◇◆◇◆◇
遠くに佇むビルの上に先ほど殺し損ねた少女が見える。
足元からは群れたクリオネのように透けている腕がわらわらと湧き出てうねり伸びた。
伝わる威圧感はレベル3幻妖や大虚と遜色ないが。NPCモンスターでないためか彼らよりずっと濃く冷たいもののように感じられた。
足元からは群れたクリオネのように透けている腕がわらわらと湧き出てうねり伸びた。
伝わる威圧感はレベル3幻妖や大虚と遜色ないが。NPCモンスターでないためか彼らよりずっと濃く冷たいもののように感じられた。
「なんだあれは?」
「亀井美嘉――貴様が殺し損ねた女が持つ支給品だ。
聞いていた以上だな。建物1つ程度なら軽く潰せそうだ。」
際限なく伸び続けている透明の腕はビルの屋上から周囲の屋根を覆いつくしていく。
本物はダム一帯を縄張りにしていたS級の悪霊だ。制限を受けても建物数件は射程内である。
クラゲやクリオネのような透明感ある白い腕に捕まれ烏はガアガアと暴れていたが、前触れなく胴体に大きな穴が開き羽を撒き散らしながらどろりと溶けていく。
生き物がつぶれる瞬間というのは見ていて気分がいいものではない。流石の羅暁も思わず眉をひそめた。
「亀井美嘉――貴様が殺し損ねた女が持つ支給品だ。
聞いていた以上だな。建物1つ程度なら軽く潰せそうだ。」
際限なく伸び続けている透明の腕はビルの屋上から周囲の屋根を覆いつくしていく。
本物はダム一帯を縄張りにしていたS級の悪霊だ。制限を受けても建物数件は射程内である。
クラゲやクリオネのような透明感ある白い腕に捕まれ烏はガアガアと暴れていたが、前触れなく胴体に大きな穴が開き羽を撒き散らしながらどろりと溶けていく。
生き物がつぶれる瞬間というのは見ていて気分がいいものではない。流石の羅暁も思わず眉をひそめた。
「お前の言っていた面白いこととはあれか?」
セレブロが美嘉を守った理由があの怪物を扱えるというのならまだ納得できる。
だがそれは、いつでも殺せていた小娘が厄介な敵に変わることと同義だ。
セレブロが美嘉を守った理由があの怪物を扱えるというのならまだ納得できる。
だがそれは、いつでも殺せていた小娘が厄介な敵に変わることと同義だ。
「わざわざ敵を増やして何が楽しい。
曲がりなりにもここは殺し合いの場だ。縛れもできない怪物を増やして何の意味がある?」
「だからお前はつまらん。
検証実験を経てこそ、面白い光景は見られる。
ノノミの口車に乗る形になるが、無力な地球人を怪物に変えるのはなかなかにそそるな。今度俺もやってみよう。」
「……変えるだと?
あの怪物は支給品だと言ったのはお前だろう。
ただ扱うだけでは人と変わらん。その身を捧げ一体となり始めて変えられるのではないか。」
変わるというのなら内部に取り込んでこそだろう。
生命戦維と一体化している羅暁はそう考える。
同じく生命戦維を内に宿す纏流子や針目縫が、まがい物の神衣や極制服を扱うだけの鬼龍院皐月やその配下よりも上位であるように。
曲がりなりにもここは殺し合いの場だ。縛れもできない怪物を増やして何の意味がある?」
「だからお前はつまらん。
検証実験を経てこそ、面白い光景は見られる。
ノノミの口車に乗る形になるが、無力な地球人を怪物に変えるのはなかなかにそそるな。今度俺もやってみよう。」
「……変えるだと?
あの怪物は支給品だと言ったのはお前だろう。
ただ扱うだけでは人と変わらん。その身を捧げ一体となり始めて変えられるのではないか。」
変わるというのなら内部に取り込んでこそだろう。
生命戦維と一体化している羅暁はそう考える。
同じく生命戦維を内に宿す纏流子や針目縫が、まがい物の神衣や極制服を扱うだけの鬼龍院皐月やその配下よりも上位であるように。
「……初めて意見が合ったな。
そうだ、今のままではあの小娘は強大な力を持つだけの雑魚。
だから今から変える。俺の『個性』と鬼方カヨコの『念』を使ってな。」
「何を言っている?」
「これ以上伝える義理はない。」
言うべきことは言い切った。
そう言っているかのようにセレブロはペダニウムゼットンの角を赤く光らせ、腕のに円環状の黒い稲妻を走らせたと思うと、燃え滾る火球を作り出した。
そうだ、今のままではあの小娘は強大な力を持つだけの雑魚。
だから今から変える。俺の『個性』と鬼方カヨコの『念』を使ってな。」
「何を言っている?」
「これ以上伝える義理はない。」
言うべきことは言い切った。
そう言っているかのようにセレブロはペダニウムゼットンの角を赤く光らせ、腕のに円環状の黒い稲妻を走らせたと思うと、燃え滾る火球を作り出した。
「ところで鬼龍院羅暁。
貴様は俺の熱線をわざわざ氷で防いだ。
糸クズのことなど俺は知らんが……ああいう繊維は良く燃えるのではなかったか?」
般若のような顔をした羅暁が何か言う前に、セレブロは手から火球――ぺダニウムメテオを撃ちだした。
本来の羅暁の耐久力ならば、火球程度受けても再生できるだろう。
だが夜島学郎に対する精神仮縫いのように自身の再生能力にも制限がある可能性を捨てた羅暁ではない。
事実として再生能力は落ちていたし、OGIKUBOの宇宙パトロールの前に姿を見せた生命戦維は火で燃えたという実例もある。
そんなトンチキな世界のことを当然羅暁は知らないが、どちらにせよ生身で受けるには危険すぎた。
貴様は俺の熱線をわざわざ氷で防いだ。
糸クズのことなど俺は知らんが……ああいう繊維は良く燃えるのではなかったか?」
般若のような顔をした羅暁が何か言う前に、セレブロは手から火球――ぺダニウムメテオを撃ちだした。
本来の羅暁の耐久力ならば、火球程度受けても再生できるだろう。
だが夜島学郎に対する精神仮縫いのように自身の再生能力にも制限がある可能性を捨てた羅暁ではない。
事実として再生能力は落ちていたし、OGIKUBOの宇宙パトロールの前に姿を見せた生命戦維は火で燃えたという実例もある。
そんなトンチキな世界のことを当然羅暁は知らないが、どちらにせよ生身で受けるには危険すぎた。
「氷の剣では分が悪いな。だが、剣はもう一振り、あるぞぉ!
