みそぎカオス◆mtws1YvfHQ
ゆっくりと車は走っている。
別に速度を出し過ぎたら危険だからとかそんな殊勝な理由じゃない。
あんまり速度を出し過ぎて誰かを轢いてしまったら洒落にならないからだ。
それに速いと話に付き合えない。
多少機嫌を取って置かないと面倒臭くなりそうだから仕方なしに。
と言うのも。
ぼく達一行は結局の所決め切れず、しかし時間も無駄には出来ず。
球磨川禊こと人間未満の気まぐれと言う名の温情を甘受して、診療所へとひた走っている。
人間未満の言葉に、ぼくは思わずため息を付いた。
「…………それは前に結論が出ただろ?」
『そうだけどさ、改めて考えると二等辺三角形の方が良いんじゃないかって』
雑談。
むしろ独り言。
どうでも良いような会話を。
ゆらゆらと成しながら。
『正三角形はさ、裸エプロンの股の辺りのデルタゾーンがそうなりそうだなーって思ったからだったんだけど、今考えると二等辺三角形の方がエロいだろ? だから思うに美しい三角形は二等辺三角形の方なんじゃないかってね』
「自重しろ……って言うかそんな理由でぼくの意見を捻じ曲げやがったのか?」
『てへぺろ』
「黙れ。くそ、最終的にこんな奴の意見を採用したのかぼくは」
『おいおい、こんな奴なんて酷いんじゃないかい?』
「酷くないだろ。ぼくみたいな奴だぞ?」
『それもそうか』
へらへらと。
対照的に。
対極的に。
似ても似つかわしくないのに、何処までも似て見えるぼくと僕の会話。
戯言を交えながら。
虚言を混ぜながら。
如何でも良く、進んでいく。
「…………はぁ」
と、ため息が聞こえた。
会話を一旦止めてその主を見る。
今まで。
車に乗り込み走り続けていた間ずっと、沈黙を保っていた七実ちゃん。
憂鬱そうに、ため息を吐いていた。
『どうしたの七実ちゃん? ため息なんてしてたら幸せが逃げるよ?』
「今更一つ二つ逃げた所で変わりませんよ――それより、私はどうにも分からないです」
言いながら前を見続ける。
フロントミラー。
何となく気になって。
その瞬間、僅かに合った。
真っ黒な、全てを見透かしてしまっている風な目と。
目が合った。
「――なにがだい、七実ちゃん」
「なぜあなたがそんなに強いか、です」
「弱いよ?」
「弱いですね。今まで随分雑草を見てきたと自負していますけど、その中でもなかなか居ない位に」
酷い言い様だ。
普通なら抗議の声が上がる筈だった。
しかしそうはしない。
沈黙を持って、諾としか答えない。
だがそれは別に七実ちゃんが恐ろしいからとかじゃない。
いや、恐ろしいは恐ろしいんだけど。
そうではなくぼくはぼく自身が、弱い、と言う事を分かっているからでしかない。
それこそが、彼女なのだろうが。
「なぜあなたはそんなに強いんですか?」
「強くないよ?」
「いいえ、強いです。毟って捨てた所で平然と捨てた場所にまた生えそうなぐらい」
「過剰評価だよ」
「かも知れません。しかし、強い、と言うのは確かです――なのに、それを見取れない」
はぁ、と陰鬱な溜息を吐いた。
合わせて頬に片手を当てる。
人形のような、と言う言葉がよく合う。
そう言えば誰だったかにその手の褒め言葉は褒め言葉じゃないみたいな事を言われたような。
なんだっけ。
えーっと、写真みたい、だっけ。
それとはまた別な気がするけど。
いやはや。
そろそろ思考を元に戻そう。
確か七実ちゃんがぼくの強さについてどうこう言ってた辺りか。
「――七実ちゃん、君は強いだろう。いや間違いなく強いと思う。だけどそれは同時に弱いって事でもある」
「わたしが弱い?」
「あぁ。強いけど弱い」
「どう言う理屈ですか?」
「理屈じゃないのさ。紙一重なんだよ、強いと言う事と弱いと言う事は」
ミラー越しに、黙って目を閉じたのが分かった。
強いと言う事は弱いと言う事。
七実ちゃんにはよく分かるのだろう。
彼女は途轍もなく強いのだから。
しかし、それも違う。
ぼくの言っている事はそれと何処か違う。
理屈ではないのだ。
沈黙している七実ちゃんに気付けば、言葉を紡いでいた。
「……名探偵と殺し屋がいた。
彼女達はお互いにお互いの弱さを、強さを片方に詰め込まれていた。
そう言う風に造られたとか言ってたっけ。
言ってたっけ?
とりあえず名探偵には弱さが、殺し屋には強さが。
最弱に、最強に、近付かんばかりに詰め込まれた。
だからどちらもどちらか片方しか持ち合わせていない、文字通り二人で一人の存在になっていた。
出来上がっていた。
だけど強いだけの筈の殺し屋には弱さがあった。
例えば彼女は死ぬその時まで負けを認められないような往生際の悪さ。
死ぬ時まで負けを認められない。
これはどう足掻いたって弱さだろう?
