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殺伐フレンズ

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殺伐フレンズ ◆L3YPXWAaWU


深夜。
一日が終わり、そして始まる時間。

ゆっくりと蠢く巻き雲が満開の星空に蓋をする。
世界は今、闇に包まれ、それを照らす月の光だけが煌びやかだった。


「……ユッキー」


少女の声がひっそりと静まり返った全天候型のグラウンドに響き渡った。
屋根が開かれたドームには星天。 桃色のロングヘアーを靡かせた少女がゆっくりと辺りを見回す。

彼女の格好はこの空間では極めて不釣合いなモノだった。
上下共に真っ白い下着姿。
薄い訳ではなく、あくまで年相応の胸部に青白い月光が降り注ぐ。
緩やかに吹き込む夜風は冷たく、ずっとこのような場所にいては風邪を引いてしまうだろう。

だが、少女は自身のそんな破廉恥な格好に羞恥を感じる素振りは見せなかった。
自分が何か、得たいの知れない何かに「もう一度巻き込まれた」ことには気付いていた。

「ユッキー」

そして、少女は"少年"の姿を探す。
最初の空間で、少女は確かに彼の声を聞いていた。
自分が決して聞き間違えるはずのない相手だ。
あの時、自分とユッキーはすぐ側にいたのだ。ムルムルに対して堂々と声を掛ける彼はとてもカッコよかった。
それに、必死にこちらを見ないようにしていたけれど、ユッキーも自分に気付いていてくれたことが堪らなく嬉しかった。

ユッキーが、私を見てくれた。

ただ一つだけ、彼の声が「妙に元気だった」のはどうしてだったのだろう、と少女は思った。
十日間も一緒にいたせいか、ユッキーは大人しくなってしまったのだ。
いつの間にあんなに元気になったのだろう、そんなことを漠然と思った。
いや、それ以上に――

「――ッ!」

その時、少女――我妻由乃はこのグラウンド上にもう一人、見知らぬ相手が立っていることに気付いた。
月明かりの差し込む先に、赤い制服を身にまとった背の低い少女の姿を視認した。


 ▽


灰がかった黒髪をツインテールに結った少女、竹内理緒は混乱していた。

突如、己がこのような不可解な事態に巻き込まれたことが第一の疑問点だった。
『最後の一人の生き残りを決めるための殺し合いゲーム』というこの状況。
いや、まず何よりも己が選定された理由よりも、疑いを持つべきなのは有り得ない"力"について、だった。

あの雷の力は何だ?
ワープとは何だ?
このまるで漫画やアニメのような超能力は一体?

そして、この宿命に希望を示すことが出来る存在はただ一人――鳴海歩ただ一人。彼だけだったはずなのに。

しかし、そのような疑問点を解決するためには、今、乗り越えなければならない障害があった。

「……」
「……」

(これは……まずいことになりましたね)

静寂。
最初の場所から一歩も動くことが出来ないまま理緒は相対する少女を見つめた。
そして同様に彼女も理緒を見る。
見つめ合う、二人。
だが両者を結ぶ線は赤い糸でも運命の環でもなく、剣呑な視線の矢だった。
行き場所をなくした瞳が彷徨い、そして全く同じタイミングで一つの箇所にてピタリ、と止まる。
そして、またも全く同じタイミングで二人は自分達の置かれた状況を理解した。

(……悪趣味、ですね)

どちらも表情には一切の変化はなかった。
いや、二人が顔を合わせた瞬間に、相手へ声を掛けなかった時点で、両者が対峙へと緒至る構図は半ば決まっていたのかもしれない。
理緒としても擬態を用い、彼女へ接触するという選択肢は十分にあったはずなのだ。
だが、理緒は一瞬の直感でもってその必要ない、と判断した。いや、むしろソレは決定的な悪手であるという思考にさえ至ったのだ。