エンハンス・アーマメント!!」
もう1つの支給品、天穿剣の先端に陽光が収束し、セレブロの火球に勝るとも劣らない熱を帯びる。
その神器の性質は『鏡』。
剣先に陽光を集約し撃ちだす兵器。
一閃と共に放たれたレーザーが火球を両断し、飛び散った火の粉がわずかに羅暁の肌を焼いた。
開かれた視界の先には、怪獣の姿は影も形も無かった。
エンハンス・アーマメント!!」
もう1つの支給品、天穿剣の先端に陽光が収束し、セレブロの火球に勝るとも劣らない熱を帯びる。
その神器の性質は『鏡』。
剣先に陽光を集約し撃ちだす兵器。
一閃と共に放たれたレーザーが火球を両断し、飛び散った火の粉がわずかに羅暁の肌を焼いた。
開かれた視界の先には、怪獣の姿は影も形も無かった。
「……テレポートで逃げたか。」
天穿剣によって反らされた火球が周囲の建造物をメラメラと燃やし尽くす。
煙が立ち上る街に、羅暁の足跡だけがかつかつと響いた。
天穿剣によって反らされた火球が周囲の建造物をメラメラと燃やし尽くす。
煙が立ち上る街に、羅暁の足跡だけがかつかつと響いた。
「どこに行ったかは……聞くまでもないな。」
◇◆◇◆◇
「順調そうだな。」
「おかげさまで。貴女が羅暁を抑えてくれていたので楽でしたよ。
ああ変身は解かないことを勧めますよ。貴女も射程内ですので。」
「おかげさまで。貴女が羅暁を抑えてくれていたので楽でしたよ。
ああ変身は解かないことを勧めますよ。貴女も射程内ですので。」
いまや戦場の中心となったビルの屋上。
ノノミの言葉通りに隣に姿を現したペダニウムゼットンに向けて透明の腕が何本も迫ってきていた。
あらゆる相手が憎き継母に見えるという性質を持つ黒阿修羅は、亀井美嘉のの持つ香水の香りで敵味方を区別する。
セレブロの――ひいては鬼方カヨコの肉体はその影響を受けていない。
ノノミの言葉通りに隣に姿を現したペダニウムゼットンに向けて透明の腕が何本も迫ってきていた。
あらゆる相手が憎き継母に見えるという性質を持つ黒阿修羅は、亀井美嘉のの持つ香水の香りで敵味方を区別する。
セレブロの――ひいては鬼方カヨコの肉体はその影響を受けていない。
「難儀な能力だな。」
ペダニウムゼットンが片腕を掲げると、その全身を橙色のバリアが覆った。
透明の腕ががりがりとバリアをひっかく中、亀井美嘉の背後にまでたどり着いたセレブロは肩に手を当てた。
ペダニウムゼットンが片腕を掲げると、その全身を橙色のバリアが覆った。
透明の腕ががりがりとバリアをひっかく中、亀井美嘉の背後にまでたどり着いたセレブロは肩に手を当てた。
「検証実験に入る。」
怪獣の腕のまま肩に手を当てると、数秒と経たずに手を離した。
一見するとただ肩に手を当てただけだが、この短時間でセレブロの持つ能力は行使されていた。
怪獣の腕のまま肩に手を当てると、数秒と経たずに手を離した。
一見するとただ肩に手を当てただけだが、この短時間でセレブロの持つ能力は行使されていた。
「終わったぞ。後はゆっくり楽しませてもらう。」
「ええどうぞ、貴女とはまた仲良くしたいものです。
次に会う時が敵でないことを祈りますよ。」
「それは貴様とグリオン次第だ。
面白ければ手を貸してやる。つまらなければ殺すがな。」
「ええどうぞ、貴女とはまた仲良くしたいものです。
次に会う時が敵でないことを祈りますよ。」
「それは貴様とグリオン次第だ。
面白ければ手を貸してやる。つまらなければ殺すがな。」
そう言い残しペダニウムゼットンの姿は消えた。
バリアに張り付いていた透明の腕たちが抑えを失いバランスを崩し倒れこみ、屋上の床をガリガリ削る。
うねうねと蠢く腕を踏み潰し、ノノミは面白いものが見れると期待を込めて街を見下ろす。
バリアに張り付いていた透明の腕たちが抑えを失いバランスを崩し倒れこみ、屋上の床をガリガリ削る。
うねうねと蠢く腕を踏み潰し、ノノミは面白いものが見れると期待を込めて街を見下ろす。
「さてあとは
――藤乃代葉を殺すだけですね。」
――藤乃代葉を殺すだけですね。」
亀井美嘉には聞こえないように。呟きながら。
◇◆◇◆◇
「おいおいおいおいおいおいなんだよありゃあ!」
向かいのビルから湧き出る透明の腕を前に、代葉にとどめを刺すことさえ忘れPoHは逃げた。
遠目からやってきた藤乃代葉と亀井美嘉を見た時、明らかに無力な一般人の亀井美嘉から嫌な予感がしていたことを思い出す。
屋根の上の戦場から飛び降りて、物陰を動きながら無人の街を駆けだした。
背後を透明の腕が追ってきている様子はないが、だからと言って足を止める理由はなかった。
向かいのビルから湧き出る透明の腕を前に、代葉にとどめを刺すことさえ忘れPoHは逃げた。
遠目からやってきた藤乃代葉と亀井美嘉を見た時、明らかに無力な一般人の亀井美嘉から嫌な予感がしていたことを思い出す。
屋根の上の戦場から飛び降りて、物陰を動きながら無人の街を駆けだした。
背後を透明の腕が追ってきている様子はないが、だからと言って足を止める理由はなかった。
「あの予感の正体はこれか!なんてもん支給されてやがるあの小娘!」
背後でぐしゃりぐしゃりと音が立てられる。藤乃代葉が遺した式神が透明の腕に捕まれると体に穴が開いて消えていた。
式神だから死骸も残らないことは烏を切り伏せたPoHも知っている。だがその潰され方は握りつぶされたにしては妙だ。
ビルに視線を移すと、傷だらけの少年霊がスケッチブックに何かを描き、その動きに合わせて掴まれた烏が潰れていた。
背後でぐしゃりぐしゃりと音が立てられる。藤乃代葉が遺した式神が透明の腕に捕まれると体に穴が開いて消えていた。
式神だから死骸も残らないことは烏を切り伏せたPoHも知っている。だがその潰され方は握りつぶされたにしては妙だ。
ビルに視線を移すと、傷だらけの少年霊がスケッチブックに何かを描き、その動きに合わせて掴まれた烏が潰れていた。
「あの手はあくまで拘束。本命はあのスケッチブックか!