人間は死ぬために生きている訳じゃないんだから。
対する名探偵はどうだったかと言うと、彼女は――うん、とんでもなく弱かった。
小動物か何かかと思えるぐらい弱くて弱くて弱々しかった。
それこそ人間未満と張り合えるんじゃないかって位。
だと言うのに彼女は強かった。
その弱い彼女を他人が殺そうにも殺せない。
あまりにも無防備と言う弱さ。
それが、強さに変わっていたんだ。
殺そうにも殺せない存在。
生き残るのにこれ以上なく特化した弱さ。
まさしく彼女は強かった。
ここまで言えば、何が言いたいか分かると思うけどつまり――――」
不意に、黙っていた。
長々と語っていただけなのに、風を感じた。
窓が閉じられていた筈なのに。
ある筈のない風を。
不審に思う間もなく、気付けば外に引きずり出された。
少し時は戻る。
ある存在の鼻が異臭を感じ取ったその時まで。
その存在は鼻が優れていた。
一人の人間を追い掛けられる程度には。
だから異臭の正体を探るため、行く先を予想して観察する事を思い付いた。
木の中に入れば見付けられないだろうと安直に。
頭の中で響く声を聞き流しながら、少しだけ待った。
少し。
現れたのは車。
異臭の正体は排気ガス。
微かに面白い物じゃないかと期待していた反面、訪れた失望。
だがそれは、その車の運転手を見た瞬間には吹き飛んだ。
「いーさん」
言葉にしている間にも跳んだ。
拳が大きく振りかぶりながら。
ぼくが見た光景は、言葉で言い表せる物ではなかった。
二転三転する天地。
その中で一瞬前まで無事だった筈の車が紙か何かのように折れ曲がり、不意に止まる。
「ぐへぇ」
目が回る。
妙な声が出た。
地面に座っていても安定しない。
回る、廻る、世界だが認識出来た。
見覚えのある真っ白な長髪を。
今更になって鳴らされた警鐘を。
「くそっ、遅ぇよ……」
遅い。
綺麗に折った折り紙を、握り潰すような気軽さで。
車をひしゃげさせた存在。
ころころと表情を変えていた頃とうって変わって無表情。
車上からゆっくりと体を起こして、口が開く。
「いぃぃぃさぁぁあん! よくも騙したにゃぁあぁぁあ!」
金切り声。
共に、歪んだ顔面。
酷く、憎そうに。
酷く、楽しそうに。
酷く、恨めしそうに。
酷く、悲しそうに。
酷く、辛そうに。
全てを一緒にした結果、張り付き、反発し、混ざり合いながら現れたように。
様々な感情が、その顔に浮かんで消えてまた浮かぶ。
見ている間に、降り、走り迫る。
そこそこ空いていたつもりの距離が殆んど一瞬で詰まり、拳が目の前まで迫っていた。
呆気ない。
主人公に、なりたいと思ったのに。
儘ならない。
でも悔いはない。
だけど死にたくは、なかったなぁ。
「!」
走馬灯だろうか。
迫っていた筈の拳が遠退き、羽川さんも遠ざかる。
いや、走馬灯とはどうも違う。
前を横切る五本の白線。
「……七実ちゃん?」
「何です?」
「まさか助けてくれるとは思わなかったよ」
横を向く。
七実ちゃんの右手の爪が異様な長さまで伸び、ぼくの目の前を横切っていたらしい。
軽く礼を言うと、小さく笑った。
「別に。もう少し話をしたいと思っただけです。話せなかったとしてもそれはそれで」
悪そうに。
どうも気まぐれ、と言う訳じゃないみたいだ。
ぼくを羽川さんが殺していれば、その瞬間、七実ちゃんが殺していた。
生き残るため向こうとしては殺さず逃げるしかなかった、と。
二分の一。
いやそれ以下か。
気付けば危ない橋だった。
そして運良く渡り切っていた訳だ。
「わたしとしてはどちらでも良かったのですが……いえ、悪かったのかしら?」
小さく首を傾げながら、右手を振った。
羽川さんが跳ぶ。
一瞬後、更に長大になった爪が走る。
何メートルあるんだよ。
軽く振ってるだけに見えて、どう言う訳か地面を易々と裂き、ひしゃげた車が横に四分割。
鋭いようだけど、だけではとても説明できない。
それにその鋭さ。
全ての方向に発揮してはないようだ。
更にもう一度振るわれた中、空中で回る羽川さんから放たれた踵落としに叩き割られた。
三本ほど地面に刺さる中、軽やかに着地する。
「うわぁ」
などと一応説明らしい事をしてみたものの、本当にそうだったか自信がない。
瞬きすれば見逃していた攻防。
二人とも人間だと思えない行動。
規格外。
この二人のための言葉じゃないだろうか。
「いや、もう二人いたか」
合わせて四人。
多過ぎる。
ぼくの方が規格外であって、彼女達が通常なんじゃないかと思う程。
いやそれこそ、戯言だけど。
更に戦局は、動かない。
「にゃに?」
呟くように何か言った。
それから自問自答しているのか、呟きながら首を数度振り、ため息を付いた。
なおも何かしら呟いていたみたいだけどそれもその内に止まった。
同時に、口だけが歪んだ。
「――――よう、おれの娘」
ちらりと七実ちゃんを見る。
佇んだまま何も言わない。
ならばと気を失ったままの真宵ちゃんを見ようとして、止めた。
明らかに七実ちゃんに対して目が向いている。
