鏡に問う ◆xR8DbSLW.w
0
鏡よ鏡。
この世で一番醜いのはだあれ?
1
「よう、息災してたか。欠陥製品」
零崎人識の第一声はそれだった。
まるで変わらないいつもの調子。
むしろようやく、微妙なすれ違いによる仲違いが解消できて清々したようにもみえる。
かはは、と笑う彼の姿に何処にも変わらぬ様子はない。
「……お前よりはね。人間失格」
対してどうだろう。
返答に出た鏡の向こう側。
――つまるところ
戯言遣いの対応に少しばかり人識は面食らう。
「おいおい、だいじょーぶか。なんだかやけに疲れてねーか?」
その声は。戯言遣いの声は。
端的に言って疲れの色が見えてきた。
言うまでもなく、ここにいる全員が全員人識の様に図太い性格をしている訳ではないが。
人識からして、いや或いは、戯言遣いを知る人間からして、戯言遣いが《たかだか殺し合いに参加させられた程度》で疲弊するなんて、想定にもしていない。
実際、《刑事》佐々沙咲は、戯言遣いが葵井巫女子の死体を見た時に吐き気を催したのを、「意外」と称した。
それほどまでに戯言遣いと言う《人間》は欠陥的な生物である。
調子が狂うのも已む無しなのかもしれなかった。
「心配される筋合いはないよ。それは有難迷惑ってやつだぜ」
「そーかい。ならさっそく本題から入らせてもらう」
「助かるよ。今のぼくに軽口をしろというのは、つまりは自殺しろと言ってるのと同義だ」
「だったらとっとと世界の為に死んどけよ――っと、まあいい」
人識は何から質そうか。
一瞬の逡巡を経て、電話越しに問う。
まずは当たり障りのないところから、会話を切りだした。
「まず問うべきはお前の場所だけど……聞こえる感じ、まだ砂漠っぽいね」
「へえ、話が早いね。そんなに雑音まじりになってるか」
「まーな。おめーさんの戯言よりかは、マシな音かもしれねーけどな」
「当たり前だろう。ぼくほど善良極まった人間の戯言なんて、幼児の描いた親の顔並みに無様で当然さ」
「そいつぁ失敬。何分人を殺したこともない綺麗極まった人間の軽口だ。笑って誤魔化しといてくれや」
「分かったよ」
人識はクラッシュクラシックのドアを再び開ける。
そこには依然、
零崎曲識の死体が横たわっていた。
このクラッシュクラシックの主にして、殺人鬼。
零崎のなかでも異彩にして奇才。
人識はその死体に一瞥をくれ、しかし意に介すことなく店内の品物を漁る。
「しかし零崎。お前の話に延々と付き合うのも天地がひっくり返ろうものなら別に構わないんだが、
悪いが今のぼくにそこまでの余裕はない。っていうか安全運転を心掛けろって言われたばっかだから出来ればすぐにでも切りたいのだが」
「なんだ、近くに誰かいるのか?」
「言ってなかったか?」
「初耳だな」
言いながら人識は、肴になりそうなものを物色し探し当てていた。
出てきたのは、如何にも高そうなスモークチーズ。
何でこんなものが、とも思ったが人識は躊躇いなく口に頬張る。
一言でいえば美味であった。
「そうかい、なら改めて紹介しておくよ。
八九寺真宵ちゃん。心当たりあるかい」
「心当たりなさ過ぎて、忘れてるだけで、もしかしたら有ったかもしれねーな、って思えるぜ」
「ちなみにダウン中だ」
「かはは、馬鹿言ってんじゃねえって。お前の隣を付き添える人間がこんぐらいでくたばるわけねーだろうが」
「せっかくの褒め言葉ありがたく頂戴させてもらうが、今の言葉は本当だよ」
「……マジかよ」
「そこまで驚くことないだろう。それで、心当たりがないんだったら別にいいよ。きみも言いたいことがあったから電話をくれたんだろう」
人識は、先ほどのスモークチーズ含め、適当に取ってきた肴をピアノの屋根や鍵盤蓋の上に載せる。
不躾極まりない行為であったが、このピアノの持ち主も死んでしまったため怒る人間はもういない。
仮に生きていたとしても、曲識がこの程度で怒るかと言うと、それはそれで疑問ではあるが。
傍には曲識の死体が倒れてる。返り血がピアノに付着していることから、ピアノを弾きながら彼は死んだのであろうことは事情を知らない人識でも理解できた。
感慨に耽りながら、人識は赤く染まったピアノの椅子に腰かける。血は乾いていた。
しばしの沈黙をおき、人識は答える。
「ああ、なら俺としても単刀直入に言わせてもらうぜ」
指を二本立て――迷うように三本に立て直す。
「用件は二つ……いや三つかな。まず一つ」
がらんとしたクラッシュクラシックに人識の声はやけに響く。
先ほどまでのがやがやとした、されど緊迫に包まれた状態とは、まるで一変している。
人識はそれらを多少脳裏に浮かべながら、戯言遣いに告げる。
「お前の言う《ツナギの知り合い》は敵だった」
「……っ!!」
「いや、正確には《家賊》の敵だったっつーだけで、お前らにとって敵かどうかは分かんねーだろうけどさ。
ぶっちゃけ兄貴は本気だぜ。近い内死んだっておかしくねえ……ってのは流石に侮り過ぎかな」
「……そう」
「まあまあ、めげんなよ。それに悪いがそっちが本題ってわけじゃあ、ねえんだな」
