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ザ・パニッシャー

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ザ・パニッシャー ◆40jGqg6Boc

「あーアホらし……」
漆黒の闇の中、一人の青年がさも気だるそうに呟く。
青年は周囲に溶け込むような、真っ黒な服装に身を包んでいる。
彼の受け持つ職業は巡回牧師、但し自由気ままの。
何処かのチンピラにしか見えない彼の名は、ニコラス・D・ウルフウッド
そして――殺し屋家業にも踏み込んでいた。
「殺し合いか……なんでそんなコトせなあかんねん。
まあ、ワイみたいなヤツが言えたもんちゃうか……」
自嘲するかのように呟く。
最強の殺し屋の養成を目的とした組織、“ミカエルの眼”。
ウルフウッドは数年をかけて、そこで戦いの術を教わった。
数に限りがあり、関係者曰く“最強の個人兵装”――パニッシャーまでも与えられた。
そしてウルフウッドは送られた。
ミカエルの眼が協力関係を結んでいた存在、ミリオンズ・ナイブズの元へ。
ナイブズが有する最凶の殺人集団、“GUNG-HO-GUNGS”の一席、“チャペル”の資格をもぎ取る。
実際はウルフウッドの師ともいうべきマスター・C(チャペル)に与えられた地位。
強引にミカエルの眼へ連れ出された事により、ウルフウッドが彼に抱いてた感情は憎しみに塗れていた。
故にウルフウッドは彼を事故に見せかけて殺害。
チャペルの肩書を偽り、ナイブズに近づき――そして彼はしかと見た。
あまりにも馬鹿げた力を、ナイブズという存在があまりにも彼の知る常軌を逸していた事に。
考えた。
ミカエルの眼で肉体への薬物投与により強化措置を受けた。
手に入れたものは、異常ともいえる再生速度を持った肉体。
だけどもウルフウッドは人間だ。
そう。エネルギー生産装置――“プラント”、人型プラントとも言うべきナイブズ。
そんなナイブズの強大な力に較べれば十分に人間だ。
夜空に聳える月に大穴を穿つ存在など――狂っているとしか思えない。
だからウルフウッドは己の指針を定めた。
ナイブズを、彼と同等の力を持つと思われる存在と相撃ちにさせる。
ヤツを野放しにすれば、自分の大切な存在達が失われる。
そんな事はさせない。
破滅への歩みを止めるためにも、ウルフウッドは再び接触を図った。
ナイブズの配下、レガート・ブルーサマーズの指示により今まで共に居た男を。
ナイブズの弟であり、また人間では在らざる者である彼を。
ロスト・ジュライ――何万もの人間を天国とも地獄とも取れない場所へ送った存在に。
兄弟仲良くとは言わないが、ナイブズと一緒に死んでもらう。
ウルフウッドはそう考えた筈だった。
「トンガリ……お前なら自信を持って言えるんやろなぁ。
……べつに羨ましいとは思わんけど」
しかし、今のウルフウッドには一種の迷いがある。
確かにナイブズは危険だ。機会があれば倒せる事に越したことはない。
だが、弟の方は――金髪のツンツン頭だからトンガリ――はどうにも掴みどころがない。
弟の名はヴァッシュ・ザ・スタンピード
真紅の外套を羽織り、絶えずヘラヘラとなんだかムカツク笑い顔を浮かべている青年。
が、いつもそんな調子なのかと聞かれればそうでもない。
銃の腕前は目を見張るものがあり、“本気”になればヴァッシュと互角にやり合える人間は居ないだろう。
そう。自分も含めて人間では駄目なのだ。
同じ存在、ナイブズのような怪物でないと――しかし、ヴァッシュに困惑を覚えるのは何と言っても性格面についてだ。
呆れるほどに、夢のような綺麗事を言ってのけるヴァッシュ。
たとえ殺意に満ちた銃や剣を向けられても、ヴァッシュは最後まで見捨てはしない。
信念を、望みを、そしてその相対する人物の命を、なんとしてでも。
絶対に他人を殺さない。
