その口はあまたの灯 ◆9L.gxDzakI
白い棺桶があった。
灰色の町の真っ只中に、ぽつんと白い棺桶があった。
暗き漆黒の宵闇の中に、ぼんやりと浮かぶ白い棺桶があった。
通常棺桶というものは、この世に生きていない死体が入れられる器である。
であれば、生きながらにして棺桶に引きこもらざるを得なかった、レガート青年の心境は、一体いかなるものだったのだろうか。
レガート・ブルーサマーズ。
それが今ここで、棺桶のような容れ物に入っている男の名前である。
出身地、ノーマンズランド。仕える主はミリオンズ・ナイブズ。
彼が主人に出会う前の、その生い立ちを記した文献は少ない。
ただ確かなことは、理由や経緯はともかくとして、物心ついた時には、どこかの地方の有力者に飼われていたということ。
籠の中に閉じ込められ、下界を見下ろすだけの生活を余儀なくされ、ある時にはめちゃくちゃに犯された。
それを偶然救った男。
気まぐれについて来ることを許した男。
名も無き虜囚に名前を与えた男。
それがミリオンズ・ナイブズだった。
故にレガートという男にとって、ナイブズとは絶対の主であり、同時に生きる理由そのものであった。
人類抹殺を目論む魔神に、影のように付き従う魔人。
そして今、そのナイブズの腹心は、主もなくたった1人でそこにいる。
足元(?)に無造作に置き捨てられた、自分のデイパックを見下ろしながら。
「……武器は全て奪われたか」
ぽつり。
何でもないことのように、呟く。
棺桶の中へと封じられた、己の五体に身に着けた装備を確認。
右肩部三連構造切断アーム――なし。
単分子鎖ナノ鋼糸――なし。
二連銃剣内蔵型拳銃――なし。
人体強制操作用金属糸――僅か1本。
超高速鉄球型奴隷ゲルニカ――当然なし。
なるほど、あのムルムルとかいう連中が言ったとおり、武器の類は全て没収されているらしい。
もっとも、自分の武器があったとして、普段通りに戦えるかどうかは、定かではないのだが。
レガート・ブルーサマーズ。
彼の身に着けた技は、対人戦においては圧倒的すぎる。
微細な金属糸を対象の延髄へと差し込み、電気信号を送り込むことで、強制的に身体を操る――それがレガートの持つ技能。
何人が相手であろうとも、その拘束から逃れることはかなわない。
かの人間台風ヴァッシュ・ザ・スタンピードすら、完全に封じ込めることのできる魔技。
洗練された技術の精巧さは、四肢を砕かれた己の身体すら、生身と遜色なく操るほど。
加えてそこに、そのヴァッシュと互角の身体能力が備わっているというのだ。
ノーマンズランドの150年の歴史を紐解いても、人類史上最強と称しても過言ではないだろう。
だが、だからこそ、その力が普段通り使える保障はない。
主催者の言葉を真実とするなら、真っ先に制限されるべきは自分の力なのだから。
断言してもいい。
対人戦という一点において、無敵を誇るレガートを野放しにしていては、大半の参加者達など一方的に虐殺できてしまう。
どうにも連中からすれば、それでは面白くないらしい。
人の命を何だと思っているんだ。
あの真紅のコートの男の声が、今にも耳に響いてきそうだ。
その程度のことなど、レガートにとっては知ったことではないのだが。
実を言うとこの男、あの主催者連中にはさほど興味がない。
連中がどれだけ力を誇示しようと、そんなものは彼の胸を打つには至らない。
「……ナイブズ様のお傍へ戻らなければ」
それ以上の存在を、既にこの地に感じているから。
ここに飛ばされる前に自分達がいた、あの奇妙極まりない光景を思い出す。
姿など見ただけでは分からない。声など一言も発していない。
されど、気配で分かる。
かの者の放つ圧倒的存在感。何者であろうとも侵すことなどかなわない、絶対の力の威圧感。
間違いない。
ミリオンズ・ナイブズはそこにいた。
理屈も常識すらも突破し、その存在を確かに感じ取っていた。
それも、狂的なまでの信奉者たるレガートなればこそ。
であれば、彼のなすべき役目は1つ。
速やかにナイブズと合流し、邪魔者共を鏖殺すること。
殺せ。殺せ。皆殺しだ。
あのお方に楯突く不届き者共を、一切合切の容赦なく叩き潰せ。
それがレガート・ブルーサマーズが、自らに課した至上の使命。
そのためにも、まずはナイブズを捜さなければならない。それもできうる限り迅速にだ。
純白の棺桶が邪魔になる。
一本足で引きずるようにして動くこれを身につけたままでは、移動スピードがまるで足りない。
(出ることにしよう)
棺桶の外へ出ることにしよう。
この無骨な外郭を破り、今こそその身を再び外気に晒すことにしよう。
かつてこの鋼鉄の箱は、言わば骨折箇所を保護するギプスだった。
両手両足を砕き折られたその身体を、保護するための容器だった。
だが、今となっては最早不要。
何千何万もの研鑽の果て、今や己の身体さえ、傀儡とすることを可能とした。
であれば新たな五体を得たレガートが、この拘束にこだわる必要などない。
がちゃり。
扉の開く音。
白き器はその役目を終え。
死を呼ぶ蒼き風を今、再び野へと解き放つ。
その、瞬間だ。
「……?」
彼がそれを耳にしたのは。
灰色の町の真っ只中に、ぽつんと白い棺桶があった。
暗き漆黒の宵闇の中に、ぼんやりと浮かぶ白い棺桶があった。
通常棺桶というものは、この世に生きていない死体が入れられる器である。
であれば、生きながらにして棺桶に引きこもらざるを得なかった、レガート青年の心境は、一体いかなるものだったのだろうか。
レガート・ブルーサマーズ。
それが今ここで、棺桶のような容れ物に入っている男の名前である。
出身地、ノーマンズランド。仕える主はミリオンズ・ナイブズ。
彼が主人に出会う前の、その生い立ちを記した文献は少ない。
ただ確かなことは、理由や経緯はともかくとして、物心ついた時には、どこかの地方の有力者に飼われていたということ。
籠の中に閉じ込められ、下界を見下ろすだけの生活を余儀なくされ、ある時にはめちゃくちゃに犯された。
それを偶然救った男。
気まぐれについて来ることを許した男。
名も無き虜囚に名前を与えた男。
それがミリオンズ・ナイブズだった。
故にレガートという男にとって、ナイブズとは絶対の主であり、同時に生きる理由そのものであった。
人類抹殺を目論む魔神に、影のように付き従う魔人。
そして今、そのナイブズの腹心は、主もなくたった1人でそこにいる。
足元(?)に無造作に置き捨てられた、自分のデイパックを見下ろしながら。
「……武器は全て奪われたか」
ぽつり。
何でもないことのように、呟く。
棺桶の中へと封じられた、己の五体に身に着けた装備を確認。
右肩部三連構造切断アーム――なし。
単分子鎖ナノ鋼糸――なし。
二連銃剣内蔵型拳銃――なし。
人体強制操作用金属糸――僅か1本。
超高速鉄球型奴隷ゲルニカ――当然なし。
