◆◇◆◇◆
スタジアムの中央に鎮座するサイバー・ダークネス・ドラゴンが倒れる音を聞き、マジアサルファと一ノ瀬宝太郎はこの場の誰よりも警戒心を強めていた。
前提として、あのドラゴンは何かを装備している状態ならまだしも、素の状態であれば華鳥蘭子を除く全員が対処可能ではあった。
仮面ライダーガッチャ―ドでなくなった一ノ瀬宝太郎だろうと、戦闘経験とレジェンドライダーケミーの力を駆使すれば倒すことは出来る。
邪樹右龍がその動きをしない理由は、2枚服用(ギメ)をしたザギを前にそんな余裕が存在しないためだ。
仮面ライダーガッチャ―ドでなくなった一ノ瀬宝太郎だろうと、戦闘経験とレジェンドライダーケミーの力を駆使すれば倒すことは出来る。
邪樹右龍がその動きをしない理由は、2枚服用(ギメ)をしたザギを前にそんな余裕が存在しないためだ。
では、覇王と交戦している2人がサイバー・ダークネス・ドラゴンを倒さなかったのはなぜか。
ドラゴンを挟んで反対側で、右龍がザギと交戦していることはザギの耳障りな声で気づいている。
右龍との共闘どころか、ザギに覇王をぶつけ共倒れにさせることだってできたかもしれない。
ハイリスクではあるがメリットも大きい。その選択をしない理由は右龍と同じ。
――覇王を前に、そんな余裕は何処にもなかったのだ。
ドラゴンを挟んで反対側で、右龍がザギと交戦していることはザギの耳障りな声で気づいている。
右龍との共闘どころか、ザギに覇王をぶつけ共倒れにさせることだってできたかもしれない。
ハイリスクではあるがメリットも大きい。その選択をしない理由は右龍と同じ。
――覇王を前に、そんな余裕は何処にもなかったのだ。
「誰や!右龍のオッサンか?」
客席から巻き上げられた埃が立ち上る叫んだ声には、わずかな期待が込められていた。
サイバー・ダークネス・ドラゴンを倒せるのがザギか右龍である以上、右龍がザギを瞬殺しこちらに駆けつけてくれるというのが最善の流れだ。
反対にザギが倒したのであれば、最悪の場合既に右龍と蘭子は死んでいるかもしれない。
客席から巻き上げられた埃が立ち上る叫んだ声には、わずかな期待が込められていた。
サイバー・ダークネス・ドラゴンを倒せるのがザギか右龍である以上、右龍がザギを瞬殺しこちらに駆けつけてくれるというのが最善の流れだ。
反対にザギが倒したのであれば、最悪の場合既に右龍と蘭子は死んでいるかもしれない。
「よそ見している暇があるのか。」
逡巡する脳に覇王の声が氷の針のように刺さり、周囲全てから殺意が向けられる。
サイバー・ダークネス・ドラゴンが破壊した観客席から暴風と共に飛び散る、金網や椅子の破片たち。
覇王が手をかざすとその全てが針のように変化し、一斉にマジアサルファに向けて降り注ぐ。
無論、錬金術による攻撃だ。
逡巡する脳に覇王の声が氷の針のように刺さり、周囲全てから殺意が向けられる。
サイバー・ダークネス・ドラゴンが破壊した観客席から暴風と共に飛び散る、金網や椅子の破片たち。
覇王が手をかざすとその全てが針のように変化し、一斉にマジアサルファに向けて降り注ぐ。
無論、錬金術による攻撃だ。
「考える余裕さえ与えへんってか!
宝太郎!なんとか避けや!」
後方で援護する錬金術師にそう叫ぶが、粉塵で視界は随分悪い。
届いているか届いてないかは分からないが、届いていることを信じて周囲にバリアを張り身を守る。
黄色のバリアに無数の針が刺さり、小さなひびがそこかしこに生じていた。
針の雨が止むと同時に、マジアサルファは勢いよく飛翔する。
狙いは決めている。
覇王が錬金術を使う度に、指輪でもつけているかのように一点がわずかに光る。その場所だ。
宝太郎!なんとか避けや!」
後方で援護する錬金術師にそう叫ぶが、粉塵で視界は随分悪い。
届いているか届いてないかは分からないが、届いていることを信じて周囲にバリアを張り身を守る。
黄色のバリアに無数の針が刺さり、小さなひびがそこかしこに生じていた。
針の雨が止むと同時に、マジアサルファは勢いよく飛翔する。
狙いは決めている。
覇王が錬金術を使う度に、指輪でもつけているかのように一点がわずかに光る。その場所だ。
「見つけたで!」
怒気と共に拳を炎のような巨大なナックルに変化し、覇王の影を捉える。
メキリと嫌な音をたて、確かな手ごたえがあったが。命中したはずのサルファの表情は芳しくない。
怒気と共に拳を炎のような巨大なナックルに変化し、覇王の影を捉える。
メキリと嫌な音をたて、確かな手ごたえがあったが。命中したはずのサルファの表情は芳しくない。
「やはり妙な感覚だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
衝撃は響いているのに、不思議なほどダメージが少ない。」
「……またかいな!!
何度殴ってもその調子か!」
アナザーガッチャ―ドが頑丈というよりは、何らかの力でダメージを半減されているような。そんな手ごたえの無さがある。
サルファのパンチはマジアベーゼの生み出した巨大な怪物を瞬殺できる威力を誇るが。わずかなダメージこそあれ身じろぎもしないアナザーガッチャ―ドの存在は、変身者が覇王ということもあり見た目以上に恐ろしく見える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
衝撃は響いているのに、不思議なほどダメージが少ない。」
「……またかいな!!
何度殴ってもその調子か!」
アナザーガッチャ―ドが頑丈というよりは、何らかの力でダメージを半減されているような。そんな手ごたえの無さがある。
サルファのパンチはマジアベーゼの生み出した巨大な怪物を瞬殺できる威力を誇るが。わずかなダメージこそあれ身じろぎもしないアナザーガッチャ―ドの存在は、変身者が覇王ということもあり見た目以上に恐ろしく見える。
この耐久の原因はアナザーライダーの性質にある。
アナザーライダーには、同じライダーの力でないと倒すことが出来ない。
これはディケイドのカメンライドやジオウのアーマータイム。本バトルロイヤルの関係者ならゼインカードなどの同じライダーの力ならば問題なく倒せるが。それ以外の相手では倒すに至らず、中の変身者が破壊される様なケースでもなければ変身解除が関の山だ。
アナザーライダーには、同じライダーの力でないと倒すことが出来ない。
これはディケイドのカメンライドやジオウのアーマータイム。本バトルロイヤルの関係者ならゼインカードなどの同じライダーの力ならば問題なく倒せるが。それ以外の相手では倒すに至らず、中の変身者が破壊される様なケースでもなければ変身解除が関の山だ。
この戦場にその性質を知るものなど当然ながら一人もいない。
サルファに分かることは何故だかマジアサルファの攻撃はアナザーガッチャ―ドに効果が薄いということだけで。
覇王に分かる事実は、この女の攻撃は大して警戒する必要がないというただそれだけのことだ。
サルファに分かることは何故だかマジアサルファの攻撃はアナザーガッチャ―ドに効果が薄いということだけで。
覇王に分かる事実は、この女の攻撃は大して警戒する必要がないというただそれだけのことだ。
「それよりもいいのか。
効かない拳を構え続けても、がら空きだぞ。」
右手に構えたデインノモスを振るうアナザーガッチャ―ドのスペックは、スチームホッパーのガッチャ―ドと同等だ。
属性もなく純粋に攻撃力が高い剣である偽剣デインノモスの威力は、覇王十代として振るった時とは比べ物にならないほど増大していた。
とっさに拳で防ぐサルファの体が剣戟に弾かれ地面を転がる。血に濡れたスタジアムを転がりまわったサルファの体は、砂利と血でどろどろに汚れててしまっていた。
ガードした腕がその衝撃で痺れている。どうにか立ち上がるが両腕はだらりと力なく垂れたままだ。
効かない拳を構え続けても、がら空きだぞ。」
右手に構えたデインノモスを振るうアナザーガッチャ―ドのスペックは、スチームホッパーのガッチャ―ドと同等だ。
属性もなく純粋に攻撃力が高い剣である偽剣デインノモスの威力は、覇王十代として振るった時とは比べ物にならないほど増大していた。
とっさに拳で防ぐサルファの体が剣戟に弾かれ地面を転がる。血に濡れたスタジアムを転がりまわったサルファの体は、砂利と血でどろどろに汚れててしまっていた。
ガードした腕がその衝撃で痺れている。どうにか立ち上がるが両腕はだらりと力なく垂れたままだ。
「これは……ちょっとヤバいかもなぁ。」
疲労の色を隠せなくなってきたと、額の汗をぬぐう。
鬼方カヨコとの戦闘の消耗もそこそこに、ザギとの戦闘。そして覇王との戦いを連戦だ。
おまけに相手はこちらの攻撃は効果が薄い。
――宝太郎と蘭子を連れて逃げるか?
――誰か知らんが覇王が乗ってきた黒龍はぶっ飛ばされとる。うちが全力で逃がしたら追いつけんのちゃうか?
疲労からか思考が”逃走”へと切り替わる。
疲労の色を隠せなくなってきたと、額の汗をぬぐう。
鬼方カヨコとの戦闘の消耗もそこそこに、ザギとの戦闘。そして覇王との戦いを連戦だ。
おまけに相手はこちらの攻撃は効果が薄い。
――宝太郎と蘭子を連れて逃げるか?
――誰か知らんが覇王が乗ってきた黒龍はぶっ飛ばされとる。うちが全力で逃がしたら追いつけんのちゃうか?
疲労からか思考が”逃走”へと切り替わる。
サイバー・ダークネス・ドラゴンが巻き上げた粉塵が覇王の剣圧で吹き飛ばされた、視界が戻ったのはその時だ。
悠然と佇むアナザーガッチャ―ドの体に、目立った傷は見られない。
サルファの目に留まったのは、その怪物を狙う2つの影。
悠然と佇むアナザーガッチャ―ドの体に、目立った傷は見られない。
サルファの目に留まったのは、その怪物を狙う2つの影。
『オーズ!フォーゼ!ビルド!』
『ガガガガッチャージバスター!』
「いっけぇ!!!!」
『ガガガガッチャージバスター!』
「いっけぇ!!!!」
ハイテンションな電子音と一ノ瀬宝太郎の叫びが聞こえる。
柱の陰に隠れていた一ノ瀬宝太郎が、ガッチャージガンの引き金を引いた。
矢印のようなエネルギーが激流のようにアナザーガッチャ―ドを襲うが。
不意打ちとするにはフェイントが足りない、その銃撃に気づいた覇王が回避に転ずるが、その移動先がまずかった。
柱の陰に隠れていた一ノ瀬宝太郎が、ガッチャージガンの引き金を引いた。
矢印のようなエネルギーが激流のようにアナザーガッチャ―ドを襲うが。
不意打ちとするにはフェイントが足りない、その銃撃に気づいた覇王が回避に転ずるが、その移動先がまずかった。
「そこです!!!!」
上空から矢のように降ってきた赤いクワガタのような怪物が、赤い炎のようなオーラを纏ったキックを覇王にめがけて叩き込んだ。
胸部に命中した蹴りにのけ反るアナザーガッチャ―ドに、怪物は両足で地団太を踏むようにキックが連続して覇王を襲う。
動きはド素人のそれだが、必死に撃ち込まれるそのキックの威力は随分なもの。
場所を考えると、サイバー・ダークネス・ドラゴンを倒したのもこの怪物だろう。
その声は間違いなく、華鳥蘭子のものだった。
上空から矢のように降ってきた赤いクワガタのような怪物が、赤い炎のようなオーラを纏ったキックを覇王にめがけて叩き込んだ。
胸部に命中した蹴りにのけ反るアナザーガッチャ―ドに、怪物は両足で地団太を踏むようにキックが連続して覇王を襲う。
動きはド素人のそれだが、必死に撃ち込まれるそのキックの威力は随分なもの。
場所を考えると、サイバー・ダークネス・ドラゴンを倒したのもこの怪物だろう。
その声は間違いなく、華鳥蘭子のものだった。
「お前……あの小娘か!」
両腕で蹴りを弾き落とし、反動でアナザーガッチャ―ドは膝をつく。
覇王を蹴り飛ばした怪物は着地に失敗して尻餅をつき、駆け寄った一ノ瀬宝太郎の頭にはクエスチョンを浮かんでいた。
両腕で蹴りを弾き落とし、反動でアナザーガッチャ―ドは膝をつく。
覇王を蹴り飛ばした怪物は着地に失敗して尻餅をつき、駆け寄った一ノ瀬宝太郎の頭にはクエスチョンを浮かんでいた。
「えっと……南さんだよね?なんでマルガムに!?」
「ごめんなさい。宝太郎さん。
ソードスキルを使うとこうなってしまって!
ケミーのみなさんは無事です!」
マルガムに変身しているということは、悪意に吞まれてしまったのだろうか。
そう疑いを抱くことが馬鹿らしくなるほど、蘭子の言動は普段と変わらない。
真っ先にケミーの無事を報告するところなど、実に彼女らしかった。
「ごめんなさい。宝太郎さん。
ソードスキルを使うとこうなってしまって!
