解放された者と抑える者 ◆ARe2lZhvho
二度目の死者を告げる放送が終わった後も不要湖の三人――
宗像形、
無桐伊織、櫃内様刻は動くことができないでいた。
理由はそれぞれに存在する。
例えば、無桐伊織――
(三時間後に禁止エリアですか……玖渚さんを連れ出さないといけないですね)
という思考だったり。
例えば、櫃内様刻――
という驚嘆だったり。
例えば、宗像形――
(人吉くんに真黒くんも死んだ……?)
という困惑だったり。
三者三様の反応を見せる中、宗像がぽつりと呟いた。
「黒神さんは大丈夫だろうか……」
既に一通りの情報交換は済ませており、伊織と様刻が箱庭学園の関係者でないことはわかっている。
だから、独り言のつもりで言ったものであり返事があるとは予想だにしなかった。
「うな?黒神さんとは
黒神めだかさんのことですか?」
「そうだけど、知っているのかい?」
「直接には知らないんですがどうやら危険人物のようだと情報を聞いているので」
「ちょっと待ってくれ、黒神さんが危険だって?」
宗像が驚くのも無理はない。
箱庭学園における黒神めだかという存在は『見知らぬ他人の役に立つために生まれてきた』というのを体現している人物であり、その聖人君子ぶりはよく知れ渡っている。
だからこそ、彼女はこの場においても真っ先に対主催として行動していると思っていたのだが――
「様刻さん、スマホ貸してもらえます?」
「あ、ああ……ほら」
「どうもです。宗像さん、こちらですよ」
「そんな――まさか……!」
伊織にアクセスしてもらった
掲示板を見せてもらい、更なる驚愕。
一つ目は、彼女が既に人を殺していたこと。
二つ目は、その殺した人が阿良々木火憐の兄、
阿良々木暦だったこと。
もちろん、書き込まれた情報が陥れるための罠の可能性もある。
実際、
玖渚友がそうだ。
戯言遣いを守るため、掲示板を作り、そこに示唆するような情報を書き込み、貝木や伊織、様刻に悪評を広げる手伝いをさせている。
めだかが本当に人を殺していたから
戦場ヶ原ひたぎのように乗ってくれる者が現れたが、もしも最初から彼女が対主催を貫いていたらどうなっていたか――
いつかは嘘がばれ、めだかの元に追い風が、玖渚には逆風が吹いてもおかしくはなかった。
しかし、残念ながらめだかは確かに阿良々木暦を殺していたし、めだかに近しい者はほぼ全員死んでしまって孤立無援に等しい。
放送を通して知ることができたのは後者だけだが、前者を確かめる手段はあった。
「でも、DVDを見ればわかるはずなんだ」
「DVDですか?」
「火憐さんが見つけたんだけど図書館にあったものだよ。誰が誰を殺したのかがわかるらしい」
「それ、何人分あるんだ?」
基本的に宗像と伊織のやりとりを静観していた様刻がここで口を挟んだ。
「僕が持っているのは10人分……図書館に戻ればさっき呼ばれた7人のもあるかもしれないけど……」
「そうか、ありがとう」
「様刻さん、図書館に行くつもりですか?」
「そのつもりだけど悪いかい?伊織さんが来なくても僕は行くつもりだ」
「別に行くのを反対するつもりはないですよう。ただ、玖渚さんのことがありますから」
「禁止エリアになったって言っても3時間猶予があるんだろう?それだけあれば大丈夫だと思うんだけど」
「そうもいかないんですよ。玖渚さん、めちゃくちゃ運動音痴ですし体力も全然ないんです」
「……つまり?」
「誰かが迎えに行かなきゃいけないんですよう」
「それなら僕が行こうか」
「いいんですか、宗像さん?」
「元々僕は向かう予定だったしね。一人を背負うくらいわけないさ」
「ふむ……でしたらお願いしましょう。玖渚さんには私たちからお話ししておきますので」
「連絡する手段が?」
「ほら、様刻さんが持ってたスマホですよ。宗像さんも持っていませんかね?」
「僕は千刀だけだったけど火憐さんはどうだったか…………あった」
火憐のデイパックをまさぐり、宗像はスマートフォンを取り出す。
そして、ぽろりとこぼれ落ちるものが二つ。
「おや、拳銃ですか」
「コルト・パイソンだね……でも少し軽いな。これ、実弾じゃなくてゴム弾使っているのか」
「まあ、それはともかく連絡先を交換しましょう。でないとお互い動けませんし」
なぜか電話を持っていない伊織が仕切っていたが、とにかく作業は完了した。
「それでは玖渚さんのことお願いします」
「任されたよ」
目にも止まらぬ早さで走り出した宗像が二人の視界から消えるのに時間はかからなかった。
【1日目/真昼/E-7】
【宗像形@めだかボックス】
[状態]身体的疲労(中) 、殺人衝動喪失
[装備]千刀・鎩(ツルギ)×564
[道具]支給品一式×2、コルト・パイソン(6/6)×2@人間シリーズ、スマートフォン@現実、「参加者詳細名簿×1、危険参加者詳細名簿×1、ハートアンダーブレード研究レポート×1」、「よくわかる現代怪異@不明、バトルロワイアル死亡者DVD(1~10)@不明」