なるほど、あのムルムルとかいう連中が言ったとおり、武器の類は全て没収されているらしい。
もっとも、自分の武器があったとして、普段通りに戦えるかどうかは、定かではないのだが。
レガート・ブルーサマーズ。
彼の身に着けた技は、対人戦においては圧倒的すぎる。
微細な金属糸を対象の延髄へと差し込み、電気信号を送り込むことで、強制的に身体を操る――それがレガートの持つ技能。
何人が相手であろうとも、その拘束から逃れることはかなわない。
かの人間台風ヴァッシュ・ザ・スタンピードすら、完全に封じ込めることのできる魔技。
洗練された技術の精巧さは、四肢を砕かれた己の身体すら、生身と遜色なく操るほど。
加えてそこに、そのヴァッシュと互角の身体能力が備わっているというのだ。
ノーマンズランドの150年の歴史を紐解いても、人類史上最強と称しても過言ではないだろう。
だが、だからこそ、その力が普段通り使える保障はない。
主催者の言葉を真実とするなら、真っ先に制限されるべきは自分の力なのだから。
断言してもいい。
対人戦という一点において、無敵を誇るレガートを野放しにしていては、大半の参加者達など一方的に虐殺できてしまう。
どうにも連中からすれば、それでは面白くないらしい。
人の命を何だと思っているんだ。
あの真紅のコートの男の声が、今にも耳に響いてきそうだ。
その程度のことなど、レガートにとっては知ったことではないのだが。
実を言うとこの男、あの主催者連中にはさほど興味がない。
連中がどれだけ力を誇示しようと、そんなものは彼の胸を打つには至らない。
「……ナイブズ様のお傍へ戻らなければ」
それ以上の存在を、既にこの地に感じているから。
ここに飛ばされる前に自分達がいた、あの奇妙極まりない光景を思い出す。
姿など見ただけでは分からない。声など一言も発していない。
されど、気配で分かる。
かの者の放つ圧倒的存在感。何者であろうとも侵すことなどかなわない、絶対の力の威圧感。
間違いない。
ミリオンズ・ナイブズはそこにいた。
理屈も常識すらも突破し、その存在を確かに感じ取っていた。
それも、狂的なまでの信奉者たるレガートなればこそ。
であれば、彼のなすべき役目は1つ。
速やかにナイブズと合流し、邪魔者共を鏖殺すること。
殺せ。殺せ。皆殺しだ。
あのお方に楯突く不届き者共を、一切合切の容赦なく叩き潰せ。
それがレガート・ブルーサマーズが、自らに課した至上の使命。
そのためにも、まずはナイブズを捜さなければならない。それもできうる限り迅速にだ。
純白の棺桶が邪魔になる。
一本足で引きずるようにして動くこれを身につけたままでは、移動スピードがまるで足りない。
(出ることにしよう)
棺桶の外へ出ることにしよう。
この無骨な外郭を破り、今こそその身を再び外気に晒すことにしよう。
かつてこの鋼鉄の箱は、言わば骨折箇所を保護するギプスだった。
両手両足を砕き折られたその身体を、保護するための容器だった。
だが、今となっては最早不要。
何千何万もの研鑽の果て、今や己の身体さえ、傀儡とすることを可能とした。
であれば新たな五体を得たレガートが、この拘束にこだわる必要などない。
がちゃり。
扉の開く音。
白き器はその役目を終え。
死を呼ぶ蒼き風を今、再び野へと解き放つ。
その、瞬間だ。
「……?」
彼がそれを耳にしたのは。
◆
「やってくれるじゃないか……」
短い茶髪が夜風に舞う。
さながら男のそれのように、ボーイッシュなスタイルに纏められた髪。
それを風に揺らしながら、怒りも露わに呟くのは1人の少女。
名を、高町亮子という。
かつて世界に君臨した、呪われしミズシロ・ヤイバの子供達――ブレード・チルドレンの1人だ。
優良種たるヤイバの血族の繁栄のため。劣種たる現人類達を駆逐するため。
殺戮を求めるプログラムを、その遺伝子に組み込まれた忌むべき血統。それがブレード・チルドレンだ。
「お前らの思惑通りになんてさせてたまるか……!」
その高町亮子が、今静かに怒っている。
殺人者ブレード・チルドレンであるはずの彼女が、この理不尽な殺し合いへと、確かな憤りを感じている。
彼女ら80人の子供達の中でも、亮子は特殊な存在だった。
自らの宿命を知り、命を狙われ続けるブレード・チルドレンの中でも、彼女は一際正義感が強いのだ。
人殺しという行為。それを彼女は嫌っている。
他の個体が必要に迫られ、その手を血の色に染める中、頑なに殺人を拒んでいる。
殺るくらいなら殺られた方がまし。
かつて亮子自身が口にした言葉だ。
それは決して、救いも未来もない境遇のみを要因とした主張ではない。
人が人を殺すなんて間違っている。誰も殺さないし、殺させだってするものか。
亮子は本気でそう思い、その意志を貫き続けているのだ。
通常ブレード・チルドレンとは、3種類のパターンに分類される。
既にヤイバの血に目覚め、見境なく殺戮を求めるに至った者。
自らないし仲間の命を守るために、その手を汚す覚悟を決めた者。
呪われし宿命に怯えながら、がたがたと恐怖に震える者。
そのいずれにも未だ属さぬ特異な個体――それが高町亮子だった。
「見てろ……こんな殺し合い、絶対にあたしが止めてやる」
故に、彼女の選ぶ道は決まっている。
この馬鹿げた殺し合いを催した、あの主催者連中を叩き潰すこと。
そしてこれ以上の犠牲を出すことなく、皆でここから脱出することだ。
困難な道ではあるかもしれない。主催をも敵に回すということを考えると、圧倒的に不利な勝負。
そもそも現在地につく前に、どうやらここで戦闘があったらしいのだが、それにすらも間に合わなかった。
鞭と大砲のような轟音は聞いている。それでも音の主達を見失ってしまった。のっけからミスを犯しているというわけだ。
それでも、引き下がるわけにはいかないのだ。
己の信条を曲げ、殺戮の道を歩むわけにはいかないのだ。
それに不利な戦いというのなら、あの鳴海歩の方が何倍もきつい戦いに臨んでいる。
あのもやしっ子が挑んでいるのは人ですらなく、実体の見えない運命なのだ。
殴りかかるための形もなく、パズルのような解法もない。
そのくせその存在は絶大で、容赦なくブレード・チルドレンを縛りつけている。
ようやく前を向くことを決めたばかりの歩ですら、そんな途方もない相手と戦っているのだ。
であれば、彼に比べれば戦闘能力の高い自分が、高々人の2人くらい倒せずにどうする。
そんな情けない醜態を晒すのは真っ平御免だ。
(弟といえば……何だったんだ? あいつ……)
と、そこで。
ふと、1人の男の姿を思い出す。
挑戦的な笑みを主催者に向けていた、ミントグリーンの髪の少年だ。
今にして考えてもみれば、奴の容姿は写真で見たヤイバによく似ている。
外見年齢も自分とそう変わらない。ということは、彼もブレード・チルドレンの1人だろうか。
(でも、弟にしか殺せないブレード・チルドレンって何なんだ……?)
