消灯ですよ ◆JvezCBil8U
遥かな高みから耳に届く一つの名前。
『安藤潤也』
何か――、そう、何か本当に本当に大切なものが、ぽっきりと折れてしまったんだと、自覚した。
くずおれた脚は自重さえ支えきれず、昇っていた石段を踏み外す。
後はもう、ただ堕ちるだけだ。
何処までも、何処までも。
……何処までもただ、ひたすらに真っ直ぐに。
くずおれた脚は自重さえ支えきれず、昇っていた石段を踏み外す。
後はもう、ただ堕ちるだけだ。
何処までも、何処までも。
……何処までもただ、ひたすらに真っ直ぐに。
もう、戻れない。戻りたくもない。
否。戻らないのだ。己の意志でそう決めた。
否。戻らないのだ。己の意志でそう決めた。
「――アンドウ……!」
力強い声と伸ばされた手。鋼の手。
掴もうとして、けれど、その動きを止める。
掴もうとして、けれど、その動きを止める。
これでいい。
その手を取ってしまったら、たぶん自分はずっとこの少年に追い付けないと、そんな予感がした。
ぐらりと空と大地がひっくり返る。
三半規管が掻き回され、一瞬の浮遊感とともに酩酊と嘔吐感が挨拶回り。
三半規管が掻き回され、一瞬の浮遊感とともに酩酊と嘔吐感が挨拶回り。
背中から地べたにぶち当たる。
肺の裏側だ。
思う間さえなく、無理やりに息が絞り出された。
肺の裏側だ。
思う間さえなく、無理やりに息が絞り出された。
次いで石段の角と脳天がキッスする。
瘤が膨らみ、しかし内出血の勢いはそれだけに留まらない。
割れた。
溜まった血の塊が撒き散らされ、ぬちょりという感触が頭皮に広がる。
毛細管現象は、頭髪と頭髪の隙間にも等しく適用されるのだ。
瘤が膨らみ、しかし内出血の勢いはそれだけに留まらない。
割れた。
溜まった血の塊が撒き散らされ、ぬちょりという感触が頭皮に広がる。
毛細管現象は、頭髪と頭髪の隙間にも等しく適用されるのだ。
後はその繰り返し。
*****
「アンドウ、おい、アンドウ!」
暗闇の向こう側に、呼び掛ける。
完全に日は落ち、月明かりではもはや数メートル先も見通せない。
完全に日は落ち、月明かりではもはや数メートル先も見通せない。
「……だい、じょうぶだ」
帰る声は小さいものの、しっかりとしている。
しかしそれを差し引いても、思ったより下まで落ちたらしい。
ふう……、と、思わず吐いた溜息が存外大きくて、エドワード・エルリックは自嘲した。
存外自分は、この男に入れ込んでいるようだ。
――同じく弟を失った身の者として。
しかしそれを差し引いても、思ったより下まで落ちたらしい。
ふう……、と、思わず吐いた溜息が存外大きくて、エドワード・エルリックは自嘲した。
存外自分は、この男に入れ込んでいるようだ。
――同じく弟を失った身の者として。
「少し、待っててくれ。すぐ戻……ッ!」
気丈にも急ごうとする様子が伝わってくる。
だからこそエドは、言い聞かせるように告げるのだ。
だからこそエドは、言い聞かせるように告げるのだ。
「……無理すんな。間違いなく怪我したろお前。
それに、落ち着かないうちに急いできてまた足を踏み外されても困るしな」
それに、落ち着かないうちに急いできてまた足を踏み外されても困るしな」
からかい口調で伝えた言葉に、微苦笑がいらえとして帰るのが分かる。
……そう、弟の死を受け止めるのは、易い事ではないのだ。
誰よりも自分こそがそれをよく知っている。
……そう、弟の死を受け止めるのは、易い事ではないのだ。
誰よりも自分こそがそれをよく知っている。
鳥居の向こうに突如として現れた、謎の少年。
しばらく様子を伺った上で接触を決め、石段を昇り始めてすぐの事だった。
放送が始まり、安藤がまるで雪が融けるかのように力を失ったのは。
態勢が悪かったのかそのまま足を踏み外し、安藤は布団でも落としたかのようにボロボロになりながら下へと転がって行ったのだ。
しばらく様子を伺った上で接触を決め、石段を昇り始めてすぐの事だった。
放送が始まり、安藤がまるで雪が融けるかのように力を失ったのは。
態勢が悪かったのかそのまま足を踏み外し、安藤は布団でも落としたかのようにボロボロになりながら下へと転がって行ったのだ。
本当ならば、このまま少し一人にしてやりたいくらいではあるのだが、現状はそれを許してくれない。
「トウゴウ、あんたあいつの護衛なんだろ?
……下に行って助けてきてやってくんねーか」
……下に行って助けてきてやってくんねーか」
「俺は護衛ではない」
にべもなく言い返す同行者に呆気にとられるエドワード。
不審ささえ滲ませそちらの方を向くと、東郷はあらぬ方を向いたまま、安藤に一瞥すらくれる様子はない。
不審ささえ滲ませそちらの方を向くと、東郷はあらぬ方を向いたまま、安藤に一瞥すらくれる様子はない。
「……依頼された内容は、安藤の敵対者の戦闘手段の始末だ。
あの少年の身の安全を直接確保する義務はない」
あの少年の身の安全を直接確保する義務はない」
先ほども安藤自身がそんな事を言っていた。
どうしてそんな面倒な依頼を――と思ったが、おそらく東郷のこのスタンスが原因なのだろうと察しはつく。
どうしてそんな面倒な依頼を――と思ったが、おそらく東郷のこのスタンスが原因なのだろうと察しはつく。
「……ちっ。んなこと言ったって、あいつが今まさに襲われたらどうすんだよ。
それこそ契約不履行になるだろ」
それこそ契約不履行になるだろ」
苛立ちを隠さず睨みつけるも、馬耳に東風糠に釘。
「無論だ。だが……」
――そこでようやく気付く。
東郷は虚空を眺めているのではなく――、
東郷は虚空を眺めているのではなく――、
「少し騒がしくし過ぎたな。今は奴を優先する」
……しっかと“そこ”にいる何某かを見据え、警戒し続けていたのだと。
エドワードの目の前で、景色がぶれる。
空間そのものが歪んで中から異物が吐き出されるように、人影が中から躍り出た。
空間そのものが歪んで中から異物が吐き出されるように、人影が中から躍り出た。
「おや、気付かれていましたか。
僕としてはこのまま接触は避けるつもりではいたのですけど、流石ここまで生き延びてきた人だけはありますね」
僕としてはこのまま接触は避けるつもりではいたのですけど、流石ここまで生き延びてきた人だけはありますね」
それは少年だった。先ほど突然現れた、得体の知れない相手。
これから接触を試みようとしていたはずの彼は、つい数十秒前まで確かにいたはずの場所から消えてここに居る。
これから接触を試みようとしていたはずの彼は、つい数十秒前まで確かにいたはずの場所から消えてここに居る。
「いつの間に……」
流し目で無言のままに微笑む少年は、ちらりとエドワードの方を向いただけで東郷に視線を戻した。
「そのポケットの中のもので僕を殺害したら、おそらく鳴海歩さんも困られるかと思いますよ?