ケミーのみなさんは無事です!」
マルガムに変身しているということは、悪意に吞まれてしまったのだろうか。
そう疑いを抱くことが馬鹿らしくなるほど、蘭子の言動は普段と変わらない。
真っ先にケミーの無事を報告するところなど、実に彼女らしかった。
「疑うのは分かります。
でも今は私を信じてください。」
「……分かった。信じるよ。
南さんが悪い人じゃないことは、俺もケミーの皆も知っているから。」
宝太郎の返事に合わせ。手元にあるレジェンドケミーたちも思い思いに音を鳴らす。
声がはっきりと聞こえるわけじゃないが、蘭子を非難する意図はなさそうに見えた。
でも今は私を信じてください。」
「……分かった。信じるよ。
南さんが悪い人じゃないことは、俺もケミーの皆も知っているから。」
宝太郎の返事に合わせ。手元にあるレジェンドケミーたちも思い思いに音を鳴らす。
声がはっきりと聞こえるわけじゃないが、蘭子を非難する意図はなさそうに見えた。
「ところで宝太郎さん。
さっきのキックですが、妙に手ごたえがないような気がしたのですが分かります?」
「そっか……。
なんでかわかんないけどサルファのパンチも効いてない。
錬金術で防いでいるようにも見えないし、多分何かしらのカラクリがあるんだと思う。」
ケミーの力を有するマルガムとは言え、クウガマルガムは仮面ライダーガッチャ―ドではない。
アナザーガッチャ―ドの特性に阻まれ、そのキックは十全の威力を発揮せず、致命傷には程遠かった。
さっきのキックですが、妙に手ごたえがないような気がしたのですが分かります?」
「そっか……。
なんでかわかんないけどサルファのパンチも効いてない。
錬金術で防いでいるようにも見えないし、多分何かしらのカラクリがあるんだと思う。」
ケミーの力を有するマルガムとは言え、クウガマルガムは仮面ライダーガッチャ―ドではない。
アナザーガッチャ―ドの特性に阻まれ、そのキックは十全の威力を発揮せず、致命傷には程遠かった。
「『万物はこれなる一者の改造として生まれうく』。」
次に動いたのは覇王だった。
近くの柱からコンクリの塊が伸びたかと思えば、巨大な鞭のようにしなり宝太郎とクウガマルガムを襲う。
その先端は槍のように尖っている、刺さった地面に拳大の穴が開き、直撃すれば穴の開き場所は自分の胸になるだろう。
地獄への回数券を服用している二人でも、もし臓器まで穴が達したら流石に死ぬことは想像に難くなかった。
次に動いたのは覇王だった。
近くの柱からコンクリの塊が伸びたかと思えば、巨大な鞭のようにしなり宝太郎とクウガマルガムを襲う。
その先端は槍のように尖っている、刺さった地面に拳大の穴が開き、直撃すれば穴の開き場所は自分の胸になるだろう。
地獄への回数券を服用している二人でも、もし臓器まで穴が達したら流石に死ぬことは想像に難くなかった。
「ここは私が!」
宝太郎の前に躍り出るクウガマルガムが、直撃する柱を拳で砕く。
構えもない。握り方も甘い。格闘の基礎の基礎さえなっていないへなへなとしたラッシュだが、地獄への回数券の強化と仮面ライダークウガの持つフィジカルがそのパンチを防御として一線級のものへと昇華させていた。
宝太郎の前に躍り出るクウガマルガムが、直撃する柱を拳で砕く。
構えもない。握り方も甘い。格闘の基礎の基礎さえなっていないへなへなとしたラッシュだが、地獄への回数券の強化と仮面ライダークウガの持つフィジカルがそのパンチを防御として一線級のものへと昇華させていた。
「様変わりしたのは姿だけではないということか。
だが、遅い。」
だがその間にも、覇王の錬金術は継続している。
スタジアムのコンクリなどそれこそ無尽蔵と言っていい。
蘭子が1本砕く間に覇王は槍を3本は生み出せる。
砕き、躱し。砕き、躱し。わずかに掠る攻撃を何とかしのぐ。
体力も動体視力も問題ないが、覇王は自分に近づけないよう2人の動作を誘導しており。槍を避けるたびにどんどん距離が遠のいている。
宝太郎も強化した動体視力とガッチャージガンで捌いてはいるが、捌ききれなくなるのは時間の問題のように思えた。
だが、遅い。」
だがその間にも、覇王の錬金術は継続している。
スタジアムのコンクリなどそれこそ無尽蔵と言っていい。
蘭子が1本砕く間に覇王は槍を3本は生み出せる。
砕き、躱し。砕き、躱し。わずかに掠る攻撃を何とかしのぐ。
体力も動体視力も問題ないが、覇王は自分に近づけないよう2人の動作を誘導しており。槍を避けるたびにどんどん距離が遠のいている。
宝太郎も強化した動体視力とガッチャージガンで捌いてはいるが、捌ききれなくなるのは時間の問題のように思えた。
それでも、クウガマルガムは――蘭子は拳を振るうことを止めない。
宝太郎も逃げるではなく、蘭子の負担を減らそうと回避と迎撃に努める。
砕く、避ける。砕く、避ける。砕く、砕く。掠める。
無限に続きそうな作業の中、2人の目に諦めの色は欠片も見えない。
宝太郎も逃げるではなく、蘭子の負担を減らそうと回避と迎撃に努める。
砕く、避ける。砕く、避ける。砕く、砕く。掠める。
無限に続きそうな作業の中、2人の目に諦めの色は欠片も見えない。
「……うちは何をしとるんや。」
その様子を、ただ一人見つめていたマジアサルファ。
血と砂で汚れたの体で立ち上がり、戦場に向き直る。
その様子を、ただ一人見つめていたマジアサルファ。
血と砂で汚れたの体で立ち上がり、戦場に向き直る。
目の前で戦っているのは、変身できなくなった男と戦う力も無いはずの女だ。
本来ならば、正義のヒロインが身を挺して守るべきはずの相手だ。
彼らが、必死に戦っている。
得体の知れない麻薬(ヤク)を口にし、どういう理屈か怪人になってまでも。
力で支配しようとするクソッタレ相手に、なれない拳を振るい何度も引き金を引いている。
本来ならば、正義のヒロインが身を挺して守るべきはずの相手だ。
彼らが、必死に戦っている。
得体の知れない麻薬(ヤク)を口にし、どういう理屈か怪人になってまでも。
力で支配しようとするクソッタレ相手に、なれない拳を振るい何度も引き金を引いている。
今の自分は何だ?
ザギとの戦いは今は右龍に任せっきりだ。
乱入してきた覇王との戦いも、パンチが効かないくらいで逃げ腰になっていた。
血だまりの中で薄汚れて、無様な姿を晒しているだけの女。
ザギとの戦いは今は右龍に任せっきりだ。
乱入してきた覇王との戦いも、パンチが効かないくらいで逃げ腰になっていた。
血だまりの中で薄汚れて、無様な姿を晒しているだけの女。
「……そうやないやろ。」
不甲斐ない自分への怒り。
誰かに闘わせて諦めようとした自分への怒り。
言葉に出来ない思いが胸の中でマグマのように煮えたぎる。嵐のように荒れ狂う。
不甲斐ない自分への怒り。
誰かに闘わせて諦めようとした自分への怒り。
言葉に出来ない思いが胸の中でマグマのように煮えたぎる。嵐のように荒れ狂う。
「それでもトレスマジアかいな。笑わせるわ。」
はるかも。小夜も戦ってる。
この会場にいる以上、自分の知らない場所で戦い続けているに違いない。
自分たちの知らない誰かを、覇王やザギのような未知の強敵を相手に守って戦っているはずだ。
はるかも。小夜も戦ってる。
この会場にいる以上、自分の知らない場所で戦い続けているに違いない。
自分たちの知らない誰かを、覇王やザギのような未知の強敵を相手に守って戦っているはずだ。
今の自分はあいつらに顔向けできるのか?
正義のヒロインとしてあいつらと肩を並べられると、胸を張って言えるのか?
必死こいて闘っているものの前で、ただそれを見てるだけの女が、そんな名前を背負って?
正義のヒロインとしてあいつらと肩を並べられると、胸を張って言えるのか?
必死こいて闘っているものの前で、ただそれを見てるだけの女が、そんな名前を背負って?
言えないだろう。
言えないだろう。
言えないことが――言えると胸を張れないことが、許せない。
言えないだろう。
言えないことが――言えると胸を張れないことが、許せない。
正義のヒロインは最後に勝つものだ。
この場における勝利とは何か?
決まっている。
ザギも覇王もぶっ潰して、笑ってこのスタジアムから出てやることだ。
この場における勝利とは何か?
決まっている。
ザギも覇王もぶっ潰して、笑ってこのスタジアムから出てやることだ。
そんな最高の勝利を諦めようとして。
ヒロインしての矜持を忘れそうになって。
ヒロインしての矜持を忘れそうになって。
――どの面下げて正義のヒロインを名乗っている?天川薫子!!!
感情に呼応するように、サルファの思いを形にしたように。
――光が、溢れた。
なんて唱えるかは、なぜだかはっきりとわかっていた。
――光が、溢れた。
なんて唱えるかは、なぜだかはっきりとわかっていた。
「真化(ラ・ヴェリタ)」
星が瞬き、世界が優しく強い光に包まれる。
無数の星がサルファを照らし、その姿を次のステージへと変えていく。
この場のサルファは、未だ至っていなかったはずの”あこがれ”の結晶。
正史とは異なる場ではあるが、マジアサルファもとうとうそこへと至った。
無数の星がサルファを照らし、その姿を次のステージへと変えていく。
この場のサルファは、未だ至っていなかったはずの”あこがれ”の結晶。
正史とは異なる場ではあるが、マジアサルファもとうとうそこへと至った。
「綺麗……」
「もしかして、サルファ?」
その光は、宝太郎と蘭子にも届く。
温かく、優しく、それでいて強い光。
「もしかして、サルファ?」
その光は、宝太郎と蘭子にも届く。
温かく、優しく、それでいて強い光。
「何が……」
覇王十代をもってしても、その変化を単なるこけおどしとは言い切ることは出来ない。
ガッチャ―ドの力を奪った時と同じようなエネルギーの奔流が、あの少女一人に起こっている。
なぜだか攻撃が効かなかったので捨て置いた相手だが、そう悠長なことは言ってられないと槍を生み出していた腕をサルファに向ける。
覇王十代をもってしても、その変化を単なるこけおどしとは言い切ることは出来ない。
ガッチャ―ドの力を奪った時と同じようなエネルギーの奔流が、あの少女一人に起こっている。
なぜだか攻撃が効かなかったので捨て置いた相手だが、そう悠長なことは言ってられないと槍を生み出していた腕をサルファに向ける。
「遅いわ。」
奴が浮遊能力を持っているのはこれまでの攻防で分かっている。
速度の上昇……その程度は起きていると見るべきだろう。
覇王からしても見るべき場所は限られる。
速度の上昇……その程度は起きていると見るべきだろう。
覇王からしても見るべき場所は限られる。
「上か!」
「正解や!」
見上げるアナザーガッチャ―ド。
想像通り、マジアサルファはそこにいた。
だが次の瞬間、視界にうつるニヤリと笑うサルファの顔がどんどん陰に隠れていく。
自分の顔が何かに覆われつつあると気づくには、少し遅かった。
「正解や!」
見上げるアナザーガッチャ―ド。
想像通り、マジアサルファはそこにいた。
だが次の瞬間、視界にうつるニヤリと笑うサルファの顔がどんどん陰に隠れていく。
自分の顔が何かに覆われつつあると気づくには、少し遅かった。
「雷霆掌 重(かさね)!」
上空から叩きこまれた稲妻の拳。
不意を突かれたアナザーガッチャ―ドが地面に叩きこまれ、錬金術で操っていたコンクリートの塊もその操作を失い元に戻る。
一息つく宝太郎とクウガマルガムの前に、さっそうと姿を見せたマジアサルファはさっきまでとは別人のような格好をしていた。
上空から叩きこまれた稲妻の拳。
不意を突かれたアナザーガッチャ―ドが地面に叩きこまれ、錬金術で操っていたコンクリートの塊もその操作を失い元に戻る。
一息つく宝太郎とクウガマルガムの前に、さっそうと姿を見せたマジアサルファはさっきまでとは別人のような格好をしていた。
フリフリのいかにもな魔法少女衣装は、シニョンキャップとチャイナドレスからなる中華風の衣装に。
その腕には左右3つずつ6つのリングが備わっており、サルファの意思で自由に動くリングから稲妻で出来た拳が生成されていく。
超攻撃的な彼女の性格がよく表れた、サルファの真化。
――マジアサルファ・電撃天使(ブリッツエンゼル)
その姿に宝太郎と蘭子が目を輝かせるのは、仕方のないことだろう。
その腕には左右3つずつ6つのリングが備わっており、サルファの意思で自由に動くリングから稲妻で出来た拳が生成されていく。
超攻撃的な彼女の性格がよく表れた、サルファの真化。
――マジアサルファ・電撃天使(ブリッツエンゼル)
その姿に宝太郎と蘭子が目を輝かせるのは、仕方のないことだろう。
「かっこいいわサルファさん!!」
「変身したの!!すっげぇ!