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
0:斜道郷壱郎研究施設へ向かい、玖渚友を禁止エリアから出す。
1:黒神めだかが本当に火憐さんのお兄さんを殺したのか確かめたい。
2:機会があれば教わったことを試したい。
3:とりあえず、殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
4:DVDを確認したい。
5:火憐さんのお兄さんを殺した人に謝らせたい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※危険参加者詳細名簿には少なくとも宗像形、零崎一賊、
匂宮出夢のページが入っています
※上記以外の参加者の内、誰を危険人物と判断したかは後の書き手さんにおまかせします
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
走り去った宗像を見送った後、ふいに伊織が切り出した。
「宗像さん、私よりも年上だったんですねえ」
「それ今言うことか?」
「年下だと思って普通に宗像形君って呼んじゃってましたよう、恥ずかしい限りです」
「まあ、気持ちはわからないこともないが……」
「話は変わりますが様刻さん、今の私は私に見えていますか?」
前触れのない話題の転換。
内容も相まって様刻は思わずどきりとする。
「え、それはどういう……」
「とぼけなくてもいいですよう。さっき私が宗像さんとお話ししていたときほとんど口を挟みませんでしたよね。それって、まだ繰想術が解けていなくてうっかり襲ってしまわないように抑えていたってことでしょう?」
「……ばれてたのか」
「伊織ちゃんも我慢してますからね。わかってしまうものなのですよ」
「そう言われるとお手上げだな。とりあえず、今は大丈夫だ」
「ですか。では、これからどうなさるつもりで?」
「決まっているだろ。図書館に向かうんだ」
「いえいえそうではなく、図書館に行ってそのDVDとやらを手に入れて時宮時刻を殺した人を突き止めて、それからどうするつもりなんですか?」
「えっと、それは……」
「やっぱり決めてなかったんですね」
「まあ、そういうことに……なる」
「仕方ありませんねえ。ですが早急に決めなければならないことでもないですし追々考えていきましょう」
「それでいいのか……」
「私も様刻さんと同じですからねえ。先程軋識さんという方が呼ばれてしまって残る零崎が双識さんと人識くんだけになってしまいましたし」
「知り合いが残ってるだけマシなんじゃないのか。家族なら尚更」
「でしょうね。だから怖いんですよ」
「怖い?」
「ええ、怖いです。今回は呼ばれずに済みましたがもしも次で呼ばれてしまったらそのときは自分を抑えていられるのか――って」
「それで、僕と同じなのか」
「そういうことです。だから私も知っておきたいんですよ、零崎を開始したからには最低限仇は取らないと顔向けできません。ですから警告します」
「警告?」
「はい、忠告でも訓告でもなく警告です。私にもしものことがあったら遠慮無く逃げてください。殺してしまいかねませんから」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことだなんて言ってられませんよう。それなりに殺人衝動が溜まっていますから一気に解放したら一般人である様刻さんは殺気にあてられかねませんよ」
「それで殺されるならそのときはそのときだろう、自分の身くらいは自分で守るさ。僕だってそれを承知で伊織さんといるんだから」
「無用な心配みたいでしたね」
ぼすっ。
歩き出した伊織の足に何かがぶつかった。
「おや、これは誰かの支給品ですかねえ?」
「もしかしてさっき見つけた人のかも。人、というか死体だったけど……」
二人は名前を知ることはなかったが確かにとがめのものだったデイパックだ。
「では中身をいただいていくとしましょうか」
「少しは遠慮というものをしないのか……」
「伊織ちゃん、自殺志願以外には何の御利益があるかわからないお守りしかありませんでしたからね、装備は多い方がいいに決まってます」
「否定はしないけどさぁ」
「これは鈍器にしかならなそうですね」
伊織が鈍器になりそうと言って取り出したのは家庭用の将棋盤だった。
「将棋盤をそんな使い方するな、せめて角を使え」
「様刻さんの使い方も十分問題ありそうですが」
「この場において真っ当な使い方をする方がおかしいだろ。こんなとこで呑気に将棋なんか打てるわけないんだから」
「身も蓋もないこと言いますね……その通りですが。あら、これは携帯電話ですか」
「宗像さん、いや、火憐さんか。彼女も持ってたし他にも持ってる人はいそうだな」
「みたいですねえ。どうやら、コミュニケーションを取るのを前提にしているみたいですし」