だが、それがどうにも引っ掛かる。
救いの神として生まれたはずの歩だけが、殺すことができるというブレード・チルドレン。
運命の盤面を見渡してみても、そんな駒はどこにも存在しない。
そもそも最強のブレード・チルドレン――カノン・ヒルベルトの試練を乗り越えた歩に、今さら人殺しが要求されるとも思えない。
(そしてその弟もカノンも、ここに呼ばれてる)
これは事実だ。
あの緑の髪の少年が命を落とした時、彼ら2人の声が上がっていた。確かヒズミと名を呼んでいたか。
亮子が殺し合いに乗らないというスタンスを取る以上、歩は確実に自分の仲間となってくれるだろう。
カノンの方も、歩と合流することができれば、共に戦ってくれるかもしれない。
もっとも、長く苦しい戦いを終え、今はほぼ隠居のような軟禁生活を送っているという彼に、再び戦いを要求するのは気が引けるのだが。
しかし、この2人に対しても気がかりはある。
彼らはヒズミの存在を知っていた。
恐らく歩を取り巻く運命において、それなりに重要な存在であろう彼を認知していたのだ。
であれば名前だけでなく、その性質も知っているということだろうか。
2人は何を知っていた。
何を自分達に隠していたのか。
「……こういう時こそ、香介がいてくれれば……」
ぽつり。
どこか寂しげな声音で漏らす。
思い返すのは、あの小生意気な幼馴染み――浅月香介の存在だ。
ひねくれ者で口だけは達者で、そのくせ「亮子だけは巻き込みたくない」と、生意気極まりないことを考えて、何度も姿を消した奴。
けれども共にいることで、この殺伐とした運命の中でも、不思議と心安らぐ時間を与えてくれた。
同じ父を持つ兄妹でありながら、不覚にも想いを寄せてしまい、先日告白まがいの発言に及んでしまった相手。
それでも彼女の想いを受け止めてくれた、亮子の精神的支柱とでも言うべき存在だ。
戦いにおいても、彼女らは2人で1つだった。
亮子が素手での格闘能力に秀でているならば、口先と細かな技術が浅月の武器だ。
彼がここにいてくれたならば、今の疑問にも答えを出してくれただろうか。
孤独に戦う決意をした自分を、傍で支えてくれただろうか。
(……駄目だな。何考えてんだ、あたしは)
ぱんぱん、と頬を叩く。
いるかどうかも分からない人間を当てにしてどうするんだ。
そもそもいないに越したことはない。こんな殺し合いに浅月が巻き込まれる必要はない。
自分や竹内理緒を守るために、ボロボロになるまで戦ったのだ。
もう浅月は十分に戦った。今さらまた命の危険に晒されるなんて、そんなことがあってたまるか。
亮子1人で何とかするしかない。
2年前のオルゴール連続殺人事件の時だって、ほとんど1人で戦っていたではないか。
そりゃあ確かにあの時は、ろくに結果も出せなかったかもしれない。
浅月を見返すことばかり考えていた当時は、彼のような成果を上げることはできなかった。
だが、自分は今やあの時の自分ではない。
2年のうちに培った経験は、確実に自分を強くしているはずだ。
何より今は戦う目的が違う。
あの時の浅月と同じように、誰かを守るために戦うのだ。
そうと決まれば話は早い。
デイパックの中から取り出した、支給品へと手を伸ばす。
これを使うには相応のリスクが伴うだろう。殺し合いに乗った連中に、居場所を特定されるかもしれない。
だが、この勝負から逃げるわけにはいかなかった。
それに幸いにも亮子には、もう1つとびきり強力な支給品が用意されている。
最初はただの十字架にしか見えなかった。
だが微かに漂う火薬の臭いから、それがロケット砲か何かだと気が付いた。
更に詳しく調べてみれば、ガトリング砲までも内蔵されているという凶悪ぶり。
ひとつ使い方を間違えば、人間など一瞬にして肉塊に変わってしまうだろう。
だが、威嚇用として考えれば、これ以上ないほどに優れた破壊力。
いざというときは、この十字架で追い払うしかない。
手にした支給品のスイッチを、入れる。
右手に構えたそれは――電気式の拡声器。
短い茶髪が夜風に舞う。
さながら男のそれのように、ボーイッシュなスタイルに纏められた髪。
それを風に揺らしながら、怒りも露わに呟くのは1人の少女。
名を、高町亮子という。
かつて世界に君臨した、呪われしミズシロ・ヤイバの子供達――ブレード・チルドレンの1人だ。
優良種たるヤイバの血族の繁栄のため。劣種たる現人類達を駆逐するため。
殺戮を求めるプログラムを、その遺伝子に組み込まれた忌むべき血統。それがブレード・チルドレンだ。
「お前らの思惑通りになんてさせてたまるか……!」
その高町亮子が、今静かに怒っている。
殺人者ブレード・チルドレンであるはずの彼女が、この理不尽な殺し合いへと、確かな憤りを感じている。
彼女ら80人の子供達の中でも、亮子は特殊な存在だった。
自らの宿命を知り、命を狙われ続けるブレード・チルドレンの中でも、彼女は一際正義感が強いのだ。
人殺しという行為。それを彼女は嫌っている。
他の個体が必要に迫られ、その手を血の色に染める中、頑なに殺人を拒んでいる。
殺るくらいなら殺られた方がまし。
かつて亮子自身が口にした言葉だ。
それは決して、救いも未来もない境遇のみを要因とした主張ではない。
人が人を殺すなんて間違っている。誰も殺さないし、殺させだってするものか。
亮子は本気でそう思い、その意志を貫き続けているのだ。
通常ブレード・チルドレンとは、3種類のパターンに分類される。
既にヤイバの血に目覚め、見境なく殺戮を求めるに至った者。
自らないし仲間の命を守るために、その手を汚す覚悟を決めた者。
呪われし宿命に怯えながら、がたがたと恐怖に震える者。
そのいずれにも未だ属さぬ特異な個体――それが高町亮子だった。
「見てろ……こんな殺し合い、絶対にあたしが止めてやる」
故に、彼女の選ぶ道は決まっている。
この馬鹿げた殺し合いを催した、あの主催者連中を叩き潰すこと。