これがサルファのガッチャ!!」
「変身しとったんは元からや。
というか蘭子はん。そっちこそどないなっとんねん!」
「ちょっとソードスキルを使うとこうなってしまって。」
「どんなスキルや!」
きゃぴきゃぴと戦場らしからぬ――年相応に騒ぐ彼らを前に。地面にめり込んだアナザーガッチャ―ドは一定のペースでのそりと起き上がる。
サルファのパンチによるダメージは薄いが、地面に叩きつけられたことは堪えたようで。どことなしか警戒と敵意が強まって見えた。
「変身したの!!すっげぇ!
これがサルファのガッチャ!!」
「変身しとったんは元からや。
というか蘭子はん。そっちこそどないなっとんねん!」
「ちょっとソードスキルを使うとこうなってしまって。」
「どんなスキルや!」
きゃぴきゃぴと戦場らしからぬ――年相応に騒ぐ彼らを前に。地面にめり込んだアナザーガッチャ―ドは一定のペースでのそりと起き上がる。
サルファのパンチによるダメージは薄いが、地面に叩きつけられたことは堪えたようで。どことなしか警戒と敵意が強まって見えた。
「それがお前の本気か、魔法少女。」
「おっ、その言い方似合わんなぁ。
――マジアサルファや。よろしゅうな覇王はん。」
「マジアサルファ……。」
ここぞとばかりに魔法少女はその名を告げた。
自分の誇りだと。胸を張って告げた字(あざな)は輝いていた。
「おっ、その言い方似合わんなぁ。
――マジアサルファや。よろしゅうな覇王はん。」
「マジアサルファ……。」
ここぞとばかりに魔法少女はその名を告げた。
自分の誇りだと。胸を張って告げた字(あざな)は輝いていた。
「お前たちは。」
「え?」
「お前たちの名は何だ。」
アナザーガッチャ―ドの視線は、サルファの後ろにいる2人に向いていた。
一度相対した時は、結局名前を聞けずじまい。
何度か呼んでいたかもしれないが、記憶するほどのことではないと切り捨てていた。
「え?」
「お前たちの名は何だ。」
アナザーガッチャ―ドの視線は、サルファの後ろにいる2人に向いていた。
一度相対した時は、結局名前を聞けずじまい。
何度か呼んでいたかもしれないが、記憶するほどのことではないと切り捨てていた。
今の2人はそうではない。
仮面ライダーでなくなっても闘志を燃やし。
戦えないはずなのに覇王から逃げおおせ。
今も本気で殺そうと錬金術を振るっても不遜な強い眼を向け続けている。
仮面ライダーでなくなっても闘志を燃やし。
戦えないはずなのに覇王から逃げおおせ。
今も本気で殺そうと錬金術を振るっても不遜な強い眼を向け続けている。
「一ノ瀬宝太郎。未来の大物錬金術師!」
「華鳥蘭子。
……”東西南北”の、華鳥蘭子です!」
「華鳥蘭子。
……”東西南北”の、華鳥蘭子です!」
「一ノ瀬宝太郎。華鳥蘭子。」
刻み込むように2人の名前を呟くアナザーガッチャ―ド――覇王十代。
贋りの仮面の奥で、覇王は三人の敵の顔を見た。
刻み込むように2人の名前を呟くアナザーガッチャ―ド――覇王十代。
贋りの仮面の奥で、覇王は三人の敵の顔を見た。
「マジアサルファ。一ノ瀬宝太郎。華鳥蘭子。
お前たちを戦士と認め、本気で潰すことにする。」
お前たちを戦士と認め、本気で潰すことにする。」
重く冷たく、どこか熱さを秘めた言葉が、戦闘行動(バトルフェイズ)の開始を告げる。
臨戦態勢に入り錬金術を発動しようと構える覇王の目に映ったのは。
加速した拳を顔面へとねじ込みに迫る。マジアサルファの姿だった。
臨戦態勢に入り錬金術を発動しようと構える覇王の目に映ったのは。
加速した拳を顔面へとねじ込みに迫る。マジアサルファの姿だった。
「は?お前のターンなんか二度とこんわ!」
電撃天使(ブリッツエンゼル)が得た新たな武装、腕に備わる六つのリング。
その内4つを両足へと仕込みロケットエンジンのように突っ込んできたサルファの拳が、覇王の眼前にまで迫る。
とっさにデインノモスで防御に入るが。サルファ本人の拳を防ぐと同時に、脇腹を抉りこむ鋭い拳が覇王を襲う。
電撃天使(ブリッツエンゼル)が得た新たな武装、腕に備わる六つのリング。
その内4つを両足へと仕込みロケットエンジンのように突っ込んできたサルファの拳が、覇王の眼前にまで迫る。
とっさにデインノモスで防御に入るが。サルファ本人の拳を防ぐと同時に、脇腹を抉りこむ鋭い拳が覇王を襲う。
「ぐっ!!」
とっさに体をねじり衝撃を逃がす、アナザーガッチャ―ドの耐性もあって致命的なダメージには至らない。
それでも、明らかにこれまで振るっていた拳とはその鋭さが段違いだ。
サルファを見やるとしてやったりとにやけ面のチャイナ娘の周囲には、6つのリングがふわふわと浮かびその全てに電撃が形を成したような拳が浮かび上がっていた。
とっさに体をねじり衝撃を逃がす、アナザーガッチャ―ドの耐性もあって致命的なダメージには至らない。
それでも、明らかにこれまで振るっていた拳とはその鋭さが段違いだ。
サルファを見やるとしてやったりとにやけ面のチャイナ娘の周囲には、6つのリングがふわふわと浮かびその全てに電撃が形を成したような拳が浮かび上がっていた。
「遅いで覇王。
手数が違うわ。文字通りな!」
「1つ1つが光――電撃属性の拳か。
厄介だな。」
手数が違うわ。文字通りな!」
「1つ1つが光――電撃属性の拳か。
厄介だな。」
追撃に動いたサルファの拳3つ。
その内1つを手刀で弾き、アナザーガッチャ―ドは跳躍して拳を躱す。
落下地点を予測し駆けだしたサルファだったが。アナザーガッチャ―ドは壁面にあるコンクリートや鉄を錬金術で動かし足場としていた。
うねうねと動く灰色の蛇のような足場に立つアナザーガッチャ―ドを前にサルファは指をボキボキと鳴らす。
その内1つを手刀で弾き、アナザーガッチャ―ドは跳躍して拳を躱す。
落下地点を予測し駆けだしたサルファだったが。アナザーガッチャ―ドは壁面にあるコンクリートや鉄を錬金術で動かし足場としていた。
うねうねと動く灰色の蛇のような足場に立つアナザーガッチャ―ドを前にサルファは指をボキボキと鳴らす。
「うちに空中戦で挑む気か?10年早いわ!」
空中は魔法少女の独壇場(ホーム)。
電撃天使の名に違わぬ光の羽を広げて、覇王を睨む。
浮かぶ途中、蘭子の姿が視界に映る。
マルガムとなっているためその眼は仮面を被ったように赤いものだったが、指をさすサルファの眼差しはその奥にある蘭子の瞳を確かにとらえていた。
・・・・・・・・
「蘭子はん!うちをよう見とき!!」
稲妻のように飛び上がりアナザーガッチャ―ドに殴りかかるマジアサルファ。
その戦いを、その動きを、言われた通りに蘭子は目に焼き付ける。
空中は魔法少女の独壇場(ホーム)。
電撃天使の名に違わぬ光の羽を広げて、覇王を睨む。
浮かぶ途中、蘭子の姿が視界に映る。
マルガムとなっているためその眼は仮面を被ったように赤いものだったが、指をさすサルファの眼差しはその奥にある蘭子の瞳を確かにとらえていた。
・・・・・・・・
「蘭子はん!うちをよう見とき!!」
稲妻のように飛び上がりアナザーガッチャ―ドに殴りかかるマジアサルファ。
その戦いを、その動きを、言われた通りに蘭子は目に焼き付ける。
うねうねと巨大な蛇のように動くコンクリの足場に立つアナザーガッチャ―ドが、サルファの拳を弾く。
時折正面に立ち、時には背後を取り。覇王の刃や錬金術を躱して果敢に攻める。
無傷ではない、デインノモスや錬金術による攻撃で、サルファの体はジワリと傷が増えていく。
それでも果敢に攻めるサルファに対し、蘭子が見ていたのはその『動き』だ。
時折正面に立ち、時には背後を取り。覇王の刃や錬金術を躱して果敢に攻める。
無傷ではない、デインノモスや錬金術による攻撃で、サルファの体はジワリと傷が増えていく。
それでも果敢に攻めるサルファに対し、蘭子が見ていたのはその『動き』だ。
拳の握り方。殴りこむ前の姿勢。足の踏み込み方。
サルファも正当な武術とは程遠い喧嘩殺法に近いが、それでもトレスマジアとしての戦闘経験からか拳のやり取りには一日の長がある。
地獄への回数券で強化された動体視力は、完璧とは言えなくともサルファの動きを捉えられた。
他人の動きを見て真似は学ぶことは。
――アイドルだった頃に、何度もやってきたことだ。
サルファも正当な武術とは程遠い喧嘩殺法に近いが、それでもトレスマジアとしての戦闘経験からか拳のやり取りには一日の長がある。
地獄への回数券で強化された動体視力は、完璧とは言えなくともサルファの動きを捉えられた。
他人の動きを見て真似は学ぶことは。
――アイドルだった頃に、何度もやってきたことだ。
「分かった。分かりましたサルファさん!」
マジアサルファは伝えようとしている。
戦うための術を。力を正しく使う姿を。
アンタもうちみたいになれる。戦える。
そう認められたようで、無性にやる気がわいてくる。
マジアサルファは伝えようとしている。
戦うための術を。力を正しく使う姿を。
アンタもうちみたいになれる。戦える。
そう認められたようで、無性にやる気がわいてくる。
「私も行きます!
宝太郎さん。援護をお願いします!」
「分かった!」
宝太郎にサムズアップを返し、蘭子が――クウガマルガムファイズミクスタスが動く。
右足に重心を乗せるように深く腰を溜めて――仮面ライダーファイズのポーズとよく似ていることは、偶然の一致ではないだろう――、サルファと覇王のいる場所に向かい思いっきり飛び上がった。
行動を予測するなど上等な真似は出来はしない。
ただがむしゃらに突っ込む。
それだけの行為が地獄への回数券と呪力、ケミーたちの助力を受けた今の蘭子の最大最高の攻撃だった。
宝太郎さん。援護をお願いします!」
「分かった!」
宝太郎にサムズアップを返し、蘭子が――クウガマルガムファイズミクスタスが動く。
右足に重心を乗せるように深く腰を溜めて――仮面ライダーファイズのポーズとよく似ていることは、偶然の一致ではないだろう――、サルファと覇王のいる場所に向かい思いっきり飛び上がった。
行動を予測するなど上等な真似は出来はしない。
ただがむしゃらに突っ込む。
それだけの行為が地獄への回数券と呪力、ケミーたちの助力を受けた今の蘭子の最大最高の攻撃だった。
「最高速度だけならサルファを超えるか。だが見切った。」
弾丸のような突撃を躱し、アナザーガッチャ―ドは蘭子の着地地点であるフェンスを錬金術で針山に変える。
自分の加速で致命傷を負う。
蘭子だけなら起きていたかもしれないミスは、サルファの目が黒いうちは起こらない。
弾丸のような突撃を躱し、アナザーガッチャ―ドは蘭子の着地地点であるフェンスを錬金術で針山に変える。
自分の加速で致命傷を負う。
蘭子だけなら起きていたかもしれないミスは、サルファの目が黒いうちは起こらない。
「はぁあああああ!!!!」
華鳥蘭子のどこか緩く、それでも確かな気迫を感じる掛け声はいまだ健在だ。
飛び掛かり殴りかかる拳をかろうじて左腕で防ぐが、その衝撃はアナザーライダーの耐性があっても防ぎきれない威力。
串刺しにならなかったのか。そう視線をおとした先で浮かび上がる稲妻の拳が覇王に中指を立てていた。
不遜な態度を前に、覇王は理解する。
針山に変えたフェンスに刺さる前に、サルファの拳をクウガマルガムは踏み台とし飛び掛かることでダメージを避けていたのだ
華鳥蘭子のどこか緩く、それでも確かな気迫を感じる掛け声はいまだ健在だ。
飛び掛かり殴りかかる拳をかろうじて左腕で防ぐが、その衝撃はアナザーライダーの耐性があっても防ぎきれない威力。
串刺しにならなかったのか。そう視線をおとした先で浮かび上がる稲妻の拳が覇王に中指を立てていた。
不遜な態度を前に、覇王は理解する。
針山に変えたフェンスに刺さる前に、サルファの拳をクウガマルガムは踏み台とし飛び掛かることでダメージを避けていたのだ
「ありがとうございます!サルファさん!」
「気にすんな!畳みかけるで!!」
魔法少女と怪人が織りなす、無数のラッシュ。
デインノモスで弾き。錬金術で防ぎ。拳で防ぐ。
隙を見つけて反撃に転じ。サルファの腹部を蹴り飛ばし、蘭子の腕をヘしおれんばかりに蹴り上げ。その対価として脇腹に抉るような拳を受ける。
「気にすんな!畳みかけるで!!」
魔法少女と怪人が織りなす、無数のラッシュ。
デインノモスで弾き。錬金術で防ぎ。拳で防ぐ。
隙を見つけて反撃に転じ。サルファの腹部を蹴り飛ばし、蘭子の腕をヘしおれんばかりに蹴り上げ。その対価として脇腹に抉るような拳を受ける。
特に厄介なのはクウガマルガム――華鳥蘭子。
サルファの動きを学んだド素人、クウガマルガムの動きは見る見るうちに上達していく。
手数と速さではサルファが上だが、呪力やケミーの下駄をはいた蘭子のほうが一撃一撃の威力は高かった。
サルファの動きを学んだド素人、クウガマルガムの動きは見る見るうちに上達していく。
手数と速さではサルファが上だが、呪力やケミーの下駄をはいた蘭子のほうが一撃一撃の威力は高かった。
「こいつら……」
さしもの覇王もわずかに疲弊の色が見える。
その意識は少女たちの高速の拳に捕らわれていて。
さしもの覇王もわずかに疲弊の色が見える。
その意識は少女たちの高速の拳に捕らわれていて。
『ビルド!』
『ガッチャージバスター!』
一ノ瀬宝太郎の存在を、この一瞬覇王は失念していた。
『ガッチャージバスター!』
一ノ瀬宝太郎の存在を、この一瞬覇王は失念していた。
浮かび上がる拳の合間を縫って、矢印のようなエネルギーがスタジアムの空を駆ける。
「がぁっ!!!」
虚を突かれた覇王は正面からガッチャージバスターを浴び、空中から観客席に叩き落とされる。
虚を突かれた覇王は正面からガッチャージバスターを浴び、空中から観客席に叩き落とされる。
「何だ今のダメージは……」
宝太郎の一撃に体の芯から痺れるような痛みを受ける。
マジアサルファの拳より。
クウガマルガムのキックより。
一ノ瀬宝太郎の放つ銃撃の方が――アナザーガッチャ―ドには効いていた。
宝太郎の一撃に体の芯から痺れるような痛みを受ける。
マジアサルファの拳より。
クウガマルガムのキックより。
一ノ瀬宝太郎の放つ銃撃の方が――アナザーガッチャ―ドには効いていた。
アナザーガッチャ―ドを倒せるのは仮面ライダーガッチャ―ドの力だけ。
今の一ノ瀬宝太郎は仮面ライダーガッチャ―ドではないが。
・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・
ガッチャージガンは紛れもなく、ガッチャ―ドの力の一部である。
今の一ノ瀬宝太郎は仮面ライダーガッチャ―ドではないが。
・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・
ガッチャージガンは紛れもなく、ガッチャ―ドの力の一部である。
「目に見えて効いとるやないか!」
だだでさえ鉄面皮の覇王がアナザーガッチャ―ドの仮面を被っている。目に見えて痛がるそぶりがあったわけではない。
だが客席に落下するアナザーガッチャ―ドの戸惑いは、3人に今の攻撃が効いていたことを示していた。
無論、宝太郎も蘭子もサルファもその理屈など分からないが。利用しない手もない。
だだでさえ鉄面皮の覇王がアナザーガッチャ―ドの仮面を被っている。目に見えて痛がるそぶりがあったわけではない。
だが客席に落下するアナザーガッチャ―ドの戸惑いは、3人に今の攻撃が効いていたことを示していた。
無論、宝太郎も蘭子もサルファもその理屈など分からないが。利用しない手もない。
「なら作戦変更や!蘭子!!うちの腕に捕まれ!
