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人生は大車輪

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人生は大車輪 ◆RLphhZZi3Y



ナイブズが耳をすませたところで、もう声も音も聞こえなかった。

「……これが最後の記録か」

ボイスレコーダー――正義日記――は、工場に入ってから奇妙な形でミッドバレイと再会するまでの出来事を辿っていた。

ザザザ――と耳障りなノイズで再生が始まり、やはりノイズで再生が終わった。

不要の品を隠れ蓑に、正義日記をONにしたままミッドバレイに押しつけていた。
日記とするぐらいだ。容量は半端なく大きい。
デイバッグの中で、ミッドバレイと子供がどういった行動を取っていたのかが全て記録されていた。

元々はミッドバレイを見張るだけに入れたのだが、騒乱がまるでブラックボックスのように克明に残されている。



「普通は死人に口無しと言うだろうが……ホーンフリーク」



今ナイブズは、かぎ梯子を降り下水道にいる。

カンテラで照し、目の前で首を折って死んでいるミッドバレイへ、ナイブズは語りかける。





全ての因果を知るには、リンが工場を飛び出した時間まで遡らなければならない。



#####



車の吹かしと破壊音が地上から唸って聞こえた。

地下室に散らばっている"彼女"を一人だけ引き上げ確認する。
鼓動は確かに感じられる。
しかし"彼女ら"は、ナイブズの知る同胞、プラントとは別物になってしまったように思えてならなかった。
しっかり形が残っているのだが、生産の能力は失われていた。
それぞれの意思すら、ない。人間でいうなら、脳死のような状態に陥っている。
意思が未知の生命エネルギーにより内部から壊されていた。
融合をしたら取り返しのつかない事態に発展すると、本能的に悟った。
皆既月食について考えたからこそ、手出しが出来ない。

子供がプラントの一部を持っていったのに手出ししなかった理由はこれが大きい。
融合は……無理だと判断した。
無言の助け声に、謝罪を述べる。

プラントドームに『01』と数字が振られている。
まだどこかにプラントドームが『02』『03』などと割り振られ存在する証だった。

同時に、生産ラインの動力源して同胞を結びつけた者と、同胞を内部レベルで書き替えてしまったエネルギーに、やり場のない怒りを抱く。
工場は生産を止め、エネルギーの主は自爆しているというのだから尚更だ。
報復も、エネルギーの解析も出来ない。
怒りの矛先は《神》へ向けられる。


だが失望だけしているのではない。

地下室を横切り、通路が通じている。
片側の扉は緩んでいる。
あの子供が開けてみようとしたか、何かしらでこじ開けようとした跡は残されていた。

エレザールの鎌を僅かに開いた隙間に入れ、力任せに破壊する。
鎌の柄はもげ、扉は歪んだ。
鎌を捨てた途端、爆破解体のように、建築物破壊が目的だとありありとわかる爆発が起きた。
地下室まで潰れはしなかったが、瓦礫の崩落音に階段を見ると、崩れたコンクリートで塞がれていた。
薄々予感はしていたが、やはり退路は断たれた。


「……ここしかないのか」




出力を最低限まで抑え、目では見えない刃を出現させる。
扉だけを一刀両断する。
この程度の出力であれば、貴重なエンジェルアームの限界値を削ることもないだろう。

この工場は巨大な墓標。
死んだのは人間だけではないと、プラントも被害者なのだと、この墓標に刻んだ。


「またここに来る。
 ……《神》の首を持ってな」


なじられたプラントを背に、そう誓う。

工場を抜けるついでに、この通路の先を確かめるのも悪い話ではない。
方角や通路の造りから考えると、研究所へ続いているのだろう。

進んだところでいくつかの部屋と、通路をまた塞ぐ扉が並んでいた。
一つドアを開けるとそこは部屋ではなく、外へつながる螺旋階段がそびえていた。



神社の付近だと思われる、コンクリート舗装された道の傍らに出口があった。
遥か遠くの月が森を照らす。
見上げれば木々は逆光で黒い影になり、見事なまでに切り絵そっくりの形となっていた。
灯台が一定の間隔を空けて、夜空をビームのように貫く。
いやに清爽な、胸をすり抜ける風が吹いている。
嵐の前の静けさ、その言葉がよく似合う。

