気に整然としていくのを感じ取る。
それは飛躍。それは超越。
あるいは、覚醒という陳腐な表現を使ってもいいかもしれない。
あるいは、覚醒という陳腐な表現を使ってもいいかもしれない。
何か大切なものが終わり、そして何か恐ろしいものが始まったのだと、自覚する。
やらねばならない事は、シンプルだ。
その為に考えろ考えろ、マクガイバー。
ヒーローは悪を許さない、子供だって知っているとてもシンプルな絶対の真理。
その為に考えろ考えろ、マクガイバー。
ヒーローは悪を許さない、子供だって知っているとてもシンプルな絶対の真理。
神殺しの刃が、血に浸って錆びていく。
……否。
血を吸い練り込み、魔剣と化す。
……否。
血を吸い練り込み、魔剣と化す。
実に頭の中がクリアだ。
爽快ささえ感じる。
まるで因果そのものを俯瞰しているかのようだ。
爽快ささえ感じる。
まるで因果そのものを俯瞰しているかのようだ。
無表情で、高速に携帯電話を打鍵する。
手っ取り早い自己保存の手段は即ち、裏切り者の始末。
つい数十秒前まであれほど重く、動かなかった指先は軽快にリズミカルに。
一切合財の躊躇いなく、蛇口を捻って水を出すこと並みにあっさりと。
手っ取り早い自己保存の手段は即ち、裏切り者の始末。
つい数十秒前まであれほど重く、動かなかった指先は軽快にリズミカルに。
一切合財の躊躇いなく、蛇口を捻って水を出すこと並みにあっさりと。
あの殺し屋への、完璧なる殺害計画書が提示された。
……だが。
「駄目みたい、だな」
それでもDEAD ENDは変わらない。
裏切り者は始末する。裏で手を組んでいるはずの錬金術師と邂逅する未来はない。
なのに、だ。
裏切り者は始末する。裏で手を組んでいるはずの錬金術師と邂逅する未来はない。
なのに、だ。
何故か?
『安藤――は正体不明の襲撃者に心臓を狙撃され、死亡する。DEAD END』
……一応、あの男はボディガードとしての役割を果たすつもりではあったようだ。
おそらく、裏切りに気付かない振りをしていればこの謎の襲撃者とやらからは本来は身を守ってくれたのだろう。
おそらく、裏切りに気付かない振りをしていればこの謎の襲撃者とやらからは本来は身を守ってくれたのだろう。
ボディガードを始末しても、始末しなくても訪れる不可避の死。
正体不明の何物かが自分たちをこれから襲撃するという、暗澹たる未来。
八方塞がり、どん詰まりの四面楚歌だ。
本来なら、回避したと思った未来が結局手詰まりであったことに打ちひしがれるべき状況。
だと、いうのに。
正体不明の何物かが自分たちをこれから襲撃するという、暗澹たる未来。
八方塞がり、どん詰まりの四面楚歌だ。
本来なら、回避したと思った未来が結局手詰まりであったことに打ちひしがれるべき状況。
だと、いうのに。
「…………」
顔色一つ変えず、安藤は淡々と打鍵を再開する。
頭の回転が速くなったのは、何かをごっそりと落っことしたからなのかもしれない。
そんな事を心の片隅で思う。
頭の回転が速くなったのは、何かをごっそりと落っことしたからなのかもしれない。
そんな事を心の片隅で思う。
次に試したのは、あの錬金術師の殺害計画だ。
が。
が。
『安藤――は趙公明の攻撃による全身圧壊で死亡する。DEAD END』
「…………」
どういう事だ、と疑問に思うが、答えはきっとシンプルだ。
あの錬金術師と趙公明――神の一派は、手を組んでいる。
ぞくりと、体が震えた。
あの錬金術師と趙公明――神の一派は、手を組んでいる。
ぞくりと、体が震えた。
……繋がった。
なるほど、あの掲示板への書き込みやボディーガードの裏切りの理由、全てに合点がいった。
神に繋がる直接的なラインが存在したのだ。絶対的な後ろ盾が、存在するのだ。
一気に、視界が広がった気がした。
これだ。
これを追っていけば、全てを解決することが出来る。
……そんな錯覚さえ、抱く。
なるほど、あの掲示板への書き込みやボディーガードの裏切りの理由、全てに合点がいった。
神に繋がる直接的なラインが存在したのだ。絶対的な後ろ盾が、存在するのだ。
一気に、視界が広がった気がした。
これだ。
これを追っていけば、全てを解決することが出来る。
……そんな錯覚さえ、抱く。
だが駄目だ、まだ自分の死は回避できていない。
この運命を覆さなければ、この情報も全て無駄になる。
この運命を覆さなければ、この情報も全て無駄になる。