うちらで隙を作って宝太郎の銃を叩きこむ、露払い行けるか!?」
「ええ!
問題ないわ!」
うちらで隙を作って宝太郎の銃を叩きこむ、露払い行けるか!?」
「ええ!
問題ないわ!」
錬金術の操作を失い崩れる足場から飛び降りながら、覇王に追撃を図るマジアサルファとクウガマルガム。
必中(ドンピシャ)で当たるかと思った攻撃に、巨大な影が割ってはいる。
自分たちより一回り大きい機械にも龍にも見える2匹の怪物が覇王を守るように立ちふさがった。
必中(ドンピシャ)で当たるかと思った攻撃に、巨大な影が割ってはいる。
自分たちより一回り大きい機械にも龍にも見える2匹の怪物が覇王を守るように立ちふさがった。
「「ギシャァァァァ!!」」
「こいつらは!」
「あのドラゴンさんの……」
「……サイバー・ダークネス・ドラゴンの融合を一部解除した。
奴らは元は5体のモンスター。それを束ねていたのは俺の錬金術によるものだからな。」
「こいつらは!」
「あのドラゴンさんの……」
「……サイバー・ダークネス・ドラゴンの融合を一部解除した。
奴らは元は5体のモンスター。それを束ねていたのは俺の錬金術によるものだからな。」
覇王が乗りこなし、蘭子が倒した黒龍。
鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンを生んだのは、アナザーガッチャ―ドとしての錬金術。それを応用したNPCモンスター同士の融合だった。
その一部分を解除したことで、分離した2匹のモンスターは覇王に従い敵を襲う。
鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンを生んだのは、アナザーガッチャ―ドとしての錬金術。それを応用したNPCモンスター同士の融合だった。
その一部分を解除したことで、分離した2匹のモンスターは覇王に従い敵を襲う。
「行け。サイバー・ダーク・カノン。サイバー・ダーク・クロー。」
覇王の合図とともに、サイバー・ダーク・カノンから緋色のエネルギーがサルファと蘭子に向けて放たれる。
浮かばせた拳でガードするサルファだが、とっさのことに受け流しきれずクウガマルガムともども大きく吹き飛ばされ、その全身を焼き焦がす。
覇王の合図とともに、サイバー・ダーク・カノンから緋色のエネルギーがサルファと蘭子に向けて放たれる。
浮かばせた拳でガードするサルファだが、とっさのことに受け流しきれずクウガマルガムともども大きく吹き飛ばされ、その全身を焼き焦がす。
「当然のことだが、こいつらは俺の錬金術で強化されている。心してかかれ。」
「その錬金術は、お前の力じゃないだろ!」
「もう宝太郎さんい任せっきりの私じゃない!」
「雑魚よぶまで臆(ビビ)っとる覇王になんざ、負けるかぁ!!!」
「その錬金術は、お前の力じゃないだろ!」
「もう宝太郎さんい任せっきりの私じゃない!」
「雑魚よぶまで臆(ビビ)っとる覇王になんざ、負けるかぁ!!!」
サイバー・ダーク・クローは覇王を守るように6つの刃を輝かせ、サイバー・ダーク・カノンは再び砲身を3人に向ける。
それでも膝をつかず、諦めず。
少年少女は不敵に笑い。王へと挑む。
それでも膝をつかず、諦めず。
少年少女は不敵に笑い。王へと挑む。
◆◇◆◇◆
一挙手一投足がまさに砲弾(ミサイル)。
二枚服用(ギメ)をしたザギの挙動は、百戦錬磨の忍者邪樹右龍をもってしてもそう形容できるものだった。
二枚服用(ギメ)をしたザギの挙動は、百戦錬磨の忍者邪樹右龍をもってしてもそう形容できるものだった。
スタジアムのコートから廊下に映った戦場には、無数の極道の骸が転がる。
覇王のぎんのたてごとに引き寄せられていたNPCが、ザギが動く”ついで”に惨殺された。
獣道ならぬ、極道道。血だまりに彩られた最悪のレッドカーペットだ。
覇王のぎんのたてごとに引き寄せられていたNPCが、ザギが動く”ついで”に惨殺された。
獣道ならぬ、極道道。血だまりに彩られた最悪のレッドカーペットだ。
「暗刃!不死身の電撃漢(エレキマン)!」
そんな血だまりを見過ごす邪樹右龍ではない。
地面に向けて叩き込んだ手刀から雷が走り、極道の骸が焼け焦げる。
だがザギまるで効いていないかのように極道の骸を踏み潰し、漆黒の目を右龍に向けた。
そんな血だまりを見過ごす邪樹右龍ではない。
地面に向けて叩き込んだ手刀から雷が走り、極道の骸が焼け焦げる。
だがザギまるで効いていないかのように極道の骸を踏み潰し、漆黒の目を右龍に向けた。
「どうしたどうしたぁ!
お前はそんなもんだったのかウリュウ!俺をブッ殺すんじゃなかったのか!!」
「騒音(うるせえ)よ!」
挑発とともにザギが飛び掛かる。
振り上げた刃を小手で反らし、首元を狙って暗刃を叩きこむ。
お前はそんなもんだったのかウリュウ!俺をブッ殺すんじゃなかったのか!!」
「騒音(うるせえ)よ!」
挑発とともにザギが飛び掛かる。
振り上げた刃を小手で反らし、首元を狙って暗刃を叩きこむ。
「それは効かねえ!」
ザギの反応も早い。
わずかに姿勢をそらし、首を狙う暗刃は頬に命中した。
それでも常人なら手刀の威力と圧電による放電で致命傷になるはずだが、2枚の麻薬と鐚により強化された今のザギにダメージらしいダメージは見られない。
当たっても効かないし、効いてもすぐに治るのだ。
ザギの反応も早い。
わずかに姿勢をそらし、首を狙う暗刃は頬に命中した。
それでも常人なら手刀の威力と圧電による放電で致命傷になるはずだが、2枚の麻薬と鐚により強化された今のザギにダメージらしいダメージは見られない。
当たっても効かないし、効いてもすぐに治るのだ。
「今度はこっちから逝くぜぇ!!」
双刀を1点に集中重ね合わせ、ザギ自身が一本の矢のように右龍の心臓めがけて迫ってくる。
空破特効弾と呼ばれる技だが、2枚服用と鐚で限界以上に強化されたその攻撃は目で追い避けられるようなものではなかった。
両腕を交差させ心臓への傷は防いだが、腕に食い込むその刃により常人の数万倍の骨密度をもつ右龍の橈骨と尺骨がクッキーのようにヒビ割れていく。
双刀を1点に集中重ね合わせ、ザギ自身が一本の矢のように右龍の心臓めがけて迫ってくる。
空破特効弾と呼ばれる技だが、2枚服用と鐚で限界以上に強化されたその攻撃は目で追い避けられるようなものではなかった。
両腕を交差させ心臓への傷は防いだが、腕に食い込むその刃により常人の数万倍の骨密度をもつ右龍の橈骨と尺骨がクッキーのようにヒビ割れていく。
「そんなに近づいていいのかよ」
やられた。とは思わなかった。
無傷で倒せるなどという侮(ナメ)た考えはとうにない。
手首を曲げ、両の指を腕に刺さった刃に押し当てる。
あんな魔法じみた義手野郎が使う武器が鉄なのかどうかは分からないが、電気くらいは流れるだろう。
やられた。とは思わなかった。
無傷で倒せるなどという侮(ナメ)た考えはとうにない。
手首を曲げ、両の指を腕に刺さった刃に押し当てる。
あんな魔法じみた義手野郎が使う武器が鉄なのかどうかは分からないが、電気くらいは流れるだろう。
「暗刃 不死身の電撃漢――」
「おせぇ!」
バチリと刃に電流が走る。
だがザギの腕は既に刃を握っていなかった。
「おせぇ!」
バチリと刃に電流が走る。
だがザギの腕は既に刃を握っていなかった。
右龍の腹を蹴り飛ばしたザギは、赤く光る魔導器(ブラスティア)を右龍へ向け口角を上げた。
暴走状態の魔導器――今のザギにとってそのじゃじゃ馬を手なずけることは、何も難しいことではない。
開かれた掌からエアル――厳密にはエアルではない何かが逆流し、緋色の光線となって右龍を襲う。
多くの魔物を閉じ込める結界魔導器(シルトブラスティア)を破壊するほどの暴走が、右龍一人に注がれ、雄たけびとともに忍者は大きく吹き飛ばされる。
暴走状態の魔導器――今のザギにとってそのじゃじゃ馬を手なずけることは、何も難しいことではない。
開かれた掌からエアル――厳密にはエアルではない何かが逆流し、緋色の光線となって右龍を襲う。
多くの魔物を閉じ込める結界魔導器(シルトブラスティア)を破壊するほどの暴走が、右龍一人に注がれ、雄たけびとともに忍者は大きく吹き飛ばされる。
「激(イ)ッ痛(テ)ぇ~~!!」
廊下から2階の観客席まで押し流され、壁にめり込んだ右龍は既にボロボロだ。
彼の着ていたジャケットもそこらじゅうが焦げた暴力的(ワイルド)
流石の忍者の耐久と回復力でも今の一撃は言い逃れ用のないダメージだ。
廊下から2階の観客席まで押し流され、壁にめり込んだ右龍は既にボロボロだ。
彼の着ていたジャケットもそこらじゅうが焦げた暴力的(ワイルド)
流石の忍者の耐久と回復力でも今の一撃は言い逃れ用のないダメージだ。
正直、かなり苦戦(マズ)い。
電流も暗刃も効果が薄い。首を刎ねるか奴の命を長らえさせる絡繰りを壊すか、あるいはレジスターを破壊するか。
どの方法も現実的ではないように思えた。
電流も暗刃も効果が薄い。首を刎ねるか奴の命を長らえさせる絡繰りを壊すか、あるいはレジスターを破壊するか。
どの方法も現実的ではないように思えた。
流血か、それとも魔導器の熱を受けてぼうっとしたか。思考が止まりそうになった右龍。
どうにか目を覚まそうと意識を強く持つと、階下のコートの戦況が見えた。
うねうねと動くコンクリの足場に乗った水色のバッタ怪人――アナザーガッチャ―ドと2匹のNPC(モンスター)
一ノ瀬宝太郎と蘭子の変身したクワガタ怪人、そしておそらくサルファだろう中華風の少女が懸命に戦いを続けていた。
どうにか目を覚まそうと意識を強く持つと、階下のコートの戦況が見えた。
うねうねと動くコンクリの足場に乗った水色のバッタ怪人――アナザーガッチャ―ドと2匹のNPC(モンスター)
一ノ瀬宝太郎と蘭子の変身したクワガタ怪人、そしておそらくサルファだろう中華風の少女が懸命に戦いを続けていた。
「やってんな少年少女(あいつら)。」
蘭子が黒龍を吹っ飛ばした様子は、視界の端に見えていた。痛快だった。
薫子が覚醒した光は見逃したが、何かあったことは見えてなくても伝わった。
自分より年若く、経験も浅い(宝太郎や薫子はまだしも、蘭子に至っては戦闘経験さえ皆無なはずだ。)彼らのひたむきな戦いぶりに、若いころを思い出した。
2人の父が死んだときのことを、柄にもなく思い出していた。
薫子が覚醒した光は見逃したが、何かあったことは見えてなくても伝わった。
自分より年若く、経験も浅い(宝太郎や薫子はまだしも、蘭子に至っては戦闘経験さえ皆無なはずだ。)彼らのひたむきな戦いぶりに、若いころを思い出した。
2人の父が死んだときのことを、柄にもなく思い出していた。
「お前、どうしてそのユーリ・ローウェルとかいう野郎をブッ殺したいんだ?」
かつかつと自分を誇示するかのように足音を立てるザギに、右龍は尋ねた。
その手に持つ武器は右龍や極道の血でべっとりと汚れ、煤とも返り血ともつかない汚れで手は真っ黒だった。
かつかつと自分を誇示するかのように足音を立てるザギに、右龍は尋ねた。
その手に持つ武器は右龍や極道の血でべっとりと汚れ、煤とも返り血ともつかない汚れで手は真っ黒だった。
「それを知って何になる。」
「別に?ただの興味だ。
答えねえんならそれでいい。」
「いや答えるぜ。奴が俺に殺されるために生きているからだ!