「冷たい反応だな、おい」
「わたしの父親は一人しか居ません」
さらりと言いながら割れた爪を撫でる。
それだけで削がれ地面に落ちる。
元の長さにまで戻っていた。
長かった爪が普通の大きさに戻った。
その様を、羽川さんではない何かが笑った。
「そうだ、それでいい。刀が継ぎ足しの紛い物なんぞ使うもんじゃねぇ――使うのは己が身だけだ」
「分かっているような口を聞きますね」
「分かってるから言ってんだよ、おれの娘。随分と錆び付いちゃあいるみたいだがな」
その言葉の意味を、見定めるように目を細める。
時間にすれば十秒にも満たなかっただろう。
納得したように頷いた。
訳が分からない。
説明が欲しいんだけど。
そんな気持ちを込めて七実ちゃんを窺っても反応はない。
無視ですかそうですか。
「――ふむ、一応お名前を聞きたいのですがよろしいですか?」
「四季崎記紀」
「あぁ、やっぱりそうでしたか」
「そんな名前、名簿にあったっけ?」
「ないですよ?」
「ないぜ」
「何で部外者が居るんだよ!」
関係者かよ。
あ、だったら何かしら聞けたりするのか。
こうも堂々と姿晒してる訳だから。
いわゆるお助けキャラとか。
「さぁな。知ってても教える義理はねえよ」
「………………」
言う前に言われてしまった。
だから開けていた閉じる。
これでもポーカーフェイスには自信があったんだけど。
それとも未来が見えるとか。
いや、もちろん戯言だ。
未来が見えるなんてどこぞの島で引き籠ってたのだけで十分過ぎる。
ネタ被りにも程があるだろ。
読心術も、同上。
あの赤色に要素的に勝ってるのなんて猫耳だけだ。
深く突っ込んだら可哀そうだから黙る事にしよう。
だから何処となくホッとした顔つきになったのは気のせいだ。
だよね。
「……閑話休題。おれの存在なんて大した意味はねぇ」
「………………はぁ」
「あ、ぼく? でしたら何故?」
「出て来たかって? 俺の娘」
「ではありません」
「が、居たからな。息子と比べてどうか、なんて思っただけだよ。悪くはなさそうだってだけだが」
「そうですか」
殆ど何となくって理由で出て来たんだ、この人。
そもそも人なのか、こいつ。
まあいいや。
そろそろあいつの出番を作ってやるべきだろう。
ご丁寧に今か今かと指を動かして待ち構えてるし。
時々目で合図してくるのを無視してるせいかすっごく機嫌悪そうになってきてるし。
目付き悪いなぁ。
「ところで、誰か忘れてませんか?」
「あ? ……ん!?」
視線を斜め上に。
前に出してた手を隣の七実ちゃんの眼にやって隠す。
子供の教育に悪い。
大人びた感はあるけど、見積もって身長150cm程度。
どんなに大きく見積もっても高校生が良い所だ。
そんな子に球磨川が、うん。
うん。
あれだよ。
両手で羽川さんの胸元の二つのスイカを云々してる姿を見せるのはちょっと。
「!? 、! っ?! んにゃ!! 死ね!」
強引に背後から組み付いて球磨川を引き剥がし、踵落としが炸裂。
転がって避ける。
あんまりな威力に片足が地面に嵌まり込んでる。
喰らったら挽肉じゃ済まないだろうなぁ。
なんて感想を抱いていると、そのまま転がりながら足元に来た球磨川が、
『くそっ!』
毒づきながら。
全身をどう駆動させればそんな風に起てるのか。
背中を浮かせ、頭だけでブリッジのような体制を取ってから、立ち上がった。
どんな筋肉だ。
『あと二十秒……いや、十秒揉めればサイズが分かったのに!』
「人が折角ぼかしてたのに何言ってやがる!」
人が折角ぼかしてたのに何言ってやがる。
台無しじゃねえか。
そうすると、口が裂けたような笑みを浮かべた。
『馬鹿だねぇ。実に馬鹿だね』
「なんでさ」
『エロの嫌い人なんていません。エロい人にしかそれが分からないんですよ』
「自分の言葉に矛盾を感じない?」
『おいおい、矛盾だらけの人生だ。今更一つ二つ増えて何か変わるかい?』
「それもそうだ」
軽く会話を交わし、七実ちゃんの目元から手を離す。
離して、気付いた。
何やら手の形が可笑しい。
手首が半回転して身体の方を向いてるんですが。
「…………」
「…………」
いや無言で戻されても。
とりあえず手を握ったり開いたり。
全く違和感がない。
違和感がないのに違和感があるぐらい全く違和感がない。
最早幻覚でも見てたのかと疑うレヴェル。
一先ず。
ぼくが七実ちゃんの目を隠す目的は何時の間にか果たせていなかった。
地味にショック。
推定年齢やや強引に言って18歳ぐらいの今後が急激に心配。
あ、ならセーフか。
セーフと言う事にしよう。
「さてさて……」
どうした物か。
さっきまでなら何かしら口を挟んできておかしくない四季崎。
さっきまでならとりあえずぼくを殺しに来るはずの羽川さん
どちらも何もしてこないのはどう言う事だ。
ちらりと目を向ける。
果たして、口元を抑える羽川さんの姿があった。
「…………ッ……」
微かに震えて。
あぁ、そうだった。
球磨川禊。
ぼくは平気だけど。
こいつは、どうしようもなく駄目な奴だった。