それを意固地なまでに貫くヴァッシュと旅をし、ウルフウッドの中で何かが変わった。
いや、その変化はウルフッド自身にすらも判らない変化かもしれない。
だけども、何かが変わったような気はした。
振り返れば、いつしか致命傷を避けるようにはなっていたかもしれない。
自分に向かってくる相手、手軽にあしらえる相手だけの話だが。
だから気にはなる。
もし、この場にヴァッシュが居るならば、彼はどうするのだろう。
やはり最後までは、自分の命が本当に危なくなるまでは意思を通そうとするのか。
ナイブズを葬るための、重要な鍵――その認識すらも塗りつぶしてしまいそうな感覚。
わからない。何故、自分はこれほどまでにヴァッシュ・ザ・スタンピードの生き方に疑問を抱くようになったのか。
その答えを知るためにもウルフウッドは取り敢えず捜すことにした。
居るかもしれないヴァッシュを、今もボロボロになりながら誰かを守っているかもしれない――あのアホタレを。
見つけ出すためにも、ウルフウッドは歩いていたのだが。

不意に気配を感じた。

「――ッ!!」
それは酷く冷たいものであった。
◇     ◇     ◇
「こ、殺し合いだなんて……そんな……」
会場に設置された、一件の民家でか細い声が響く。
男の声、十代半ばと思われる声だ。
黒毛の短髪、白と青を基調とした、時代劇にでも出てきそうな服を着込んでいる。
少年の名は志村新八。とあるよろず屋で細々と働いている。
そして震える声が示すとおり、新八もまた震えていた。
突然起きた出来事――今も続いているこの事態に思考が追いついていないようだ。
「女の子と男の人が……ゆ、夢じゃないよね…………?」
頬を軽く抓るがしっかりとした感覚がある。
少なくとも未だ夢の中というわけではない。
だが、そうであるならば“あれ”も事実という事になる。
恐らく数分前、どこか良く分からない場所で新八は見た。
名前の知らない二人、いや他の誰かに名前を呼ばれていたあの二人が死んだ事を。
自分の直ぐ傍で人が死んだという事実が、新八にとって大きな衝撃を与えていた。
「なんで、なんでこんなコトに…………」
特に女の方――中村麻子という少女の死は、新八を不安の底に落とすのは簡単であった。
見慣れない服装ではあったが、自分と年が近そうに見えた。
もしかしたら同年代なのかもしれない。
あんな状況で怖気つくことなく叫んだ麻子の事は、勇気のある人だと新八は思う。
自分は怖さで何も言う事も、一歩も動く事が出来なかったというのに。
だけども麻子は死んでしまった。
あっ、と驚きの声を上げる間もなく帰らぬ人となった。
そのすぐ後に聞こえた、男の子の悲痛な叫び声が今も耳に反響している様でならない。
自分がもし、麻子のようになったら――そう考えるだけで、背筋に寒気が走る。
「だけど、いつまでもこんな場所でグズグズしているわけには……」
だが、新八は仮にも侍の家に生まれた子だ。
なけなしの勇気と根性を振り絞り、ゆっくりと立ち上がる。
取り敢えず誰か、親切な人と話でもして気を紛らわせよう。
そう思いたったのだが――直ぐにその決意は打ち崩されることになった。
「え――う、うわあああああああああああああああああああああ!?」
その場にへたれ込み、新八が金切り声にも似た叫ぶを飛ばす。
見れば目の前に何かが転がっている。
いや、厳密に言えば転がってきたという方が正しいだろうか。
黒い塊、人間程の大きさのそれは小屋の外壁を突き破って新八の目の前に転がり込んだ。
「ちっ! おい、そこの坊主!!」
「は、はいいいいいいいい!?」
それは即座に立ちあがり、新八に向かって叫ぶ。
黒い服装が嫌でも目立つ青年、ウルフウッドの身体には無数の傷跡があった。
表情には焦りのような感情が見えた。
しかし、全てがいきなり過ぎたため新八は只、慌てふためくだけだ。
名前を聞くべきか。いや、それとも何でいきなり転がってきたんですか。