目が、血走った。ギラギラと輝きを増す。
戦力を整えていない状態でのキンブリー一派との接触は駄目だ。
殺人日記に『一人しか殺害対象に指定できない』という制限がある以上、同時に多人数を相手にするのは詰みとなる。
現状であの錬金術師には最低でも趙公明と裏切り者という二人が付いている以上、各個撃破せねばならないのだ。
殺人日記に『一人しか殺害対象に指定できない』という制限がある以上、同時に多人数を相手にするのは詰みとなる。
現状であの錬金術師には最低でも趙公明と裏切り者という二人が付いている以上、各個撃破せねばならないのだ。
即ち、裏切り者があの錬金術士と直接接触する前に、始末をつけねばならない。
だが、そのままでは正体不明の襲撃者とやらから身を守る術がない。
だが、そのままでは正体不明の襲撃者とやらから身を守る術がない。
どうする?
……どうする?
……どうする?
この夜闇の中、精確に心臓を貫く狙撃の腕前。
この謎の襲撃者とやらは、どうやら相当腕が立つと推測できる。
殺人日記でこの襲撃者の始末が出来ればいいのだが――、
肝心要の名前が分からない。
この謎の襲撃者とやらは、どうやら相当腕が立つと推測できる。
殺人日記でこの襲撃者の始末が出来ればいいのだが――、
肝心要の名前が分からない。
ならば、と名簿を引っ張り出して片っ端から殺人計画を立てようと考える。
もう残り人数は少ない。生存者に総当たりすれば確実に未来が変わるはずだ。
変えられたはずだ。
もう残り人数は少ない。生存者に総当たりすれば確実に未来が変わるはずだ。
変えられたはずだ。
……しかし。
支給品一式を失った今、それを叶えることはできない。
支給品一式を失った今、それを叶えることはできない。
怯えに呑み込まれそうなのを、ぐっとこらえる。
考えろ考えろマクガイバー。
そうだ、足掻け。
出来る全ての試みを尽くし、決して最後まで諦めるな。
未来の情報は少しずつでも、確実に手に入れている。
それは自分だけの、エドワード・エルリックや鳴海歩でさえ手に入らない大いなる武器だ。
掻き集められるもの全てひとしなみに掻き集めろ。
偽名と分かっている関口伊万里以外の、知っている生存者全てについて殺害を試みる。
たとえそれが、己を仲間と呼んだ人物であっても。
出来る全ての試みを尽くし、決して最後まで諦めるな。
未来の情報は少しずつでも、確実に手に入れている。
それは自分だけの、エドワード・エルリックや鳴海歩でさえ手に入らない大いなる武器だ。
掻き集められるもの全てひとしなみに掻き集めろ。
偽名と分かっている関口伊万里以外の、知っている生存者全てについて殺害を試みる。
たとえそれが、己を仲間と呼んだ人物であっても。
実際に殺す訳ではない。
ただ、仮に殺すことになった場合、どんな状況であるのか。
その上で自分が死んだ時、どんな環境に置かれているのか。
それを調べる、ただそれだけだ。
ただ、仮に殺すことになった場合、どんな状況であるのか。
その上で自分が死んだ時、どんな環境に置かれているのか。
それを調べる、ただそれだけだ。
そして、事態は動きだす。
ある人物の名前を指定した時、殺人日記が吐き出した情報が。
ある人物の名前を指定した時、殺人日記が吐き出した情報が。
エドワード・エルリックでもリン・ヤオでも我妻由乃でも秋瀬或でも、誰を指定しても未来は変わらない。
あの男に裏切られて錬金術師に殺される、DEAD ENDの文字の前にはいつもそれだけが浮かんでいる。
けれど、けれど。
たった一人だけ、ノイズと共に文面が変わった。
死の運命は覆らない。けれど――、
あの男に裏切られて錬金術師に殺される、DEAD ENDの文字の前にはいつもそれだけが浮かんでいる。
けれど、けれど。
たった一人だけ、ノイズと共に文面が変わった。
死の運命は覆らない。けれど――、
『安藤――は仲間と共に麻酔銃で動きを封じられ、カノン・ヒルベルトに銃殺される。DEAD END』
「……カノン・ヒルベルト」
かすれた声で、その名前を読み上げる。
これまで予知した未来で全く関与しなかった、新たなる登場人物が、今ここに。
これまで予知した未来で全く関与しなかった、新たなる登場人物が、今ここに。
そして、その死がカノン・ヒルベルトを舞台に上がらせる為の鍵となる、最重要の登場人物は。
「鳴海、歩……」
思い出す。
それは、鳴海歩が名乗った偽名のひとつ。
何故だ?