それも見る人間によって変わるタイプの。
勝利を約束されているような優秀な人間からは果てしなく気持ち悪く見え。
底辺を這い蹲ってばかりいる駄目な人間ならば底知れず引き寄せるような。
弱い、人間だった。
《人間未満》。
果たして、どう見えているのか。
それは、簡単だ。
『羽川さん……いや、羽川ちゃんの方が親しみを持てていいかな?』
「ッ……く、く」
『おいおいそんなに怯えないでくれよ。傷付くじゃないか』
「か、か、く」
『初めて見た時から分かったんだ。君はどうしようもなく僕達側だって』
「来るにゃ、くるにゃ」
『どうもこんにちははじめましてこれから先も末永くよろしくね羽川ちゃん』
「くるにゃ、くるにゃくるにゃくるにゃっつってんだろ!」
『僕は球磨川禊。箱庭学園の三年生。-十三組でリーダー役を暫定的にだけど勤めてるんだ、親しみを込めてクマ―とでも呼んでくれて構わないよ?』
「くるにゃ! どっかいけ! わたしに寄るなぁ!」
『そんなに嫌がらないでくれよ。君はどう見ても『過負荷』なんだからさ』
「『過負荷』だかなんだか何も知らにゃい! 怪異にゃ! 違うにゃ! 私は! 私は違う!」
『違わないさ』
ゆっくりと。
近付いていた《人間未満》の足が止まった。
既に羽川さんは腰を抜かしたように座り込んでいる。
ひたすら地面をずり下がるようにして逃げていた。
それも限界に近いのだろう。
遠目にも足が震えて言う事を聞かないのがよく分かる。
精々が二歩。
それだけ近付けば。
近付いてしまえば。
羽川さんに残された手段は限られてくる。
分かってるだろ《人間未満》。
それ以上は、『死線』だと。
踏み出せばどうなるかも。
『僕を見て分かるだろう?
僕を見て安心してるんだろう?
僕は駄目な奴だ。
だから分かる。
きっと君はどうしようもなく優秀な人間だ。
いや違うか。
そう自分に強いざるを得なかった人間だ。
そうなんじゃないかな。
可哀そうにね。
だけど今は違う。
甘えて良いんだよ?
僕みたいな奴に。
君は一人じゃない。
一人にしないであげる。
一人になんてしてあげない。
だからこっちにおいで。
踏み出しておいでよ――――さあ、こっちだ』
口に出さなくとも分かっている。
そう思っていた。
そうだと分かっていた。
だからこそぼくは止めなかった。
何処までも弱い者の味方である《人間未満》を。
止める事は出来なかった。
「来るにゃぁぁぁあぁあああああ!」
『こっちの水は、甘依存?』
一切躊躇う様子もなく。
踏み出した。
両手を広げ、抱きしめんばかりに。
その時、牙を剥く。
逃げる事が出来なければどうするか。
ストレスを与えてくる対象をどうするか。
簡単だ。
実に簡単な回答だった。
「 」
音にもならない悲鳴を上げながら。
何にもならない歓喜を叫びながら。
片腕を振るった。
それだけで、吹き飛んだ。
両手を広げたまま。
迎え入れるようにしたままで。
人間未満の頭が、吹き飛んだ。
「…………」
「――――」
崩れ落ちる事もなく、血を吹き出し続けるだけの肉塊。
ああなってしまえば人間が何で構成されているか嫌と言うほど知れる。
それをぼくは傍観する。
その横で七実ちゃんは絶句した様子で佇んでいた。
本当に。
思った通り。
風が通り過ぎた。
瞬間移動のように動いた七実ちゃん。
浮いた体が回る。
「落花狼藉」
羽川さんを地面ごと、砕いた。
と言う訳には行かず、地面を砕いたのは本当だけど、羽川さんが跳ぶ。
更に数度跳ねるようにして距離を置く。
衝撃でようやく倒れた人間未満の身体を七実ちゃんは支え、ゆっくりと地面に横たえた。
遠目にその姿は、少し寂しそうに見えたのは。
ぼくの気のせいだろう。
「なぜ邪魔をするんですか――四季崎記紀」
「俺も少しばかり予想外なんだよ……まさかこうも簡単に現実逃避してくれると思ってなくてつい、な。乗っ取れたから乗っ取っちまった」
「でしたら」
「だが、関係ねえ」
身体の支配権を手に入れられた。
それも予想外に。
それだけ、思わず手が出た事で生じた結果が心に衝撃を与えたのか。
球磨川禊。
つくづく罪な奴だ。
いや、害悪な奴か。
当然、戯言だ。
害悪なんて一人で足りる。
細菌一匹で十分だ。
さて、四季崎。
今一時かどうか知らないが肉体の支配権を得た。
どう言う理屈でなっているかは知らないけれど。
何を考えているのか。
何を企んでいるのか。
七実ちゃんから距離を保ったままゆっくりと歩いている。
「……四季崎さん」
「なんだ?」
「ぼくを殺すつもりですか?」
「……今は、ない。今はな」
至極如何でも良さそうにそれだけ呟いて、足を止めた。
ぼくと七実ちゃんと四季崎の位置がちょうど正三角形になる形で。
そして片手を地面に伸ばす。
その先にあるのは、爪だった。
まるで刀のように真っ直ぐに伸びた、爪を。
まさか。
「四季ざ」
「おれから! お前に対して掛ける情けはない」
「そうですか」
「そうだ、殺したきゃ殺せ。俺は全力で抵抗するからよ」