そしてこれ以上の犠牲を出すことなく、皆でここから脱出することだ。
困難な道ではあるかもしれない。主催をも敵に回すということを考えると、圧倒的に不利な勝負。
そもそも現在地につく前に、どうやらここで戦闘があったらしいのだが、それにすらも間に合わなかった。
鞭と大砲のような轟音は聞いている。それでも音の主達を見失ってしまった。のっけからミスを犯しているというわけだ。
それでも、引き下がるわけにはいかないのだ。
己の信条を曲げ、殺戮の道を歩むわけにはいかないのだ。
それに不利な戦いというのなら、あの鳴海歩の方が何倍もきつい戦いに臨んでいる。
あのもやしっ子が挑んでいるのは人ですらなく、実体の見えない運命なのだ。
殴りかかるための形もなく、パズルのような解法もない。
そのくせその存在は絶大で、容赦なくブレード・チルドレンを縛りつけている。
ようやく前を向くことを決めたばかりの歩ですら、そんな途方もない相手と戦っているのだ。
であれば、彼に比べれば戦闘能力の高い自分が、高々人の2人くらい倒せずにどうする。
そんな情けない醜態を晒すのは真っ平御免だ。
(弟といえば……何だったんだ? あいつ……)
と、そこで。
ふと、1人の男の姿を思い出す。
挑戦的な笑みを主催者に向けていた、ミントグリーンの髪の少年だ。
今にして考えてもみれば、奴の容姿は写真で見たヤイバによく似ている。
外見年齢も自分とそう変わらない。ということは、彼もブレード・チルドレンの1人だろうか。
(でも、弟にしか殺せないブレード・チルドレンって何なんだ……?)
だが、それがどうにも引っ掛かる。
救いの神として生まれたはずの歩だけが、殺すことができるというブレード・チルドレン。
運命の盤面を見渡してみても、そんな駒はどこにも存在しない。
そもそも最強のブレード・チルドレン――カノン・ヒルベルトの試練を乗り越えた歩に、今さら人殺しが要求されるとも思えない。
(そしてその弟もカノンも、ここに呼ばれてる)
これは事実だ。
あの緑の髪の少年が命を落とした時、彼ら2人の声が上がっていた。確かヒズミと名を呼んでいたか。
亮子が殺し合いに乗らないというスタンスを取る以上、歩は確実に自分の仲間となってくれるだろう。
カノンの方も、歩と合流することができれば、共に戦ってくれるかもしれない。
もっとも、長く苦しい戦いを終え、今はほぼ隠居のような軟禁生活を送っているという彼に、再び戦いを要求するのは気が引けるのだが。
しかし、この2人に対しても気がかりはある。
彼らはヒズミの存在を知っていた。
恐らく歩を取り巻く運命において、それなりに重要な存在であろう彼を認知していたのだ。
であれば名前だけでなく、その性質も知っているということだろうか。
2人は何を知っていた。
何を自分達に隠していたのか。
「……こういう時こそ、香介がいてくれれば……」
ぽつり。
どこか寂しげな声音で漏らす。
思い返すのは、あの小生意気な幼馴染み――浅月香介の存在だ。
ひねくれ者で口だけは達者で、そのくせ「亮子だけは巻き込みたくない」と、生意気極まりないことを考えて、何度も姿を消した奴。
けれども共にいることで、この殺伐とした運命の中でも、不思議と心安らぐ時間を与えてくれた。
同じ父を持つ兄妹でありながら、不覚にも想いを寄せてしまい、先日告白まがいの発言に及んでしまった相手。
それでも彼女の想いを受け止めてくれた、亮子の精神的支柱とでも言うべき存在だ。
戦いにおいても、彼女らは2人で1つだった。
亮子が素手での格闘能力に秀でているならば、口先と細かな技術が浅月の武器だ。
彼がここにいてくれたならば、今の疑問にも答えを出してくれただろうか。
孤独に戦う決意をした自分を、傍で支えてくれただろうか。
(……駄目だな。何考えてんだ、あたしは)
ぱんぱん、と頬を叩く。
いるかどうかも分からない人間を当てにしてどうするんだ。
そもそもいないに越したことはない。こんな殺し合いに浅月が巻き込まれる必要はない。
自分や竹内理緒を守るために、ボロボロになるまで戦ったのだ。
もう浅月は十分に戦った。今さらまた命の危険に晒されるなんて、そんなことがあってたまるか。
亮子1人で何とかするしかない。
2年前のオルゴール連続殺人事件の時だって、ほとんど1人で戦っていたではないか。
そりゃあ確かにあの時は、ろくに結果も出せなかったかもしれない。
浅月を見返すことばかり考えていた当時は、彼のような成果を上げることはできなかった。
だが、自分は今やあの時の自分ではない。
2年のうちに培った経験は、確実に自分を強くしているはずだ。
何より今は戦う目的が違う。
あの時の浅月と同じように、誰かを守るために戦うのだ。
そうと決まれば話は早い。
デイパックの中から取り出した、支給品へと手を伸ばす。
これを使うには相応のリスクが伴うだろう。殺し合いに乗った連中に、居場所を特定されるかもしれない。
だが、この勝負から逃げるわけにはいかなかった。
それに幸いにも亮子には、もう1つとびきり強力な支給品が用意されている。
最初はただの十字架にしか見えなかった。
だが微かに漂う火薬の臭いから、それがロケット砲か何かだと気が付いた。
更に詳しく調べてみれば、ガトリング砲までも内蔵されているという凶悪ぶり。
ひとつ使い方を間違えば、人間など一瞬にして肉塊に変わってしまうだろう。
だが、威嚇用として考えれば、これ以上ないほどに優れた破壊力。
いざというときは、この十字架で追い払うしかない。
手にした支給品のスイッチを、入れる。
右手に構えたそれは――電気式の拡声器。
「――この声が聞こえる奴。どうか、今からあたしが話すことを聞いてくれ。
あたしの名前は高町亮子。この殺し合いには乗ってない。
これからあたしは、こんなふざけたことをしでかした連中を、ぶっ飛ばすために行動する。
こんな殺し合いなんか、乗っちゃいけないんだ! 誰一人として、死んでいい命なんかないんだ!