何故、そんなものがここに来て浮上する?
それは、鳴海歩が名乗った偽名のひとつ。
何故だ?
何故、そんなものがここに来て浮上する?
このことから推測できる事は、2つ。
カノン・ヒルベルトという人物は、鳴海歩の知己である。
彼の事情に深く踏み込んだ人物なら、おそらくは――ブレード・チルドレンとやらの関係者か。
鳴海歩が語ったブレード・チルドレンそのものであるなら、なるほど、危険な存在であっても不思議ではない。
カノン・ヒルベルトという人物は、鳴海歩の知己である。
彼の事情に深く踏み込んだ人物なら、おそらくは――ブレード・チルドレンとやらの関係者か。
鳴海歩が語ったブレード・チルドレンそのものであるなら、なるほど、危険な存在であっても不思議ではない。
そして、だ。
鳴海歩が死んだ途端に姿を現すという事は。
この人物が、どこかからか自分達を――或いは、鳴海歩を監視しているのだ。
きっと、今もまさに。
鳴海歩が死んだ途端に姿を現すという事は。
この人物が、どこかからか自分達を――或いは、鳴海歩を監視しているのだ。
きっと、今もまさに。
唾を呑み込む。
鳴海歩の構図の話が本当なら、絶対に殺せないはずの鳴海歩を殺した場合、興味を持って接触してくるのは道理ではある。
そして。
残り人数が少なくなってきた中で、自分たちか鳴海歩か――おそらく後者――を悠長に監視している参加者がそう何人もいるとは思えない。
十中八九、狙撃で自分を殺す謎の襲撃者とやらはこの人物だろう。
自分達と鳴海歩は、もうすぐ合流する。監視されているのがどちらであろうと、関係ない。
その上でボディガードを始末した場合、残る自分が消されるという寸法だ。
残り人数が少なくなってきた中で、自分たちか鳴海歩か――おそらく後者――を悠長に監視している参加者がそう何人もいるとは思えない。
十中八九、狙撃で自分を殺す謎の襲撃者とやらはこの人物だろう。
自分達と鳴海歩は、もうすぐ合流する。監視されているのがどちらであろうと、関係ない。
その上でボディガードを始末した場合、残る自分が消されるという寸法だ。
……口の端が、上がるのを自覚した。
名前さえ分かれば後は怖くない。
カノン・ヒルベルトの殺害計画を――、
名前さえ分かれば後は怖くない。
カノン・ヒルベルトの殺害計画を――、
そこまで考え、しかしふと思い止まる。
……駄目だ。
あのボディガードやカノンの始末だけなら簡単だ。殺人日記の殺害計画を頼りにすればいい。
だが、それではエドワードの信頼は勝ち取れない。
自分がエドワードに疑われることがあってはならない。
何故なら、エドワードに全く咎めるところはないからだ。
そして、その力は自分にはない、代わりのないものなのである。
あのボディガードやカノンの始末だけなら簡単だ。殺人日記の殺害計画を頼りにすればいい。
だが、それではエドワードの信頼は勝ち取れない。
自分がエドワードに疑われることがあってはならない。
何故なら、エドワードに全く咎めるところはないからだ。
そして、その力は自分にはない、代わりのないものなのである。
事態の打破が見えたところで、ようやく周囲の事まで気を配る余裕が出てきた、と苦笑する。
……ただ、その場その場を乗り切ればいいというものではない。
……ただ、その場その場を乗り切ればいいというものではない。
そして、気を配るのはエドワードだけではない。鳴海歩も同様だ。
このまま鳴海歩と呑気に合流する訳にもいかないだろう、どうにかして彼の行動を妨害する必要がある。
ただし連絡手段が今はない。
ならば、どうする?