――つまり、それは完璧なまでに仕組まれた遭遇だった。

由乃と理緒、彼女達は会場に送られた瞬間、支給品を確認する暇もない鉢合わせをする羽目になった。髪を結い、服装を正し、小さくため息を付く時間さえ彼女達には与えられなかった。
だが――それは共に"普通"ではない理緒と由乃に関して言えば、些細な問題だったのかもしれない。
熟考と即断。どちらの選択を行ったとしても、彼女達が取るべき行動は一切変わらなかったはずなのだから。

そう、身につけた技術は、心に宿した妄執は、彼女達に多くを求めない。極めて最適解に等しい動作と思考を与えてくれる。
全天候型の大型スタジアム。空は星、雲は揺らぎ、星が煌めく。
この状況で、二人にとって何より問題であったのは、参加者に対して均等に支給されるはずのデイパックが――

眼前にて、『二つ』、寄り添うように並べてあったということ。

二人の距離は約十メートル。
そして丁度中間に当たる五メートル地点にデイパックが二つ、置かれている。
どちらも、全くの丸腰だった。
理緒は月臣学園の女子制服を身に纏っていたが、対する桃色の髪の少女はなんと完全な下着姿である。
着替えの最中に連れてこられたのか……それは分からないが、まともな様子には見えなかった。

「…………」
「…………」

押し黙る二人。動くに動けない状況、とはこのことだろう。
進行役であると名乗った申公豹という道化師のような男は言っていた言葉を思い出す。

『それではみなさんには会場へと移動していただきましょう。立っていた場所がスタート地点になります。
 合図と同時にそれぞれのスタート地点に飛ばします』

ならば、ここが理緒のスタート地点であり、同時に目の前の少女のスタート地点なのだろう。
つまり、この一対一の構図――
まるでデイパックを奪い合うように仕組まれたシチュエーションは、彼らによるお膳立てがされていたことになる。

(……何を、やらせたいのやら)

確定された運命だった。
それは、決して抗うことの出来ない遺伝子の宿命のように必然的な出会いだった。
彼らは何を望んでこのような状況をセッティングしたのだろうか。
互いの共通点を導き出すことは非常に難しかった。そう、理緒はまだ目の前の少女の名前すら知らない。
手元に武器はない。対する少女など下着姿である。まさか素手と素手でのキャットファイトをお望みなのか。……なんとも。


「ユッキーは、ここにはいないみたい」


唐突に、桃色の少女が口を開いた。


「いきなり、何を言ってるんですか?」


理緒は『その口調』を用いる事を選択した。
他人から自身を押し隠すための『無力な』言動が効果的な相手ではないと思ったからだ。
そして、彼女は少なくとも友好的な相手には到底見えない。

「それ」

スッと少女の指がデイパックを示した。

「いらないよね」

そして、裸足であることなど気にも留めない速度で少女が走り出す。

(しまった!)

それはある意味衝撃的な結果と言えるだろう。
当然、理緒は由乃が何の合図も出さずにデイパックの元へ疾走する可能性も考慮に入れていた。
心構えは十分に出来ていた、という訳だ。また、一瞬の短距離走が行われたとしても敗北するつもりはまるでなかったし、ある意味危険な人間に対して優勢を掴むことの出来る好機であるとさえ考えていた。

だから、まさか――由乃が理緒と同等、もしくはそれ以上の身体能力を有しているとは想像だにしていなかったのだ。

「……っ!」

ほぼ同じタイミングでスタートを切った二人だが、ほんのコンマ数秒ほど由乃の方が理緒より早い。
要はスポーツのビーチフラッグである。
この競技には最後にヘッドスライディングをして、フラッグを確保するという行程が存在する。
そして、今回のターゲットは重なるように置かれた二つのデイパック。
理緒の場所からは内容物がどの程度のモノか、推理することは難しいが、少なくとも手で持てないほど重いということはないだろう。
華奢な少女の手でも――とはいえ、ブレードチルドレンである理緒にとって、見た目云々の話は愚問なのだが――、一度に二つを掴んで身を翻すことは極めて容易。
こんなセットマッチの構図となった以上、相手のことを思いやって片方だけで満足する、などという展開はありえない。

