うつらうつらとしているうちに、どれほどの時間がたったろう。
俺は重々しい地響きに体を揺さぶられて、飛び起きた。
ゴゴゴゴゴ、と小屋が揺れる。棚のものがいっせいにカタカタと揺れ、屋根壁がギシギシときしんだ。
どこか、そう遠くないところから、バキバキとものの割れる凄まじい音がした。
「ゆっ? ゆゆっ!? ぐらぐらだよ、あぶないよ!」
「あかぢゃんだぢ、つがまるんだぞぉ! うーっ――ぴぎっ!」
バタバタ、ドシン、という音が響く。ゆっくりたちが驚いて暴れているのだ。
俺はあわててランプを灯し、室内を見回した。
床には寝ぼけてベッドから落ちたれいむたちが転がり、向こうのコタツの上ではれみりゃ親子がのびている。
野性の本能で、とっさに空へ飛び上がって逃げたものの、天井にぶつかって墜落したんだろう。
気がつけば、あたりはシンと静まり返っている。
軒から、ドサッと雪の落ちる音が聞こえた。
俺がじっと息を殺していると、布団に残っていたれいむが俺のそばにすりよってきた。
「ゆうう……こわいよ、へんなおとがしたよ。これじゃあゆっくりできないよ……」
「大丈夫だから、ちびどもについててやれ」
「ゆ、そうするよ……」
ぴょんと床に下りると、母れいむは子供たちに呼びかけた。おびえたちびどもが、ゆんゆん泣きながら擦り寄った。
俺は、目をしぱしぱさせているぱちゅりーに声をかけた。
「ぱちぇ、おまえも聞こえたか」
「むきゅ……どさっとおとがしたわ」
「それじゃない、地震の最中だ。何か知らんが、とてつもなく大きなものがぶっ壊れるような音がしなかったか」
「きゅぅ……わからないわ」
「れいむはきこえたよ!」
「てことは、おれの空耳じゃないな」
ぱちゅりーが聞き逃したのは、目覚めが遅れたからだろう。
この小屋に関係ある物音ではなさそうだが、どうも胸騒ぎがした。
俺はベッドを出て普段着に着替える。時刻は午前四時半。夜明けまでもう少し。
ゆっくりたちが集まってきて、心配そうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「おにーさん、どうするの?」
「こわいよ、ここにいてよ!」
「ゆっくちさせてね!」
「見てくる。待ってろ」
「むきゅう……」
すると、ぱちゅりーと子ぱちぇが何やら相談を始めた。
コートを着て靴を履こうとすると、二段重ねになった二匹が玄関にやってきた。
「おにいさん、おにいさん!」
「寝てろって」
「むきゅ、ありがとう。でも、しんぱいだから、おちびちゃんをいっしょにつけるわ!」
「なんだって?」
俺が振り向くと、母の頭からぴょんと降りたちびぱちぇが、俺を見上げていった。
「おかーさまはおもいから、おにいさんにのれないけれど、ぱちぇならじゃまにならないわ! ぱちぇをゆっくりつれていってね!」
そう言って、ちびは大人びた顔で見つめた。
そういえばこの子は、犬小屋の危機を一人で知らせに来たほどのしっかりものだったな。
いつの間にか赤ちゃん言葉も抜けている。
「そうか、よし……」
俺は少し考えた。連れて行くのは構わないが、手が塞がるのは困る。
裸の子ぱちゅなんか持ち歩いたら、何かの間違いで潰しかねん。
台所に戻った。ガラスの
コップに紙を詰めこんで上げ底にしてから、子ぱちゅを入れて、手拭いで巻いて蓋をする。
そのままコートの
胸ポケットにコップを差し込んだ。
「前が見えるか」
「ゆっくりみえるわ!」
コップの上端にいる子ぱちゅの声が、手拭い越しに聞こえた。
「よし、行くぞ」
「ゆっくりきをつけてね!」
俺はランプ片手に、ゆっくりたちの声を背に受けて表へ出た。
その途端、黒い旋風のようなものがビュッと目の前を横切った。思わず顔をかばう。
「うわっ! なんだ?」
いったん通り過ぎたその旋風は、俺の足元へ舞い戻ると、切迫した様子で飛びついてきた。月明かりに、そいつの顔が浮かび上がる。
「おお、ひさんひさん! おお、きけんきけん!」
「きめぇ丸か!?」
カラス天狗もどきの嫌味な顔をした、頭だけタイプのきめぇ丸だ。夏ごろ知り合って、冬に入る前に別れた。
というのも、こいつはうちの母れいむの長女と結婚して、二人で冬ごもりに入ったからだ。
と、待てよ……冬ごもりの真っ最中のはずのこいつが、なんでここにいる!?
「おまえ、嫁のれいむはどうした?」
青ざめた顔のきめぇ丸が、こいつらしくもない、ひどくあわてた調子で言った。
「れいむれいむ、ぐっしゃりぐっしゃり!」
「……なんだと?」
きめぇ丸が飛び上がり、振り返ってこちらを見る。俺は雪を蹴立てて走り出した。