……てことは見られたら敗けじゃねえか!ふざけやがって!」
屋根から降りた判断にまだ己の勘は腐っちゃいないと確信する。
3階から見下ろす立場の以上遮蔽物のない屋根の上に居れば死んでいただろう。
……てことは見られたら敗けじゃねえか!ふざけやがって!」
屋根から降りた判断にまだ己の勘は腐っちゃいないと確信する。
3階から見下ろす立場の以上遮蔽物のない屋根の上に居れば死んでいただろう。
「流石にありゃあゲームにならねえ。バランス調整間違えてんじゃねえの?」
嫌味を吐いても始まらないが、吐かないとやってられなかった。
どうにか烏に気を取られているうちに逃げなければ。
方向も道筋も知らないままPoHは走る。
アバターだからか息切れや消耗はほとんどないが、ただ走るだけでは不安は振り切れない。
走力のあるガットゥーゾが全滅させことを本気で後悔し始めていた。
嫌味を吐いても始まらないが、吐かないとやってられなかった。
どうにか烏に気を取られているうちに逃げなければ。
方向も道筋も知らないままPoHは走る。
アバターだからか息切れや消耗はほとんどないが、ただ走るだけでは不安は振り切れない。
走力のあるガットゥーゾが全滅させことを本気で後悔し始めていた。
ひたすらに走り続け、PoHは小路を抜けて大通りまで進んできていた。
未知を曲がると同時に、道に倒れこむ身長ほどある巨大な白い仮面と目が合った。
夜島学郎と交戦していたギリアンの残骸。
既に両足が叩き切られ、黒い布のような全身には無数の刀傷が残っている。不気味な白い仮面もヒビだらけだ。
だがそれでもこの怪物は生きていた。PoHに気づいたギリアンはもぞもぞとミノムシのように体をくねらせPoHを喰おうと口を広げた。
未知を曲がると同時に、道に倒れこむ身長ほどある巨大な白い仮面と目が合った。
夜島学郎と交戦していたギリアンの残骸。
既に両足が叩き切られ、黒い布のような全身には無数の刀傷が残っている。不気味な白い仮面もヒビだらけだ。
だがそれでもこの怪物は生きていた。PoHに気づいたギリアンはもぞもぞとミノムシのように体をくねらせPoHを喰おうと口を広げた。
「しまった……まだこいつがいやがったか!
あのクソガキも殺すならきっちり殺しとけ!」
のたうち回るギリアンを前に、悪態をついてPoHは引き返す。
ギリアンの後ろからはあの透明な腕が迫っていたし。別方向に進む道は夜島学郎とギリアンの戦闘の結果か、電柱や瓦礫の類でほとんど塞がってしまっていた。
あのクソガキも殺すならきっちり殺しとけ!」
のたうち回るギリアンを前に、悪態をついてPoHは引き返す。
ギリアンの後ろからはあの透明な腕が迫っていたし。別方向に進む道は夜島学郎とギリアンの戦闘の結果か、電柱や瓦礫の類でほとんど塞がってしまっていた。
「ガアアアアアアアア」
透明の腕に捕まれ潰されているのか。悲鳴を上げてギリアンがのたうち回る。
足元を見るとガリガリと音を立て穴が開いている。夜島学郎から受けた傷もあり、そう長くは無いだろうなとPoHは思った。
透明の腕に捕まれ潰されているのか。悲鳴を上げてギリアンがのたうち回る。
足元を見るとガリガリと音を立て穴が開いている。夜島学郎から受けた傷もあり、そう長くは無いだろうなとPoHは思った。
「そういえば、あのクソガキはどこ行ったんだ?」
交戦していた夜島学郎の姿が見えないことをPoHは訝しむ。
耳をそばだてるとうねうねと迫る無数の腕が蠢く音の中、PoHにはなれた剣戟音が確かに聞こえた。
意外なことに元来た道を引き返すたびに、剣戟の音は強く響いている。
剣戟音がはっきり伝わる場所まで来てPoHは目を丸くした。
先ほどまでPoHがいた場所に、右足を失った藤乃代葉を守るように夜島学郎が立っていた。
交戦していた夜島学郎の姿が見えないことをPoHは訝しむ。
耳をそばだてるとうねうねと迫る無数の腕が蠢く音の中、PoHにはなれた剣戟音が確かに聞こえた。
意外なことに元来た道を引き返すたびに、剣戟の音は強く響いている。
剣戟音がはっきり伝わる場所まで来てPoHは目を丸くした。
先ほどまでPoHがいた場所に、右足を失った藤乃代葉を守るように夜島学郎が立っていた。
「ガアアアアアアアア!!!」
PoHが見上げた先で、夜島学郎は無数に迫る透明の腕から藤乃代葉を守ろうと剣を振り続けている。
「――――――――。」
その背にしがみ付く藤乃代葉が、必死に何かを叫んでいた。
距離と剣戟音もあり何を言っているかは分からなかったが。透明の腕に対する恐怖は無いように見えた。
ガールフレンドを守る剣士だなんてなかなかロマンチックだなとPoHは思う。日本人じゃなかったらエールの1つでも送っていたかもしれない。
ブラッキーと閃光を思い出すシチュエーションだったが、それ以上にその姿が何か妙だとPoHの勘が訴えていた。
PoHが見上げた先で、夜島学郎は無数に迫る透明の腕から藤乃代葉を守ろうと剣を振り続けている。
「――――――――。」
その背にしがみ付く藤乃代葉が、必死に何かを叫んでいた。
距離と剣戟音もあり何を言っているかは分からなかったが。透明の腕に対する恐怖は無いように見えた。
ガールフレンドを守る剣士だなんてなかなかロマンチックだなとPoHは思う。日本人じゃなかったらエールの1つでも送っていたかもしれない。
ブラッキーと閃光を思い出すシチュエーションだったが、それ以上にその姿が何か妙だとPoHの勘が訴えていた。
「あの透明の腕はあくまで拘束で、本命はスケッチブックによる塗りつぶし。じゃねえのか?」
顎に手を当てて、ふーむと脳を働かせる。
PoHにとって亀井美嘉の手で現れた少年霊は怪物だったし、その認識は寸分の狂いもいなく当たっていた。
透明の腕の正体が本命の攻撃の前の拘束であることも。黒阿修羅の攻撃射程が視界であることも。当たっていた。
顎に手を当てて、ふーむと脳を働かせる。
PoHにとって亀井美嘉の手で現れた少年霊は怪物だったし、その認識は寸分の狂いもいなく当たっていた。
透明の腕の正体が本命の攻撃の前の拘束であることも。黒阿修羅の攻撃射程が視界であることも。当たっていた。
「だったらなんで――あの小僧は潰れてねえんだ?
そもそも――あのクールビューティちゃんもなんでまだ生きてんだ?」
夜島学郎の剣戟は遠目から見てもなかなかの速度だ。SAOの攻略組にも引けを取らない。
だが、建物を丸ごと覆うような透明の腕を相手に1人で捌ききれるとは思えない。
使用者の少女――亀井美嘉がコントロールしているようにも見えなかった。
そもそも――あのクールビューティちゃんもなんでまだ生きてんだ?」
夜島学郎の剣戟は遠目から見てもなかなかの速度だ。SAOの攻略組にも引けを取らない。
だが、建物を丸ごと覆うような透明の腕を相手に1人で捌ききれるとは思えない。
使用者の少女――亀井美嘉がコントロールしているようにも見えなかった。
そもそも――夜島学郎が対処する腕は、ギリアンを襲った腕の数より明らかに少ない。
理由は――藤乃代葉を狙う腕が少ないから?
否、亀井美嘉(プレイヤー)による操作(リモート)ではない以上、あの少年霊本人に意思がない限り反射(オート)でしている動きだ。
そんな中途半端な反応はするか?
あの場で夜島学郎が相手しているのは、たまたま近くを通っただけの腕で。
理由は――藤乃代葉を狙う腕が少ないから?
否、亀井美嘉(プレイヤー)による操作(リモート)ではない以上、あの少年霊本人に意思がない限り反射(オート)でしている動きだ。
そんな中途半端な反応はするか?