ざわざわと騒ぐ森に異色な、地下から何かを打ち付ける音がした。

十数メートル先のマンホールが、よろよろと開いた。



#####



ようやく、ようやく逃れ解放されたのだと安堵した。

だがなぜだ。

なぜ。

ナイブズが真っ赤なマントをたなびかせてそこにいる。

工場にいるのではなかったのか。

偶然にしては出来すぎだ。

追ってきていたのか。

何もかも見抜いていたのか。



正しい選択など、最初から存在しなかった。
好機など、ミッドバレイの人生には、最初から存在しなかった。
反抗も、逃亡も、何一つ利をもたらさない。

微かな希望を叩き折るような絶望。
逃亡の決意は霧散した。
目の前の男と会うことは、確約された死と対峙することだった。

歯の根が合わず、指に汗が溜まる。

時間が今度こそ止まった気がした。

創痍の身でやっと掴んだ地上の光が、目に届かなかった。






ナイブズの訝しげな視線が、ミッドバレイからその後ろへ移される。

振り向くと、背負ったデイバッグの取っ手に、

右腕が、ぶら下がっていた。


息を飲んだ途端に、腕が凄まじい力で下に引っ張った。
デイバッグの上部を捕まれていたせいで、上体が仰け反る。
マンホールの縁で、後頭部を強打した。
ナイブズとの邂逅で緩んでいた手がかぎ梯子から離れる。
その無理な体勢で、頭がねじ曲がったまま落ちる。
マンホールの壁にまた首が当たり、



     ゴキリ。










音界の覇者が最期に聞いたものは、離れて先に落ちていった腕が、
流されていった死体を追うように下水道へ飛び込んでいった音だった。



#####



工場を爆破させたキンブリーは、ゾッドの帰りを待っていた。
旋回するように戻ってきたゾッドは、デイバッグを一つ抱えていた。

「楽しめましたか?」
「あれでは物足りんな」

びちょびちょに濡れたデイバッグをキンブリーに放って寄越した。

下水道から流れてきた死体から荷物を回収することが元々の目的だった。
趙公明とメールのやり取りから、『賢者の石の材料のような物が手に入る未来』は、ゾッドが工場を襲来すれば、やってくるとのことだった。
ゾッドは荷物を持って帰ってきてくれると、そう予知されているらしい。

ゾッドは戦闘を楽しめる。
キンブリーは『材料のような物』が手に入る。

ゾッドに回収を依頼する代わりに、また武器を作ると約束を交わす。
これで利害は一致した。



デイバッグには点火装置や燃料、意味のわからないヒーローのメモが入っていた。中身は濡れていない。

そして――


「……何ですか、これは」


さしものキンブリーも驚く。
これは生きているのか、死んでいるのか、人間なのか、天使なのか、合成獣なのか――



【ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク@トライガン・マキシマム 死亡】
【リン・ヤオ@鋼の錬金術師 死亡】

【E-6/工場脇/1日目/夜中】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身に火傷や弾創などのダメージ(小、回復中)
[服装]:裸
[装備]:
[道具]:キンブリーの錬成した剣
[思考]
基本:例え『何か』の掌の上だとしても、強者との戦いを楽しむ。
1:出会った者全てに戦いを挑み、強者ならばその者との戦いを楽しむ。
2:金色の獣(とら)と決着をつける。
3:趙公明の頼みを聞く気はないでもない。武道会に興味。
[備考]
※未知の異能に対し、警戒と期待をしています。
※趙公明に感嘆。
※ゾッドの剣は神器『快刀乱麻』の形をしています。

ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:白いスーツ
[装備]:交換日記“愛”(現所有者名:キンブリー)@未来日記
[道具]:支給品一式×3(名簿は2つ)、ヒロの首輪、キャンディ爆弾の袋@金剛番長(1/3程消費)、ティーセット、小説数冊、
    錬金術関連の本、学術書多数、悪魔の実百科、宝貝辞典、未来日記カタログ、職能力図鑑、その他辞典多数、改造AED
    浴衣、刺身包丁×2、安藤(兄)の日記、食糧3人分程度、固形燃料×8、
    チャッカマン(燃料1/3)、降魔杵@封神演義、プラントの一部
[思考]
基本:勝ち残る。
0:何ですか、これは。
1:趙公明に協力。
2:パソコンと携帯電話から“ネット”を利用して火種を撒く。
3:首輪を調べたい。
4:安藤やゆのや潮が火種として働いてくれる事に期待。
5:神の陣営の動きに注意
6:エドワード・エルリックに接触する。
7:神の陣営への不信感(不快感?)条件次第では反逆も考慮する。
8:未来日記の信頼性に疑問。
9:白兵戦対策を練る。
10:西沢さんに嫉妬??
[備考]
※剛力番長に伝えた蘇生の情報はすべてデマカセです。
※剛力番長に伝えた人がバケモノに変えられる情報もデマカセです。
※制限により錬金術の性能が落ちています。
※趙公明から電話の内容を聞いてはいますが、どの程度まで知らされたのかは不明です。
※ゴルゴ13を警戒しています。
※赤くなる名簿は復帰した者を隠匿するためだと考えました。