止めようとしたぼくの言葉を遮って。
四季崎は、地面に突き刺さっていた爪を拾い上げた。
見ていると、特に何するでもなく持った。
さながら刀でも持つように。
鋭い爪が手の平を傷付けたのだろう。
白い爪を血が流れるのをまるで無視して、構えを取る。
「これはこの時代から――っつうのも変な話だが、ま、未来の天才剣士が編み出した構えだ」
「構え――」
「あん?」
「――るのですか?」
「あぁ。分かってても、避けられねぇぜ? 見極められると思うなよ。見定める暇も与えねえ。だから、全力の切れ味で来い」
「では」
と、軽く言って佇む。
居るか居ないか分からないように。
構えているのかいないのか。
そんな構えを取りながら。
ゆっくりと相対する。
「――流派無視、無所属、鑢七」
「違うだろ鑢七実」
名乗りを四季崎が止める。
唐突に。
構えを解き、手に持った爪で肩を軽く叩く。
その顔は酷く、不機嫌そうに歪めて。
「違うだろ、そうじゃねえだろ? 鑢。鑢七実。鑢七実――お前がどう思っていようがそうじゃぁ、ねえだろ? そうじゃねえと、分かってんだろ?」
答えず、ただ目を閉じた。
構えていない。
構えているようで構えていたような気がする今までとは違って、構えてすらいない。
考え込むように目を閉じる。
しばらくして、薄っすらと開いた。
「わたしは」
「さあ来いよ、虚刀・鑢」
「はぁ――虚刀流、鑢家家長、鑢七実」
陰鬱そうな溜息と言葉を溢し、ぼくを見た。
四季崎も同様に見てくる。
合図でもしろと言うのか。
仕方なく、片手を上げる。
二人が確りと向き合ったのを確認してから、
「――――いざ尋常に」
止めるでもなく流されるまま、
「始め」
下ろす。
下ろし切ったと思う前に、二人が既に肉薄していた。
七実ちゃんが腰を捻った状態で体を固定させ。
四季崎は爪の切先を真っ直ぐ向け腰を捻って。
そう見えた。
確信は持てない。
次の一瞬には、
「七花八裂――改」
七実ちゃんが動いていた。
七つの動作。
それだけが分かった。
しかしそれらを羽川さんが、いや四季崎が対応する。
さばく。
かわす。
うける。
さける。
はじく。
すかす。
からめとる。
一瞬で巻き起こった全てを、対応してみせた。
まるで全て知り抜いていたかのように。
完璧に防御し切って、
「――」
刹那、四季崎が。
構えた切先を。
笑いながら。
そうして。
胸元を。
「――――」
「――――」
「――――」
貫かれた。
痛いほどの沈黙。
終わった。
勝者、
「――良いじゃねえか……」
「――――虚刀流、蒲公英」
鑢七実。
やや強引にやってしまいました。
もちろん殺して、と言う意味です。
爪合わせを使うのが面倒だったので、怪力で。
あ、鑢七実です。
一人語りと言うものは、と言うより独り言と言うのは、何となく気恥ずかしさがありますね。
――無視してんじゃねえ――
「はぁ」
「どうしたの?」
「少し考え事を」
そんなわたしの横にいるのはいっきーさん。
相変わらず素敵なまでに死んだ目をしておられます。
実に良い。
いえ、悪いのかしら。
ちなみに少し離れて八九寺さんが横たえられています。
しかし改めて『見れ』ば、実に見事なまでの散りっぷりですね。
球磨川さん。
ああもあっさりと殺されてしまうのは私としては予想外でした。
分かっていれば止めていたのに。
止めていた。
「あぁ、そう言うこと」
――どうした?――
「どうしました?」
「いえ、別に」
なるほど。
止めていた。
わたしは確実にそうしていた。
だからこそ、いっきーさんは言ってくれなかったのでしょう。
球磨川さんの優しさ。
底知れないまでの生温さ。
悍ましいまでの懐の底深さ。
それらはきっと、弱さだった。
その弱さを持って迎え入れようとした。
そして、わたしは止めようとしたはずだ。
私の強さを持って。
球磨川さんの弱さを持って、何もかも受け入れるその事を止めただろう。
例えそれが死ぬ事になっても。
だから、黙っていた。
その優しさは見ず知らずに他人の『弱さ』まで、許し、受け入れて。
結果がどうなると分かっていても。
死と言う結末が分かっていても、いっきーさんは黙っていた。
「いっきーさん。あなたは優しい人ですね」
「突然どうしたんだい?」
「思った事を言ったまでです」
――おーいおれの娘――反応ぐらいはしてくれ――
《人間未満》。
他人の弱さを許容してしまう。
わたしは。
わたしのこの目は強さしか見取らない。
強さしか受け入れない。
だけれど。
何となく。
「何となく、分かっただけですから」
わたしの弱さは弱さを認められなかった。
紛れもない『弱さ』だった。
球磨川さんの弱さは弱さを受け入れられた。
紛れもなく『強さ』だった。
強いは、弱い。
弱いは、強い。
何となく分かった、気がする。
他人の強さを変換してわたしの弱さにしなければ長く生きていけない脆弱な肉体。
でも、弱さを受け入れられるようになれば何か、変わるかも知れない。
――おーい――
「……………………はぁ」