お初にお目にかかります、デューク東郷さん」
お初にお目にかかります、デューク東郷さん」
東郷がいつの間にかポケットに手を突っ込んでいる事に気付く。
おそらく、武器でも仕込んでいたのだろう。
だが、それを何気なく看過した事より何より、その言動こそにエドワードは形容しがたい怖気を覚える。
これが脅威でなくて何だというのだ。
おそらく、武器でも仕込んでいたのだろう。
だが、それを何気なく看過した事より何より、その言動こそにエドワードは形容しがたい怖気を覚える。
これが脅威でなくて何だというのだ。
「……何者だ」
東郷のぶれない態度が頼もしい。
……目の前の少年は、その東郷を名指しで呼んだ。それもフルネームで、だ。
東郷、だけならまだいい。先ほど自分が口にしたからだ。
……しかし。デューク、などとは、自分を含め誰一人口にしていない。
そして、鳴海歩との繋がりを如何にして看過したというのだろう。
自分たちの何もかもを見透かしているのではないか。
そう思わせる雰囲気が、目の前の涼しげな態度の少年から発されている。
……目の前の少年は、その東郷を名指しで呼んだ。それもフルネームで、だ。
東郷、だけならまだいい。先ほど自分が口にしたからだ。
……しかし。デューク、などとは、自分を含め誰一人口にしていない。
そして、鳴海歩との繋がりを如何にして看過したというのだろう。
自分たちの何もかもを見透かしているのではないか。
そう思わせる雰囲気が、目の前の涼しげな態度の少年から発されている。
沈黙はどれ程だったろう。
実際にはきっと、10秒もないだろう。
けれど、その数倍に体感時間は引き延ばされていた、とエドワードは思う。
実際にはきっと、10秒もないだろう。
けれど、その数倍に体感時間は引き延ばされていた、とエドワードは思う。
風が吹き、少年の髪を音もなく靡かせた。
「探偵――秋瀬或と申します。以後、お見知りおきを」
*****
――何の事もない。
種を明かしてみれば、単純な話だ。
しかし己の推理力とそれをやってのける胆力の証明としては十分だろう、と内心呟く。
種を明かしてみれば、単純な話だ。
しかし己の推理力とそれをやってのける胆力の証明としては十分だろう、と内心呟く。
秋瀬或が東郷の名と鳴海歩との繋がりを看過出来た理由は、とても単純だった。
鳴海歩のBLOG――螺旋楽譜。
そこに残された東郷の名とメールアドレス、そしてエドワード自身の呼んだ東郷の名。
それらから目の前にいる東郷と鳴海歩の繋がりを推測した。
鳴海歩のBLOG――螺旋楽譜。
そこに残された東郷の名とメールアドレス、そしてエドワード自身の呼んだ東郷の名。
それらから目の前にいる東郷と鳴海歩の繋がりを推測した。
鳴海歩の仲間にしてはたとえ偽名であろうと公開情報に自身の名を書き込むのは杜撰な気もしたが、
おそらくこういった状態を見越しての事でもあるのだろうと察しはつく。
ならばそれに乗ってやるのもやぶさかではない。
おそらくこういった状態を見越しての事でもあるのだろうと察しはつく。
ならばそれに乗ってやるのもやぶさかではない。
……だが。
ここから先は、自分の、自分の為の舞台だ。
ここから先は、自分の、自分の為の舞台だ。
そうだとも、もはや伏臥の時は終わりにせねばなるまい。
天野雪輝は、もういないのだから。
天野雪輝は、もういないのだから。
放送の前から覚悟はできていた。
無差別日記をコピーしたコピー日記が、役目を果たしていなかったのだから。
天野雪輝がもういない今、自分の指針が全てなくなってしまった事を理解する。
無差別日記をコピーしたコピー日記が、役目を果たしていなかったのだから。
天野雪輝がもういない今、自分の指針が全てなくなってしまった事を理解する。
……あるいはこの為だったのか。
この為に、鳴海清隆は自分を招き――、天野雪輝を見殺しにさせたのかもしれない。
何故なら、あの邂逅の中で自分は余裕というものを少なからず失っていたのだ。
仮に逐一無差別日記をコピー日記で監視出来ていたなら、メールなりで雪輝を死の縁から救い上げる事が出来たかもしれない。
この為に、鳴海清隆は自分を招き――、天野雪輝を見殺しにさせたのかもしれない。
何故なら、あの邂逅の中で自分は余裕というものを少なからず失っていたのだ。
仮に逐一無差別日記をコピー日記で監視出来ていたなら、メールなりで雪輝を死の縁から救い上げる事が出来たかもしれない。
だが、それは果たされなかった。
全ては後の祭りだ。
全ては後の祭りだ。
だから、これから如何に自分は動くべきか。
それが何より重要だ。
それが何より重要だ。
――自嘲する。
ああ、こんな時でも自分は探偵なのだと、それを自身に思い知らされた事に。
愛しい誰かを失ったというのに、それでも自分は真実を追い求め、状況を打破しようとしているのだ、と。
感情に身を委ねて自棄になっても何一つ世の歯車は動かないと、残酷なほどにそれを理解しているのだ。
悲しみも後悔も、後でいい。
何ができるのか、何をすべきか。それに注力する。
ああ、こんな時でも自分は探偵なのだと、それを自身に思い知らされた事に。
愛しい誰かを失ったというのに、それでも自分は真実を追い求め、状況を打破しようとしているのだ、と。
感情に身を委ねて自棄になっても何一つ世の歯車は動かないと、残酷なほどにそれを理解しているのだ。
悲しみも後悔も、後でいい。
何ができるのか、何をすべきか。それに注力する。
『僕にとっての勝利とは……何だ?』
先ほどこの島に帰還した時に呟いた言葉を、改めて考える。
元々自分は、“神”との直接交渉を念頭に置いて行動していた訳だが――、
元々自分は、“神”との直接交渉を念頭に置いて行動していた訳だが――、
最初の邂逅は、勝利とはとても言えなかった。
何処まで自分の言葉が刃として突き刺さったのかさえ、分からなかった。
何処まで自分の言葉が刃として突き刺さったのかさえ、分からなかった。
それも当然だ。
相手の勝利条件もこちらの勝利条件も、朧な霞の向こうにしか見えないのだから。
相手の勝利条件もこちらの勝利条件も、朧な霞の向こうにしか見えないのだから。
……ただ、先ほどの対峙で得られた確証が一つある。
“神”鳴海清隆は、初めからテーブルに着いていたのだ、という事だ。
如何にして交渉の場に招くか、などという下準備をする必要などない。
むしろ、そもそもから彼は、待っていたのだという印象さえ受ける。
こちらがその場所に至る資格を得るまでを。
“神”鳴海清隆は、初めからテーブルに着いていたのだ、という事だ。
如何にして交渉の場に招くか、などという下準備をする必要などない。
むしろ、そもそもから彼は、待っていたのだという印象さえ受ける。
こちらがその場所に至る資格を得るまでを。
まさしく掌で踊っていたのだと、重い敗北感に打ちのめされそうになる。
そして――、それを待つことしかできない“神”は、何を思って座しているのだろうと哀れにさえ思う。
そして――、それを待つことしかできない“神”は、何を思って座しているのだろうと哀れにさえ思う。
断言してもいいだろう。
この催事に集められた人間に、鳴海清隆の排除による勝利は存在しない。
一切合財、ありとあらゆる可能性の粋を集めても、だ。
鳴海清隆は言っていた。
この催事に集められた人間に、鳴海清隆の排除による勝利は存在しない。
一切合財、ありとあらゆる可能性の粋を集めても、だ。
鳴海清隆は言っていた。
『私がここで君の銃弾に斃れる可能性もあったのかもしれない。
私がこの先の未来を見ずに済む可能性もあったのかもしれない』