……いいか? よく聞いてくれ。
あたしはD-2の病院の入り口で待ってる。殺し合いに乗ってない奴は、あたしのとこまで来てほしい。
あの根性腐った連中を叩きのめすために、あたしに力を貸してほしいんだ――」
あたしの名前は高町亮子。この殺し合いには乗ってない。
これからあたしは、こんなふざけたことをしでかした連中を、ぶっ飛ばすために行動する。
こんな殺し合いなんか、乗っちゃいけないんだ! 誰一人として、死んでいい命なんかないんだ!
……いいか? よく聞いてくれ。
あたしはD-2の病院の入り口で待ってる。殺し合いに乗ってない奴は、あたしのとこまで来てほしい。
あの根性腐った連中を叩きのめすために、あたしに力を貸してほしいんだ――」
【D-2/病院前/1日目 深夜】
【高町亮子@スパイラル ~推理の絆~】
[状態]:健康
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:拡声器
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす
1:とにかく仲間を集める。
現在地で、放送を聞いて集まってきた、殺し合いに乗っていない人間を待つ。
2:殺し合いに乗った連中が来たら、パニッシャーで威嚇し追い払う。
3:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
4:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
5:そういや、傷が治ってる……?
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
[状態]:健康
[服装]:月臣学園女子制服
[装備]:拡声器
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン・マキシマム
[思考]
基本:この殺し合いを止め、主催者達をぶっ飛ばす
1:とにかく仲間を集める。
現在地で、放送を聞いて集まってきた、殺し合いに乗っていない人間を待つ。
2:殺し合いに乗った連中が来たら、パニッシャーで威嚇し追い払う。
3:ヒズミ(=火澄)って誰だ? 鳴海の弟とカノンは、あたし達に何を隠しているんだ?
4:できれば香介は巻き込まれていないといいんだけど……
5:そういや、傷が治ってる……?
[備考]
※第57話から第64話の間のどこかからの参戦です。身体の傷は完治しています。
※火澄のことは、ブレード・チルドレンの1人だと思っています。
また、火澄が死んだ時の状況から、歩とカノンが参加していることに気付いています。
鋼の錬金術師エドワード・エルリック。
弱冠12歳にして国家錬金術師資格を取得し、史上最年少記録を打ち立てた天才である。
錬金術を行使するための最重要要素・錬成陣を必要としないスタイルは、俊敏にして変幻自在。
リオールの町の似非宗教家を成敗した。ユースウェル炭鉱の役人の不正を暴いた。ダブリスとブリッグズでは人造人間捕獲に協力した。
イシュヴァール戦こそ経験していないものの、その武勇伝は数知れず。
ここまでの説明を聞く限りでは、さぞや聡明で立派な錬金術師であると、誤解する者も多いであろう。
だがそんな鋼の錬金術師にも、ある欠点が存在する。
「だーもう、畜生……どうなってやがんだ、全く……」
口と態度がものすごく悪い。
鋼の錬金術師エドワード・エルリック。現在の年齢、15歳。
いかに優れた知識と実力を持とうと、まだまだやんちゃ盛りの子供なのだ。
故に多分に生意気な所があるのも、仕方がないと言えば仕方がない。
「構成物質はともかく、錬成エネルギーが通らないんじゃ話にならねーな……」
ぶつぶつとぼやきながら、灰色の町を進んでいく。
そもそも錬金術というものは、物質を理解/分解/再構成し、形状・形質を自在に操る技術である。
戦闘目的に使うならば、周囲の石壁を削って武器を作ったり、空気中の酸素濃度を調節して炎の火力を上げたり、といった具合だ。
もちろんこれを応用すれば、現在首にかけられている爆弾も、分解ないし変形させて外すことができるはずである。
ところが、ここで少々困った問題が起きた。
錬金術と他の技術の最大の相違点は、化学変化を起こす際のエネルギーである。
通常の実験ならば火力や圧力を用いるものだが、錬金術の行使の際に必要となるのは、地殻変動のエネルギー。
これを錬成陣を介して用いることで、その他複雑な器具を使うことなく、迅速な錬成を可能とするのである。
ところがこの首輪、一体いかなる原理が働いているのかは知らないが、そのエネルギーを通さない素材でできているようなのだ。
「ふざけた真似しやがって……」
悪態をつきながら、かつんと小石を蹴る。
こうなった以上はお手上げだ。
たとえこの先材質が理解できたとしても、変化させるためのエネルギーがないのでは話にならない。
「他の方法を探すしかねーな」
それがたどり着いた結論だ。
専門外のやり方ではあるが、幼馴染みのウィンリィ・ロックベルのように、機械工学的な手段を使うしかない。
何らかの手段でこの首輪の構造を把握し、工場で工具を調達し解体する。それが無難なやり方であろう。
「でなけりゃ、あいつらに一発もかませずにドカンだからな」
彼自身、こんな殺し合いに乗るつもりはない。
そもそもそうでなければ、首輪を外す理由などないだろう。
人の命を奪う行為。彼と弟アルフォンスは、ことさらそれに敏感だった。
理由もなく人殺しを嫌うわけではない。
彼らエルリック兄弟は、多くの命のあり方に立ち会ってきた。
今日を生きる命。明日のために生まれてきた命。昨日に失われた命。
何よりも、4年前に経験した――
弱冠12歳にして国家錬金術師資格を取得し、史上最年少記録を打ち立てた天才である。
錬金術を行使するための最重要要素・錬成陣を必要としないスタイルは、俊敏にして変幻自在。
リオールの町の似非宗教家を成敗した。ユースウェル炭鉱の役人の不正を暴いた。ダブリスとブリッグズでは人造人間捕獲に協力した。
イシュヴァール戦こそ経験していないものの、その武勇伝は数知れず。
ここまでの説明を聞く限りでは、さぞや聡明で立派な錬金術師であると、誤解する者も多いであろう。
だがそんな鋼の錬金術師にも、ある欠点が存在する。
「だーもう、畜生……どうなってやがんだ、全く……」
口と態度がものすごく悪い。
鋼の錬金術師エドワード・エルリック。現在の年齢、15歳。
いかに優れた知識と実力を持とうと、まだまだやんちゃ盛りの子供なのだ。