あの場で夜島学郎が相手しているのは、たまたま近くを通っただけの腕で。
「あのクールビューティ―ちゃんは……あの化け物の攻撃の対象外なんじゃねえのか?」
普段のPoHであるならば。人心を利用し殺意の波を荒々しく蠢めかれす地獄の王子ならばその可能性に真っ先に気づいただろう。
藤乃代葉が呼び出した烏が潰されたことで、PoHの頭からその可能性が欠落していた。
――黒阿修羅の呪いは、香水を吹きかけた藤乃代葉は対象にしない。
カラクリは分からないまでも。PoHはその事実に気づいた。気づいてしまった。
普段のPoHであるならば。人心を利用し殺意の波を荒々しく蠢めかれす地獄の王子ならばその可能性に真っ先に気づいただろう。
藤乃代葉が呼び出した烏が潰されたことで、PoHの頭からその可能性が欠落していた。
――黒阿修羅の呪いは、香水を吹きかけた藤乃代葉は対象にしない。
カラクリは分からないまでも。PoHはその事実に気づいた。気づいてしまった。
自分の直感はまだ死んでいない。
無策ではなく藤乃代葉を盾にして逃げれば確実だとPoHは代葉を標的に定めたが、今度は別の問題が浮上する。
ビルから溢れた腕は既に周囲数軒を繁殖した苔のようにびっしりと覆っていた。
下手に近づいては抑えられ、烏やギリアンのように潰れて死ぬのは時間の問題に見える。
無策ではなく藤乃代葉を盾にして逃げれば確実だとPoHは代葉を標的に定めたが、今度は別の問題が浮上する。
ビルから溢れた腕は既に周囲数軒を繁殖した苔のようにびっしりと覆っていた。
下手に近づいては抑えられ、烏やギリアンのように潰れて死ぬのは時間の問題に見える。
隠れ進みながら、苛立ちを覚えるPoH。
・・・・・・・・・
その目の前に――赤黒いワープホールが現れたのは。PoHにとっても前触れなく起きた事態だった。
・・・・・・・・・
その目の前に――赤黒いワープホールが現れたのは。PoHにとっても前触れなく起きた事態だった。
◇◆◇◆◇
鬼気迫るとは、今の夜島学郎のことをいうのだろう。
「フジノサンニ……チカヅクナァ!!!」
ギリアンとの戦いで霊衣は傷つき、肩から血を流している。
何より強く刀を握りこんで手のひらと指先がボロボロだ。
それでも、学郎は透明の腕に刃を振るい続ける。
その背にしがみ付く代葉が、歯の奥を食いしばり泣き出しそうな目で叫んだ。
ギリアンとの戦いで霊衣は傷つき、肩から血を流している。
何より強く刀を握りこんで手のひらと指先がボロボロだ。
それでも、学郎は透明の腕に刃を振るい続ける。
その背にしがみ付く代葉が、歯の奥を食いしばり泣き出しそうな目で叫んだ。
「夜島くん!止まって!
よく見て!その手は私を狙ってない!!」
「ガアアアアアアアア!!!!」
よく見て!その手は私を狙ってない!!」
「ガアアアアアアアア!!!!」
代葉の言う通り香水をかけられた藤乃代葉を、黒阿修羅は味方と判断している。
夜島学郎が正気であれば、透明の腕は代葉を避けるように二手に分かれていることがわかるだろう。
代葉がしがみ付く学郎もまた安全圏であり、学郎が切り捨てる手はたまたま近くを進んでいただけのものに過ぎない。
だが、精神仮縫いを受けた学郎は思考ができない。代葉の声も届かない。
夜島学郎が正気であれば、透明の腕は代葉を避けるように二手に分かれていることがわかるだろう。
代葉がしがみ付く学郎もまた安全圏であり、学郎が切り捨てる手はたまたま近くを進んでいただけのものに過ぎない。
だが、精神仮縫いを受けた学郎は思考ができない。代葉の声も届かない。
「……仕方ない。こうなったら」
覚悟を決めた代葉がリュックから取り出したものは、ノノミの持つケミーカードとはまた異なる。くすんだ色合いのタロットのようなカード。
数秒のためらいの後、夜島学郎の背に向けてそのカードを叩きつけると、カードを中心に黒色の魔法陣が展開された。
覚悟を決めた代葉がリュックから取り出したものは、ノノミの持つケミーカードとはまた異なる。くすんだ色合いのタロットのようなカード。
数秒のためらいの後、夜島学郎の背に向けてそのカードを叩きつけると、カードを中心に黒色の魔法陣が展開された。
代葉の使ったアイテムの名は、クラスカード。
狂戦士の金型(クラス)が収められた魔術礼装。
代葉がずっと使わなかったのは、バーサーカーというクラスのデメリット――狂化スキルによる理性の喪失を嫌ったからだ。
だが、今の理性を失った夜島学郎に使えば、あるいは――
狂戦士の金型(クラス)が収められた魔術礼装。
代葉がずっと使わなかったのは、バーサーカーというクラスのデメリット――狂化スキルによる理性の喪失を嫌ったからだ。
だが、今の理性を失った夜島学郎に使えば、あるいは――
「狂気と狂気が合わさって打ち消し合える……。
そう都合よくいかなくても……夜島くんを縛る何かに打ち勝てるかもしれない!」
そう都合よくいかなくても……夜島くんを縛る何かに打ち勝てるかもしれない!」
洗脳を解くことのできるアイテムがあればよかったが、そう都合よくはいかない。
自分で言っていて笑っちゃいそうなほどか細い望みだったが、今の代葉に出来ることが他に何も思いつかなかった。
だからその言葉を言うことだって、後悔はない。
自分で言っていて笑っちゃいそうなほどか細い望みだったが、今の代葉に出来ることが他に何も思いつかなかった。
だからその言葉を言うことだって、後悔はない。
・・・・・・・・・
「令呪をもって命じる!
バーサーカーのカードに宿る英霊!夜島君を助けるために力を貸して!!」
代葉の声に応じて痣が輝き。クラスカードから噴き出すエネルギーが夜島学郎に凝縮される。
「令呪をもって命じる!