折角良い感じに終われそうだったのですが。
いえ悪い、なんてことはないでしょう。
良い感じだったのですが。
見なかった事にするのもそろそろ限界と言う事でしょうか。
「なんです?」
いっきーさんには聞こえないよう呟く。
ようやくの反応に嬉しかったのか、あからさまにその顔が綻びましたね。
半透明ですけど。
ようするに幽霊とか亡霊みたいですけど。
――おれは元々残留思念みてぇなもんだったからなぁ――お前の『目』もとい読み取った交霊術との相性が良かった訳だ――
「どうでもいいです」
――歴史の歪みが妙な奴等ばっか生んじまったがまさかこんな事になるとはよぉ――
「聞きなさい」
「ん?」
「いっきーさんには関係ありません」
うっかり声が大きくなっていたようです。
反省反省。
ついでにこの面倒臭いのを消してしまいましょうか。
ちらりと目を向ける。
合わせてその姿がいっきーさんの後ろに隠れてしまった。
さり気なく動くと、合わせて隠れる。
凄く、面倒臭い。
「はぁ」
――どうせそう長くねえんだ――決着位見せてくれよ――
「……はぁ」
――残留思念だぜ残留思念? ――しかも刀経由して怪異経由しての残留の残留の残留――
「…………はぁ」
――見てるだけだから頼むって――
「………………はぁ、仕方ありませんか」
無視してればいいだけですし。
地面ぐらいのつもりで放って置きましょう。
それよりも、さて。
これからどうしましょうか。
――礼に助言の一つぐらいしてやるよ――
「はぁ」
――球磨川の死体から首輪を取っちまいな――
一先ず。
何事もなかったように球磨川さんだった物に近付いて。
――僕が死んでる間――七実ちゃんが心配だなぁ――
至極あっさりと。
首輪を取る。
取れてしまった。
見れば見るほど確りとした首輪のようで。
取ったは良いですけどどうしましょう。
どうすれば悪いんでしょうか。
何処かに投げましょうか。
「記念に持っておきましょうか」
「どうしたんだい?」
「あぁ、聞こえてしまいましたか」
「何度もため息を吐いてたら、嫌でも気になるからね」
「そうですか。いえ、これからどうしようかと」
「どうしたいの?」
「手っ取り早くお二人を引き抜く事から始めましょうか? それが一番いい案――いえ、悪い案なのかしら?」
「人間未満が後で怒るよ?」
「死んだ人間がどうやって怒るんです?」
「……流石に『大嘘憑き』でも死んだ事をなかった事には出来ないのか」
「いえ、出来ます」
「そうなんだ。じゃあ?」
「ばれてしまったので諦めます」
「助かるよ」
「いえいえ」
そう言えば蘇れるんでしたか、球磨川さんは。
つくづく出鱈目な物です。
おーるふぃくしょん。
なかった事にしてしまう過負荷。
もしも。
弱さも強さも見取れるようになれば。
もしも、おーるふぃくしょんが見取れれば。
もしもの話ですけど。
こう言う発想は、
「いいのかしら? それとも、悪いのかしら?」
どちらでもいいのだけど。
どちらでも悪いのだけど。
いっきーさん。
それに、八九寺さん。
「あなた達はどうするつもりなんですか?」
「? ぼくは今しばらくは此処に居るよ。出来れば人間未満に車の損傷をなかった事にしてもらいたいしね。出来るならだけど」
「そうですか」
「それに、真宵ちゃんの記憶をなかった事にして欲しいし」
「結局、そうするんですか?」
「うん。真宵ちゃんには悪いけど、それが一番良いんじゃないかなってね」
「そうですか」
それで。
いっきーさんは八九寺さんの横に座ってしまいました。
残念。
言葉を掛ける機会がなくなって。
流石に聞こえてしまいますから。
今のいっきーさんの決断を聞いてどうするか。
聞いてみたかったのに。
一先ず八九寺さんを間に挟んで座りましょう。
ねえ。
八九寺さん。
いい加減。
寝たふりなんて辞めればいいのに。
「……ふふふ」
【球磨川禊@めだかボックス 死亡】
【羽川翼@化物語シリーズ 死亡】
【一日目/午後/F-4】
【
戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
0:人間未満の復活を待つ
1:復活したら真宵ちゃんの記憶を消してもらう
2:待ってる間に
掲示板を確認し、ツナギちゃんからの情報を書き込む
3:それから零崎に連絡をとり、情報を伝える
4:早く玖渚と合流する
5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
※ネコソギラジカルで
西東天と決着をつけた後からの参戦です。
※
第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
※夢は徐々に忘れてゆきます。完全に忘れました
※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
※携帯電話のアドレス帳には
零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。