(――)

理緒は必死に手を伸ばし、大地を駆ける。五メートルなどという距離はほんの数瞬で到達してしまう間合いだ。
もしこの状況に置かれたのが自分と同じブレードチルドレンである高町亮子であったならば、と理緒は思った。瞬発力という分野において亮子の持つ能力はブレードチルドレンの中でも有数。特に単純に『走る』ことに関して彼女の右に出る者はいない。
この場で必要な要素は"理性"ではなく、瞬発的な行動力でもって目的を遂行する"野生"だった。理緒の専門分野はあくまで爆発物であり、単純な力比べは分が悪かったのだ。

互いの距離が縮まる。どちらの少女も眼孔は鋭く、己の領分を譲るつもりはまるで見られなかった。
そして両者の手が今まさにデイパックに触れようとした――その時だった。

「なっ……」
「え?」

ほぼゼロ距離まで接近した由乃と理緒の瞳が驚愕に見開かれる。
つい先ほどまで空を覆い尽くしていた星空が消え、グラウンドの中央部分に何故か『影』が出来上がる。
足を止め、二人は空を見上げ唇から嗚咽を漏らした。


「ロリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ☆」


奇怪な叫び声と共に、空から――巨大なクマの石像が落下して来たのは。

爆音。
破砕。
砂埃。 

唖然とした表情を浮かべる二人を尻目に、クマの像は輪郭を揺るがし一瞬で消滅した。
代わりにその場に現れたのは、見るからに幼い可愛らしい少女。
真っ白い羽衣のようなモノを持った少女はキョロキョロと周囲を見渡し、グラウンドに二人の姿を確認すると、


「ロリッ☆ ロリッ☆ マジカル変身美少女喜媚ちゃん参上りっ☆」  


満面の笑顔を浮かべ、事も無げに妙なポーズと共に宣言した。


 ▽


「喜媚ちゃん……でいいんですよね」
「そうだよっ☆ 喜媚は喜媚なりっ☆」
「あの、まだあたし納得出来ない部分があるんですが……」

空から降って来た喋るクマの石像、もとい『喋るクマの石像に変身していた少女』がロリロリという擬音を飛ばしながら答える。
デイパックを前にした駆け引きは彼女の乱入によってお流れとなった。

「なんでも聞きっ☆」

青みが掛かった金髪に水色のケープを羽織ったファンシーな格好の少女、胡喜媚
どう見ても何の力もないただの小さな女の子にしか見えない彼女の登場は理緒と由乃に衝撃を与えた。
喜媚が降って来たのは競技場の観客席上空。
凄まじい轟音を残しつつ、喜媚は客席をいとも容易く破壊してしまった。

それは、同時に理緒達の『常識』をも破壊する決定的な行為だったと言えるだろう。
それが喜媚にとっては、他の参加者を探すために空を飛べる存在へ変身し、
人を見つけたので地面へ落ちる存在に変身した――という単純な考えで行われた行為だったとしても、だ。

(本当に、異能力のようなモノが……?)

三人は競技場の売店エリアに移動し、情報を交換していた。
考えながら、理緒は壁に凭れ掛かり、剣呑な表情で少女、我妻由乃にチラリと視線を送った。
彼女は何を考えているのだろうか、と頭の隅で小さく考える。
少なくとも分かるのは『ユッキー』という単語と彼女の名前だけ。
喜媚と交流を試みる理緒を由乃はジィッと少し離れた場所から眺めているだけだった。

一触即発、とならなかったのは幸いだったと言えるだろう。
荷物に関する問題も、どうやら片方のデイパックに由乃の私物が入っていたらしくソレで片が付いた。

つまり――携帯電話だ。

理緒の携帯電話は没収されてしまっていたが、どうやらその辺りの事情は個人差があるらしい。
しかし、携帯の画面を見た瞬間、彼女が目を大きく見開き挙動不審な態度を見せたのはどうしてだろうか。
何かがある、と考えるのが道理であるように思えるが確証には至らない。
下着姿だった彼女だが、喜媚の支給品であった「やまぶき高校」という学校の制服を今は着用している。