このまま鳴海歩と呑気に合流する訳にもいかないだろう、どうにかして彼の行動を妨害する必要がある。
ただし連絡手段が今はない。
ならば、どうする?
もっともっと自然な形でこの状況をどうにかせねば。
そして、自分がそこに関与していることを、悟られてはならない。
もっと言うなら、殺人日記の使用さえ見られてはならないのだ。
アドリブでの計画の変更は許されない。
偶然ではあるがようやく手に入れた、誰からも邪魔の入らない単独行動、それが今だ。
だからこそ、この機で始まりから終わりまでを見通さなくては。
あまり遅くまで時間をかけては、上のエドワードたちも様子を見に来るだろう。
全てを迅速に練り上げる。
そして、自分がそこに関与していることを、悟られてはならない。
もっと言うなら、殺人日記の使用さえ見られてはならないのだ。
アドリブでの計画の変更は許されない。
偶然ではあるがようやく手に入れた、誰からも邪魔の入らない単独行動、それが今だ。
だからこそ、この機で始まりから終わりまでを見通さなくては。
あまり遅くまで時間をかけては、上のエドワードたちも様子を見に来るだろう。
全てを迅速に練り上げる。
考えろ、考えろ、考えろ。
考える、考える、考える。
考える、考える、考える。
……そして、閃いた。
そう、まさしく古典的な漫画のように、電球の灯りを灯すように一瞬で。
そう、まさしく古典的な漫画のように、電球の灯りを灯すように一瞬で。
そうだ、何も二人ともを始末する必要はない。
むしろ利用してやればいいのだ。戦力は限られている。有効に使えるならそれが一番だ。
むしろ利用してやればいいのだ。戦力は限られている。有効に使えるならそれが一番だ。
殺害対象にカノン・ヒルベルトを指定。
――鳴海歩を交えた邂逅から、交渉による戦闘の回避。
そしてその後に、単独での呼び出しから殺害までの、一挙手一投足が事細かに表示される。
だが、その大部分はどうでもいい情報だ。
肝心なのはほんの一部分――呼び出し、ただそれだけ。
――鳴海歩を交えた邂逅から、交渉による戦闘の回避。
そしてその後に、単独での呼び出しから殺害までの、一挙手一投足が事細かに表示される。
だが、その大部分はどうでもいい情報だ。
肝心なのはほんの一部分――呼び出し、ただそれだけ。
そこには、未来にて最初の邂逅で得るはずの、簡潔なメールアドレスが表示されている。
――ある世界、ある一点で、天野雪輝が未来から銀行の金庫の暗証番号を拾ってきたように。
安藤はカノン・ヒルベルトのメールアドレスについてそれを行った。
安藤はカノン・ヒルベルトのメールアドレスについてそれを行った。
さて。
カノン・ヒルベルトは麻酔銃を持っているらしい。
鳴海歩には死んでほしくない、しかしこのまま合流してもらうのも少々不味い。
ならば、最初に依頼したいことは1つだ。
カノン・ヒルベルトは麻酔銃を持っているらしい。
鳴海歩には死んでほしくない、しかしこのまま合流してもらうのも少々不味い。
ならば、最初に依頼したいことは1つだ。
カノン・ヒルベルトが思った通りに動いてくれるかどうかが心配だ、と思ったが、大した問題でもない。
手先で携帯電話を操作し、対象をあの男へと再度戻す。
そこには、カノン・ヒルベルトも交えた上での新たなる殺害計画書が事細かに記されていた。
なにせ、『完全なる殺害計画書』だ。共犯者とどう交渉すべきかさえ、しっかりと記載してくれている。
手先で携帯電話を操作し、対象をあの男へと再度戻す。
そこには、カノン・ヒルベルトも交えた上での新たなる殺害計画書が事細かに記されていた。
なにせ、『完全なる殺害計画書』だ。共犯者とどう交渉すべきかさえ、しっかりと記載してくれている。
熟読する。
……エドワードと合流する以上、これからしばらく殺人日記を確認することはできない。
後はぶっつけ本番だ。
……エドワードと合流する以上、これからしばらく殺人日記を確認することはできない。