「勿体ぶるな。さっさと言え」
「しゃーねーな。じゃあ、とっとと言っちまうと、今んとこ一番怖ーのは、そいつもだが――その付き添いだ」
「付き添い?」
「そう、付き添い。さっきまでお前の言うところの《ツナギの知り合い》であろう人間と一緒に居たんだが……
いやいや勘違いするなよ? 俺がそれを知ったのはお前との電話の後だったんだから。
で、紆余曲折あって、そいつと兄貴と一緒に居たんだが、突如来た二人組に《ツナギの知り合い》っての、連れてかれちまったんだわ」
「そりゃお前が不甲斐ないからだろう」
「いやいや、俺の大健闘嘗めちゃいけねーぜ。なーんつっても今回は戦って、すらいないんだけどな」
「なんだ、その言い分だとその付き添いは《呪い名》ってわけか?」
「おめーにしちゃ物分かり良かったんだが、生憎そうじゃないっぽい」
「……つまりどういうことだよ」
急かすような戯言遣いの言葉。
ちなみに戯言遣いはようやく砂漠を抜けかける辺りを走行している。
ここから先は、道路が続く。走り易さで言えば格段に上がったが、先刻危惧したとおり参加者に見つかり易くなった。
だが戯言遣いは車を降りる気はなかった。
一先ず真宵を診療所に連れていくことが先決である。
そこで、人識からの返答が返ってきた。
「もしかしたら《負完全》
球磨川禊が参入してる可能性があるっつーこと。
そして厄介なことに球磨川くんだけじゃなく、《忍者》が関与しているってのが最悪だ」
「あの未満はとりあえずおいとくとして……《忍者》……ってあの《忍者》?」
忍者が関与している。
そう言われても戯言遣いにはその危機感がいまいち掴みきれない。
さもありなん、これまでの人生、数多くの異端子と交錯してきた戯言遣いであるが、忍者と言うものに有った記憶はなかった。
今更、忍者がどうこう言われて危機感を持てという方が、戯言遣いからしては可笑しな話である。
いや、もしくは、ここで危機感を持てないのが八九寺真宵を憔悴させる結果になったとしたならば笑うことはできなかった。
「そう、伊賀や甲賀で有名なあの忍者……とはちげーがな。そいつの名前は真庭蝙蝠」
「……ああ、成程」
そこで戯言遣いもようやく得心がいく。
スーパーマーケットで交戦、もとい口戦を果たした真庭鳳凰の仲間、或いは血縁関係。
成程、人識が注意深くなるのも頷けよう。
「で、その蝙蝠ってのはどう危険なんだ。分からないわけじゃないんだろう?」
「ああその通り。分からないわけじゃあない。むしろ分かっちまったからこそ危険なのかもしれねーけどな。かはは」
「茶化すな」
「キレんなよ。カルシウム足りてるか」
「生憎気まぐれで人を殺せるようなきみよりかは足りてると自負してるよ」
「そいつは怖い殺人鬼もいたものだ。いやはやしかし、こういう時の殺人鬼って意外と常識があることがお約束だからなあ。
気まぐれで人を奈落へ落し込むような法螺吹きよりかは幾らかマシだとは思わないかい」
「まったく同意だね。そんな人を奈落へ叩きこむような人間は逐一残らず地獄に落ちればいいとは思っているけれど、
残念ながら世の中不平等なもので、大概そう言う人間は顔面に刺青を施す背の低い可哀相な奴だと決まっているものだ」
「んー、でも顔面に刺青を施す背の低い可哀相な奴っていうのは、
案外格好良くて素敵な奴って相場は決まってるからな、世の中不思議なものだ。
格好悪くて素敵じゃない奴だと相場は決まっている、
なーんも特徴のないくせに瞳だけは腐りきってる奴なんかは、それこそ生きている価値があるのか、俺は時々不安になるぜ」
「それについては異論にしようがないね。本当どうしようもない」
「かはは、随分と死にかけじゃねえか」
人識はにやにやと笑い、戯言遣いは笑わない。
その会話は、戯言遣いにしては張合いのない会話だった。
人識は怪訝に思うが、とりあえず疑問は先延ばしにする。
「それで真庭蝙蝠だ。単刀直入に言おう。そいつは変身能力をもっている」
「変身能力……?」
「そこは疑問をもつまでもない。書いて字のごとく、変身――いや。この場合は変態って方が適切か。
ポケモンで例えるとメタモンってところだな。ちぃっとばかり、可愛気はねえけど」
「哀川さんの声帯模写を知ってるか」
「あー、そういやあいつ、そういうのももってたなあ。ああ知ってるとも、そして真庭蝙蝠の変態能力はその点に限っちゃあ勝ってるかもしれねえぜ」
「……そこまで正確か」
「正確ちゅうか骨格を変えてんだから、同じなんだよ。似てるんじゃない、同じ」
嫌になるぜ。
と人識は嘆息するが、同意は貰えない。
事実、蝙蝠の姿を見るまでは半信半疑だった人識からは何も文句は言えないが。
「で、話を進めるが、ここで面倒なんは蝙蝠が俺たちの姿に恐らく変態できるってことだ」
「根拠でもあるのか」
「ねーよ。可能性の話だ。ただ、出会った相手の全ての姿に変態できる、ぐれー考えたって十分な奴だった」
「成程な。知り合いだと思って近づいたら蝙蝠だった、という可能性も考えられる、か」