当然、容易く気を許せるような相手ではない。
もっとも、この会場内にブレードチルドレンの仲間以外に気の置けない相手がいるかと尋ねられれば答え難いのだが……。
警戒しておくに越した事はないだろう。

「ええと、まず喜媚ちゃんは本当に何にでも変身出来るんですか?」
「うん、出来るよっ☆」

喜媚は当たり前のように応える。


「ロリロリロリッタロリリリッ☆ 理緒ちゃんになーれっ☆」


ドロンッ、とまるでテレビ画面にノイズが走ったように喜媚の輪郭が揺れた。
瞬きをする暇もなかった。喜媚の持った羽衣がゆらりと風を舞った。そこにいたのは、

「あ、あたしだ……」
「……っ!」
「ロリッ☆ どうかなっ、お揃いっ☆」

濃い赤色の月臣学園の制服を纏った灰がかった黒髪をツインテールにした童顔少女――つまり竹内理緒と全く同じ背格好、同じ声の少女だった。

目の前に、鏡で見た自分と全く同じ姿形をした人間がいる感覚というのは驚愕の一言だった。
理緒は掌で口を覆い隠し、驚きを露にした。
離れた場所にいる由乃もピクリと眉を動かす。

「な、なんでそんなことが出来るんですか?」
「んーとねぇ、喜媚達は妖怪仙人だからかなっ☆ あと宝貝の力も大きいよっ☆」
「……妖怪ですか。それにパ、パオペイとはいったい……?」
「なりっ☆ これは変化の宝貝、如意羽衣の力ならっ☆」

再度、ドロン、という効果音と共に喜媚が元のロリータの格好に戻る。
顔だけでなく姿形まで理緒と全く同じだった。
妖怪仙人、宝貝といった聞き鳴れない単語に理緒は眩暈がして来た。

「……ついていけない」

その時、こちらの動向を伺っていた我妻由乃が忌々しげに言った。
足元に置いてあったデイパックを背負うと、喜媚と理緒に背を向ける。

「我妻さん!」
「なに」
「我妻さんは、どうするつもりなんですか」
「ユッキーを探す」
「喜媚も妲己姉さまとスープーちゃんを探しっ☆ 由乃ちゃんのお手伝いをしっ☆」
「……言っておくけど」

場に冷たい空気が流れる。
二度目の対峙、である。そして、禍々しい目付きで由乃は二人を睨みつける。


「お前達がユッキーを探す必要はないから」


由乃はもう用はないとばかりに理緒達へ言い放った。
由乃は右手の携帯電話をグッと握り締め、そして吐き出した。
その目付きは鋭く、親愛の色合いはまるで感じられなかった。
そこにあるのは明確な敵意だけ。
例えば、まるで違う場所で再会したとして、彼女が躊躇うことなく敵対するであろうことを予期させるような――


「それは残念です。友好的な関係を築けたら、と思っていたのですが」
「……よく言うわ。服の下。荷物を整理した時にお前がそこに何を隠したのか、私が知らないと思ったの」
「いいえ、まさか。こちらとしては、我妻さんがそれを知った上でもあたしと仲良しさんになってくれるかどうか。それが気になりまして」

理緒が懐から拳銃を取り出し、それを見せつけるようにしながら言った。
これが理緒の"警戒"だった。拳銃の扱いは訓練を積んだ理緒にとって慣れっこだ。
この距離ならば撃ち誤る事もないだろう。

「もちろん今は撃ちません。あたしにはそういう事をする意志はないので。信じられませんか?」
「……当たり前でしょ」
「あ、もしもあたしがユッキーさんを襲うんじゃないか……って考えてるんでしたら、心配のし過ぎですよ。
 あたしには他にしなければいけない事がありますので。それとも――」