私がこの先の未来を見ずに済む可能性もあったのかもしれない』
アンラ・マンユはいつしか打ち倒されなくばならない。
それを望んでさえいるのだろうか。
だとすれば、“神”の排除さえ“人”の敗北だ。
それを望んでさえいるのだろうか。
だとすれば、“神”の排除さえ“人”の敗北だ。
神様同士が殴り合って、気持ちよくケリを付け合って、消える間際の誰かが胸をそらして勝利を誇る。
――そんな英雄譚、ご都合主義は、おそらく“神”にだって叶えられない。
この物語はきっとそんなにカッコいいものじゃあない。
誰から見ても不幸で、推測される未来すらも無残なものだ。
――そんな英雄譚、ご都合主義は、おそらく“神”にだって叶えられない。
この物語はきっとそんなにカッコいいものじゃあない。
誰から見ても不幸で、推測される未来すらも無残なものだ。
そんなセカイで、誰が、何をすれば勝利になるのだろう。
どんな条件を突き付ければ交渉を勝ち取れるのか。
……難しく考える必要はない。
基本の行動理念に立ち返ればそれでいいのだ。
基本の行動理念に立ち返ればそれでいいのだ。
この世界では死は大した意味をなさず、蘇生さえいとも容易く行われる。
ならば、やはりやるべき事は変わらない。
自分は天野雪輝の為に動く。
最終的に彼の幸福な生が勝ち取れればそれでいい、その為に情報を集め、探偵として行動するのだ。
ならば、やはりやるべき事は変わらない。
自分は天野雪輝の為に動く。
最終的に彼の幸福な生が勝ち取れればそれでいい、その為に情報を集め、探偵として行動するのだ。
それだけに、この誤算は少々厄介だ。
鳴海歩は自分を死んだと思い込んでいるはずだ。
だからこそその仲間と思しき東郷達をやり過ごすつもりでクリマ・タクトの蜃気楼を用いやり過ごそうとしたのだが。
鳴海歩は自分を死んだと思い込んでいるはずだ。
だからこそその仲間と思しき東郷達をやり過ごすつもりでクリマ・タクトの蜃気楼を用いやり過ごそうとしたのだが。
……まあ、こうなってしまったら仕方ないだろう。
可能な限り情報を収集し、またこちらからも拡散させる方向にシフトする。
可能な限り情報を収集し、またこちらからも拡散させる方向にシフトする。
「……さて。とりあえず――、」
口にしようとしたところで、事の歯車はまた一つカチリと音立て動く。
「ごめん、もう大丈――、」
視線の先には割れた額から赤い血流し、こちらを見上げる少年一人。
「アンドウ!」
金髪金目の少年が胸を撫で下ろすのを見て、事態を把握。
成程先ほど何やら騒がしいなと思ったが、大方この少年が石段から転がり落ちたのだろう。
宵の口とて辺りは真っ暗お先も真っ暗、道を踏み外すのも致し方なし。
成程先ほど何やら騒がしいなと思ったが、大方この少年が石段から転がり落ちたのだろう。
宵の口とて辺りは真っ暗お先も真っ暗、道を踏み外すのも致し方なし。
「……情報交換を、と思ったのですが、どうやらそちらの方を優先した方がよさそうですね。
この暗さでは治療にも手間取ります。
あちらの方に社務所がありましたし、そちらの灯りを使ってちゃんと傷を見た方が良いでしょうね。
消毒薬程度なら探せば見つかるかもしれませんし……」
この暗さでは治療にも手間取ります。
あちらの方に社務所がありましたし、そちらの灯りを使ってちゃんと傷を見た方が良いでしょうね。
消毒薬程度なら探せば見つかるかもしれませんし……」
踵を返して歩き始める。
が、
が、
「……どういう真似です?」
「ボディチェックをさせてもらう。
こちらに敵対する意図はないが、お前が罠を仕掛けている可能性も否定できない。
大人しく従わなければ、情報は拷問して吐かせる」
こちらに敵対する意図はないが、お前が罠を仕掛けている可能性も否定できない。
大人しく従わなければ、情報は拷問して吐かせる」
なるほど、そういう手合いかと理解。
そうと分かれば事は単純だ。必要以上にこちらの持つ道具の情報を与えれば、その対価の分だけ向こうは協力的になる。
そして、その通りになった。
そうと分かれば事は単純だ。必要以上にこちらの持つ道具の情報を与えれば、その対価の分だけ向こうは協力的になる。
そして、その通りになった。
――ここで彼らは待ち人をしていたらしいが、どうやら邂逅の気配は未だない。
待ち人はなんと、鳴海歩。
色々思う所はあったがひとまず置いておくことにした。
彼ら曰く、電話連絡を取ろうとしたものの返事は無しの礫らしい。
……おそらく、彼らがかけた電話番号は無差別日記のものだからだろう。
雪輝が死亡した今、あの我妻由乃が他人の電話を気にするとも思えない。
ならばと再度社務所に誘えば、向こうも容易く受諾する。
待ち人はなんと、鳴海歩。
色々思う所はあったがひとまず置いておくことにした。
彼ら曰く、電話連絡を取ろうとしたものの返事は無しの礫らしい。
……おそらく、彼らがかけた電話番号は無差別日記のものだからだろう。
雪輝が死亡した今、あの我妻由乃が他人の電話を気にするとも思えない。
ならばと再度社務所に誘えば、向こうも容易く受諾する。
歩き始めれば、少し間を置いてついてくる気配。
主導権はこれで握れた。
さて、これからどう動くか。
主導権はこれで握れた。
さて、これからどう動くか。
ぺろりと口の端を舌で舐め、探偵は己の道を行く。
*****
社務所の一室に入るなり、秋瀬或と名乗った少年が窓へと突き進んだ。
どこからともなく取り出したガムテームをつかって、引いたカーテンを端から端まで固定していく。
どういう意図か、なんと東郷までも無言でそれに追随している。
どこからともなく取り出したガムテームをつかって、引いたカーテンを端から端まで固定していく。
どういう意図か、なんと東郷までも無言でそれに追随している。
「……何やってるんだ?」
頭に疑問符を浮かべながらエドが尋ねたところ曰く、
「いえ、光が漏れないよう目張りをね。
ここは島の中央でしかも高台ですから、普通に灯りをつけたらとても目立ちます。
気休めではありますが、交戦の可能性はできる限り避けておきましょう。
この部屋だけなら大した手間もないですしね」
ここは島の中央でしかも高台ですから、普通に灯りをつけたらとても目立ちます。
気休めではありますが、交戦の可能性はできる限り避けておきましょう。
この部屋だけなら大した手間もないですしね」
「成程な」
頷いてどっかと座りこむ。
次いでおずおずと隣に安藤が腰を下ろしたところで、秋瀬或の作業は完了したようだ。
壁を伝って回り込みがてら電気を付け、外に出て行く。
少し辺りの様子を見てきます、そう言い残して。
光が漏れていないか確認をしに行ったのだろう。
その間に光源の下で、安藤の傷の具合を確認する。
次いでおずおずと隣に安藤が腰を下ろしたところで、秋瀬或の作業は完了したようだ。
壁を伝って回り込みがてら電気を付け、外に出て行く。
少し辺りの様子を見てきます、そう言い残して。
光が漏れていないか確認をしに行ったのだろう。
その間に光源の下で、安藤の傷の具合を確認する。
「いや、平気だよ。出血の割に傷そのものは大したことないと思う」
本人の言の通りではあったが、念のためだ。
持ち合わせのものや社務所の道具で軽く手当てをし、一息つく。
持ち合わせのものや社務所の道具で軽く手当てをし、一息つく。
「ん……?」
座りなおしたとたんに、懐で蠢く物一つ。
携帯電話の振動――即ち、メールの着信だ。
携帯電話の振動――即ち、メールの着信だ。
眉をひそめて取り出し、確認してみれば。
「……キンブリー」
言葉の端が震えているのを押し隠す。
『Sub:掲示板の書き込みを見ていただけたでしょうか?