奴を殺すことこそが俺の使命だからだ!それ以外の理由など邪魔なだけ!」
「別に?ただの興味だ。
答えねえんならそれでいい。」
「いや答えるぜ。奴が俺に殺されるために生きているからだ!
奴を殺すことこそが俺の使命だからだ!それ以外の理由など邪魔なだけ!」
なんでそう考えるに行き着いたかを聞いているのだが。
そう尋ねようとしてやめた、おそらく意味などないのだろう。
筋肉を盛り上がらせ、めり込んだ壁から脱出する。
第二ラウンドを待ち構えるように武器を構えたザギが、何故だかちっとも怖くなかった。
そう尋ねようとしてやめた、おそらく意味などないのだろう。
筋肉を盛り上がらせ、めり込んだ壁から脱出する。
第二ラウンドを待ち構えるように武器を構えたザギが、何故だかちっとも怖くなかった。
ブッ殺さなきゃいけない相手なら、右龍にもいる。
忍殺番長 砕涛 華虎。2人の父を2度殺した極道。
一般人(パンピー)に理不尽な暴力を与える極道を狩るという帝都八忍としての責務。
2度も家族を殺した相手に対する恩讐。
忍殺番長 砕涛 華虎。2人の父を2度殺した極道。
一般人(パンピー)に理不尽な暴力を与える極道を狩るという帝都八忍としての責務。
2度も家族を殺した相手に対する恩讐。
誰かをブッ殺すという同じ結論でこうも違うものだろうか。
その思いで強さや貴賤を問うことは出来ないが。
右龍に向かうザギの殺意は、強く鋭いが空っぽだった。
その思いで強さや貴賤を問うことは出来ないが。
右龍に向かうザギの殺意は、強く鋭いが空っぽだった。
「俺はよぉ。お前の使ってる麻薬(ヤク)を使う極道を何人もブッ殺してきた。
だけど、俺が一番殺さなきゃいけねえ相手は、その麻薬(ヤク)を使ってねえんだ。」
だけど、俺が一番殺さなきゃいけねえ相手は、その麻薬(ヤク)を使ってねえんだ。」
ザギや宝太郎や蘭子……もっといえばこの場に飛び散る極道たちが使う地獄への回数券(ヘルズクーポン)は、右龍の世界で生まれたものだ。
極道が天敵たる忍者を殺すために生み出した最悪の麻薬(ヤク)。
だが、右龍の仇が彼ら兄弟の『ふたりの父』を殺したのはそれよりも前のこと。
純粋な肉体の強さだけで、身体能力を極限(カンスト)させた忍者を殺しうる相手だ。
極道が天敵たる忍者を殺すために生み出した最悪の麻薬(ヤク)。
だが、右龍の仇が彼ら兄弟の『ふたりの父』を殺したのはそれよりも前のこと。
純粋な肉体の強さだけで、身体能力を極限(カンスト)させた忍者を殺しうる相手だ。
「俺の強さが不純だとでも言いたいのか?
お前の仇は俺より強いと?」
「そういうんじゃねえんだ。どっちが強いかなんざ知らん。どっちにしてもブッ殺すだけだ。
ただ
――テメエくらいブッ殺せないと、あの華虎はブッ殺せねえと思っただけだ。」
お前の仇は俺より強いと?」
「そういうんじゃねえんだ。どっちが強いかなんざ知らん。どっちにしてもブッ殺すだけだ。
ただ
――テメエくらいブッ殺せないと、あの華虎はブッ殺せねえと思っただけだ。」
どこか遠い眼をした動作が気に障ったのだろうか、
地面がえぐれるほどの踏み込みで、ザギが動いた。
地面がえぐれるほどの踏み込みで、ザギが動いた。
「俺の前で別の男の話をするとは、余裕じゃないか!」
「テメエにだけは言われたかねえ!!」
「テメエにだけは言われたかねえ!!」
刃を正面から暗刃で弾く――強化された肉体よりはねらい目であった。
壁を足場に方向を変え、上を取ったザギが刃を振り下ろす。
刻印十字斬。続けて魔導炎柱昇。
Xの字に胸が右龍の胸の表面が斬られ、そのままの勢いで地面から突き立てられた刃から炎の柱が燃え上がる。
壁を足場に方向を変え、上を取ったザギが刃を振り下ろす。
刻印十字斬。続けて魔導炎柱昇。
Xの字に胸が右龍の胸の表面が斬られ、そのままの勢いで地面から突き立てられた刃から炎の柱が燃え上がる。
「ならば!暗刃!」
火柱が右龍に迫るが熱量というのなら雷も負けていない。
両腕を指先でぶつけ生じた電撃で炎を弾く。
電撃と火柱が相殺し、互いに弾けた熱風に吹き飛ばされる。
目にもとまらぬ攻防の中で起きたやり取りということもあり、両者の距離が引き剥がされる。
それでもザギの脚力なら1秒足らずで接近できる程度のものだが、時間が出来たことは確かだ。
スタジアム越しの荷物置き場に突っ込んだ右龍は周囲を見渡しあるものを見つけニッと笑った。
火柱が右龍に迫るが熱量というのなら雷も負けていない。
両腕を指先でぶつけ生じた電撃で炎を弾く。
電撃と火柱が相殺し、互いに弾けた熱風に吹き飛ばされる。
目にもとまらぬ攻防の中で起きたやり取りということもあり、両者の距離が引き剥がされる。
それでもザギの脚力なら1秒足らずで接近できる程度のものだが、時間が出来たことは確かだ。
スタジアム越しの荷物置き場に突っ込んだ右龍は周囲を見渡しあるものを見つけニッと笑った。
「何を笑っている!」
1秒後、追いついたザギが再び弾丸のように突っ込んできた。
空破特効弾の狙いは右龍の腰だ。
バランスを崩したところを飛び上がりながらの回転切り――閃空裂破で滅多裂きにする。
それがザギの狙いだった。
1秒後、追いついたザギが再び弾丸のように突っ込んできた。
空破特効弾の狙いは右龍の腰だ。
バランスを崩したところを飛び上がりながらの回転切り――閃空裂破で滅多裂きにする。
それがザギの狙いだった。
突撃するザギを前にして、右龍は足元に転がる何かを蹴り上げる。
それは、巨大な銀色のメダルの形をしていた。
それは、巨大な銀色のメダルの形をしていた。
「こいつを見つけて発案(おもい)ついたぜ。
無敵のお前をブッ殺す方法をよぉ!」
『鋼鉄化!』
そんなゲームのような音声と共に、右龍の体が鋼鉄に姿を変える。
ザギはその姿を見て、苛立たし気に舌打ちした。
無敵のお前をブッ殺す方法をよぉ!」
『鋼鉄化!』
そんなゲームのような音声と共に、右龍の体が鋼鉄に姿を変える。
ザギはその姿を見て、苛立たし気に舌打ちした。
「おいおいウリュウ。流石に俺もお前をそんな過小評価してはいない!
・・・・・・・・
お前の体を鋼鉄化させる?バグスターの影響があろうとお前の体が鋼鉄ごときに劣るなら、俺がとっくに殺している!」
「まあな。これでもトラックから女を守護(まも)ったこともあるんでな。耐久(タフネス)には自信あるぜ。
だから、俺が欲しかったのは防御力(タフ)さなんかじゃねえ。
それに、俺の切り札はまだ残ってるからよ!」
・・・・・・・・
お前の体を鋼鉄化させる?バグスターの影響があろうとお前の体が鋼鉄ごときに劣るなら、俺がとっくに殺している!」
「まあな。これでもトラックから女を守護(まも)ったこともあるんでな。耐久(タフネス)には自信あるぜ。
だから、俺が欲しかったのは防御力(タフ)さなんかじゃねえ。
それに、俺の切り札はまだ残ってるからよ!」
手刀を構えるその手から、赤い光が溢れ出す。
右龍は令呪を起動する。
これから自分が言う事に、確信があるかのように。
右龍は令呪を起動する。
これから自分が言う事に、確信があるかのように。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「鉄ってよぉ。電気をよく通すんじゃァなかったか?」
「鉄ってよぉ。電気をよく通すんじゃァなかったか?」
導電率 というものがある。
物質中における電気伝導のしやすさを表し、高ければ高いほど電気が流れやすくなる。
人体全身が均一な導電率を持つと仮定する簡易なモデルでは0.2S/m(ジーメンス毎メートル)とされている。
人間が電気を通すのは体内にある水分が影響しており、人体そのものの電気抵抗は導体と呼べるレベルではないのだ。
物質中における電気伝導のしやすさを表し、高ければ高いほど電気が流れやすくなる。
人体全身が均一な導電率を持つと仮定する簡易なモデルでは0.2S/m(ジーメンス毎メートル)とされている。
人間が電気を通すのは体内にある水分が影響しており、人体そのものの電気抵抗は導体と呼べるレベルではないのだ。
一方、鉄の導電率は約10×10⁶S/mである。
鋼鉄化したプレイヤーは一瞬だけだが鋼のような姿になる。
万が一その導電率が鉄や鋼と同等であるのならば、電流の流れやすさはおおよそ5千万倍にまで膨らむ計算になるのではないか。
鋼鉄化したプレイヤーは一瞬だけだが鋼のような姿になる。
万が一その導電率が鉄や鋼と同等であるのならば、電流の流れやすさはおおよそ5千万倍にまで膨らむ計算になるのではないか。
無論、鋼鉄化したプレイヤーの導電率が鋼と同等という保証はない。
大事なことは、ザギがその可能性を信じたことだ。
令呪まで使った強化で鋼鉄化による導電率の上昇をザギは思い描き。
続けて飛び掛かる自分の左肘……魔導器と生身の境目を右龍の手刀が狙ったことで、疑いを確信へと変えた。
大事なことは、ザギがその可能性を信じたことだ。
令呪まで使った強化で鋼鉄化による導電率の上昇をザギは思い描き。
続けて飛び掛かる自分の左肘……魔導器と生身の境目を右龍の手刀が狙ったことで、疑いを確信へと変えた。
「こいつ!」
腰へと向けた空破特効弾を振り下ろされる暗刃への防御へと回し、正面からぶつかり合った剣戟でザギの勢いは完全に殺される。
右龍の発言を受け、ザギの思考はどうしようもなく防御に寄ってしまっていた。
もしここでザギも令呪を使っていれば、結果は変わっていたかもしれない。
だがザギの頭にその思考は無かった。
万が一この場にユーリがいればそいつに令呪を切らねばならない――例えば仮面ライダーゼインなど明らか人間ではない名前がユーリだという可能性がある。
そう考えるとユーリ以外に令呪を切ることは出来ない。
その空っぽの妄執が、ザギの運命を分けた。
腰へと向けた空破特効弾を振り下ろされる暗刃への防御へと回し、正面からぶつかり合った剣戟でザギの勢いは完全に殺される。
右龍の発言を受け、ザギの思考はどうしようもなく防御に寄ってしまっていた。
もしここでザギも令呪を使っていれば、結果は変わっていたかもしれない。
だがザギの頭にその思考は無かった。
万が一この場にユーリがいればそいつに令呪を切らねばならない――例えば仮面ライダーゼインなど明らか人間ではない名前がユーリだという可能性がある。
そう考えるとユーリ以外に令呪を切ることは出来ない。
その空っぽの妄執が、ザギの運命を分けた。
にっと笑顔を向けて掲げた腕から令呪の光が収まるのを待たず、右龍の丸太のような足がザギの腹を蹴り飛ばした。
鋼鉄化した拳でも令呪を起動した全力でも今のザギに大したダメージは与えられない。
だが令呪のおかげで速度と反応は完全に全盛(フルスペック)を取り戻している。
痛みは大したことはないが体格の差にわずかに浮きあがるザギの体。
すかさず右龍は暗刃を両腕に構え、ザギを上から抑えにかかる。
狙いは心臓の鐚、そして左腕の魔導器。
鋼鉄化した拳でも令呪を起動した全力でも今のザギに大したダメージは与えられない。
だが令呪のおかげで速度と反応は完全に全盛(フルスペック)を取り戻している。
痛みは大したことはないが体格の差にわずかに浮きあがるザギの体。
すかさず右龍は暗刃を両腕に構え、ザギを上から抑えにかかる。
狙いは心臓の鐚、そして左腕の魔導器。
「キサマァァァァ!」
鋼鉄の姿をした右龍の威圧感は、その巨躯もあって計り知れない。
とっさに危機を感じ取ったザギは右龍を蹴り飛ばす。浮きあがる体でスタジアムの1階に落ちるよう計算したうえでだ。
ザギの踏みしめた先で爆発が起こり、右龍は吹き飛ばされるもすぐさま体勢を立て直し飛び掛かる。
鋼鉄の姿をした右龍の威圧感は、その巨躯もあって計り知れない。
とっさに危機を感じ取ったザギは右龍を蹴り飛ばす。浮きあがる体でスタジアムの1階に落ちるよう計算したうえでだ。
ザギの踏みしめた先で爆発が起こり、右龍は吹き飛ばされるもすぐさま体勢を立て直し飛び掛かる。
令呪の効果時間は短い。エナジーアイテムの効果時間も長くはない。
長く見積もっても1分程度。
自分が1階に落ちればガキどもを守るため、あるいはバッタ怪人の襲撃を受けて右龍の時間は奪える。
空中での攻防も1度や2度なら防げるはずだ。俺の力は微塵も衰えてはいない。
だから、右龍の強化を失わせればいい。
長く見積もっても1分程度。
自分が1階に落ちればガキどもを守るため、あるいはバッタ怪人の襲撃を受けて右龍の時間は奪える。
空中での攻防も1度や2度なら防げるはずだ。俺の力は微塵も衰えてはいない。
だから、右龍の強化を失わせればいい。
令呪と鋼鉄化の効果が――万が一にも鋼鉄化により電流の威力が上がっていたら。
その考えがザギの思考を後ろ向きにした。
ザギにとってらしくないと思えるその行動は――
その考えがザギの思考を後ろ向きにした。
ザギにとってらしくないと思えるその行動は――
「捕まえたで。」
空中に浮く自分の両足を捉える。電撃でできた2つの拳に阻まれた。
何なのか分からずどよめくザギの耳に、急速に近づいてくる風切り音が聞こえた。
ザギの視線の先で、光の翼を持つ魔法少女が拳を構えて迫っていた。
何なのか分からずどよめくザギの耳に、急速に近づいてくる風切り音が聞こえた。
ザギの視線の先で、光の翼を持つ魔法少女が拳を構えて迫っていた。
「サルファァァァ!!!!」
「言ったやろ!