バーサーカーのカードに宿る英霊!夜島君を助けるために力を貸して!!」
代葉の声に応じて痣が輝き。クラスカードから噴き出すエネルギーが夜島学郎に凝縮される。
式神の制限を解き放つために1画。バーサーカーのカードに重ねてもう一画。
残り一角がゲームエリアにおける命綱である以上代葉はもう令呪を使えないが、後悔はなかった。
夜島学郎を助けるために、出来る力をすべて使いたい。その選択は正しい白の中にある。
残り一角がゲームエリアにおける命綱である以上代葉はもう令呪を使えないが、後悔はなかった。
夜島学郎を助けるために、出来る力をすべて使いたい。その選択は正しい白の中にある。
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
夜島学郎を包むように魔法陣から光が吹き上がり、左目に宿る焔のような装飾から赤い稲妻のような線が走る。
怪異の祖と契約した英雄の肉体に、半人半神の英雄の性質が重なるようにその姿が変化する。
漆黒の盡器は巨大な斧剣へと姿を変える。
ただ姿が変わっただけなのに沸き上がる圧力が段違いに増していた。
しがみ付いていた代葉が衝撃に吹き飛ばされるが、その顔は晴れやかなものだった。
夜島学郎を包むように魔法陣から光が吹き上がり、左目に宿る焔のような装飾から赤い稲妻のような線が走る。
怪異の祖と契約した英雄の肉体に、半人半神の英雄の性質が重なるようにその姿が変化する。
漆黒の盡器は巨大な斧剣へと姿を変える。
ただ姿が変わっただけなのに沸き上がる圧力が段違いに増していた。
しがみ付いていた代葉が衝撃に吹き飛ばされるが、その顔は晴れやかなものだった。
「オレ……おれハ……いったい何が。
穂波さんとあの子は……どうなって。」
頭を抱える学郎の声に、次第に色が戻っていく。
彼の脳内では脳を縛る生命戦維と脳を侵す狂化の魔力が互いに喰いあっている状態だ。
アメリカにおける偽りの聖杯戦争で呼び出されたバーサーカーのように、狂気と狂気が打ち消し合うことは決してゼロではない。
ましてや令呪を使ったのだ、夜島学郎が正気に戻るのは必然と言えた。
穂波さんとあの子は……どうなって。」
頭を抱える学郎の声に、次第に色が戻っていく。
彼の脳内では脳を縛る生命戦維と脳を侵す狂化の魔力が互いに喰いあっている状態だ。
アメリカにおける偽りの聖杯戦争で呼び出されたバーサーカーのように、狂気と狂気が打ち消し合うことは決してゼロではない。
ましてや令呪を使ったのだ、夜島学郎が正気に戻るのは必然と言えた。
後ろ姿だけでも今までの暴走していた姿とはまるで違う。
思わず目を潤ませる代葉だが、夜島君の前では凛とした自分でいたいという思いが涙を拭わせた。
思わず目を潤ませる代葉だが、夜島君の前では凛とした自分でいたいという思いが涙を拭わせた。
「夜島くん!!」
「その声は……もしかして藤乃さん?どうしてここに?」
「その声は……もしかして藤乃さん?どうしてここに?」
聞き馴染みのある声に夜島学郎の意識が一気に覚めた。
もしかして藤乃さんが助けてくれたのか?
だとしたらまず初めに謝らないと。
もしかして藤乃さんが助けてくれたのか?
だとしたらまず初めに謝らないと。
いつも通りの申し訳なさと、友と再会できる喜びを胸に振り返る夜島学郎の目の前で。
「「え?」」
「もしかして、……また俺なにか、やっちゃいましたぁ?」
「もしかして、……また俺なにか、やっちゃいましたぁ?」
――藤乃代葉の胸から深々と、黒曜の剣が突き刺さっていた。
口と心臓から血を吐き出し、代葉の目が急速に光を失っていく。
その姿を受け入れられない学郎は、脳が目の前の事態を理解できずしばし茫然と立ち尽くす。
学郎と代葉の姿がツボに入ったのか、ギャハハと下劣な笑みを黒の剣士は浮かべていた。
その姿を受け入れられない学郎は、脳が目の前の事態を理解できずしばし茫然と立ち尽くす。
学郎と代葉の姿がツボに入ったのか、ギャハハと下劣な笑みを黒の剣士は浮かべていた。
夜島学郎の目には剣士の背後の空間に一瞬だけ赤黒い穴のようなものが見えたが。瞬きを終える頃には消えていた。
だからこの男が何者なのか。どうやって透明の腕が蠢く屋根の上に現れたのか。
学郎にも代葉にも分からない。
だからこの男が何者なのか。どうやって透明の腕が蠢く屋根の上に現れたのか。
学郎にも代葉にも分からない。
藤乃代葉の体から香る香水が、無数にうごめく腕をPoHに近づけさせない。
「あ……あ……。」と苦しそうに頭を抱える学郎に代葉は手を伸ばしたが、PoHが後ずさるたびにマクアフィテルに刺さった代葉の体も後退していく。
伸ばした手は届かず、だらりと力なく垂れ下がった。
「あ……あ……。」と苦しそうに頭を抱える学郎に代葉は手を伸ばしたが、PoHが後ずさるたびにマクアフィテルに刺さった代葉の体も後退していく。
伸ばした手は届かず、だらりと力なく垂れ下がった。
「ご……めん。美嘉。夜島くん。」
その御免がいったい何に向けられたものだったのか。
それを知るすべは、もう誰にも残っていなかった。
それを知るすべは、もう誰にも残っていなかった。
【藤乃代葉@鵺の陰陽師 死亡】
◇◆◇◆◇
――――――スキルの発動条件を満たしました。
◇◆◇◆◇
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
剣を抜いた夜島学郎の右目は色を失い涙を流し、対する左目では炎がどす黒く燃えていた。
狂気と狂気を打ち消し合う藤乃代葉の策は成功した。
令呪を行使したことでギリギリ成立した奇跡は、極めて危ういバランスで成り立っていた。
藤乃代葉の死亡により動揺した今の学郎の不安定な情緒では、そんな安定など起こらない。
狂気と狂気を打ち消し合う藤乃代葉の策は成功した。
令呪を行使したことでギリギリ成立した奇跡は、極めて危ういバランスで成り立っていた。
藤乃代葉の死亡により動揺した今の学郎の不安定な情緒では、そんな安定など起こらない。
バーサーカーのカードの影響はいまだ健在。
学郎以上に大きく膨れ上がった斧剣を狂戦士は振るう。
刃が弧を描きPoHへと迫るが……体に当たる寸前で止まった。
学郎以上に大きく膨れ上がった斧剣を狂戦士は振るう。
刃が弧を描きPoHへと迫るが……体に当たる寸前で止まった。
PoHが向けた刃の先端には、マクアフィテルに刺さったままの藤乃代葉の肉体があった。
「どうした?ヤクでも決めたみてえなツラしてもお友達は斬れねえってかぁ!?」
「オマエェ!!!!!!!!!」
「おうおういいじゃねえか!猿みてえにキャンキャン泣いてよぉ!
日本人(サル)が一匹死んで泣けるとはなぁ!
もったいないってのはジャップの美徳だなぁ!安上がりで羨ましいぜオイ!!」
「モウお前ハ喋るなァァァァ!!!」
「オマエェ!!!!!!!!!」
「おうおういいじゃねえか!猿みてえにキャンキャン泣いてよぉ!
日本人(サル)が一匹死んで泣けるとはなぁ!