「まあ、俺とお前の間に限っては無駄なこと考えない方がいいかもな」
「さあ、どうだろうね」
「とはいえ記憶までは真似できねえみてーだ。頭を打って記憶を失くしてる、なんて言った暁にはそいつがおそらく蝙蝠だろうよ」
「そうか。世の中不平等なだけじゃなくってもはや末だな」
「今更だろ」
「まあね」
戯言遣いは首肯する。
生も死も入り乱れた彼の死生観からして、その首肯もある種当然であった。
人識もそのことに意に介さず、とんとん拍子で次の話題へ切り替える。
「さて、次だ。その真庭蝙蝠とガキ二人と兄貴で色々あった結果。俺は今手持ち無沙汰だ」
「暇人なんだね」
「ああ、今の俺は恐らく部屋で一人、脳内でエイトクイーンをおっぱじめるぐらいの暇人さ。
なんてわけで今からお前んとこ寄ってくか、と考えてるんだがお前は今、何処に向かってる」
「なんだ、構ってくれる人がいなくてさみしいのか。きみの事は鬼だと思っていたがもしかしたら兎の転生だったのかい。
ぼくたちは今、西東の方ではない診療所に《向かって》いる。来たきゃ来ればいいさ」
「応、詐欺師の御進言痛み入るよ。じゃあ今度も俺が目立つようにボコボコにされといてくれよ」
「まったく脇役を目立たせるのも楽な仕事じゃないね」
「んじゃ、俺はそっち側に向かうとしてだ」
「最後の用件か」
「そう、最後の用件。ズバリ訊こう」
ゴホン。
咳払いを一つ。
宣言通り、零崎人識は単刀直入に問い掛ける。
「お前、どうした?」
至極真面目なトーンに。
戯言遣いの方が思わず仰け反ってしまった。
「どうした? ……ってなにがだよ。さっぱり心当たりがないな」
「いやいやいや、誤魔化してんじゃねえよ。お前最初から元気なさすぎだろうが。なんか俺に出来ることはあるか?」
「……そうだね」
戯言遣いは頷いた。
「とりあえず聞いといてくれ」
「わかった」
「いや、実を言うとね。ぼくって乙女心が分かんないんだ」
「知ってる」
「だから、一人の女の子を傷つけちゃったんだよ」
「それがさっき言ってた八九寺真宵か?」
「そう」
「なんだ。告白でもされたのか」
「だとしたら、彼女は随分救われただろうにね」
「ふーん」
「きみは関わってるかい?
阿良々木暦という人間と」
「いんや、まったく。死んだってこと以外知らないぜ」
「真宵ちゃん、その暦って人の事が好きだったんだよ」
「あー、そりゃご愁傷様なこった」
「それに災難なことは立て続けに起こってね。
まず鑢七実ちゃんから日之影空洞と言う男に庇ってもらい日之影空洞と言う男は、真宵ちゃんの目の前で虐殺された」
「えげつねー……」
「そしてさっきまでは比較的穏やかだったんだけど、ついさっきとある電話が来てね」
「ああ」
「ツナギちゃんが電話越しに遺言を残して死んだ」
「……恨み言か?」
「性質が悪い事にそういうわけじゃない。ぼくたちに未来を託して死んでった」
「…………そりゃあ、災難なこった」
「ちなみに彼女、っていうかぼくらは、
第一回放送前に真庭鳳凰に襲撃された」
「……………………」
終には人識は黙ってしまった。黙らざるを得ない。というべきか。
確かに人識も《殺し名》として、尋常ではない戦にしばしば赴いたり、巻き込まれたり。
並々ならぬ惨状を目の当たりにしたことも決して少なくないが、しかし《普通》の人間がここまで劇的に過ごしてようとは。
流石の人識でも、見ず知らずの八九寺真宵に僅かな同情を寄せる。
「まあ、そういうわけで今は精神的に参っててね。寝込んでる感じだよ」
「……なんか俺、電話を掛けて今すげー申し訳ねえ気持ちに陥ってんだが」
「きみが空気を読めないことはいつものことだ。気にしないでいいさ」
「……そーかよ、で。お前は何に対して落ち込んでるんだ?」
「ん?」
「いや、だから。八九寺真宵がそうなったのはわかったけどよ。
八九寺真宵をそこまで徹底的に落とした自分が憎いのか。
八九寺真宵がそこまで容赦なく落ちていたのに気付けなかった自分が悔しいのか。
そんな八九寺真宵を匿わなければいけない自分の立場が辛いのか。或いはそれ以外か」
「……そうだね。強いて言うなら先二つだね」
「そうかい」
そこで。
かはは、と人識は笑う。
かははははははははっ! と腹を抱えて爆笑する。
笑って、笑って。
クラッシュクラシックの店内に残響するほどの笑いをあげて――。
「おいおいおいおいおいおいおいおい。本気で大丈夫か、欠陥製品」
しかし最後には――笑みは消えていた。
「さっきから言ってるけどさあ、今更だろうが。
お前と関わってまともで耐えれる《普通》の人間がそこらに転がってるわけないだろ。
おめーみてーなの無為式(イフナッシングイズバッド)つーんだっけ? 自覚してるだろうが。お前自身」
「…………」
「エモト……だっけ? が死んだ、あの俺もちょこっとだけ足を踏み入れた一連の事件に対して、
《喉が渇いた》と一蹴したお前に、今更そんなことを思える人情があったなんて、俺はそれだけでも驚愕だ」
戯言遣いからの返答はない。