【E-5/下水道/1日目/夜中】

ミリオンズ・ナイブズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:融合、黒髪化進行、手に火傷、【首輪なし】
[服装]:真紅のコート@トライガン・マキシマム
[装備]:青雲剣@封神演義
[道具]:支給品一式×14、不明支給品×3(一つは武器ではない、もう一つは治癒効果はない)、
    パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー0/2)@トライガン・マキシマム、
    手製の遁甲盤、筆と絵の具一式多数、スケッチブック多数、薬や包帯多数、調理室の食塩、四不象(石化)@封神演義、
    正義日記@未来日記(ミッドバレイとリンの逃亡を記録)、携帯電話(研究所にて調達)、秋葉流のモンタージュ入りファックス、
    折れた金糸雀@金剛番長、ヴァッシュのサングラス@トライガン・マキシマム、
    リヴィオの帽子@トライガン・マキシマム、ガッツの甲冑@ベルセルク、
    ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(3/6、予備弾23)@トライガン・マキシマム、ダーツ×1@未来日記、
    ニューナンブM60(5/5)@現実、.38スペシャル弾@現実×20
          ノートパソコン@現実、特製スタンガン@スパイラル ~推理の絆~、木刀正宗@ハヤテのごとく!、
          イングラムM10(13/32)@現実、トルコ葉のトレンド@ゴルゴ13(3/5本)、首輪@銀魂(鎖のみ)、
          旅館のパンフレット、サンジの上着、各種医療品、安楽死用の毒薬(注射器)、
          カセットテープ(前半に第一回放送、後半に演歌が収録)、或謹製の人相書き、アルフォンスの残骸×3、工具数種)
          ミッドバレイのサックス(100%)@トライガン・マキシマム、サックスのマガジン×2@トライガン・マキシマム、
          ベレッタM92F(0/15)@ゴルゴ13、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3、
          銀時の木刀@銀魂、ヒューズの投げナイフ(7/10)@鋼の錬金術師、ビニールプール@ひだまりスケッチ
          月臣学園女子制服(生乾き)、肺炎の薬、医学書、
          No.7ミッドバレイのコイン@トライガン・マキシマム 、No.10リヴィオのコイン@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:神を名乗る道化どもを嬲り殺す。その為に邪魔な者は排除。そうでない者は――?
0:レガートと彼を殺した相手に対し形容し難い思い。逃げたミッドバレイに複雑な思い。
1:趙公明を追う。
2:ヴァッシュの分まで生き抜く。
3:搾取されている同胞を解放する。
4:エンジェル・アームの使用を可能な限り抑えつつ、厄介な相手は殺す。
5:自分の名を騙った者、あるいはその偽情報を広めた者を粛正する。
6:交渉材料を手に入れたならば螺旋楽譜の管理人や錬金術師と接触。仮説を検証する。
7:結果的にプラントを踏みにじった《神》に激しい怒り。
[備考]
※原作の最終登場シーン直後の参戦です。
※会場内の何処かにいる、あるいは支給品扱いのプラントの存在を感じ取っています。
※ヴァッシュとの融合により、エンジェル・アームの使用回数が増えました。ラスト・ラン(最後の大生産)を除き約5回(残り約5回)が限界です。
 出力次第で回数は更に減少しますが、身体を再生させるアイテムや能力の効果、またはプラントとの融合で回数を増加させられる可能性があります。
※錬金術についての一定の知識を得ました。
※夜時点での探偵日記及び螺旋楽譜、みんなのしたら場に書かれた情報を得ました。
※“神”が並行世界移動か蘇生、あるいは両方の力を持っていると考えています。
 また、“神”が“全宇宙の記録(アカシックレコード)”を掌握しただけの存在ではないと仮定しています。
※“神”の目的が、“全宇宙の記録(アカシックレコード)”にも存在しない何かを生み出すことと推測しました。
 しかしそれ以外に何かがあるとも想定しています。
※天候操作の目的が、地下にある何かの囮ではないかと思考しました。
※自分の記憶や意識が恣意的に操作されている可能性に思い当たっています。
※ミッドバレイから情報を得ました。
※"皆既月食"が別の何かを引き出すための方便ではないかと考えました。
 また本物の"皆既月食"が起こる可能性には懐疑的です。