故に多分に生意気な所があるのも、仕方がないと言えば仕方がない。
「構成物質はともかく、錬成エネルギーが通らないんじゃ話にならねーな……」
ぶつぶつとぼやきながら、灰色の町を進んでいく。
そもそも錬金術というものは、物質を理解/分解/再構成し、形状・形質を自在に操る技術である。
戦闘目的に使うならば、周囲の石壁を削って武器を作ったり、空気中の酸素濃度を調節して炎の火力を上げたり、といった具合だ。
もちろんこれを応用すれば、現在首にかけられている爆弾も、分解ないし変形させて外すことができるはずである。
ところが、ここで少々困った問題が起きた。
錬金術と他の技術の最大の相違点は、化学変化を起こす際のエネルギーである。
通常の実験ならば火力や圧力を用いるものだが、錬金術の行使の際に必要となるのは、地殻変動のエネルギー。
これを錬成陣を介して用いることで、その他複雑な器具を使うことなく、迅速な錬成を可能とするのである。
ところがこの首輪、一体いかなる原理が働いているのかは知らないが、そのエネルギーを通さない素材でできているようなのだ。
「ふざけた真似しやがって……」
悪態をつきながら、かつんと小石を蹴る。
こうなった以上はお手上げだ。
たとえこの先材質が理解できたとしても、変化させるためのエネルギーがないのでは話にならない。
「他の方法を探すしかねーな」
それがたどり着いた結論だ。
専門外のやり方ではあるが、幼馴染みのウィンリィ・ロックベルのように、機械工学的な手段を使うしかない。
何らかの手段でこの首輪の構造を把握し、工場で工具を調達し解体する。それが無難なやり方であろう。
「でなけりゃ、あいつらに一発もかませずにドカンだからな」
彼自身、こんな殺し合いに乗るつもりはない。
そもそもそうでなければ、首輪を外す理由などないだろう。
人の命を奪う行為。彼と弟アルフォンスは、ことさらそれに敏感だった。
理由もなく人殺しを嫌うわけではない。
彼らエルリック兄弟は、多くの命のあり方に立ち会ってきた。
今日を生きる命。明日のために生まれてきた命。昨日に失われた命。
何よりも、4年前に経験した――
『――この声が聞こえる奴。どうか、今からあたしが話すことを聞いてくれ』
「ん?」
その時だ。
マイクか何かを介したような、少女の声が聞こえたのは。
『あたしの名前は高町亮子。この殺し合いには乗ってない。
これからあたしは、こんなふざけたことをしでかした連中を、ぶっ飛ばすために行動する。
こんな殺し合いなんか、乗っちゃいけないんだ! 誰一人として、死んでいい命なんかないんだ!』
「おーおー、俺以外にも肝っ玉の据わった奴がいたもんだ」
感心しているのかいないのか、よく分からない声音と表情で呟く。
どうやらこの亮子とやら、自分と同じく主催者を倒すために、このメッセージを発信しているらしい。
声は南から聞こえてくる。ここからそう遠くはないだろう。
「ま、人集めにゃ持ってこいだな。自分で探さなくとも向こうから勝手に……」
そこまで呟いた。
その時。
途端に。
エドワードの顔が、凍りつく。
ちょっと待て。自分は今何と言いかけた。
この放送を聞いた奴は、向こうから送り主の元へとやってくる。
誰にでも分かる結論だ。
もちろんエドワード自身のような、殺し合いを止めようとする人間も来るだろう。
『あたしはD-2の病院の入り口で待ってる。殺し合いに乗ってない奴は、あたしのとこまで来てほしい』
だが待ってほしい。
そもそもこの放送を聞く可能性があるのは。
殺し合いに乗っていない連中ばかりでは、ない。
「……待て待て待て待て待てェェェェェェェェ!」
刹那、加速。
ばびゅん、という漫画的擬音がそのまま当てはまるかのような。
鬼のような形相を浮かべ、苛立ち全開の叫びと共に。
短い手足をフルスピードで動かし「チビって言うな!」、疾風のごとく大爆走。
放送の聞こえてきた方へと、脇目もふらさず全速力で駆け出した。
「おいおい分かってんのかよあの姉ちゃん! こんな風に居場所バラしたら、格好の餌食になっちまうぞ!?」
そうだ。
この放送を聞く可能性があるのは、殺し合いに乗っている連中も同じなのだ。
生き残るために殺人者となった連中が、こんな放送を耳にしたらどうなるか。
決まっている。送り主を殺すために、一直線にそちらへ向かうだろう。
おまけに彼女が下手に仲間を集めていたならば、そいつらも残らず殺られてしまう。
更にそのポイントへと、また別の殺し屋がやって来たとしたら。
最終的に起こりうる事象は――虐殺だ。
「冗談じゃねぇぞ! んなことさせてたまるかってんだ!」
走る。走る。駆け抜ける。
今は一分一秒が惜しい。
ここから南のエリアにあるらしい、病院目掛けて一直線。
頼む。誰も死なないでくれ。
最悪の事態よ、起きないでくれ。
ろくに祈ることすらやめた、神の姿すら思い浮かべながら。
そして。
その時。
「!」
その行く先に。
現れた、影。
1人の男の人影が、エドワードの行く手に立ちふさがっていた。
蒼い紙に白いコート。
虚ろとすら思える無感動な目が、じっとこちらを見据えている。
ぞわり。
全身の肌が粟立つ感触。殺気を当てられているのだ。
(おいおいおい……こいつはちとヤバそうだな)
直感的に理解する。
頬を一筋の冷や汗が伝う。
何なのだこの男の気配は。
これほどまでの絶大な殺意、彼は数えるほどしか知らない。
こいつは今までに戦ってきた、どんな相手ともまるで違う。
まるで国家錬金術師殺しの傷の男(スカー)と、初めて相対した瞬間のような感覚だ。
いいや、あの時と同じではない。自分はあの時より強くなっている。
であればこの蒼い髪の男は、奴よりも遥かに危険な相手ということか。
掛け値なしの危険な気配に宿るのは、掛け値なしに危険な力。
あの人造人間達ですら、こいつ相手では役不足ではないか。
そう思えるほどの底無しの気配。実力の程など、まるで伺えたものではない。
「……やはりあの声に従ったのは正解だったようだ」
ふ、と。
薄い笑みを浮かべながら、眼前の得体の知れない男が呟く。
どうやらこの男、あの放送を聞いていたらしい。
何ということだ。既に極上の餌が釣れてしまっていたではないか。
「へっ……目が笑ってねーぞ、この野郎」
ぱん、と。
両の手を合わせながら。
精一杯の虚勢を捻り出し、引きつった笑顔でエドワードが答えた。
その時だ。
マイクか何かを介したような、少女の声が聞こえたのは。
『あたしの名前は高町亮子。この殺し合いには乗ってない。
これからあたしは、こんなふざけたことをしでかした連中を、ぶっ飛ばすために行動する。
こんな殺し合いなんか、乗っちゃいけないんだ! 誰一人として、死んでいい命なんかないんだ!』