もしかすると、人識の言い分で落ち込んでいるのかもしれない。
一瞬は人識もそう考えたが、それはないな、と自ずとその可能性を否定して、
だからこそ、彼は言葉の穂を繋げる。
「まあ、俺から言えることはだな。
八九寺真宵って奴が大事ならできるだけお前は離れたほうがいいんじゃねーの?」
「…………」
「ま、男には譲れねー一線ってのもあるかもしれねえから一概には言わねーけどな」
かはは、と殺人鬼は笑う。
戯言遣いは、笑わない。
「ところでさ、お前がそこまでいう女なんだからすっげーべっぴんさんなんだろうな」
「いや、小学生みたいな子だよ」
「ちぇー、なんだー。カッケーおねーさんなら俺が命顧みずお前みたいな悪党から救ってやったちゅうのによ」
「殺人鬼がよく言うよ」
「かはは、違いねえ」
人識は最後に、ピーナッツを頬張り、目の前に有った食べ物を平らげる。
目の前にはパッケージの残骸が群れをなしていた。
「まあ、とりあえず診療所で待っとけ。俺が何とかしてやんよ」
「これは感謝するべきなのかな」
「止めろよ気持ち悪い。お前みたいなのを助けたと思うと、うっかりとうとう死んだのかと勘違いしちまうぜ」
本気で嫌そうな顔をして、それを否定しながら、人識は腰を上げる。
尻の辺りを二、三回振り払って、小柄な日本刀を片手にクラッシュクラシックを出た。
太陽は、徐々に沈む傾向になっていくだろうが、今はまだ明るい。活発に動くのであれば今だろう。
「じゃ、切るぜ」
「ああ」
そして別れの言葉もなく。
二人の電話は、こと切れた。
2
結果。
戯言遣いは電話をしながらでも今度は事故を起こさなかった。
ここで仮に事故って、爆発炎上を起こし、両者もろもろ死ぬ結果になったのであれば、
もはや掛ける言葉が見当たらない惨状(この場合主に戯言遣いの脳内を指す)であったが、それは避けられたようである。
本来戯言遣いとしても、八九寺真宵が意識を失う前、必死に伝えたこと――
つまるところ安全運転を心掛けるつもりは、当然あったのだ。
電話に着信があったところで無視をしても良かったのだが、着信メロディ(通称着メロ)はいくら待っても途切れることはなかった。
飄々と電話口で答えた零崎人識であったが、その実鏡が電話に出ないことに幾許か苛立ちを覚えていたのである。
ともあれ、いくら待っても途切れない着信メロディに、そろそろ業を煮やした戯言遣いは、真宵に多少の罪悪感を抱きつつ、
八九寺真宵のスカートのポケットから携帯電話を拝借した。
元々戯言遣いが有していた携帯電話よりかは随分とハイテクなものであったが、難なく操作は行える。
まあ、当然ではあるのだが。
そこからは、戯言遣いとしては認め難い気持ちもあるが、人識に助けられる形で最低限の情報交換を済ませ、会話を閉じた。
戯言遣いとしても、真庭鳳凰の関係者(であろう人物)真庭蝙蝠のことや、
水倉りすか、及びもう一人の曰くガキのこと。
興味深い話を聞けたし、人識と合流できるのは、端的に言えば心強いに限る。
だが、それ以上に。
『八九寺真宵って奴が大事ならできるだけお前は離れたほうがいいんじゃねーの?』
この人識が何気に零した台詞が、いやに忘れられない。
そしてそれを、お得意の戯言――と有耶無耶にすることは叶わない。
戯言で事実を幾ら有耶無耶にしようが、真実を知っている以上まるで無意味。
戯言遣いは知っている。
己の存在の罪深さを――。
他人を狂わせ。
他人を惑わせ。
他人をどうしようもなく不安にさせ。
他人をどうにもできないほど蹂躙し。
他人を心から破綻させる――無為式。
言われるまでもなく、言うまでもなく。
それは彼を知る人間の共通認識。彼自身それを知っている。
何も言えない。
黙らざるを得ない。
狐面と遭遇したあの時から――このバトルロワイアルが始まってから、変質を始めた彼ではあったが。
その《欠点の多さ》ばかりはどうこうできたとは、到底思っていない。
だけど――
「真宵ちゃんが必要だって言ってくれたらぼくは――」
そこまで言って。
止める。
ただの甘えだった。
最終的には、守ると決めた自分が何とかしなければいけない。
戯言遣いと違い――彼女には頼れる人間なんて、もういないのだから。
「…………」
戯言遣いはアクセルを踏み続け。
診療所に《向かった》。
《辿りつかなかった》。
戯言遣いは、診療所に辿りつかなかった。
辿りついた場所は、スーパーマーケット。
およそ十二時間ほど前になるのか、やってきた場所である。
大きなガラス扉が、先刻訪れた時の様に来訪者を待ちかねていた。
「…………。…………は、はあ?」
ここで戯言遣いは呆けた声をあげる。
手に握るコンパスとポケットに入れておいた地図を確かめた。
疑問はますます増えるばかりである。
戯言遣いは、方向音痴というドジっ子属性を有していない。
行きたい場所には迷わず行けるし、避けたい場所は避けれる力はあった。
しかし、今現在戯言遣いは《迷った》。
確かに砂漠は、なんら道標はないから、まっすぐ走っていたとしても、いつのまにか軌跡はずれていた。