掲示板に書き込んだ通り、私は何人か死んだはずの参加者がこの会場へと戻っているのを目撃しました。
その事と合わせて、是非貴方とこの催事について意見を交換してみたい。
このメールを読んだら、C.公明からの招待状に従い、競技場へと来ていただけないでしょうか。
《神》の情報を手に入れ、共にこの戦いの行く末を考えようではありませんか。
その事と合わせて、是非貴方とこの催事について意見を交換してみたい。
このメールを読んだら、C.公明からの招待状に従い、競技場へと来ていただけないでしょうか。
《神》の情報を手に入れ、共にこの戦いの行く末を考えようではありませんか。
P.S.ウィンリィさんも誘っておきました。
すっぽかされたとしても、彼女は私が保護いたしますのでご安心を。
ただ――万全を期されるのであれば、やはり貴方自身が彼女を守ってあげたほうがよろしいかと。』
すっぽかされたとしても、彼女は私が保護いたしますのでご安心を。
ただ――万全を期されるのであれば、やはり貴方自身が彼女を守ってあげたほうがよろしいかと。』
「どういう事だよ……」
意図せず口にした言葉が案外大きくて、はっとして辺りを見回す。
……大丈夫だ。あの怪しい秋瀬或とやらはまだ帰還していない。
……大丈夫だ。あの怪しい秋瀬或とやらはまだ帰還していない。
「ど、どうしたんだ?」
ビクビクと怯えたように見える目線で安藤が仰け反る。
そこまで怖い顔をしているのか、と自問し、そうかもしれないと内心で肯定する。
一瞬どう応対すべきか悩んだが、これで十分だろうと無言で携帯電話の画面を安藤へと向けた。
そこまで怖い顔をしているのか、と自問し、そうかもしれないと内心で肯定する。
一瞬どう応対すべきか悩んだが、これで十分だろうと無言で携帯電話の画面を安藤へと向けた。
「これは……」
安藤はギラギラと目を開け、ねぶる様に文面を確認している。
それを余所に、一人エドワードは拳震わせる。
このメールアドレスへの連絡は分かる。
セキグチイマリへの連絡用とはいえ掲示板に既に書き込んで示しているのだから、それを利用されたのは不思議ではない。
そして、こんなことをわざわざするのは間違いなくキンブリー本人だとも、確信できる。
それを余所に、一人エドワードは拳震わせる。
このメールアドレスへの連絡は分かる。
セキグチイマリへの連絡用とはいえ掲示板に既に書き込んで示しているのだから、それを利用されたのは不思議ではない。
そして、こんなことをわざわざするのは間違いなくキンブリー本人だとも、確信できる。
……だが。
だが何故、ウィンリィの名をキンブリーは持ち出した?
もういないはずの彼女の名前を、どうして使う?
だが何故、ウィンリィの名をキンブリーは持ち出した?
もういないはずの彼女の名前を、どうして使う?
メールの意図が、見えない。
……いや、見ようとしていないのか。そう自覚できる。
彼女の事を騙るなら、絶対に自分を敵に回すと分かっているはず。
なのにわざわざこんなメッセージを伝えてくるのは、
……いや、見ようとしていないのか。そう自覚できる。
彼女の事を騙るなら、絶対に自分を敵に回すと分かっているはず。
なのにわざわざこんなメッセージを伝えてくるのは、
「ウィンリィさんが……本当に蘇ったんじゃないか?」
全くの平坦な声で、予め用意されていたセリフを吐きだすかのような調子で。
いつの間にかすぐ近くまで擦り寄っていた安藤が、人形めいた動きで目と目を合わせてきた。
いつの間にかすぐ近くまで擦り寄っていた安藤が、人形めいた動きで目と目を合わせてきた。
声が、出せない。威圧感ある静寂が、エドワードの体を縛る。
ほんの数瞬だったはずなのに、まるで数日間窓も扉もない部屋に閉じ込められていたような錯覚を得た。
ほんの数瞬だったはずなのに、まるで数日間窓も扉もない部屋に閉じ込められていたような錯覚を得た。
「アンドウ、お前……」
声を絞り出すと共に、唾を飲み込んだ。
……目の前の少年は兄弟を失ったばかりなのだ。
こんな文面を見たら、考える方向性など一つしかない。
先ほどの対応のまずさに舌打ちをする。
こんな文面一つに動揺させられて、まともな思考能力を喪失してしまった自身が情けない。
……目の前の少年は兄弟を失ったばかりなのだ。
こんな文面を見たら、考える方向性など一つしかない。
先ほどの対応のまずさに舌打ちをする。
こんな文面一つに動揺させられて、まともな思考能力を喪失してしまった自身が情けない。
……だが。
帰る返事は、エドワードの想定に収まらない。
安藤は微笑さえ浮かべ、こう告げた。
帰る返事は、エドワードの想定に収まらない。
安藤は微笑さえ浮かべ、こう告げた。
「はは、潤也を甦らせようなんて……、いや、ちょっとは考えたよ。
けど、エドは賛同しない。そうだろ?」
けど、エドは賛同しない。そうだろ?」
「そ、れは……」
絶句。二の句が継げない。
そう、それが自分だ。命を弄ぶという禁忌を……だれよりも知っているからこそ、許せない。
例え大切な人を甦らせることを、何より望んでいたとしても。
そう、それが自分だ。命を弄ぶという禁忌を……だれよりも知っているからこそ、許せない。
例え大切な人を甦らせることを、何より望んでいたとしても。
それを、ようく分かっているよとばかりに安藤は肯定した。
まるで、自分の心の奥底さえ何もかも掬われているかのようだ。
まるで、自分の心の奥底さえ何もかも掬われているかのようだ。
「そうだろ?」
念を押される。
強く。強く。
硬質の白面を被っている様に、その表情の奥に潜む感情が見えない。
強く。強く。
硬質の白面を被っている様に、その表情の奥に潜む感情が見えない。
「そうだろ?」
3度、繰り返した。今度は笑みを、完全な無表情に変えて。
未知というシンプルな恐ろしさが、ここにある。
未知というシンプルな恐ろしさが、ここにある。
本当にこれが、あの安藤なのだろうか?
目の前に居る男は、エドワードの自己欺瞞さえ許さない。
目の前に居る男は、エドワードの自己欺瞞さえ許さない。
「けど、さ。蘇ってしまったものはしょうがない……、それもまた、確かだよな」
ああ、そうだ。考えないようにしている事さえほじくり返される。
もしキンブリーの言が本当だとしたら。
あの鉄と油のにおいのする少女は、禁忌さえ踏み越えてここにいるかもしれないのだ。
もしキンブリーの言が本当だとしたら。
あの鉄と油のにおいのする少女は、禁忌さえ踏み越えてここにいるかもしれないのだ。
だから、とその次を考えようとして、
「だから……」
安藤の言葉が、それを遮る。
だから、何なのか。
一拍置いて、安藤に花開くように苦笑が戻った。
だから、何なのか。
一拍置いて、安藤に花開くように苦笑が戻った。
「だからさ、もし本当にウィンリィさんが蘇ってしまったのなら、早く助けてやらないと。
俺はさ、エド達“も”無事にここから脱出して欲しいって、本気でそう思ってるから」
俺はさ、エド達“も”無事にここから脱出して欲しいって、本気でそう思ってるから」
――そこに、嘘偽りは何一つ感じられない。
心配と、慈しみと、羨望とがない交ぜになったやさしい言葉。
本気で彼が、そう思っている事が伝わってきて。
だからエドワードは――、
心配と、慈しみと、羨望とがない交ぜになったやさしい言葉。
本気で彼が、そう思っている事が伝わってきて。
だからエドワードは――、
「……お前、今、何を」
この殺し合いの場に招かれて以来最大の戦慄を、抜き身の刃のようにその身に差し込まれた。
この男を――なにか、根本から見誤っていたのではないか?
一瞬言い淀んだその先に、本当は、何を言おうとしたのか?
この男を――なにか、根本から見誤っていたのではないか?
一瞬言い淀んだその先に、本当は、何を言おうとしたのか?