もったいないってのはジャップの美徳だなぁ!安上がりで羨ましいぜオイ!!」
「モウお前ハ喋るなァァァァ!!!」
麻薬ジャンキーにでもなったような白目をむいた笑顔で、PoHは笑った。
頭の中を尋常でないアドレナリンが駆け巡っている。夜島学郎の一手一手がはっきり見えた。
攻撃に合わせて剣にぶら下がった藤乃代葉がPoHによって差し込まれる。
人間の盾とでもいうべき下劣な手を使う黒の剣士を前に、学郎の怒りが際限なく湧き上がる。
血液が別の何かに入れ替わったような感覚が全身にある、歯を食いしばるたびに胸の内で何かが燃え上がる。
頭の中を尋常でないアドレナリンが駆け巡っている。夜島学郎の一手一手がはっきり見えた。
攻撃に合わせて剣にぶら下がった藤乃代葉がPoHによって差し込まれる。
人間の盾とでもいうべき下劣な手を使う黒の剣士を前に、学郎の怒りが際限なく湧き上がる。
血液が別の何かに入れ替わったような感覚が全身にある、歯を食いしばるたびに胸の内で何かが燃え上がる。
「お前だケは!!オマエハァァァァァ!!!!」
「やれるもんならやってみな。
お友達のキレ―な顔をザックリ斬れるもんならなぁ!!!」
「やれるもんならやってみな。
お友達のキレ―な顔をザックリ斬れるもんならなぁ!!!」
だが、事態は好転しなかった。
なんど刃を振るっても、PoHは狙いすませたように代葉の体を斜線上に持ち出してくる。
ポールを前に興奮する犬をおちょくるように、藤乃代葉という極上の玩具が夜島学郎の前にぶら下げられる。
アバターの腕力でブンブンと振るわれる代葉の血液がびちゃびちゃと飛び散り。目を見開いた死に顔はケチャップをこぼしたように全身が赤く色づいている。
その姿に死者への尊厳など感じられない。
もはやその様は戦いではなく。凌辱にも等しかった。
PoHも長い戦いで疲弊しているが、バーサーカーのカードを使う夜島学郎の方が明らかに消耗が著しかった。
もはや都市中を襲う黒阿修羅の腕もPoHを襲わない。
夜島学郎が倒れるまで、この凌辱は続くと思われた。
なんど刃を振るっても、PoHは狙いすませたように代葉の体を斜線上に持ち出してくる。
ポールを前に興奮する犬をおちょくるように、藤乃代葉という極上の玩具が夜島学郎の前にぶら下げられる。
アバターの腕力でブンブンと振るわれる代葉の血液がびちゃびちゃと飛び散り。目を見開いた死に顔はケチャップをこぼしたように全身が赤く色づいている。
その姿に死者への尊厳など感じられない。
もはやその様は戦いではなく。凌辱にも等しかった。
PoHも長い戦いで疲弊しているが、バーサーカーのカードを使う夜島学郎の方が明らかに消耗が著しかった。
もはや都市中を襲う黒阿修羅の腕もPoHを襲わない。
夜島学郎が倒れるまで、この凌辱は続くと思われた。
「許さない。」
――亀井美嘉の声が戦場に響くまでは。
横から入り込んだ美嘉の腕ががっしりとPoHの手首を掴んだ。
手首のスナップを強引に抑えこまれたPoHは、苛立たし気にその手の先を睨む。
手首のスナップを強引に抑えこまれたPoHは、苛立たし気にその手の先を睨む。
「あぁなんだお前。今いいとこ……ろ……」
「キみハ…………」
「キみハ…………」
動きを止めた男たちの前で、美嘉は首を曲げPoHを見やる。
その姿はPoHのようなアバターでもなければ、学郎のような戦闘服でもない。
ベージュ色のブレザーに胸元に青いリボンをつけた城州北高校の制服は。都市部としては適切でも殺し合いという環境にはそぐわない。
そんな殺意や敵意とはかけ離れた格好のまま。殺意と敵意をむき出しにして亀井美嘉は冷たく言い放つ。
その姿はPoHのようなアバターでもなければ、学郎のような戦闘服でもない。
ベージュ色のブレザーに胸元に青いリボンをつけた城州北高校の制服は。都市部としては適切でも殺し合いという環境にはそぐわない。
そんな殺意や敵意とはかけ離れた格好のまま。殺意と敵意をむき出しにして亀井美嘉は冷たく言い放つ。
「許さない」
その姿に、思わず一歩PoHは後ずさった。
光を失ったように真っ黒に染まるその眼は、どう見ても正気のそれではない。
向けれられた目は覇王十代と同じ。絶望に冷えきり壊れた者の底知れぬ色。
否、覇王のように無関心な絶望ではない。
濃縮された絶望全てが、PoHに向けられている。
光を失ったように真っ黒に染まるその眼は、どう見ても正気のそれではない。
向けれられた目は覇王十代と同じ。絶望に冷えきり壊れた者の底知れぬ色。
否、覇王のように無関心な絶望ではない。
濃縮された絶望全てが、PoHに向けられている。
「許さない」
メカ丸を纏っているのならいざ知らず、女学生の腕力でアバターどころか生身のPoHを止めることさえできないはずだ。
にもかかわらず。PoHの腕は動かない。
ぎりぎりと音を立てて首が締め上げられる。
亀井美嘉の異常な握力にPoHが苦悶の声を上げても、美嘉は握り続けることを止めない。
にもかかわらず。PoHの腕は動かない。
ぎりぎりと音を立てて首が締め上げられる。
亀井美嘉の異常な握力にPoHが苦悶の声を上げても、美嘉は握り続けることを止めない。
「許さない」
美嘉の全身から、さっきまで学郎やPoHを襲っていた透明の腕がシュルシュルと無数に湧き上がる。
いや、その腕は透明ではなかった。
透明だった腕が墨でも垂らしたように真っ黒に染まり、学郎やPoHではなく美嘉の全身をぐるぐると覆う。
いつしか美嘉の全身が漆黒の腕に覆われ、無数の腕が寄り集まった4本の巨大な腕が美嘉の背中から生えていた。
いや、その腕は透明ではなかった。
透明だった腕が墨でも垂らしたように真っ黒に染まり、学郎やPoHではなく美嘉の全身をぐるぐると覆う。
いつしか美嘉の全身が漆黒の腕に覆われ、無数の腕が寄り集まった4本の巨大な腕が美嘉の背中から生えていた。
「許さない」
PoHを握る腕も漆黒に覆われ。黒く肥大した手の中から獣が噛み砕くような嫌な音がした。
マクアフィテルを手放し強引に手を引き抜くと、PoHの手首は交通事故にでもあったかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
残る美嘉の右手にはタッパーが握られている。
どこからともなくタッパーの中に肉団子が出てきたかと思えば、数本の黒い腕が歯を生やしてもりもりと喰いつくしていた。
マクアフィテルを手放し強引に手を引き抜くと、PoHの手首は交通事故にでもあったかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
残る美嘉の右手にはタッパーが握られている。
どこからともなくタッパーの中に肉団子が出てきたかと思えば、数本の黒い腕が歯を生やしてもりもりと喰いつくしていた。