なんてオチはあったかもしれないが、戯言遣いからしてみれば、だからこそコンパスまで取り出して慎重に動いていたつもりである。
迷わないように、できるだけ早く診療所に辿りつけるように、車を運転していた。――されど現実は《迷う》羽目となった。
「……いやまあ、このぐらいのことなら……」
とはいえ。
確かに診療所とスーパーマーケットの位置座標は、豪華客船から見て北北東と北東ぐらいしか変わらない。
多少の誤差は許容の範囲内だろうと疑問を頭の隅へ投げ入れた。
よもや隣に居る少女が――《迷い牛》。こと迷うことに関しては切っても切れない縁を有する少女とは露知らず。
どちらにしたところで、考えたところで迷ったことに愚痴を零していても始まらないのは、戯言遣いにしても百も承知である。
そこで戯言遣いはついでに、と。
八九寺真宵に与える水やタオル。それに冷却ジェルシート(通称冷えピタ)を頂こうと車を降りた。
車内に八九寺真宵を置いてくか、背負ってでも連れていこうか、迷ったが、ここでは八九寺真宵を置いてくことを選ぶ。
僅かの間八九寺真宵を無防備へ放り込む結果になってしまうが、止むを得なかった。
一応車にもロックを掛け、戯言遣いは早足でスーパーマーケットへと這入っていく。
店内を見て。
何ら変わらない、というとそれは嘘になる。
まず入り口からして、異様だった。
戯言遣いが以前来た時にはなかった、《赤い》足跡が二人分。
入口に来るころには大分乾いて、擦れた足跡であったものの、革靴の様な形状をしたそれと、今時珍しい草鞋のような形状。
この時点で、二つの意味で悪い予感しかしなかったが、戯言遣いは足を進める。
途中。
ばら撒かれた洗剤の意味を問うたり。
ツナギが食した鮮魚コーナーの惨状を改めて確認したりしながら、
戯言遣いはようやく最初の目的地――飲食物コーナーへ差しかかった辺りで、《それ》はあった。
「……はあ」
戯言遣いは一つ息を零し。
やはり八九寺真宵を連れてこなくて良かったと再認する。
それは血だった。
それは肉だった。
それはただの異物でしかなく。
それを人間と呼ぶには、およそ人間を罵倒しているとしか思えないほど徹底的に致命的に破壊され破滅され。
人間としての形状を保っていない以上、それを人間とは形容し難かった。
残虐と暴虐。
二つの《負》が入り乱れた、見事なまでの死んだ身体だった。
この器に命が、魂が、注入されていたと思うと、憐れの一言しかかける言葉は見当たらない。
そして、戯言遣いは検分するようにその遺体の頭部であろうモノを持ち上げ。
検分して、凝視して、見定めて、そして一つの結論に至る。
一つに、そこについていた髪の毛から判断する。
その髪色は前に一度、時刻と対面した時の髪色と同一だった。
二つに、血の乾き具合から判断する。
およそ第二回放送後に死んだとは思えないし、戯言遣いがスーパーマーケットに訪れたのはゲームが始まって三、四時間経過した後だ。
確率的に言うなら第一回放送後から
第二回放送までに死んだ者の確率が高い。
どの道時宮時刻が死んだことは放送で分かっている以上。
それ以上の推論は無駄だと、被食者の推察は終えて、捕食者の推察をしようとするも――。
「まあ十中八九」
球磨川禊と鑢七実。
と戯言遣いは即断した。
これに関しては、随分と簡単に説明がつく。
一つは、血の付いた足跡だった。
革靴はともかく、草鞋を履く人間なんか昨今では少ないだろう。
その点、既に履物が草履だと分かっている鑢七実を連想するのは容易いことである。
二つ。これが決定的だが、近くに落ちている双刀・鎚。
戯言遣いにとってはただの石塊にしか見えないが、それが近くに転がっている。
これは鑢七実が学習塾跡の廃墟で手にしていたものだ。
それがここにあるということは、余程のことがない限り鑢七実、ひいては球磨川禊がスーパーマーケットへ足を踏み入れたという証拠。
――時宮時刻を食らったのは鑢七実と球磨川禊に違いない。
結論付けるのに、珍しく迷いや欺瞞がなかった。
「じゃあ」
と。
戯言遣いはそのまま足を進め、水や茶、ジュースをディパックに詰めた。
その色彩豊かな棚は、時刻が操想術を駆使するのに役立った代物の数々なのだが、
戯言遣いは知る由もなく、真宵の好みがわからない以上適当に投げ入れる。
戯言遣いは人並みの神経をしていない。
それこそ殺人鬼の様に人の死に対して冷静だ。
だから、今更そこらの――それこそ知り合いだったとはいえ、人死をみて、感慨に耽ることはどう足掻いても無理な相談である。
それの感性が真宵の疲弊に気付けなかった一因であることも重々承知していた。
戯言遣いと八九寺真宵の住む世界は根本からずれている。
それは本来の意味でも、信念の意味でも。
欠陥製品(ばけもの)と迷い牛(ばけもの)。
最初から、何もかもが、戯言遣いと八九寺真宵は異なる。
一緒に居て良い理由なんて、本来何処にもないのだ。
戯言遣いはツナギの死にどこまで抵抗を覚えた?