後はぶっつけ本番だ。
煌々たる月明かりの下――、
安藤はそして、送信ボタンを静かに押した。
指先は震えながら、しかし淀みは全くなく。
指先は震えながら、しかし淀みは全くなく。
たったひとつの冴えたやりかた、と信じたら、何があろうと貫き通す。
ありとあらゆる現実を踏み越え、傷つき、軋もうと、一歩一歩を踏みしめて。
この道の先の困難を知っていても、それでもいつか、望む先へと手を届けよう、と。
ありとあらゆる現実を踏み越え、傷つき、軋もうと、一歩一歩を踏みしめて。
この道の先の困難を知っていても、それでもいつか、望む先へと手を届けよう、と。
*****
Fragment Ⅲ -The downfall-
【F-5/研究所/1日目/夜】
硬質な反響音と蛍光灯の白光が、その空間を定義する。
カツカツ、コツコツ、カツ、コツコツ。
人工的で精緻な建造物の暗がりは、誰か通れば勝手に気ままに姿消す。
カツカツ、コツコツ、カツ、コツコツ。
人工的で精緻な建造物の暗がりは、誰か通れば勝手に気ままに姿消す。
――浮かび上がる影一つ、病的にさえ思わせる青白さで照らし出される。
「……さて。これで侵入できる場所は――全て確認できたかな」
かつてのカノン・ヒルベルトの残骸は、ふ、と人の好きそうな笑みを掲げて独りごちた。
この研究所の地理、構造、そして設備については、ほぼ把握したと言っても良いだろう。
いざとなれば籠城にさえ使えるかもしれない。
とはいえ、手元にある研究棟のカードキーで入れる領域に限ってではあるのだが。
この研究所の地理、構造、そして設備については、ほぼ把握したと言っても良いだろう。
いざとなれば籠城にさえ使えるかもしれない。
とはいえ、手元にある研究棟のカードキーで入れる領域に限ってではあるのだが。
「一番の収穫はこれ、かな?」
手元に持った一枚のペラ紙を弾くと、虚ろな笑みを強くする。
それはいつか秋瀬或が島中にばら蒔いたFAXであり、即ち、この殺人機械がインターネットという凶器に接触してしまった事への証左であった。
それはいつか秋瀬或が島中にばら蒔いたFAXであり、即ち、この殺人機械がインターネットという凶器に接触してしまった事への証左であった。
――殺人機械は情報の海に接触し得た知識を反芻し、必要な情報のみを抽出する。
Blogから得た鳴海歩のスタンスや掲示板の管理人と思われる結崎ひよのの事などを解析しつつ、しかし最優先とした知識はそのどちらでもない。
“探偵日記”を名乗るものにより得た、携帯電話の有用性だ。
Blogから得た鳴海歩のスタンスや掲示板の管理人と思われる結崎ひよのの事などを解析しつつ、しかし最優先とした知識はそのどちらでもない。
“探偵日記”を名乗るものにより得た、携帯電話の有用性だ。
拍子抜けするほど簡単に見つかった銀色のそれは、現在カノンの胸ポケットで沈黙を守りながらも確かに鎮座している。
「なるほどね。こんなものがあったなら、集団行動のメリットは薄いか……。
歩君があの死にかけとだけ行動を共にしていた理由が分かったよ。
……集団自体が形成されないなら僕自身が集団を内部崩壊させるプランは修正する必要があるね」
歩君があの死にかけとだけ行動を共にしていた理由が分かったよ。
……集団自体が形成されないなら僕自身が集団を内部崩壊させるプランは修正する必要があるね」
口調だけは嫌々そうだ。が、しかし声色も表情も、まったくもって平坦なもの。
薄ら笑いのままに、無垢ささえ伴って首を傾げる殺人機械。
薄ら笑いのままに、無垢ささえ伴って首を傾げる殺人機械。
「さて、どうする?」
その時だった。
“未だ誰も番号どころか存在さえ知らないはずの”その胸の携帯電話が振動した瞬間は。
“未だ誰も番号どころか存在さえ知らないはずの”その胸の携帯電話が振動した瞬間は。
*****
Fragment Ⅳ -The legacy-