聞いておくべき事は数多くあったが上手く言葉に表せない。
されども、そんな新八の意思は知られる事なく場の状況は確実に移りゆく。
多少前かがみがちになりがらも、ウルフウッドの身体に加速が掛かり出す
「死にとうなければ走れ! ワイはいちおう警告はしてやったからなぁ!!」
弾丸のように、ウルフウッドが走り出す。
呆然とした新八とウルフウッドの距離はみるみる内に開いていく。
チラリと見えた顔には“あとは知らんわ!”と言っているような、極めて無責任な感情さえもある。
一体どうしたっていうんだ――新八の、あまり早くはない頭の回転が漸く思考に追いつく。
そして新八は見た。何者かはわからない。
只、此処に居ては危険だ、と本能が呼びかけているような感覚があった。
この場に留まって居れば、きっと“アレ”が届いてしまう。
視界の先、崩壊した外壁のもっとずっと奥に見えた一つの影。
体格のいい、筋肉隆々とした肉体を持つ男性と思わしき襲撃者の姿。
その人物の右手首から、一本の細い糸のようなものがまるで蛇のように伸びていた。
先端には手首から先の部分がしっかりとついている。
一度は戻りはしたが、再びそれは飛ばされ、ぐんぐんと近づいてきた――ような気がした。
「ま、待って下さいよおおおおおおおーーーーーーーー!!」
呑気にギリギリまで観察している場合ではない。
情けないかもしれないが、新八は逃げる事には慣れている。
数秒の間を置いて後方でもの凄い音が響いた。
振りかえらなくとも大体は判る。そんな暇があればさっさと足を動かすべきだ。
誰に言われることなく、新八は猛然とその場を後にする。
目に見える負傷が身体の動きに障害をきたしているのだろうか。
やがてだんだんと距離が詰まっていき、声が届く場所まで新八は届いた。
「な、なんなんですかあなたは!? 納得のいく説明をしてくださいよ!? ねぇ、ホントに聞いてんですかアンタあああーッ!?」
「あ――――――ッ!じゃかしいわボケェ!!
トンズラの最中に話しかけるなや、こっちは一杯一杯なんや!」
互いに息を切らせながら言葉をぶつけ合う。
巻き込まれた身、巻きこんでしまった身の二人。
前者には特に非がないが、後者にこれといって悪びれた様子はない。
ウルフウッドにしてみれば先程の警告だけで十分世話を焼いたと思っているのだろう。
新八はそうは思っていないのだが、ウルフウッドの威圧に押され気味で上手くは伝わらない。
そんなこんなの内にウルフウッドが懐からとあるものを引き抜く。
周囲の闇に似た色、漆黒の銃身がその手には握られていた。
撃鉄を引き半身を逸らし、さも慣れた手つきで銃口を後方へ向け、撃った。
「ち、ちょっと! なに物騒なもの撃ってるんですか!?」
「黙っとれや!気が散ってたまらん!だいたいなぁ――」
一発ではない。二発目、三発目が続き、少なくとも四発以上だ。
かなり近い距離からの発砲に新八は驚く。
明らかな不快感が映るが、ウルフウッドも負けてはいない。
新八の勢いに負けず、喰ってかかる様に怒声を飛ばす。
同時に視線を向けて、新八に合図をする。
さも当然だ、と言わんばかりの表情がそこにあった。
「あいつが只の人間なわけないやろが!!」
後方から、ウルフウッドの向く方から何かが弾かれた音が響いた。
映ったものは、黒い学ランの前ボタンを全開にした男の姿が一つ。
金色の毛髪、眼鏡の下にはまるで鉄表皮のような顔が覗いている。
そして彼はウルフウッドが言うように彼は人間ではない。
身体の各所には銃弾による傷跡があるが、どこからも血は流れ出ていない。
只、機械的な動作で二人の後を追いかけるその人物の名は――番長。
そう。彼は番長。とある科学者が己の全てを注ぎ込み、開発された鋼鉄の番長。
「無駄ダ。コノマシン番長カラ逃ゲルコトハ――0%ダ」
マシン番長がゆっくりと、右腕を前に突き出す。