分からない。
確かに動揺はした。
確かに迷いを覚えた。
確かに否定したい気持ちになった。
しかしそれは、どの程度?
たとえば八九寺真宵ほどに嫌がったか?
元々八九寺真宵はツナギを怖がってた。それなのに戯言遣い以上に彼女の死を忌避した。
戯言遣いにその程度の感性はあるのか。ないだろう。
なにも同じであればいい、ということではないが、死の悲しみを共有できないのは、真宵にとってもストレスであろう。
そういう意味では戯言遣いは八九寺真宵を傷つけた。
阿良々木暦の死に悲しむ八九寺真宵をどれほど慰めた?
日之影空洞の死に悼む八九寺真宵にどれほど同情した?
ツナギの死に嘆いた八九寺真宵とどれほど共感できた?
今にしてみれば分からないし、分かったところで戯言遣いにはどうすればいいか分からない。
人との付き合い方に関して、器用であった覚えは微塵もなかった。
だからこそ――八九寺真宵の体調不良を回避することは、叶わなかった。
「…………」
どちらにしたって。
戯言遣いは一先ず真宵を診療所に連れていき、安静させる役目を担っている。
しばらくは、行動を共にするであろう。
ナイーブに考え込むのもいいが。
戯言遣いは前を向いて歩かなければ。
何回も注意されたことだ――。
《迷わず》しっかりとした、足踏みで。
「…………」
戯言遣いは適当にとったトマトジュースを見て。
一瞬の迷いの後、棚に戻した。
3
戯言遣いはそれから、本来の目的通り、飲食物やタオル、冷却ジェルシートを頂戴し。
車に戻り、ドアを開ける。
ひとつ溜息を零して、運転席に座った。
隣の助手席に座る八九寺真宵は、若干苦しそうではあるが寝息を立てている。
そのことに安堵を覚えながら戯言遣いはさっそくタオルを手にとって、まずは真宵の腕を拭く。
脂汗をしっかりと拭きとり、できる限り辛くないように看病する。
流石に服を脱がせるのは、色々と危なかったので、止めておく。
だとすると、次は首回りや顔を拭くべきだろう。ハンカチサイズのタオル(タオルも多めに頂戴してきた)を手に取り、
首回りや額に滑らす。
やはり未だ体調は整わず、汗は尋常ではないほど浮かび上がっていた。
先ほどまで酷暑の砂漠の中に居たものだからなおさらであろう。
「ほら」
と、少しばかり強引に一先ず冷えてる水を真宵に少量飲ませる。
真宵の喉が上下した。無事に飲めたということだろう。
戯言遣いも自分の喉を潤わす為に、自分のディパックから飲みかけの水を飲み干した。
「ふう」
大きな一息。
しかしそれで、手を休めるわけにもいかず。
汗を拭いた今のうちに、戯言遣いは冷却ジェルシートを真宵の額に貼る。
無論それですぐに効果が現れるわけはないのだが、真宵の表情が少しだけ和らいだ。
戯言遣いはそんな気がした。
「さて、と」
戯言遣いは真宵に向けていた身体を《前》に向け。
車のキーを鍵穴に指して――アクセルを踏む――。
『ねえ? 欠陥製品』
ねっとりと。
背筋を嘗めるような声。
聞いてるだけでも体調不良を起こしそうな、そんな気さえも持たせる声。
戯言遣いは振り向かず、バックミラーさえも見ず。
アクセルを踏まず、事務的に答えた。
「なんだい。人間未満」
人間未満――球磨川禊は。
後部座席でくつろぎながら、へらへら笑っている。
その隣にはちょこんと、鑢七実が座っていた。
それがさながら当然のように、二人は車内に這入っている。
『無視だなんて酷いなあ。一度目が合ったって言うのに。僕たちの仲だろう』
「ぼくたちの仲だからこそ無視をしたんだろう。きみに関わって良い事があるとは思えないな」
『でもこのまま僕たちが車に乗ってちゃその子も気が気でないんじゃないかな』
この時ばかりは禊の言うことも尤もだったが、戯言遣いの言うこともまた尤もである。
戯言遣いは車に入る前からガラス越しに、禊の姿を確認していた。
この時にまた禊も戯言遣いが帰還してきたことを確認する。目が合ったというのはこの時のことだ。
戯言遣いは無視をした理由は先述の通り、絡みたくなかったというのは無論大きい。
真宵の前で、彼らに関わるのは――彼女の精神の傷を深くするだけだ。
先ほどの話じゃないが、日之影空洞、ひいては阿良々木の死をフラッシュバックする展開になりかねない。
関わらないことで、興味を失くし立ち去ってくれれば、それが重畳だったのだが、生憎それは無理な相談だったようだ。
とりあえず真宵を起こさないようにと、二人に車の外へ出るよう命じた。
驚くべきことに――と描写するべきか、戯言遣いの命に二人は素直に応じる。
こればかりは戯言遣いも拍子抜けであった。
禊は車体によりかかるようにして、飄々とした態度で勝手に話を掛ける。
『その子見るたび眠ってるけどナレコレプシーにでも罹ってるの?』
「……どうだろうね、少なくともぼくは聞いてないな」
「なれこれぷしー……とは何でしょう」
七実の問いに禊が簡単に答えた。
七実はそれをきいて「くだらない」との評価を下した。
全国の居眠り病患者からしてみれば異論しか提示されない彼女の言い分ではあるが、
彼女――病弱な彼女にとっては、或いは尤もな評価だったに違いない。
『ま! そんなことよりも』
「そう、それよりも。どうしてきみたちはここに――いや、正確に言えば車内にいたのかな」
『それに関しては僕の「大嘘憑き(オールフィクション)」でなんとかしてもよかったんだけどね~』
「どうせだから、という理由でこの錠開け道具(アンチロックブレード)を使いました」
七実は袖口より錐のような道具を取り出す。
成程、錠を解く道具を使いさえすれば、車内に這入ることは容易いことだ。
悪趣味だという点以外は、戯言遣いも理解に容易い。
『ここで使わなきゃ死に設定になっちゃうからね、どうせだからきみにあげるよ。別にいいよね七実ちゃん』
「別に構いませんが」
言いつつ七実は、錠開け道具を戯言遣いに放り投げた。
流石に焦った様子でそれを受け取り、未だ着ている日之影空洞の制服のポケットに仕舞いこむ。
「で、どうしてここにいるの」