【
八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]寝たふり、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
1:戯言さんと行動
2:なんでこの二人が
3:記憶を消すとはどう言う事ですか
4:こっそり聞きたいけど隣に居て聞けません……
5:頭が上手く回りません……
[備考]
※傾物語終了後からの参戦です。
※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(大)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
1:七花以外は、殺しておく。
2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
3:気が向いたら骨董アパートにでも。
4:球磨川さんを待ちましょう。
5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
※弱さを見取れる可能性が生じています
※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
「おお、球磨川禊よ。
死んでしまうとは、情けない。
なんて冗談は置いておこう。
久し振りだね、安心院さんだよ。
……無視か、つれないなぁ。
まぁ相変わらずだからどうでも良いけど。
僕も僕で忙しいから手短に済ませたいしね」
「おいおい。
おいおいおいおい。
無視して出ていこうとするなよ。
これから伝える事は割と大切な事なんだ。
そう、まず君の『大嘘憑き』に関する事さ」
「興味は出してくれたみたいだね。
ま、手っ取り早く言おう。
制限が掛けられている。
とっくに知ってるとは思うけどなかった事に出来る物の制限。
どうせ首輪の存在をなかった事にしようとして失敗してるだろ?
怪我や死をなかった事にするのにも制限が掛けられている。
こっちは回数の制限だけどね」
「知っていたのかい?
知らなかったのかい?
どっちでも良いけど、具体的に言うよ。
君自身の怪我や死をなかった事に出来るのはあと一回だ。
そしてその一回はこれから使われる。
蘇る事によってね」
「…………君以外に対しては残り二回。
よく考えて使うんだね。
さて、早いけど本題に入ろうか。
君はどうしたいんだい?
これから鑢七実と一緒に
黒神めだかを叩き潰しに行くのかい?
残念ながら今の君達じゃあ勝てないだろうね。
分かっているとは思うけど彼女の『完成』と鑢七実の眼は似ているようで全く違う」
「『完成』は他人の異常を己の物にしてしまう異常だ。
不完全な異常だろうが過負荷だろうが完全に。
一層昇華させた形で。
『完成』させた形でね。
君の『大嘘憑き』すら例外ではない。
例外になり得ない。
下手したらぼく並みだぜ?」
「薄い反応だなぁ。
ま、鑢七実の眼に移ろう。
彼女の眼は一見すれば、一読すれば、『異常』だろうね。
どんな強さも見ただけで次々と飲み込んで、更に上の物にする見稽古。
一度見れば大体は。
二度も見れば磐石に。
しかし『完成』とは根本から違う。
『完成』がより高みに登れる異常なら、鑢七実の眼は真逆。
降りるための物なんだから」
「やっぱり感付いてはいたみたいだね。
確信は持てていなかったようだけど。
鑢七実の弱点に。
流石は弱さでは他の追随を許さないだけの事はある。
そう、彼女の弱点は強過ぎる事。
そしてその強さに体が付いていけない事だ。
だからこそ生まれた生きるための術とでも言うのかな。
強過ぎる身をより弱く。
強過ぎる身をより柔く。
一瞬一刻でも長く生きるために」
「過負荷だよ正しく。
あるだけで、いや見るだけでマイナスを継ぎ足していく。
それは過負荷としか言いようがない。
だからこそ鑢七実は黒神めだかには勝てない。
マイナスし続ける物とプラスし続ける物。
どちらが、だなんて。
いや、可能性はある。
鑢七実が今まで大事に大事に積み重ねてきた他人の強さを捨てて純粋な強さをぶつければ。
なにせ幼女の頃に当時最強と言われた人間と戦うこと半年。
同時期に繰り広げられていた大戦以上の対戦を繰り広げていたんだ。
黒神めだかでも五分か、もしかしたらそれ以上か」
「あぁ、もちろんそうなれば死ぬ。
言った通り体が耐え切れずに。
自滅だ。
自壊だ。
ここまで言えばおおよその予想が付くだろう。
君が蘇れない状況でもしも先に死んだら。
そして鑢七実が本当の本気を出してしまったら。
実に君の願ってもいない展開になるだろうね」
「なんでそんなに鑢七実に肩入れするのか?
おいおい。
ぼくは誰にだって平等だぜ?
もしなんだったらこれから先、平等院さんって呼んでもくれても良い。
もちろん冗談だけど」
「誰が鳳凰堂さんだ。
せめて院を付けなさい。
誰かも分からないだろ」
「え?
韻は踏んでる?