理緒は小さく間を取ると、ニコッと口元を綻ばせた。
非常に可愛らしい天使のような笑顔だった。

「他の人間を捜しているあたしよりも、先にユッキーさんを見つける自信がなかったりしますかね?」

理緒がこう言った瞬間、由乃が激しく激高した。

「ふざけるなッ!! ユッキーと私は恋人同士なんだから! お前なんかが私より先にユッキーを見つけられるはずがないッ!」
「です♪ なのでここはお互い手打ち、ということで」

由乃が『しまった』という顔を覗かせた。
ここで理緒に襲いかかるということは、すなわち理緒より先にユッキーを見つける自信がないという表れだ。
そして、そもそも誰かを捜したいのならば無駄に時間を消費する理由もない。

「……狐め」
「そんな。こんな可愛らしい子に向けて狐だなんて。どちらかと言えば、あたしはネコさんです。にゃん♪」
「…………もういい」

由乃は煩わしげに髪を掻き上げた。
気だるげな動作には、明らかに理緒と会話する事に対する苛立ちが溢れていた。

「ユッキーは私が守るんだから」

そう言い残すと、由乃は脇目も振らずにその場所を立ち去った。


 ▽


「日記が、どうして」

小さく呟く。 
今までの遅れを取り戻すべく、由乃は真夜中の街路を駆けていた。
その右手には彼女が愛用する携帯電話――
そして、未来の予知を可能にする様々な能力を持った「未来日記」の一つ、『雪輝日記』だった。

この雪輝日記の能力は由乃の恋人である天野雪輝の未来を十分毎に表示することが出来る。
日記所有者の一人である雪輝が持つ『無差別日記』と合わさることで完全な未来予知を行える凄まじい道具だ。

しかし、今現在、彼女の未来日記はその効力を失っていた。
画面に表示されている文章は非常に簡素である。しかし、あまりに決定的な一文。

『※この雪輝日記が使えるようになるのは2ndが次に1stと再会してからじゃ! byムルムル』

日記さえあればユッキーの居場所は簡単に分かると思っていた。
完全に当てが外れた形だった。これでは自分の足でユッキーを探すしかない。
一秒の時間すら貴重だ。休んでいる暇はない。
今もユッキーは由乃が現れるのを待ち望んでいるはずなのだ。
足手まといは要らない。同行者なんて持っての他である。

(あの二人、殺せなかった)

先程までの自身の行動を由乃は悔い改めた。

競技場にいる人間が竹内理緒だけだったならば、接近戦に持ち込み、デイパックを両方とも自分の物にする選択は十分有効だったはずだ。
しかし第三の参加者、胡喜媚が現れたことで事態は一変した。
つまり、未知との遭遇である。
確かに由乃は最後の一人になるまで戦うサバイバルゲームに参加している日記所有者である。
それは明らかな非日常であり、由乃自身も数々の修羅場を潜って来ている。
が、それはあくまで"人"という枠組みの中で行われる戦いであり、超科学現象的な要素も『未来日記による予知』という一点だけ。
先程胡喜媚が見せたような顔や身体付き、声までをも完全に同一の存在へと変化させる能力はあまりにも異常だったのだ。

(この武器じゃダメだ)

由乃の手には喜媚が言っていた宝貝と呼ばれる道具が握られていた。
それが彼女の支給品である宝貝『降魔杵』だ。
両側に二つの球が付いた、要は巨大な鉄アレイのようなものだ。デザインセンスの欠片もない造詣をしている。

(ユッキーを守るために、もっと強い武器を見つけないと……)

接近戦は由乃の得意分野だ。
先程も二人が隙を見せたならば、この降魔杵で彼女達を撲殺するつもりだった。
しかし――食えない。
特に髪を二つに結っている方だ。竹内理緒、という名前だったか。

彼女の支給品は、銃だった。
そして、こちらが不用意な行動を取ったならばすぐにでも引き金を引く準備をしていたのだ。
友好的なように見せて、問題を感じ取ったならばすぐに発砲出来る準備は出来ていた。
デイパックの奪い合いがお流れになったのは大変な痛手だった。
あれを両方とも手に入れることが出来ていたら、銃と鈍器。二つの武器を手に入れることが出来ていたのだから。