「許さない」
腕が肉団子を喰う度に、美嘉から生える黒い腕の数は増えていく。
すでに顔も、体も、腕も漆黒の腕に覆われた。既に亀井美嘉の面影は何処にもない。
この場の人間は誰一人知る由もないが、その姿は月蝕尽絶黒阿修羅の第三形態『纏』そのものだった。
すでに顔も、体も、腕も漆黒の腕に覆われた。既に亀井美嘉の面影は何処にもない。
この場の人間は誰一人知る由もないが、その姿は月蝕尽絶黒阿修羅の第三形態『纏』そのものだった。
「許さない」
腕でぐるぐる巻きになった顔の中。
唯一亀井美嘉の面影を残す左目が、光を無くした星のような目でPoHを見ていた。
唯一亀井美嘉の面影を残す左目が、光を無くした星のような目でPoHを見ていた。
◆◇◆◇◆
「あの偽キリトさんのおかげで随分楽させてもらいました。
ありがとうございますね。どこの誰だか知りませんが★」
ありがとうございますね。どこの誰だか知りませんが★」
ノノミの計画とは、いわば亀井美嘉を怪物に『錬成』することであった。
魔王グリオンが生み出した悪意人形であるノノミは、冥黒の三姉妹がマルガムを生み出す被験者を見つけ出せることと同様悪意に敏感だ。
夜島学郎の中に秘められた、人類の怨敵である幻妖の祖の黒いエネルギーも。
鬼方カヨコの持つ黒き王のメダルの底知れぬ可能性も。
亀井美嘉の持つS級の悪霊も、感知することは容易かった。
夜島学郎の中に秘められた、人類の怨敵である幻妖の祖の黒いエネルギーも。
鬼方カヨコの持つ黒き王のメダルの底知れぬ可能性も。
亀井美嘉の持つS級の悪霊も、感知することは容易かった。
優先度が高いのは支給品ではなく己の力として黒いエネルギーを有する夜島学郎。
だが必死に追跡し調べ上げた情報は、夜島学郎を引き込むことは不可能だという事実だけだ。
既に羅暁の手で脳を縛られた彼を味方に引き込むことは、羅暁というグリオンや冥黒王に並ぶ危険人物に喧嘩を売るに等しい。
だが必死に追跡し調べ上げた情報は、夜島学郎を引き込むことは不可能だという事実だけだ。
既に羅暁の手で脳を縛られた彼を味方に引き込むことは、羅暁というグリオンや冥黒王に並ぶ危険人物に喧嘩を売るに等しい。
早々にその選択肢を放棄し次に当たった鬼方カヨコもセレブロの支配下にあったが、ステータスタグで見た2つのソードスキルを前に天恵が下りた。
――鬼方カヨコに支給されていた『念能力』。星を継ぐもの(ベンジャミンバトン)。
仲間の死をトリガーに、その能力を受け継ぐ屍を背負う覚悟の証。
ソードスキルとなったため念能力以外も継承できるが、代わりに得た力は一度しか使えず。永続化するには令呪の対価が必要となった。
鬼方カヨコならば使えたであろうその力は、その体を奪ったセレブロにとっては持ち腐れもいいところだ。
何せ仲間意識がない。仲間を作る気もなければこれからできることも無いだろう。
仲間の死をトリガーに、その能力を受け継ぐ屍を背負う覚悟の証。
ソードスキルとなったため念能力以外も継承できるが、代わりに得た力は一度しか使えず。永続化するには令呪の対価が必要となった。
鬼方カヨコならば使えたであろうその力は、その体を奪ったセレブロにとっては持ち腐れもいいところだ。
何せ仲間意識がない。仲間を作る気もなければこれからできることも無いだろう。
だがこのスキルを亀井美嘉が持ち、なおかつ藤乃代葉が死ねばどうなるだろうか。
ノノミは考えた。
夜島学郎と藤乃代葉が同質の力を持っていることは似た装束のこともあって見ればわかった。名簿で隣り合っていることも根拠として働いた。
幻妖の祖と契約し黒いエネルギーを宿す夜島学郎。
同質であるはずの藤乃代葉の能力を得て、亀井美嘉が持つ黒いエネルギーを同じように内に宿させることが出来れば、ホシノを上回る素晴らしい手駒になるのではないかと。
ノノミは考えた。
夜島学郎と藤乃代葉が同質の力を持っていることは似た装束のこともあって見ればわかった。名簿で隣り合っていることも根拠として働いた。
幻妖の祖と契約し黒いエネルギーを宿す夜島学郎。
同質であるはずの藤乃代葉の能力を得て、亀井美嘉が持つ黒いエネルギーを同じように内に宿させることが出来れば、ホシノを上回る素晴らしい手駒になるのではないかと。
ノノミの計画を面白がったセレブロは、己に支給されたソードスキルにて亀井美嘉にその能力を”譲渡”した。
――セレブロが持つその力の名は、巨悪の名を冠する個性『オール・フォー・ワン』。
奪える範囲にソードスキルを含んだ調整版の『個性』により与えられた『念』は、抵抗なく美嘉に混ざりこんだ。
奪える範囲にソードスキルを含んだ調整版の『個性』により与えられた『念』は、抵抗なく美嘉に混ざりこんだ。
仲間意識がないセレブロとは違い。弱く優しい、だからこそ協調できる亀井美嘉には仲間がいた。
黒の剣士によって成された仲間の死をもって『錬成』が完了した。
黒の剣士によって成された仲間の死をもって『錬成』が完了した。
ノノミの勘違いは、幻妖と契約し力を得る技能は、学郎ら陰陽師なら誰もが持つものだと考えたこと。
ノノミの幸運は――藤乃代葉と亀井美嘉の不運は、藤乃代葉が文字通り夜島学郎と同じ力を持っていたということ。
ノノミの幸運は――藤乃代葉と亀井美嘉の不運は、藤乃代葉が文字通り夜島学郎と同じ力を持っていたということ。
亀井美嘉の不幸は、悪意に目をつけられたこと。
藤乃代葉の死で動揺しむき出しとなった美嘉の心に、星を継ぐもの(ベンジャミンバトン)が作用した。
継いだ星は代葉の特異体質。幻妖と契約しその力を扱う希少な才能。
後天的なソードスキルへと変質した力は、美嘉の隣に立つ悪霊を契約対象と定めた。
継いだ星は代葉の特異体質。幻妖と契約しその力を扱う希少な才能。
後天的なソードスキルへと変質した力は、美嘉の隣に立つ悪霊を契約対象と定めた。
藤乃代葉の能力は、本来彼女の持つ盡器に幻妖の肉体を取り込むものだ。
だがそもそもの話として、亀井美嘉に盡器などない。
その代わりとしてなのか、藤乃家の持つ特異体質まであわせて継承したのかは不明だが。
黒阿修羅の肉体は抵抗の末、亀井美嘉の肉体の中に入り込んだ。
体に入った異物はソードスキル無くしては制御できない。
そう判断した美嘉の体が、ベンジャミンバトンの対価として自然と令呪を切った。
だがそもそもの話として、亀井美嘉に盡器などない。
その代わりとしてなのか、藤乃家の持つ特異体質まであわせて継承したのかは不明だが。
黒阿修羅の肉体は抵抗の末、亀井美嘉の肉体の中に入り込んだ。
体に入った異物はソードスキル無くしては制御できない。
そう判断した美嘉の体が、ベンジャミンバトンの対価として自然と令呪を切った。
「ダメ押しにもう1つ。グリオン様のお言葉を捧げましょう。
――冥黒に染まれ。」