考えても答えは出ない。出してはいけないのかもしれない。
「……そろそろ、いいでしょうか?」
戸口から掛けられた声に、安堵の溜息を吐くのを自覚した。
キンブリーの事も、安藤の事も、今は二の次だ。
とりあえずは目の前の事を処理しなければ。
キンブリーの事も、安藤の事も、今は二の次だ。
とりあえずは目の前の事を処理しなければ。
「ああ。んじゃ、始めようぜ。……あんたは何を知りたいんだ?」
睨みつけるは、檜の柱に背を預けた秋瀬或。
シニカルな笑みを浮かべた探偵は、両手を挙げて迎え撃つ。
優位は己にあるのだと誇示せんばかりに。
シニカルな笑みを浮かべた探偵は、両手を挙げて迎え撃つ。
優位は己にあるのだと誇示せんばかりに。
「その前に、1つこちらについての情報をお教えしましょう」
「……?」
いつの間にか二人の中間地点に座していた東郷含め、全員が秋瀬或に注視。
それを心地よくさえ感じている表情で、鷹揚に“探偵”は告げた。
それを心地よくさえ感じている表情で、鷹揚に“探偵”は告げた。
「――僕は、この殺し合いの主催者“神”に接触しました」
「……っ!?」
場の空気が凍る中で、支配者は存分に余裕を持って語らうのだ。
「錬金術、について。
――知っていることを、全て教えて頂きましょうか。
代わりに、“神”に立ち向かうための知る限りの全てを伝えましょう」
――知っていることを、全て教えて頂きましょうか。
代わりに、“神”に立ち向かうための知る限りの全てを伝えましょう」
「……目的はなんだ?」
苦虫を噛み潰したかのようなエドワードに、秋瀬或は禁忌を大胆綽々に詠う。
「全ては雪輝君の、蘇生のために」
*****
秋瀬或は、命を弄ぶ気でいる。
その意味を知る自分には、到底許しがたいことだ。
……しかし。今はそれ以上に、打倒せねばならぬものがいる。
その意味を知る自分には、到底許しがたいことだ。
……しかし。今はそれ以上に、打倒せねばならぬものがいる。
「鳴海、清隆……か」
……全ての元凶。そうでなくとも、今この状況を作り上げた人物の名を、エドワードは噛みしめるように反芻する。
「鳴海の予想が最悪の方向で当たった……って事か」
隣の安藤が一人ごちた誰かの名前。
その意味の裏側にあるものを思い浮かべるも、エドは首を振る。
残り少ない人員の中、不用意に人を疑えば集団は瓦解するだけだ。
あまりにもあからさま過ぎるこの“配置”はむしろ疑ってくれと言わんばかりで、踊らされるわけにはいかないと心に誓う。
その意味の裏側にあるものを思い浮かべるも、エドは首を振る。
残り少ない人員の中、不用意に人を疑えば集団は瓦解するだけだ。
あまりにもあからさま過ぎるこの“配置”はむしろ疑ってくれと言わんばかりで、踊らされるわけにはいかないと心に誓う。
……が。
「それとも……、鳴海自身も、黒幕の一味?」
――面識のある安藤自身こそが、そんな爆弾を静かにぼそりと呟いた。
安藤は気付いているのだろうか。
場に身を置くものが皆、その言葉の一言一句を聞き届けていたことに。
安藤は気付いているのだろうか。
場に身を置くものが皆、その言葉の一言一句を聞き届けていたことに。
「思えば、あいつはいつもそうだった。
自分を全く頼りにしてるようには見えないのに変に堂々としてて……。
そうだ、絶対に奪えない、安全この上ない支えがいつもあいつをそんな態度にさせてたように見える。
もしかして何か後ろ盾でもあったからじゃ……。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ」
自分を全く頼りにしてるようには見えないのに変に堂々としてて……。
そうだ、絶対に奪えない、安全この上ない支えがいつもあいつをそんな態度にさせてたように見える。
もしかして何か後ろ盾でもあったからじゃ……。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ」
ボソリ。ボソボソ。
ボソボソボソボソ、ボソボソボソリ。
ブツリ。ブツブツ。
ブツブツブツブツ、ブツブツブツリ。
ボソボソボソボソ、ボソボソボソリ。
ブツリ。ブツブツ。
ブツブツブツブツ、ブツブツブツリ。
割れた額を押さえつつ、目血走らせて淡々と。
別に、不自然な思考でもないし、それに思い至って動揺するのも理解できる事だ。
ことに、弟の死を告げられてから情緒が不安定気味な安藤のこと。
こうなってしまったとしても、おかしいことではない。そのはずだ。
ことに、弟の死を告げられてから情緒が不安定気味な安藤のこと。
こうなってしまったとしても、おかしいことではない。そのはずだ。
……けれど。
どうしてかエドワードは、いや、秋瀬或でさえ。
目の前の弱弱しい少年から発される威圧感に動く事が出来なかった。
どうしてかエドワードは、いや、秋瀬或でさえ。
目の前の弱弱しい少年から発される威圧感に動く事が出来なかった。
結局。
「それが“神”鳴海清隆だというのがお前の推測か?」
事態を動かすには、最も実戦経験豊富たる東郷に頼らざるを得なかった。
「い、いや……。そう断定した訳じゃないし、したくもないよ。
ただ、鳴海が仲間だって思考停止してたら、本当に大切な何かを取りこぼして、救えなくなるんじゃないかって。
あいつ自身もそんな事を言ってたしな」
ただ、鳴海が仲間だって思考停止してたら、本当に大切な何かを取りこぼして、救えなくなるんじゃないかって。
あいつ自身もそんな事を言ってたしな」
まるで、何かに取り憑かれていたかのようだ。安藤の表情が柔らかいものに崩れる。
いつの間にか止めていた息を気付かれぬようにゆっくりと吐き出すと、どちらからともなくエドと或は互いを見据え、頷き合う。
いつの間にか止めていた息を気付かれぬようにゆっくりと吐き出すと、どちらからともなくエドと或は互いを見据え、頷き合う。
「興味深い話ですが、ひとまず置いておきましょう。
少なくとも彼を今疑っても得るものはありません。
それより、僕はこちらについて詰めたいですね」
少なくとも彼を今疑っても得るものはありません。
それより、僕はこちらについて詰めたいですね」
くるくると秋瀬或が掌で弄ぶのは、彼自身の体験に基づく考察に加え、エドワードから聞き出した錬金術やこの島についての考察さえ記したメモ帳だ。
分かりやすく要点を押さえ、しかし過不足なくエドの言質をまとめたそれは、錬金術の解説書として優れているだけでなく、この島や催事について調べるものなら誰でも欲しがるレベルのものだろう。
分かりやすく要点を押さえ、しかし過不足なくエドの言質をまとめたそれは、錬金術の解説書として優れているだけでなく、この島や催事について調べるものなら誰でも欲しがるレベルのものだろう。
秋瀬或は、巧みだった。
こちらが秘しておかねばと匿っていた情報さえ根こそぎ持っていく有様で、
こと交渉という点においてはエドワードの数段上の手練手管を持っている。
おかげで伏せておきたい情報まで話さざるを得なかったが、しかしこの少年の視点から自分の意見を
検証した時に何が得られるか、それを話し合ってみるのは興味深かった。
こちらが秘しておかねばと匿っていた情報さえ根こそぎ持っていく有様で、
こと交渉という点においてはエドワードの数段上の手練手管を持っている。
おかげで伏せておきたい情報まで話さざるを得なかったが、しかしこの少年の視点から自分の意見を
検証した時に何が得られるか、それを話し合ってみるのは興味深かった。
しかし、その直前。
「……ちょっと、いいか?」
だいぶ赤く染まってきたタオルを取り替えようとしながら、安藤がエドワードたちの方を向く。
額を切ったからか傷の割に出血量が多いのだろう。
一旦タオルを膝の上において、怪訝な目線を向けるエドワード達と目を合わせた。
額を切ったからか傷の割に出血量が多いのだろう。
一旦タオルを膝の上において、怪訝な目線を向けるエドワード達と目を合わせた。
「えっと……、今の話で思い出したんだけど。
すっかり忘れちまってたけど、鳴海が来ていないか確認したいんだ。
俺が転んじまったせいでこっちまで来たけど、元々は放送頃に集合って話だったんだよ。
……もし鳥居の辺りで待たせちゃってたら、なんて思ってさ」
すっかり忘れちまってたけど、鳴海が来ていないか確認したいんだ。