碌な予備動作も取らずに発射、ウルフウッドの身体を吹っ飛ばした際に使用した同じ攻撃。
“ライトニングフィスト”とコード設定された、拳の弾丸とも言うべき鉄拳が放たれる。
対象はウルフウッドと新八の内――狙いやすい方だ。
やがて着弾、片方の人間の身体が更に前方へ弾き飛ばされる。
その人物は――眼鏡を掛けていた。
「おい! しっかりせい、坊主ーーーーー!!」
そう。マシン番長の拳を貰った者は志村新八であった。
◇     ◇     ◇
「データ照合……完了、該当データ0。
対象ノ戦闘力未知数ダガ排除行動ヲ続行。
同時ニ、コノ状況ノ分析モ依然実行中」
マシン番長が瞬きもせずに呟く。
彼はこの殺し合いに呼ばれる前に、既に別の闘いに参加していた。
教育・法・社会・国民など、様々な問題を抱えた日本を建て直すため、とある組織が企てた一大プロジェクト。
それが23区計画――東京都23区を舞台に行われる、一般人には秘匿とされた闘い。
“番長”と呼ばれる者同士が最後の一人になるまで戦い合う。
最後に残った番長、生き残った者には最高の権力が与えられる。
マシン番長の開発者、Dr.鍵宮はその権力を己の手中に収めるべく彼を造った。
銃弾すらも通さない、強固なボディから繰り出される打撃の一撃一撃はあまりにも多い。
加えて数多くの内蔵武器も有し、今まで数多くの番長を倒してきた。
その中には金剛番長、卑怯番長、剛力番長の名前も――彼が受けた指令は全て達成した。
修理のためにDr.鍵宮のラボに戻り、彼は新たな指令を貰い、その場所へ向かっていた。
その筈であった。
「現在位置不明。参考ト成リ得ルデータ、未ダナシ。
更ニ確認。ヤハリ俺ノスペックハ低下シテイル。原因ハ恐ラクアノ二人、解決手段ハ……不明」
しかし、周囲を見渡せばデータベースにない光景が浮かんでいる。
加えてこれまたデータにない二人組による宣言だ。
マシン番長には彼らの指示を聞く理由がない。
だが、この場からはなんとしてでも抜け出さなければならない。
何故なら自分は指令を貰ったのだから。
突如、自分のニューロコンピューターに生じた原因不明のノイズ。
それを取り除くには指定された部屋へ向かうことが必要らしい。
故にマシン番長はその目的を達成するためにこの殺し合いに乗った。
あまりにも早い決断。それもその筈だ。
この殺し合いとやらが続く限り、自分は此処に居るしかない。
先程から確かに計測出来た、明らかなパワーダウン。
以前の状態との比較――解析不明な首輪の存在があからさまに怪しい。
だが、この首輪が自分に掛った負荷に関係があるのかは未だ断定できないが、判る事はある。
それはあの二人組は、本気でこの殺し合いとやらを仕組んでいる事だ。
そうでなければ此処まで用意周到に手を回す事もないだろう。
よって、確認した地図の外へ出ようとしても何らかの妨害を受ける可能性がある。
少なくともこの首輪が付いている限りは。
だから、シンプルにかつこの殺し合いを終わらせるには――破壊されず、最後まで立ち続ければいい。
マシン番長は冷静に結論を下し、そして再び動き出す。
先程一撃を喰らわせた少年ではなく、真っ黒な服を着た男の方へ。
焦りを顔に滲ませながら何かを叫んでいる、ウルフウッドの懐へ飛び込み――放った。
「障害ノ排除行動ヲ続行スル」
右脚を振り上げ、ウルフウッドの胸板へ叩き込む。
確かな衝撃を感じ、何かが砕ける音を聞き、そしてウルフウッドから苦しげな嗚咽が漏れた。
やがて強力な衝撃を殺しきれず、ウルフウッドもまた新八のように、逆の九の字の形で吹き飛ばされた。
◇     ◇     ◇
「……無茶苦茶なヤツやで、ホンマになぁ……!」
仰向けに身を投げ出される事となったウルフウッドがさも恨めしそうに言葉を吐いた。
直ぐに起き上がり、立ちあがる。
未だズキズキと胸が痛み、口元からは赤い雫が流れたが致命傷ではない。
このくらいの傷は今まで何度も体感している。