「そこまでわかるのか?」
「推測ですけどね。この電話、施設の電話番号が登録されているようで」
「施設じゃないものもあるみたいだけど?」
様刻が覗き込んだ画面には施設の名前ともう一つ、ランダムと表示されているものがあった。
「うなー、誰かの番号に繋がるとしか書かれてませんねえ。とりあえずかけてみますか」
「ちょっ、そんな軽率な……」
躊躇なく発信操作をする伊織。
慌てて様刻が止めたが手遅れで、すぐにコール音が鳴った。
「鳴ってますよ、様刻さん」
「そうだな、鳴っているな」
かけている側の伊織からコール音が出るはずはないので、必然、鳴っているのは様刻のものということになる。
「玖渚さんからですかねえ?」
「そんなタイミングよくかかってくるはずあるか」
「……………………」
「……………………」
「登録する手間が省けましたね」
「ああ、すごくもったいなかったと思うが」
「様刻さんに繋がるんでしたら遅かれ早かれ意味はなかったと思いますよう」
「それは否定しないけども」
「ちぇっ、これで打ち止めですか。そういえば様刻さんは何が支給されたんですか?」
「欲しがってるよな、それ欲しがってるよな?」
「ちっ、ばれましたか」
「舌打ちをするな舌打ちを。僕に支給されたのはこれだよ」
そう言って様刻が取り出したのはダーツの矢。
「なんだ、そんなものですか」
「露骨にがっかりするなよ、傷つくだろうが。それにただのダーツじゃないみたいだし」
「ただのダーツではないと?」
「影か体に刺すと動きを止められるらしい。さっき言った自分の身は自分で守るってのはそういう意味さ。後、目を輝かせるな、さっきからキャラ崩壊してるぞ」
「それは様刻さんも同じような気がしますが」
「……お互い傷つかないうちにやめようか」
「……そうですね。玖渚さんに電話しないといけないですし」
携帯電話を操作して伊織は電話をかける。
「もしもし、玖渚さん?」
【1日目/真昼/E-7】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]殺人衝動が溜まっている
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
0:玖渚さんに電話しましょう。
1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
2:今は様刻さんと一緒に図書館へ向かいましょうか。
3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
[備考]
※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻と玖渚友が登録されています。
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康 、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備] スマートフォン@現実
[道具]支給品一式、影谷蛇之のダーツ×10@新本格魔法少女りすか
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う。
0:時宮時刻が死んだ……!?
1:図書館へ向かう。
2:時宮時刻を殺したのが誰か知りたい。
[備考]
※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
※黒神めだかについて詳しい情報を知りません。
※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。
※阿良々木火憐との会話については、次以降の書き手さんに任せます。
支給品紹介
【スマートフォン@現実】
阿良々木火憐に支給。
登録情報以外のデータは無い。
【コルト・パイソン@人間シリーズ】
阿良々木火憐に支給。
闇口濡衣が竹取山で
零崎双識に対して使ったゴム弾を使用した『殺意なき弾丸』。
徹底的に改造済みで匂いの残る火薬は使用しておらず、銃声も最小限に留めてある。
【お守り@物語シリーズ】
無桐伊織に支給。
蛇切縄を還すために使われたお守り。
【影谷蛇之のダーツ@新本格魔法処女りすか】
櫃内様刻に支給。
影か体に刺すと口以外は動かせなくなる魔方陣が組み込まれたダーツ。
制限により止められるのは5分間。
【携帯電話@現実】
とがめに支給。
学習塾跡の廃墟と不要湖を除く地図のD~Fの範囲の施設の電話番号とランダムで誰か一人の携帯電話に繋がる番号が登録されている。
【将棋セット@世界シリーズ】
とがめに支給。
串中弔士が音楽室で病院坂迷路と打っていたもの。
将棋盤は鈍器にはなるんじゃないかな。
最終更新:2013年06月16日 11:13