「おーおー、俺以外にも肝っ玉の据わった奴がいたもんだ」
感心しているのかいないのか、よく分からない声音と表情で呟く。
どうやらこの亮子とやら、自分と同じく主催者を倒すために、このメッセージを発信しているらしい。
声は南から聞こえてくる。ここからそう遠くはないだろう。
「ま、人集めにゃ持ってこいだな。自分で探さなくとも向こうから勝手に……」
そこまで呟いた。
その時。
途端に。
エドワードの顔が、凍りつく。
ちょっと待て。自分は今何と言いかけた。
この放送を聞いた奴は、向こうから送り主の元へとやってくる。
誰にでも分かる結論だ。
もちろんエドワード自身のような、殺し合いを止めようとする人間も来るだろう。
『あたしはD-2の病院の入り口で待ってる。殺し合いに乗ってない奴は、あたしのとこまで来てほしい』
だが待ってほしい。
そもそもこの放送を聞く可能性があるのは。
殺し合いに乗っていない連中ばかりでは、ない。
「……待て待て待て待て待てェェェェェェェェ!」
刹那、加速。
ばびゅん、という漫画的擬音がそのまま当てはまるかのような。
鬼のような形相を浮かべ、苛立ち全開の叫びと共に。
短い手足をフルスピードで動かし「チビって言うな!」、疾風のごとく大爆走。
放送の聞こえてきた方へと、脇目もふらさず全速力で駆け出した。
「おいおい分かってんのかよあの姉ちゃん! こんな風に居場所バラしたら、格好の餌食になっちまうぞ!?」
そうだ。
この放送を聞く可能性があるのは、殺し合いに乗っている連中も同じなのだ。
生き残るために殺人者となった連中が、こんな放送を耳にしたらどうなるか。
決まっている。送り主を殺すために、一直線にそちらへ向かうだろう。
おまけに彼女が下手に仲間を集めていたならば、そいつらも残らず殺られてしまう。
更にそのポイントへと、また別の殺し屋がやって来たとしたら。
最終的に起こりうる事象は――虐殺だ。
「冗談じゃねぇぞ! んなことさせてたまるかってんだ!」
走る。走る。駆け抜ける。
今は一分一秒が惜しい。
ここから南のエリアにあるらしい、病院目掛けて一直線。
頼む。誰も死なないでくれ。
最悪の事態よ、起きないでくれ。
ろくに祈ることすらやめた、神の姿すら思い浮かべながら。
そして。
その時。
「!」
その行く先に。
現れた、影。
1人の男の人影が、エドワードの行く手に立ちふさがっていた。
蒼い紙に白いコート。
虚ろとすら思える無感動な目が、じっとこちらを見据えている。
ぞわり。
全身の肌が粟立つ感触。殺気を当てられているのだ。
(おいおいおい……こいつはちとヤバそうだな)
直感的に理解する。
頬を一筋の冷や汗が伝う。
何なのだこの男の気配は。
これほどまでの絶大な殺意、彼は数えるほどしか知らない。
こいつは今までに戦ってきた、どんな相手ともまるで違う。
まるで国家錬金術師殺しの傷の男(スカー)と、初めて相対した瞬間のような感覚だ。
いいや、あの時と同じではない。自分はあの時より強くなっている。
であればこの蒼い髪の男は、奴よりも遥かに危険な相手ということか。
掛け値なしの危険な気配に宿るのは、掛け値なしに危険な力。
あの人造人間達ですら、こいつ相手では役不足ではないか。
そう思えるほどの底無しの気配。実力の程など、まるで伺えたものではない。
「……やはりあの声に従ったのは正解だったようだ」
ふ、と。
薄い笑みを浮かべながら、眼前の得体の知れない男が呟く。
どうやらこの男、あの放送を聞いていたらしい。
何ということだ。既に極上の餌が釣れてしまっていたではないか。
「へっ……目が笑ってねーぞ、この野郎」
ぱん、と。
両の手を合わせながら。
精一杯の虚勢を捻り出し、引きつった笑顔でエドワードが答えた。
◆
最初に出会ったのは少年だった。
大体15くらいの子供だろうか。その割には背が低めにも思えたが。
目にも鮮やかな金髪を三つ編みにし、ド派手な赤いコートを羽織っている。
随分と急いでいた様子からして、こいつもあの放送を聞いていたのだろうか。
いずれにせよ、見つけた人間は殺すだけのこと。
あの声に呼び寄せられた人間を抹殺すれば、ナイブズへの手土産にでもなると思ってはいたが、
どうやらうまいこと読みが当たったようだ。
眼前の少年へと、殺意を向ける。
瞬間、奇妙な光景を目の当たりにした。
ぱん、と。
合わせられる少年の両手。
次の瞬間、ばちっと音を立てるものがあった。
電流のごとく迸る光があった。
閃光の中、右の手袋が引き裂かれる。
目を見張る光景だった。
剥き出しになった右手の甲が、突如としてその姿を変えたのだ。
白き手袋の下にあったのは、黒光りする鋼の義肢。
それはいい。そんなものはとっくに見慣れている。そこらのサイボーグと変わらない。
だが、問題はそこからだ。
瞬時にその右手の甲が、鋭き刃へと姿を変えた。
装甲が勢いよく伸びたかと思うと、剣の切っ先を思わせる形状へと変形したのだ。
「驚いたな……君もプラントなのか?」
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
自然と、その男の姿を思い出していた。
眩い金髪に真紅のコート。その特徴は共通している。だが、あくまでそれだけだった少年。
しかしその少年が一瞬にして、自らの内より刃を生み出したのだ。
プラントの性質――物質を持ってくる力。
いかなるものであろうとも、異次元の彼方より生産することができる能力だ。
その力を彷彿とさせる、目の前で起きた奇妙な事象。
いずれにせよ、ただの人間にできる技では、ない。
「んだよそれ……知らねーぞ、そんなもん」
しかもこの小生意気な少年は、そのプラントですらないというのだ。
――面白い。
好奇心が鎌首をもたげる。
あの人間台風に出会うまで、永らく知ることのなかった感情。
その男に似ているがために。
その男を思い出させるが故に。
目の前の少年へと向けられる好奇の視線。
ただ蹴散らすだけだった子供へと、微かな興味が芽生えた瞬間だった。
さて、彼はどう戦うのだろう。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードと同じ特徴を持ったこの少年は、いかなる姿を見せてくれるのだろう。
やはりあいつと同じように、ラブアンドピースを叫ぶのか。
はたまたあいつとは全く異なる、残忍な戦闘狂の顔を見せるのか。
これから見せるであろう一挙一動が、今から楽しみでたまらない。
そう。
本当に。
大体15くらいの子供だろうか。その割には背が低めにも思えたが。
目にも鮮やかな金髪を三つ編みにし、ド派手な赤いコートを羽織っている。