だが、傷の再生速度が普段よりも遅くなっている。
これがあの二人組の言っていた、“細工”なのだろうか。
真偽はわからないが確認している暇はない。
無残にも、先程命を落としてしまった、名前も知らない少年。
気の毒な事だとは思いながらも、ウルフウッドはこの場をどう切り抜けるか考える。
その時、ふと声が聞こえてきた。
「……だ、大丈夫ですか?」
「……なんや、生きてたんか。すまん、心の中でサヨナラしてたわ」
「お、おいィィィィィ! 勝手に殺すなーーーーーー! そりゃ、結構痛かったですけど……」
それは紛れもなく新八の声。勢いから察するに瀕死というわけでもない。
ウルフウッドと新八には知る由もないが、マシン番長の力に掛けられた制限の存在。
更にマシン番長と新八の距離がかなり空いていた事も幸いであった。
流石に全くの無傷というわけにいかず、全身には擦り傷があり、着衣の下の背中には青々しい痣が出来ている。
そして状況が好転したというわけでもない。
ゆっくりと、周囲を観察しながらマシン番長が二人に近づく。
いきなり襲いかかってきたところを考えると、今更会話でどうにかなる相手ではないだろう。
ならば力ずくでどうにかするしかない。
「坊主、今なら間に合う……さっさと逃げろ。あとはワイがなんとかしたる」
「なっ……なにを言ってるんですか――」
「死にたないやろ」
必要なのは考えるよりも行動を起こす事だ。
先ずウルフウッドが取った行動は酷な言い方をすれば厄介払い。
お世辞にも特に秀でた能力がないと思われる新八は戦力として期待できない。
ウルフウッド自身も使い慣れたパニッシャーはなく、デザートイーグルと心許ない。
新八が何か言おうとするのを強引に割り込む。
意図的に使った口調による言葉。やはり新八は黙り出した。
そうだ。それでいい。死ぬのは誰だって怖い――気軽に命を賭けろなど自分が言えるわけがない。
自分はあいつとは違う。そんな簡単に命を危険に晒すことなど出来はしない。
きっとこの少年もそうだろう。
確信にすらも似た推測。だが、あくまでもそれはウルフウッドの視点だけから見た話であった。
「……当たり前じゃないですか。だけど、それ以上に怖いんですよ……」
何かが違う。
未だ名前も教え合っていない新八に対する見方がぐるりと変わった。
当たり前――その言葉は理解できる。自分も良く実感出来る。
しかし、怖いとは一体何がだろうか。
目の前の襲撃者が、死ぬのが怖いならさっさと逃げ出せばいい。
心のどこかで、そう願う自分が確かに居ることが痛いほど判った。
出来れば死んで欲しくはない。目の前で死なれては只、気が滅入るためか。
自分の事である筈なのに明確な結論が出る事はない。
されど、所詮、新八とは碌な知り合いでもなく、それ以上の感情を抱く必要はない。
確かに必要がない筈であった。その筈だ――なのに揺れてしまう。
そしてウルフウッドの視線に促されるように、新八の口が開かれてゆく。
「もし、何処かに姉上や銀さん達が居て、こいつに襲われたりでもしたら……もし誰かが殺されるコトになったら……。
そう思うと、僕はどうしようもなく怖くなってくるんです……」
ウルフウッドは思わず息を呑んだ。
新八の声は震えている、みっともないくらいにだ。
だが、ウルフウッドは何の変哲もない新八から、“何か”を感じ取った。
言葉では言い表せない、一種の信念にも似たような強い感覚があった。
あのヴァッシュにも通ずる“何か”がウルフウッドを揺さぶる。
目の前の恐怖よりも、自分の信じるものを守るための心意気。
人はそれをきっと――
「だから、僕は逃げたくない……ここであいつを止めたい……!」
魂。今は既に牙を抜かれたにも等しい、“侍”の魂とも言うだろう。
勿論、江戸という街も時代を知らないウルフウッドに侍が判るわけもない。
特に頷くようなこともなく、ウルフウッドは無言のまま新八の言葉を聞く。