※龍脈の一部は道路の下を辿っています。
※工場が全壊しました。
※工場地下室の扉の片方は破壊されました。研究所に繋がっています。



#####



 ほんたうにそんなことはない
 かへつてここはなつののはらの
 ちいさな白い花の匂でいつぱいだから



#####



犬養は先ほどから青空を吹き抜ける風を思わせる詩を吟っている。
じわじわと迫りくる死に対面する当事者と、不安に包まれながらも見守る者を対比している。
陰鬱ながらどこか清々しい。そんな詩だった。
宮沢賢治が妹を看取ったときに作られたものである。

挑発に似た視先を、犬養はいつの間にやらそこにいた娘へと向けた。
女神を冠する娘には動揺の欠片もない。

「さっきから吟っているそれは、誰へのメッセージのつもりかしら、観測者様?
 それともただの檄文?」

息継ぎを柔らかく繰返し、紡ぎ出した詩を"アテネ"が遮る。
一切不快のなさそうな、アテネの質問を待ち構えていた顔で犬養が返答する。

「僕達のこれからをよく明示した詩だと思わないかい?」
「『これから』の未来に彼も含んでいるんだろうな」

無論だ、とたった今帰ってきた観測者の片割れにうなずいた。
犬養は整然と二人へ向き直り、続きを述べた。

「運命が死ねと言えばそれまでなんだよ。
 いつ逝く側になるか、見送る側になるか、それこそ神様のレシピ次第だ」
「そうは言いながらも、あなた方は運命の流れに対して、乗りながらも逆らっているように見えますわ」

ミダスの王は触れるもの全てを黄金に変えた。
その輝きを湛えたような、強欲なまでに明るい金髪が薄暗闇に溶け混じる。
娘は仮の姿を騙るがままの動作で貫く。身体と魂で、知恵の女神の名前を分け合った。
上品な笑みは絶やさず、不適につり上がる目は貪欲にきらめく。
白眉の男二人を交互に眺める。
矢のような視線をまた矢で弾き返す勢いで、犬養は瞬く。

「……ウォッチャーが瓦解した」

そこが街頭演説であれば一斉に辺りが静まりかえる、人に訴えかけるのに適した声だった。
客観的事実を言い上げただけで、言外に匂わせる真意はまるでなかった。
ただし他人事だとは思わせない迫力はあった。

「セイバーもだ。
 "彼"は囚われたよ。バックスの謀反でね。
 半ば人質に取られた形でプライド君はバックスに逆らえなくなっている」

バックスが明確に反意を示したあの時、犬養は始終を扉を挟んで聞いていた。
介入もせず、助けもせず、逃げもせず。

しん、と静まる。
それほど動きらしい動きがなかった部屋が、更に冷え冷えとする。
立ち込めるのは苛立ちや焦りではない。
不穏な気配が漂い高まり、決壊しつつある。
嵐の前にはいつだって高殿いっぱいに風が吹き込む。
それと同じだ。

「覗き見は観測者のステータスですの?
 残念なたしなみですこと」
「はは、その言葉は心に留めておくよ」

残念かどうかはともかく、アテネは観測者を皮肉った。
少しだけ張り詰めたものが和らぐ。
そのままの流れで、アテネは話の引導を手にする。

「観測者もまた謀反を起こし――彼に代わって神になるおつもりですの?」
「観測者は観測者だ。神にはならない」

剣呑な言葉が混ざる。
アイズの答えはあくまで冷ややかだった。
それ以上でもそれ以下でもないと、暗に言い切る。

しかし。
アテネに接触を試みたアイズと、形だけでも清隆を助けに向かうことができたのにそれをしなかった犬養。
観測者はノゾキ魔扱いできるほど、既に独自探索を始めている。
神の座を奪うためのものではないとはいえ、深刻な状況に対応する具体的な手筈を
備え整えているのは明らかだった。