『理由は簡単だよ。君の言う骨董アパートが倒壊したらしいしね、手持ち無沙汰なのさ』
「目的はあるのですけれど――何分情報がないですから」
『別に今となっては向かいたい場所なんかないからね、ゆっくり休めそうなスーパーマーケットにやってきたというわけさ』
どいつもこいつもどうしてそう暇だと言えるのか。
戯言遣いは声に出したかったが、それ以上に大事なことが、聞き捨てならないことが禊の口から流れた。
戯言遣いは反芻するように問う。
「……骨董アパートが倒壊?」
『僕らも口づてで聞いただけだけどね』
なんだそれは。
それが戯言遣いの第一印象だった。
――まるで、いつかの、
想影真心の、焼き直し。
骨董アパートが、徹底的に、完膚なきまでに、容赦遠慮無用に。
破壊され、破戒され、破解され、崩壊され、解体され、泡のように消えてったあの時の、デジャヴ。
確かに、参戦時期が違うかもしれない、という推測は立てたが――!
浮かび上がるのは《最悪》のビジョン、全てを終わらせてしまう《最終》の、ビジョン。
『――僕はね、橙ちゃんの所為じゃないかって踏んでるんだ。きみも気をつけないとうっかり殺されちまうぜ』
決定的だった。
想影真心――戯言遣いの親友が、よりにもよって一番厄介な時期から参戦を果てしている。
橙なる種。
代替なる朱。
人類最終。
筆舌尽くしがたいほどの、実力者が、暴れ回っている。
己の欲望を《解放》して、己の欲に忠実に――。
「その顔は……知り合いですね」
図星だった。
戯言遣いとしてはそこまで顔に出したつもりはないのだが。
七実の観察眼――もとい見稽古を前にしては、その程度筒抜けなのかもしれない。
「まあ、心当たりがないと言えば嘘になるね」
『へえ、そいつは重畳。きみの役に立てとと思うと僕も嬉しいよ』
どれほど本心なのか、戯言遣いからは窺い知ることはできない。
次の瞬間(コマ)には螺子を刺しに来たっておかしくないとも思えた。
実際そんなことは起こらなかったが。
『で、どうするの?』
「……え?」
『いやー、知り合いなら助けに行くのかな~って』
「……そりゃ、友達だからね。何とかしたい気持ちはあるよ」
「ですが、あなたは連れをあのような状態にしてるんですけど大丈夫です?」
七実は問うた。
未だ真宵は助手席で眠っている。
彼女の抱く苦しさが時折顔をのぞく。
その度に彼女は大きく呼吸をしていた。
どう見たって、彼女を振り回して動くことは――ましてや《解放》された真心に会いに行くなんて土台無理に決まっている。
だが――禊は。
『なら、「なかったこと」にしちゃえばいいじゃん』
「……は?」
禊は、それを否定した。
現実を――できないという事実を。
虚構に――なかったことに。
球磨川禊は、思わず縋りつきたくなるような話を戯言遣いに持ちかけた。
『名前だけでも覚えていってね。僕の過負荷(マイナス)は「大嘘憑き」』
禊は両手に大螺子を取り出して――
『現実を虚構(なかったこと)にする過負荷さ!』
「…………」
己の能力を宣言した。
嘘か真か分からない。
とんだチートじみた能力。
思わず、普段は必要以上に回る舌が停止してしまった。
構わず禊は話を続ける。
『僕の能力で、その子を治してあげる』
「……無理だよ、肉体的なことだけじゃない。彼女のそれは精神的なものだ。なかったことになんか――」
禊の能力に絶句しかけた戯言遣いであったが、
なんとか言葉を取り戻す。
だがそれは束の間の矜持に過ぎない。
『話はどっちにしたって簡単だよ。「ただ疲れを取るだけでは意味がない」んだったら、「辛い記憶をなかったこと」にすればいい』
「…………」
今度こそ、唖然とする。
何を言っているんだろうか、この男は。
戯言を弄する気にもなれないほど、荒唐無稽で滅茶苦茶で台無しで。
しかしそれでいて、確かにその通りではある提案で。
――悩みの種があるのなら、脳と言う鉢に植えなければいい。根本からの奪取である。
『そしたら彼女は何ら気負う必要はないし、楽観的に楽しく生きられる。
人の死に立ち会ったところで、またその時には記憶を消せばいい』
戯言遣いは答えない。
『きみは悪くない』
戯言遣いは答えない。
『彼女がダウンしたのは、つまりは彼女が弱くて薄いからだ』
戯言遣いは答えない。
『こんな殺し合い程度の不幸――僕からしてみりゃ……いやきみにしてみたら、どうってことはないだろう?』
戯言遣いは未だ答えない。
『まあともあれ、そうしたらきみは何ら気に病むことなく、橙ちゃんを救いに行けばいい』
禊の勧告に従えば、確かに正当性や合理性を以て真宵から離れることが出来る。
人識に言われた通り、戯言遣いの隣に居て良い事なんか、本来何処にもないのだ。
戯言遣いの隣に居るよりかは、一人になったほうが生存確率は上がる、といっても過言ではない。
八九寺真宵を守りたいという気持ちに、嘘はついていない。
それに真心の救出もおそらくは効率よく出来て、万々歳な結果になるだろう。
でもそれを。
戯言遣いが許せるのか。
それでも八九寺真宵も想影真心も、自分の手で守りたいのか。
自分自身の問題。
自己思想の問題。
「……わたしからして見ても、弟と戦う前に《あれ》と全力で戦うのは些か手間ではありますからね。
七花自身もとがめさんがいなければまだまだですから。《あれ》に敵うのは難しいでしょう。
あなたがどうこうできるのであればそれに越したことはありません。……なんでしたら、あの娘、わたしが殺して差し上げますよ」
七実が便乗する形で、性質の悪い提案を持ちかける。
「殺して差し上げる」――と指を指された先には、勿論八九寺真宵の姿が合った。
その素敵滅法な提案は当然の様に却下するが、しかし七実もまた、戯言遣いをここで殺す真似はしないようである。
『きみが勇ましく橙ちゃんを何とかしている間はこの子は僕たちが何とかしてあげるよ。
記憶を消したんだったら、僕たちが日之影くんを殺した事実も「覚えてない」だろうしね。僕は弱い者の味方だよ』
戯言遣いは答えない。