「……おまえ、姉ちゃんが居るんか?」
「居ますよ、一人だけ。大切な姉上が……」
「そうか……」
翻すように視線を新八から背ける。
何を思っているのだろうか。
答えはウルフウッド本人にしか知りようがない。
故にウルフウッドの次の言葉を、行動を予期出来る者は――誰も居なかった。
「あ!ち、ちょっと!! それは僕のものですよ!?」
新八が思わず慌てて抗議する。
見ればウルフウッドは唐突に、あるものを引っ手繰っていた。
それはデイバック、この殺し合いの参加者に等しく配られた支給品。
但し、ウルフウッドが手に取ったものは新八が言うように、新八の分だ。
先程、弾き飛ばされた際の衝撃により、新八の元から離れたデイバック。
ウルフウッドがそれを半ば横取りの形で奪っていた。
「ああ、わかっとる。
まあ、それよりもや……これでおんどれの身を守るものは何もなくなったな」
新八には一瞬、ウルフウッドが何を言っているのかわからなかった。
未だ碌に確認をしていなかったが、もしかすれば強力な武器があったかもしれない。
だが、今はウルフウッドの言うとおり新八は丸腰の状態だ。
まさか自分の命が惜しいがために、こんな暴挙に出たのだろうか。
笑い顔すらも浮かべ、新八の方を振り返るウルフウッド。
思わず耐え難い怒りを新八は覚えてしまう。
しかし、やがてウルフウッドが再び前を向き、言葉を続けた。

「だからや……逃げろ。こんな薄情者は身捨ててさっさとな……ヴァッシュのアホにでも助けてもらえ」
思考の歯車がしっかりと噛み合った気がした。
先程のぶっきらぼうな言葉とは違う。
今、ウルフウッドが呟くように吐いた言葉には一つの意思があった。
背中を向け、顔を見なくともなんとなくわかった。
いや、それは最早確信の域にも近い。
逃げろ――その言葉に、新八は不器用な優しさが込められていると感じた。
暫しの思考を経て、新八はゆっくりと歩き出す。
「……あなたの名前を教えてください」
「ケチな名前や、知ったところでおまえの足しにはならん」
「それでも、それでも教えてください……お願いします……!」
何故だろうか。
さっきまで感じていた怒りも今ではどこかへ消えていた。
そして自分は何故急にこの人の名前が知りたくなったのだろうか。
密かに新八は疑問を抱く。
何故、こんなにも強く知りたいのか。
違う。わからないというのは嘘だ。
新八は思う。きっと自分は認めたのだと。
敢えて汚い役を被ろうとも、どんなに不器用な方法しか判らなくても――
「……ニコラス・D・ウルフウッド、通りすがりの巡回牧師や――覚えておけ、クソガキが」
ウルフウッドが信頼に値する人間だと、認める事が出来たのだから。
そして新八は走り出す。誰か、頼りになる人を連れて来て――出来ればヴァッシュなる男を。
不器用な振る舞いしか出来ない、ウルフウッドを助けに戻る為に。
新八は後ろを振り返ることなく走り去った。
◇     ◇     ◇
「理解不能。オ前ノ行動ハ俺ニハ理解出来ナイ」
新八が猛然と駆けだした後、程なくしてマシン番長がウルフウッドに問いかける。
どうやら先ずはウルフウッドから始末するつもりらしい。
一歩一歩、確実にウルフウッドへにじり寄る。
ウルフウッドが新八を逃がした行為が理解出来ないらしいが、特に表情にも変化はない。
そもそもその答えを希望しているのかどうかすらも判別がつきにくい程だ。
だが、生憎、そんな事はウルフウッドにとって何も興味がない事であった。
新八のデイバックを何やら漁っていたが、ふいに顔を上げる。
「知るか。おんどれにわかってもらうつもりはない、わかろうとすんな」
マシン番長と同じように、ウルフウッドの方も近づく。
デイバックを引っさげて、但し、自分の方は捨て置いて。
新八の分のデイバックを右肩に掛け、歩いていゆく。
「ワイはワイや。誰にもワイのコトを知ってもらう必要はない。