…………こやつめ、
『戦踏開祭』『快踏二番』『二踏立て』『踏み立て伏せ』『踏切』『握戦苦踏』『鉄踏鉄火』『踏々到着』『秘踏発見』『踏みん症』
『白刃踏むべし』『踏傾学』『踏の難し』『踏まずの扉』『愛踏の衣』『踏み込み算盤』『踏一番論』『色系踏』『無踏』『爆発踏過』
『足踏の両輪』『不自然踏多』『それを踏まえて』『踏ん反り帰り』『勘を覆うて効踏定める』『雑踏椅子』『踏か不踏か』『浮き足踏む』『圧踏的存在』『十二月の踏蝋流し』
『自由による滑踏』『踏んだり踏んたり』『踏みつき症候群』『火踏み』『踏結砕き』『注文殺踏』『踏鞴吹き』『更刻踏』『病よりも高く踏よりも深い』『硬踏紙問』
『消踏時間・輝床時間』『三尺下がりて二の轍を踏まず』『地中電踏』『土気色の発煙踏』『一踏襲断』『第三勢力の対踏』『持ち持ち踏み』『鑑定家の値踏み』『第四秒踏』『踏み間奏』
『踏みは袋に立ちは鞘』『逆図を踏む』『煮え滾る踏踏』『三転八踏』『禁踏点』『深遠を除いて薄情を踏む思い』『一本道の踏み外し』『青だけ踏み』『幽体高踏』『休養地から身を踏じる』
『舞踏喰い』『唯我踏』『踏ん切りを続ける』『怒り脳震踏に発する』『踏み踏み』『踏々とお説教』『守身に没踏』『常踏苦』『悠々踏生』『思わぬ失踏』
『わずか1センチの踏ん張り』『哨戒乱踏』『雪隠這ったの大踏み回り』『八踏見』『百尺完踏一歩を進む』『踏破』『価格挫踏』『逆立ちしたって無理な芸踏』『踏みのしみじみ』『足し踏み程度』
『踏下の鬼となる』『踏み石を飛ばし』『散踏違い』『踏頂』『蹴踏な準備』『踏開封の封踏』『鬼にも悪魔にも踏まれず』『実行を綾踏む』『拝み倒し踏み倒し』『静踏派』
『足の踏み場もない』『手踏を脱す』『重踏理不尽』『天文地踏』『全人類未踏』『死一踏を滅ずる』『健踏を祈る』『恋踏』『完踏勝利』『揃い踏み』
ははは。
なんてねって、あれれー。
ぼくがスキルを百個ばかり使っていただけなのに何時の間にか球磨川くんがぼくの足の下にいるぞー。
なんでだろうなー。
いや、『指折り確認』も含めてだから百一個か。
まあぼくが使ったのは『踏』系スキルだけど関係ないだろうしなー。
あ、きっと球磨川くんが変な事を言ったせいだろうなー。
球磨川くんもそうは思わないかい?」
「……ところで球磨川くん」
「今、君の上にぼくは右足で乗っている。
右足だけで乗っている。
当然まだ左足が残っている。
五体満足だからね。
別に真っ二つに分かれてる訳じゃないし。
この意味が、分かるかい?」
「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。
さてと。
いい加減話を戻そうか、このまま。
なんで鑢七実に肩入れするのか、だったっけ。
特にしているつもりはない。
ないけど、理由があるとすれば彼女もぼくに近いからかな。
完全に、ってわけじゃないけど。
彼女はある意味では悪平等と言える。
彼女の見えるものの大半は雑草ほどの価値しかない。
価値しか持たない。
弟や、もしかした球磨川くんは例外に入ってるかも知れないけど。
大半は公平に、平等に、殺した所で雑草をむしった程度にしか思わない。
ぼくに近い物がある。
だから少しばかり気になってるのかもね。
こんな回答で満足したかい?」
「そうかい。
さて、随分と寄り道をしたけど聞かせてもらおう。
きみはどうしたいんだ?
黒神めだかを破る。
今は亡き
人吉善吉の無念を果たす。
良いと思うよ?
考えるだけなら。
でもどうしてそうしたいんだ?
勝てる見込みが遥かに小さいと知っていて。
まして千年に一度いるかいないか位の、勝者であることを約束されているような彼女に対して。
むしろきみの今までを省みて勝てると思う方がどうかしてる。
あぁそう言えばきみは少年漫画が好きだったっけ?
ならなおさらだ。
あれが教えてくれるのなんて最後に勝つのは結局の所、能力のある奴だけだって知っているはずだ。
それでもなお黒神めだかを相手取ろうとするのは、一体全体どう言うつもりだい?」
「あー、もしかして生粋の主人公である彼女を敵に回す。
なら好敵手かい?
好敵手になって温い友情でも育むつもりかい?」
「……いやいや球磨川くんの事だ。
彼女が乗り越えるべき壁として志願しようと言うんだろうね。
バトルロワイヤルと言う催しの中で。
彼女が彼女であることを貫くための。
なら正しく最後の敵になってやろうって感じなのかな?」
「…………いい加減なにか言えよ。
違うなら違うって。
そんなんじゃないって。
言ってみろよ。
ここには今、ぼくときみしかいない。
夢とも現とも知れない場所だ。
遠慮する必要はない。
恥ずかしがる必要もない。
言えよ。
言ってみろよ。
もうぼくには一生会えないと思ってさ」
「きみの本心を」
「格好つけずに――括弧つけずに」
【一日目/午後/死者スレ】
最終更新:2013年10月23日 17:49