俺が転んじまったせいでこっちまで来たけど、元々は放送頃に集合って話だったんだよ。
……もし鳥居の辺りで待たせちゃってたら、なんて思ってさ」
「……そういや、そんな話だったか」
一人頷くエドワード。
なるほど、確かにこの神社に来たのはそのためだった。
安藤の滑落による手当や秋瀬或との邂逅と、目の前にある事の処理ばかりに気を取られていたが、
鳴海歩を一人放置しておくのはいささか危ない。
なるほど、確かにこの神社に来たのはそのためだった。
安藤の滑落による手当や秋瀬或との邂逅と、目の前にある事の処理ばかりに気を取られていたが、
鳴海歩を一人放置しておくのはいささか危ない。
「ことこの事態に至っては、彼は間違いなくキーパーソンですしね。
やれやれ、もう少し偽装を続けたくはあったんですが……仕方ありませんか。
それに、彼の頭脳は類稀なる武器なのも確かです」
やれやれ、もう少し偽装を続けたくはあったんですが……仕方ありませんか。
それに、彼の頭脳は類稀なる武器なのも確かです」
偽装? と少しだけかわいらしく首をかしげる安藤の疑問に答えず、秋瀬或は一人勝手に納得する。
「この中で彼と直接面識があるのは安藤さんと東郷さん、お二人でしたね。
僕が行ってもいいのですが、顔を知られているあなた方が迎えに行くのが余計なトラブルも生まないでしょう」
僕が行ってもいいのですが、顔を知られているあなた方が迎えに行くのが余計なトラブルも生まないでしょう」
そのまま或が視線だけを東郷、次いで安藤へと順繰りに回すと、頷き応える影一つ。
「……わかった、行ってくる」
ゆっくりと曲げていた膝を伸ばし、立ち上がろうとする安藤。
が、しかし。
が、しかし。
「お、おいアンドウ!」
かくりと、力なく膝が折れた。
ここで一息ついたからだろうか、どうやら力がだいぶ抜けてしまってるらしい。
面目なさそうな苦笑を浮かべるも立ち眩みを起こしているようで、すぐにうつむき頭を押さえたまま動かない。
駆け寄ったエドワードを手で制したままのポーズで固まる安藤に向け、無言で待っていた東郷が一人声かけた。
ここで一息ついたからだろうか、どうやら力がだいぶ抜けてしまってるらしい。
面目なさそうな苦笑を浮かべるも立ち眩みを起こしているようで、すぐにうつむき頭を押さえたまま動かない。
駆け寄ったエドワードを手で制したままのポーズで固まる安藤に向け、無言で待っていた東郷が一人声かけた。
「……俺が行こう。
放送以後のお前はまともに集中できていない。不慮の事態にはとても対応できないだろう。
秋瀬或も、エドワード・エルリックを逃すつもりがないようだ。
鳴海歩と今後の依頼についての話もしておきたいのでな」
放送以後のお前はまともに集中できていない。不慮の事態にはとても対応できないだろう。
秋瀬或も、エドワード・エルリックを逃すつもりがないようだ。
鳴海歩と今後の依頼についての話もしておきたいのでな」
返事を待たず木戸の向こうへと身を翻らせる東郷。
はっと顔を上げ、その背を追いかけようとして安藤はしかし、尻もちを衝く。
本当に申し訳なさそうな顔を形作り、曰く。
はっと顔を上げ、その背を追いかけようとして安藤はしかし、尻もちを衝く。
本当に申し訳なさそうな顔を形作り、曰く。
「……分かりました。お願いしま……ぶっ」
頷いた拍子にたらりと一筋、安藤の頭から血が流れて口元へと入り込んだ。
俯いていた間に溜まったのだろう、抑えた手の間から血糊でも仕込んでたのかと思うほどに多くの量の血が顔全体を濡らしていく。
鉄臭い味に思わずむせて、
俯いていた間に溜まったのだろう、抑えた手の間から血糊でも仕込んでたのかと思うほどに多くの量の血が顔全体を濡らしていく。
鉄臭い味に思わずむせて、
「えっほ、げほっ! ……ぺっ、ぺっ!」
タオルを持った手を口元に当てる。
咳き込みながらも口の中の血を吐きだすそのさまはどことなく滑稽で愛嬌があって。
咳き込みながらも口の中の血を吐きだすそのさまはどことなく滑稽で愛嬌があって。
「まったく……なにやってんだ」
はは、と小さな笑いが部屋に満ちる。
……と。
引き戸の前で手を伸ばした状態で、東郷が一言何かつぶやいた。
……と。
引き戸の前で手を伸ばした状態で、東郷が一言何かつぶやいた。
「…………き」
「……ん?」
何か、大切なことだろうか。
いぶかしむ表情でエドワードが様子を伺えば。
聞いたこともない声量で、東郷が思いきり叫びを挙げた。
いぶかしむ表情でエドワードが様子を伺えば。
聞いたこともない声量で、東郷が思いきり叫びを挙げた。
「巨乳大好き!」
途端。
咲いた。
「……は?」
何だ。
何が咲いたというのだ。
主語がないし、脈絡もない。ないない尽くしの破綻した文章である。
だがしかし、それがこの場にある唯一にして純然たる真実だ。
何が咲いたというのだ。
主語がないし、脈絡もない。ないない尽くしの破綻した文章である。
だがしかし、それがこの場にある唯一にして純然たる真実だ。
エドの天地がひっくり返った。
頭蓋に爽快に痛快に衝撃が走る。
床に思いっきり打ちつけたのだと気付いたのは、秋瀬或が自分の上に圧し掛かっていると理解した後だった。
先ほどまでの余裕の笑みは、とうにその顔から消え失せている。
頭蓋に爽快に痛快に衝撃が走る。
床に思いっきり打ちつけたのだと気付いたのは、秋瀬或が自分の上に圧し掛かっていると理解した後だった。
先ほどまでの余裕の笑みは、とうにその顔から消え失せている。
そしてまた、咲いた。
真っ赤な花びらが舞っている。
真っ赤な花びらが舞っている。
今度は笑みどころか顔半分が消え失せた。
下顎が吹っ飛んだ。
自分の上からもんどりうって転がって、体が一息に軽くなった。
下顎が吹っ飛んだ。
自分の上からもんどりうって転がって、体が一息に軽くなった。
ようやく音が耳に届く。
理解はさらにその後で。
理解はさらにその後で。
――目の前で東郷が死んだ。
秋瀬或も虫の息。
秋瀬或も虫の息。
銃声が響いている。
それが東郷の脳天と或の顎をフッ飛ばしたのだと頭に入ってきたのは、
訳の分からない東郷の叫びから僅かに10秒後の事だった。
それが東郷の脳天と或の顎をフッ飛ばしたのだと頭に入ってきたのは、
訳の分からない東郷の叫びから僅かに10秒後の事だった。
そして、その10秒で十分だった。
何もかも。
……何もかも。
*****
外へとエドワード達が駆けて行く。
それでいい。
銃撃が止んだとはいえ、あの正確無比な“壁越し”の奇襲が次に来れば、逃げる手段はない。
このままでは攻撃のタイミングも全く読めず、襲撃者を特定することも不可能なのだから。
それでいい。
銃撃が止んだとはいえ、あの正確無比な“壁越し”の奇襲が次に来れば、逃げる手段はない。
このままでは攻撃のタイミングも全く読めず、襲撃者を特定することも不可能なのだから。
自分とした事が、と思う。
集団のリスクマネジメントを気にするあまり、己自身への対処が遅れるとは。
集団のリスクマネジメントを気にするあまり、己自身への対処が遅れるとは。
見届けたと同時、意識が混濁するのを秋瀬或は自覚する。
顎が吹っ飛んで数秒後、胴体部がごっそり抉られた。まるでチーズみたいに穴ぼこだらけ。
自分の一部だったタンパク質が血煙となって、鉄の匂いが室内に充満する。
不思議と、痛みは感じない。
ただ力が入らず――地面とお友達になっているだけ。
顎が吹っ飛んで数秒後、胴体部がごっそり抉られた。まるでチーズみたいに穴ぼこだらけ。
自分の一部だったタンパク質が血煙となって、鉄の匂いが室内に充満する。
不思議と、痛みは感じない。
ただ力が入らず――地面とお友達になっているだけ。
『何故なら秋瀬君、君は数奇な運命の元に生まれた因果律の申し子だからだ。
君だけが不確定因子を持っていたからだ。
だがやはりそうはならなかったらしい。
運命の歯車は全てを轢き潰す。機会はいつだって一度きり。
箱の中の猫は観測された』
君だけが不確定因子を持っていたからだ。
だがやはりそうはならなかったらしい。
運命の歯車は全てを轢き潰す。機会はいつだって一度きり。
箱の中の猫は観測された』
機会はいつだって一度きり。
ああ、そうかと秋瀬或は自覚する。
ああ、そうかと秋瀬或は自覚する。
『僕にとっての勝利とは……何だ?』
そんな事はもう、考えるだけ無駄だったのだ。