(全部殺さなくちゃ。ユッキーを誑かす女、ユッキーを傷付ける奴……全員。
 ……だけど、ここには"人"じゃない奴もいる) 

闇雲に相手を攻撃していては駄目だ。
弱そうな奴を、出来れば一人で行動している奴を確実に潰して行く必要がある。
今回、競技場をすぐに後にせず少しの間、胡喜媚と竹内理緒に付き合ったのは、喜媚の持つ不可思議な力について情報が欲しかったからだ。
由乃に支給された降魔杵にも特別な力はあるようだが、持っているだけで疲労は増えるのに、その割には地味な能力しか備わっていないようである。

そもそも、この殺し合いは基本的な部分では未来日記所有者によるサバイバルゲームと構図自体は変わらない。
そのためユッキーを最後の一人にするために由乃が行動することは当然の結論だった。
もちろん、そのために彼女は殺人に対して全くの抵抗を覚えない。
複数の人間に対しては友好を装い紛れ込むのも友好な手段だろうか。
これは今回は相手が竹内理緒という食えない相手だったため、最初に出くわした時点で半ば敵対関係が完成していたため、取れなかった戦法だ。

が――そんな悠長な事をするよりも先に、まずは、ユッキーを探さなくてはならない。
ユッキーを守る事が出来るのは由乃だけだ。
第一にユッキーとの合流。
他の人間の相手をして時間を浪費する事さえ、由乃にとっては悪手に当たるようにも思える。


「ユッキー待ってて。すぐ私がユッキーの所に行くから。そうしたら、」


暗闇の中。
少女の殺意と妄執だけが爛々とした光を放っているようだった。
それは只管に純粋な愛なのかもしれない。
我妻由乃は以前、天野雪輝を「唯一の希望」であると称した。
彼女の中にある思いは『もっと自分を見て貰いたい。もっと仲良くなりたい』という気持ちだけ。
たとえ、ソレが血にまみれた屍の上に立った想いだとしても、だ。


「邪魔な敵を一緒に殺しに行こうね」 


輝く黄金の月が少女の狂気を際立たせる。 


【B-4/道路/一日目 深夜】

【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康
[服装]:やまぶき高校女子制服@ひだまりスケッチ
[装備]:雪輝日記@未来日記、降魔杵@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:天野雪輝をこの殺し合いの勝者にする。
1:ユッキーを探す。強力な武器の入手。
2:ユッキーの生存だけを考える。役に立たない人間と馴れ合うつもりはない。
3:邪魔な人間は機会を見て排除。『ユッキーを守れるのは自分だけ』という意識が根底にある。
4:『まだ』積極的に他人と殺し合うつもりはないが、当然殺人に抵抗はない。
[備考]
※原作6巻26話「増殖倶楽部」終了後より参戦。
※制限により、由乃の「雪輝日記」が使用可能になるのは彼女が次に天野雪輝と再会して以降。
 また能力自体に他の制限が掛かっている可能性も有り。

【雪輝日記@未来日記】
 日記所有者である2nd、我妻由乃が持つ未来日記。
 1stである天野雪輝の未来を十分毎に表示する。
 雪輝の持つ無差別日記と合わさることで完全な未来予知を可能にする。

【降魔杵@封神演義】
 両側に二つの球が付いた鈍器形宝貝。元の所有者は韋護。見た目がダサい。
 殴る以外の使い方として、先端を長刀に変化させ斬撃に用いることも可能。


 ▽ 


「…………ふぅ」

理緒は長いため息を吐き出した。
我妻由乃との戦闘を回避出来たのは大きい。
何とか口八丁で彼女を煙に巻いたが、彼女は拳銃があれば完璧に勝利を収めることが出来るほど柔な相手ではなかった。
単純な戦闘力ではブレードチルドレンの一人であるカノン・ヒルベルトに比肩するレベルかもしれない。
まだまだ理緒が自分から積極的な行動を取るには情報が足りなさ過ぎる。
夜は始まったばかりだ。慎重に事を運ばなければ。