同情なんて真っ平や、ワイはワイがしたいと思ったコトをする」
「同情? ソノ言語データハ知ッテイル、俺ハオ前ヲ憐レンデハイナイ」
「黙っとけ、わけわからん機械風情が……人間に口出しすんなや」
ウルフウッドとマシン番長。
互いに近づきあった一人と一体だが、遂にはすれ違い、ある程度の位置で立ち止まった。
背中を向けながら、マシン番長はウルフウッドのデータ計算を、ウルフウッドは己の戦意を高める。
最早言うまでもない。一触即発の状況、直ぐにでも戦闘行為へ転がりそうな瞬間。
一秒がとてつもなく長い、永遠にも似たような感覚。
けれども、その時間がいつまでも続くわけがない。
沈黙を破ったのは――マシン番長の方だ。
振り向きざまに右腕を翳し、ライトニング・フィストを放つ。
「何?」
だが、ライトニング・フィストが何かに打ち止められる。
筋肉の類ではない。
何か金属のようなもので止められた感触があった。
右腕を引き戻し、マシン番長がアイセンサーでその正体を確認する。
其処に映ったものは――1本の十字架。
「出来ればこいつは使いとうなかったが……しゃあない、贅沢は言ってられへん」
否、ウルフウッドが手にしているそれは十字架そのものではない。
只単に十字架の形を取った兵器だ。
白色が施された銃身、髑髏を模した握り手を中心として、円状に予備弾丸を装備。
マシン番長に向けられた銃口は今にも獲物を喰らうかのように、鋭利な突起を突き出している。
怨敵マスターCが使用していた個人兵装。
「さぁ――やったろうやないか。ぶっ壊したるから覚悟せいよ、このポンコツが」
あの男の装備――数奇な運命の巡りあわせに今だけは感謝する。
姉上が居る。血のつながった身内が居るという新八。
同情しているのだろうか。
わからない、どうにもわからないが――彼を死なせる事はどうにもしたくなかった。
故にウルフウッドはマシン番長との闘いへ身を投じ始める。
只、それだけの事であった。

【I-4/中心部/深夜】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム)】
[状態]: 疲労(中) 胸部に痛み
[装備]:マスターCの銃(残弾数100%)@トライガン・マキシマム、デザートイーグル(残弾数8/12)@現実
[道具]:マスターCの銃の予備弾丸4セット デザートイーグルの予備弾丸32発 不明支給品0〜2
[思考]
1: 殺し合いには乗らない。
2: 目の前のマシン番長を倒す。
3: 取り敢えずヴァッシュが居るか探索する。
[備考]
※参戦時期は少なくともマスター・Cの生存を知る前(原作7巻)
【I-4/中心部/深夜】
【マシン番長@金剛番長】
[状態]:良好
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜2(未確認)基本支給品一式
[思考]
1: 殺し合いに勝ち残り脱出。Dr.鍵宮の指令を遂行する
2: ウルフウッドの殺害
[備考]
※参戦時期は四番長(居合、卑怯、剛力、念仏)殺害後、Dr.鍵宮の指示で月美の部屋に行くまでの途中。
【I-4/北部/深夜】
【志村新八@銀魂】
[状態]: 背中に痛みあり
[装備]:
[道具]:
[思考]
1:殺し合いはしない
2:誰か頼りになる人と共に戻り、ウルフウッドを助ける。
[備考]
※何処へ向かうは次の方にお任せします。

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GAME START 志村新八 036:イノチ/タマシイ/ココロ
GAME START ニコラス・D・ウルフウッド 036:イノチ/タマシイ/ココロ
GAME START マシン番長 036:イノチ/タマシイ/ココロ

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