お前はうちらがブッ潰すってなぁ!!」
「言ったやろ!
お前はうちらがブッ潰すってなぁ!!」
ザギの足を抑えた腕がサルファの右腕に宿り、元々あったものも含め3つのリングがサルファの腕を稲妻に変える。
大きく、速く、鋭い拳が、ザギの首めがけて放たれる。
その形は――右龍の暗刃とそっくりだった。
大きく、速く、鋭い拳が、ザギの首めがけて放たれる。
その形は――右龍の暗刃とそっくりだった。
――雷霆掌 貫(つらぬき)。
本来知るはずのない忍び技術を強引に再現したこの技のことを、のちに彼女はそう名付けた。
本来知るはずのない忍び技術を強引に再現したこの技のことを、のちに彼女はそう名付けた。
「こいつは……」
とっさに両腕をサルファに対するガードに使う。
――殺気が足りない。
ザギはサルファをそう評していた。
右龍と違い倒すことはできても殺すことは出来ない女だと思っていた。
とっさに両腕をサルファに対するガードに使う。
――殺気が足りない。
ザギはサルファをそう評していた。
右龍と違い倒すことはできても殺すことは出来ない女だと思っていた。
だが発光する拳からはザギへの殺意がこれでもかと向けられている。
もし命中すれば首を飛ばすだろう。そう確信させるほどの凄味がある技を両腕で弾き飛ばし。
もし命中すれば首を飛ばすだろう。そう確信させるほどの凄味がある技を両腕で弾き飛ばし。
「最高だぜサルファ!。
だが、殺人(そいつ)は俺の担当(やくめ)だぜ。」
だが、殺人(そいつ)は俺の担当(やくめ)だぜ。」
故に、本命の攻撃への対応が、ワンテンポ遅れた。
鋼の雷人の刃を避けるすべは、ザギにはもはや残っていない。
鋼の雷人の刃を避けるすべは、ザギにはもはや残っていない。
「暗刃異形!鋼鉄の電撃漢(はがねのエレキマン)!!」
鋼鉄と化した右龍の拳が、ザギの心臓に刺さる鐚を抉り、内側から爆発するような電撃が迸る。
心臓が筋肉が血管が魔導器(ブラスティア)が。弾け飛ぶような雷に悲鳴をあげる。
致命傷という言葉さえ生ぬるい。砕けた鐚では生かせないほどにその一撃はザギを破壊した。
鋼鉄と化した右龍の拳が、ザギの心臓に刺さる鐚を抉り、内側から爆発するような電撃が迸る。
心臓が筋肉が血管が魔導器(ブラスティア)が。弾け飛ぶような雷に悲鳴をあげる。
致命傷という言葉さえ生ぬるい。砕けた鐚では生かせないほどにその一撃はザギを破壊した。
「ユー……」
何か言おうとした言葉は、喉から吐き出す血で塞がれた。
心臓に刺さる鐚を失ったことで、2枚服用の代償(リスク)を背負う。
黒かった瞳は白く染まり。
使い果たした命が、灯火を消したように消え去った。
何か言おうとした言葉は、喉から吐き出す血で塞がれた。
心臓に刺さる鐚を失ったことで、2枚服用の代償(リスク)を背負う。
黒かった瞳は白く染まり。
使い果たした命が、灯火を消したように消え去った。
内臓(モツ)を焼いた。服用(ドーピング)は切れた。生命(イノチ)は終わる。
それでも、確実に相手を殺すのが忍者の流儀だ。
だから右龍はその言葉を吐く前に首を刎ね飛ばす。
それでも、確実に相手を殺すのが忍者の流儀だ。
だから右龍はその言葉を吐く前に首を刎ね飛ばす。
「ブッ殺した。」
誰かの写し鏡のようで、誰でもない男の物語は、こうして終わった。
【ザギ@テイルズオブヴェスペリア 死亡】
ザギの首が地面に落下するより早く、マジアサルファの変身が解ける。
真化(ラ・ヴェリタ) の欠点は、絶望的なほど悪い燃費だ。
それを初変身で非常に長い時間使い続けた。
そんな芸当が可能だった理由は蘭子の術式、呪力を――ソードスキルとなった今は魔力も――増強できる単独禁区(ソロソロキンク)の恩恵があったからということには薫子も蘭子も気づいていない。
真化(ラ・ヴェリタ) の欠点は、絶望的なほど悪い燃費だ。
それを初変身で非常に長い時間使い続けた。
そんな芸当が可能だった理由は蘭子の術式、呪力を――ソードスキルとなった今は魔力も――増強できる単独禁区(ソロソロキンク)の恩恵があったからということには薫子も蘭子も気づいていない。
「おっ……と。
大丈夫か、薫子っち。」
落下する薫子を右龍は両腕で支え――いわゆるお姫様抱っこの状態でコート上に着地した。
大丈夫か、薫子っち。」
落下する薫子を右龍は両腕で支え――いわゆるお姫様抱っこの状態でコート上に着地した。
「かなんなぁ……。ヘロヘロや。」
お姫様抱っこなどされ普段なら色々言い返すだろう天川薫子も、既に体力は限界だ。
立ち上がるも両足をふらつかせるその様子から、覇王との戦いも随分激闘だったと分かる。
お姫様抱っこなどされ普段なら色々言い返すだろう天川薫子も、既に体力は限界だ。
立ち上がるも両足をふらつかせるその様子から、覇王との戦いも随分激闘だったと分かる。
「覇王(あっち)はどうだった。
随分ド派手に闘争(や)りあってたみてえだが。」
「ああ、それなんやけどな……」
覇王との戦いの顛末を右龍に伝えようとしたその時だ。
随分ド派手に闘争(や)りあってたみてえだが。」
「ああ、それなんやけどな……」
覇王との戦いの顛末を右龍に伝えようとしたその時だ。
「キシャァァァ!!!!」
スタジアム中を揺るがす振動が、咆哮と共に響き渡った。
見ると、蘭子に倒されパーツが分離した黒龍――鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンが動きを取り戻し飛び上がる。
そのまま宝太郎と蘭子が覇王と戦う戦場にもぐりこんだかと思えば、スタジアムの空からどこかに姿を消した。
スタジアム中を揺るがす振動が、咆哮と共に響き渡った。
見ると、蘭子に倒されパーツが分離した黒龍――鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンが動きを取り戻し飛び上がる。
そのまま宝太郎と蘭子が覇王と戦う戦場にもぐりこんだかと思えば、スタジアムの空からどこかに姿を消した。
「なんだったんだ今の……」
右龍が宝太郎たちのところに向かおうとしたその足を、薫子が止める。
彼女の視線の先は、サイバー・ダーク・ドラゴンの消えた観客席。
そこには白い何かが倒れていた。右龍には遠目からは少女であることしか分からない。
右龍が宝太郎たちのところに向かおうとしたその足を、薫子が止める。
彼女の視線の先は、サイバー・ダーク・ドラゴンの消えた観客席。
そこには白い何かが倒れていた。右龍には遠目からは少女であることしか分からない。
「おい、なんでこいつがここにおんねん!!」
その姿に見覚えがある薫子の額に血管が浮き、苛立たし気に睨みつける。
サイバー・ダーク・ドラゴンの消えた場所で倒れていたのは、怪獣と化し2人を襲った少女。
鬼方カヨコであった。
その姿に見覚えがある薫子の額に血管が浮き、苛立たし気に睨みつける。
サイバー・ダーク・ドラゴンの消えた場所で倒れていたのは、怪獣と化し2人を襲った少女。
鬼方カヨコであった。
◆◇◆◇◆
時間は少し巻き戻る。
一ノ瀬宝太郎 クウガマルガム マジアサルファ
アナザーガッチャ―ド サイバー・ダーク・カノン サイバー・ダーク・クロー
事実上の3対3にもつれ込んだことで、趨勢は若干覇王に傾きつつあった。
一ノ瀬宝太郎 クウガマルガム マジアサルファ
アナザーガッチャ―ド サイバー・ダーク・カノン サイバー・ダーク・クロー
事実上の3対3にもつれ込んだことで、趨勢は若干覇王に傾きつつあった。
サイバー・ダーク・カノンが頭上から放つレーザーを、一ノ瀬宝太郎と華鳥蘭子は必死に避けていた。
走る彼らに向けて注がれる光線は、スタジアムの血に濡れた地面を焼け焦げに変えていく。
だがサイバー・ダークネス・ドラゴンだったときに蘭子から受けたダメージが残っているのか、カノン本体の動きはかなり遅い。
それだけが唯一の救いだったが、その状態を面白いと思わなかったのだろう。
走る彼らに向けて注がれる光線は、スタジアムの血に濡れた地面を焼け焦げに変えていく。
だがサイバー・ダークネス・ドラゴンだったときに蘭子から受けたダメージが残っているのか、カノン本体の動きはかなり遅い。
それだけが唯一の救いだったが、その状態を面白いと思わなかったのだろう。
「ふん。」
背後に佇むアナザーガッチャ―ドが手をかざし、錬金術師の指輪のように怪物の指が光る。
それにともないカノンの砲身が6つに分かれ、極太のレーザー1本が全方位に向けられる6つの光線へと様変わりする。
一本一本は細くなったが、範囲は六倍、攻撃力は据え置きだ。
背後に佇むアナザーガッチャ―ドが手をかざし、錬金術師の指輪のように怪物の指が光る。
それにともないカノンの砲身が6つに分かれ、極太のレーザー1本が全方位に向けられる6つの光線へと様変わりする。
一本一本は細くなったが、範囲は六倍、攻撃力は据え置きだ。
「嘘……」
「それずるじゃん!!」
光線が細くなる代わりに観客席や壁どころか、宝太郎たちの行く先にまでレーザーが及ぶ。
言ってる傍からすぐ目の前にレーザーが迫り、宝太郎を抱きかかえてクウガマルガムが飛んだ。
反応が遅れ、わずかに肩をレーザーが掠め、ジジジと嫌な音と焼けた匂いが宝太郎に届く。
「それずるじゃん!!」
光線が細くなる代わりに観客席や壁どころか、宝太郎たちの行く先にまでレーザーが及ぶ。
言ってる傍からすぐ目の前にレーザーが迫り、宝太郎を抱きかかえてクウガマルガムが飛んだ。
反応が遅れ、わずかに肩をレーザーが掠め、ジジジと嫌な音と焼けた匂いが宝太郎に届く。
「南さん!」
「大丈夫です……かすり傷ですから。
ケミーの皆さんが守ってくださっているので……」
ケミーと一体化し怪人化したとはいえ、蘭子がまともに他人と戦うのは今日が初めてだ。
地獄への回数券の活性化やソードスキルによる呪力の増幅、クウガケミーとファイズケミーの支援を受けてももはや体力が底をつきかけていた。
「大丈夫です……かすり傷ですから。
ケミーの皆さんが守ってくださっているので……」
ケミーと一体化し怪人化したとはいえ、蘭子がまともに他人と戦うのは今日が初めてだ。
地獄への回数券の活性化やソードスキルによる呪力の増幅、クウガケミーとファイズケミーの支援を受けてももはや体力が底をつきかけていた。
「雷霆掌 連(つらね)!」
宝太郎と蘭子の目の前で、もう一体のモンスター、サイバー・ダーク・クローと戦っていたサルファが浮遊する拳を4度クローにぶつけて吹き飛ばす。
吹き飛んだ先はカノンのレーザーの斜線上だ、クローの体が焼け焦げギチギチと悲鳴のような異音をあげた。
宝太郎と蘭子の目の前で、もう一体のモンスター、サイバー・ダーク・クローと戦っていたサルファが浮遊する拳を4度クローにぶつけて吹き飛ばす。
吹き飛んだ先はカノンのレーザーの斜線上だ、クローの体が焼け焦げギチギチと悲鳴のような異音をあげた。
「……」
クローとカノンの背後に佇むアナザーガッチャ―ドは、集中するように腕を組み3人を見つめている。
こちらを品定めするような雰囲気にサルファの苛立ちを募らせた。
クローとカノンの背後に佇むアナザーガッチャ―ドは、集中するように腕を組み3人を見つめている。
こちらを品定めするような雰囲気にサルファの苛立ちを募らせた。
「雑魚を盾にするようになってイキイキしおって……」
「多分、それは違う。
この戦い方が、覇王の一番得意なフィールドなんだ。
カードゲームでもするみたいに、戦場を俯瞰してとらえて仲間を動かす。
遊城十代はカードゲームがとても上手いらしいから。覇王もそうなんだと思う。」
「多分、それは違う。
この戦い方が、覇王の一番得意なフィールドなんだ。