「理緒ちゃん、どうしたのっ☆ 元気ないよっ☆」

傍らの喜媚が理緒の顔を覗き込んだ。
結局、二人はしばらくの間行動を共にする事にしたのである。

「あ、いいえ。何でもないです」
「ロリッ☆ だったら喜媚と一緒に妲己姉様を探しに行きッ☆」
「……姉様? 喜媚ちゃん、お姉さんもここにいるんですか?」

姉、という事はその彼女も特殊な力を持っているのだろうか。

「うんっ☆ 妲己姉様ならぜーーんぶ、何とか出来っ☆」
「……なるほど」

確かに喜媚が信用出来る相手なのかどうかは非常に疑わしい。
だが自らを妖怪であると自称し、宝貝と呼ばれる不可思議な道具を自由自在に扱う彼女は極めて異端の存在だ。

例えば、彼女が持っていた『如意羽衣』という宝貝を理緒も見せて貰ったが、手にするだけで身体中の力が抜けていくような危険な感覚を覚えるほどだった。
おそらく理緒がこれを用い、自由自在に他の物体へ変化することはおそらく難しいだろう。
技術を必要とする宝貝は道士や仙人ではない人間には扱いにくいと喜媚は言っていた。

そんな彼女が本気になれば、理緒を殺害することなど容易いようにも思える。
事実、あの時由乃と理緒は共にこの胡喜媚の動向にも細心の注意を払っていたのだ。

が、そうしないという事は、彼女に人殺しをする意志がない裏付けであるように思えた。
完全に気を許すことは出来ないが、一時の同行者としては問題ないように思える。
彼女が何を考えているかは分からないが、互いが利用出来る内は協力関係は成立する。
重要なのはその分岐点を見極める事だ。

そう、ブレードチルドレンは殺戮の使者と成り得る呪われた子供であるが、あくまで人間に過ぎない。
――人間が、人外の存在に打ち勝つことが出来るのか。

(あたしが、ここでやるべき事は……何なのだろう) 

神の作り出した絶対的な運命に囚われた存在、ブレードチルドレン。
たとえ、決して有り得ない可能性だとしても神の掌の中から抜け出す事は適わない。

それが――抗えぬ螺旋の創り出した宿命なのだから。


【B-2/競技場前/一日目 深夜】

【竹内理緒@スパイラル 〜推理の絆〜】
[状態]:健康
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:ベレッタM92F(15/15)@ゴルゴ13
[道具]:デイパック、基本支給品、ベレッタM92Fのマガジン(9mmパラベラム弾)x3
[思考]
基本方針:生存を第一に考え、仲間との合流を果たす。
1:第一放送までは生存優先。殺し合いを行う意志は無し。
  名簿の確認後、スタンスの決定を再度行う。
2:喜媚と行動を共にする。妲己という人を一緒に探す。
[備考]
※原作7巻36話「闇よ落ちるなかれ」、対カノン戦開始直後。

【胡喜媚@封神演義】
[状態]:健康
[服装]:原作終盤の水色のケープ
[装備]:如意羽衣@封神演義
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考]
基本方針:???
1:妲己姉様とスープーちゃんを探しに行きっ☆
2:皆と遊びっ☆
[備考]
※原作21巻、完全版17巻、184話「歴史の道標 十三-マジカル変身美少女胡喜媚七変化☆-」より参戦。

【如意羽衣@封神演義】
 ありとあらゆるものに変身出来るようになる宝貝(素粒子や風など、物や人物以外でも可。宝貝にも可能)

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GAME START 我妻由乃 038:電波は電波にのって
GAME START 胡喜媚 053:それは小さな小さな『棘』
GAME START 竹内理緒 053:それは小さな小さな『棘』

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