――冥黒に染まれ。」
令呪の赤い光と、湧き上がる冥黒の瘴気。
その両方が収まる頃にはノノミの計画は完遂され。北の星に影は落ちた。
亀井美嘉も月蝕尽絶黒阿修羅さえも望まぬまま。殺意に歪んだ契約は成された。
その両方が収まる頃にはノノミの計画は完遂され。北の星に影は落ちた。
亀井美嘉も月蝕尽絶黒阿修羅さえも望まぬまま。殺意に歪んだ契約は成された。
「許さない」
美嘉の喉を震わせる音は、美嘉の口から出た者とは思えないほど冷たかった。
黒の剣士を殺す。
ただその願いを燃やし続ける。冥黒の北星となって。
亀井美嘉はPoHの前に躍り出た。
黒の剣士を殺す。
ただその願いを燃やし続ける。冥黒の北星となって。
亀井美嘉はPoHの前に躍り出た。
◆◇◆◇◆
「うがぁぁぁぁ!!!こんのクソガキ!!!」
腕を失ったPoHは少しでも離れようと、今度は屋根を飛び越え逃げ去った。
亀井美嘉の変貌した怪物の標的が自分であることなど、誰がどう見ても明白だ。
マクアフィテルの刺さった代葉を抱えて茫然とする学郎をよそに、美嘉もPoHを追いかけんと動き出す。
腕を失ったPoHは少しでも離れようと、今度は屋根を飛び越え逃げ去った。
亀井美嘉の変貌した怪物の標的が自分であることなど、誰がどう見ても明白だ。
マクアフィテルの刺さった代葉を抱えて茫然とする学郎をよそに、美嘉もPoHを追いかけんと動き出す。
「この姿なら――あのクソ狼の姿なら逃げられるんじゃねえか!」
もはやなりふり構ってなどいられないと、PoHは変身の指輪に魔力の塊の中身を流し込んだ。
住宅街から離れ屋根の道が立ち消えると同時に、飛び降りざまの姿が四足の魔獣ガットゥーゾのものへと変わった。
NPCを連れてくるどころか「キリトとしてふるまう」命令すら無視することになるが、命あっての物種だ。
ガットゥーゾの走力で駆け抜けるPoHだったが、何度も曲がりひたすら走り。撒けたと思い振り返り鳥肌が立った。
もはやなりふり構ってなどいられないと、PoHは変身の指輪に魔力の塊の中身を流し込んだ。
住宅街から離れ屋根の道が立ち消えると同時に、飛び降りざまの姿が四足の魔獣ガットゥーゾのものへと変わった。
NPCを連れてくるどころか「キリトとしてふるまう」命令すら無視することになるが、命あっての物種だ。
ガットゥーゾの走力で駆け抜けるPoHだったが、何度も曲がりひたすら走り。撒けたと思い振り返り鳥肌が立った。
「キィリィトォォォォ!!!!!!」
嘆くように叫ぶ亀井美嘉が、左目を見開いて迫っていた。
2階ほどの高さに浮かぶ美嘉は、背後から伸びる4本の手を動かして器用にPoHを追いかける。
その姿は蜘蛛の化け物のようだ。
巨大な腕が地面を握るたびに家屋や地面が音を立てて抉れていく。怪獣映画のワンシーンのような光景を前に、PoHから戦う選択肢は完全に消えた。
嘆くように叫ぶ亀井美嘉が、左目を見開いて迫っていた。
2階ほどの高さに浮かぶ美嘉は、背後から伸びる4本の手を動かして器用にPoHを追いかける。
その姿は蜘蛛の化け物のようだ。
巨大な腕が地面を握るたびに家屋や地面が音を立てて抉れていく。怪獣映画のワンシーンのような光景を前に、PoHから戦う選択肢は完全に消えた。
「ふざけんな!あんな化け物まともに相手してられるか!」
万全ならまだしも、片腕を失い剣を失った今のPoHでは歯向かっても死ぬだけだ。
日本人の小娘を前に尻尾巻いて逃げる屈辱に頭がおかしくなりそうだが。堪える以外に道はない。
4本の腕を伸ばして迫る怪物。しかも捕まったら今度は手首どころか全身がミンチになって肉団子の仲間入りだろう。
覇王と言い藤乃代葉といいこの小娘といい、別世界の日本人は化け物しかいないのではないか。
万全ならまだしも、片腕を失い剣を失った今のPoHでは歯向かっても死ぬだけだ。
日本人の小娘を前に尻尾巻いて逃げる屈辱に頭がおかしくなりそうだが。堪える以外に道はない。
4本の腕を伸ばして迫る怪物。しかも捕まったら今度は手首どころか全身がミンチになって肉団子の仲間入りだろう。
覇王と言い藤乃代葉といいこの小娘といい、別世界の日本人は化け物しかいないのではないか。
息を切らせてPoHは駆ける。
さっき逃げた方角はギリアンが暴れて道が残っていない。
反対側――くしくも覇王が向かった西側に向けて、息を切らせて走る。
さっき逃げた方角はギリアンが暴れて道が残っていない。
反対側――くしくも覇王が向かった西側に向けて、息を切らせて走る。
無人の街が見える――知らん。
遠くで何か巨大な戦いがあったような気配がする――どうでもいい。
真っ白の誰かを通り過ぎた――敵じゃないなら何でもいい。
遠くで何か巨大な戦いがあったような気配がする――どうでもいい。
真っ白の誰かを通り過ぎた――敵じゃないなら何でもいい。
「キィリィトォォォォ!!!!!!」
「なるほど、これは確かに面白い。」
背後で女の声が聞こえた――何が面白れえんだクソババア。
「なるほど、これは確かに面白い。」
背後で女の声が聞こえた――何が面白れえんだクソババア。
走る。走る。走る。走る。
足――特に本来は腕にあたる前足が限界を迎えたころ。目の前に赤黒い穴が浮かんでいることにPoHは気づいた。
自分を藤乃代葉の元に送り届けたワープホールと全く同じものだった。
自分を藤乃代葉の元に送り届けたワープホールと全く同じものだった。
「ありがてえ!悪魔は俺を見放してなかったみてえだなぁ!」
誰に向けたのか感謝を叫ぶと、何の疑いもなくPoHは穴に飛び込んだ。
普段のPoHであるなら間違いなく疑っただろう。
『このワープホールは何なのか』『誰が仕組んだのか』をまず考える。
現にこのワープホールを潜ったせいで藤乃代葉を殺してしまい。亀井美嘉という怪物に追われる羽目になったのだ。
生き急いでくぐる選択など、平時なら間違ってもしなかったはずだ。
だが片腕を失うほどのダメージを追い、逃げ損ねては死ぬばかりの状況で誰が彼の選択を責められようか。
『このワープホールは何なのか』『誰が仕組んだのか』をまず考える。
現にこのワープホールを潜ったせいで藤乃代葉を殺してしまい。亀井美嘉という怪物に追われる羽目になったのだ。
生き急いでくぐる選択など、平時なら間違ってもしなかったはずだ。
だが片腕を失うほどのダメージを追い、逃げ損ねては死ぬばかりの状況で誰が彼の選択を責められようか。
電柱の上から見下ろす翼竜の怪物の姿に、PoHが気づくことは終ぞなかった。
035:■を為す女ー外道賛歌 | 投下順 | 035:■を為す女ー救いがないほど深く |
時系列順 | ||
藤乃代葉 | ||
亀井美嘉 | ||
PoH | ||
夜島学郎 | ||
鬼龍院羅暁 | ||
鬼方カヨコ | ||
セレブロ | ||
冥黒ノノミ |