確かにその通り。仮に記憶を消したとするならば、
本能的に忌避しない限り――七実はともかく禊に対しては難しい相談だが――ともあれ、真宵は彼らを嫌う理由はない。
彼らが球磨川禊と鑢七実であるという点に目を瞑れば、これほど心強い護衛はいないだろう。
『そりゃあ結果的にはきみと彼女の思い出も全部なくなっちゃうわけだけど――。
きみは別に顔を剥いでも好きでいられるほど、彼女に好意を寄せてるわけじゃないんだろ? だったらいいじゃないか。友達を探しておいでよ!』
戯言遣いは答えない。
思えば、始まりはなんだったか。
そう、夢。――たかだが夢を起点にして彼女を守りたいと思った。
それ以上の感情を、彼は彼女に抱いていたか?
分からない。答えれない。
『どうするの? 欠陥製品』
へらへらと笑いながら、未満は欠陥に問う。
負荷(ストレス)を抱えし少女たちの前に、過負荷(マイナス)が、降下する。
戯言遣いが前を向いた先に広がるのは、二人の《過負荷》。
戯言遣いは――
【一日目/午後/G-5 スーパーマーケット前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
0:ぼくは……
1:真宵ちゃんを診療所につれていく
2:
掲示板を確認し、ツナギちゃんからの情報を書き込む
3:零崎に連絡をとり、情報を伝える
4:玖渚と合流する
5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
※ネコソギラジカルで
西東天と決着をつけた後からの参戦です。
※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
※夢は徐々に忘れてゆきます(ほぼ忘れかかっている)
※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
※携帯電話のアドレス帳には零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]睡眠中、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
1:戯言さんと行動
2:…………。
[備考]
※傾物語終了後からの参戦です。
※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(中)
[装備]無し
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:弟である鑢七花を探す。
1:七花以外は、殺しておく。
2:このまま骨董アパートに向かうかどうか、球磨川さんと相談しましょう。
3:球磨川さんといるのも悪くないですね。
4:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹で、疲れは結構和らいだね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とランダム支給品が3個あるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『とりあえず彼の返答を待つよ』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんについていこう! 彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『3番はスーパーマーケットで休む』
『4番は善吉ちゃんの無念をめだかちゃんにぶつけてあげよう』
『5番は宇練さんについてだけど、まあ保留かな』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります。
存在、能力をなかった事には出来ない。
自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回。
他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り2回。
怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。
【一日目/午後/C-3 クラッシュクラシック前】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹八分目
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り)、医療用の糸@現実、千刀・ツルギ×2@刀語、
手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、ランダム支給品1~3個
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
1:一時間後、クラッシュクラシックに連絡を入れて兄貴とも合流。
2:真庭蝙蝠、水倉りすか、
供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
3:西東天に注意。
4:事が済めば骨董アパートに向かい七実と合流して球磨川をぼこる。
5:
哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
[備考]
※曲絃糸の射程距離は2mです。
※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします。
※りすかが曲識を殺したと考えています。
※Bー6で発生した山火事を目撃しました。
※携帯電話の電話帳には戯言遣いが登録されています。
※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。
最終更新:2013年12月03日 10:46