自分の役割はあの時既に終わっていたのだから。
自分の役割はあの時既に終わっていたのだから。
最終部は近く、己の退場を以ってまた一つ幕が上がる。
もはやカーテンコールまで、この場で演ずる理由はない。
もはやカーテンコールまで、この場で演ずる理由はない。
でも、けれど。
……まだ生きているのだ。
まだできる事があるのだ。
まだ成せることがあるはずなのだ。
まだできる事があるのだ。
まだ成せることがあるはずなのだ。
現況を分析し、事態を考察せよ。
後に繋がるものを残せ。
それが探偵の義務であるのだから。
後に繋がるものを残せ。
それが探偵の義務であるのだから。
幸い、被弾個所は顎部と消化器系のみ。
失血死は免れ得ないが、即座の生命活動停止には繋がらない。
遅々として死が訪れるのを待つというのは恐怖ではあり、一般人ならすぐに死ねないという不幸にしかならないが――、
失血死は免れ得ないが、即座の生命活動停止には繋がらない。
遅々として死が訪れるのを待つというのは恐怖ではあり、一般人ならすぐに死ねないという不幸にしかならないが――、
「今の僕にとっては、何よりの幸運だ」
そう呟きたくても、その為の器官は既に存在していない。
苦笑しようとして、やはりそれも不可能な事に気がついた。
苦笑しようとして、やはりそれも不可能な事に気がついた。
――銃声がまた、耳に届いた気がした。
*****
秋瀬或に庇われた。
あそこで体当たりを食らっていなかったら、自分が間違いなく死んでいた。
あそこで体当たりを食らっていなかったら、自分が間違いなく死んでいた。
「ちくしょう、ふざけんな……。ふざけんなっ!」
「エド……」
すぐ後ろに安藤の駆ける足音が付いてきているのに安堵して、しかし目尻が熱くなる。
……相容れないと、そう思った。
自分の命すら駒として、掛け金として、まるでゲームの商品のように雪輝とやらを生き返らせようとする。
情報を得る為に手は組んでも、仲間とは到底思えない――そうだったはずだ。
自分の命すら駒として、掛け金として、まるでゲームの商品のように雪輝とやらを生き返らせようとする。
情報を得る為に手は組んでも、仲間とは到底思えない――そうだったはずだ。
感情論だ。分かってる。
向こうは庇ったつもりなどおそらくはないだろう。
あの、まったく隙というもののなかった東郷の突然の死。
それに呆けて動けなかった自分。
そのままでは的になるだけだったのを、とっさに地面に引き倒して被弾面積を低下させた。
次に自分がそれをしようとして不幸にも命中した――向こうからしてみればそんな辺りだろう。
向こうは庇ったつもりなどおそらくはないだろう。
あの、まったく隙というもののなかった東郷の突然の死。
それに呆けて動けなかった自分。
そのままでは的になるだけだったのを、とっさに地面に引き倒して被弾面積を低下させた。
次に自分がそれをしようとして不幸にも命中した――向こうからしてみればそんな辺りだろう。
偶々自分がそこにいただけだ。
だがそれでも――許せなかった。
自分が、そして達観したような秋瀬或の瞳が、まるでまた会いましょうと、来世を確信しているかのように思えて。
自分が、そして達観したような秋瀬或の瞳が、まるでまた会いましょうと、来世を確信しているかのように思えて。
グッと拳を握る。
煮えたぎるような感情が体の中に満ちていて、まともに考える頭が今はない。
だからその悔しさをバネに変えて、今はただ走る。
走って、走って、走って。
煮えたぎるような感情が体の中に満ちていて、まともに考える頭が今はない。
だからその悔しさをバネに変えて、今はただ走る。
走って、走って、走って。
――山の中腹あたり、だろうか。
森の中にぽっかと浮かんだ、月辺りに照らされる空間。
水の流れる音だけが唯一響く――川辺だ。
そこまでたどり着いたその時に、膝ががくりと崩れた。
森の中にぽっかと浮かんだ、月辺りに照らされる空間。
水の流れる音だけが唯一響く――川辺だ。
そこまでたどり着いたその時に、膝ががくりと崩れた。
「……ちくしょう……」
倒れた拍子に、地面を殴る。
込み上げてくる何かを力に変えて、何度も、何度も。
込み上げてくる何かを力に変えて、何度も、何度も。
繰り返すエドの傍に、少し遅れて追い付いた安藤が静かに近づいた。
痛ましげな目を向けて、今にも泣きたそうな本気の表情で声を絞り出す。
痛ましげな目を向けて、今にも泣きたそうな本気の表情で声を絞り出す。
「エドの……せいじゃない。あれは、誰にも防げない。
運命だったんだ」
運命だったんだ」
苦しみに彩られながら、それでもエドを労わるのが伝わる優しい言葉。
だが、エドはそれを受け付けない。受け入れられない。
だが、エドはそれを受け付けない。受け入れられない。
「運命、だって?」
視線だけで猛獣すら殺せそうな瞳だった。
そんなものは認められない。認めてはいけない。
運命なんてものに責任を押し付けるのは唯の逃避だと、エドワード・エルリックは知っている。
びくりと安藤が震え、のけぞる。
一歩後ろに足を退き、しかし安藤は踏ん張った。
息を吸い、目と目を合わせ、エドに思い悩んでほしくないとそれだけを伝える意思で以って。
そんなものは認められない。認めてはいけない。
運命なんてものに責任を押し付けるのは唯の逃避だと、エドワード・エルリックは知っている。
びくりと安藤が震え、のけぞる。
一歩後ろに足を退き、しかし安藤は踏ん張った。
息を吸い、目と目を合わせ、エドに思い悩んでほしくないとそれだけを伝える意思で以って。
「…………。ああ、俺とおまえだけが助かるって、運命だ」
それを口にした瞬間だった、
安藤が、ゴブリと血を吐いた。
安藤が、ゴブリと血を吐いた。
「…………! アンドウ!」
――肝が冷えた。
またか、またなのか。
自分の手から零れていくものはどれ程多く、守れるものはどれ程少ないというのか。
またか、またなのか。
自分の手から零れていくものはどれ程多く、守れるものはどれ程少ないというのか。
「……大丈夫だ。あの銃には……一発も当たってないよ」
駆け寄るエドを手で制すると、袖で口元を拭いながら安藤が虚ろな笑みを浮かべる。
「ただ……、ちょっと、無理しただけだ」
元々体調不良を訴えていたのに加えて、弟を喪失した精神的ダメージと滑落による負傷。
加えて目の前での惨劇だ。
一般人も同然の安藤には、あまりにも過酷すぎたのだろう。
けれど安藤は、空っぽであっても笑みを浮かべる。
そんな状態にあってなお自分を気遣う彼の今の心境を推し量ることは、エドには不可能だった。
加えて目の前での惨劇だ。
一般人も同然の安藤には、あまりにも過酷すぎたのだろう。
けれど安藤は、空っぽであっても笑みを浮かべる。
そんな状態にあってなお自分を気遣う彼の今の心境を推し量ることは、エドには不可能だった。
歯を噛みしめ、言いたかったことをすべて飲み込む。
そのまま音を立てて地面に座り込むと、静寂だけが辺りを満たす。
そのまま音を立てて地面に座り込むと、静寂だけが辺りを満たす。
「お前だけでも……助かってよかった」
呟きですら、やたらに大きく。
……そこは静かで、寒かった。
……そこは静かで、寒かった。
ぽっかとあいた林冠の隙間からは、禍々しいほどに黄色い月が自己主張をしている。
月蝕は、近い。
月蝕は、近い。
「……ごめんな、どうやら診療所まで向かってる余裕は無さそうだ。
ここからなら、病院の方が近い。そこで簡単な治療でもできないか試してみよう」
ここからなら、病院の方が近い。そこで簡単な治療でもできないか試してみよう」
立てた予定はあまりにもあっさりと、全て瓦解した。
ただでさえ秋瀬或との邂逅で時間を費やしたのだ。
東郷が死んだ以上、旅館やデパートを調査するには残された人も時も余りにも心許ない。
こうなれば、ぶっつけ本番でCの企みに介入するしかない。
ただでさえ秋瀬或との邂逅で時間を費やしたのだ。
東郷が死んだ以上、旅館やデパートを調査するには残された人も時も余りにも心許ない。
こうなれば、ぶっつけ本番でCの企みに介入するしかない。
その意見に、安藤も頷いてくれた。
ただ、少しだけエドの思惑とは違った形で、だったが。
ただ、少しだけエドの思惑とは違った形で、だったが。
「妙な儀式で……この島の全てがおかしなことに使われるかもしれないんだろ?