【F-5/神社/1日目/夜】
探偵、秋瀬或は最後まで己であり続ける。
動かない体で這いずりながら、漸進する。
顎に食らった一発は平衡感覚をかき乱し、一歩の距離がまるで千里の砂漠のようだ。
明滅する視界は切れかけた電球のように次第に弱々しく灯りを落としていく。
躙る。
躙る。
……躙る。
手を伸ばし届いたモノを引き寄せ確認する。
安堵。
顎に食らった一発は平衡感覚をかき乱し、一歩の距離がまるで千里の砂漠のようだ。
明滅する視界は切れかけた電球のように次第に弱々しく灯りを落としていく。
躙る。
躙る。
……躙る。
手を伸ばし届いたモノを引き寄せ確認する。
安堵。
……取り落としたこのメモ帳は被弾もしていないし、血に濡れてもいない。
これを使えば、受け取るべきものへと繋げるはずだ。
これを使えば、受け取るべきものへと繋げるはずだ。
気になるのは、と脳内で前置きし、思索する。
攻撃が正確すぎたこと。
東郷の訳の分からない叫びはこの際置いておく。
理屈の分からない事を考えるのには残された時間はあまりに少ない。
ただ、とにかく、あれが攻撃の合図だったのは間違いないだろう。
理屈の分からない事を考えるのには残された時間はあまりに少ない。
ただ、とにかく、あれが攻撃の合図だったのは間違いないだろう。
……しかし、だ。
窓さえ完全に目張りし、外部からは内部の状態が把握できないこの社務所の壁越しに、どうやって正確な銃撃が可能だったのだ?
窓さえ完全に目張りし、外部からは内部の状態が把握できないこの社務所の壁越しに、どうやって正確な銃撃が可能だったのだ?
何らかの手段――そう、たとえば首輪探知機の様なものがあったとして、それで場所を把握した?
否だ。
だとするなら、あまりにもタイミングが良過ぎる。
ならばそもそも、東郷の叫びと言う合図すら必要ないのだ。
偶然の一致と片付けるには余りにも馬鹿馬鹿しい。
……目張りをした以上は、この建物に自分たちがいる事は夜闇の中ではまず分からない。
そして、ここに入る時にも誰かに見つかるようなヘマはしなかった。
自分が一人外に出た時もまた同じくだ。
となると、自分とエドワードが交渉をしていた最中に、襲撃者は確信に基づいてここに近づいたことになる。
自分たちがここにいるという、確信を。
否だ。
だとするなら、あまりにもタイミングが良過ぎる。
ならばそもそも、東郷の叫びと言う合図すら必要ないのだ。
偶然の一致と片付けるには余りにも馬鹿馬鹿しい。
……目張りをした以上は、この建物に自分たちがいる事は夜闇の中ではまず分からない。
そして、ここに入る時にも誰かに見つかるようなヘマはしなかった。
自分が一人外に出た時もまた同じくだ。
となると、自分とエドワードが交渉をしていた最中に、襲撃者は確信に基づいてここに近づいたことになる。
自分たちがここにいるという、確信を。
更に言うなら、襲撃者の攻撃手段がそもそもおかしいのだ。
壁越しの銃撃、などというこちらの正確な所在を知った上でもまともに命中するかも分からない方法だ。
そんな事をするよりもこの社務所の入口の見える位置に陣取って、こちらが出てきた時に攻撃を加えればいい。逃げ道をほぼ塞ぐことができる。
にもかかわらず、襲撃者は確信を以ってこちらを攻撃したのだ。
自分たちがここにいるという、確信を。
壁越しの銃撃、などというこちらの正確な所在を知った上でもまともに命中するかも分からない方法だ。
そんな事をするよりもこの社務所の入口の見える位置に陣取って、こちらが出てきた時に攻撃を加えればいい。逃げ道をほぼ塞ぐことができる。
にもかかわらず、襲撃者は確信を以ってこちらを攻撃したのだ。
自分たちがここにいるという、確信を。
……確信とは、どういうものか。
それは、絶対に正しい情報があるからこそ成り立つものだ。
それは、絶対に正しい情報があるからこそ成り立つものだ。
絶対に正しい情報とは、何か?