「ですが、」

二人の観測者を見据え、否定を口にする。
ごねてすがりつくような、安っぽい接続詞ではない。
明確に意志を感じられる、強い力を含んでいた。



「神にはならない、けれども
 "観測者"が因果律に、意図的に干渉しているのならどうかしら」



語尾を上げず、疑問文にしていない。
断定と質問が混じった、意地の悪い推測を投げ掛けた。
かの探偵のように……そう付け足す。

「観測者の存在意義が、他と比べて曖昧ですわ。極めて異物的です。
 観測対象の投入だけが目的とは思えません」

ウォッチャー・ハンター・セイバーは目的がはっきりしている。
一言で表すなら、『祭事の進行補助』だ。
観測者が独立してまで成し遂げたい目的は『祭事の進行補助』ではない。
まずそれが異質だと言う。

独立しても、進行の妨げにならなかったとき――少なくとも、ゾッドを返したとき――までは、
ある程度ウォッチャーに行動を黙認されていた。
陣営に害を与える存在ではないと見なされていたのだ。
その証拠に、ウォッチャーのバックスも、同じウォッチャーから独立した直後の観測者には不干渉だった。
反乱を画策している途中だったことを差し引いても、反応が薄い。
そのまま何もしなければ、目の上のたんこぶとは思われなかった。

観測者はそれを裏切る。
ウィンリィは島にいる趙公明たちとは別の"ハンター"たちから取り上げ調達した。
当然他の仕事を妨害している。
邪魔になると判断されれば殺されるリスクが高まるというのに、
手に入れられるのはゾッドとウィンリィを観測目標に使った時の結果だけだ。

「答えないのであれば、こちらから言いましょう。
 あなた方が何時間も前に起こした行動が、少しずつ作用してきています」

アテネはきっぱりと断言した。
詮索、投入、考察、全ては過程に過ぎないのだと。
二人から返答はない。

時計は容赦なく針を回す。
例えそれが恐ろしくゆっくりだったとしても、動きは不可逆だった。
かの嫉妬深いヘラを型どった神でも、跳躍できたのは時系列の違う平行世界の範囲内だけだ。
後退もやり直しもない。
一寸の光陰軽んずべからず。
時間を無駄にしないように、観測者は動いているらしい。

「黙秘のままですか。
 それもいいでしょう、いつかわかることですから。
 いずれにせよ、予定されているであろう運命(シナリオ)に大した違いはないでしょう。
 それでもやはりあなた方の行動は未来を意図的に変えている節があります。
 どんな日記であっても改変されるかされないかの、取るに足らないささやかな未来ですが……
 これをどう説明するのです?」

観測者の領域へ足を踏み入れる。
女神の名に恥じない、堂々とした発言だった。
落ち着き払った犬養がそれを真摯に受け止める。


「未来は変わる。変えられるさ」


アテネは目を据える。

「運命はあらかじめ決まっている一本道だ。
 けれど未来は一本道だとは限らない。
 同じ結末に辿り着くにしても、未来は細分化している。
 運命≒未来だ。
 決定論なのに未来は可変性があって、予測は不可能。
 だから観測する必要がある。
 細かい差異は『観測者効果』が起こっているだけだ」

真意のとれない説明は、足元が冷えきるような不気味さがあった。

「結局誰もがシステムの一部なんだ」

それにしても、とアイズは思い返す。
数時間前、観測者は依頼を承っていた。
その時と同じことを犬養はアテネに話している。



#####



少し間を置き、アイズは尋ねた。

「お前はここに何しに来た。ただ『観測者』の行動を確かめるためだけに来た訳じゃないだろう。
 招集でもかかったのか」
「ああ、そうだった。
 次の放送について、"彼"から連絡があるらしいよ。


 運命だとか何とか……


 ところでさ、君らにとって、運命って何?
 ウォッチャーに確認されてるのを承知とはいえ、勝手な行動してまで見いだしたいものってなんだい?」
「はは、興味あるね。気になるのもわかるよ」