カードゲームでもするみたいに、戦場を俯瞰してとらえて仲間を動かす。
遊城十代はカードゲームがとても上手いらしいから。覇王もそうなんだと思う。」
吐き捨てるサルファに対し、宝太郎は覇王の強さを理解した。
覇王十代はそもそもの話決闘者(デュエリスト)だ。
決闘者(デュエリスト)である以上体は鍛えられているが――カードゲームしかしてないのに何をと思うかもしれないが、決闘者(デュエリスト)とはそういうものだ――、その本領はモンスターを扱い、戦略を読み、盤上の優位を取り勝利を収める戦術(タクティクス)にある。
他のモンスターを支配し使役する戦い方。覇王の攻撃的な戦術(タクティクス)がカードゲームではなく命の奪い合いでいかんなく発揮されていた。
覇王十代はそもそもの話決闘者(デュエリスト)だ。
決闘者(デュエリスト)である以上体は鍛えられているが――カードゲームしかしてないのに何をと思うかもしれないが、決闘者(デュエリスト)とはそういうものだ――、その本領はモンスターを扱い、戦略を読み、盤上の優位を取り勝利を収める戦術(タクティクス)にある。
他のモンスターを支配し使役する戦い方。覇王の攻撃的な戦術(タクティクス)がカードゲームではなく命の奪い合いでいかんなく発揮されていた。
「ということは、あの雑魚ども無視して覇王を倒すことはできんちゅーことやな。
だけど別々に倒す時間はもう残っとらん。」
確かめるように腕を握る。
電撃天使の維持時間はもはや残りわずかだ。
むしろ真化(ラ・ヴェリタ)の燃費の悪さを考えれば破格と言える維持時間だが、その理由が蘭子のソードスキルにあることは前述のとおり誰も気づいていなかった。
だけど別々に倒す時間はもう残っとらん。」
確かめるように腕を握る。
電撃天使の維持時間はもはや残りわずかだ。
むしろ真化(ラ・ヴェリタ)の燃費の悪さを考えれば破格と言える維持時間だが、その理由が蘭子のソードスキルにあることは前述のとおり誰も気づいていなかった。
「令呪なりなんなりで、勝負を決めるしかないな。
一応聞くけど、宝太郎はんのケミーってのをもっと蘭子はんに取り込ませてパワーアップとかはできんのか?
あるいは、うちが今からマルガムになるってのは。」
「できるとは思うけど。
本音を言うとやりたくない。」
「私も同感です。
本来この変身はケミーを悪意に晒す危険なもの。自分で怪人になってみてそのおぞましさが分かります。」
ケミーをマルガムにとりこませるとは、本来悪意に晒しケミーの意思をないがしろにする行為だ。
蘭子とて戦いながら申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
重ねて言えば多重錬成となるその手法は、蘭子の負担もケミーの負担も相応に大きくなるものだ。
知らないとはいえ提案したサルファも無理に推し進める気にはなれない。
一応聞くけど、宝太郎はんのケミーってのをもっと蘭子はんに取り込ませてパワーアップとかはできんのか?
あるいは、うちが今からマルガムになるってのは。」
「できるとは思うけど。
本音を言うとやりたくない。」
「私も同感です。
本来この変身はケミーを悪意に晒す危険なもの。自分で怪人になってみてそのおぞましさが分かります。」
ケミーをマルガムにとりこませるとは、本来悪意に晒しケミーの意思をないがしろにする行為だ。
蘭子とて戦いながら申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
重ねて言えば多重錬成となるその手法は、蘭子の負担もケミーの負担も相応に大きくなるものだ。
知らないとはいえ提案したサルファも無理に推し進める気にはなれない。
ならばどうする。
短い時間のなか、頭を突き合わせるサルファ達。
彼らの意識を引き戻したのは、サイバー・ダークの咆哮でも覇王の攻撃でもなかった。
短い時間のなか、頭を突き合わせるサルファ達。
彼らの意識を引き戻したのは、サイバー・ダークの咆哮でも覇王の攻撃でもなかった。
「ならば!暗刃!」
二階の観客席が目にもとまらぬ速度で刃を振るうザギの攻撃で、音を立てて破壊されていく。
その合間を飛び交い電撃を打ち、神速の攻防で暗刃を振るう邪樹右龍の姿だった。
二階の観客席が目にもとまらぬ速度で刃を振るうザギの攻撃で、音を立てて破壊されていく。
その合間を飛び交い電撃を打ち、神速の攻防で暗刃を振るう邪樹右龍の姿だった。
「ザギ……」
忌々し気に睨みつける。
ブッ潰すと啖呵を切っても、結局最後はオッサンに任せっきりかいな。
誰のせいでもない(しいて言えば乱入した上サイバー・ダークで分断しやがった覇王のせいだ)ことではあるが、どこか心残りのようなものは確かにあった。
忌々し気に睨みつける。
ブッ潰すと啖呵を切っても、結局最後はオッサンに任せっきりかいな。
誰のせいでもない(しいて言えば乱入した上サイバー・ダークで分断しやがった覇王のせいだ)ことではあるが、どこか心残りのようなものは確かにあった。
「行ってください。」
そんなサルファの背を押すように、声をかけたのは蘭子だった。
そんなサルファの背を押すように、声をかけたのは蘭子だった。
「行ってくださいって……なんのことや?」
「私も恐らく戦えるのはもう数分も持ちません。
ですが、ザギを倒してくださればサルファさんと私の代わりに右龍さんがこちらに加勢できる……そうすれば覇王をどうにかできる確率は上がるはずです。
それが最善です。違いますか?」
下手くそにごまかしても意味は無いようで。
心残りがあることが顔に出ていたのか、隠しきれていなかったのか。
マルガムになっているのに蘭子の顔は分かりやすかった。
「私も恐らく戦えるのはもう数分も持ちません。
ですが、ザギを倒してくださればサルファさんと私の代わりに右龍さんがこちらに加勢できる……そうすれば覇王をどうにかできる確率は上がるはずです。
それが最善です。違いますか?」
下手くそにごまかしても意味は無いようで。
心残りがあることが顔に出ていたのか、隠しきれていなかったのか。
マルガムになっているのに蘭子の顔は分かりやすかった。
「……あんた、ええ人やなぁ。」
気を使われたのが見え見えで、このままいくのはどうにも歯痒い。
気恥ずかしそうに頭をかくサルファだが、思いついたとばかりに周囲に浮くリングを2つ手に取った。
気を使われたのが見え見えで、このままいくのはどうにも歯痒い。
気恥ずかしそうに頭をかくサルファだが、思いついたとばかりに周囲に浮くリングを2つ手に取った。
「それやったら、代わりにこいつを貸したるわ。」
言葉と共に、手に取ったリングをクウガマルガムに貸し出す。
ふわふわと浮くリングが、クウガマルガムの両腕に左右対となって差し込まれた。
言葉と共に、手に取ったリングをクウガマルガムに貸し出す。
ふわふわと浮くリングが、クウガマルガムの両腕に左右対となって差し込まれた。
「何を……」
「ケミーを混ぜたらあかんのは、出来んのじゃなくてやりたないんやろ。
ほな宝太郎の錬金術で、うちの力を蘭子はんに貸すんはできるか?」
「多分……ケミーたちの力を借りればできると思う。
でも大丈夫?その腕輪が無くなったらサルファだって厳しいんじゃ。」
「ケミーを混ぜたらあかんのは、出来んのじゃなくてやりたないんやろ。
ほな宝太郎の錬金術で、うちの力を蘭子はんに貸すんはできるか?」
「多分……ケミーたちの力を借りればできると思う。
でも大丈夫?その腕輪が無くなったらサルファだって厳しいんじゃ。」
意識の外の発想だったが、ダブルにオーズ、フォーゼにビルド。
"解析"や”合体”に一家言あるライダーたちの力を借りれば、出来ないことはないだろう。
だがそれはサルファの戦力を拳だけで3割――サルファ自身の魔力を加味しても、ゆうに2割は削る選択だ。
そう指摘され、サルファは強気な笑顔を2人に向けた。
"解析"や”合体”に一家言あるライダーたちの力を借りれば、出来ないことはないだろう。
だがそれはサルファの戦力を拳だけで3割――サルファ自身の魔力を加味しても、ゆうに2割は削る選択だ。
そう指摘され、サルファは強気な笑顔を2人に向けた。
「ウチの我儘で戦場離れるんやで。
自分の体くらいいくらでも削ったるわ。
・・・
その分、奥の手もあるしな。」
奥の手――ザギに本気の警戒を抱かせた一撃のことは詳しくは語らず。
それでも何の心配はいらないと信じられる安心感は、流石は現役の魔法少女といったところだ。
自分の体くらいいくらでも削ったるわ。
・・・
その分、奥の手もあるしな。」
奥の手――ザギに本気の警戒を抱かせた一撃のことは詳しくは語らず。
それでも何の心配はいらないと信じられる安心感は、流石は現役の魔法少女といったところだ。
「それにあくまで貸すだけや。ちゃんと返してくれるやろ。」
「勿論です。
・・・
それに、私にも奥の手がありますから!」
張り合うというよりも、姉が妹と同じノリで話すような。
そんな雰囲気に悪くないなとサルファは頬をほころばせ。
クウガマルガムの仮面の奥で、蘭子も同じ顔をしていた。
「勿論です。
・・・
それに、私にも奥の手がありますから!」
張り合うというよりも、姉が妹と同じノリで話すような。
そんな雰囲気に悪くないなとサルファは頬をほころばせ。
クウガマルガムの仮面の奥で、蘭子も同じ顔をしていた。
「後頼むで」
「「任せて!!」」
その一言を合図に、サルファは飛ぶ。
宝太郎が四枚のケミーカードを取り出し、蘭子の周囲に浮かばせたのはそれと同時だった。
「「任せて!!」」
その一言を合図に、サルファは飛ぶ。
宝太郎が四枚のケミーカードを取り出し、蘭子の周囲に浮かばせたのはそれと同時だった。
「みんなお願い!」
4匹のケミー……4人の仮面ライダーが宝太郎の声に合わせ蘭子を中心に、虹色の力場を形成する。
力場に反応し、
この場の宝太郎は知らないことだが、それは未来へと向かうためスチームライナーをギガントライナーへ再錬成する流れとよく似ていた。
中央に立つクウガマルガム――蘭子の腕でサルファのリングが回転し放電を続ける。
温かく、痺れるような強さが両腕に伝わりながら。蘭子はその呪い起動した。
4匹のケミー……4人の仮面ライダーが宝太郎の声に合わせ蘭子を中心に、虹色の力場を形成する。
力場に反応し、
この場の宝太郎は知らないことだが、それは未来へと向かうためスチームライナーをギガントライナーへ再錬成する流れとよく似ていた。
中央に立つクウガマルガム――蘭子の腕でサルファのリングが回転し放電を続ける。
温かく、痺れるような強さが両腕に伝わりながら。蘭子はその呪い起動した。
「『令呪を持って、命じます!』」
華鳥蘭子には、バグスターにより弱体化するような身体能力も超能力も存在しない。
故に、ここが切り時だ。そう決意してから早かった。行動力には自信があった。
令呪のエネルギーで四人のライダーから生まれる力場が一点に集い、サルファのリングがクウガマルガムの中に入り込む。
華鳥蘭子には、バグスターにより弱体化するような身体能力も超能力も存在しない。
故に、ここが切り時だ。そう決意してから早かった。行動力には自信があった。
令呪のエネルギーで四人のライダーから生まれる力場が一点に集い、サルファのリングがクウガマルガムの中に入り込む。
奔流が収まる頃には、その姿は確かに変わっていた。
クウガを思わせる赤色の装甲は金色で縁取られ。
全身に走るファイズの赤いラインがシルバーになる代わりに、銀色の素体はサルファのイメージカラーに近い、金に近いイエローへと変化していた。
グリオンの生み出す黄金のマルガムとは違う。
薄汚い金メッキではなく、雷を宿した奇跡の結晶。