随分と急いでいた様子からして、こいつもあの放送を聞いていたのだろうか。
いずれにせよ、見つけた人間は殺すだけのこと。
あの声に呼び寄せられた人間を抹殺すれば、ナイブズへの手土産にでもなると思ってはいたが、
どうやらうまいこと読みが当たったようだ。
眼前の少年へと、殺意を向ける。
瞬間、奇妙な光景を目の当たりにした。
ぱん、と。
合わせられる少年の両手。
次の瞬間、ばちっと音を立てるものがあった。
電流のごとく迸る光があった。
閃光の中、右の手袋が引き裂かれる。
目を見張る光景だった。
剥き出しになった右手の甲が、突如としてその姿を変えたのだ。
白き手袋の下にあったのは、黒光りする鋼の義肢。
それはいい。そんなものはとっくに見慣れている。そこらのサイボーグと変わらない。
だが、問題はそこからだ。
瞬時にその右手の甲が、鋭き刃へと姿を変えた。
装甲が勢いよく伸びたかと思うと、剣の切っ先を思わせる形状へと変形したのだ。
「驚いたな……君もプラントなのか?」
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
自然と、その男の姿を思い出していた。
眩い金髪に真紅のコート。その特徴は共通している。だが、あくまでそれだけだった少年。
しかしその少年が一瞬にして、自らの内より刃を生み出したのだ。
プラントの性質――物質を持ってくる力。
いかなるものであろうとも、異次元の彼方より生産することができる能力だ。
その力を彷彿とさせる、目の前で起きた奇妙な事象。
いずれにせよ、ただの人間にできる技では、ない。
「んだよそれ……知らねーぞ、そんなもん」
しかもこの小生意気な少年は、そのプラントですらないというのだ。
――面白い。
好奇心が鎌首をもたげる。
あの人間台風に出会うまで、永らく知ることのなかった感情。
その男に似ているがために。
その男を思い出させるが故に。
目の前の少年へと向けられる好奇の視線。
ただ蹴散らすだけだった子供へと、微かな興味が芽生えた瞬間だった。
さて、彼はどう戦うのだろう。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードと同じ特徴を持ったこの少年は、いかなる姿を見せてくれるのだろう。
やはりあいつと同じように、ラブアンドピースを叫ぶのか。
はたまたあいつとは全く異なる、残忍な戦闘狂の顔を見せるのか。
これから見せるであろう一挙一動が、今から楽しみでたまらない。
そう。
本当に。
「……面白い」
【C-2/1日目 深夜】
【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:機械鎧の甲剣
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考]
基本:この殺し合いを止める。誰も殺させはしない
1:何とかして目の前の男(=レガート)を撒き、放送の女(=亮子)の元へと向かう
2:放送に誘われたマーダーから、殺し合いに乗っていない連中を守る
3:首輪を外すためにも工具が欲しい
[備考]
※遅くとも第67話以降からの参戦です
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
[状態]:健康
[服装]:
[装備]:機械鎧の甲剣
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考]
基本:この殺し合いを止める。誰も殺させはしない
1:何とかして目の前の男(=レガート)を撒き、放送の女(=亮子)の元へと向かう
2:放送に誘われたマーダーから、殺し合いに乗っていない連中を守る
3:首輪を外すためにも工具が欲しい
[備考]
※遅くとも第67話以降からの参戦です
※首輪に錬金術を使うことができないことに気付きました
【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム】
[状態]:健康、エドワードへの興味
[服装]:
[装備]:金属糸×1
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考]
基本:ナイブズの敵を皆殺しにする
1:手始めに放送に誘われた連中を殺す。まずは目の前の少年(=エドワード)から
2:1を終えた後はナイブズを探し、合流する
3:あるのなら自分の金属糸を探す
[備考]
※11巻2話頃からの参戦です
※ナイブズが参加させられていることに気付いています
※金属糸は没収対象外のもので、レガートの身体を動かすために使用されています。これが外れると、身動き一つできなくなります
※最初から装備していた金属糸の、相手へ使用する際の最大射程は、後続の書き手さんにお任せします
[状態]:健康、エドワードへの興味
[服装]:
[装備]:金属糸×1
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2
[思考]
基本:ナイブズの敵を皆殺しにする
1:手始めに放送に誘われた連中を殺す。まずは目の前の少年(=エドワード)から
2:1を終えた後はナイブズを探し、合流する
3:あるのなら自分の金属糸を探す
[備考]
※11巻2話頃からの参戦です
※ナイブズが参加させられていることに気付いています
※金属糸は没収対象外のもので、レガートの身体を動かすために使用されています。これが外れると、身動き一つできなくなります
※最初から装備していた金属糸の、相手へ使用する際の最大射程は、後続の書き手さんにお任せします
【全体の備考】
※D-2の病院を中心に、拡声器を通した亮子の声が響き渡りました
※C-2のどこかに、レガートの匣@トライガン・マキシマムが放置されています
※D-2の病院を中心に、拡声器を通した亮子の声が響き渡りました
※C-2のどこかに、レガートの匣@トライガン・マキシマムが放置されています
時系列順で読む
Back:それでもなお、あきらめを踏破するのなら Next:知らない人にはついていっていけません
投下順で読む
Back:それでもなお、あきらめを踏破するのなら Next:知らない人にはついていっていけません
| GAME START | エドワード・エルリック | 039:扉を開いたらまた次の扉 |
| GAME START | 高町亮子 | 033:Overture ~序曲~ |
| GAME START | レガート・ブルーサマーズ | 039:扉を開いたらまた次の扉 |