 よく似た二人は、同時に言った。


「全ては予定調和だ」
「世界は変えられる」


短い会話だった。「神」にも届きはしないだろう。
円の外影に隠れながらも、犬養は笑っていた。さっきの薄笑いとは全く違う。本当に面白げだった。


「それが君が言う、運命の螺旋が示す未来かい?」
「それがお前の言う、運命のリトマス紙なのか?」


 また同時に互いを皮肉り合う。


「……勝手に出ていった者同志ですら仲が悪いね。
 煮ても焼いても食えないよ。
 それにしたって、君に演奏を代わってほしいなんて。
 僕は彼の演奏が好きなのにさ」

神に盲信しつつも不満げに、連絡については愚痴を漏らした。

「彼にも考えがある、それだけだ」
「君が世界的なピアニストだからっていうのは聞いてる。
 でも、だからといって降りることはない。
 しかも君に『凡庸に弾け』って注文までして」
「何かが起きるのを予想、いや……期待しているんじゃないかな。
 彼は千里眼は持ってないにせよ、先見性は誰よりもある」
「先手を読むのではなく、チェックメイトの手から組み立てるチェスのように」

混じることのない白と黒の盤を、アイズは撫でる。
城も兵士も女王様も、決まった方向にしか動けない。
さて、手駒が必死に守っている王様は果たして盤上にいるのだろうか。
転がる駒をくるくると指さし、犬養はこの祭儀の"打ち手"を思う。

「彼のレシピには、多くの材料が並んでいて贅沢だ。
 沢山の駒(材料)がどう動くかも、レシピの一部になっているのだろうね」
「……未来が分かるのと、神様であることとは、似ているのに」

見た目幼いセイバーのもとへ帰ろうと、うっすらと興奮をしたアノンが、会話を締める。

「まさか」

アイズが否定する。
先ほど『運命は変えられない』と、犬養と見解の違いで対立していたのに、
どういった風の吹き回しだとアノンは訝る。

「未来は無確定だが……運命は、作られている。
 彼は解りきった運命を少しでも楽しくしようとして警察にいる節がある。
 運命を見ているのであって、未来を見通しているんじゃない」
「運命は一本道だ。
 けれど未来は一本道じゃない――」

アイズに続いて、犬養もさらさらと運命の持論を説く。
にっこり笑って、付け足した。

「――だから観測する必要がある。
 独立した理由は、それで納得してもらえないかな?」



#####



「疎まれている以上、当面バックスとは疎遠になるね」

しばらくの間はバックスと直接戦うことはない。
目下のところ、バックスは観測者以上にタイトなスケジュールだ。
配下を持っているとはいえ、数が限られている。
清隆に心酔しているプライドとは違い、観測者は人質やモノ質を取られていない。
にも関わらず、殺されもしなければマインド・スナッチャーを取りつけられてもいない。
観測者を放置しておく理由がバックスにもあるはずだ。

「まったく、内ゲバだらけですわね、この組織は。
 どこの学生運動ですか」
「内ゲバね。
 きっとこれからどんどん加速していくよ。
 皆にはそれぞれ別の目的があるだろうしね。
 一回しかない人生をひとつの命をかけて歩いているんだ。これと決めた自分だけの目的ぐらいないと面白くない。
 君だって……そうだろう、天王洲君?」

闘争を認めるような素振りで、取って付けたように犬養が笑う。

「ああ、天王洲君の推測は間違いではないけど、あの娘を運命の指針にしたのは事実だ。
 それもひとつの目的だよ?
 何も時間短縮だけにリスクをかける程僕らもバカじゃないさ」
「"アテネ"から継いだのは身体だけではないか……記憶の一部も移植されたな。
 英霊、いや"ミネルヴァ"」
「さぁ、どうかしら。
 この身体の主がどこまで知り得ているのかは定かではありませんわ」

人差し指を口に当て、秘密だと示す。
背景にゆらりと浮かぶのは、テロリストの頭蓋。女神の成れの果て。

犬養は詩の最後を唱えた。
大正生まれの夭逝詩人は最後にこう綴っている。



#####



 ただわたくしはそれをいま言へないのだ
 (わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)
 わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは
 わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ
 ああそんなに
 かなしく眼をそらしてはいけない


                 宮沢賢治『無声慟哭』



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171:ロシアンルーレット・マイライフ ゾッド :[[]]
171:ロシアンルーレット・マイライフ ゾルフ・J・キンブリー :[[]]
171:ロシアンルーレット・マイライフ ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク GAME OVER
171:ロシアンルーレット・マイライフ ミリオンズ・ナイブズ :[[]]
171:ロシアンルーレット・マイライフ リン・ヤオ GAME OVER

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