そいつを利用できないか?」
そいつを利用できないか?」
「どういう事だ?」
危うい笑いだった。
なにか、そう。
……大切なものを掛け違えてしまったものの見せる笑みだった。
たった今起こったばかりの事が、安藤を決定的に変えてしまったかのようで。
なにか、そう。
……大切なものを掛け違えてしまったものの見せる笑みだった。
たった今起こったばかりの事が、安藤を決定的に変えてしまったかのようで。
「……お前の錬金術で、その儀式を逆に……俺達の仲間の蘇生に使ったり、とか。
東郷さんや秋瀬、潤也……他にも俺たちに協力してくれる仲間を増やすにはそれが一番だ。
こんなくだらない理不尽な企みで命を落とした人や、大切な人を失った人……、その悔しさや、悲しみを、癒すことだってできる。
いや、誰かが誰かを殺したこと全てをなかったことにして、水に流すことだってできる!
賢者の石みたいな増幅器があれば、お前ならできるんじゃないか?」
東郷さんや秋瀬、潤也……他にも俺たちに協力してくれる仲間を増やすにはそれが一番だ。
こんなくだらない理不尽な企みで命を落とした人や、大切な人を失った人……、その悔しさや、悲しみを、癒すことだってできる。
いや、誰かが誰かを殺したこと全てをなかったことにして、水に流すことだってできる!
賢者の石みたいな増幅器があれば、お前ならできるんじゃないか?」
「お前……、自分が何を言ってるのか、分かってるのか?」
「……秋瀬だって、言ってたじゃないか。
大切な奴を生き返らせる……って。
その思いや願いは絶対に無駄にしちゃいけない。
誰かを大切に思う事がいけないだなんて、そんな事は絶対間違ってる。だろ?」
大切な奴を生き返らせる……って。
その思いや願いは絶対に無駄にしちゃいけない。
誰かを大切に思う事がいけないだなんて、そんな事は絶対間違ってる。だろ?」
笑っている様にも無表情にも見えるその顔は、月明かりに照らされても口元しか見えない。
どんな目でこんな狂ったことを語っているのか、エドワードは想像したくもなかった。
どんな目でこんな狂ったことを語っているのか、エドワードは想像したくもなかった。
だから。
「なあ、そんな簡単に生き返らすとか、殺すとか……、そんな風に気易くいっていいことじゃねえんだよ。
正気に戻れよ、自分がどれだけおかしいこと言ってんのか……ちゃんと気付けよ。
これまでに俺たちが背負ってきたものを、全部、全部だ!」
正気に戻れよ、自分がどれだけおかしいこと言ってんのか……ちゃんと気付けよ。
これまでに俺たちが背負ってきたものを、全部、全部だ!」
有無を言わせず歩み寄り、そして。
「全部投げ捨てる様な事を……言ってんじゃ、ねぇーッ!」
全力で、安藤の横っ面をひっぱたく。
いい音がした。
いい音がした。
失ってなおその身に付いたままの、生身の左手で。
相手が病人だなんて、関係ない。
ただ、虚勢を張って強がって、それでももう二度と過たせないために。
相手が病人だなんて、関係ない。
ただ、虚勢を張って強がって、それでももう二度と過たせないために。
茫然と、茫洋と、茫々と。
頬を押さえて安藤がエドワードを見上げている。
頬を押さえて安藤がエドワードを見上げている。
……悔しかった。
この少年に、こんな思考をさせてしまうに至った自分の無力さが。
だからこそ、その怒りを全て元凶へ向かう憤怒と変える。
この少年に、こんな思考をさせてしまうに至った自分の無力さが。
だからこそ、その怒りを全て元凶へ向かう憤怒と変える。
「どいつもこいつも簡単に死にやがったり生き返りやがったり!
挙句の果てには、お前やアキセたちまで甦らすだの、馬鹿な事をほざきやがる!
こんなに簡単に人の魂を……弄びやがって!」
挙句の果てには、お前やアキセたちまで甦らすだの、馬鹿な事をほざきやがる!
こんなに簡単に人の魂を……弄びやがって!」
命が、軽い。
命とは……こんなものだったろうか。
命とは……こんなものだったろうか。
「いいか? 返事はいらない! 届かなくたっていい、刻みこんでやる!
この場所にいる全員にも、雲の上から俺達を眺めて楽しんる奴らにもだ!
命を……ッ、たった一つしかない命を! かけがえのない、受け継がれてきたものを! 人の尊厳を!
一体なんだと……思ってやがる……っ!」
この場所にいる全員にも、雲の上から俺達を眺めて楽しんる奴らにもだ!
命を……ッ、たった一つしかない命を! かけがえのない、受け継がれてきたものを! 人の尊厳を!
一体なんだと……思ってやがる……っ!」
とぅるるるるるるる。
そりゃあ、もちろん。
たぁん。
「え……?」
こういうものだと思っている。
「……あ、れ?」
世界が、傾く。
尻もちを吐いた。
腹に手を当てる。
ぬるりと、暖かい感触がした。
尻もちを吐いた。
腹に手を当てる。
ぬるりと、暖かい感触がした。
「エドォォォオオオオオォォォォっ!」
安藤の叫びが、やけに頭に響いた。
痛いほどに。
痛いほどに。
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| 158:アイオーン | 秋瀬或 | 170:ギャシュリークラムのちびっ子たち |
| 160:I am GOD'S CHILD(状態表) | 安藤(兄) | 170:ギャシュリークラムのちびっ子たち |
| 160:I am GOD'S CHILD(状態表) | エドワード・エルリック | 170:ギャシュリークラムのちびっ子たち |
| 152:雪が降る | カノン・ヒルベルト | 170:ギャシュリークラムのちびっ子たち |
| 160:I am GOD'S CHILD(状態表) | ゴルゴ13 | 170:ギャシュリークラムのちびっ子たち |
| 152:雪が降る | 鳴海歩 | 170:ギャシュリークラムのちびっ子たち |