“必ず実現する”情報を手に入れる手段を、秋瀬或は知っている。
この島に生き残っている、誰よりも。
“必ず実現する”情報を手に入れる手段を、秋瀬或は知っている。
この島に生き残っている、誰よりも。
……この襲撃を実行するには、“内部の状況を把握できる”何某かが外の誰かに合図する必要がある。
そして、襲撃者が壁越しの銃撃などという胡乱な攻撃手段をとったのは、『それしかできなかった』からしか考えられない。
何故、壁越しの銃撃しかできなかったのか?
単純だ。
“それしか与えられた情報がなかった”からだ。
……正確な情報をすべて伝えれば、“自分ごと殲滅される”可能性もある。
しかしこの手段ならば、“襲撃者と何某かが互いに顔を知られることなく”事を済ませることができる。
お互いのリスクを低減した上で、メリットを共有することが可能なのだ。
そして、襲撃者が壁越しの銃撃などという胡乱な攻撃手段をとったのは、『それしかできなかった』からしか考えられない。
何故、壁越しの銃撃しかできなかったのか?
単純だ。
“それしか与えられた情報がなかった”からだ。
……正確な情報をすべて伝えれば、“自分ごと殲滅される”可能性もある。
しかしこの手段ならば、“襲撃者と何某かが互いに顔を知られることなく”事を済ませることができる。
お互いのリスクを低減した上で、メリットを共有することが可能なのだ。
自分を消した理由は――おそらく、こうした推測が可能だからだろう。
手引きをしたという事実を特定される訳にはいかないからこそ、ついでとばかりに葬ったのだ。
手引きをしたという事実を特定される訳にはいかないからこそ、ついでとばかりに葬ったのだ。
――これができる人物は、そしてそれを可能とする手段は。
……頭が、ぼんやりと霞がかってくる。
伝えねばならない。
伝えねば。
伝えねば――、
そして、出来れば。
自分の愛する者が、幸福な人生を再度送れるよう――取り計らってもらいたい。
それだけが心に残る最後の、
自分の愛する者が、幸福な人生を再度送れるよう――取り計らってもらいたい。
それだけが心に残る最後の、
*****
さて、こんなところかな。
後は君たちのお察しの通りだ。
私の暇つぶしに付き合ってくれてありがとう。
後は君たちのお察しの通りだ。
私の暇つぶしに付き合ってくれてありがとう。
全ての種は放送の前に全て撒かれていたという事さ。
破綻は必然だった。
こういう形でなくとも、いずれは……ね。
破綻は必然だった。
こういう形でなくとも、いずれは……ね。
ほら、そろそろ現在も動き出す頃合だ。
知りたいのだろう? 果たして、彼らは今どうなっているのかをね。
行ってきたまえ、そして見届けるといい。
知りたいのだろう? 果たして、彼らは今どうなっているのかをね。
行ってきたまえ、そして見届けるといい。
ああ、また私の暇つぶしに付き合いたいと思ったなら、いつでも来てほしいな。
歓迎するよ。
歓迎するよ。
*****
時系列順で読む
投下順で読む
| 170:消灯ですよ | 秋瀬或 | 170:この病は死に至らず |
| 170:消灯ですよ | 安藤(兄) | 170:この病は死に至らず |
| 170:消灯ですよ | エドワード・エルリック | 170:この病は死に至らず |
| 170:消灯ですよ | カノン・ヒルベルト | 170:この病は死に至らず |
| 170:消灯ですよ | ゴルゴ13 | 170:この病は死に至らず |
| 170:消灯ですよ | 鳴海歩 | 170:この病は死に至らず |