通常あり得ない変異種の多重錬成。錬金術と魔力と呪力の融合体。
クウガを思わせる赤色の装甲は金色で縁取られ。
全身に走るファイズの赤いラインがシルバーになる代わりに、銀色の素体はサルファのイメージカラーに近い、金に近いイエローへと変化していた。
グリオンの生み出す黄金のマルガムとは違う。
薄汚い金メッキではなく、雷を宿した奇跡の結晶。
通常あり得ない変異種の多重錬成。錬金術と魔力と呪力の融合体。
仮に名を与えるなら
――クウガマルガムファイズミクスタス ライジングアクセル
――クウガマルガムファイズミクスタス ライジングアクセル
「令呪をつかったから99秒しか持たない。一気に決めるよ!」
「任せてください!」
令呪の光が収まり、カウントダウンが開始される。
蘭子の動きは早かった。
「任せてください!」
令呪の光が収まり、カウントダウンが開始される。
蘭子の動きは早かった。
怯みから起き上がったサイバー・ダーク・クローの光る刃を足場にクローの背中に回り込む。
先ほどカノンのレーザーで焼かれた部位は、当然ながら装甲が薄い。
自分の中に宿る力に導かれているような思いと共に、サルファから学んだ握り方で思いっきり傷をぶん殴る。
先ほどカノンのレーザーで焼かれた部位は、当然ながら装甲が薄い。
自分の中に宿る力に導かれているような思いと共に、サルファから学んだ握り方で思いっきり傷をぶん殴る。
「せい!!!」
巨大なヒビがはいり、クローの背中の装甲が3割近く砕け散る。
当然狙うはその装甲の中身だ。
飛び上がり、砕けた装甲めがけて足を思いっきり延ばして加速を続けた。
巨大なヒビがはいり、クローの背中の装甲が3割近く砕け散る。
当然狙うはその装甲の中身だ。
飛び上がり、砕けた装甲めがけて足を思いっきり延ばして加速を続けた。
当然、相方がやられて黙っているサイバー・ダーク・カノンではない。
飛び上がって避けられないクウガマルガムを狙い、体全身を振るい鞭のようにしならせ叩きつけるようとする。
体をまっすぐに、思いっきり延ばして。
飛び上がって避けられないクウガマルガムを狙い、体全身を振るい鞭のようにしならせ叩きつけるようとする。
体をまっすぐに、思いっきり延ばして。
『ガッチャージバスター!』
「俺もいるんだよ!」
顎に喰らったガッチャージバスターに動きが怯み、反撃が失敗。
同時に蘭子の蹴りがクローの装甲の内側に届き、体を貫通し大穴が開いた。
ジジジと音を立てて動きを止めたクローが倒れこみ、その動きに巻き込まれカノンも動けなくなる。
「俺もいるんだよ!」
顎に喰らったガッチャージバスターに動きが怯み、反撃が失敗。
同時に蘭子の蹴りがクローの装甲の内側に届き、体を貫通し大穴が開いた。
ジジジと音を立てて動きを止めたクローが倒れこみ、その動きに巻き込まれカノンも動けなくなる。
「これでおしまいです!」
カノンの砲身に向けて全力でパンチを振るう。
呪力とも魔力とも分からないエネルギーがカノンの体に逆流し、ブスンという音を立ててその動きを止めた。
カノンの砲身に向けて全力でパンチを振るう。
呪力とも魔力とも分からないエネルギーがカノンの体に逆流し、ブスンという音を立ててその動きを止めた。
「こいつらを倒し、返す刀で俺を狙うか。」
二体のサイバー・ダークを撃破。残り34秒。
勢いをそのままに、覇王に向けて殴りかかる。
まだ効果は残っている。アナザーライダーの耐性があろうと当たればただでは済まない拳だ。
二体のサイバー・ダークを撃破。残り34秒。
勢いをそのままに、覇王に向けて殴りかかる。
まだ効果は残っている。アナザーライダーの耐性があろうと当たればただでは済まない拳だ。
「だが、甘い!」
覇王が腕を動かすと、ぐねぐねと黒い金属が覇王の周囲を覆うシェルターとなる。
拳を当てて理解する。これは先ほど倒したサイバー・ダーク・カノンの骸を錬金術で再利用しているものだ。
覇王が腕を動かすと、ぐねぐねと黒い金属が覇王の周囲を覆うシェルターとなる。
拳を当てて理解する。これは先ほど倒したサイバー・ダーク・カノンの骸を錬金術で再利用しているものだ。
残り25秒
もはや四の五の言っている時間は無くなった。
サイバー・ダーク・カノンの装甲に向けて、蘭子は無我夢中にラッシュを続けた。
タイムリミットが迫る中、ラッシュを叩きこむごとにヒビがどんどん大きくなる。
もはや四の五の言っている時間は無くなった。
サイバー・ダーク・カノンの装甲に向けて、蘭子は無我夢中にラッシュを続けた。
タイムリミットが迫る中、ラッシュを叩きこむごとにヒビがどんどん大きくなる。
「決めます!」
残り5秒。
いったん距離を取り、走りこむとともに勢いをつける。
空中で一回転し、引き絞った矢のような蹴りを覇王を守る装甲に叩き込んだ。
この蹴りがとどめとなり装甲は粉々に砕かれる。
アナザーガッチャ―ドの姿がむき出しになるさなか、反動で蘭子の体は宙に浮かび上がる。
令呪の効果が終了、サルファの力が混ざりこんだブーストタイムが終わる。
――同時に、単独禁区(ソロソロキンク)の効果が切れ。クウガマルガムが華鳥蘭子へと戻った。
残り5秒。
いったん距離を取り、走りこむとともに勢いをつける。
空中で一回転し、引き絞った矢のような蹴りを覇王を守る装甲に叩き込んだ。
この蹴りがとどめとなり装甲は粉々に砕かれる。
アナザーガッチャ―ドの姿がむき出しになるさなか、反動で蘭子の体は宙に浮かび上がる。
令呪の効果が終了、サルファの力が混ざりこんだブーストタイムが終わる。
――同時に、単独禁区(ソロソロキンク)の効果が切れ。クウガマルガムが華鳥蘭子へと戻った。
「ここまでだな。」
怪物が少女へと戻る様を見て、どこか落胆したように覇王は言う。
曲がりなりにもここまで持ちこたえられていたのは、真化したマジアサルファとマルガムとなった蘭子が前線を張っていたことが大きい。
自身に有効打を与えられる危険な存在こそ一ノ瀬宝太郎だが、この前衛2人を失っては覇王を倒すには至らない。
怪物が少女へと戻る様を見て、どこか落胆したように覇王は言う。
曲がりなりにもここまで持ちこたえられていたのは、真化したマジアサルファとマルガムとなった蘭子が前線を張っていたことが大きい。
自身に有効打を与えられる危険な存在こそ一ノ瀬宝太郎だが、この前衛2人を失っては覇王を倒すには至らない。
勝利の理由はもう1つ。
蘭子が砕いたのはサイバー・ダーク・カノンの装甲だが、アナザーガッチャ―ドはいつでもサイバー・ダーク・クローを同じように装甲として動かせるのだ。
破れかぶれに一ノ瀬宝太郎が必殺技を使おうと防ぎきれる。
ライフが100にまで減少し、手札もなければモンスターもない。おまけにこちらの場には罠カードが伏せられている。
デュエルで言えばそんな状況に陥っていると覇王は見ていたが。
蘭子が砕いたのはサイバー・ダーク・カノンの装甲だが、アナザーガッチャ―ドはいつでもサイバー・ダーク・クローを同じように装甲として動かせるのだ。
破れかぶれに一ノ瀬宝太郎が必殺技を使おうと防ぎきれる。
ライフが100にまで減少し、手札もなければモンスターもない。おまけにこちらの場には罠カードが伏せられている。
デュエルで言えばそんな状況に陥っていると覇王は見ていたが。
「それはどうかな!」
「それはどうかしら!」
「それはどうかしら!」
逆転の秘策がある。
変身する力も持たない少年少女は高らかに告げ。構えた。
一ノ瀬宝太郎は銃を。
変身する力も持たない少年少女は高らかに告げ。構えた。
一ノ瀬宝太郎は銃を。
――華鳥蘭子は、弓を。
今まで見せなかった、しかし間違いなく見覚えのある武器に、仮面の奥の覇王の目がわずかに見開いた。
「その武器は……一ノ瀬宝太郎の!」
「初めて、驚いてくれたわね!」
一ノ瀬宝太郎から華鳥蘭子が受け取っていた武器、ガッチャ―トルネード。
所持するケミーをマルガム化に利用していたので使う機会がなかったが、ガッチャージガンが覇王に有効だと知ってからはわざとその武器を使わなかった。
アナザーライダーの法則を華鳥蘭子は知らないが。
自分が持つこの武器も、今の覇王には有効だと。なぜだか確信が出来ていた。
「初めて、驚いてくれたわね!」
一ノ瀬宝太郎から華鳥蘭子が受け取っていた武器、ガッチャ―トルネード。
所持するケミーをマルガム化に利用していたので使う機会がなかったが、ガッチャージガンが覇王に有効だと知ってからはわざとその武器を使わなかった。
アナザーライダーの法則を華鳥蘭子は知らないが。
自分が持つこの武器も、今の覇王には有効だと。なぜだか確信が出来ていた。
「それが貴様の真の切り札か!」
「ええ!そうよ!」
「ええ!そうよ!」
『ケミーセット』
蘭子の体から排出されたファイズケミーが、ガッチャ―トルネードのスロットにひとりでに収まった。
術式は切れ、変身もできないが。地獄への回数券が有効であり、その眼も腕もまだ動く。
蘭子の体から排出されたファイズケミーが、ガッチャ―トルネードのスロットにひとりでに収まった。
術式は切れ、変身もできないが。地獄への回数券が有効であり、その眼も腕もまだ動く。
ガッチャ―トルネードを構え、何度も弓を弾く。
本体部のカードスロット、「ガッチャースピン」が文字通り高速で回転し。ファイズのフォトンブラッドを思わせる緋色のエネルギーが充填される。
本体部のカードスロット、「ガッチャースピン」が文字通り高速で回転し。ファイズのフォトンブラッドを思わせる緋色のエネルギーが充填される。
「いきます!」
『トルネードアロー!!』
『トルネードアロー!!』
着地と同時に放たれた半月状のエネルギーが何度も何度も連なって覇王を襲う。
覇王には分かる。あの武器もまた仮面ライダーガッチャ―ドの力だと。
一ノ瀬宝太郎の銃と同じ、アナザーガッチャ―ドの耐性を貫通できる道具であると。
覇王には分かる。あの武器もまた仮面ライダーガッチャ―ドの力だと。
一ノ瀬宝太郎の銃と同じ、アナザーガッチャ―ドの耐性を貫通できる道具であると。
錬金術を起動し、サイバー・ダーク・クローの骸を引き延ばす。
トルネードアローが二撃、三撃と届くにつれ、べきべきと音を立て破壊されていく。
最後のエネルギーが届くと同時に、クローの装甲は弾けとび。
トルネードアローが二撃、三撃と届くにつれ、べきべきと音を立て破壊されていく。
最後のエネルギーが届くと同時に、クローの装甲は弾けとび。
「これで終わりだ!覇王!」
その合間に、狙いを定める一ノ瀬宝太郎の姿があった。
『ダブル!オーズ!フォーゼ!』
『ガガガガッチャージバスター!』
『ガガガガッチャージバスター!』
3つのライダーの力を重ねた仮面ライダーガッチャ―ドの力が確かに撃ち込まれ。
虹のように輝く奔流がアナザーガッチャ―ドに……覇王十代に確かに届いた。
虹のように輝く奔流がアナザーガッチャ―ドに……覇王十代に確かに届いた。
「見事だ。」
サイバー・ダークの残骸を吹き飛ばすほどの大爆発が起こる寸前。
宝太郎と蘭子の耳には、そんな言葉が聞こえた気がした。
宝太郎と蘭子の耳には、そんな言葉が聞こえた気がした。
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時系列順 | ||
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華鳥蘭子 | ||
覇王十代 | ||
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邪樹右龍 | ||
鬼方カヨコ | ||
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